説明

積層フィルム

【課題】レトルト処理後であっても、ガスバリア性の低下が少なく層間剥離が生じにくい、ガスバリア性およびラミネート強度に優れた積層フィルムを提供する。
【解決手段】積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、被覆層、無機薄膜層およびガスバリア性樹脂組成物層が積層されており、被覆層はアクリル樹脂とオキサゾリン基を有する樹脂を含む被覆層用樹脂組成物から形成され、その膜厚(D)と全反射赤外吸収スペクトルにおける所定の2つのピーク比率(P1/P2)とが特定の関係を満たし、ガスバリア性樹脂組成物層はエチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と特定量の無機層状化合物とカップリング剤及び/又は架橋剤とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性を有し、水蒸気や酸素等に対するバリア性に優れ、例えば、食品、医薬品、工業製品等の包装材料として好適に用いられる積層フィルムに関する。詳しくは、無機薄膜層を備えた積層体でありながらレトルト処理を施した際においても該無機薄膜とそれに接する樹脂間の層間密着性が高く、良好なガスバリア性と密着性(ラミネート強度)を発現することができる積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品等に用いられる包装材料は、蛋白質、油脂の酸化抑制、味、鮮度の保持、医薬品の効能維持のために、酸素や水蒸気などのガスを遮断する性質、すなわちガスバリア性を備えることが求められている。また、太陽電池や有機EL等の電子デバイスや電子部品等に使用されるガスバリア性材料においては食品等の包装材料以上に高いガスバリア性が求められる。
【0003】
従来より、水蒸気や酸素などの各種ガスの遮断を必要とする食品用途においては、プラスチックからなる基材フィルムの表面に、アルミニウム等からなる金属薄膜、酸化ケイ素や酸化アルミニウム等の無機酸化物からなる無機薄膜を形成したガスバリア性積層体が、一般的に用いられている。中でも、酸化ケイ素や酸化アルミニウム、これらの混合物などの無機酸化物の薄膜を形成したものは、透明であり内容物の確認が可能であることから、広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のようなガスバリア性積層体は、形成工程において局部的に高温となりやすいため、基材に損傷が生じたり、低分子量の部分あるいは可塑剤など添加剤の部分で分解や脱ガスなどが起こり、それが起因して無機薄膜層中に欠陥やピンホール等が発生しガスバリア性が低下したりする場合がある。さらに、印刷、ラミネート、製袋など包装材料の後加工の際に、無機薄膜層がひび割れてクラックが発生し、ガスバリア性が低下するといった問題もあった。特に印刷工程においては、インキ組成物中の着色料(顔料)の影響でガスバリア性が低下することが知られており、より無機薄膜層へのダメージが大きくなる。無機薄膜層がダメージを受けると、その後のレトルト処理によってガスバリア性が大幅に低下したり、無機薄膜とそれに接する樹脂間の層間密着性が低下して内容物が漏れ出たりする問題があった。
【0005】
また上記のようなガスバリア性積層体のほかに、基材フィルムの上に樹脂組成物をコートしたガスバリア性フィルムも多く提案されている。特に、それ自体が高い酸素バリア性を持つポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール系共重合体を用いたコート剤が実用化されている。
【0006】
さらに、上記ビニルアルコール系樹脂にモンモリロナイトなどの無機層状化合物を配合したガスバリア性を有する層をプラスチックからなる基材フィルムにコートしたガスバリア性フィルムも提案されている。例えば、基材フィルム上に、ポリビニルアルコール、架橋剤、無機層状化合物で構成されたガスバリア性を有する層を設ける例、基材フィルム上に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、水溶性ジルコニウム系架橋剤、無機層状化合物からなるガスバリア性を有する層を設ける例(例えば特許文献1、2参照)が挙げられる。これらのガスバリア性フィルムは、樹脂を架橋しているため、高湿下での耐湿性や、ボイル程度の条件での耐水性は確保できるものの、例えば120〜130℃の加圧下に曝されるようなレトルト処理を施した場合には、ガスバリア性やラミネート強度が低下し、十分満足できる性能は得られていなかった。
【0007】
一方、無機薄膜を形成したガスバリア性積層体の欠点を改善する方法として、無機薄膜の上にさらにガスバリア性を有する層を設ける試みがなされている。例えば、無機薄膜上に、水溶性高分子と無機層状化合物および金属アルコキシドあるいはその加水分解物をコートして、ゾルゲル法により無機薄膜上に無機層状化合物を含有する無機物と水溶性高分子との複合体を形成させる方法が提案されている(例えば特許文献3参照)。この方法によれば、レトルト処理後も優れた特性を示すが、コートに供する液の安定性が低いため、コートの開始時と終了時(例えば、工業的に流通するロールフィルムとした場合であればロール外周部分と内周部分)で特性が異なったり、フィルム幅方向における乾燥や熱処理の僅かな温度の違いにより特性が異なったり、製造時の環境により品質の違いが大きく生じるといった問題を抱えていた。さらには、ゾルゲル法によりコートされた膜は柔軟性に乏しいため、フィルムに折り曲げや衝撃が加わると、ピンホールが発生しやすく、ガスバリア性が低下することがあるといった問題も指摘されている。
【0008】
このような背景のもと、無機薄膜層上に、ゾルゲル反応などを伴わないコート法、すなわち樹脂を主体としコート時には架橋反応を伴う程度のコート法で樹脂層を形成するような改良が望まれていた。このような改良がなされたガスバリア性積層体としては、無機薄膜上に特定の粒径およびアスペクト比の無機層状化合物を含有する樹脂層をコートしたガスバリア性積層体(例えば特許文献4)や、無機薄膜上にシランカップリング剤を含むバリア性樹脂をコートしたガスバリア性積層体(例えば特許文献5)が開示されている。
【0009】
また、無機薄膜を形成したガスバリア性積層体の劣化を改善する他の方法として、ポリエステル基材フィルムと例えば蒸着法により形成した無機薄膜層との間に、各種水性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、またはポリウレタンとポリエステルの混合物からなる被覆層を設ける方法が提案されている(例えば特許文献6)。さらに、湿熱下での被覆層の耐水性を向上させるには、各種水性ポリウレタンおよび/または水性ポリエステル樹脂とオキサゾリン基含有水溶性ポリマーとからなる被覆層を設ければよいことも報告されている(例えば特許文献7)。この場合、オキサゾリン基を添加して架橋させることで耐水性を向上させている。また基材フィルムからのオリゴマー析出による無機薄膜層の劣化を防止するためには、各種水性アクリル樹脂とオキサゾリン基含有水溶性ポリマーとの混合物からなる被覆層を設ける方法が知られている(例えば特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−349769号公報
【特許文献2】特開2008−297527号公報
【特許文献3】特開2000−43182号公報
【特許文献4】特許第3681426号公報
【特許文献5】特許第3441594号公報
【特許文献6】特開平2−50837号公報
【特許文献7】特開2002−301787号公報
【特許文献8】特開平11−179836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したいずれの方法も、高湿下やボイル程度の条件下での特性は改良されるものの、レトルト処理のような苛酷な条件下においては十分満足しうるガスバリア性やラミネート強度を発揮させることはできないのが現状であった。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものであり、その目的は、各種食品、医薬品、工業製品等の包装用途のほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等のように、高温高湿環境下に曝されたり長期の安定したガスバリア性や耐久性が求められる工業用途にも用いることができる、優れたガスバリア性および層間密着性を有する積層フィルムを提供することにある。特に、レトルト処理後であっても、ガスバリア性の低下が少なく層間剥離が生じにくい積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成し得た本発明の積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、被覆層、無機薄膜層およびガスバリア性樹脂組成物層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されており、前記被覆層は、少なくともアクリル樹脂を含むとともにオキサゾリン基を有する樹脂をも含む被覆層用樹脂組成物から形成され、該被覆層の膜厚(D)は5〜150nmであり、かつ該被覆層の全反射赤外吸収スペクトルにおいて1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P1)と1580±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P2)との比(P1/P2)と前記被覆層の膜厚(D)とが下記式
0.03≦(P1/P2)/D[nm]≦0.15
に示す関係を満たし、前記ガスバリア性樹脂組成物層は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と、無機層状化合物と、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、該ガスバリア性樹脂組成物中の前記無機層状化合物の含有量が、前記ガスバリア性樹脂、前記無機層状化合物および前記添加剤の合計100質量%中、0.1〜9.0質量%であることを特徴とするものである。
【0014】
本発明は、基材フィルムの上に設ける被覆層に関し、従来、被覆層の耐湿熱性の観点から架橋剤とそれに反応しうる官能基を有する樹脂とを混合することにより被覆層形成時に高度な架橋構造を形成させることが望ましい、と考えられてきた技術常識に反し、被覆層を形成する樹脂としてオキサゾリン基を有する樹脂とともにアクリル樹脂を併用し、オキサゾリン基を特定範囲で適度に反応、残存させれば、架橋構造と塗膜柔軟性とを制御でき、その結果、無機薄膜層を備えた積層体でありながら、レトルト処理を施した際にもガスバリア性を維持できるという知見に基づき、完成したものである。
また本発明は、被覆層の膜厚を5〜150nmの範囲とすることにより、該被覆層の上に形成した無機薄膜層の均一性を向上させうるという知見にも基づくものである。
さらに本発明は、無機薄膜層上に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と無機層状化合物と添加剤とからなるガスバリア性樹脂組成物から形成されるガスバリア性樹脂組成物層を設けることにより、より一層のガスバリア性の向上を実現できるという知見にも基づき、完成された。
【0015】
