説明

穀物の子実重量の推定方法及び装置

【課題】収穫前の圃場における穀物の子実重量の推定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】穀物の子実、及び標準反射板に照射した光の反射光の中から選択した中間赤外域に含まれる2つの波長バンドの反射光量について、子実からの前記2波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することによる子実重量の推定方法であり、前記照射下の反射光に加えて、遮光下における、子実、及び標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することが好ましく、更に前記中間赤外域に含まれる2つの波長バンドに加えて、赤色域から選択した波長バンドと、近赤外域から選択した波長バンドの子実、茎葉、及び標準反射板からの反射光量についても測定することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収穫前における穀物の子実重量の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の収穫量を正確に予測することは、農作物の出荷計画、市場での価格戦略等農家の経営戦略上きわめて重要である。しかし従来農作物の収穫量は栽培農家の経験と勘に頼ることが多かった。予測値と補正値に基づく推計方法も提案されているが(例えば特許文献1を参照。) 、該発明は穀物に関しては言及されていない。
【0003】
一方収穫量について、光学リモートセンシング技術を利用した方法が検討されてきた。しかし従来の収量測定方法は、400〜2500nmまでの波長範囲の光を用いて、作物体からの反射光を利用するものに限られていた。
【0004】
特に葉緑素の吸収帯である赤色域の600〜700nmの反射光、及び新鮮な植物組織で反射される近赤外域の波長範囲800〜1000nmの反射光量、反射係数、又は反射率についての比を用い、乃至はそれらの正規化演算値を用いることが多かった(例えば非特許文献1を参照。)。
【0005】
しかしながら、上記の赤色域バンド、及び近赤外域バンドを用いる方法によれば、作物体の光合成器官(緑葉)の検出のみであり、これだけでは貯蔵器官(子実)を区別して各々の現存量を測定することは困難であった。特にイネなどの穀物では、光合成器官の現存量は必ずしも子実収量とは一致しなかった。
【0006】
更に、上記の赤色域バンド、及び近赤外域バンドを用いる方法では、植生量が小さい部分や、密集している部分の精緻な判別が困難で、現存量予測に使いにくい点が指摘されていた。
【0007】
【特許文献1】特開2002−136223号公報
【非特許文献1】Michio Shibayama and Tsuyoshi Akiyama, ‘Seasonal visible, near-infraredand mid-infrared spectra of rice canopies in relation to LAI and above-grounddry phytomass’, Remote Sensing of Environment, 27:119-127, 1989.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、収穫前の圃場における穀物の子実重量の推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、セルロース、リグニン等の非光合成器官、及び貯蔵物質の光の吸収帯を含み、枯死植物体での反射光量が大きい中間赤外域における特定バンドの反射光量を求めることにより、穀物の子実重量を推定することができることを見出し、本発明をするにいたった。即ち本発明は以下の通りである。
【0010】
本発明は、穀物の子実、及び標準反射板に照射した光の反射光の中から選択した中間赤外域に含まれる2つの波長バンドの反射光量について、子実からの前記2波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することによる、子実重量の推定方法である。
【0011】
前記の照射した光の反射光に加えて、遮光下における、子実、及び標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することによる、子実重量の推定方法である。
【0012】
前記中間赤外域に含まれる2つの波長バンドが、中心波長が3800〜3900nmの範囲にある波長バンドと、中心波長が3400〜3500nmの範囲にある波長バンドである、子実重量の推定方法である。
【0013】
更に前記中間赤外域に含まれる2つの波長バンドに加えて、赤色域から選択した波長バンドと、近赤外域から選択した波長バンドの、子実、茎葉、及び標準反射板からの反射光量について測定することによる、子実重量の推定方法である。
【0014】
