説明

積層体

【課題】本発明は、剥離基材に挟持されたポリマーと溶媒からなる転写組成物中の溶媒の剥離基材への浸透、溶媒の揮発を防止し、剥離基材から転写組成物を剥がし易く、泣き別れのない保存安定性に優れる積層体を提供できる。
【解決手段】不揮発性溶媒を50〜90重量%含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の溶媒不透過性剥離基材で挟持されてなる積層体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質型燃料電池等に用いられる膜電極複合体作製用の転写組成物からなる積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、排出物が少なく、かつエネルギー効率が高く、環境への負担の低い発電装置である。このため、近年の地球環境保護への高まりの中で再び脚光を浴びている。従来の大規模発電施設に比べ、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として、将来的にも期待されている発電装置である。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池の代替として、あるいは二次電池の充電器として、またあるいは二次電池との併用(ハイブリッド)により、携帯電話などの携帯機器やパソコンなどへの搭載が期待されている。
高分子電解質型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、以下PEFCと記載する場合がある)においては、水素ガスを燃料とする従来の高分子電解質型燃料電池に加えて、メタノールなどの燃料を直接供給する直接型燃料電池も注目されている。直接型燃料電池は、従来のPEFCに比べて出力が低いものの、燃料が液体で改質器を用いないために、エネルギー密度が高くなり、一充填あたりの携帯機器の使用時間が長時間になるという利点がある。
【0003】
高分子電解質型燃料電池は通常、発電を担う反応の起こるアノードとカソードの電極と、アノードとカソードとの間でプロトン伝導体となる高分子電解質膜とが、膜電極複合体(MEA)を構成し、このMEAがセパレーターによって挟まれたセルをユニットとして構成されている。ここで、電極は、ガス拡散の促進と集(給)電を行う電極基材(ガス拡散電極あるいは集電体とも云う)と、実際に電気化学的反応場となる触媒層とから構成されている。たとえばPEFCのアノード電極では、水素ガスなどの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトンと電子を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質膜へと伝導する。このため、アノード電極には、ガスの拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性が良好なことが要求される。一方、カソード電極では、酸素や空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、高分子電解質膜から伝導してきたプロトンと、電極基材から伝導してきた電子とが反応して水を生成する。このため、カソード電極においては、ガス拡散性、電子伝導性、プロトン伝導性とともに、生成した水を効率よく排出することも必要となる。
【0004】
また、PEFCの中でも、メタノールなどを燃料とする直接型燃料電池においては、水素ガスを燃料とする従来のPEFCとは異なる性能が要求される。すなわち、直接型燃料電池においては、アノード電極ではメタノール水溶液などの燃料がアノード電極の触媒層で反応してプロトン、電子、二酸化炭素を生じ、電子は電極基材に伝導し、プロトンは高分子電解質に伝導し、二酸化炭素は電極基材を通過して系外へ放出される。このため、従来のPEFCのアノード電極の要求特性に加えて、メタノール水溶液などの燃料透過性や二酸化炭素の排出性も要求される。さらに、直接型燃料電池のカソード電極では、従来のPEFCと同様な反応に加えて、電解質膜を透過したメタノールなどの燃料と酸素あるいは空気などの酸化ガスがカソード電極の触媒層で、二酸化炭素と水を生成する反応も起こる。このため、従来のPEFCよりも生成水が多くなるため、さらに効率よく水を排出することが必要となる。
【0005】
上記の通り、膜電極複合体はいくつかの層によって形成されるがプロトン伝導や電子伝導が良好に行われるには各層間の界面での接着性が要求される。特に触媒層と電解質膜の界面はプロトン伝導を行うためには重要な部分であるが、比較的硬い炭化水素系膜の場合、電極との接着性が不十分となって性能が低下してしまうことが大きな課題の一つであった。
【0006】
電解質膜と触媒間の接着性を高める方法として、例えば、電解質と電極間にイオン性基をもつ物質を介在させる方法が提案されている。
【0007】
特許文献1においては、発明の実施例中に高分子酸がペースト状のものを触媒層表面から塗りつけるという方法が記載されており、高分子酸としてポリスチレンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸のオレフィン系の電解質を使用している。
【0008】
特許文献2においては、パーフルオロ系プロトン伝導性ポリマーを電極に塗布乾燥後、電極と膜を高温プレスで一体化する方法、スチレンスルホン酸ナトリウムと架橋剤のヘキサエチレングリコールジメタクリレートなどのモノマー組成物溶液を電極に塗布後、電解質膜と接合し、重合、架橋するため1時間以上加熱および加圧し、膜と電極を該モノマーの架橋重合体を介して一体化する方法が例示されている。
