説明

穀物の水浸漬方法及び浸漬装置

【課題】 正常な発芽プロセスを損なうことなく、発芽させるべき穀物に所望の水分をより短時間で供給することができる穀物の水浸漬方法、及び、それに用いる浸漬装置を提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決する穀物の水浸漬方法は、発芽させるべき穀物に水分を含有させるための穀物の水浸漬方法であって、気泡径が50μm以下のマイクロバブルの存在する水中に穀物を浸漬することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発芽させるべき穀物に水分を含有させるための穀物の水浸漬方法及び浸漬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
米、小麦、大麦等のイネ科穀物や、大豆、緑豆、アルファルファ等の豆類を発芽させたものは、主に飲食品などの中間原料として広く利用されている。このような発芽させた穀物や豆類を得るためには、発芽させる前にそれらの種子(穀粒)に水分を十分供給することが必要であり、通常、水に種子を浸漬させる浸漬処理が実施される。また、発芽を促進するためには、水分を供給するとともに発芽に必要な酸素を十分に供給することも必要である。
【0003】
例えば、ビールなどの原料に用いる麦芽を大麦から製造する場合、製麦の前処理として、大麦を浸麦水に浸漬する工程(以下、「ハリ工程」という場合もある)と、大麦を浸麦水から取り出し水切り状態で放置する工程(以下、「キリ工程」という場合もある)とを交互に複数回繰り返すことにより、大麦に水分及び酸素を供給することが行われている(例えば、特許文献1、非特許文献1及び2を参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−255453号公報
【非特許文献1】Dennis E.Briggs、Chapter 3“Grain Physiology” 3.4 “Water uptake by Grains”、In Malts and Malting、Blackie Academic & Professional、pp.88−96、London(1998)
【非特許文献2】Wolfgang Kunze、2 ”Herstellen des Malzes“ 2.3 ”Weichen der Grerste“、In Technologie Brauer und Malzer、7.、Volling Neu Bearbeitete Auflage、Versuchs−und−Lehranstalt fur Braureei in Berlin(VLB)、pp.104−112、Berlin(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ビールなどの飲料をはじめとして発芽させた穀物や豆類を利用する産業においては、上記の前処理に要する時間を短縮して製品の生産効率を向上させることが望まれている。
【0006】
しかしながら、上記従来の方法(以下、「従来の浸麦法」という場合もある)は、目標とする水分を種子に供給するためには長時間(約3日間)を要し、この時間を短縮することは困難であった。例えば、従来の浸麦法において、キリ工程の回数や放置時間を減少させると、処理後の穀物の正常な発芽プロセスが損なわれる場合がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、正常な発芽プロセスを損なうことなく、発芽させるべき穀物に所望の水分をより短時間で含有させることができる穀物の水浸漬方法、及び、それに用いる浸漬装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、発芽させるべき穀物に水分を含有させるための穀物の水浸漬方法であって、気泡径が50μm以下のマイクロバブルの存在する水中に穀物を浸漬することを特徴とする穀物の水浸漬方法を提供する。
【0009】
本発明において、「発芽させるべき穀物」とは、米、小麦及び大麦等のイネ科穀物の種子(穀粒)、並びに、大豆、緑豆及びアルファルファ等の豆類を意味する。
【0010】
本発明の穀物の水浸漬方法によれば、気泡径が50μm以下のマイクロバブルの存在する水中に穀物を浸漬させることにより、従来必須であったキリ工程を実施せずに発芽に必要な酸素を十分に供給することができる。つまり、かかる方法によれば、穀物の正常な発芽プロセスを損なうことなくハリ工程のみを連続させることができることから、発芽させるべき穀物に所望の水分をより短時間で供給することが可能となる。
【0011】