前記赤色域から選択した波長バンドが、中心波長が600〜670nmの範囲にある波長バンドであり、前記近赤外域から選択した波長バンドが、中心波長が800〜860nmの範囲にある波長バンドを用いるところの子実重量の推定方法である。
【0015】
更に本発明は、反射光を断続するチョッパと、波長を選択するフィルタと、入射光を光電変換する光電変換センサと、光電変換した電流を増幅したのち同期検波および平滑化し出力電圧を取り出す電圧出力装置と、携帯型コンピュータとを備え、前記方法の何れかを用いた子実重量を推定する装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、中間赤外域に含まれる2つの波長バンドの反射光量について、子実からの前記2波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することにより、穀物の子実重量を精度よく推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、穀物の子実、及び標準反射板に照射した光の反射光の中から選択した中間赤外域に含まれる2つの波長バンドの反射光量について、子実からの前記2波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定し、該両差の比を求めることによる、子実重量の推定方法である。前記中間赤外域に含まれる2波長バンドに加えて、赤色域、及び近赤外域に含まれる波長バンドの反射光量について同様に求めることが好ましい。以下本発明の内容を詳細に説明する。
【0018】
《中間赤外域の波長バンドにおける反射光量による推定》
前記中間赤外域とは、波長が3000〜4000nm の範囲をいう。前記中間赤外域に含まれる波長の異なる2つの波長バンドとは、波長が3800〜3900nmの範囲にある波長バンド(以下高反射バンドという。)と、波長が3400〜3500nmの範囲にある波長バンド(以下低反射バンドという。)とをいう。
【0019】
前記高反射バンドの波長は中でも、3820〜3870nmがより好ましく、3835〜3855nmが特に好ましい。また、前記低反射バンドの波長は中でも、3430〜3470nmがより好ましく、3445〜3455nmが特に好ましい。
【0020】
前記中間赤外域は、セルロース、デンプン等の子実の構成成分に対して特異的に反射、吸収されるが、緑葉等での反射率が極めて低いという特徴を有する。中でも前記低反射バンドは炭水化物に対し他の波長より反射光量が弱く、炭水化物含量の変化に対し、反射光量は比較的一定しており、一方前記高反射バンドは炭水化物に対し相対的に強く反射し、炭水化物含量の増加にともない、反射光量が増加することから、本発明の子実重量の推定に適するものと思われる。
【0021】
したがって、子実重量の増加にともない、高反射バンドの反射光量と低反射バンドの反射光量の差は増大する。そこで標準反射板からの高反射バンドの反射光量と、低反射バンドの反射光量との差に対する、子実からの高反射バンドの反射光量と、低反射バンドの反射光量の差との比(以下DMという。)を求め、既知の子実重量の測定より得た回帰式に適用することにより、対象穀物の子実重量を推定することができる。前記DMと各反射光量との関係を数式1に示す。
【0022】
【数1】

【0023】
前記数式1において、QPHは波長が3800〜3900nmの範囲の中から選択した高反射バンドの子実からの反射光量を、QPLは波長が3400〜3500nmの範囲の中から選択した低反射バンドの子実からの反射光量を、QSHは該高反射バンドの標準反射板からの反射光量を、及びQSLは該低反射バンドの標準反射板からの反射光量を示す。
【0024】
前記各波長バンドの反射光量は、干渉フィルタ等により反射光の波長を選択し、該選択された特定波長バンドの反射光をセンサで光電変換した後に、直流出力電圧として取り出し、該電圧を測定すること等により得ることができる。
【0025】
対象となる穀物としては、イネ、ムギ類、その他の子実が成熟すると子実表皮の葉緑素が分解、脱色して黄色ないし褐色となる穀物が好ましい。前記穀物の子実体に、太陽光、又はそれに近い人工光を照射し、その前記バンドの反射光量を測定する。
【0026】
前記標準反射板は、中間赤外波長域で用いることのできる標準反射板を用いることが好ましく、前記中間赤外域内の平均反射率は使用期間中に変化しないことが好ましい。該平均反射率は0.90以上が好ましく、0.95以上がより好ましい。
【0027】
前記DMは子実重量と正の高い相関を示し、既知の子実重量の測定より得た回帰式に適用することにより、穀物の子実重量を推定することができる。
【0028】
《遮光による補正》
前記DMは子実重量と正の高い相関を示すが、測定中に対象子実の表面温度が上昇すると、前記直流出力電圧に影響を与えるため、表面温度が上昇しない光の照射直後に測定する必要がある。野外で測定する場合には、光の照射直後の測定は困難であり、野外での的確な測定のためには、測定対象の温度変化、測器の感度変動、及び射出率の影響を補正する必要がある。
