説明

積層されたガラス物品およびその作製方法

積層ガラス物品およびその作製方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の表示】
【0001】
本願は、「積層されたガラス物品およびその作製方法」と題して2006年2月10日付けで提出された米国特許出願第60/772,034号の優先権を主張した出願である。
【技術分野】
【0002】
本発明は、積層されたガラス物品およびその作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
AMLCDおよびOLEDディスプレーの分野において、多結晶シリコンを主成分とする薄膜トランジスタ(TFT)が、より効率的に電子を運ぶ能力のために好まれている。多結晶シリコントランジスタ(p−Si)は、非晶質シリコントランジスタ(a−Si)よりも高い易動度を有することで特徴付けられている。これにより、より小型でより高速のトランジスタの製造が可能になり、換言すると、より明るく、より高速のディスプレーの生産が可能になる。
【0004】
p−Siを主成分とするトランジスタが抱えている一つの問題は、a−Siトランジスタの製造に用いられる温度よりも高い処理温度が製造に必要なことである。温度450℃から600℃までのこれらの温度範囲は、a−Siトランジスタの製造に用いられる最高温度350℃に比較される。これらの温度においては、大多数のAMLCDガラス基板は、圧縮(compaction)として知られている過程を経験する。熱圧縮とも呼ばれるこの圧縮は、ガラスの仮想温度における変化によるガラス基板の非可逆的な寸法変化(収縮または膨張)の一つである。この仮説的温度は、ガラス構造が熱的平衡状態にある温度として定義される。したがって、ガラスの仮想温度は、ガラスのこれまでの熱履歴に対するガラスの粘弾性応答の指標である。これらのトランジスタの製造には、フォトリソグラフィー工程を通じてマイクロメートル台の許容誤差での4〜6層の順次の位置合わせが必要とされるので、この圧縮という現象は問題である。圧縮は、そのガラスの組成固有の粘性特性(その歪み点で表される)と、製造工程によって決定されるガラスシートの熱履歴との双方に左右される。より高い温度処理(p−Si TFTが必要とするような温度)は、ガラスが十分な熱的安定性を確保するために、すなわち圧縮を最少化するために、余分なアニール処理を必要とする。
【0005】
上記圧縮というガラスの挙動を修正または最少化するためには二通りの方法がある。第1は、ガラスを前処理して、p−Si TFTの製造中にガラスが曝される温度に類似した仮想温度を生じさせることである。しかしながらこの方法には、いくつかの難点がある。第1に、p−Si TFTの製造中に採用される複数の加熱ステップは、この前処理によって完全に補償することは不可能な、僅かに異なる仮想温度をガラス内に発生させることである。第2に、ガラスの熱的安定性が、p−Si TFTの製造の内容に密接に関係することであり、このことは顧客が異なると前処理も異なることを意味する。最後に、前処理により、処理コストおよび複雑さが増す。
【0006】
別の方法は、圧縮応答の速度を遅くすることである。これは、ガラスの粘度を高めることによって達成される。かくして、もしガラスの歪み点が、経験する処理温度(200〜300℃低い)よりもずっと高ければ、圧縮は最少である。しかしながら、この方法に伴う問題は、このように高い歪み点を有するガラス基板を如何にして安価に作製するかである。例えば、極めて平滑な表面を形成する能力に関して、これらの用途において高い価値があるフュージョン法は、失透に対して極めて安定なガラスを必要とする。この要求のために、フュージョン・ドロー法における「割れ易い」タイプのガラスの製造が不可能になる。割れ易いガラスは、例えば、急峻な粘性曲線、極めて高い歪み点(最少の圧縮のために)および低い溶融温度(容易な溶融のために)を有する。引例として非特許文献1参照)。これらのタイプのガラスは、失透(ガラス中の結晶形成)の傾向があり、その結果、フュージョン法に課せられる要求に対して相性が良くない傾向がある。
【非特許文献1】C.A.Angell 著”Spectroscopy Simulation and Scattering,and the Medium Range Order Problem in class” J.Non-Cryst.Solids,73(1985)1-17
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術において必要とされているのは、低圧縮p−Siガラス基板である。延伸工程(例えばフュージョン・ドローイング)の熱的能力を著しく高めることなしに、より低い圧縮(高い歪み点)のガラスを製造することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この要求に応えるために、ここには、表皮とコアとから構成され、その表皮が低圧縮および高歪み点のガラスからなる積層されたガラス物品が記載されている。
【0009】
ここに具体化されかつ広範に説明されているような、開示された材料、化合物、組成物、物品、デバイスおよび方法の目的に従って、開示された主題の一つの態様は、積層されたガラス物品およびその作製方法に関するものである。
【0010】
さらなる利点は、その一部が下記の記述中に説明され、かつ一部はその記述から明らかであり、あるいは下記に記述された態様の実施によって習得されるであろう。下記に記述された利点は、特に添付の請求項において指摘された元素およびそれらの組合せによって実現され、かつ達成されるであろう。上述した概要説明および下記の詳細説明は、模範的および説明のためのものであって、制限的なものではない。
【0011】
ここに記載されている材料、化合物、組成物、物品、デバイスおよび方法は、開示された対象物に関する下記の特定の態様の詳細な説明およびそこに含まれる実施例ならびに図面を参照すれば、より容易に理解されるであろう。
【0012】
本発明の材料、化合物、組成物、物品、デバイスおよび方法の開示および説明に先立って、下記の実施例は、特定の合成方法または特定の試薬に限定されず、勿論それ自体変えることができるものであることを理解すべきである。また、ここに用いられている述語は、特定の態様の説明のためのものであって、限定を意図するものでないことも理解すべきである。
【0013】
