説明

積層インダクタ

【課題】サイズが小型化しても高いL値と強度とを両立する積層インダクタの提供。
【解決手段】内部導線形成領域10、20ならびに内部導線形成領域を上下から挟むように形成された上部カバー領域30及び下部カバー領域40を有し、内部導線形成領域は、軟磁性合金粒子11が成形されてなる磁性体部10と磁性体部10内に埋め込まれるように設けられた導体からなる螺旋状の内部導線30とを有し、上部カバー領域30及び下部カバー領域40の少なくとも一方(好ましくは両方)は、内部導線形成領域における磁性体部10の軟磁性合金粒子11と構成元素の種類が同じであって平均粒子径がより大きい軟磁性合金粒子で成形されてなるものである、積層インダクタ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層インダクタの製造方法の一つとして、フェライト等を含有するセラミックグリーンシートに内部導体パターンを印刷し、これらのシートを積層し、焼成する方法が知られている。
【0003】
特許文献1によれば、フェライト粉を用いて得られたセラミックグリーンシートにおける所定の位置にスルーホールを形成する。次いで、スルーホールを形成したシートの一方の主面に、積層してスルーホール接続することによってらせん状のコイルが構成されるコイル導体パターン(内部導体パターン)を、導電ペーストにより印刷する。
【0004】
次に、上記スルーホールおよびコイル導体パターンが形成されたシートを所定の構成で積層し、その上下にスルーホールおよびコイル導体パターンが形成されていないセラミックグリーンシート(ダミーシート)を積層する。次いで、得られた積層体を圧着した後焼成し、コイル末端が導出している端面に外部電極を形成することで積層インダクタが得られる。ここで、ダミーシートに透磁率の高い材料を用いることにより、高いL値を得ることができる。
【0005】
近年、積層インダクタには大電流化(定格電流の高値化を意味する)が求められており、該要求を満足するために、磁性体の材質を従前のフェライトから軟磁性合金に切り替えることが検討されている。軟磁性合金として提案されるFe−Cr−Si合金やFe−Al−Si合金は、材料自体の飽和磁束密度がフェライトに比べて高い。その反面、材料自体の体積抵抗率が従前のフェライトに比べて格段に低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−241942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような積層インダクタにおいて、コイル等の導体パターンが形成されている領域を内部導線形成領域と呼ぶことができ、内部導線形成領域の上下に積層したダミーシートを熱処理してなる領域を上部カバー領域および下部カバー領域と呼ぶことができる。フェライトを用いる従来技術において、内部導線形成領域では導体材料との相性その他の理由から磁性体として用いる材料が制限されることがあり、デバイス全体としてより高いL値を得るために、比較的に材料選択の自由度の高い上部及び下部カバー領域の材料として透磁率の高い物質を用いることが試みられている。しかしながら、フェライトを用いる積層インダクタにおいては、透磁率の異なる物質を用いた場合、組成の異なる材料同士が接合することになる。そのため、互いの材料の成分の拡散が起こり、特性の劣化が発生することがあった。
【0008】
軟磁性合金を用いる積層インダクタにおいても、上部及び下部カバー領域の材料として内部導線形成領域のものとは異なる物質を用いることを本発明者らは試行した。軟磁性合金を用いる積層インダクタにおいては、フェライトを用いる積層インダクタのような、成分の相互拡散による特性劣化の発生はない。しかし、試行結果によれば、軟磁性合金を用いる積層インダクタにおいては、異なる物質を用いた場合、内部導線形成領域と上部及び下部カバー領域との接合が悪いことが初めて判明した。このことは、フェライトを用いる積層インダクタでは顕在化しなかった課題である。また、近時のデバイスの小型化にともない、積層インダクタ内の内部導線は細くなりがちであり、内部導線がショートしたり断線したりしにくい設計を考慮する必要がある。
【0009】
これらのことを考慮し、本発明は軟磁性合金を磁性材料として用い、透磁率を高めて、高いL値を呈し、デバイスの小型化にも対応できる積層インダクタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、内部導線形成領域ならびに前記内部導線形成領域を上下から挟むように形成された上部カバー領域及び下部カバー領域を有する積層インダクタの発明を完成した。本発明によれば、前記内部導線形成領域は、軟磁性合金粒子が成形されてなる磁性体部と前記磁性体部内に埋め込まれるように設けられた内部導線とを有する。そして、前記上部カバー領域及び前記下部カバー領域の少なくとも一方、好ましくは両方は、前記内部導線形成領域における前記磁性体部の軟磁性合金粒子と構成元素の種類が同じであって平均粒子径がより大きい軟磁性合金粒子で形成される。
