説明

積層フラットハーネス

【課題】金属製のシールド管を用いなくても好適なシールド性能が得られ、配索も容易に行えるようにする。
【解決手段】積層フラットハーネス1は、帯状の絶縁被覆8内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体7,7を幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブル4,4と、外側フラットケーブル4,4の間に配置され、帯状の絶縁被覆11内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体10,10を幅方向に所定間隔をおいて並設した5芯フラットケーブル9をその厚み方向に積層してなる多芯コアフラットケーブル5と、外側フラットケーブル4,4と多芯コアフラットケーブル5との間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサ6,6とを厚み方向に積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のフラットケーブルを厚み方向に積層して構成される積層フラットハーネスの構成に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のスライドドアの給電装置等には、丸線のワイヤハーネスに比べて高い屈曲性を有するフラットケーブルが用いられるが、このフラットケーブルを厚み方向に複数積層した積層フラットハーネスとして自動車内に配索することもある。このような積層フラットハーネスにおいても、高周波電流による電磁ノイズの影響を防止するためにシールドが必要な場合があるが、このシールド手段として、例えば特許文献1には、ワイヤハーネスの中間部を金属製のパイプからなるメインシールド部で被覆し、インバータ装置と接続される端部には、筒状網組部材と接続用パイプとを含む変形可能なサブシールド部で被覆するシールド管の構成が開示されている。また、特許文献2には、ワイヤハーネスを被覆する金属製の筒状部材の端部に螺旋状の接続ネジ部を形成し、これをコネクタハウジングの導入部に形成された雌ネジ部に螺合させて接続するシールド管の構成が開示されている。なお、筒状部材の間には、屈曲用蛇腹部を断続的に形成して、ワイヤハーネスの経路に沿って任意に屈曲可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−171952号公報
【特許文献2】特開2009−123461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のシールド管は金属製であるため、重量が大きくて取り扱い性が悪く、車両の床下等に沿わせて取り付ける際には、ブラケット等の取付部材を介して取り付ける必要があって配置スペースも大きくなっていた。また、定位置に高精度の取り付けが要求されることで作業に手間も掛かっていた。さらに、蛇腹部を設けたりしても柔軟性には限界があるため、一定の車種に適用が制限され、汎用性が低くなっていた。
特に、配索対象が積層フラットハーネスの場合、全体の断面形状が矩形や四角形となるため、シールド管の形成や屈曲が難しく、金属製のシールド管によるシールドが困難となっていた。
【0005】
そこで、本発明は、金属製のシールド管を用いなくても好適なシールド性能が得られ、配索も容易に行えて汎用性にも優れる積層フラットハーネスを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、帯状の絶縁被覆内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブルと、両外側フラットケーブルの間に配置され、帯状の絶縁被覆内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設したフラットケーブルをその厚み方向に複数積層してなる多芯コアフラットケーブルと、各外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルとの間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサと、を厚み方向に積層したことを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、帯状の絶縁被覆内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブルと、両外側フラットケーブルの間に配置され、帯状の絶縁被覆内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体を幅方向及び厚み方向にそれぞれ2芯以上所定間隔をおいて並設してなる多芯コアフラットケーブルと、各外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルとの間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサと、を厚み方向に積層したことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、平面視で外側フラットケーブルの幅広導体の全体幅内に、多芯コアフラットケーブルの幅狭導体が少なくとも2芯以上収まるようにしたことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、積層された外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルと絶縁スペーサとの全体外周をシート状或いはネット状の絶縁体で覆うことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、積層された外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルと絶縁スペーサとを蛇腹構造の合成樹脂管に挿通させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び2に記載の発明によれば、金属管や金属網組等のシールド部材を用いなくてもシールド効果を得ることができる。