また、この明細書を通して種々の文献が引用されている。これらの文献の開示内容は、それらの全てが、開示事項に関係する従来技術をより完全に説明するために、引例として本明細書に組み入れられる。開示された引例はまた、それらの文献中の他の文献を準拠した文章において論議された材料に関しても、引例として個々に、かつ具体的に組み入れられる。
【0014】
本明細書および添付の請求項において、多くの用語が引用されているが、それらは下記のような意味である。すなわち、
本明細書の説明および請求項を通じて、「からなる」、「備えている」、「有する」などの用語またはその用語の他の形態は、含むことを意味するが、それに限定されるものではなく、かつ例えば他の添加物、成分、整数、または工程を排除するものではない。
【0015】
上記説明および添付の請求項において用いられている名詞の単数形は、文中で特に明示されていない限り、複数形を含む。したがって、例えば「組成」はこのような組成の2種類またはそれ以上を含み、「…剤」は、このような「…剤」の2種類またはそれ以上を含み、「…層」はこのような「…層」の2種類またはそれ以上を含む等である。
【0016】
「任意の」または「随意的に」は、その後に記載されている事象または状況が起こる可能性があるかないかを意味し、かつその記載は、上記事象または状況が起こった場合および起こらない場合を含むことを意味する。
【0017】
ここに開示されている特定の材料、化合物、および成分は、市販されているか、あるいは一般的に知られている技術を用いて当業者が容易に合成し得るものである。例えば、開示された化合物および組成物を調製するのに用いられる出発材料および薬品はコーニング社(ニューヨーク州コーニング所在)、アルドリッチ・ケミカル社(ウィスコンシン州ミルウォーキー所在)、アクロス・オーガニックス社(ニュージャージー州モリスプレイン所在)、フィッシャー・サイエンティフィック社(ペンシルヴェニア州ピッツバーグ所在)、またはシグマ社(ミズーリ州セントルイス所在)のような販売会社から入手可能であるか、あるいは、Fieser and FieserのReagents for Organic Synthesis,1〜17 巻 (John Wiley and Sons 社発行、1991年)、Rodd の Chemistry of Carbon Compounds,1〜5巻(
Elsevier Science Publishers 社発行、1989年)、Organic Reactions,1〜40巻(John
Wiley and Sons 社発行、1991年)、MarchのAdvanced Organic Chemistry(John Wiley and Sons 社発行,第4版)、およびLarockのComprehensive Organic Transformation(VCH
Publishers Inc. 発行、1989 年)のような文献に説明されている、当業者が周知の手順に従って調製可能なものである。
【0018】
また、ここに開示されているのは、使用可能な、組み合わせて使用可能な、調製のために使用可能な材料、化合物、組成物および成分であり、または、開示された方法および組成による製品である。ここにはこれらの材料およびその他の材料が開示されており、これらの材料の組合せ、サブセット、交互作用、集団等が開示されている場合には、これらの化合物の種々の個々のまたは集合的順列・組合せのそれぞれの具体的な見本が明白に開示されていなくとも、それぞれはここで検討されかつ開示されていると理解すべきである。例えば、もし一つの組成が開示され、かつその組成の多数の成分に対して多数の変形が可能であると記載されているとすれば、具体的に否定されていない限り、可能な順列・組合せのそれぞれが考えられる。したがって、もし一つの部類の成分A,B,Cが開示され、同様に一つの部類の成分D,E、Fならびに組合せA−Dが開示されているとすると、それぞれが具体的に引用されていなくても、A,B,C;D,E,F;および例示的組合せA−Dから、組合せA−E,A−F,B−D,B−E,B−F,C−D,C−E,C−Fのそれぞれが具体的に考えられ、かつ開示されていると判断されるべきである。同様に、これらのサブセットまたは組合せも具体的に考えられかつ開示されている。したがって、A,B,C;D,E,F;および例示的組合せA−Dから、例えばA−E,B−FおよびC−Eのサブグル−プが具体的に考慮され、かつ開示されていると判断されるべきである。この考え方は、開示された組成物を作製しかつ使用する方法に含まれる、しかしそれらに限定されないステップを含むこの記載内容の全ての考え方に適用される。したがって、もし実行可能な多くの付加的なステップがあるとすると、これらの付加的なステップのそれぞれは、何れの具体的な態様によって、または開示された方法の態様の組合せによって実行可能であり、かつこのような組合せのそれぞれが具体的に考慮されかつ開示されていると理解される。
【0019】
以下、添付の実施例および図面を参照して、開示されている材料、化合物、組成物、物品および方法の具体的な態様について詳細に説明する。
【0020】
1.積層されたガラス物品
一つの態様において、ここに説明されているガラス物品は、(1)少なくとも一つの露出された表面を備えたガラスコアおよび(2)ガラス表皮を備え、この表皮は上記コアの露出された表面に結合され、かつ650℃よりも高い歪み点を有するガラス組成物からなる。ここで用いられている「結合され」という用語は、上記表皮が上記コアの露出された表面に隣接(すなわち密接)するか、または1層または複数層の中間層を介して間接的に取り付けられるかの双方を含む。ここで定義されている「露出された表面」という用語は、もし表皮が接触していれば、表皮ガラスが接触可能なコアガラスのいずれかの表面を意味する。上記ガラス物品は、1面または複数面の露出された表面を備えることができる。例えば、ガラスコアが板ガラスであれば、上記コアは、2面の露出された表面を備えることができ、それら表面の1面または両面は、それに結合されたガラス表皮を備えることができる。この表皮およびコアガラス組成物の性質は下記に詳細に説明されている。
【0021】
a.表皮
この表皮を作製するのに有用なガラス組成物は650℃よりも高い歪み点を有する。他の実施例においては、表皮ガラス組成物は、655,660,665,670,675,680,685,690,695,700,705,710,715,720,725,730,736,740,745,750,760,770,790または800℃よりも高い歪み点を有し、上記いずれの表示値も、適切な場合に、上限および下限を形成することができる。一つの態様において、上記表皮は700℃から800℃までの歪み点を有する。別の態様においては、表皮が、700℃から750℃までの歪み点を有するガラスからなる。開示された組成物の歪み点は、当業者が公知の技術を用いて決定することができる。例えば、歪み点はASTM法C336を用いて定義することができる。