本発明の好適態様によれば、前記内部導線形成領域の前記磁性体部、前記上部カバー領域および前記下部カバー領域の軟磁性合金粒子がいずれもFe−Cr−Si系軟磁性合金からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カバー領域には粒子径の大きな軟磁性合金粒子を用いるので、デバイス全体の透磁率が向上し、結果としてインダクタとしてのL値も向上する。内部導線形成領域の磁性体部には粒子径の小さな軟磁性合金粒子を用いることによって、内部導線のショート・断線が生じにくく、結果としてデバイスの小型化に対応し得る。上部及び下部カバー領域のための軟磁性合金粒子と内部導線形成領域の磁性体部のための軟磁性合金粒子とを同一組成又は近似する組成の軟磁性合金で構成することができ、上部及び下部カバー領域と内部導線形成領域との接合性が向上し、デバイス全体としての強度向上に寄与する。
本発明の好適態様によれば、軟磁性合金としてFe−Cr−Si系合金を用いることにより、高密度で上部及び下部カバー領域、ならびに内部導線形成領域の磁性体部を構成することができ、結果として、積層インダクタ全体の強度が向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】積層インダクタの模式断面図である。
【図2】積層インダクタの模式的な分解図である。
【図3】3点曲げ破断応力の測定の模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0014】
図1(A)は積層インダクタの模式的な断面図である。図1(B)は図1(A)の部分拡大図である。本発明によれば、積層インダクタ1は内部導線形成領域10、20と、当該領域10、20を上下から挟むように存在する上部及び下部カバー領域30、40とを有する。内部導線形成領域は磁性体部10とそこに埋め込まれるように設けられた内部導線20とを有する。上部カバー領域30及び下部カバー領域40には内部導線が埋め込まれておらず、実質的には磁性体層からなる。本発明において、「上下」という語は、上から順に、一方のカバー層(上部カバー層)30、内部導線形成領域10、20、他方のカバー層(下部カバー層)40が積層される方向をあらわす。「上下」という語は、積層インダクタ1の使用態様や製造方法を限定するものではない。2つのカバー層30、40の構成に区別がなければ、どちらを上であると認識するかは任意である。
【0015】
本発明の対象である積層インダクタ1は、内部導線20の大部分が磁性材料(磁性体部10)の中に埋没している構造を有する。典型的には、内部導線20は螺旋状に形成されたコイルであり、この場合は、ほぼ環状あるいは半環状などの導体パターンを、スクリーン印刷法などによってグリーンシート上に印刷し、スルーホールに導体を充填して、前記シートを積層することにより形成することができる。導体パターンが印刷されるグリーンシートは、磁性材料を含有し、所定の位置にスルーホールが設けられている。なお、内部導線としては、図示された螺旋状のコイルの他、渦巻き状のコイル、ミアンダ(蛇行)状の導線、あるいは直線状の導線等が挙げられる。
【0016】
図1(B)は、内部導線形成領域の磁性体部10と上部カバー領域30との境界付近の模式的な拡大図である。積層インダクタ1では、軟磁性合金粒子11が多数集積して所定形状の磁性体部10を構成している。同様に、軟磁性合金粒子31が多数集積して所定形状の上部カバー領域30を構成している。図1(B)には表現されていないが、下部カバー領域40についても同様である。個々の軟磁性合金粒子11、31はその周囲の概ね全体にわたって酸化被膜が形成されていて、この酸化被膜により磁性体部10、上部及び下部カバー領域30、40の絶縁性が確保される。好ましくはこの酸化被膜は軟磁性合金粒子11、31自身の表面とその近傍が酸化してなるものである。図面では、酸化被膜の描写を省略している。隣接する軟磁性合金粒子11、31どうしは、概ね、それぞれの軟磁性合金粒子11、31がもつ酸化被膜どうしが結合することにより、一定の形状を有する磁性体部10、上部及び下部カバー領域30、40を構成している。部分的には、隣接する軟磁性合金粒子11、31の金属部分どうしが結合していてもよい。また、内部導線20の近傍では、主に上記酸化被膜を介して、軟磁性合金粒子11と内部導線20とが密着している。軟磁性合金粒子11、31がFe−M−Si系合金(但し、Mは鉄より酸化し易い金属である。)からなる場合、酸化被膜には、磁性体であるFe34と、非磁性体であるFe23及びMO(xは金属Mの酸化数に応じて決まる値である。)を少なくとも含むことが確認されている。
