説明

積層体の製造方法

【課題】 樹脂膜と気相成膜により得られる膜を複数回積層する積層体の製造方法において、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃による膜面に対する傷などのダメージが与えられることを防止しでき、塗布装置のノズルとの干渉を防止することができる積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】
基材B上に樹脂膜成膜装置20により樹脂膜を成膜し、樹脂膜上に成膜装置22により気相成膜により得られる膜を成膜する。この工程を複数回繰り返して、樹脂膜と気相成膜により得られる膜との組合せを繰り返し単位とする積層膜を2層以上積層する。最下層の樹脂膜のみが、基材Bの幅方向の両端付近の膜厚が中央より厚くなるよう成膜される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体の製造方法において、特に、樹脂膜と気相成膜により得られる膜を複数回積層する積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池など、各種の装置に、ガスバリアフィルム、保護フィルム、光学フィルタや反射防止フィルム等の光学フィルムが利用されている。
【0003】
また、これらの光学フィルムの製造に、スパッタリングやプラズマCVD等の真空成膜法による成膜(薄膜形成)が利用されている。真空成膜法によって、効率良く、高い生産性を確保して成膜を行なうために、長尺な基材に連続的に成膜することが行われている。
【0004】
このような成膜方法を実施する設備として、長尺な基材(フィルム)をロール状に巻回してなる供給ロールと、成膜済の基材をロール状に巻回する巻取りロールとを用いる、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)の成膜装置が知られている。このロール・ツー・ロールの成膜装置は、プラズマCVDによって基材に成膜を行なう成膜室を通過する所定の経路で、供給ロールから巻取りロールまで長尺な基材を挿通し、供給ロールからの基材の送り出しと、巻取りロールによる成膜済基材の巻き取りとを同期して行いつつ、成膜室において、搬送される基材に連続的に成膜を行なう。
【0005】
このように成膜したフィルムが巻き取られる際に、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃や、巻きズレにより膜面やフィルムに傷などのダメージが与えられてしまうという問題があった。
【0006】
そこで、例えば、引用文献1には、巻き取り中の横ずれを防止し、擦れ傷の発生がなく且つ良好な外観で巻き上げることが出来るフィルムの巻き取り方法として、製膜工程から送出されるフィルムの両端部の少なくとも片面に凹凸部を形成(ナーリング)して凸部の高さをフィルムの平均高さより高くした後、巻取機によってロール状に巻き取る方法が開示されている。
【0007】
また、別の方法として、引用文献2には、基材両端に活性エネルギー線硬化樹脂層を厚く形成し、バリア層の搬送中の擦れや塵埃混入・巻込みによるダメージを防止することが記載されている。
【特許文献1】特開平8−175708号公報
【特許文献2】特開2006−36904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ガスバリアフィルムや保護フィルム等の光学フィルムは、単層であるとは限らず、例えば、プラスチックフィルム等の基材上に、ポリマーを主成分とする有機膜(下層)を成膜し、その上に無機物からなる無機膜(上層)を成膜してなる光学フィルム(積層フィルム)も知られている。
【0009】
特許文献1に記載の方法では、積層フィルムにナーリング処理を施すために、別の工程が必要となる。これにより、生産性が低下し、設備導入等コストが高くなるという問題がある。
【0010】
一方、特許文献2の方法では、有機膜と無機膜を繰り返し単位とし、複数回積層した場合、両端部の厚膜部分が同じ位置で、上下方向に重なり、両端部の膜厚が厚くなってしまう。これにより、有機膜を塗布方式で形成する際に、塗布装置のノズルと干渉するという問題がある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、樹脂膜と気相成膜により得られる膜を複数回積層する積層体の製造方法において、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃による膜面に対する傷などのダメージが与えられることを防止でき、塗布装置のノズルとの干渉を防止できる積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の積層体の製造方法は、(a):基材上に塗布液を塗布して塗布膜を設け、前記塗布膜を硬化させて樹脂膜を成膜する工程と、(b):前記樹脂膜上に気相成膜により得られる膜を成膜する工程と、(c):工程(a)と工程(b)を繰り返すことで前記樹脂膜と前記気相成膜により得られる膜との組合せを繰り返し単位とする積層膜を2層以上積層する工程を備え、前記複数の樹脂膜の内最下層の前記樹脂膜のみが、幅方向の両端付近の膜厚が中央より厚くなるよう成膜されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る積層体の製造方法では、繰り返される樹脂膜の成膜工程で、最下層の樹脂膜のみが、幅方向の両端付近の膜厚が中央より厚くなるよう成膜されている。