本発明においては、前記被覆層用樹脂組成物中のオキサゾリン基を有する樹脂は、そのオキサゾリン基量が5.1〜9.0mmol/gであることが好ましい。また前記被覆層用樹脂組成物はウレタン樹脂を含むことが好ましい。さらに前記被覆層用樹脂組成物中のウレタン樹脂はカルボキシル基を有しており、その酸価が10〜40mgKOH/gであることが好ましい。また前記被覆層用樹脂組成物中のアクリル樹脂はカルボキシル基を有しており、その酸価が40mgKOH/g以下であることが好ましい。本発明においては、前記オキサゾリン基を有する樹脂、前記アクリル樹脂および前記ウレタン樹脂の合計100質量%中、オキサゾリン基を有する樹脂が20〜70質量%、アクリル樹脂が10〜60質量%、ウレタン樹脂が10〜60質量%であることが好ましい。
また本発明において、前記無機薄膜層は酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物からなる層であることが好ましい。また前記ガスバリア性樹脂組成物中の前記無機層状化合物はスメクタイト粘土鉱物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、常態においては勿論のこと、苛酷なレトルト処理後であっても、酸素や水蒸気に対して優れたガスバリア性を発揮し、また無機薄膜層を備えた積層体でありながらレトルト処理を施した際においても該無機薄膜とそれに接する樹脂間の層間密着性が高く、良好なラミネート強度を有するガスバリア性積層フィルムが得られる。かかる積層フィルムは、特にレトルト処理を行ってもガスバリア性及び層間接着力の低下が少ないので、各種用途に適した実用性の高いものであり、しかも生産安定性に優れ、均質な特性が得られやすいという利点がある。したがって、このような本発明の積層フィルムは、各種食品、医薬品、工業製品等の包装用途のほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の積層フィルムは、基材フィルムの少なくとも片面に、被覆層、無機薄膜層、ガスバリア性樹脂組成物層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されている。以下、本発明の積層フィルムについて、各層構成ごとに説明する。
[基材フィルム]
本発明で用いる基材フィルムとしては、例えば、プラスチックを溶融押出しし、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルムを用いることができる。プラスチックとしては、ナイロン4・6、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン12等に代表されるポリアミド;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等に代表されるポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等に代表されるポリオレフィン;のほか、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリ乳酸等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性、寸歩安定性、透明性の点でポリエステルが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに他の成分を共重合した共重合体が好ましい。
【0018】
基材フィルムとしては、機械強度、透明性など所望の目的や用途に応じて任意の膜厚のものを使用することができ、その膜厚は特に限定されないが、通常は5〜250μmであることが推奨され、包装材料として用いる場合は10〜60μmであることが望ましい。
基材フィルムの透明度は、特に限定されるものではないが、透明性が求められる包装材料として使用する場合には、50%以上の光線透過率をもつものが望ましい。
【0019】
基材フィルムは、1種のプラスチックからなる単層型フィルムであってもよいし、2種以上のプラスチックフィルムが積層された積層型フィルムであってもよい。積層型フィルムとする場合の積層体の種類、積層数、積層方法等は特に限定されず、目的に応じて公知の方法から任意に選択することができる。
また基材フィルムには、本発明の目的を損なわないかぎりにおいて、コロナ放電処理、グロー放電、火炎処理、表面粗面化処理等の表面処理が施されていてもよく、また、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾等が施されてもよい。
【0020】
[被覆層]
前記被覆層は、少なくともアクリル樹脂を含むとともにオキサゾリン基を有する樹脂をも含む被覆層用樹脂組成物から形成される。この被覆層用樹脂組成物はウレタン樹脂をも含むことが好ましい。そして、この被覆層の膜厚(D)は特定範囲であり、かつ被覆層の全反射赤外吸収スペクトルにおける所定の2つのピークのピーク強度比(P1/P2)と前記膜厚(D)とが特定の関係を満たす。これにより、レトルト処理を施した際にも優れたガスバリア性を保持させることができる。詳しくは、従来、被覆層の耐湿熱性を向上させるうえでは高度な架橋構造を積極的に導入することが望ましいと考えられていたところ、本発明では単に高度な架橋構造を積極的に導入するのではなく、被覆層を上記のような構成にすることにより、レトルト処理などの苛酷な条件下でのガスバリア性およびラミネート強度を向上させたのである。上記の被覆層の構成により、レトルト処理などの苛酷な条件下で優れたガスバリア性およびラミネート強度を維持できることの作用機序について説明する。
【0021】
従来、無機薄膜層を備えた積層フィルムの場合、無機薄膜層と基材フィルムあるいは該基材フィルム上に設けた被覆層との密着性が不十分であると、レトルト処理した際に層間に水が入り込み、無機薄膜層との界面での剥離が生じていた。そして、この剥離部分をきっかけとして無機薄膜層に割れや浮きが生じ、その結果バリア性およびラミネート強度が低下するという問題が生じていた。
またレトルト処理時の層間剥離は、基材フィルムと被覆層との間にも起こる。すなわち、レトルト処理時には、基材フィルムを構成するポリエステル樹脂などのプラスチックや被覆層中の樹脂が加水分解してしまい、結合が分断されることがある。その結果、基材フィルムと被覆層との間の密着性不良が起こり、上記同様にガスバリア性およびラミネート強度が低下する原因となる。
さらにレトルト処理時には、基材フィルムまたは無機薄膜層上に設けた後述のシーラント層が湿熱環境下に曝されることで寸法変化を起こし、隣接する無機薄膜層に応力負荷がかかる。その結果、無機薄膜層が破壊されてバリア性が低下してしまう。
【0022】
本発明における被覆層を構成する被覆層用樹脂組成物には、オキサゾリン基を有する樹脂が含まれており、被覆層には未反応のオキサゾリン基が存在することになる。
オキサゾリン基は金属酸化物といった無機薄膜との親和性が高く、また無機薄膜層形成時に発生する無機酸化物の酸素欠損部分や金属水酸化物と反応できるため、無機薄膜層と強固な密着性を示す。また被覆層中に存在する未反応のオキサゾリン基は、基材フィルムおよび被覆層の加水分解により発生したカルボン酸末端と反応し、架橋を形成することができる。このような作用により、本発明では、レトルト処理時であっても、無機薄膜層−被覆層−基材フィルムの各層間の密着性が強固になり、結果として無機薄膜のひび割れや劣化を防止でき、ガスバリア性およびラミネート強度を維持できる。
【0023】
上記のような作用効果を発現させるために、本発明においては、被覆層の全反射赤外吸収スペクトルにおいて1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P1)と1580±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P2)との比(P1/P2)と、被覆層の膜厚(D)とが下記式
0.03≦(P1/P2)/D[nm]≦0.15
に示す関係を満たしている必要がある。ここで、1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークはオキサゾリン基由来のもの(吸光度)であり、1580±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークはポリエステル由来のもの(吸光度)である。上記式中、(P1/P2)/Dで示される値は、好ましくは0.035以上、さらに好ましくは0.04以上であり、好ましくは0.13以下、さらに好ましくは0.10以下である。(P1/P2)/Dで示される値が0.03未満であると、オキサゾリン基量が少ないため、レトルト処理において十分なガスバリア性およびラミネート強度が得られない場合がある。一方、(P1/P2)/Dで示される値が0.15を超えると、オキサゾリン基量が多すぎることにより凝集力が低下したり、オキサゾリン基量に対して膜厚が薄くなりすぎ、レトルト処理において十分な層間密着性が得られない。なお、被覆層の全反射赤外吸収スペクトル測定は、例えば後述する実施例に記載の方法で行うことができる。
【0024】
上記のような作用効果を発現させるために、さらに本発明においては、被覆層の膜厚(D)を5〜150nmとする。これにより、被覆層の厚みを均一に制御し、結果として無機薄膜層を緻密に堆積させることが可能になる。また被覆層自体の凝集力が向上し、無機薄膜層−被覆層−基材フィルムの各層間の密着力が密になるため、塗膜の耐水性を高めることもできる。被覆層の膜厚(D)は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上であり、好ましくは140nm以下、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。被覆層の膜厚が150nmを超えると、被覆層の凝集力が不十分となり、また被覆層の均一性も低下するため、レトルト処理時の酸素バリア性や水蒸気バリア性を十分に発現できない場合があり、しかもガスバリア性が低下するだけでなく、製造コストが高くなり経済的に不利になる。一方、被覆層の膜厚が5nm未満であると、基材フィルムに対して十分な層間密着性が得られない。
【0025】
例えば被覆層用樹脂組成物がオキサゾリン基を有する樹脂のみからなるとしても、(P1/P2)/Dの範囲を規定した上記式を満たすだけのオキサゾリン基を有していれば、良好な耐レトルト性を発現できるかもしれないが、より長時間で高温の苛酷なレトルト処理に曝された場合には、被覆層自体の凝集力が不足し、被覆層自体の変形による無機薄膜層へのダメージは避けられない。そこで、本発明では、より苛酷なレトルト処理にも被覆層が十分耐えることが可能になるように、アクリル樹脂を被覆層用樹脂組成物の必須成分としたのである。アクリル樹脂を含有させることで、被覆層自体の凝集力が向上し、結果として耐水性が高まる。さらにアクリル樹脂がカルボキシル基を有する場合には、該カルボキシル基をオキサゾリン基と反応させることにより、部分的な架橋構造を有することができ、さらに耐水性の向上が期待できる。
【0026】
本発明ではさらに、カルボキシル基を有するウレタン樹脂を混合することで、被覆層の耐レトルト性を高めることができる。すなわち、ウレタン樹脂中のカルボキシル基とオキサゾリン基を反応させることにより、被覆層は、部分的に架橋しながらもウレタン樹脂の柔軟性を備えた層となり、耐水性向上と無機薄膜の応力緩和が両立できる。
本発明の積層フィルムは、無機薄膜層を備えた積層体であるが、上記態様によりレトルト処理後も無機薄膜層のガスバリア性および層間密着性を維持することができる。
