説明

積層フィルムの製造方法

【課題】 基材フィルム上に塗布する塗液に分散させた磁性材料を制御して均一な膜厚の塗布層を形成することにある。
【解決手段】 基材フィルム1上に磁性材料12を含む塗液4を塗布する塗布工程と、この塗布工程で塗布された基材フィルム上の塗液に対して基材厚み方向に磁場を印加し、前記磁性材料を含む塗液を当該基材フィルム上に移動させる磁場印加工程と、この磁場印加工程で移動された前記基材フィルム上の塗液を乾燥させて塗布層を形成する乾燥工程との順で備えたものである積層フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルム上に塗液の塗布層を形成する積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続走行する基材に塗液を塗布する方法としては、ディップコート法、ブレードコート法、エアーナイフコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、リバースコート法、リバースロールコート法、エクストルージョンコート法、スライドコート法、カーテンコート法等が知られている。
【0003】
これらの塗布方法では塗布装置が使用されているが、基材に均一な乾燥膜厚を形成する必要があるため、塗布装置の寸法精度等に特別な考慮が払われ、かつ注意深く慎重に塗液を塗布していくのが一般的である。
【0004】
基材をバックロールで支持しつつ当該バックロールと反対側の基材面に塗液を塗布する塗布方法に関しては、当該基材面に単層による塗布層を形成する方法や重層による塗布層を形成する方法(特許文献1,2)など、これら塗布方法に使用される塗布方式や塗布装置に関して数多くの提案がなされている。
【0005】
これらの塗布方法は、バックロールで支持された基材に対して、塗布装置を用いて、通常1mm以下の間隙を保ちながら塗液を塗布する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−095363号公報
【特許文献2】特開昭56−142643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、塗液が固形物を含む分散液の場合、基材上に均一な塗布膜厚を形成しようとしても、塗液に含む固形物の厚さの面内分布に偏りが生じる問題がある。例えば、基材上に塗液中の顔料を均一、かつ単層の状態で並べたい場合、基材上の塗液内の固形物が基材の厚み方向で重なり合うと、基材上の固形物が積層された状態で乾燥され、基材上の厚み方向の分布に偏りができてしまう。
【0008】
その結果、固形物の分布の偏りは、塗布後の性能に影響を与える可能性が大きく、精密機器等に使用する部材として特に注意が必要となってくる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、基材上に塗布する塗液中に分散する固形物を制御して均一な膜厚の塗布層を形成する積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に対応する発明は、基材フィルム上に塗布層を形成する積層フィルムの製造方法であって、前記基材フィルム上に磁性材料を含む塗液を塗布する塗布工程と、この塗布工程で塗布された前記基材フィルム上の塗液に対して基材厚み方向に磁場を印加し、前記磁性材料を含む塗液を当該基材フィルム上に移動させる磁場印加工程と、この磁場印加工程で移動された前記基材フィルム上の塗液を乾燥させて塗布層を形成する乾燥工程との順に備えたことを特徴とする積層フィルムの製造方法である。
【0011】
請求項2に対応する発明は、前記塗液が分散媒中に分散される複数のマイクロカプセルにそれぞれ少なくとも前記磁性材料が内包された状態で構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に対応する発明は、前記マイクロカプセルが、前記磁性材料の他に、当該磁性材料とは異なる別磁性材料もしくは非磁性材料を内包した状態で構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に対応する発明は、前記磁性材料を含む塗液の粘度が1〜10000mPa・sであることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項5に対応する発明は、前記磁性材料として、金属及び金属酸化物からなる磁性材料の群から選択することを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6に対応する発明は、前記磁場印加工程が、永久磁石、電磁石からなる群から選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、基材フィルム上に塗布する塗液中に分散する固形物である磁性材料の配列を、磁石によって形成される磁場により制御することにより、均一な膜厚の塗布層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る積層フィルムの製造方法の製造工程の一例を説明する図。