最下層の樹脂膜は両端部に厚膜部分を有しているので、その後、樹脂膜と気相成膜により得られる膜の積層膜を積層した場合、積層膜の最表面にも厚膜部分が出現する。
【0014】
この厚膜部分により、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃による膜面に対する傷などのダメージが与えられることを防止できる。
【0015】
また、最下層の樹脂膜のみが両端に厚膜部分を有するので、樹脂膜と気相成膜により得られる膜の積層膜を積層した場合でも、両端の厚膜部分の高さを抑えることができる。これにより、塗布液を塗布する塗布ヘッドのノズル等と積層膜が干渉するのを防止することができる。
【0016】
本発明の積層体の製造方法は、前記発明において、最下層の前記樹脂膜の両端付近の膜厚が厚い領域は、前記塗布液と前記基材の濡れ性を調整することで成膜されることが好ましい。
【0017】
本発明の積層体の製造方法は、2層目以降の樹脂膜を成膜する工程(a)は、前記塗布膜を設けた後、両端付近の前記塗布膜の一部を掻き取る工程を含んでいることが好ましい。
【0018】
本発明の気相成膜により得られる膜は有機物・無機物のどちらで形成されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、樹脂膜と気相成膜により得られる膜を複数回積層する積層体の製造方法において、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃による膜面に対する傷などのダメージが与えられることを防止でき、塗布装置のノズルとの干渉を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0021】
以下、本発明の光学フィルムの製造方法について説明する。図1に、光学フィルムの製造方法によって製造される光学フィルムの概念図を示す。
【0022】
図1に示すように、光学フィルムの製造方法は、基材B(フィルム原反)の表面に、所定のポリマーを主成分とする樹脂膜12を成膜(形成)し、この樹脂膜12の上に気相成膜により得られる膜14を成膜して、積層体(以下、積層フィルム、光学フィルムともいう。)10を製造するものである。
【0023】
図1に示す光学フィルム10は、樹脂膜12と気相成膜により得られる膜14の2層の組み合わせを繰り返しの単位として、これを3回繰り返した積層構造を有している。
【0024】
光学フィルムの製造方法は、一例として、基材Bの表面に樹脂膜12を成膜する樹脂膜成膜装置20と、樹脂膜12の上(表面)に気相成膜により得られる膜14を成膜する成膜装置22とによって積層フィルム10を製造するものである。
【0025】
図2(A)に、光学フィルムの製造方法を実施する樹脂膜成膜装置20の一例を概念的に示す。
【0026】
樹脂膜成膜装置20は、塗布手段26、加熱手段28、および、UV照射装置30を有するもので、予め調製した放射線硬化性のモノマー又はオリゴマーが含有された塗布液を基材Bに塗布手段26で塗布し、加熱手段28で乾燥して、UV照射装置30で重合することにより、樹脂膜12を成膜する。
【0027】
この樹脂膜成膜装置20は、ロール・ツー・ロールによって樹脂膜を成膜するもので、基材Bは、基材ロール40として回転軸32に装填され、長手方向に搬送されつつ樹脂膜が成膜される。樹脂膜が成膜された基材Bがロール42として巻取り軸34に巻き取られる。
【0028】
基材ロール40から送り出された基材Bは、最初に塗布手段26に搬送される。塗布手段26では、基材Bの表面に、予め調製した樹脂膜12となる放射線硬化性のモノマー又はオリゴマーが含有された塗布液が塗布される。
【0029】
基材Bは、次いで、加熱手段28に搬送される。加熱手段28では、塗布手段26が塗布した塗布液中の溶媒を乾燥する。塗布液の加熱方法には、特に限定はなく、ヒータによる加熱、温風による加熱等、基材Bの搬送速度等に応じて、UV照射装置30に至る前に、塗布液を加熱可能なものであれば、公知の加熱手段が全て利用可能である。
【0030】
基材Bは、次いで、UV照射装置30に搬送される。UV照射装置30では、塗布手段26が塗布し加熱手段28で加熱乾燥した塗布液に、UV(紫外線)を照射することにより、放射線硬化性のモノマー又はオリゴマーを重合させて、樹脂膜12が成膜される。