【0017】
上述の酸化被膜どうしの結合の存在は、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する軟磁性合金粒子11、31が有する酸化被膜が同一相であることを視認することなどで、明確に判断することができる。酸化被膜どうしの結合の存在により、積層インダクタ1における機械的強度と絶縁性の向上が図られる。積層インダクタ1の全体にわたって、隣接する軟磁性合金粒子11、31が有する酸化被膜どうしが結合していることが好ましいが、一部でも結合していれば、相応の機械的強度と絶縁性の向上が図られ、そのような形態も本発明の一態様であるといえる。
【0018】
同様に、上述の軟磁性合金粒子11、31の金属部分どうしの結合についても、例えば、約3000倍に拡大したSEM観察像などにおいて、隣接する軟磁性合金粒子11、31どうしが同一相を保ちつつ結合点を有することを視認することなどにより、結合の存在を明確に判断することができる。軟磁性合金粒子11、31どうしの結合の存在により透磁率のさらなる向上が図られる。
【0019】
なお、隣接する軟磁性合金粒子が、酸化被膜どうしの結合も、金属粒子どうしの結合もいずれも存在せず単に物理的に接触又は接近するに過ぎない形態が部分的にあってもよい。
【0020】
積層インダクタ1における内部導線形成領域では、磁性体部10と、磁性体部10内に埋め込まれるように設けられた螺旋状のコイルなどの形態を有する内部導線20とが存在する。内部導線20を構成する導体は積層インダクタにおいて通常使用される金属を適宜用いることができ、銀や銀合金などを非限定的に例示することができる。内部導線20の両端は、典型的には、それぞれ引出導体(図示せず)を介して積層インダクタ1の外表面の相対向する端面に引き出され、外部端子(図示せず)に接続される。
【0021】
本発明によれば、上部カバー領域30および下部カバー領域40が内部導線形成領域10、20を挟むように存在する。上部カバー領域30および下部カバー領域40は内部導線の形成が無い層からなる領域である。内部導線形成領域の磁性体部10に用いられる軟磁性合金粒子11の平均粒子径よりも、上部カバー領域30および下部カバー領域40の少なくとも一方において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径の方が大きい。好ましくは、上部カバー領域30において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径および下部カバー領域40において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径がいずれも、上記磁性体部10に用いられる軟磁性合金粒子11の平均粒子径よりも大きい。また、上記磁性体部10に用いられる軟磁性合金粒子11と、上部カバー領域30および下部カバー領域40の少なくとも一方、好ましくは両方、における軟磁性合金粒子とは、同組成あるいは近似した組成である。好ましくは、軟磁性合金粒子の構成元素の種類が上部カバー領域30および下部カバー領域40の少なくとも一方と、内部導線形成領域の磁性体部10とで同一であり、より好ましくは、軟磁性合金粒子の構成元素の種類及び存在比率が上部カバー領域30および下部カバー領域40の少なくとも一方と、内部導線形成領域の磁性体部10とで同一である。軟磁性合金粒子の構成元素の種類が上部カバー領域30および下部カバー領域40の一方または両方と、内部導線形成領域の磁性体部10とで同一であって、かつ、軟磁性合金粒子の構成元素の存在比率が上部カバー領域30および下部カバー領域40の一方または両方と、内部導線形成領域の磁性体部10とで異なっていてもよい。構成元素の種類が同一であることは以下の例示により説明される。例えば、FeとCrとSiとの三元素からなる二種類の軟磁性合金(Fe−Cr−Si系軟磁性合金)が存在すれば、FeとCrとSiとの存在比率を問わずに、これらについては構成元素の種類は同一であると評価することができる。
【0022】