【0022】
別の態様において、表皮ガラス組成物は、15000,20000,25000,30000,35000,40000,45000,50000,60000,70000,80000,90000,100000,200000,300000,400000または500000ポアズ(1500,2000,2500,3000,3500,4000,4500,5000,6000,7000,8000,9000,10000,20000,30000,40000または50000Pa・s)よりも高い液相線粘度を有し、上記いずれの表示値も、適切な場合に、上限または下限を形成することができる。ガラスの液相線温度は、公知の標準的液相線法によって測定することができる。標準的液相線法(Liq.)は、粉砕されたガラス粒を白金ボート中に容れ、このボートを、温度勾配領域を有する炉内に置き、上記ボートを適当な温度で24時間加熱し、そして顕微鏡実施の形態によって、ガラス中に結晶が生じる最高温度を測定することを含む。この技法は「勾配ボート法」とも呼ばれる。一つの態様において、勾配ボート法により測定した表皮が、20,000から50,000ポアズ(2,000から5,000Pa・s)までの液晶線粘度を有する。別の実施の形態においては、勾配ボート法により測定した表皮が、35,000から50,000ポアズ(3,500から5,000Pa・s)までの液晶線粘度を有する。
【0023】
さらに別の実施の形態においては、30ppm 未満、25ppm 未満、20ppm 未満、15ppm 未満、または10ppm 未満の熱圧縮を有する。
【0024】
一つの態様において、上記表皮は、酸化物を基準としたモルパーセントで、
SiO 64.0〜72.0
1.0〜5.0
Al 9.0〜16.0
MgO+La 1.0〜7.5
CaO 2.0〜7.5
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜7.0
の組成を有する無アルカリガラスを含有し、ここで、
(a)1.15≦Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)≦1.55、Al,MgO,CaO,SrO,BaOおよびLaは表記酸化物成分のモル%を表し、
(b)このガラスは、700℃以上の歪み点を有し、
(c)このガラスは、200ポアズ(20Pa・s)の粘度において1,665℃以下の温度を有し、
(d)このガラスは、液相線温度において85,000ポアズ(8,500Pa・s)以上の粘度を有する。
【0025】
別の態様において、上記表皮は、酸化物を基準としたモルパーセントで、
SiO 65.0〜71.0
Al 9.0〜16.0
1.5〜4.0
MgO+La 0.5〜7.5
CaO 2.0〜6.0
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜7.0
La 0.0〜4.0
の組成を有する無アルカリガラスを含有し、ここで、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)≧1.15であり、Al,MgO,CaO,SrO,BaOおよびLaは表記酸化物成分のモル%を表す)。
【0026】
さらに別の態様において、上記表皮は、酸化物を基準としたモルパーセントで、
SiO 65.0〜72.0
Al 10.0〜15.0
1.0〜4.0
MgO 2.0〜7.5
CaO 3.0〜6.0
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜6.0
の組成を有する無アルカリガラスを含有し、ここで、Σ(MgO+CaO+
SrO+BaO)/(Al)≧1.15であり、Al,MgO,CaO,SrO,およびBaOは表記酸化物成分のモル%を表す。
【0027】
表皮に関してここに記載されているガラス組成において、SiOは基礎的ガラス形成材料として機能する。或る態様においては、フラットパネルディスプレー(例えばAMLCDガラス)に適合した密度および化学的耐久性を備え、かつダウンドロー法(例えばフュージョン法)による形成を可能にする液相線温度(液相線粘度)を備えたガラスを提供するために、SiO濃度を64モル%よりも高くすることができる。例えば耐火性溶融槽内でのジュール溶融のような従来の大量溶融技法を用いてバッチ材料が溶かされるのを可能にするためには、一般に上限という見地から、SiO濃度を約71モル%以下にすることができる。SiO濃度が高くなるのにつれて、一般に200ポアズ(20Pa・s)温度(溶融温度)上昇する。多くの用途において、SiO濃度は、ガラス組成物が1,650℃以下の溶融温度を備えるように調整される。一つの態様においては、SiO濃度が66.0モル%と71モル%との間、または66.5モル%と70.5モル%との間である。
【0028】
Alは、上述した表皮ガラスを作製するのに用いられる他のガラス形成材料である。9モル%以上のAl濃度は、低い液相線温度および対応する高い液相線粘度をガラスに与える。少なくとも9モル%のAlを用いると、ガラスの歪み点および弾性率をも改善する。1.15以上のΣ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)比(後記)を得るためには、Al濃度を16モル%未満に保ちことが望ましい。一つの態様においては、Al濃度は12モル%と15モル%との間である。
【0029】
は、ガラス形成材料および溶融を促進しかつ溶融温度を下げる融剤の両方の役割を果たす。これらの効果を得るために、ここに記載されている表皮ガラスの組成は、1.0モル%以上のB濃度を有する。
【0030】
SiOについて上述したように、LCDの用途に関しては耐久性も極めて重要である。耐久性は、アルカリ土類酸化物および酸化ランタンの濃度を高めることによって或る程度コントロールすることができ、かつBの含有量を高めることによって著しく低下する。歪み点およびヤング率に関しては、B含有量を低く保つことが望ましい。したがって、一つの態様において上述の特性を得るためには、ここに記載されているガラスは、5.0モル%以下、1.0モル%と5.0モル%との間、1.0モル%と4.0モル%との間、または2.0モル%と4.0モル%との間のB濃度を有する。