【0031】
次いで、樹脂膜12を成膜した基材Bを巻回した基材ロール42が、図2(B)に概念的に示すような、成膜装置22に装填される。
【0032】
成膜装置22は、基材Bの表面(すなわち樹脂膜12の表面)に、気相成膜により得られる膜14を成膜(形成)するもので、供給室50と、成膜室52と、巻取り室54とを有する。
【0033】
成膜装置22も、樹脂膜成膜装置20と同様に、ロール・ツー・ロールによる成膜を行なう装置で、基材ロール42から基材Bを送り出し、長手方向に搬送しつつ気相成膜により得られる膜14を成膜して、樹脂膜12と気相成膜により得られる膜14とを成膜した光学フィルム10を巻取り軸58によってロール状に巻き取る。
【0034】
供給室50は、回転軸56と、ガイドローラ60と、真空排気手段61とを有する。成膜装置22において、基材Bに樹脂膜12を成膜してなる基材Bを巻回した基材ロール42は、供給室50の回転軸56に装填される。回転軸56に基材ロール42が装填されると、基材Bは、供給室50から、成膜室52を通り、巻取り室54の巻取り軸58に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。成膜装置22においても、基材ロール42からの基材Bの送り出しと、巻取り軸56における光学フィルム10の巻き取りとを同期して行なって、長尺な基材Bを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、基材Bに気相成膜により得られる膜14の成膜を連続的に行なう。
【0035】
供給室50においては、図示しない駆動源によって回転軸56を図中時計方向に回転して基材ロール42から基材Bを送り出し、ガイドローラ60によって所定の経路を案内して、基材Bを成膜室52に送る。
【0036】
また、供給室50には、真空排気手段61が配置され、供給室50内を、成膜室52における成膜圧力に応じた所定の真空度(圧力)に減圧する。これにより、供給室50の圧力が、成膜室52の圧力(成膜)に悪影響を与えることを防止する。なお、真空排気手段61は、後述する成膜室52の真空排気手段72と同様、公知の物を用いればよい。
【0037】
なお、真空中で樹脂膜12に接触するガイドローラ60は、基材Bの端部(搬送方向と直交する方向(幅方向)の端部)のみに接触する段差付きローラが好ましい。
【0038】
また、供給室50には、図示した部材以外にも、搬送ローラ対や、基材Bの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基材Bを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)を有してもよい。しかしながら、気相成膜により得られる膜14の成膜中は、供給室50内は、成膜室の圧力に応じた真空度となるので、樹脂膜12に接触する部材は、段差付きローラであるガイドローラ60と同様、基材Bの端部のみに接触する構成を有する物とする。
【0039】
基材Bは、ガイドローラ60によって案内され、成膜室52に搬送される。成膜室52は、基材Bの表面(すなわち樹脂膜12の表面)に、気相成膜により得られる膜14を成膜(形成)するものである。図示例において、成膜室52は、ドラム62と、成膜手段64a,64b、64c、および64dと、ガイドローラ68および70と、真空排気手段72とを有する。なお、成膜室52が、スパッタリングやプラズマCVD等による成膜を行うものである場合には、成膜室52には、さらに、高周波電源等も設置される。
【0040】
基材Bは、供給室50と成膜室52とを分離する隔壁74に形成されるスリット74aから、成膜室52に搬送される。
【0041】
なお、図示例の成膜装置22は、好ましい態様として、供給室50および巻取り室54にも真空排気手段を設け、成膜室52における成膜圧力に応じて、供給室50および巻取り室54も真空とするが、本発明を実施する装置は、これに限定はされない。例えば、供給室50および巻取り室54には、真空排気手段を設けずに、基材Bが通過するスリットを、基材Bに接触することなく、かつ、基材Bが通過可能な最小限のサイズとすることにより、成膜室52を略気密に構成してもよい。あるいは、供給室50および巻取り室54には、真空排気手段を設けずに、供給室50および巻取り室54と、成膜室52との間に、基材Bが通過するサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を真空ポンプによって真空にしてもよい。
【0042】
なお、成膜室52の上流(基材Bの搬送方向上流)にサブチャンバ等を設ける場合には、このサブチャンバ等の内部で基材を搬送する手段も、樹脂膜12に接触する場合には、基材Bの端部のみに接触する構成とする必要がある。
【0043】
成膜室52のドラム62は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材である。