【0027】
以下、被覆層を形成する被覆層用樹脂組成物の構成成分について詳細に説明する。
(オキサゾリン基を有する樹脂)
被覆層用樹脂組成物は、オキサゾリン基を有する樹脂を含有する。オキサゾリン基を有する樹脂としては、例えば、オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体を、必要に応じその他の重合性不飽和単量体とともに従来公知の方法(例えば溶液重合、乳化重合等)で共重合させることにより得られるオキサゾリン基を有する重合体等を挙げることができる。
【0028】
オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体としては、例えば、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上適宜選択される。
【0029】
その他の重合性不飽和単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜24個のアルキルまたはシクロアルキルエステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数2〜8個のヒドロキシアルキルエステル;スチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族化合物;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとアミン類との付加物;ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上適宜選択される。
【0030】
その他の重合性不飽和単量体は、得られるオキサゾリン基を有する樹脂を水溶性樹脂として、他樹脂との相溶性、濡れ性、架橋反応効率、被覆層の透明性等を向上させる観点から、親水性の単量体であることが好ましい。親水性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化合物等のポリエチレングリコール鎖を有する単量体、2−アミノエチル(メタ)アクリレートおよびその塩、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、スチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、水への溶解性の高いメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸とポリエチレングリコールのモノエステル化合物等のポリエチレングリコール鎖を有する単量体(導入するポリエチレングリコール鎖の分子量は、好ましくは200〜150、より好ましくは300〜700)が好ましい。
オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体及びその他の重合性不飽和単量体からなる共重合体において、オキサゾリン基を有する重合性不飽和単量体が占める組成モル比は、30〜70モル%であることが好ましく、40〜65モル%であることがより好ましい。
【0031】
オキサゾリン基を有する樹脂は、そのオキサゾリン基が5.1〜9.0mmol/gであることが好ましい。より好ましくは6.0〜8.0mmol/gの範囲内である。従来、オキサゾリン基を有する樹脂を被覆層に用いることに関し、オキサゾリン基が5.0mmol/g程度の樹脂の使用例は報告されているが(例えば、特許文献8参照)、本発明では比較的オキサゾリン基量が多い樹脂を使用する。これは、オキサゾリン基量が多い樹脂を用いることにより、被覆層に架橋構造を形成させると同時に、被覆層中にオキサゾリン基を残存させることができ、その結果、耐水性と柔軟性のバランスをよりコントロールしやすくなるからである。
【0032】
オキサゾリン基を有する樹脂の数平均分子量は、被覆層の柔軟性と凝集力を発現させるうえでは、20000〜50000の範囲内であることが好ましく、より好ましくは25000〜45000である。数平均分子量が20000未満であると、架橋構造をとった際の拘束力が大きくなることから、レトルト処理時における被覆層の柔軟性が十分に得られず、無機薄膜層への応力負荷が増大する虞がある。一方、数平均分子量が50000を超えると、被覆層の凝集力が十分でないことから、耐水性が低下する虞がある。
【0033】
被覆層を構成する被覆層用樹脂組成物中のオキサゾリンを有する樹脂の含有割合は、組成物中の全樹脂成分(例えば前記オキサゾリン基を有する樹脂、アクリル樹脂および後述するウレタン樹脂の合計)100質量%中、20〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは40〜50質量%であるのがよい。オキサゾリンを有する樹脂の含有割合が20質量%未満であると、オキサゾリン基による耐水密着性、柔軟性の効果が十分に発揮されない傾向にあり、一方、70質量%を超えると、被覆層の凝集力が不十分となり、耐水性が低下する虞がある。
【0034】
(アクリル樹脂)
被覆層用樹脂組成物は、アクリル樹脂を含有する。アクリル樹脂としては、アルキルアクリレート及び/又はアルキルメタクリレート(以下、纏めて「アルキル(メタ)アクリレート」と称することがある)を主要な成分とする水性アクリル樹脂が用いられる。水性アクリル樹脂としては、具体的には、アルキル(メタ)アクリレート成分を通常40〜95モル%の含有割合で含み、必要に応じて、共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体成分を通常5〜60モル%の含有割合で含む水溶性または水分散性の樹脂が挙げられる。水性アクリル系樹脂におけるアルキル(メタ)アクリレートの含有割合を40モル%以上とすることにより、塗布性、塗膜の強度、耐ブロッキング性が特に良好になる。一方、アルキル(メタ)アクリレートの含有割合を95モル%以下とし、共重合成分として特定の官能基を有する化合物を水性アクリル系樹脂に5モル%以上導入することにより、水溶化ないし水分散化を容易にするとともに、その状態を長期にわたり安定化することができ、その結果、被覆層と基材フィルムとの接着性や、被覆層内での反応による被覆層の強度、耐水性、耐薬品性などの改善を図ることができる。
【0035】
アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基としては、例えば、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
共重合可能でかつ官能基を有するビニル単量体における官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、スルホン酸基またはその塩、アミド基またはアルキロール化されたアミド基、アミノ基(置換アミノ基を含む)、アルキロール化されたアミノ基またはその塩、水酸基、エポキシ基などが挙げられ、特に、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基が好ましい。これらの官能基は、1種のみでもよいし2種以上であってもよい。
【0036】
ビニル単量体として用いることのできる、カルボキシル基や酸無水物基を有する化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸等のほか、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が挙げられ、さらには無水マレイン酸等も挙げられる。
ビニル単量体として用いることのできる、スルホン酸基またはその塩を有する化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、これらスルホン酸の金属塩(ナトリウム等)やアンモニウム塩などが挙げられる。
【0037】
ビニル単量体として用いることのできる、アミド基またはアルキロール化されたアミド基を有する化合物としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、メチロール化アクリルアミド、メチロール化メタクリルアミド、ウレイドビニルエーテル、β−ウレイドイソブチルビニルエーテル、ウレイドエチルアクリレート等が挙げられる。
ビニル単量体として用いることのできる、アミノ基、アルキロール化されたアミノ基またはそれらの塩を有する化合物としては、例えば、ジエチルアミノエチルビニルエーテル、2−アミノエチルビニルエーテル、3−アミノプロピルビニルエーテル、2−アミノブチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルビニルエーテル、およびこれらのアミノ基をメチロール化したものや、ハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、サルトン等により4級化したもの等が挙げられる。
【0038】
ビニル単量体として用いることのできる、水酸基を有する化合物としては、例えば、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、β−ヒドロキシプロピルアクリレート、β−ヒドロキシプロピルメタクリレート、β−ヒドロキシビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。
ビニル単量体として用いることのできる、エポキシ基を有する化合物としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0039】
水性アクリル樹脂には、アルキル(メタ)アクリレートおよびビニル単量体として上述した官能基を有する化合物のほかに、例えば、アクリロニトリル、スチレン類、ブチルビニルエーテル、マレイン酸モノ又はジアルキルエステル、フマル酸モノ又はジアルキルエステル、イタコン酸モノ又はジアルキルエステル、メチルビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルトリメトキシシラン等を併用して含有させることもできる。
【0040】
アクリル樹脂は、カルボキシル基を有し、その酸価が40mgKOH/g以下であることが望ましい。これにより、上述したオキサゾリン基とカルボキシル基とが反応し、被覆層は部分的に架橋しながらも柔軟性を維持でき、一層の凝集力向上と無機薄膜の応力緩和が両立できる。より好ましい酸価は20mgKOH/g以下、さらに好ましい酸価は10mgKOH/g以下である。酸価が40mgKOH/gを超えると、架橋が進みすぎることによって被覆層の柔軟性が低下し、レトルト処理時の無機薄膜層への応力が増加する虞がある。
【0041】
被覆層を構成する被覆層用樹脂組成物中のアクリル樹脂の含有割合は、組成物中の全樹脂成分(例えば前記オキサゾリン基を有する樹脂、アクリル樹脂および後述するウレタン樹脂の合計)100質量%中、10〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは20〜50質量%であるのがよい。アクリル樹脂の含有割合が10質量%未満であると、耐水性、耐溶剤性の効果が十分に発揮されない場合があり、一方、60質量%を超えると、被覆層が硬くなりすぎるため、レトルト処理時の無機薄膜層への応力負荷が増大する傾向にある。
【0042】
(ウレタン樹脂)
被覆層用樹脂組成物は、ウレタン樹脂を含有することが好ましい。