【0031】
AlおよびBの濃度は、表皮ガラスの溶融および形成特性を維持しながら、歪み点を高め、弾性率を高め、耐久性を改善し、密度を低下させ、かつ熱膨張係数(CTE)を低下させるために、一対として選択される。例えば、B濃度を高め、これに対応してAl濃度を低下させると、より低い密度およびCTEが得られるが、その一方で、Al濃度の増大が、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Al)比またはΣ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)比を約1.15未満には低下させないという条件で、Al濃度を高め、これに対応してB濃度を低下させると、歪み点、弾性率、および耐久性が増大する。例えば、AMLCDに用いるための表皮ガラスは、28〜42×10−7/℃の範囲内のCTE(0〜300℃)を有する。
【0032】
ガラス形成材料(SiO、AlおよびB)に加えて、表皮ガラスはアルカリ土類酸化物を含むことができる。一つの実施の形態において、例えば、MgO,CaOおよびBaO、随意的にSrOのような少なくとも3種類のアルカリ土類酸化物がガラス組成の一部である。アルカリ土類酸化物は、溶融、清澄化、形成および究極の使用に対して重要な種々の特性をガラスに与える。一つの態様においては、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Al)が1.15以上、1.2以上、または1.25以上である。別の態様においては、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Al)が1.55以下、または1.50以下である。
【0033】
表皮ガラス中のMgO、Laおよびこれらの組合せの濃度、ならびに表皮ガラスのΣ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)比は、ガラスの性能、特に溶解性および清澄化に影響を与える。一つの態様においては、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)が1.15以上、1.20以上または1.25以上である。別の態様においては、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)が1.15以上で1.55以下、または1.25以上で1.45以下である。
【0034】
MgO+Laを増大させることにより、液相線温度を高め、かつ液相線粘度を、高粘度形成法(例えばフュージョン法)を用いることが可能なレベルまで低下させることができる。したがって、MgOおよびLaの量は、表皮ガラスの形成に望ましい特性が得られるように調整することができる。双方が存在するときの上述した種々の効果を得るためのMgO+Laの組合せ濃度は、1.0モル%と7.5モル%との間でなければならない。別の態様においては、MgO濃度が2.0モル%と6.0モル%との間、または3.0モル%と6.0モル%との間である。
【0035】
表皮のガラス組成中に存在する酸化カルシウムは、低い液相線温度(高液相線粘度)、高い歪み点および弾性率、ならびにフラットパネル、特にAMLCD用として最も望ましい範囲内のCTEを実現することができる。また、CaOは化学的耐久性に寄与し、かつ他のアルカリ土類酸化物に比較して、バッチ材料として比較的安価であるのが好ましいが、高濃度のCaOは密度およびCTEを増大させる。さらに、SiO濃度が極めて低い場合には、CaOは灰長石(anorthite)を安定化し、かくして液相線粘度を低下させる。したがって、一つの態様において、CaO濃度は2.0モル%以上とすることができる。他の態様においては、ガラス組成のCaO濃度は7.5モル%未満、または3モル%と7.5モル%との間である。
【0036】
残りのアルカリ土類酸化物であるSrOおよびBaOは、双方ともに低液相線温度(高液相線粘度)に寄与し、したがって、ここで説明するガラスは、一般にこれらの酸化物の少なくとも一方を含んでいる。しかしながら、これらの酸化物の選択および濃度は、CTEおよび密度の増大、ならびに弾性率および歪み点の低下を回避するために選ばれる。SrOおよびBaOの相対比率は、ダウンドロー法による表皮ガラスの形成が可能なような物理的特性および液相線粘度の適当な組合せが得られるようにバランスを取ることができる。
【0037】
別の態様において、表皮は、そのガラス組成物に関する記載内容が引例として本明細書中に組み入れられる米国特許第4,180,618号明細書に開示されたガラス組成物からなることができる。一つの態様において、表皮ガラスの組成物は、0〜300℃の温度範囲に亘って32〜42×10−7/℃の線膨張係数と800℃を超えるアニール温度と、液相線温度において少なくとも100,000ポアズ(10,000Pa・s)の粘度を示すガラスからなり、このガラス、酸化物を主成分とするガラスバッチから計算された重量パーセントで、55〜75%のSiO、5〜25%のAl、および9から15%のCaO、14〜20%のSrO、18〜26%のBaOからなる群から選ばれた少なくとも1種類のアルカリ土類金属酸化物、ならびにアルカリ土類金属酸化物全体の含有量が9から15モル%のCaOと等価のこれら酸化物の混合物とから実質的になる。
【0038】
表皮を形成するのに用いられるガラス組成物は、ガラスの種々の物理的、溶融、清澄化および形成特性を調整するために、他の種々の酸化物を含むことが可能である。このような他の酸化物は、TiO,MnO,Fe,ZnO,Nb,MoO,Ta,WO、YおよびCeOを含むが、これらに限定されない。一つの態様において、これらの酸化物のそれぞれは2.0モル%以下で、かつ全体の組み合わされた濃度が4.0モル%以下とすることができる。またこの表皮は、バッチ材料に含まれた、および/またはガラス形成に使用される溶融、清澄化および/または形成用機器によってガラス中に導入された種々の汚染物質をも含んでいる可能性がある。
【0039】
表皮ガラスの組成は一般にアルカリを含まないが、表皮ガラスがアルカリ汚染物質を含む可能性がある。用途がAMLCDである場合、ガラスから薄膜トランジスタ(TFT)へのアルカリイオンの拡散を通じてTFTの動作が悪影響を与えられるのを回避するために、アルカリのレベルは0.1モル%以下であることが望ましい。ここで用いられている「無アルカリガラス」とは、0.1モル%以下の全アルカリ濃度を有するガラスのことであり、全アルカリ濃度とは、NaO,KOおよびLiO濃度の総和である。一つの態様において、全アルカリ濃度は0.07モル%以下である。