【0044】
供給室50から供給され、ガイドローラ68によって所定の経路に案内された基材Bは、ドラム62の周面の所定領域に掛け回されて、ドラム62に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送され、成膜手段64a〜64d等によって、表面(樹脂膜12の上)に、気相成膜により得られる膜14を形成される。また、成膜室52が、スパッタリングやプラズマCVD等による成膜をおこなうものである場合には、ドラム62は、対向電極としても作用するように、接地(アース)されてもよく、あるいは高周波電源に接続されてもよい。
【0045】
成膜手段64a〜64dは、真空成膜法によって、基材Bの表面に気相成膜により得られる膜14を成膜するためのものである。
【0046】
ここで、本発明の製造方法においては、気相成膜により得られる膜14の形成方法には、特に限定は無く、CVD、プラズマCVD、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング等、公知の真空成膜法(気相堆積法)が、全て、利用可能である。
【0047】
従って、成膜手段64a〜64dは、実施する真空成膜法に応じた、各種の部材で構成される。
【0048】
例えば、成膜室52がICP−CVD法(誘導結合型プラズマCVD)によって気相成膜により得られる膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、誘導磁場を形成するための誘導コイルや、成膜領域に反応ガスを供給するためのガス供給手段等を有して構成される。
【0049】
成膜室52が、CCP−CVD法(容量結合型プラズマCVD)によって気相成膜により得られる膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、中空状でドラム46に対向する面に多数の小孔を有し反応ガスの供給源に連結される、高周波電極および反応ガス供給手段として作用するシャワー電極等を有して構成される。
【0050】
成膜室52が、CVD法によって気相成膜により得られる膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、反応ガスの導入手段等を有して構成される。
【0051】
さらに、成膜室52が、スパッタリングによって気相成膜により得られる膜14の成膜を行なうものであれば、成膜手段64a〜64dは、ターゲットの保持手段や高周波電極、スパッタガスの供給手段等を有して構成される。
【0052】
真空排気手段72は、成膜室52内を真空排気して、真空成膜法による気相成膜により得られる膜14の成膜に応じた真空度とするものである。
【0053】
真空排気手段72にも、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。
【0054】
ドラム62に支持/搬送されつつ、成膜手段64a〜64dによって気相成膜により得られる膜14を成膜された基材Bすなわち光学フィルム10は、ガイドローラ70によって所定経路に案内されて、巻取り室54に搬送されて、巻取り軸58によってロール状に巻き取られる。ロール状に巻き取られた積層フィルム(光学フィルム)ロールは、樹脂膜の成膜工程に搬送される。
【0055】
樹脂膜の成膜工程と気相成膜により得られる膜の成膜工程が、3回繰り返し実行され、図1に示す積層フィルム10が製造される。
【0056】
図3は、樹脂膜12と気相成膜により得られる膜14とを3回積層した積層膜において、その両端部の含む断面図である。図3に示すように、最下層の樹脂膜12のみが幅方向の両端付近の膜厚が中央より厚くなるよう成膜される。一方、最下層を除く樹脂膜12は、幅方向に均一厚さとなるように成膜される。
【0057】
このような積層膜の構成を有しているので、最表面に出現する厚膜部分により、巻き取り時のフィルムの裏面と膜面との接触や、フィルムに付着した塵埃による膜面に対する傷などのダメージが与えられることを防止できる。
【0058】
また、最下層の樹脂膜のみが両端に厚膜部分を有するので、樹脂膜と気相成膜により得られる膜の積層膜を積層した場合でも、両端の厚膜部分の高さを抑えることができる。これにより、塗布液を塗布する塗布ヘッドのノズル等と積層膜が干渉するのを防止することができる。
【0059】
次に、樹脂膜を形成するための塗布液を塗布する塗布ヘッドについて図4を参照に説明する。
【0060】
塗布ヘッド90は、塗布ヘッド先端が連続走行する基材Bと近接された状態で対向配置される。基材Bはバックアップローラ100により裏面側から支持される。図4に示されるように、塗布ヘッド90内には、筒状のポケット部92が基材Bの幅方向に平行に形成される。塗布用ポケット部92は供給ライン94に接続される。また、塗布ヘッド90内には、塗布ヘッド先端に吐出口を有する塗布用スリット96が形成される。塗布用スリット96が塗布用ポケット部92に連通される。