また、本発明の穀物の水浸漬方法によれば、上記マイクロバブルによって、発芽に必要な酸素を十分供給できるとともに有害な二酸化炭素を浸漬中の穀物から除去することが可能となる。このような効果は、穀物を浸漬する系内にマイクロバブルを存在させることにより溶存炭酸ガスの拡散が促進され、穀物の呼吸によって生成する炭酸ガスが速やかに系外へと放出されるために奏されたものと考えられる。
【0012】
更に、本発明の穀物の水浸漬方法によれば、浸漬する水の温度を高めてハリ工程を行うことができ、前処理に要する時間をさらに短縮することが可能となる。一般的に、植物種子の吸水速度は、高い温度でより促進されることが知られている(Dennis E.Briggs,Chapter 3“Grain physiology”3.4“Water uptake by grains”pp.88−96,In Malts and Malting,Blackie Academic&Professional,London(1998)参照)。しかしながら、従来の浸麦法において浸漬する水の温度を高めてハリ工程を行うと、それに続くキリ工程では種子の周囲に水が存在しないため、発芽に伴って発生する発芽熱により種子自身の温度が生理的温度範囲を逸脱して上昇し、種子が死滅してしまう虞がある。そのため、浸漬に使用する水の温度は、比較的低温(通常、16℃以下)でなければならなかった。これに対して本発明の穀物の水浸漬方法によれば、キリ工程を実施することなくハリ工程を連続して行うことができるため、浸漬する水の温度を従来設定することができなかった高温(21℃以上35℃以下)にすることができ、従来に比べて極めて短期間で所定の水分を穀物に供給することが可能となる。
【0013】
本発明の穀物の水浸漬方法においては、上記工程において、水に穀物を浸漬し続けることが好ましい。すなわち、ハリ工程及びキリ工程の繰返しを省略することで、前処理工程を簡素化でき、発芽させた穀物の生産効率を格段に向上できる。かかる効果は、気泡径が50μm以下のマイクロバブルの存在する水中に穀物を浸漬することで、所定の含水率に達するまでハリ工程のみを連続させた場合であっても穀物の正常な発芽プロセスを十分確保できるという本発明者らの知見に基づくものである。
【0014】
本発明の穀物の水浸漬方法においては、穀物を浸漬する水の温度が21℃以上35℃以下℃であることが好ましい。かかる温度でハリ工程を行うことにより、正常な発芽プロセスを損なうことなく従来に比べて極めて短期間で所定の水分を穀物に供給することが可能となる。
【0015】
また、穀物の品質を確保しつつ更に前処理時間を短縮させる観点から、上記水の温度を25〜35℃とすることがより好ましく、28〜32℃とすることが特に好ましい。
【0016】
また、本発明は、発芽させるべき穀物に水分を含有させるために用いる浸漬装置であって、穀物および浸漬水を収容するための容器と、気泡径が50μm以下のマイクロバブルを浸漬水中に発生させるマイクロバブル発生手段と、一端が容器に接続され他端がマイクロバブル発生手段に接続されて容器内の浸漬水をマイクロバブル発生手段に供給する循環管路と、一端がマイクロバブル発生手段の浸漬水出口に接続され他端が容器に接続されてマイクロバブルを含む浸漬水を容器に供給する供給管路とを備える浸漬装置を提供する。
【0017】
かかる浸漬装置によれば、上記本発明の穀物の水浸漬方法を実施することができ、正常な発芽プロセスを損なうことなく穀物に所望の水分をより短時間で供給することができる。また、浸漬装置が循環管路を備えることにより、気泡径が50μm以下のマイクロバブルを含む水を効率よく穀物に供給し続けることができ、発芽させた穀物の製造コストの更なる低減が可能となる。
【0018】
また、本発明の浸漬装置は、容器内の浸漬水を昇温する加熱手段と容器内の浸漬水を冷却する冷却手段とからなる浸漬水温度調整手段と、浸漬水温度調整手段を制御して容器内の浸漬水を所定の温度に維持するための温度制御手段とを更に備えることが好ましい。これにより、容器内の水の温度を所定の温度に保持して浸漬を行うことができ、正常な発芽プロセスを損なうことなく従来に比べて極めて短期間で所定の水分を穀物に供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明よれば、正常な発芽プロセスを損なうことなく、発芽させるべき穀物に所望の水分をより短時間で含有させることができる穀物の水浸漬方法、及び、それに用いる浸漬装置を提供することができる。従って、本発明よれば、発芽させた穀物の製造コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
<浸漬装置>