【図2】積層フィルムを製造するための塗液の構成を示す図。
【図3】磁場を印加する前の基材フィルム上に塗布された塗液の状態図。
【図4】磁場を印加した後の基材フィルム上に塗布された塗液の状態図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に係る積層フィルムの製造方法の基本的な製造工程について説明する。
先ず、基材フィルム上に磁性材料を含む塗液を塗布する。次に、磁性材料を含む塗液を塗布した後、基材フィルム上の塗液に対してフィルム厚み方向に磁場を印加する。磁場の印加に伴い、磁性材料は、一方の方向に移動する現象があることから、磁性材料の厚み分布が面方向で均一となるように移動する。
【0019】
さらに、磁性材料の厚み分布が面方向で均一となるように形成させた後、基材フィルム上の塗液を乾燥することにより、基材フィルムの面方向で均一な塗布層となる積層体を形成する。
【0020】
ところで、積層フィルムを形成する場合、磁性材料がマイクロカプセル中に内包されていることが好ましい。その理由は、基材フィルムの面内での磁性材料の偏りを防ぐことができること,磁性材料による塗布装置へのダメージを低減できる為である。
【0021】
特に、異なる2種類以上の顔料を内包させたマイクロカプセルを、例えば電気泳動法を利用した表示装置の表示部に用いる場合、表示品質の観点からマイクロカプセルが単層で均一に形成する必要がある。このとき、異なる2種類以上の顔料のうち、少なくとも1種類に磁性材料を用い、マイクロカプセルを含む塗液を塗布後の乾燥前の製造工程にて磁場を印加するようにすれば、マイクロカプセルからなる塗布層をマイクロカプセル単層で均一に形成することができる。
【0022】
図1は積層フィルムの製造工程の一例を説明する図である。
先ず、基材フィルム1が所定の回転速度で回転するバックロール2で支持されつつ所定方向に繰り出すように案内される。
【0023】
バックロール2の真下には、基材フィルム1を介して塗布装置3の一部となるコーター3aが対峙されている。コーター3aには例えば定量ポンプ(図示せず)が接続され、図2に示すように磁性材料を含む塗液4が例えばバックロール2の回転速度を考慮しつつ定量供給されるようになっている。
【0024】
本発明に係る積層フィルムの製造方法は、バックロール2の回転速度を考慮しつつ、基材フィルム1に対してコーター3aから所定量ずつ塗液4を塗布する「塗布工程」が設けられる。すなわち、塗布装置3を用いて、基材フィルム1に塗液4を塗布する。
【0025】
このとき、基材フィルム1と塗布装置3の一部を構成するコーター3aとの距離(クリアランス)によって塗布膜厚が決定される。なお、塗布装置3には、リップダイコーター、コンマコーター、ブレードコーター等が挙げられるが、これらコーター3aは塗液4の粘度に応じて種々のものが選択される。例えば、塗液4の粘度が100〜100000mPa・sの場合、リップダイコーターを選択することができる。
【0026】
次に、積層フィルムの製造方法は、バックロール2を経由して所定方向に繰り出された基材フィルム1の走行経路に磁石5が配置され、基材フィルム1上に塗布される磁性材料を含む塗液4に対して、基材フィルム厚み方向に磁場を印加する「磁場印加工程」が設けられる。磁石5としては、所望とする磁場に応じて、永久磁石または電磁石等が選択的に使用される。磁石5の配置位置は、塗布装置3と乾燥装置6との間もしくは乾燥装置6内に設置される。
【0027】
なお、基材フィルム1上の塗液4に磁場を印加する理由は、磁場の印加中では、磁性材料が一方の面に移動するため、磁性材料の厚み分布が面方向で均一となるように作用する為である。
【0028】
さらに、積層フィルムの製造方法は、前述したように乾燥装置6が設置され、当該乾燥装置6に対して塗液4が塗布された基材フィルム1を通すことにより、塗液4が乾燥された塗布層を形成する「乾燥工程」が設けられる。乾燥装置6としては、一般的には乾燥炉が用いられる。
【0029】
従って、以上のような製造工程を採用した積層フィルムの製造方法によれば、基材フィルム1上に塗布された磁性材料を含む塗液4の乾燥前に、基材フィルム厚み方向に磁場を印加することにより、塗液4中の固形物である磁性材料が磁石5に引き付けられ、基材フィルム1に対して均一の厚みの塗布層を形成することができる。
【0030】
図2は積層フィルムを製造するための塗液4の構成成分を説明する図である。