ウレタン樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物とを常法に従って反応させることにより得られる水溶性または水分散性樹脂等の水性樹脂を用いることができる。特に、水性ポリウレタン樹脂は水媒体との親和性を高めるため、カルボキシル基またはその塩等を含有するものが好ましく用いられる。なお、これらウレタン樹脂の構成成分は、核磁気共鳴分析などにより特定することが可能である。
【0043】
ウレタン樹脂の構成成分であるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。
【0044】
ウレタン樹脂の構成成分であるポリイソシアネート化合物としては、例えば、トルイレンジイソシアネートの異性体類、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、キシリレンジイソシアネート等の芳香族脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート類、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、あるいはこれらの化合物を単一あるいは複数でトリメチロールプロパン等とあらかじめ付加させたポリイソシアネート類が挙げられる。
【0045】
ウレタン樹脂にカルボキシル基またはその塩を導入するには、例えば、ポリオール成分(ポリヒドロキシ化合物)として、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸などのカルボキシル基を有するポリオール化合物を用いることで共重合成分として導入し、塩形成剤により中和すればよい。塩形成剤の具体例としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリ−n−ブチルアミンなどのトリアルキルアミン類、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンなどのN−アルキルモルホリン類、N−ジメチルエタノールアミン、N−ジエチルエタノールアミンなどのN−ジアルキルアルカノールアミン類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
ウレタン樹脂は、カルボキシル基を有し、その酸価が10〜40mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。これにより、上述したオキサゾリン基とカルボキシル基とが反応し、被覆層は部分的に架橋しながらも柔軟性を維持でき、一層の凝集力向上と無機薄膜の応力緩和が両立できる。より好ましくは15〜35mgKOH/gの範囲内、さらに好ましくは20〜30mgKOH/gの範囲内である。
【0047】
被覆層を構成する被覆層用樹脂組成物中のウレタン樹脂の含有割合は、組成物中の全樹脂成分(例えば前記オキサゾリン基を有する樹脂、アクリル樹脂および後述するウレタン樹脂の合計)100質量%中、10〜60質量%であることが好ましく、より好ましくは15〜55質量%、さらに好ましくは20〜50質量%であるのがよい。上記範囲でウレタン樹脂を含有させることにより、耐水性の向上が期待できる。そして、水性ポリウレタン系樹脂は、水性アクリル系樹脂と共に使用される。
【0048】
被覆層用樹脂組成物において、該組成物中のオキサゾリン基量[mmol]に対するカルボキシル基量[mmol]が20mmol%以下になっていることが好ましく、より好ましくは15mmol%以下になっていることである。カルボキシル基量が20mmol%を超えると、被覆層形成時に架橋反応が進みすぎることによってオキサゾリン基を多量に消費してしまうことになり、無機薄膜層との密着性および被覆層の柔軟性が低下し、その結果、レトルト処理後のガスバリア性や密着性を損なう虞がある。
なお、被覆層用樹脂組成物には、本発明を損なわない範囲で、静電防止剤、滑り剤、アンチブロッキング剤などの公知の無機、有機の各種添加剤を含有させてもよい。
【0049】
被覆層の形成方法は、特に限定されるものではなく、例えばコート法など従来公知の方法を採用することができる。コート法の中でも好適な方法としては、オフラインコート法、インラインコート法を挙げることができる。例えば基材フィルムを製造する工程で行うインラインコート法の場合、乾燥や熱処理の条件は、コート厚みや装置の条件にもよるが、コート後直ちに直角方向の延伸工程に送入し延伸工程の予熱ゾーンあるいは延伸ゾーンで乾燥させることが好ましく、そのような場合には通常50〜250℃程度の温度で乾燥を行うことが好ましい。
【0050】
[無機薄膜層]
本発明の積層フィルムにおいて、前記被覆層のさらにその上には無機薄膜層が積層される。無機薄膜層は金属または無機酸化物からなる薄膜である。無機薄膜層を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、ガスバリア性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合物等の無機酸化物が好ましく挙げられる。特に、薄膜層の柔軟性と緻密性を両立できる点からは、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物が好ましい。この複合酸化物において、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合比は、金属分の質量比でAlが20〜70%の範囲であることが好ましい。Al濃度が20%未満であると、水蒸気バリア性が低くなる場合があり、一方、70%を超えると、無機薄膜層が硬くなる傾向があり、印刷やラミネートといった二次加工の際に膜が破壊されてバリア性が低下する虞がある。なお、ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO2等の各種珪素酸化物又はそれらの混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやAl23等の各種アルミニウム酸化物又はそれらの混合物である。
【0051】
無機薄膜層の膜厚は、1nm以上が好ましく、より好ましくは5nm以上であり、800nm以下が好ましく、より好ましくは500nm以下である。無機薄膜層の膜厚が1nm未満であると、満足のいくガスバリア性が得られ難くなる場合があり、一方、800nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0052】
無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、蒸着法など公知の薄膜形成法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する典型的な方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜を例に説明する。蒸着法による無機薄膜形成法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)などが適宜用いられる。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiO2とAl23の混合物、あるいはSiO2とAlの混合物等が好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際、各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm〜5mmである。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、基材フィルムにバイアスを印加したり、基材フィルムを加熱もしくは冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、基板バイアス、加熱・冷却などは、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。
【0053】
[ガスバリア性樹脂組成物層]
本発明の積層フィルムにおいて、前記無機薄膜層のさらにその上にはガスバリア性樹脂組成物層が積層される。ガスバリア性樹脂組成物層は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下「EVOH」と称することがある)からなるガスバリア性樹脂と、無機層状化合物と、添加剤とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成される。以下、ガスバリア性樹脂組成物の個々の構成ごとに説明する。
【0054】
(1)ガスバリア性樹脂
ガスバリア性樹脂として用いることができるエチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVOH)としては、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが挙げられる。エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものの具体例としては、エチレン及び酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られるもの、並びに、エチレン及び酢酸ビニルとともに、その他の単量体を共重合して得られるエチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られるものが挙げられる。エチレン−酢酸ビニル系共重合体において、共重合前の単量体成分におけるエチレン比率(エチレンの含有率)は20モル%〜60モル%であることが好ましく、より好ましくは20〜50モル%である。エチレン比率が20モル%未満であると、高湿度下におけるガスバリア性が低下する虞があり、またレトルト処理後のラミネート強度が低下する場合がある。一方、エチレン比率が60モル%を超えると、全般に渡ってのガスバリア性が低下する傾向がある。前記エチレン−酢酸ビニル系共重合体は、酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%以上のものが好ましい。酢酸ビニル成分のケン化度が95モル%未満であると、ガスバリア性や耐油性が不充分になる傾向がある。
【0055】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVOH)は、溶剤中での溶解安定性を向上させるために、過酸化物等により処理して分子鎖切断し、低分子量化したものであってもよい。このとき用いることのできる過酸化物としては、例えば下記(i)〜(vii)のタイプのものが挙げられる。
(i)過酸化水素(H22
(ii)M22型(M:Na、K、NH、Rb、Cs、Ag、Li等)
(iii)M’O2型(M’:Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cs、Hg等)
(iv)R−O−O−R型(R:アルキル基、以下の「R」も同様):過酸化ジエチル等の過酸化ジアルキル類
(v)R−CO−O−O−CO−R型:過酸化ジアセチル、過酸化ジアミル、過酸化ジベンゾイル等の過酸化アシル等
(vi)過酸化酸型
a)−O−O−結合を持つ酸:過硫酸(H2SO5)、過リン酸(H3PO5)等
b)R−CO−O−OH:過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸等
(vii)過酸化水素包含物:(NaOOH)2/H22、(KOOH)2/3H22