図1は、本発明の浸漬装置の好適な一実施形態を示す系統図である。図1に示した浸漬装置1は、浸麦水20及び大麦(穀物)100が収容される浸麦水槽(容器)10と、気泡径が50μm以下のマイクロバブルを含む水を製造するマイクロバブル発生装置200と、マイクロバブルを含む水をマイクロバブル発生装置200の出口から浸麦水槽10に供給するための供給管路42と、浸麦水槽10の浸麦水20をマイクロバブル発生装置200に供給する循環管路44とを備えて構成されている。そして、浸漬装置1では、供給管路42及び循環管路44により浸麦水が浸麦水槽10とマイクロバブル発生装置200との間を循環できる。この場合、マイクロバブル発生装置200によって循環する浸麦水中にマイクロバブルを発生させる。
【0022】
マイクロバブル発生装置200は、上記の浸麦水の流れ方向の上流側から、負圧調整弁34、空気取り入れ口36、渦流(マイクロバブル発生)ポンプ30、余剰空気分離タンク50、圧力調整弁32が接続され構成されている。
【0023】
マイクロバブル発生装置200では、負圧調整弁34側から送られる水と、空気取り入れ口36から送られる空気とを混合することにより気泡を生ぜしめ、更に渦流(マイクロバブル発生)ポンプ30の攪拌力等により気泡の剪断を進めることにより気泡の細分化を行っている。マイクロバブルを含む水は、余剰空気分離タンク50を通ることにより余剰の空気(気泡にならなかった空気及び径の大きな気泡)が除去され、圧力調整弁32によって所定の吐出圧力に調整された後、供給管路42に送られ、浸麦水槽10の底部に位置するように設けられた噴出ノズル40から浸麦水槽10内に噴出される。
【0024】
また、気泡径が50μm以下のマイクロバブルを含む水は、負圧調整弁34や空気取り入れ口36を調整して水及び空気の供給量を適宜調節することにより製造することができる。すなわち、負圧調整弁34によって導入水負圧を調整でき、空気取り入れ口36によって空気流量を調整でき、これらの調整により、気泡の直径をより好ましい範囲に設定することもできる。
【0025】
更に、浸漬装置1においては、浸麦水槽10の周囲に、浸麦水20を昇温するヒータ70及び浸麦水20を冷却するクーラ72と、ヒータ70及びクーラ72に電気的に接続された温度制御装置74とが設けられている。温度制御装置74は、設定された温度に基づいて、浸麦水20の温度を監視しつつヒータ70及びクーラ72を作動させ、浸麦水20を所定の温度に維持する。これらの装置を備えることにより、浸麦水20の温度を所定の温度に保持して浸漬を行うことができる。
【0026】
また、循環管路44は、浸麦水槽10内の余分な水を外部(図1中矢印A)へと排出するための管路も有している。
【0027】
なお、図1中には示されていないが、浸漬装置1は、浸麦水槽10の浸麦水20を排出するための排出口、及び、浸漬装置1内に浸麦水を導入するための浸麦水導入路を備えている。排出口は浸麦水槽10の下部に設けられており、浸麦水導入路は供給管路42に接続して設けられている。ただし、排出口及び浸麦水導入路の位置は、これらに限定されない。例えば、浸麦水導入路は、浸麦水槽10、又は、負圧調整弁34の手前の循環管路44に設けられていてもよい。
【0028】
<穀物の水浸漬方法>
次に、本発明の穀物の水浸漬方法の好適な実施形態として、図1に示される浸漬装置を用いてビールの原料である大麦を浸漬する方法について説明する。
【0029】
図1には、既に大麦100及び浸麦水20が入っている状態が示されているが、本発明に係る穀物の水浸漬方法を実施するには、先ず、麦排出ゲート60が閉じた状態で浸麦水槽10を所定量の浸麦水20で満たす。次に、この浸麦水20を循環管路44よりマイクロバブル発生ポンプ30に供給しながら、圧力調整弁32、負圧調整弁34及び空気取り入れ口36を調整して気泡径が50μm以下のマイクロバブルを浸麦水中に発生させ、このマイクロバブルを含む浸麦水を供給管路42を通じて噴出ノズル40から浸麦水槽10に供給する。このように浸麦水20が浸麦水槽10及びマイクロバブル発生ポンプ30の間を循環することにより、常にマイクロバブルを含む浸麦水が浸麦水槽に供給される状態となる。
【0030】
更に、温度制御装置74に設定された温度に基づいてヒータ70及びクーラ72が作動し、浸麦水槽10内の浸麦水20が所定温度で一定に保持される。浸麦水20の温度は、麦芽の品質を十分維持しつつ浸漬時間をより短縮させる観点から、21〜35℃が好ましく、25〜35℃がより好ましく、28〜32℃が特に好ましい。
【0031】
次に、浸麦水槽10内の浸麦水20中に所定量の大麦を投入する。ここで、浸麦水槽10内における大麦及び浸麦水の量は、大麦に水分を均一に含有させるために浸漬する大麦のすべてが浸麦水中に没するよう、浸麦水槽10の形状に応じて適宜設定すればよい。通常、大麦1tに対して1.2t〜2.0tの浸麦水を使用することで大麦を十分浸漬することができる。