また、厚み方向で可撓性を維持しているので、自動車内での配索も容易に行えて汎用性にも優れたものとなる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加えて、より好適なシールド性能を得ることができる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項1乃至3の何れかの効果に加えて、絶縁体の採用によって絶縁の信頼性が高まる。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかの効果に加えて、外管の採用により、積層体が保護されて取り扱い性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】形態1の積層フラットハーネスの説明図である。
【図2】形態1の積層フラットハーネスの横断面図である。
【図3】形態2の積層フラットハーネスの横断面図である。
【図4】(A)〜(C)はそれぞれ比較例の積層フラットハーネスの横断面図である。
【図5】シールド性能の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1,2に積層フラットハーネスの一例を示す。積層フラットハーネス1において、2は横断面が扁平矩形状となる外管で、一般にコルゲートチューブと称される蛇腹構造の合成樹脂管の一方の短手面に、長手方向の全長に亘ってスリット3を形成したものである。これにより、スリット3のある短手面が合成樹脂の弾性を利用して開閉可能となる。
外管2の内部には、上下一対の外側フラットケーブル4,4と、両外側フラットケーブル4,4の間に配置される多芯コアフラットケーブル5と、両外側フラットケーブル4,4と多芯コアフラットケーブル5との間に介在される絶縁スペーサ6,6とが、厚み方向(図1,2の上下方向)に積層された状態で挿通している。
【0010】
まず、外側フラットケーブル4は、板状である一対の幅広導体7,7を左右(図1,2の左右方向)に並設してその周囲を絶縁被覆8で被覆した帯状で、大電流用或いはアース回路用に使用される。
また、多芯コアフラットケーブル5は、板状である5つの幅狭導体10,10・・を等間隔で左右に並設してその周囲を絶縁被覆11で被覆した帯状の5芯フラットケーブル9,9・・を厚み方向に4枚積層して形成されている。この多芯フラットケーブル5は、電流回路或いは信号回路用に使用される。
そして、絶縁スペーサ6は、ポリエチレンやポリプロピレン等の合成樹脂製のシート又はネット状のもので、比透磁率μs(絶縁スペーサの透磁率μと真空の透磁率μとの比)が1以上、比誘電率εr(絶縁スペーサの誘電率εと真空の誘電率εとの比)が3以上のものが使用される。
【0011】
こうして上下の外側フラットケーブル4,4の間に絶縁スペーサ6,6を介して多芯コアフラットケーブル5を配置した状態で、全体をさらに合成樹脂製のシート状或いはネット状の絶縁体12で覆って一つの積層体とし、この積層体をスリット3を介して外管2内に納めれば、積層フラットハーネス1が得られる。
この状態で、ここでは外側フラットケーブル4の2つの幅広導体7,7を合わせた左右の全体幅H内に、平面視で多芯コアフラットケーブル5の全ての幅狭導体10,10・・が収まるようになっている。
【0012】
以上の如く構成された積層フラットハーネス1においては、帯状の絶縁被覆8内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体7,7を幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブル4,4と、外側フラットケーブル4,4の間に配置され、帯状の絶縁被覆11内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体10,10を幅方向に所定間隔をおいて並設した5芯フラットケーブル9をその厚み方向に積層してなる多芯コアフラットケーブル5と、外側フラットケーブル4と多芯コアフラットケーブル5との間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサ6,6とを厚み方向に積層したことで、金属管や金属網組等のシールド部材を用いなくてもシールド効果を得ることができる。
また、厚み方向で可撓性を維持しているので、自動車内での配索も容易に行えて汎用性にも優れたものとなる。
【0013】
特にここでは、平面視で外側フラットケーブル4の幅広導体7,7の全体幅H内に、多芯コアフラットケーブル5の幅狭導体10が全て収まるようにしているので、より好適なシールド性能を得ることができる。
また、外側フラットケーブル4と多芯コアフラットケーブル5と絶縁スペーサ6との積層体の全周を絶縁体12で覆っているので、絶縁の信頼性が高まり、さらに外管2に挿通したことで、積層体が保護されて取り扱い性も向上する。
【0014】
[形態2]
次に、本発明の他の形態を説明する。但し、形態1と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明は省略する。
図3に示す積層フラットハーネス1aにおいては、多芯コアフラットケーブル13の構成が形態1と異なる。ここで使用される多芯コアフラットケーブル13は、板状の幅狭導体14,14・・を所定間隔で左右方向にに4つ、上下方向に4つそれぞれ並設してその周囲を絶縁被覆15で帯状に被覆してなる16芯のフラットケーブルとなっている。この多芯フラットケーブル13も電流回路或いは信号回路用に使用される。この状態で、ここでは外側フラットケーブル4の2つの幅広導体7,7を合わせた左右の全体幅H内に、多芯コアフラットケーブル13の中心側の左右2列の幅狭導体14,14が収まるようになっている。
【0015】
以上の如く構成された積層フラットハーネス1aにおいても、帯状の絶縁被覆8内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体7,7を幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブル4,4と、両外側フラットケーブル4,4の間に配置され、帯状の絶縁被覆11内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体10を幅方向及び厚み方向にそれぞれ4芯ずつ所定間隔をおいて並設してなる多芯コアフラットケーブル13と、各外側フラットケーブル4と多芯コアフラットケーブル13との間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサ6,6と、を厚み方向に積層したことで、金属管や金属網組等のシールド部材を用いなくてもシールド効果を得ることができる。