【0061】
塗布用スリット96は、ポケット部92と塗布ヘッド先端とを繋ぐ狭隘な流路であり、基材Bの幅方向に延長される。そして、供給ライン94から基材Bに塗布する所望の塗布量の塗布液が塗布用ポケット部92に供給される。塗布用ポケット部92に供給された塗布液が、塗布用スリット96を介して基材Bに塗布される。基材Bは塗布ヘッド90の上流と下流に設けられたガイドローラ(不図示)により支持される。
【0062】
次に、最下層の樹脂膜の成膜工程における塗布液の塗布方法について、上述の塗布ヘッド90を利用した場合を例に説明する。
【0063】
基材Bに塗布された塗布液は、基材Bの幅方向に広がるよう塗布される。塗布液と基材Bはその濡れ性が調整されている。それにより、塗布膜は、基材Bの幅方向の両端で、厚膜部分を形成する。塗布液と基材Bはその濡れ性を調整することで容易に厚膜部分を形成することができる。
【0064】
次に、最下層以外の樹脂膜の成膜工程における塗布液の塗布方法について、上述の塗布ヘッド90を利用した場合を例に説明する。
【0065】
基材Bに塗布された塗布液は、基材Bの幅方向に広がるよう塗布される。塗布ヘッドの90の下流側で、塗布液の両端が位置する場所、例えば、ブレード98が2箇所配置される。このブレード98により塗布膜の一部を掻き取ることで、塗布膜の膜厚を均一にすることができる。塗布液と下地層の濡れ性の影響を受けずに、塗布膜の膜厚を均一にすることができる。
【0066】
樹脂膜12を形成する塗布膜は、放射線硬化性のモノマー又はオリゴマーを主成分とする膜である。具体的には、使用されるモノマー又はオリゴマーとしては、エチレン性不飽和二重結合を2個以上有し、光の照射によって付加重合するモノマー又はオリゴマーであることが好ましい。そのようなモノマー及びオリゴマーとしては、分子中に少なくとも1個の付加重合可能なエチレン性不飽和基を有し、沸点が常圧で100℃以上の化合物を挙げることができる。その例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどの単官能アクリレートや単官能メタクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)シアヌレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンやグリセリン等の多官能アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを付加した後(メタ)アクリレート化したもの等の多官能アクリレートや多官能メタクリレートを挙げることができる。
【0067】
更に特公昭48−41708号公報、特公昭50−6034号公報及び特開昭51−37193号公報に記載されているウレタンアクリレート類;特開昭48−64183号公報、特公昭49−43191号公報及び特公昭52−30490号公報に記載されているポリエステルアクリレート類;エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸の反応生成物であるエポキシアクリレート類等の多官能アクリレートやメタクリレートを挙げることができる。
【0068】
これらの中で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0069】
また、この他、特開平11−133600号公報に記載の「重合性化合物B」も好適なものとして挙げることができる。
【0070】
使用される光重合開始剤又は光重合開始剤系としては、米国特許第2367660号明細書に開示されているビシナルポリケタルドニル化合物、米国特許第2448828号明細書に記載されているアシロインエーテル化合物、米国特許第2722512号明細書に記載のα−炭化水素で置換された芳香族アシロイン化合物、米国特許第3046127号明細書及び同第2951758号明細書に記載の多核キノン化合物、米国特許第3549367号明細書に記載のトリアリールイミダゾール2量体とp−アミノケトンの組み合わせ、特公昭51−48516号公報に記載のベンゾチアゾール化合物とトリハロメチル−s−トリアジン化合物、米国特許第4239850号明細書に記載されているトリハロメチル−トリアジン化合物、米国特許第4212976号明細書に記載されているトリハロメチルオキサジアゾール化合物等を挙げることができる。特に、トリハロメチル−s−トリアジン、トリハロメチルオキサジアゾール及びトリアリールイミダゾール2量体が好ましい。
【0071】
また、この他、特開平11−133600号公報に記載の「重合開始剤C」も好適なものとしてあげることができる。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがさらに好ましい。液晶性化合物の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm〜50J/cmであることが好ましく、100〜2000mJ/cmであることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