【0032】
大麦の投入後、上述のマイクロバブルを含む水の供給及び浸麦水20の温度管理を持続させながら、大麦の浸漬を継続する。
【0033】
大麦の浸漬が終了すると、浸麦水槽10内の浸麦水20を排出し、麦排出ゲート60を開いて大麦を取り出す。
【0034】
上記の水浸漬方法で得られた大麦は、その後、麦芽工程に供される。
【0035】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されずさまざまな変形態様を取ることが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1):連続ハリ浸麦法
まず、図1で示されるものと同様の構成を有する浸漬装置を準備した。マイクロバブル発生装置は、(株)ニクニ製ニクニターボミキサー(「M20NP07F02H−D型」、加圧水流量1.0m/h、モーター動力0.75kw)を使用し、吐出圧力を0.4MPa、導入水負圧を−0.02〜−0.04MPa、空気流量を2〜4L/minに設定して水中にマイクロバブルを発生させた。そして、このマイクロバブルを含む水を浸麦水槽下部より供給するとともに、浸麦水を浸麦水槽とマイクロバブル発生装置との間で循環させ、常にマイクロバブルを含む水が浸麦水槽に供給されるようにした。なお、水の循環流量は1.0m/時間とし、浸麦水槽の水温を16℃に保持した。また、マイクロバブルの気泡径は50μm以下であった。
【0038】
次に、マイクロバブルを含む水10Lで満たされた浸麦水槽内に、醸造用ビール大麦「りょうふう」(2004年北海道網走西部地区産、粗蛋白含量11.0%、水分11.5%、発芽勢99%、整粒歩合99%)を5kg投入し、浸漬させた。そして、大麦の浸麦度が45%に到達するまで、上記の状態を維持して浸麦を続けた。
【0039】
大麦の浸麦度(含水率)は、浸漬中の大麦を最初の12時間は6時間毎、その後は3時間毎、更に所定の浸麦度に近くなると1時間毎にサンプリングし、120℃乾燥法に従って測定することにより確認した。
【0040】
浸麦度が45%に到達するまでの浸麦時間は、38時間であった。
【0041】
(比較例1):従来浸麦(ハリ・キリ)法
大麦を浸麦水に浸漬する工程(ハリ)と、大麦を浸麦水から取り出し水切り状態で放置する工程(キリ)とを交互に繰り返す従来の浸漬方法を用いて、醸造用ビール大麦「りょうふう」を浸麦度45%に到達させた。なお、浸麦水の温度は16℃で一定とした。
【0042】
このときの浸麦スキームは、10hr(ハリ)・8hr(キリ)・8hr(ハリ)・6hr(キリ)・4hr(ハリ)・6hr(キリ)・4hr(ハリ)・6hr(キリ)・4hr(ハリ)・4hr(キリ)・1hr(ハリ)であり、浸麦度が45%に到達するまでに合計61時間を要した。
【0043】
上記実施例1及び比較例1の結果を表1にまとめる。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示されるように、実施例1の連続ハリ浸麦法は、従来の浸麦(ハリ・キリ)法と比較して約60%の時間で浸麦度を45%に到達させることができることが確認された。よって、本発明の穀物の水浸漬方法によれば、発芽させるべき穀物の前処理に要する時間を十分短縮することができ、麦芽の生産効率を向上させることが可能であることが分かった。
【0046】
(実施例2)
浸麦水槽の水温を30℃に保持したこと以外は実施例1と同様にして、大麦の浸麦度が42%に到達するまで浸麦を行った。浸麦時間は22時間であった。
【0047】
(実施例3)
醸造用ビール大麦「りょうふう」の代わりに、醸造用ビール大麦「あまぎ二条」(2004年群馬県太田市産、粗蛋白含量9.3%、水分12.5%、発芽勢98%、整粒歩合99%)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、大麦の浸麦度が42%に到達するまで浸麦した。浸麦時間は14時間であった。
【0048】
(比較例2)
大麦を浸麦水に浸漬する工程(ハリ)と、大麦を浸麦水から取り出し水切り状態で放置する工程(キリ)とを交互に繰り返す従来の浸漬方法を用いて、醸造用ビール大麦「りょうふう」を浸麦度42%に到達させた。なお、浸麦水の温度は16℃で一定とした。
【0049】
このときの浸麦スキームは、10hr(ハリ)・8hr(キリ)・8hr(ハリ)・6hr(キリ)・4hr(ハリ)・6hr(キリ)・4hr(ハリ)であり、浸麦度が42%に到達するまでに合計46時間を要した。
【0050】
(比較例3)