【0040】
上述のように、1.15以上のΣ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)比およびΣ(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Al)比は、清澄化、すなわち溶融されたバッチ材料からのガス状含有物の除去特性を改善する。この清澄化に関する改善は、より環境に優しい清澄化法を用いることを可能にする。例えば酸化物を基準として、ここに記載されているガラス組成は、下記の組成的特性の一つまたはそれ以上または全てを有することが可能である。すなわち、
(1)多くとも0.05モル%のAs濃度、
(2)多くとも0.05モル%のSb濃度、
(3)多くとも0.2モル%のSnO濃度。
【0041】
Asは、AMLCDに対する効果的な高温清澄剤であり、ここに記載されている一つの態様においては、Asがその卓越した清澄化特性故に清澄化に用いられる。しかしながら、Asは有毒であり、ガラス製造工程において特別な取扱いを必要とする。したがって、態様によっては、実質的な量のAsを用いないで、すなわち、完成されたガラスが多くとも0.05モル%のAsしか含まないように清澄化が実施される。一つの態様においては、ガラスの清澄化にAsが意図的には用いられない。そのような場合、バッチ材料内および/またはバッチ材料を溶融するのに用いられる機器内に汚染物質が存在する結果として、完成されたガラスは一般に、Asは多くとも0.005モル%しか含まないであろう。
【0042】
As程には毒性はないとしても、Sbもまた有毒であり、特別な取扱いを必要とする。これに加えて、Sbは、清澄剤としてAsまたはSnOを用いたガラスに比較して、密度を高め、CTEを高め、そして歪み点を低下させる。したがって、態様によっては、実質的な量のSbを用いないで清澄化が実施され、すなわち、完成したガラスがSbを多くとも0.05モル%しか含まれない。別の態様においては、ガラスの清澄化にSbが意図的には用いられない。そのような場合、バッチ材料内および/またはバッチ材料を溶融するのに用いられる機器内に汚染物質が存在している結果として、完成されたガラスには一般に、多くとも0.005モル%のSbが含まれているであろう。
【0043】
AsおよびSbによる清澄化に比較して錫による清澄化(すなわちSnOによる清澄化)は効果が薄いが、SnOは有害でない特性が知られている遍く存在する材料である。また、長年の間、このようなガラスのためのバッチ材料のジュール溶融における酸化錫電極の使用を通じて、SnOはAMLCDガラスの成分であった。AMLCDガラス中のSnOの存在が、液晶ガラスの製造においてこれらのガラスを使用することに不都合が生じる結果にはなっていない。しかしながら、高濃度のSnOは、AMLCDガラスに結晶欠陥を形成するおそれがあるので好ましくない。一つの態様において、完成されたガラス中のSnOの濃度は0.2モル%以下である。
【0044】
錫による清澄化は、単独で、例えば、または必要に応じて他の清澄化技術と組み合わされて用いることができる。例えば、錫による清澄化は、ハロゲン化物による清澄化、例えば臭化物による清澄化と組み合わせることができる。他の可能な組合せは、錫による清澄化+硫酸塩、硫化物、酸化セリウム、機械的バブリング、および/または真空による清澄化を含むが、これらに限定されない。これらの他の清澄化技術を単独に用いることもできると考えられる。態様によっては、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)比および個々のアルカリ土類およびLa濃度を上述した範囲内に保つことは、清澄化工程の実施をより容易にかつより効果的にする。
【0045】
b.コア
コアガラス組成の選択は、使用される表皮ガラスおよび積層されたガラス物品の最終的用途に左右される。一つの態様において、開示された組成は100,000ポアズ(10,000Pa・s)よりも高い液相線粘度を有する。例えば、100000,200000,250000,300000,350000,400000,450000,500000,550000,600000,650000,700000,750000,800000、900000,1000000,2000000,3000000または4000000ポアズ(10000,20000,25000,30000,35000,40000,45000,50000,55000,60000,65000,70000,75000,80000、90000,100000,200000,300000または400000Pa・s)を超える液相線粘度を組成物が有することができ、ここで、いずれの表示数値も、適切な場合に上限または下限を形成することができる。液相線粘度は、上述した技術を用いて決定することができる。
【0046】
ガラス組成に関する記載内容が引例として本明細書に組み入れられる米国特許第5,374,595号および6,319,867号明細書に開示されたガラス組成の何れも、コアガラス組成としてここで用いることができる。一つの態様において、コアガラス組成は、0〜300℃の温度範囲に亘って、32〜46×10−7/℃の線膨張係数と、650℃よりも高い歪み点と、1200℃以下の液相線温度と、200,000ポアズ(20,000Pa・s)よりも高い液相線粘度と、95℃における5%重量塩酸溶液中に24時間漬けた後の2mg/cm未満の重量損失と、溶融および形成温度における失透に対する長期間の安定性と、1675℃未満における200ポアズ(20Pa・s)の溶融粘度とを有し、これらのガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含まず、酸化物に基づいたモル%で表現して、SiO(64〜70)、Y(0〜3)、Al(9.5〜14)、MgO(0〜5)、B(5〜10)、CaO(3〜13)、TiO(0〜5)、SrO(0〜5.5)、Ta(0〜5)、BaO〈2〜7〉、Nb(0〜5)からなり、ここでMgO+CaO+SrO+BaOが10〜20である。別の態様においては、コアガラスの組成が、2.45gm/cm未満の密度と、200,000ポアズ(20,000Pa・s)よりも高い液相線粘度と、650℃を超える歪み点とを示し、かつ酸化物に基づくモル%で表現して、以下の組成:65〜75%のSiO、7〜13%のAl、5〜15%のB、0〜3%のMgO、5〜15%のCaO、0〜5%のSrOを有し、BaOを実質的に含まない。