【0029】
前記補正として、照射下における前記高反射バンドと低反射バンドの子実体及び標準反射板からの反射光量を測定する以外に、遮光下における前記各バンドの子実体及び標準反射板からの反射光量を測定する。
【0030】
前記照射下、及び遮光下における、子実体からの各波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの各波長バンドの反射光量の差との比を、反射係数Rとして求めた。前記反射係数Rは、下記数式2により求めることができる。
【0031】
【数2】


【0032】
前記数式2において標準反射板反射率で除すのは、標準反射板自体の反射係数が1未満であるための補正である。
【0033】
前記数式2により求めた、高反射バンドの反射係数Rと、低反射バンドの反射係数Rについて、下記数式3により、2バンドの反射係数間の正規化演算値(以下NMと略記する。) を算出する。
【0034】
【数3】

【0035】
前記NMと子実重量との間には、前記DMより更に高い正の相関関係が認められ、本方法により一層高い確率で子実重量を推定することができる。
【0036】
《赤色域波長バンド、近赤外域波長バンドの反射光量による補正》
更に本発明は、前記中間赤外域の2つの波長バンドに加えて、赤色域の600〜700nmから選択した波長バンド、及び近赤外域の800〜1000nmから選択した波長バンドについて、前記中間赤外域におけるのと同様に植物体からの反射光量を求めることにより、穀物の地上部重量が推定でき、該地上部重量を算入することにより、子実重量のより正確な推定が可能となり好ましい。
【0037】
前記赤色域から選択した波長バンドとしては、中心波長が600〜670nmの赤色バンドが好ましく、620〜650nmがより好ましい。前記近赤外域から選択した波長バンドとしては、中心波長が800〜860nmの近赤外バンドが好ましく、820〜840nmがより好ましい。
【0038】
前記赤色域波長バンド、及び近赤外域波長バンドの植物体からの反射光量は、前記中間赤外域における場合と同様に直流電圧に変換して計測した。前記中間赤外域における場合と同様に、標準反射板を使用し、照射下の反射光量及び遮光下の反射光量を計測し、前記中間赤外域における場合と同様に、反射係数Rを前記の数式2により求める。
【0039】
前記赤色域、及び近赤外域に含まれる波長バンドで用いることのできる標準反射板としては、白色の完全拡散反射体に近似した平板で、反射率0.9以上が好ましい。
【0040】
前記赤色域の反射係数R、及び近赤外域のRを計測し、下記数式4により、2バンド反射係数間の正規化演算値(以下NVIと略記する。) を算出する。
【0041】
【数4】

【0042】
前記NVIは穀物の茎葉と子実を含めた地上部重量の推定に有効である。
【0043】
《各演算値の組合せ》
前記NMとNVIを用いることにより、圃場状態における穀物の子実重量をより正確に推定することができる。前記NMとNVIを組合せ、下記数式5の算式により穀物地上部重量を、下記数式6の算式により子実重量を推定することができる。
【0044】
【数5】

【0045】
【数6】

【0046】
ここでa、b、c、d、及びkは作物の種類および品種ごとに、実験値により求める校正係数である。本方法によれば子実重量の他に、穀物地上部重量も推定することができ、前記穀物地上部重量を求めることにより、収穫前における子実重量を、より的確に推定することができる。
【0047】
《装置の概要》
更に本発明は、前記の推計方法を利用し、反射光量が極めて小さく、熱環境の影響を受けやすい中間赤外域での測定を可能にする、屋外で携帯使用可能な測定器である。
【0048】
前記測定器は、反射光を断続するチョッパと、波長を選択するフィルタと、入射光を光電変換する光電変換センサと、光電変換した電流を増幅したのち同期検波および平滑化し出力電圧を取り出す電圧出力装置と、携帯型コンピュータとを備える。
【0049】
前記回転チョッパは回転数を連続的に変えることができ、最適チョッピング周期を選択するものが好ましい。さらに該回転チョッパは、250Hz〜70Hzの範囲で回転数を連続的に変えることができるものがより好ましい。
【0050】
また、夏季の高温条件での使用を前提に、感度安定化のため、光電変換センサは冷却装置を内蔵し、測定器筐体外部に冷凍保冷材を装着することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の具体的内容を実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
《暗室内での測定》
暗室内において、光源として白熱電球(SFC社製100V250W、商品名:カラー用コピーランプ「レフランプ」)4個を用いて前記DMを計測した。
【0052】