【0072】
樹脂膜12の成膜方法としては、通常の溶液塗布法、あるいは真空成膜法等を挙げることができる。溶液塗布法としては、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、スライドコート法、或いは、米国特許第2681294号明細書に記載のホッパ−を使用するエクストル−ジョンコート法により塗布することができる。
【0073】
なお、アクリレートやメタクリレートは、空気中の酸素によって重合阻害を受ける。従って、本発明において、樹脂膜12としてこれらを利用する場合には、重合時の酸素濃度もしくは酸素分圧を低くすることが好ましい。窒素置換法によって重合時の酸素濃度を低下させる場合、酸素濃度は2%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましい。減圧法により重合時の酸素分圧を低下させる場合、全圧が1000Pa以下であることが好ましく、100Pa以下であることがより好ましい。また、100Pa以下の減圧条件下で2J/cm以上のエネルギーを照射して紫外線重合を行うのが特に好ましい。
【0074】
本発明において、モノマーの重合率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。ここでいう重合率とはモノマー混合物中の全ての重合性基(例えばアクリレートやメタクリレートであれば、アクリロイル基およびメタクリロイル基)のうち、反応した重合性基の比率を意味する。
【0075】
積層フィルム(光学フィルム)として、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイのような表示装置など、各種のデバイスや装置の保護フィルムを製造する際には、気相成膜により得られる膜14として、酸化ケイ素膜等を成膜すればよい。
【0076】
さらに、光反射防止フィルム、光反射フィルム、各種のフィルタ等の光学フィルムを製造する際には、気相成膜により得られる膜14として、目的とする光学特性を有する、あるいは発現する材料からなる膜を成膜すればよい。
【0077】
中でも特に、樹脂膜12の優れた表面平滑性により、ガスバリア性の優れた気相成膜により得られる膜14を成膜できるので、本発明は、ガスバリアフィルムの製造に最適である。
【0078】
以上、本発明の光学フィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る製造方法によって製造される積層フィルムを示す図
【図2】積層フィルムの製造方法を実施する装置の一例を示す図
【図3】本発明に係る製造方法によって製造される積層フィルムを示す図
【図4】塗布ヘッドの一部を切り欠いた斜視図
【図5】塗布ヘッドの一部を切り欠いた斜視図
【符号の説明】
【0080】
10…積層フィルム(光学フィルム)、12…樹脂膜、14…気相成膜により得られる膜、20…樹脂膜成膜装置、22…成膜装置、26…塗布手段、28…乾燥手段、30…UV照射装置、52…成膜室、64a,64b,64c,64d…成膜手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a):基材上に塗布液を塗布して塗布膜を設け、前記塗布膜を硬化させて樹脂膜を成膜する工程と、
(b):前記樹脂膜上に気相成膜により得られる膜を成膜する工程と、
(c):工程(a)と工程(b)を繰り返すことで前記樹脂膜と前記気相成膜により得られる膜との組合せを繰り返し単位とする積層膜を2層以上積層する工程を備え、
前記複数の樹脂膜の内最下層の前記樹脂膜のみが、幅方向の両端付近の膜厚が中央より厚くなるよう成膜されることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
最下層の前記樹脂膜の両端付近の膜厚が厚い領域は、前記塗布液と前記基材の濡れ性を調整することで成膜される請求項1記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
2層目以降の樹脂膜を成膜する工程(a)は、前記塗布膜を設けた後、両端付近の前記塗布膜の一部を掻き取る工程を含んでいる請求項1又は2記載の積層体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76198(P2010−76198A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245897(P2008−245897)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】