【0047】
コアとして有用な適当なLCDガラスは、それらの記載内容の全てが引例として本明細書に組み入れられる米国特許第5,374,594号、第5,374,594号、第6,060,168号および第6,319,867号明細書、ならびに米国特許出願公開第2002−0082158号、第2005−0084440号および第2005−0001201号明細書に開示されたものを含むが、これらに限定されない。さらなる態様において、コアガラス組成物は、コーニング社の1737番ガラスまたはEAGLE2000(商標)である。
【0048】
c.積層されたガラス物品
一つの態様において、開示されたガラス物品は、0℃から300℃の温度範囲に亘って40×10−7/℃未満の熱膨張係数を有することができる。別の態様において、この物品は、0℃から300℃の温度範囲に亘って28×10−7/℃から40×10−7/℃間での熱膨張係数を有する。実施例によっては、28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39または40×10−7/℃の熱膨張係数を有することができ、ここで、いずれの表示数値も、適切な場合に上限または下限を形成することができる。別の態様において、上記表皮は、±0.1,±0.2,±0.3,±0.4,±0.5,±0.6,±0.7,±0.8,±0.9,または±1×10−7/℃の熱膨張係数を有する。
【0049】
態様によっては、このガラス物品が液晶ディスプレー(LCD)に用いられた場合に、積層されたガラス物品の熱的安定性は興味がある。液晶ディスプレーは一般に、液晶材料からなる薄膜を封入した2枚の平坦なガラスから構成されている。ガラス上の透明薄膜電極が液晶材料の光透過特性を変調し、これにより画像を形成する。ダイオードまたは薄膜トランジスタ(TFT)のような能動素子を各画素に組み込むことによって、高解像度ビデオディスプレーに対する高いコントラストおよび応答速度が達成される。通常、アクティブマトリクスLCD(AMLCD)と呼ばれるこのようなフラットパネルディスプレーは、ノートパソコンおよび携帯用テレビのような高性能ディスプレーに関する有力な技術になって来ている。
【0050】
現在、大半のAMLCDは、最高処理温度が450℃の非晶質シリコン(a−si)を利用している。それでもなお、多結晶シリコン(poly−Si)の使用は、a−Siを上回る利点があることが長い間認識されてきた。poly−Siは、より高い駆動電流および電子易動度を有し、これにより、TFTサイズの縮小と、同時に画素の応答速度の増大とを可能にする。poly−Siはまた、ディスプレーの駆動回路をガラス基板上に直接形成する(オンボード・ロジック)ことができる。このような集積化は、コストを著しく低減し、かつ信頼性を向上させ、より小型のパッケージを可能にする。これに対して、a−Siは、フィルムキャリア・ボンディングのような集積回路パッケージング技術を用いて、ディスクリート・ドライバチップをディスプレーの周縁に取り付けなければならない。
【0051】
従来、poly−Siは、化学気相成長(CVD)法を用いて非晶質シリコンをガラス上に堆積させ、次いでa−Siをpoly−Siに結晶化することによって作製される。poly−Siの作製には多くの方法があり、600℃までの処理温度を用いる低温poly−Si法と、900℃あたりの高い温度を用いる高温poly−Si法との2種類に分類される。
【0052】
上記低温poly−Si法の多くは、a−Siを処理してpoly−Siにすることが可能な特別の技術を用いる必要がある。このような技術の一つにレーザー再結晶法があり、この方法では、基板が400℃の温度に保持され、Si層の局部的溶融および再結晶化にエキシマー・レーザーが用いられる。低温poly−Si TFTは、非晶質シリコンを熱的に結晶化する(最高温度600℃)ことによっても作製することができる。イオン注入のような他の処理工程も、高められた温度における処理に含まれる。これらの高められた温度における何れの処理工程も、圧縮が問題になる可能性がある。
【0053】
TFTの製造には多重フォトリソグラフィー工程が必要なために、基板における如何なる非可逆的寸法変化(収縮および膨張)も順次の露光工程の間のパターンの位置ずれを生じさせる可能性がある。ディスプレーの処理中の基板の許容される圧縮は、回路設計の性質およびディスプレーのサイズに左右され、AMLCDに関しては、圧縮は、画素の大きさに対してディスプレーの最大寸法分の一よりも大きくてはならない。熱圧縮または熱的安定性は変動してもよく、任意の顧客の熱サイクルの点まで変動してもよい。一つの態様において、上記表皮は、上記コアの熱的安定性および圧縮よりも大きい熱的安定性および圧縮を有する(圧縮はより少ない)。別の態様において、このガラス物品は、20ppmよりも少ない、18ppmよりも少ない、16ppmよりも少ない、14ppmよりも少ない、12ppmよりも少ない、10ppmよりも少ない、8ppmよりも少ない、6ppmよりも少ない、または4ppmよりも少ない熱的安定性または圧縮を有する。
【0054】
態様によっては、透明なガラス物品を持つことが望ましい。一つの態様において、開示されたガラス物品は、400〜800nmにおいて90%を超える透明性を有する。
【0055】
上記表皮の厚さは、ガラス物品の最終用途によって左右される。一つの態様において、上記表皮は0.1mm,0.2mm,0.3mm,0.4mm,0.5mm,0.6mm,0.7mm,0.8mm,0.9mm1.0mmまたは1.1mmの厚さを有し、何れの数値も適当な範囲の端点である。一つの態様において、上記表皮はアルカリを含まず、ここではガラスのアルカリ金属含有量が1重量%未満であると定義される。コアも同様にアルカリを含まないことが予測されるが、ガラス物品の最終用途に応じてアルカリ金属を含んでいてもよい。
【0056】
一つの態様において、上記表皮は、740℃よりも高い歪み点および勾配ボート法によって測定された35,000〜50,000ポアズ(3,500〜5,000Pa・s)の液相線粘度を有し、上記コアは、勾配ボート法によって測定された350,000ポアズ(35,000Pa・s)の液相線粘度を有し、上記ガラス物品は、0℃〜300℃の温度範囲に亘って28×10−7/℃〜40×10−7/℃の熱膨張係数を備え、上記表皮は、コアの熱膨張係数に対して±1×10−7/℃の熱膨張係数を有する。