これらの中でも特に(i)過酸化水素が、後に還元剤、還元性酵素もしくは触媒を用いて容易に分解できる点で好ましい。
【0056】
EVOH(例えば、エチレン−酢酸ビニル系共重合体をケン化して得られた重合体)を過酸化物で処理する方法としては特に限定されず、公知の処理方法を用いることができる。具体的には、例えば、EVOHを溶解した溶液(以下、「EVOH溶液」と称することもある)に、過酸化物や分子鎖切断を行うための触媒(例えば、硫酸鉄等)を添加し、攪拌下で40〜90℃で加熱する方法が挙げられる。
【0057】
より詳しくは、過酸化物として過酸化水素を使用する方法を例にとると、EVOH溶液(例えば、後述する溶剤中に溶解させた溶液)に過酸化水素(通常は35質量%水溶液)を添加し、攪拌下で、温度40℃〜90℃、1時間〜50時間の条件で処理すればよい。過酸化水素(35質量%水溶液)の添加量は、溶液中のEVOH100質量部に対して3質量部〜300質量部程度である。また、分子鎖切断を行うための触媒として、酸化分解の反応速度を調整するため、金属触媒(CuCl、CuSO、MoO、FeSO、TiCl、SeO等)をEVOH溶液当たり1ppm〜5000ppm(質量基準、以下同じ)程度添加してもよい。かかる処理の終了時点は、溶液の粘度が初期の1割程度以下となった点を一つの目安とすることができる。処理終了後の溶液から公知の方法にて溶媒を除去することにより、分子末端に0.03meq/g〜0.2meq/g程度のカルボキシル基を有する末端カルボン酸変性EVOHを得ることができる。
【0058】
前記ガスバリア性樹脂の含有量は、ガスバリア性樹脂、後述する無機層状化合物及び添加剤(c)の合計100質量%中、66質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは79質量%以上であり、最も好ましくは83質量%以上であり、99.6質量%以下であることが好ましく、より好ましくは99質量%以下、さらに好ましくは98質量%以下、最も好ましくは91.5質量%以下である。
【0059】
(2)無機層状化合物
前記無機層状化合物としては、スメクタイト、カオリン、雲母、ハイドロタルサイト、クロライト等の粘土鉱物(その合成品を含む)を挙げることができる。具体的には、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、カオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイト、加水ハロイサイト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、金雲母、タルク、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等を挙げることができる。また無機層状化合物として鱗片状シリカ等も使用できる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、特にスメクタイト(その合成品も含む)が水蒸気バリア性の向上効果が高いことから好ましい。
【0060】
また無機層状化合物としては、その中に酸化還元性を有する金属イオン、特に鉄イオンが存在するものが好ましい。さらに、このようなものの中でも、塗工適性やガスバリア性の点からはモンモリロナイトが好ましい。モンモリロナイトとしては、従来からガスバリア剤に使用されている公知のものが使用できる。例えば、下記一般式:
(X,Y)2〜3410(OH)2・mH2O・(Wω)
(式中、Xは、Al、Fe(III)、Cr(III)を表す。Yは、Mg、Fe(II)、Mn(II)、Ni、Zn、Liを表す。Zは、Si、Alを表す。Wは、K、Na、Caを表す。H2Oは、層間水を表す。m及びωは、正の実数を表す。)
で示されるモンモリロン石群鉱物を使用することができる。これらの中でも、式中のWがNaであるものが水性媒体中でへき開する点から好ましい。
【0061】
無機層状化合物の大きさや形状は、特に制限されないが、粒径(長径)としては5μm以下が好ましく、そのアスペクト比としては50〜5000、より好ましくは200〜3000である。
【0062】
ガスバリア性樹脂組成物中の無機層状化合物の含有量は、前記ガスバリア性樹脂、無機層状化合物および後述する添加剤の合計100質量%中、0.1〜9.0質量%であることが重要である。好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上であり、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。無機層状化合物が0.1質量%未満であると、ガスバリア性が低下したり、レトルト処理後のラミネート強度が低下したりする。無機層状化合物が9.0質量%を超えると、レトルト処理後のラミネート強度が低下するとともに、レトルト処理後のガスバリア性が低下する場合がある。これは、レトルト処理により層間剥離強度が低下するために無機薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層間で剥離が生じたり、ガスバリア性樹脂組成物層の柔軟性が低下するためにレトルト処理時のシャワー水の応力によりガスバリア性樹脂組成物層に亀裂が入ったりする等の理由により、ガスバリア性が低下しやすくなるからと推測される。
【0063】
ちなみに、従来、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物の含有量が少ない場合にはガスバリア性は低くなり、多い場合にはガスバリア性は高くなると考えられていた。しかし、本発明のように無機薄膜層と積層する場合においては、ガスバリア性樹脂組成物層中の無機層状化合物の含有量が上記のように比較的少ない場合であっても、無機薄膜との相乗効果により高いガスバリア性を示す。これは、無機薄膜層上に形成されたガスバリア性樹脂組成物層は無機薄膜のピンホールや割れによって生じた欠点を埋める機能を果たすとともに、無機薄膜の割れなどの破損を防ぐ機能をも発揮するからであり、しかも、かかる機能は無機層状化合物の含有量が少なくても十分に発現されるので、無機層状化合物の含有量に拘らず高いガスバリア性を確保できるものと考えられる。逆に、無機層状化合物の含有量が多くなると、レトルト処理時の層間接着力の低下、膜の柔軟性の低下といった現象が現れ、無機薄膜の破損を防ぐ機能が低下して、全体としてはそれ以上のガスバリア性の向上効果が得られないだけでなく、逆にガスバリア性の低下につながることになると考えられる。
【0064】
(3)添加剤
前記添加剤としては、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種が用いられる。これらの添加剤は、層間接着性の向上に寄与する。カップリング剤は、樹脂組成物に使用されるものであれば特に限定されないが、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤(以下「有機官能基含有シランカップリング剤」と称することもある)が好ましく、架橋剤としては、水素結合性基用架橋剤が好ましい。添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
(シランカップリング剤)
有機官能基含有シランカップリング剤が有する有機官能基としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基、イソシアネート基などが挙げられる。
具体的には、エポキシ基含有シランカップリング剤としては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0066】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−[N−(2−アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0067】
アルコキシ基含有シランカップリング剤としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0068】
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0069】
(水素結合用架橋剤)
水素結合性基用架橋剤としては、水酸基やカルボキシル基などの水素結合性基の間に介在しうる化合物であればよく、例えば、水溶性ジルコニウム化合物、水溶性チタン化合物などが挙げられる。
水溶性ジルコニウム化合物の具体例としては、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムナトリウム、乳酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム八水和物、オキシ塩化ジルコニウム、モノヒドロキシトリス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、テトラキス(ラクテート)ジルコニウムアンモニウム、モノヒドロキシトリス(スレート)ジルコニウムアンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、塗布凝集力の向上効果及びラミネート用ガスバリア性樹脂組成物としての安定性の点から、塩酸化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウムが好ましく、特に塩酸化ジルコニウムが好ましい。
【0070】
水溶性チタン化合物の具体例としては、チタンラクテート、チタンラクテートアンモニウム塩、ジイソプロポキシチタン(トリエタノールアミネート)、ジ−n−ブトキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、チタンテトラキス(アセチルアセトナート)等が挙げられる。
【0071】
前記添加剤の含有量(カップリング剤及び架橋剤の合計量)は、ガスバリア性樹脂、無機層状化合物及び添加剤の合計100質量%中、0.3質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、最も好ましくは8質量%以上であり、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、最も好ましくは12質量%以下である。添加剤の含有量が0.3質量%未満であると、レトルト処理後のラミネート強度が低下することがあり、一方、20質量%を超えると、架橋しすぎることで硬く脆い膜になり、レトルト処理の際に、無機薄膜層とともに割れて劣化し、ガスバリア性が低下する虞がある。
【0072】
ガスバリア性樹脂組成物層の形成は、例えば、1)ガスバリア性樹脂組成物を構成する各材料を溶媒に溶解・分散させた塗工液を用意し、これをガスバリア性樹脂組成物層形成面(例えば無機薄膜層や後述するアンカーコート層など)に塗工する方法、2)ガスバリア性樹脂組成物を溶融して、ガスバリア性樹脂組成物層形成面に押し出してラミネートする方法、3)ガスバリア性樹脂組成物を構成する各材料を用いてフィルムを別途作成し、これをガスバリア性樹脂組成物層形成面に接着剤等で貼り合わせる方法、などが挙げられる。これらの中でも1)の塗工液を用いる方法が簡便性、生産性等の点で好ましい。
以下、ガスバリア性樹脂組成物層の形成方法の一例として、上記1)の方法について説明する。
【0073】