【0009】
また、膜電極複合体に関するものではないが、特許文献3においては、有機溶剤および樹脂ポリマーを含有する転写膜中の有機溶剤の濃度が好ましくは5〜40%重量比とされる転写安定性および量産性に優れるパターンシートの製造方法が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−209278号公報
【特許文献2】特開平4−132168号公報
【特許文献3】特開2007−83499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1においては、ペースト化の具体的な方法やペースト化するのに必要な材料、そして転写等の開示は全くされていない。
【0012】
特許文献2においては、塗布、乾燥せずに複合化する技術であり、150℃程度の高温が必要であったり、電極と膜の接合に長時間要したりするので、不必要にポリマー溶液やモノマーが電解質膜にしみ込むなどして電解質膜の燃料クロスオーバーの抑制効果やイオン伝導性に悪影響を及ぼし、高出力密度の燃料電池が得られない。
【0013】
我々はかかる課題に鑑み、膜電極複合体の界面の接着性を高めてイオン伝導度を向上させるために、電解質と電極間にイオン性基をもつ物質を介在させる方法の中でも、接着用組成物を用いた燃料電池を提案している。この接着用組成物は電解質膜と触媒層の間に設けられ、主にポリマーと溶媒からなる。この塗液を触媒層上に直接塗工する方法、あるいは何らかの剥離性基材上にシート状に塗工され触媒層上に転写する方法等が用いられており、後者の方は特殊な設備が不要で汎用性が高い。前記接着用組成物を剥離性基材上に設ける場合は溶媒が剥離性基材に浸透し易く剥離性基材から接着性組成物を剥がし難いという課題があった。さらに、該剥離性基材/接着用組成物上にラミネート基材を設けた場合は、接着用組成物が剥離性基材および/またはラミネート基材に泣き別れする問題があった。
【0014】
ここで、膜電極複合体に関するものではないが、特許文献3においては、転写安定性に優れるパターンシートの製造方法が例示されている。しかし、転写組成物を転写型と基材との間に介在させた状態で転写組成物に含まれる有機溶剤の一部を乾燥させ、有機溶剤濃度を下げた後に剥離するものであり、転写組成物の有機溶剤濃度が経時変化するために操作性が悪く好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、不揮発性溶媒を50〜90重量%含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の溶媒不透過性剥離基材で挟持されてなる積層体であることを特徴とする。
【0016】
本発明の転写組成物は、2層の剥離基材に溶媒を浸透させないことが重要であり、溶媒不透過性剥離基材を用いて、剥離基材に溶媒が浸透した場合は転写組成物に泣き別れが生じ、剥離基材から転写組成物が採れないという問題を解決するものである。また、溶媒不透過性剥離基材を用いること、および不揮発性溶媒を用いることで、転写組成物中の溶媒含量を一定(50〜90重量%)にし、溶媒の可塑効果を長期間安定して利用する技術である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、剥離基材で挟持された転写組成物が長期間安定して泣き別れが発生せずに得られる積層体を提供することが可能となる。また、本発明により特に、高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率、高引き裂き強度および低含水率の電解質膜を使用した場合でも膜電極複合体の電極と電解質膜間との界面抵抗の低減および密着性が向上した膜電極複合体が可能であり、かかる膜電極複合体を用いることによって、高出力、高エネルギー容量を達成し、さらには高耐久性を達成した高分子電解質型燃料電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0019】
本発明の不揮発性溶媒を50〜90重量%含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の溶媒不透過性剥離基材で挟持されてなる積層体であって、イオン性基を有する炭化水素系転写組成物は高分子電解質型燃料電池等に用いられる膜電極複合体作製用に好ましく用いられる。
【0020】
本発明における不揮発性溶媒は、後述するイオン性基を有する炭化水素系高分子材料を溶解するものが選ばれる。溶媒を含有させることにより、前記イオン性基を有する炭化水素系高分子材料の分解温度以下かつ使用する材料の分解および変形などの悪影響が発生しない温度以下で該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写材料を流動させることが可能となる、可塑効果を発揮させるものである。ここで、上述のとおり、不揮発性溶媒はイオン性基を有する炭化水素系高分子材料の親溶媒であるが、溶解性を妨げない程度に貧溶媒が混合されていても構わない。
【0021】
また、本発明における不揮発性溶媒は、塗工性や製膜性、保存安定性などの観点から、不揮発性の溶媒である。本発明における不揮発性とは、10〜100μmのシート状の、溶媒を含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物を、60℃/5minの条件で熱風乾燥しても、該溶媒が完全には揮発せずに残存することをいう。
【0022】