【0057】
一般に、ここに記載されているガラス物品は、電子的用途に用いることができる。例えば、ここに記載されているガラス物品は、フラットスクリーン・ディスプレーパネルの製造に用いることができる。一つの態様において、このガラス物品は、有機発光ダイオードとしてまたは薄膜トランジスタのための基板として使用可能である。別の態様において、ここに記載されているガラス物品は液晶ディスプレーに使用可能である。液晶ディスプレー(LCD)は、照明のための外部光源に依存するパッシブ型フラットパネルディスプレーである。液晶ディスプレーの製造については上述されている。
【0058】
2.ガラス物品の作製方法
一つの態様において、ここに開示されているのは、積層されたガラス物品の調製方法である。一つの態様において、この方法は、ガラスコアの少なくとも1面にフュージョン・ドローイングによって、650℃よりも高い歪み点を有する表皮を施すことを含む。態様によっては、上記表皮は、コアの露出された表面にフュージョン法によって施されることが可能である。適当なフュージョン法は、その内容の全体が引例として本明細書に組み入れられる米国特許第4,214,886号に開示されている。この方法は、下記のように概説することができる。異なる組成を有する少なくとも2種類のガラス(例えばコアガラスシートおよび表皮)が別個に溶融される。これらのガラスのそれぞれは、適当な送給システムを通じてオーバーフロー分配器に送給される。二つの分配器は、上下に取り付けられているので、各分配器からのガラス流は分配器のエッジ部分の頂面を乗り越えて、少なくとも一方の側面を流下し、分配器のエッジ部分の下方の一方の側面または両側面上で適当な厚さの流れの層を形成する。
【0059】
下方の分配器は、くさび状の成形部材を有し、この成形部材は、上端が上方の分配器の両側面に連接し、かつ牽引ラインで収斂する下端において終端する、収斂する側壁部分を有する。下方の分配器をオーバーフローした溶融ガラスは、この分配器の両側面に沿って流下し、上記成形部材の収斂する両外側面に近接した最初のガラス層を形成し、一方、上方の分配器をオーバーフローした溶融ガラスは、上方の分配器の両側面に沿って流下し、最初のガラス層の外面上を流れる。上記成形部材の収斂する各側面からの個々の二つのガラス層は合流し、上記牽引ラインにおいて融合して、連続的に積層された1枚のガラスシートを形成する。積層された2種類のガラスの中心のガラスはコアガラスと呼ばれ、一方、コアガラスの外表面を流下したガラスは表皮ガラスと呼ばれる。3種類またはそれ以上のガラスが用いられる場合には、コアガラスと表皮ガラスの中間に形成されたガラスは、中心ガラスまたは埋め込まれたガラスとして知られている。中心ガラスまたは埋め込まれたガラスが用いられる場合には、表皮ガラスは、中心ガラスまたは埋め込まれたガラスによってコアガラスに「結合」される。これとは逆に、1枚の表皮ガラスがコアガラスに直接的に融合されている場合には、表皮ガラスがコアガラスに「隣接」している。
【0060】
オーバーフロー分配器を用いる方法は、形成された板ガラスに対し火造り表面を与え、かつコントロールされた分配器によって提供された一様に分布されたガラスの厚さが、光学的に卓越した特性をガラスシートに与える。
【0061】
ここに開示された方法に使用可能な別のフュージョン法が、それらの内容全体が引例として本明細書に組み入れられる米国特許第3,338,696号、第3,682,609号、第4,102,664号、第4,880,453号明細書および米国特許出願公開第2005−0001201号明細書に記載されている。
【0062】
一つの態様において、このガラス物品は、第1および第2の露出された表面を有するガラスのシート(コア)であり、これら第1および第2の表面の双方に表皮が隣接している。ガラスシートコアの第1および第2の露出された表面上に表皮を接触させることは、いくつかの効果がある。例えば、ディスプレー製造時において、ガラスシ−トを効果的により厚くすることができ、取扱いによるサグおよび破損に関する懸念を減少させる。このことは、ディスプレーの製造に、より薄く軽いガラスを使用することを可能にする。さらに、表皮の組成に応じて、他方の表面は保護用に表皮を残しておいて、一方の表面(例えば、ディスプレーの製造においてTFTを受容する面)から表皮が除かれることを可能にする。
【実施例】
【0063】
下記の実施例は、開示された対象である方法および成果を説明するものである。これらの実施例は、ここに開示された対象の全ての態様を含ませることを意図するものではなくて、代表的な方法および成果を説明するものである。これらの実施例は、本発明の、当業者には明らかな均等物および変形の除外を意図するものではない。
【0064】
数値(例えば、量、温度等)に関しては正確を期したが、若干の誤謬および誤差はあるかも知れない。特に指示がない限り、部は重量部であり、温度は℃または室温においてであり、圧力は大気圧またはその近辺である。説明された方法から得られる製品の純度および産出量を最適化する反応条件、例えば、成分濃度、温度、圧力およびその他の反応範囲および条件には、多くの変形および組合せがある。妥当なかつ日常的な実験のみが、このような処理条件を最適化するのには必要である。
【0065】
実施例1
図1はダブル・フュージョン法の断面図を示す。図1を参照すると、1は従来から用いられているフュージョンパイプを示し、このフュージョンパイプ1の頂部のトラフ領域3を満たしているコアガラス2がフュージョンパイプの両側の堰9をオーバーフローして両側面を流下し、フュージョンパイプの底部4において合流してシートになる。ダブル・フュージョン法においては、従来のフュージョンパイプ1の上方に上部フュージョンパイプ5が配置されている。この上部フュージョンパイプ5も、積層シートの表皮となるガラス7で満たされたトラフ領域6を備えている。このガラス7は上部フュージョンパイプ5の両側の堰をオーバーフローして両側面およびコアガラスの表面上を流下する。表皮ガラス用フュージョンパイプの底部8における表皮ガラスは、堰の位置におけるコアガラスに類似した温度および粘度において動作する。もしコアガラスが「EAGLE2000」(商標)の場合には、表皮ガラス用フュージョンパイプの底部は約240℃および40,000ポアズ(4,000Pa・s)である。
【0066】