本実施例に用いた反射光量の測定器の構成を図1に示す。図1において、11は光源、12は回転チョッパ、13は干渉フィルタ、14は光電変換センサ、15は電圧出力装置、16は携帯型コンピュータ、17は電源、18は冷凍保冷材をそれぞれ示し、図に示さない電子冷却装置が光電変換センサ14に内蔵される。前記測定器の光学系の測定視野範囲は、半値幅±15°である。
【0053】
前記回転チョッパ12(木村応用工芸社製、商品名:MIR-CHOP-01)は、267.8Hz〜70Hzの範囲で回転数を連続的に変えることができ、最適チョッピング周期を選択する。前記干渉フィルタ13は、通過波長が、中心波長λ=3845nm、Δλ=350nm、及び中心波長λ=3450nm、Δλ=100nm(スペクトロゴン社製、商品名:BP-3670-4020-D、及びBP-3450-100-D)を測定器内に装着した。前記光電変換センサ14は、浜松フォトニクス社製、商品名:P6606-320を用いたが、該光電変換センサは電子冷却装置を内蔵する。 電圧出力装置15(木村応用工芸製)は、AD変換器付MPUボード16ビットA/D変換器、型式KIM-MPU-01(内部A/D変換器 バーブラウン ADS7807))を備え、光電変換した電流を増幅した後に、パルス信号を同期検波および平滑化し、直流出力電圧により、デジタル値とし取り出す。
【0054】
電源17は、市販の単一型のニッカド電池4個を本体駆動用に、また同じく単一型乾電池6個をペルチエ冷却器用電源として使用した。連続使用時間は屋外で約2時間であった。冷凍保冷材18(CAMPINGGAZ社製 、商品名:M10)は、装置筐体外部に装着され、取り扱いの簡易性を考慮しつつ、センサ部の冷却機能を強化した。
【0055】
携帯型コンピュータ16(PDA, HP jornada 560)は、センサ部の温度の監視、指定した積算回数で測定を開始する命令、チョッパの1回転ごとに出力される明期1点、暗期3点の電圧値を処理し、光強度値に変換するとともにメモリカードに記録した。
【0056】
前記標準反射板は、ラブスフェア社製インフラゴールド(型式:IRT-94-180、中間赤外波長域内平均反射率:0.97、以下IGと簡記することがある。)を使用した。
【0057】
対象となる穀物は、イネ品種コシヒカリを用いた。出穂日が7月28日のイネ品種コシヒカリの穂を、8月19日(以下1区という。)、8月26日 (以下2区という。) 、及び9月13日 (以下3区という。) の3時期に、また出穂日が8月9日の同じくコシヒカリの穂を、8月26日 (以下4区という。)、及び9月13日 (以下5区という。) の2時期にそれぞれ採取し、充実度の異なるイネの穂のサンプルを作成した。前記採取した穂は、室内で40乃至60日間自然乾燥し、供試した。
【0058】
前記自然乾燥後の一部の穂について、水分含有率を測定した。該水分含有率は、自然乾燥後の穂重量(生重)と、自然乾燥後の穂を70℃で48時間通風乾燥したあとの重量(乾重)との差を水分含量とし、該水分含量と生重との比率を水分含有率とした。その結果は、1区:10.2%、2区:7.8%、3区:9.8%、4区:9.6%、5区:9.4%で、サンプル間の差は小さかった。又DM計測直後に、モミの充実度の指標として一部の穂を脱穀し、モミ1000粒当りの重量(以下、モミ千粒重という。)を秤量した。その結果は、1区:12.6g、2区:16.0g、3区:22.8g、4区:23.4g、5区:25.6gであった。
【0059】
前記自然乾燥した各区の穂群を、プラスチックバットに厚さが5〜6cmになるように積み重ね、測定対象とした。
【0060】
暗室内において前記装置を用い、中間赤外域の前記2バンドについて、前記各区の供試サンプル、及び前記IGからの反射光量を測定した。測定対象の表面温度の推移は、2次元放射温度計(日置電機製、商品名:3460)により監視した。電球から発せられる熱線によりサンプルの表面温度は開始時の室温(約26℃)から約6℃ないし7℃程度上昇した。しかしIGの表面の昇温は、1℃ないし2℃であった。サンプル表面の温度変化に伴い、特に3845nmバンドではその出力電圧が時間とともに増加する傾向を示した。そこで供試サンプルの表面温度が上昇する前の反射光量を測定した。測定結果から数式1を用いて算出したDMと、供試サンプルのモミ千粒重を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から、DMとモミ千粒重との間には、相関係数0.79で、直線関係が認められた。
【0063】
(実施例2)
《遮光による補正》
実施例1において、白熱電球による照明により、サンプルモミの表面温度が前述の通り上昇した。温度上昇に伴う出力電圧の増加分は、反射光量の変化と見かけ上は区別できない。
【0064】
そこで、前記温度差による測定誤差を解消するために、実施例1の照明下の測定に加えて、遮光下での測定を実施した。遮光は、450mm×900mm厚さ3mmの不透明プラスチック板(アクリサンデー社製、低発泡塩ビ板、商品名:FOREX E-7007 グレー)を2枚用いて行なった。