好適には、上部カバー領域30および下部カバー領域40の少なくとも一方において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径は、上記磁性体部10に用いられる軟磁性合金粒子11の平均粒子径の1.3倍以上であり、より好ましくは1.5〜7.0倍である。さらに好ましくは、上部カバー領域30において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径および下部カバー領域40において用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径が両方とも、上記磁性体部10に用いられる軟磁性合金粒子11の平均粒子径に対して上記数値範囲内にある。
【0023】
上記の構成により、上部および下部の少なくとも一方のカバー領域30、40は大きな軟磁性合金粒子から構成されることになり、結果として、透磁率の向上を図ることができる。本発明によれば、内部導線形成領域の磁性体部10では小さな軟磁性合金粒子を用いることができる。このためデバイスが小型化して内部導線20の導線が細くなっても断線しにくくなる。結果として、デバイスの小型化と透磁率向上とを両立することができる。特に、上記磁性体部10と、カバー領域30、40とが同組成あるいは近似した組成からなる軟磁性合金粒子で構成されていれば、カバー領域30、40と内部導線形成領域の磁性体部10との接合性が良好である。図1(A)では、上部カバー領域30と内部導線形成領域の磁性体部10との界面が材質的に明瞭に区分けされているように描写されているが、実際には、部分拡大図である図1(B)のように、接合界面付近では、上部カバー領域30のための軟磁性合金粒子31と、内部導線形成領域の磁性体部10のための軟磁性合金粒子11とが入り混じっていてもよい。下部カバー領域40と内部導線形成領域の磁性体部10との接合界面付近でも同様である。
【0024】
上記磁性体部10およびカバー領域30、40で用いられる軟磁性合金粒子の平均粒子径は、SEM像を取得して画像解析に供して得られるd50値である。具体的には、上記磁性体部10およびカバー領域30、40の断面のSEM像(約3000倍)を取得し、測定部分における平均的な大きさの粒子を300個以上選び出して、それらのSEM像における面積を測定し、粒子が球体であると仮定して平均粒子径を算出する。粒子を選び出す方法としては、例えば次のような方法が挙げられる。前記のSEM像内に存在する粒子が300個未満の場合は、該SEM像内の粒子をすべてサンプリングし、これを複数個所行って300個以上選び出す。前記のSEM像内に300個以上粒子が存在する場合は、該SEM像内に所定間隔で直線を引いて、その直線上にかかった粒子を全部サンプリングして、300個以上選び出す。あるいは、内部導線形成領域の粒子については、内部導線に接触している粒子を300個以上サンプリングし、カバー領域の粒子については、最も外側にある粒子を300個以上サンプリングする。なお、軟磁性合金粒子を用いる積層インダクタにおいては、原料粒子の粒子径と、熱処理後の上記磁性体部10およびカバー領域30、40を構成する軟磁性合金粒子の粒子径とはほぼ同じであることが知られている。このため、原料として用いる軟磁性合金粒子の平均粒子径を測定しておくことで、積層インダクタ1に含まれる軟磁性合金粒子の平均粒子径を想定することも可能である。
【0025】
以下、本発明に係る積層インダクタ1の典型的な製造方法を説明する。積層インダクタ1の製造にあたっては、まず、ドクターブレードやダイコータ等の塗工機を用いて、予め用意した磁性体ペースト(スラリー)を、樹脂等からなるベースフィルムの表面に塗工する。これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥してグリーンシートを得る。上記磁性体ペーストは、軟磁性合金粒子と、典型的には、バインダとしての高分子樹脂と、溶剤とを含む。
【0026】
軟磁性合金粒子は、主として合金からなる軟磁性を呈する粒子である。合金の種類としては、Fe−M−Si系合金(但し、Mは鉄より酸化し易い金属である。)が挙げられる。Mとしては、Cr、Alなどが挙げられ、好ましくはCrである。軟磁性合金粒子1、2としては、例えばアトマイズ法で製造される粒子が挙げられる。
【0027】
MがCrである場合、つまり、Fe−Cr−Si系合金におけるクロムの含有率は、好ましくは2〜8wt%である。クロムの存在は、熱処理時に不動態を形成して過剰な酸化を抑制するとともに強度および絶縁抵抗を発現する点で好ましく、一方、磁気特性の向上の観点からはクロムが少ないことが好ましく、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0028】