低圧縮積層シートの一例として、コアガラスが「EAGLE2000」(商標)であるガラス組成物が積層シートに用いられる。このガラスは、31.8×10−7/℃のCTE(0〜300℃)と、900,000ポアズ(90,000Pa・s)におけるフュージョン法に適した液相線粘度(勾配ボート法で測定された)と、666℃の歪み点とを有する。450℃、6時間の熱サイクルにおいて、「EAGLE2000」(商標)ガラス(厚さ0.7mm、600ポンド/時(27kg/時において牽引))は約35ppm の圧縮を示した。「EAGLE2000」(商標)ガラスのための堰温度は1240℃の範囲内である。
【0067】
「EAGLE2000」(商標)ガラスのための低圧縮ガラスの一例が、下記に重量%で示されている。すなわち、
SiO 62.2
Al 18.1
10.2
MgO 0.12
CaO 7.63
SrO 0.76
As 1.02。
【0068】
このガラスは、1240℃の液相線温度または35,000ポアズ(3,500Pa・s)、31.1×10−7/℃のCTEおよび681℃の歪み点を有することが予測される。この形式の歪み点の上昇がどの程度の圧縮の減少を伴うか正確には不明であるが、もし圧縮応答が表皮ガラスによってコントロールされたとすると、圧縮モデルが25%の減少を示す結果となることが妥当である。実際に実行した場合に、積層されたシートの圧縮は、それぞれの層の厚さおよびその他の要因に左右される実際の値のために幾分かは少ないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】積層されたガラス物品を作製するためのダブル・フュージョン工程の断面図
【符号の説明】
【0070】
1 フュージョンパイプ
2 コアガラス
3 トラフ領域
4,8 底部
5 上部フュージョンパイプ
6 トラフ領域
7 ガラス
9 フュージョンパイプの堰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも一つの表面を備えたガラスコアおよび(2)ガラス表皮を有し、該表皮が、前記コアの前記表面に結合され、前記表皮が650℃よりも高い歪み点を有するガラス組成物からなることを特徴とするガラス物品。
【請求項2】
前記表皮が、前記コアに隣接していることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項3】
前記表皮が、700℃よりも高い歪み点を有するガラスからなることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項4】
前記表皮が、勾配ボート法で測定して20,000から50,000ポアズ(2,000から5,000Pa・s)までの液相線粘度を有するガラスからなることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項5】
前記表皮が、勾配ボート法で測定して100,000ポアズ(10,000Pa・s)よりも高い液相線粘度を有するガラスからなることを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項6】
前記表皮は、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 64.0〜72.0
1.0〜5.0
Al 9.0〜16.0
MgO+La 1.0〜7.5
CaO 2.0〜7.5
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜7.0
の組成を有する無アルカリガラスからなり、
ここで、
(a)1.15≦Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)≦1.55であり、Al,MgO,CaO,SrO,BaOおよびLaは表記酸化物成分のモル%を表し、
(b)前記ガラスは、700℃以上の歪み点を有し、
(c)前記ガラスは、200ポアズ(20Pa・s)の粘度において1,665℃以下の温度を有し、
(d)前記ガラスは、液相線温度において85,000ポアズ(8,500Pa・s)以上の粘度を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項7】
前記表皮は、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 65.0〜71.0
Al 9.0〜16.0
1.0〜4.0
MgO+La 0.5〜7.5
CaO 2.0〜6.0
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜7.0
La 0.0〜4.0
の組成を有する無アルカリガラスからなり、ここで、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO+3La)/(Al)≧1.2であり、Al,MgO,CaO,SrO,BaOおよびLaは表記酸化物成分のモル%を表すことを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項8】
前記物品が20ppm 未満の熱圧縮を有することを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項9】
前記表皮は、酸化物に基づくモルパーセントで、
SiO 65.0〜72.0
Al 10.0〜15.0
1.0〜4.0
MgO 2.0〜7.5
CaO 3.0〜6.0
SrO 0.0〜4.5
BaO 1.0〜6.0
の組成を有する無アルカリからなり、ここで、Σ(MgO+CaO+SrO+BaO)/(Al)≧1.15であり、Al,MgO,CaO,SrO,およびBaOは表記酸化物成分のモル%を表すことを特徴とする請求項1記載の物品。
【請求項10】
ガラスコアの少なくとも一つの露出された表面に、フュージョン・ドロー法により表皮を施すことを含むガラス物品の製造方法であって、前記表皮が650℃よりも高い歪み点を有することを特徴とする方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2009−525941(P2009−525941A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554388(P2008−554388)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/003563
【国際公開番号】WO2007/095114
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】