ガスバリア性樹脂組成物を塗工液とするための溶媒(溶剤)としては、EVOHを溶解し得る水性または非水性の溶剤を使用できるが、水と低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。具体的には、水と炭素数2〜4の低級アルコール(エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等)との混合溶剤が好適である。このような混合溶剤を使用するとEVOHの溶解性が良好となり、適度な固形分を維持できる。前記混合溶媒中の低級アルコールの含有量は15質量%〜70質量%が好ましい。混合溶剤中の低級アルコール含有量が70質量%を超えると、無機層状化合物を分散させた場合にへき開が不充分になることがあり、一方、15質量%未満であると、ガスバリア性樹脂組成物を溶解、分散させた塗工液の塗工適性が低下する傾向がある。
【0074】
ガスバリア性樹脂組成物(該樹脂組成物を構成する各材料)を溶媒(溶剤)に溶解、分散させる方法は、特に限定されないが、例えば、ガスバリア性樹脂として用いるEVOHと無機層状化合物とは、予めEVOHを溶解させた溶液中に、無機層状化合物(必要に応じて予め水等の分散媒体中に膨潤・へき開させておいてもよい)を添加してもよいし、あるいは、予め水等の分散媒体中に無機層状化合物を膨潤・へき開させておいた分散液中に、EVOH(必要に応じて予め溶剤に溶解させておいてもよい)を添加してもよい。なお、添加剤は、どのタイミングで添加してもよく、例えば、上述したEVOHの溶液や無機層状化合物の分散液の中に予め添加しておいてもよいのであるが、できるだけ添加剤の影響を抑えるという観点からは最終段階(ガスバリア性樹脂と無機層状化合物を混合した後)で添加することが好ましい。
【0075】
ガスバリア性樹脂組成物(該樹脂組成物を構成する各材料)を混合するにあたり、無機層状化合物を均一に分散させるには、従来公知の攪拌装置や分散装置を利用すればよいのであるが、特に透明で安定な無機層状化合物の分散液を得るには、高圧分散機(例えば、APVゴーリン社製の「ゴーリン」、ナノマイザー社製の「ナノマイザー」、マイクロフライデックス社製の「マイクロフルイタイザー」、スギノマシン社製の「アルチマイザー」、Bee社製の「DeBee」など)を使用することが好ましい。これら高圧分散機の圧力条件としては100MPa以下とすることが好ましい。圧力条件が100MPaを超えると、無機層状化合物の粉砕が起こり易くなり、目的であるガスバリア性が低下する虞がある。
塗工の方式は、グラビアコート、バーコート、ダイコート、スプレーコート等従来の方式を塗工液の特性に合わせて採用することができる。
【0076】
ガスバリア性樹脂組成物の塗工液を塗工した後には、必要に応じて加熱乾燥を施すことができる。その場合、乾燥温度は好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは200℃以下である。乾燥温度が100℃未満であると、塗工層の乾燥不足が生じて、塗工層の結晶性や架橋が進行しにくくなるため、レトルト処理後のガスバリア性やラミネート強度が低下する虞があり、一方、200℃を超えると、基材フィルムに熱がかかりすぎてしまいフィルムが脆くなったり、収縮が生じ加工性が悪化する虞がある。また、別処理工程での追加の熱処理、例えば一度フィルムを巻き取った後、巻き返しながら、またはロールで、或はラミネート工程等の後工程を行う前やその途中で追加の加熱処理(150〜200℃)を行うことも効果的である。
【0077】
以上のようにして形成されたガスバリア性樹脂組成物層の膜厚は、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.08μm以上であり、0.70μm以下が好ましく、より好ましくは0.50μm以下、さらに好ましくは0.30μm以下である。ガスバリア性樹脂組成物層の膜厚が0.01μm未満であると、レトルト処理後のガスバリア性が低下する虞があり、一方、0.70μmを超えると、塗工時に乾燥不足が生じて膜が脆くなりやすく、レトルト処理後のラミネート強度の低下が生じる虞がある。
【0078】
[その他の層(アンカーコート層)]
本発明では、無機薄膜層上にアンカーコート層を設け、該アンカーコート層上にガスバリア性樹脂組成物層を設けるようにしても良い。アンカーコート層を設けることにより、無機薄膜層とガスバリア性樹脂組成物層との接着力をより向上させることができる。
【0079】
アンカーコート層は、アンカーコート剤組成物と溶媒とを含有するアンカーコート層形成用塗工液を用いて形成される。アンカーコート剤組成物としては、例えば、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、チタン系、イソシアネート系、イミン系、ポリブタジエン系等の樹脂の1種以上と、エポキシ系、イソシアネート系、メラミン系等の硬化剤の1種以上とを混合したものが挙げられる。前記溶媒(溶剤)としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤;メタノール、エタノール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコール誘導体;等が挙げられる。
【0080】
前記アンカーコート剤組成物は、有機官能基を1種類以上有するシランカップリング剤を含有していることが好ましい。前記有機官能基としては、アルコキシ基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。かかるシランカップリング剤の具体例としては、ガスバリア性樹脂組成物を構成する添加剤として例示したシランカップリング剤と同様である。前記シランカップリング剤の含有量としては、アンカーコート剤組成物(樹脂、硬化剤及びシランカップリング剤)の合計100質量%中、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、10質量%以下が好ましく、より好ましくは7質量%以下である。アンカーコート剤組成物中のシランカップリング剤の含有量が0.1質量%未満であると、レトルト処理後のラミネート強度が低下する虞があり、一方、10質量%を超えると、硬く脆い膜になり、レトルト処理の際に無機薄膜層とともに割れて劣化し、ガスバリア性が低下する虞がある。
【0081】
アンカーコート層の膜厚は、0.01μm以上が好ましく、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上、最も好ましくは0.15μm以上であり、0.7μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.3μm以下である。アンカーコート層の膜厚が0.01μm未満であると、レトルト処理後のラミネート強度が低下する虞があり、一方、0.70μmを超えると、コート斑が発生してバリア性が低下したり、ブロッキングが発生したりする虞がある。
【0082】
[積層構成]
本発明の積層フィルムは、基材フィルム側から、少なくとも被覆層/無機薄膜層/ガスバリア性樹脂組成物層を順に備えていればよく、上記アンカーコート層のごとく各層の間に他の層が設けられていてもよい。
例えば、本発明の積層フィルムを包装材料として使用する場合には、無機薄膜層上にシーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層を形成することが好ましい。ヒートシール性樹脂層の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、PP樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−αオレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂などを使用できる。
【0083】
また本発明の積層フィルムを包装材料として使用する場合には、無機薄膜層とヒートシール性樹脂層との間に、ピンホール性や突き刺し強度などの機械特性を向上させるため、ナイロンフィルムを積層することが好ましい。ここでナイロンの種類としては、通常、ナイロン6、ナイロン66、メタキシレンアジパミド等が用いられる。ナイロンフィルムの厚みは、通常10〜30μm、好ましくは15〜25μmである。ナイロンフィルムが10μmより薄いと、強度不足になる虞があり、一方、30μmを超えると、腰が強く加工に適さない場合がある。ナイロンフィルムとしては、縦横の各方向の延伸倍率が、通常2倍以上、好ましくは2.5〜4倍程度の二軸延伸フィルムが好ましい。
【0084】
さらに本発明の積層フィルムには、無機薄膜層または基材フィルムとヒートシール性樹脂層との間またはその外側に、印刷層や他のプラスチック基材および/または紙基材を少なくとも1層以上積層していてもよい。印刷層を形成する印刷インクとしては、水性および溶媒系の樹脂含有印刷インクが好ましく使用できる。ここで印刷インクに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂およびこれらの混合物が例示される。印刷インクには、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸化防止剤などの公知の添加剤を添加してもよい。印刷層を設けるための印刷方法としては、特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの公知の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥など公知の乾燥方法が使用できる。他方、他のプラスチック基材や紙基材としては、充分な積層体の剛性および強度を得る観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂および生分解性樹脂等が好ましい。また、機械的強度の優れたフィルムとする上では、二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ナイロンフィルムを積層することが好ましい。
【実施例】
【0085】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は当然以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0086】
本発明で用いた評価方法および物性測定方法は以下の通りである。
(1)評価用ラミネートフィルムの作製
実施例1〜12および比較例1〜9で得られた各積層フィルムのガスバリア性樹脂組成物層の上に、ウレタン系2液硬化型接着剤を用いたドライラミネート法により、熱接着性樹脂層として無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績株式会社製「P1147」:厚さ70μm)を貼り合わせ、40℃にて4日間エージングを施すことにより、評価用のラミネートガスバリア性積層フィルム(以下「評価用ラミネートフィルム」と称することもある)を得た。なお、ウレタン系2液硬化型接着剤で形成される接着剤層の乾燥後の厚みは4μmであった。
【0087】
(2)酸素透過度の評価方法
上記(1)で作製した評価用ラミネートフィルムについて、JIS−K7126−2の電解センサー法(付属書A)に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OX−TRAN 2/20」)を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で、常態での酸素透過度を測定した。