また、厚み方向で可撓性を維持しているので、自動車内での配索も容易に行えて汎用性にも優れたものとなる。
【0016】
なお、上記形態1において、多芯コアフラットケーブルを形成するフラットケーブルの幅狭導体は5芯に限らないし、積層するフラットケーブルの数も適宜変更可能である。同様に形態2の多芯コアフラットケーブルも、幅狭導体の上下左右の配列数や形状は変更して差し支えない。
また、上記形態1,2に共通して、外側フラットケーブルの幅広導体の数や幅、絶縁スペーサの形態等も適宜変更可能である。さらに、積層体を覆う絶縁体や外管は省略することもできる。
【実施例】
【0017】
外側フラットケーブルとして、7mm幅、0.14mm厚の幅広導体を2枚並設した2芯フラットケーブルを2枚使用し、この2芯フラットケーブルの間に、1.8mm幅、0.14mm厚の幅狭導体を5枚並設した5芯フラットケーブルを4枚積層してなる多芯コアフラットケーブルを配置し、外管として平型コルゲートチューブを、絶縁スペーサとしてネット状のポリプロピレンを使用して積層フラットハーネス(a)を作製した。
また、外側フラットケーブルとして、7mm幅、0.14mm厚の幅広導体を2枚並設した2芯フラットケーブルを2枚使用し、この2芯フラットケーブルの間に、多芯コアフラットケーブルとして、1.8mm幅、0.14mm厚の幅狭導体を上下左右に4列ずつ並設した16芯フラットケーブルを配置し、外管として平型コルゲートチューブを、絶縁スペーサとしてネット状のポリプロピレンを使用して積層フラットハーネス(b)を作製した。
【0018】
一方、比較例として、積層フラットハーネス(a)の構造に対して、図4(A)に示すように上側の外側フラットケーブル4の幅広導体7を幅方向の中心に1芯のみ設けた積層フラットハーネス(c)と、同図(B)に示すように上下の外側フラットケーブル4,4の幅広導体7を幅方向の一方に偏らせてそれぞれ1芯のみ設けた積層フラットハーネス(d)と、同図(C)に示すように上下の外側フラットケーブル4,4の幅広導体7,7を互いに異なる幅方向の一方に偏らせてそれぞれ1芯のみ設けた積層フラットハーネス(e)とをそれぞれ作製し、各シールド性能を比較した、測定結果を図5に示す。
【0019】
上記形態1,2の実施例である積層フラットハーネス(a)(b)は何れも10kHz〜1GHzの帯域に亘って高いシールド性能を有しているが、比較例である積層フラットハーネス(c)〜(e)は、10MHz〜1GHzの高周波帯域でシールド性能が劣り(特に積層フラットハーネス(e)では全周波数帯域に亘ってシールド性能が劣る)、十分なシールド性能が得られないことがわかった。
【符号の説明】
【0020】
1,1a・・積層フラットハーネス、2・・外管、3・・スリット、4・・外側フラットケーブル、5,13・・多芯コアフラットケーブル、6・・絶縁スペーサ、7・・幅広導体、8,11,15・・絶縁被覆、9・・5芯フラットケーブル、10,14・・幅狭導体、12・・絶縁体、H・・幅広導体の全体幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の絶縁被覆内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブルと、
両前記外側フラットケーブルの間に配置され、帯状の絶縁被覆内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設したフラットケーブルをその厚み方向に複数積層してなる多芯コアフラットケーブルと、
各前記外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルとの間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサと、
を厚み方向に積層したことを特徴とする積層フラットハーネス。
【請求項2】
帯状の絶縁被覆内に大電流用或いはアース回路用の幅広導体を2芯以上幅方向に所定間隔をおいて並設してなる上下2つの外側フラットケーブルと、
両前記外側フラットケーブルの間に配置され、帯状の絶縁被覆内に電流回路或いは信号回路用の幅狭導体を幅方向及び厚み方向にそれぞれ2芯以上所定間隔をおいて並設してなる多芯コアフラットケーブルと、
各前記外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルとの間にそれぞれ介在され、比透磁率1以上、比誘電率3以上の絶縁スペーサと、
を厚み方向に積層したことを特徴とする積層フラットハーネス。
【請求項3】
平面視で前記外側フラットケーブルの幅広導体の全体幅内に、前記多芯コアフラットケーブルの前記幅狭導体が少なくとも2芯以上収まるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フラットハーネス。
【請求項4】
積層された前記外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルと絶縁スペーサとの全体外周をシート状或いはネット状の絶縁体で覆うことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の積層フラットハーネス。
【請求項5】
積層された前記外側フラットケーブルと多芯コアフラットケーブルと絶縁スペーサとを蛇腹構造の合成樹脂管に挿通させたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の積層フラットハーネス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−84434(P2012−84434A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230680(P2010−230680)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】