【0065】
供試サンプル、IG、測定環境、及び測定方法は実施例1と同様とした。測定操作手順は、1:照明IG、2:遮光IG、3:照明サンプル、4:遮光サンプル、の順でおこなった。以下各供試サンプルにつき2反復とし、最後に再度、1:照明IG、2:遮光IGを測定した。測定対象の表面温度の推移は、前記2次元放射温度計により監視した。
【0066】
サンプル表面の温度変化に伴い、特に3845nmバンドではその出力電圧が時間とともに増加する傾向を示した。そこで該バンドの反射光量として、温度変化に起因する変動がほぼ収束した、照明開始約3分後からの9観測、及び遮光開始後約3分後からの同じく9観測のそれぞれ加算平均値を用いた。IGに関する測定、及び3450nmバンドの測定では、温度変化に起因するとみられる著しい変動が特に観察されなかったため、いずれも18回の観測データに対して加算平均処理を施した。測定結果から、前記数式2、及び数式3によりNMを算出した。算出結果と千粒重を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果から、モミ千粒重とNMとの間には、相関係数0.93の正の相関関係が認められた。すなわち、モミのNMにより、モミ千粒重で表されるモミの充実度を検出することができた。
【0069】
(実施例3)
《野外における測定》
本発明を野外において実施した。前記NMの測定は実施例2と同様の方法とした。野外における実施においては前記NMの測定の他に、前記NVIも併せて測定した。
【0070】
前記NVIの測定のために選択した、赤色域バンドの干渉フィルタは、中心波長λ=632nm、Δλ=10nm(エドモントオプティクス製 43133-F(632nm))を、近赤外域バンドの干渉フィルタは、中心波長λ=830nm、Δλ=10nm(エドモントオプティクス製 43147-F(830nm))をそれぞれ用いた。
【0071】
前記赤色域と近赤外域の2バンドの測定に当たっては、標準反射板として、632nmにおける反射率が0.89、および830nmにおける反射率が0.97の白色板(プラチナ万年筆製CPパネルACCP7-3400)を使用した。該反射率は、実験室内で標準電球(ウシオ電機製分光放射照度標準電球100V/500W)を用い、木村応用工芸製標準白板(KODAK White Reflectance Coating塗布)の反射光量に対する比で示した。
【0072】
該2バンドの反射光量の測定は、赤色域、及び近赤外域用光電変換センサとして、浜松フォトニクス(株)製、商品名: S2386-44kを用いた以外は、実施例2と同様に測定した。
【0073】
機械移植した品種コシヒカリの、収穫1週間前の圃場のイネ個体群を、測定対象とした。圃場において子実重量の異なるサンプルを得るために、前記圃場の均一と見なせる縦横1.2m×1.5mの実験区4カ所を選定し、前記各実験区のイネ個体群について、測定前日に穂のみの切除数を変えることにより、茎葉の現存量はほぼ同一として、穂数のみが異なるサンプルを作製し、供試した。
【0074】
前記実験区の穂数は、1区(対照区)352.8本/m2に対して、2区: 240.5本/m2、3区: 218.9本/m2、及び4区:0.0本/m2であった。したがって対照区を100%とする各区の穂数率は、1区: 100%、2区: 77%、3区: 60.3%、4区: 0.0%であった。
【0075】
測定時の前記イネ個体群の葉面積指数(土地面積あたりの総葉面積)は、約3.6m2/m2、止葉中央部で測定した個葉の葉緑素濃度を示すSpad値(ミノルタカメラ社製商品名:Spad-502による計測出力値)は、平均値18.0、草高は平均値94.3cmであった。実験区を設けた水田全体の収穫時の収量(精玄米重)は525.3g/m2であった。
【0076】
9月9日9時30分より13時30分の間に、前記装置を用いて反射光量を測定した。観測方位はほぼ南、観測天頂角約30°、イネ個体群表層との距離は0.75乃至1.0mとした。測定手順は、1:日射下のIG、2:遮光したIG、3:日射下の白色板、4:遮光した白色板、5:日射下の作物個体群、6:遮光した作物個体群とし、該測定手順を1回として、6回繰り返し、最後に1:日射下のIG、2:遮光したIG、3:日射下の白色板、4:遮光した白色板を測定した。測定日の天候は一時的に薄い靄のかかることがあったものの、ほぼ快晴だった。
【0077】
平均化のため、測定1回あたり127回の内部積算、および9回の繰り返しを実施した。これには約3分を要するため、1〜4区を上記測定の手順にしたがって一巡測定するための所用時間は約30分であった。したがってその間の、太陽光強度の変化を補正するため、イネ個体群測定前後の白色板およびIG測定値により、測定時刻による線形補完を施した。
【0078】