大麦を浸麦水に浸漬する工程(ハリ)と、大麦を浸麦水から取り出し水切り状態で放置する工程(キリ)とを交互に繰り返す従来の浸漬方法を用いて、醸造用ビール大麦「あまぎ二条」を浸麦度42%に到達させた。なお、浸麦水の温度は16℃で一定とした。
【0051】
このときの浸麦スキームは、10hr(ハリ)・8hr(キリ)・6hr(ハリ)・4hr(キリ)・3hr(ハリ)・2hr(キリ)・1hr(ハリ)であり、浸麦度が42%に到達するまでに合計34時間を要した。
【0052】
上記実施例2及び3、並びに、比較例2及び3について、浸麦度が42%に到達するまでに要した時間を表2にまとめる。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示されるように、実施例2及び3の連続ハリ浸麦法によれば、大麦の浸麦度が42%に達するまでの時間を、従来の浸麦(ハリ・キリ)法に比べて、それぞれ48%及び41%と、約半分の時間に短縮できることが分かった。
【0055】
<麦芽品質>
上記実施例2及び比較例2で得られた浸漬後の大麦の麦芽品質を評価するため、以下の方法に従って麦芽分析を行った。すなわち、先ず、浸漬後の大麦(浸麦度42%)を、発芽温度16℃一定、発芽日数6日間の発芽工程により製麦し、得られた麦芽の品質をEBCコングレス法(Analytica−EBC(1998)Verlag Hans Carl Getrankee−Fachverlag,Nurnberg(1998)を参照)に基づいて分析した。得られた結果を表3に示す。
【0056】
【表3】



【0057】
表3に示される主要な分析項目を比較すると、SN:0.734 vs 0.717(連続ハリ法vs従来法)、KZ:41.8 vs 40.7(連続ハリ法vs従来法)、EVG:84.7 vs 83.4(連続ハリ法vs従来法)、β−グルカン:191 vs 214(連続ハリ法vs従来法)、酵素力:241 vs 285(連続ハリ法vs従来法)、Friability:75.1 vs 79.8(連続ハリ法vs従来法)となった。これらの結果より、実施例2及び比較例2の間で、浸麦法の違いによる大きな麦芽品質項目値の差は認められず、ほぼ同一と判断できる。そして、表2及び3に示される結果から、浸麦水温度を30℃に保持する実施例2の穀物の水浸漬方法によれば、従来の浸麦(ハリ・キリ)法と比較して、浸麦度が42%に到達するまでに要する時間を半分以下にできるとともに、麦芽品質は従来法のそれと遜色なく麦芽を製造することができることが分かった。
【0058】
以上のことから、浸麦水の水温を30℃に高めて連続ハリ浸麦法を適用することにより、製麦される麦芽の品質を損なうことなく前処理に要する時間を大幅に短縮することができ、麦芽の生産効率をより一層向上させることが可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の浸漬装置の好適な一実施形態を模式的に示す系統図である。
【符号の説明】
【0060】
1…浸漬装置、10…浸麦水槽、20…浸麦水、30…渦流(マイクロバブル発生)ポンプ、32…圧力調整弁、34…負圧調整弁、36…空気取り入れ口、40…噴出ノズル、42…供給管路、44…循環管路、50…余剰空気分離タンク、60…麦排出ゲート、100…大麦。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽させるべき穀物に水分を含有させるための穀物の水浸漬方法であって、
気泡径が50μm以下のマイクロバブルの存在する水中に穀物を浸漬することを特徴とする穀物の水浸漬方法。
【請求項2】
前記穀物を浸漬する水の温度が21℃以上35℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の穀物の水浸漬方法。
【請求項3】
発芽させるべき穀物に水分を含有させるために用いる浸漬装置であって、
穀物および浸漬水を収容するための容器と、
気泡径が50μm以下のマイクロバブルを前記浸漬水中に発生させるマイクロバブル発生手段と、
一端が前記容器に接続され他端が前記マイクロバブル発生手段に接続されて前記容器内の浸漬水をマイクロバブル発生手段に供給する循環管路と、
一端が前記マイクロバブル発生手段の浸漬水出口に接続され他端が前記容器に接続されて前記マイクロバブルを含む浸漬水を前記容器に供給する供給管路と、
を備える、浸漬装置。
【請求項4】
前記容器内の浸漬水を昇温する加熱手段と前記容器内の浸漬水を冷却する冷却手段とからなる浸漬水温度調整手段と、
前記浸漬水温度調整手段を制御して前記容器内の浸漬水を所定の温度に維持するための温度制御手段と、
を更に備える、請求項4に記載の浸漬装置。

【図1】
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