他方、評価用ラミネートフィルムに対して、温度130℃の加圧熱水中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムについて、上記と同様にして酸素透過度(レトルト処理後)を測定した。
【0088】
(3)水蒸気透過度の評価方法
上記(1)で作製した評価用ラミネートフィルムについて、JIS−K7129−B法に準じて、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN−W 3/33MG」)を用い、温度40℃、湿度100%RHの雰囲気下で、常態での水蒸気透過度を測定した。なお、測定においてフィルムの調湿は、プラスチックフィルム側からガスバリア性樹脂組成物層側に向けて水蒸気が透過するよう方向で行った。
他方、評価用ラミネートフィルムに対して、温度130℃の加圧熱水中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムについて、上記と同様にして水蒸気透過度(レトルト処理後)を測定した。
【0089】
(4)ラミネート強度の評価方法
上記(1)で作製した評価用ラミネートフィルムに対して、温度130℃の加圧熱水中に保持するレトルト処理を30分間施した後、40℃で24時間乾燥し、得られたレトルト処理後のラミネートフィルムを幅15mm、長さ200mmに切り出して試験片とし、温度23℃、相対湿度65%の条件下で、テンシロン万能材料試験機(東洋ボールドウイン社製「テンシロンUMT−II−500型」)を用いてラミネート強度を測定した。なお、ラミネート強度の測定は、引張速度を200mm/分とし、上記(1)でラミネートした積層フィルムと無延伸ポリプロピレンフィルムとの層間に水をつけて、剥離角度90度で剥離させたときの強度を測定した。
【0090】
(5)被覆層の全反射赤外吸収スペクトルの測定方法
実施例1〜12および比較例1〜9において、基材フィルム上に被覆層を形成した段階で得られた各フィルムの被覆層の面について、全反射吸収赤外分光法で全反射赤外吸収スペクトルを測定し、1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピーク(オキサゾリン由来のピーク)のピーク強度(P1)と、1580±10cm-1の領域に吸収極大を持つピーク(ポリエチレンテレフタレート由来のピーク)のピーク強度(P2)を求め、その強度比(P1/P2)を算出した。
ピーク強度の算出に際しては、ピーク強度の比(P1/P2)は各ピークの高さの比に基づき求めた。なお、1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークについては、ピークがショルダーになることから、1600cm-1と1800cm-1を結ぶ線をベースラインとし、一方、1580cm-1のピークのベースラインについては、ピークの両側の袖を結ぶ線とした。
【0091】
(測定条件)
装置:Varian社製「FTS−60A/896」
1回反射ATRアタッチメント:SPECTRA TECH社製「Silver Gate」
光学結晶:Ge
入射角:45°
分解能:4cm-1
積算回数:128回
なお、実施例6および比較例4については、被覆層の厚さが薄く十分な感度が得られない虞があったので、使用する1回反射アタッチメントをより入射角が大きい(65度)アタッチメント(エス・ティ・ジャパン社製「VeeMax」)に代えて測定した。
【0092】
(6)被覆層の膜厚(D)の測定方法
各実施例および比較例において基材フィルムに被覆層のみを積層した段階での積層フィルムを試料とし、該試料を斜め切削し、得られた斜め切削面を観察し、被覆層表面から、被覆層/基材フィルムの界面までの高さを測定することにより、被覆層の膜厚(D)(nm)を求めた。
【0093】
なお、試料の斜め切削は、ダイプラウインテス社製「SAICAS NN04」を使用し、切刃にダイアモンドナイフを用い、水平速度500nm/秒、垂直速度20nm/秒の条件で実施した。被覆層/基材フィルムの界面は、被覆層と基材フィルムの物性が異なるため、切削角度が界面で変化すること、SPMによる位相像において被覆層と基材フィルムでコントラストが変化すること、被覆層と基材フィルムでは切削面の凹凸状態が変化すること、などから容易に認識することが可能であった。
【0094】
斜め切削面の観察は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製「SPA300(Nanonaviプローブステーション)」)を使用して(カンチレバー:同社から提供されるDF3又はDF20を使用、観察モード:DFMモード)実施した。詳しくは、被覆層表面と斜め切削面とが1視野内に入るようにして観察し、被覆層表面の平坦化処理を行うことにより、観察像の傾き補正を実施した。平坦化処理は、SPM付属のソフトウエアの機能であるマニュアル傾き補正を使用し、X方向・Y方向の傾き補正を行った。なお、被覆層/基材フィルム界面は観察視野全体の平坦化処理(ソフトウエアの機能である、2次傾き補正等)を行った像から、切削法の欄で記述した方法で決定した。
【0095】
上記(5)、(6)の測定結果より、赤外吸光度比(P1/P2)および被覆層の厚み(D)のデータを用いて、各実施例および比較例で得られた積層フィルムの(P1/P2)/Dの値を求めた。
【0096】
(7)オキサゾリン基を有する樹脂のオキサゾリン基量
オキサゾリン基を有する樹脂を凍結乾燥し、核磁気共鳴分析計(NMR)(ヴァリアン社製「ジェミニ−200」)を用いたH−NMR分析から、オキサゾリン基に由来する吸収ピーク強度と、その他のモノマーに由来する吸収ピーク強度とを求め、そのピーク強度からオキサゾリン基量(mmol/g)を算出した。
【0097】
<被覆層用樹脂組成物に用いる各材料の調製>
(オキサゾリン基を有する樹脂(A−1))
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、イソプロピルアルコール460.6部を仕込み、緩やかに窒素ガスを流しながら80℃に加熱した。そこへ、予め調製しておいたメタクリル酸メチル126部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン210部およびメトキシポリエチレングリコールアクリレート84部からなる単量体混合物と、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ヒドラジン工業株式会社製「ABN−E」)21部およびイソプロピルアルコール189部からなる開始剤溶液とを、それぞれ滴下漏斗から2時間かけて滴下して反応させ、滴下終了後も引き続き5時間反応させた。反応中は窒素ガスを流し続け、フラスコ内の温度を80±1℃に保った。その後、反応液を冷却して重合体を得、得られた重合体をイオン交換水に溶解させることにより、固形分濃度25質量%のオキサゾリン基を有する樹脂(A−1)を得た。オキサゾリン基を有する樹脂(A−1)のオキサゾリン基量は4.3mmol/g、数平均分子量は20000であった。
【0098】
(オキサゾリン基を有する樹脂(A−2))
上記オキサゾリン基を有する樹脂(A−1)の合成と同様の方法で、オキサゾリン基量および分子量の異なる固形分濃度10質量%のオキサゾリン基を有する樹脂(A−2)を調製した。オキサゾリン基を有する樹脂(A−2)のオキサゾリン基量は7.7mmol/g、数平均分子量は40000であった。
【0099】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂として、市販のアクリル酸エステル共重合体の25質量%エマルジョン(ニチゴー・モビニール(株)社製「モビニール7980」)を用意した。このアクリル樹脂の酸価(理論値)は4mgKOH/gであった。
【0100】
(ウレタン樹脂)
撹拌機、ジムロート冷却器、窒素導入管、シリカゲル乾燥管および温度計を備えた4つ口フラスコに、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン72.96部と、ジメチロールプロピオン酸12.60部と、ネオペンチルグリコール11.74部と、ポリエステルジオール(数平均分子量2000)112.70部と、溶剤としてアセトニトリル85.00部およびN−メチルピロリドン5.00部とを投入し、窒素雰囲気下、75℃において3時間撹拌し、反応液が所定のアミン当量に達したことを確認した。次いで、この反応液を40℃まで降温した後、トリエチルアミン9.03部を添加し、ポリウレタンプレポリマー溶液(イソシアネート基末端プレポリマー)を得た。
次に、高速攪拌可能なホモディスパーを備えた反応容器に、水450部を添加し、25℃に調整して2000min-1で攪拌混合しながら、上記で得られたポリウレタンプレポリマー溶液の全量を添加して水分散させた。その後、減圧下でアセトニトリルおよび水の一部を除去して、固形分30%の水溶性ポリウレタン樹脂を得た。このウレタン樹脂の酸価(理論値)は25mgKOH/gであった。
【0101】
<ガスバリア性樹脂組成物に用いる各材料の調製>
(エチレン−ビニルアルコール系共重合体溶液)
精製水20.996部とn−プロピルアルコール(NPA)51部との混合溶媒に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(日本合成化学社製「ソアノール V2603」;エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化して得られた重合体、エチレン比率26モル%、酢酸ビニル成分のケン化度約100%;以下「EVOH」と称することがある)15部を加え、さらに濃度30%の過酸化水素水13部と硫酸鉄(FeSO4)0.004部とを添加し、攪拌下で80℃に加温して約2時間反応させた。その後、冷却し、カタラーゼを3000ppmになるように添加して残存過酸化水素を除去して、固形分15質量%のほぼ透明なエチレン−ビニルアルコール系共重合体溶液(EVOH溶液)を得た。
【0102】
(ポリビニルアルコール溶液)
精製水40質量%およびn−プロピルアルコール(NPA)60質量%からなる混合溶剤(以下これを「混合溶剤A」と称する)70部に、完全けん化ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学社製「ゴーセノール(登録商標)NL−05」;けん化度99.5%以上;以下「PVA」と称することがある)30部を加えて溶解させることにより、固形分30%の透明なポリビニルアルコール溶液(PVA溶液)を得た。
【0103】
(無機層状化合物分散液)
無機層状化合物であるモンモリロナイト(クニミネ工業社製「クニピア(登録商標)F」)4部を精製水96部中に攪拌しながら添加し、高圧分散装置にて圧力50MPaの設定にて充分に分散した。その後、40℃にて1日間保温して、固形分4%の無機層状化合物分散液を得た。
【0104】
(添加剤)
添加剤として以下のものを用意した。
架橋剤:塩酸化ジルコニウム(第一稀元素化学社製「ジルコゾール(登録商標)Zc−20」、固形分20%)
【0105】
<基材フィルムの作製>
極限粘度0.62(30℃、フェノール/テトラクロロエタン(質量比)=60/40)のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)を予備結晶化した後、本乾燥し、Tダイを有する押出機を用いて280℃で押出し、表面温度40℃のドラム上で急冷固化して無定形シートを得た。次に、この無定形シートを加熱ロールと冷却ロールとの間で縦方向に100℃で4.0倍に延伸し、一軸延伸PETフィルムを得た。