塗液4は、分散媒11中に磁性材料12が分散された状態で存在するが、さらに詳しくは、分散媒11に分散されたマイクロカプセル13の中に磁性材料12が内包されている。なお、磁性材料12としては、単体で分散媒11中に分散させても良い。
【0031】
また、マイクロカプセル13内には、磁性材料12とともに、或いは磁性材料12とは異なる1種以上の磁性材料もしくは非磁性材料14を含むものであってもよい。
【0032】
分散媒11は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの各種の溶媒を用いることができ、バインダー、界面活性剤を添加しても良い。
【0033】
磁性材料12としては、軟磁性フェライトを用いることができる。特に、軟磁性フェライトとして、マンガンフェライトを用いることができる。軟磁性フェライトは、磁性材料12として作用することはもちろん、黒色顔料として作用させることができる。
【0034】
塗液4の粘度としては、任意に選ぶことが可能であるが、1〜10000mPa・sの粘度とすることにより、磁性材料12もしくは磁性材料12を内包したマイクロカプセル13が分散媒11中で容易に移動することができる。
【0035】
従って、以上のような実施形態によれば、マイクロカプセル13に磁性材料12が内包することにより、マイクロカプセル13を含む塗液4を塗布後の乾燥前の製造工程にて磁場を印加するようにすれば、マイクロカプセル13からなる塗布層をマイクロカプセル単層で均一に形成でき、電気泳動法を利用した表示装置の表示品質を高めることができる。
【0036】
図3は磁場を印加する前の基材フィルム1上の塗液4の状態を示す図である。
磁性材料12を内包したマイクロカプセル13は、基材フィルム1の幅方向に対して重なり合っているが、何らかの外的作用を加えたとき、分散媒11中を容易に移動できる状態となっている。
【0037】
図4は磁場を印加した後の基材フィルム1上の塗液4の状態を示す図である。
すなわち、図3に示す基材フィルム1上に塗布された塗液4の状態にあって、基材厚み方向に磁石5にて所定方向に磁力を持った磁場を印加すると、その磁場の磁力によってマイクロカプセル13内の磁性材料12が基材フィルム1に引き付けられ、結果としてマイクロカプセル13自体が基材フィルム1に引き寄せられる。
【0038】
この状態においては、マイクロカプセル13は、基材フィルム1の平面方向へのずれが許容された状態にあるが、特に密な状態にあるマイクロカプセル13が互いに隣接する密な別のマイクロカプセル13から圧力を受け、疎な方向へずれる力が作用する。その結果、基材フィルム1上において、マイクロカプセル13が基材厚さ方向に単層となり、ひいては基材平面方向においてもマイクロカプセル13の偏りがない均一な塗布膜が形成される。これは、磁性材料12がマイクロカプセル13に内包されず、分散媒11中に単体で分散している場合でも、磁性材料12が基材フィルム1側に引き付けられ、同様に均一な塗布膜が形成される。
【実施例1】
【0039】
先ず、図2に示すように磁性材料12を含んだ塗液4を作製する。磁性材料12にはマンガンフェライトを用いた。塗液4に対するマンガンフェライトの固形分は5wt%とした。このマンガンフェライトはマイクロカプセル13に内包させた。
【0040】
マイクロカプセル13には、マンガンフェライト以外に非磁性材料14として酸化チタンを内包させた。なお、塗液4に対する酸化チタンの固形分は10wt%とした。
【0041】
さらに、マイクロカプセル13の粒径は30μmとした。分散媒11には水を用いた。塗液4に対する水量は55wt%とする。バインダーとしてウレタン樹脂を添加した。塗液4に対するウレタン樹脂の固形分は3wt%とした。また、塗液4の粘度としては、2000mPa・sとした。
【0042】
一方、塗布装置3としてはリップダイコーターを準備した。基材フィルム1の塗液塗布面側にはITO(酸化インジウムスズ)を積層したポリエステル樹脂、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)を準備し、その基材厚さを125μmとした。
【0043】
塗液4の塗布は塗布幅600mmとし、その塗布膜厚が50μm以下になるように、基材フィルム1と塗布装置3との距離(クリアランス)を調整した。基材フィルム1の搬送速度は5m/minとした。
【0044】
磁石5としては、基材フィルム1の600mmの塗布幅に対して、磁力が幅600mm、長さ300mmの有効範囲で0.45Tとなるようにするために、電磁石を用いた。磁石5の設置場所は、塗布装置3から基材フィルム1が1000mm繰り出された位置であって、乾燥装置6の入口近傍の位置に相当する。電磁石としては、基材フィルム1の塗布面と反対側に10mmの距離を隔てて設置した。
【0045】