前記による測定結果に付いて、赤色域と近赤外域光線の2バンド反射係数間の正規化演算値NVI、および中間赤外域光線の2バンド反射係数間の正規化演算値NMを、前記数式2、数式3、及び数式4によりそれぞれ算出した。算出結果と穂数率を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3の結果から、穂数率が増加するにつれて、NMの平均値はほぼ直線的に増加するが、NVIの平均値の変動はきわめて小さかった。これはNVIで検出される茎葉現存量の区間差が極めて小さいにもかかわらず、NMは穂数率に反応していることを示しており、中間赤外域の反射係数に基づくNMは、穂数の推定に有効である。なおここでは穂数を推定対象としたが、光学的に測定する場合には、装置の視野範囲内における子実重量とほぼ同義と考えられ、単位土地面積あたりの子実重量の推定も、係数の変更などを要するものの同様の方法により可能である。
【0081】
NM、NVIの有効性を検証するために、前記穂数率に対する、各単一バンドの反射光量、及びNM、NVIについての相関係数を求めた。結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
表4の結果から、NMは各単一バンドの反射光量に比較して、大きな相関関係を示した。実施例2におけるNMの相関関係に比較して、実施例3における数値が低いのは、野外の測定による、茎葉からの反射光量、その他のノイズにより、相関係数が低下したものと思われる。
【0084】
前記の数式6のNMとNVIとの線形結合による子実重量値を、数式6のk値を変えて計測した。結果を表5に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
数式6で表される、赤色域、近赤外域との正規化演算値NVIと、中間赤外域の正規化演算値NMとの線形結合により補正した計測値の相関係数値は、5%有意の相関係数値である0.404をこえ、野外における子実重量の推定が有効であり、該k値は30前後が好ましいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の方法を用いることにより、収穫前の穀物の子実重量が的確に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】特定バンドの反射光量の測定装置の概念図である。
【符号の説明】
【0089】
11 光源
12 回転チョッパ
13 干渉フィルタ
14 光電変換センサ
15 電圧出力装置
16 携帯型コンピュータ
17 電源
18 冷凍保冷材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物の子実、及び標準反射板に照射した光の反射光の中から選択した中間赤外域に含まれる2つの波長バンドの反射光量について、子実からの前記2波長バンドの反射光量の差と、標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することによる、子実重量の推定方法。
【請求項2】
照射した光の反射光に加えて、遮光下における子実、及び標準反射板からの前記2波長バンドの反射光量の差を測定することによる、請求項1に記載の子実重量の推定方法。
【請求項3】
前記中間赤外域に含まれる2つの波長バンドが、中心波長が3800〜3900nmの範囲にある波長バンドと、中心波長が3400〜3500nmの範囲にある波長バンドである、請求項1又は請求項2に記載の子実重量の推定方法。
【請求項4】
前記中間赤外域に含まれる2つの波長バンドに加えて、赤色域から選択した波長バンドと、近赤外域から選択した波長バンドの、子実、茎葉、及び標準反射板からの反射光量について測定することによる、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の子実重量の推定方法。
【請求項5】
前記赤色域から選択した波長バンドが、中心波長が600〜670nmの範囲にある波長バンドであり、前記近赤外域から選択した波長バンドが、中心波長が800〜860nmの範囲にある波長バンドである、請求項4に記載の子実重量の推定方法。
【請求項6】
反射光を断続するチョッパと、波長を選択するフィルタと、入射光を光電変換する光電変換センサと、光電変換した電流を増幅したのち同期検波および平滑化し出力電圧を取り出す電圧出力装置と、携帯型コンピュータとを備える請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法を用いた子実重量を推定する装置。



【図1】
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【公開番号】特開2006−271202(P2006−271202A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90380(P2005−90380)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】