Fe−Cr−Si系軟磁性合金におけるSiの含有率は、好ましくは1.5〜7wt%である。Siの含有量が多ければ高抵抗・高透磁率という点で好ましく、Siの含有量が少なければ成形性が良好であり、これらを勘案して上記好適範囲が提案される。
【0029】
Fe−Cr−Si系合金において、SiおよびCr以外の残部は不可避不純物を除いて、鉄であることが好ましい。Fe、SiおよびCr以外に含まれていてもよい金属としては、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅などが挙げられ、非金属としてはリン、硫黄、カーボンなどが挙げられる。
【0030】
積層インダクタ1における各々の軟磁性合金粒子を構成する合金については、例えば、積層インダクタ1の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影して、その後、エネルギー分散型X線分析(EDS)によるZAF法で化学組成を算出することができる。
【0031】
本発明によれば、内部導線形成領域の磁性体部10のための磁性体ペースト(スラリー)と、上部及び下部カバー領域30、40のための磁性体ペースト(スラリー)をそれぞれ別に製造することが好ましい。内部導線形成領域の磁性体部10のための磁性体ペースト(スラリー)の製造には比較的に小さな軟磁性合金粒子を用い、上部及び下部カバー領域30、40のための磁性体ペースト(スラリー)の製造には比較的に大きな軟磁性合金粒子を用いる。
【0032】
内部導線形成領域の磁性体部10のための原料として用いる軟磁性合金粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは2〜20μmであり、より好ましくは3〜10μmである。上部及び下部カバー領域30、40のための原料として用いる軟磁性合金粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは5〜30μmであり、より好ましくは6〜20μmである。軟磁性合金粒子のd50は、レーザ回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定される。軟磁性合金粒子を用いる積層インダクタ10においては、原料粒子としての軟磁性合金粒子の粒子サイズは、積層インダクタ10の磁性体部12を構成する軟磁性合金粒子1、2の粒子サイズと概ね等しいことが分かっている。
【0033】
上述の磁性体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。磁性体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。磁性体ペーストにおける軟磁性合金粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、磁性体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0034】
磁性体ペーストを塗工および乾燥してグリーンシートを得るための具体的な方法は従来技術を適宜援用することができる。
【0035】
次いで、打ち抜き加工機やレーザ加工機等の穿孔機を用いて、グリーンシートに穿孔を行ってスルーホール(貫通孔)を所定配列で形成する。スルーホールの配列については、各シートを積層したときに、導体を充填したスルーホールと導体パターンとで内部導線20が形成されるように設定される。内部導線を形成するためのスルーホールの配列および導体パターンの形状については、従来技術を適宜援用することができ、また、後述の実施例において図面を参照しながら具体例が説明される。
【0036】
スルーホールに充填するため、および、導体パターンの印刷のために、好ましくは導体ペーストが使用される。導体ペーストには導体粒子と、典型的にはバインダとしての高分子樹脂と溶剤とが含まれる。
【0037】
導体粒子としては、銀粒子などを用いることができる。導体粒子の粒子径は、体積基準において、d50が好ましくは1〜10μmである。導体粒子のd50は、レーザ回折散乱法を利用した粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装(株)製のマイクロトラック)を用いて測定される。
【0038】
導体ペーストには、好適にはバインダとしての高分子樹脂が含まれる。高分子樹脂の種類は特に限定はなく、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。導体ペーストの溶剤の種類は特に限定はなく、例えば、ブチルカルビトール等のグリコールエーテルなどを用いることができる。導体ペーストにおける導体粒子、高分子樹脂、溶剤などの配合比率などは適宜調節することができ、それによって、導体ペーストの粘度などを設定することも可能である。