【0106】
(実施例1)
(1)被覆層の形成
まず、水が67.53質量%、イソプロパノールが5.00質量%、上記で調製したオキサゾリン基を有する樹脂(A−2)が20.00質量%、上記で調製したアクリル樹脂が4.80質量%、上記で調製したウレタン樹脂が2.67質量%(以上、合計100質量%)となるように各材料を混合し、被覆層形成用の塗工液を得た。ここでオキサゾリン基を有する樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂の固形分換算の質量比は表1に示す通りである。
得られた塗工液を、上記で作製した一軸延伸PETフィルムの片面にファウンテンバーコート法により塗布した後、乾燥しながらテンターに導き、予熱温度100℃で溶媒を揮発、乾燥させた。次いで、温度120℃で横方向に4.0倍に延伸し、6%の横方向の弛緩を行いながら、225℃で熱固定処理を行うことにより、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に被覆層が形成されてなるフィルム(被覆層を備えたフィルム)を得た。
なお、このフィルムについて全反射赤外吸収スペクトル測定および膜厚測定を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(2)無機薄膜層の形成
上記(1)で得られたフィルムの被覆層形成面に、無機薄膜層として二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物層を、電子ビーム蒸着法により形成した。蒸着源としては、3mm〜5mm程度の粒子状のSiO2(純度99.9%)およびA123(純度99.9%)を用いた。ここで複合酸化物層の組成は、SiO2/A123(質量比)=60/40であった。またこのようにして得られたフィルム(無機薄膜層/被覆層含有フィルム)における無機薄膜層(SiO2/A123複合酸化物層)の膜厚は13nmであった。このようにして被覆層および無機薄膜層を備えたフィルムを得た。
【0108】
(3)アンカーコート層の形成
まず、樹脂、硬化剤及びシランカップリング剤からなるアンカーコート剤組成物と溶媒とを含むアンカーコート層形成用の塗工液を調製した。
すなわち、ウレタン系樹脂(三井化学ポリウレタン株式会社製「タケラック(登録商標)A525−S」)およびイソシアネート系硬化剤(三井化学ポリウレタン株式会社製「タケラック(登録商標)A−50」)を混合し、溶媒として酢酸エチルを用いて固形分濃度が6.5%になるよう調整した。ここに、エポキシ系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製「KBM403」)を、アンカーコート剤組成物(樹脂、硬化剤及びシランカップリング剤の合計)100質量%中の含有量が5質量%となるように添加し、アンカーコート層形成用の塗工液を得た。
得られたアンカーコート層形成用の塗工液を、上記(2)で得られたフィルムの無機薄膜層の上にグラビアロールコート法によって塗布し乾燥させて、乾燥膜厚が0.30μmのアンカーコート層を形成した。このようにして被覆層、無機薄膜層およびアンカーコート層を備えたフィルムを得た。
【0109】
(4)ガスバリア性樹脂組成物層の形成
まず、ガスバリア性樹脂組成物層形成用の塗工液を調製した。
すなわち、混合溶剤A(精製水:NPA(質量比)=40:60)62.30部に、ガスバリア性樹脂としてEVOHを含む上記EVOH溶液を31.75部添加し、充分に攪拌混合した。さらにこの溶液に、高速攪拌を行いながら、上記無機層状化合物分散液5.95部を添加した。この混合分散液100部に対して、3部の陽イオン交換樹脂を添加し、イオン交換樹脂の破砕が起きない程度の攪拌速度で1時間攪拌して陽イオンの除去を行った後、陽イオン交換樹脂のみをストレーナで濾別した。以上の操作で得られた混合分散液を、さらに高圧分散装置にて圧力50MPaの設定で分散処理した後、分散処理した混合分散液97部に対して、添加剤として架橋剤(塩酸化ジルコニウム)を0.75部と、上記混合溶剤Aを2.25部添加し混合攪拌を行い、それを255メッシュのフィルターにて濾過し、固形分5%のガスバリア性樹脂組成物層形成用の塗工液を得た。この塗工液において、ガスバリア性樹脂(固形分)、無機層状化合物(固形分)および添加剤(固形分)の合計100質量%に対する無機層状化合物(固形分)の含有量(以下、単に「無機層状化合物の含有量」と称する)は、表1に示す通りである。
得られた塗工液を、上記(3)で得られたフィルムのアンカーコート層上にグラビアロールコート法によって塗布し、160℃で乾燥させて、乾燥膜厚が0.25μmのガスバリア性樹脂組成物層を形成した。
以上のようにして、基材フィルムの上に被覆層/無機薄膜層/アンカーコート層/ガスバリア性樹脂組成物層を備えた積層フィルムを作製した。得られた積層フィルムについて、上記の通り、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例2〜8、比較例1〜4)
被覆層形成用の塗工液を調製するにあたり、オキサゾリン基を有する樹脂、アクリル樹脂およびウレタン樹脂の固形分換算の質量比が表1に示す通りとなるよう各材料の使用量を変更し(このとき、塗工液全量に占めるイソプロパノールの比率は、実施例1と同様、5.00質量%とした)、あるいは被覆層の膜厚が表1に示す通りとなるよう塗工液の塗布量を変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例9、10、比較例5〜8)
ガスバリア性樹脂組成物層形成用の塗工液を調製するにあたり、無機層状化合物の含有量が表1に示す通りとなるよう無機層状化合物分散液の使用量を変更するか、ガスバリア性樹脂の種類を変更(EVOH溶液に代えてPVA溶液を使用)するか、もしくは添加剤(塩酸化ジルコニウム)を使用しないようにするか、の変更を行ったこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。なお、表中「デラミ」とはデラミネーション(剥離)を意味する。
【0112】
(実施例11)
無機薄膜層を形成するにあたり、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物層の組成がSiO2/A123(質量比)=50/50になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例12)
無機薄膜層を形成するにあたり、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物層の組成がSiO2/A123(質量比)=40/60になるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製し、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(比較例9)
被覆層およびガスバリア性樹脂組成物層を設けなかったこと以外、実施例1と同様にして、積層フィルムを作製し、酸素透過度、水蒸気透過度およびラミネート強度を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明により、レトルト処理後であっても、酸素や水蒸気に対して優れたガスバリア性を発揮し、また無機薄膜層を備えた積層体でありながらレトルト処理を施した際においても該無機薄膜とそれに接する樹脂間の層間密着性が高く、良好なラミネート強度を有する積層フィルムが得られる。かかる積層フィルムは、生産安定性および経済性に優れ、均質の特性が得られやすいガスバリア性積層フィルムである。したがって、本発明の積層フィルムは、レトルト用の食品包装に止まらず、各種食品や医薬品、工業製品の包装用途のほか、太陽電池、電子ペーパー、有機EL素子、半導体素子等の工業用途にも広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、被覆層、無機薄膜層およびガスバリア性樹脂組成物層が、他の層を介して又は介さずにこの順に積層されており、
前記被覆層は、少なくともアクリル樹脂を含むとともにオキサゾリン基を有する樹脂をも含む被覆層用樹脂組成物から形成され、該被覆層の膜厚(D)は5〜150nmであり、かつ該被覆層の全反射赤外吸収スペクトルにおいて1655±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P1)と1580±10cm-1の領域に吸収極大を持つピークのピーク強度(P2)との比(P1/P2)と前記被覆層の膜厚(D)とが下記式
0.03≦(P1/P2)/D[nm]≦0.15
に示す関係を満たし、
前記ガスバリア性樹脂組成物層は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体からなるガスバリア性樹脂と、無機層状化合物と、カップリング剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤とを含んでなるガスバリア性樹脂組成物から形成され、該ガスバリア性樹脂組成物中の前記無機層状化合物の含有量が、前記ガスバリア性樹脂、前記無機層状化合物および前記添加剤の合計100質量%中、0.1〜9.0質量%であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
前記被覆層用樹脂組成物中のオキサゾリン基を有する樹脂は、そのオキサゾリン基量が5.1〜9.0mmol/gである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記被覆層用樹脂組成物がウレタン樹脂を含む請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記被覆層用樹脂組成物中のウレタン樹脂がカルボキシル基を有しており、その酸価が10〜40mgKOH/gである請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記被覆層用樹脂組成物中のアクリル樹脂がカルボキシル基を有しており、その酸価が40mgKOH/g以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記オキサゾリン基を有する樹脂、前記アクリル樹脂および前記ウレタン樹脂の合計100質量%中、オキサゾリン基を有する樹脂が20〜70質量%、アクリル樹脂が10〜60質量%、ウレタン樹脂が10〜60質量%である請求項3〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記無機薄膜層が、酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物からなる層である請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記ガスバリア性樹脂組成物中の前記無機層状化合物がスメクタイト粘土鉱物である請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルム。

【公開番号】特開2013−6283(P2013−6283A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138792(P2011−138792)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】