以上のような諸条件のもとに基材フィルム1上に磁性材料12を内包したマイクロカプセル13を含んだ塗液4を塗布した後、乾燥する前に電磁石にて基材厚み方向に磁力を持った磁場を印加する。その結果、その磁力によってマイクロカプセル13内の磁性材料12が基材フィルム1に引き付けられた状態となり、乾燥装置6内に搬送され、乾燥工程に入る。そのため、基材フィルム1上において、マイクロカプセル13が基材厚さ方向に単層となり、ひいては基材平面方向に偏りがない塗布膜が形成される。
【0046】
そこで、本実施例の製造方法においては、以上のようにして得られた基材フィルム1の基材平面方向に形成される塗布膜の膜均一性の評価としては、透過光を用いた目視による外観検査を行った。具体的には、塗布乾燥後、600mm×500mmの面積の範囲でバックライトを照らし、基材フィルム1に対して垂直方向に45cm離れた位置から観察を行った。
【0047】
その結果、磁場を印加しなかった基材フィルム1上の塗布膜には多くの個所で塗布ムラが観察された。
これに対して、基材フィルム1の600mmの塗布幅に対して、幅600mm、長さ300mmの有効範囲で0.45Tの磁界を持った磁場を印加した塗布膜については塗布ムラが観察されなかった。
【0048】
次に、基材フィルム1の基材厚さ方向に形成される塗布膜の膜均一性の評価についても塗布断面の観察を行った。
その結果、磁場を印加しなかった基材フィルム1上の塗布膜は、2層と単層とが混在した状態となり、基材フィルム1上の厚み方向の分布に偏りができていた。
一方、基材フィルム1の600mmの塗布幅に対して、幅600mm、長さ300mmの有効範囲で0.45Tの磁界を持った磁場を印加した状態で形成された塗布膜については、単層の塗布膜が形成されていた。
【0049】
従って、以上の実施例から明らかなように、乾燥前に基材厚み方向に磁石5にて所定方向に磁力を持った磁場を印加すれば、基材フィルム1上の塗布膜に塗布ムラがなく、かつ均一で単層の塗布膜を形成することができる。
【0050】
その他、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0051】
1…基材フィルム、2…バックロール、3…塗布装置、3a…コーター、4…塗液、5…磁石、6…乾燥装置、11…分散媒、12…磁性材料、13…マイクロカプセル、14…磁性材料12とは異なる1種以上の磁性材料もしくは非磁性材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に塗布層を形成する積層フィルムの製造方法であって、
前記基材フィルム上に磁性材料を含む塗液を塗布する塗布工程と、
この塗布工程で塗布された前記基材フィルム上の塗液に対して基材厚み方向に磁場を印加し、前記磁性材料を含む塗液を当該基材フィルム上に移動させる磁場印加工程と、
この磁場印加工程で移動された前記基材フィルム上の塗液を乾燥させて塗布層を形成する乾燥工程との順に備えることを特徴とする積層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記塗液は、分散媒中に分散された複数のマイクロカプセルにそれぞれ少なくとも前記磁性材料が内包された状態で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記マイクロカプセルは、前記磁性材料の他に、当該磁性材料とは異なる別磁性材料もしくは非磁性材料を内包した状態で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記磁性材料を含む塗液の粘度は、1〜10000mPa・sであることを特徴とする
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記磁性材料は、金属及び金属酸化物からなる磁性材料の群から選択することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか一項に記載の積層フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記磁場印加工程は、永久磁石、電磁石からなる群から選択することを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか一項に記載の積層フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−66189(P2012−66189A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212741(P2010−212741)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】