【0039】
次いで、スクリーン印刷機やグラビア印刷機等の印刷機を用いて、導体ペーストをグリーンシートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥して、内部導線に対応する導体パターンを形成する。印刷の際に、上述のスルーホールにも導体ペーストの一部が充填される。その結果、スルーホールに充填された導体ペーストと、印刷された導体パターンとが内部導線の形状を構成することになる。
【0040】
印刷後のグリーンシートを、吸着搬送機とプレス機を用いて、所定の順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製する。続いて、ダイシング機やレーザ加工機等の切断機を用いて、積層体を部品本体サイズに切断して、加熱処理前の磁性体部及び内部導線を含む、加熱処理前チップを作製する。
【0041】
焼成炉等の加熱装置を用いて、大気等の酸化性雰囲気中で、加熱処理前チップを加熱処理する。この加熱処理は、通常は、脱バインダプロセスと酸化被膜形成プロセスとを含み、脱バインダプロセスは、バインダとして用いた高分子樹脂が消失する程度の温度、例えば、約300℃、約1hrの条件が挙げられ、酸化物膜形成プロセスは、例えば、約750℃、約2hrの条件が挙げられる。
【0042】
加熱処理前チップにあっては、個々の軟磁性合金粒子どうしの間に、多数の微細間隙が存在し、通常、該微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらは脱バインダプロセスにおいて消失し、脱バインダプロセスが完了した後は、該微細間隙はポアに変わる。また、加熱処理前チップにおいて、導体粒子どうしの間にも多数の微細隙間が存在する。この微細間隙は溶剤とバインダとの混合物で満たされている。これらも脱バインダプロセスにおいて消失する。
【0043】
脱バインダプロセスに続く酸化被膜形成プロセスでは、軟磁性合金粒子11、31が密集して磁性体部10ならびに上部及び下部カバー領域30、40ができ、典型的には、その際に、軟磁性合金粒子11、31それぞれの表面とその近傍が酸化されて該粒子11、31の表面に酸化被膜が形成される。このとき、導体粒子が焼結して内部導線20が形成される。これにより積層インダクタ1が得られる。
【0044】
通常は、加熱処理の後に外部端子を形成する。ディップ塗布機やローラ塗布機等の塗布機を用いて、予め用意した導体ペーストを積層インダクタ1の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉等の加熱装置を用いて、例えば、約600℃、約1hrの条件で焼付け処理を行うことにより、外部端子が形成される。外部端子用の導体ペーストは、上述した導体パターンの印刷用のペーストや、それに類似したペーストを適宜用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0046】
[積層インダクタの具体構造]
本実施例で製造した積層インダクタ1の具体構造例を説明する。部品としての積層インダクタ1は長さが約3.2mmで、幅が約1.6mmで、高さが約1.0mmで、全体が直方体形状を成している。
【0047】
図2は積層インダクタの模式的な分解図である。内部導線形成領域の磁性体部10は、計5層の磁性体層ML1〜ML5が一体化した構造を有する。上部カバー領域30は8層の磁性体層ML6が一体化した構造を有する。下部カバー領域40は7層の磁性体層ML6が一体化した構造を有する。積層インダクタ1の長さは約3.2mm、幅は約1.6mm、高さは約1.0mmである。各磁性体層ML1〜ML6の長さは約3.2mmで、幅は約1.6mmで、厚さは約30μmである。各磁性体層ML1〜ML6は、軟磁性合金粒子である表1記載の組成、平均粒子径(d50)をもつ軟磁性合金粒子を主体として成形されてなり、ガラス成分を含んでいない。また、軟磁性合金粒子それぞれの表面には酸化被膜(図示せず)が存在し、磁性体部10ならびに上部及び下部カバー領域30、40内の軟磁性合金粒子は隣接する合金粒子それぞれが有する酸化被膜を介して相互結合していることを、本発明者らはSEM観察(3000倍)によって確認した。
【0048】
内部導線20は、計5個のコイルセグメントCS1〜CS5と、該コイルセグメントCS1〜CS5を接続する計4個の中継セグメントIS1〜IS4とが、螺旋状に一体化したコイルの構造を有し、その巻き数は約3.5である。この内部導線20は、主として銀粒子を熱処理して得られ、原料として用いた銀粒子の体積基準のd50は5μmである。
【0049】
4個のコイルセグメントCS1〜CS4はコ字状を成し、1個のコイルセグメントCS5は帯状を成しており、各コイルセグメントCS1〜CS5の厚さは約20μmで、幅は約0.2mmである。最上位のコイルセグメントCS1は、外部端子との接続に利用されるL字状の引出部分LS1を連続して有し、最下位のコイルセグメントCS5は、外部端子との接続に利用されるL字状の引出部分LS2を連続して有している。各中継セグメントIS1〜IS4は磁性体層ML1〜ML4を貫通した柱状を成しており、各々の口径は約15μmである。
【0050】
各外部端子(図示せず)は、積層インダクタ1の長さ方向の各端面と該端面近傍の4側面に及んでおり、その厚さは約20μmである。一方の外部端子は最上位のコイルセグメントCS1の引出部分LS1の端縁と接続し、他方の外部端子は最下位のコイルセグメントCS5の引出部分LS2の端縁と接続している。これら外部端子は、主として体積基準のd50が5μmである銀粒子を熱処理して得た。
【0051】
[積層インダクタの製造]
表1記載の軟磁性合金粒子85wt%、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%、ポリビニルブチラール(バインダ)2wt%からなる磁性体ペーストを調製した。上記磁性体層10のための磁性体ペーストと、上部及び下部カバー領域30、40のための磁性体ペーストは別々に調製した。ドクターブレードを用いて、この磁性体ペーストをプラスチック製のベースフィルムの表面に塗工し、これを熱風乾燥機で、約80℃、約5minの条件で乾燥した。このようにしてベースフィルム上にグリーンシートを得た。その後、グリーンシートをカットして、磁性体層ML1〜ML6(図2を参照)に対応し、且つ、多数個取りに適合したサイズの第1〜第6シートをそれぞれ得た。
【0052】
続いて、穿孔機を用いて、磁性体層ML1に対応する第1シートに穿孔を行い、中継セグメントIS1に対応する貫通孔を所定配列で形成した。同様に、磁性体層ML2〜ML4に対応する第2〜第4シートそれぞれに、中継セグメントIS2〜IS4に対応する貫通孔を所定配列で形成した。
【0053】
続いて、印刷機を用いて、上記Ag粒子が85wt%で、ブチルカルビトール(溶剤)が13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)が2wt%からなる導体ペーストを上記第1シートの表面に印刷し、これを熱風乾燥機で、約80℃、約5minの条件で乾燥して、コイルセグメントCS1に対応する第1印刷層を所定配列で作製した。同様に、上記第2〜第5シートそれぞれの表面に、コイルセグメントCS2〜CS5に対応する第2〜第5印刷層を所定配列で作製した。
【0054】
第1〜第4シートそれぞれに形成した貫通孔は、第1〜第4印刷層それぞれの端部に重なる位置に存するため、第1〜第4印刷層を印刷する際に導体ペーストの一部が各貫通孔に充填されて、中継セグメントIS1〜IS4に対応する第1〜第4充填部が形成される。
【0055】
続いて、吸着搬送機とプレス機を用いて、印刷層及び充填部が設けられた第1〜第4シートと、印刷層のみが設けられた第5シートと、印刷層及び充填部が設けられていない第6シートとを、図2に示した順序で積み重ねて熱圧着して積層体を作製した。この積層体を切断機で部品本体サイズに切断して、加熱処理前チップを得た。
【0056】
続いて、焼成炉を用いて、大気中雰囲気で、加熱処理前チップを多数個一括で加熱処理した。まず、脱バインダプロセスとして約300℃、約1hrの条件で加熱し、次いで、酸化被膜形成プロセスとして約750℃、約2hrの条件で加熱した。この加熱処理によって、軟磁性合金粒子が密集して磁性体部10が形成し、また、銀粒子が焼結して内部導線20が形成され、これにより部品本体を得た。
【0057】
続いて、外部端子を形成した。上記銀粒子を85wt%、ブチルカルビトール(溶剤)を13wt%で、ポリビニルブチラール(バインダ)を2wt%含有する導体ペーストを塗布機で、部品本体の長さ方向両端部に塗布し、これを焼成炉で、約800℃、約1hrの条件で焼付け処理を行った。その結果、溶剤及びバインダが消失し、銀粒子が焼結して、外部端子が形成され、積層インダクタ1を得た。
【0058】
[積層インダクタの評価]
得られた積層インダクタにおける、内部導線形成領域の磁性体部10と、上部カバー領域30との接合性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
光学顕微鏡100倍にて、チップ側面の観察、またはチップ破断面もしくは研磨面の観察により評価した。
当該評価における評価指標は以下のとおりである。
○・・・剥離、割れ等が確認できない。
×・・・剥離、割れ等が確認できる。
【0059】
得られた積層インダクタにおける、インダクタンスをAgilent Technologies社インピーダンスアナライザ4294Aにて1MHzの値を測定した。比較対象として、内部導線形成領域の磁性体部10と全く同じ軟磁性合金粒子を用いて上部カバー領域30と下部カバー領域40とを形成してなる積層インダクタを作製し(以下、「比較用インダクタ」と称する。)、測定対象の積層インダクタと比較用インダクタとのインダクタンスを比較した。
当該評価における評価指標は以下のとおりである。
○・・・比較用インダクタよりもインダクタンスが大きい。
△・・・比較用インダクタのインダクタンスと同等である。
×・・・比較用インダクタよりもインダクタンスが小さい。
【0060】
得られた積層インダクタにおけるデバイスとしての強度について、3点曲げ破断応力を測定した。図3は、3点曲げ破断応力の測定の模式的な説明図である。測定対象物に対して図示されたように荷重をかけて測定対象物が破断するときの荷重Wを測定した。曲げモーメントMおよび断面二次モーメントIを考慮して、以下の式から、3点曲げ破断応力σbを算出した。
σb=(M/I)×(h/2)=3WL/2bh2
比較対象として、内部導線形成領域の磁性体部10と全く同じ軟磁性合金粒子を用いて上部カバー領域30と下部カバー領域40とを形成してなる積層インダクタを作製し(以下、「比較用インダクタ」と称する。)、測定対象の積層インダクタと比較用インダクタとの3点曲げ破断応力を比較した。
当該評価における評価指標は以下のとおりである。
○・・・比較用インダクタよりも3点曲げ破断応力が大きい。
△・・・比較用インダクタの3点曲げ破断応力と同等である。
×・・・比較用インダクタよりも3点曲げ破断応力が小さい。
【0061】
以上をまとめて、積層インダクタの総合評価を以下の基準で行った。
○・・・上記3つの評価が全て○である。
△・・・○の評価でもなく、×の評価でもない。
×・・・上記3つの評価に一つでも×がある。
【0062】
各実施例、比較例の製造条件と評価結果を表1にまとめる。本発明の比較例に該当するものについては試料番号に「*」を付した。なお、試料番号1、5および9の試料は、上述の「比較用インダクタ」に相当するものである。表中、組成の欄における残部は全てFeである。
【表1】

【符号の説明】
【0063】
1 積層インダクタ、10 内部導体形成領域の磁性体部、11 軟磁性合金粒子、20 内部導線、30 上部カバー領域、31 軟磁性合金粒子、40下部カバー領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導線形成領域ならびに前記内部導線形成領域を上下から挟むように形成された上部カバー領域及び下部カバー領域を有し、
前記内部導線形成領域は、軟磁性合金粒子で形成された磁性体部と前記磁性体部内に埋め込まれるように設けられた内部導線とを有し、
前記上部カバー領域及び前記下部カバー領域の少なくとも一方は、前記内部導線形成領域における磁性体部の軟磁性合金粒子と構成元素の種類が同じであって平均粒子径がより大きい軟磁性合金粒子で形成されたものである、
積層インダクタ。
【請求項2】
前記上部カバー領域及び前記下部カバー領域の両方とも、前記内部導線形成領域における前記磁性体部の軟磁性合金粒子と構成元素の種類が同じであって平均粒子径がより大きい軟磁性合金粒子で形成されたものである、請求項1記載の積層インダクタ。
【請求項3】
前記内部導線形成領域の前記磁性体部、前記上部カバー領域および前記下部カバー領域の軟磁性合金粒子がいずれもFe−Cr−Si系軟磁性合金からなる請求項1又は2記載の積層インダクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−55315(P2013−55315A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−284571(P2011−284571)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【特許番号】特許第5048155号(P5048155)
【特許公報発行日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】