そして、本発明の不揮発性溶媒の含量は、10〜100μmのシート状の、不揮発性溶媒を含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の重量測定を行い、60℃/5min条件で熱風乾燥した後に重量測定を行い、その後、室温でメタノール、水のそれぞれに24時間浸漬し不揮発性溶媒を除き、乾燥後のイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物(この時点ではイオン性基を有する炭化水素系高分子材料のみとなっている)の重量測定を行うことで求められる。重量減量率が24時間浸漬前の10〜50重量%の範囲であること、すなわち該イオン性基を有する炭化水素系転写組成物中の不揮発性溶媒含有量が50〜90重量%であることが必要である。
【0023】
上記のとおり、本発明の不揮発性溶媒の含量は、熱風乾燥後に測定されたものであり、熱風乾燥により、イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が揮発性溶媒を含んでいた場合はそれが除かれることになるので、(不揮発性溶媒量)/(イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物量)でなく、(不揮発性溶媒量)/{(不揮発性溶媒量)+(イオン性基を有する炭化水素系高分子材料量)}である。
【0024】
不揮発性溶媒の含量が50重量%未満の場合は、該積層体作製時に塗工用剥離基材およびラミネート基材への接着性が不十分となり保存安定性が不良となる場合がある。また、該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物使用時に電解質膜と電極の複合化時に該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物に含まれる不揮発性溶媒が50重量%未満の場合は可塑効果による流動性、塑性変形性が不十分となり、電解質膜と電極の接着性低下、電極内の空隙への侵入不足となり膜電極複合体が高抵抗化し、膜電極複合体の性能劣化が生じる場合がある。
【0025】
90重量%以上の場合は、該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の積層体作製時に剥離基材および/またはラミネート基材に転写組成物が泣き別れする問題、転写組成物の保存安定性が不良となる場合がある。また、イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物使用時に電解質膜と電極の複合化時に電極内の空隙を該転写組成物で埋めてしまう可能性が高く膜電極複合体の性能劣化が生じる場合がある。
【0026】
不揮発性溶媒は作業環境の観点から、沸点を指標にした場合、130℃以上であることが好ましく、200℃以上がさらに好ましい。また、大気圧下で実質的に沸点を有さない化合物がさらに好適である。
【0027】
さらに、後述するように不揮発性溶媒は少なくとも膜電極複合化後に除去されることが好ましく、この際、水および/または有機溶剤での抽出除去が好ましい。すなわち水溶性の溶媒が特に好ましい。中でも主鎖に芳香環を有するイオン性基を有する高分子材料との相溶性に優れ、該積層体使用時に室温では形状保持が可能で、かつ、ホットメルト性も良好な該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物を与える観点から、揮発性の少ないアルコール類が特に好ましく、多価アルコール類がさらに好ましい。
【0028】
不揮発性溶媒は前記イオン性基を有する炭化水素系高分子材料の溶解が可能であれば特に限定されないが、特にN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の非プロトン性極性溶媒類およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの多価アルコール類が好ましく用いられる。これらは、単独でも二種以上の混合物でも使用できる。不揮発性溶媒は使用するイオン性基を有する高分子材料や電極材料、混練方法、条件などにより適宜選択できる。
【0029】
本発明における該イオン性基を有する炭化水素系高分子は、イオン伝導性を付与するためにイオン性基を有した高分子材料を含むことが好ましい。イオン性基としては、負電荷を有する原子団が好ましく、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基(−SO2(OH))、硫酸基(−OSO2(OH))、スルホンイミド基(−SO2NHSO2R(Rは有機基を表す。))、ホスホン酸基(−PO(OH)2)、リン酸基(−OPO(OH)2)、カルボン酸基(−CO(OH))、およびこれらの塩等を好ましく採用することができる。これらのイオン性基は前記高分子材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。その組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。
【0030】
中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基のいずれかを有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。スルホン酸基を有する場合、そのスルホン酸基密度は、プロトン伝導性および燃料クロスオーバー抑制の点から0.1〜5.0(mmol/g)が好ましく、より好ましくは0.5〜3.5(mmol/g)、さらに好ましくは1.0〜3.5(mmol/g)である。スルホン酸基密度を0.1(mmol/g)以上とすることにより、イオン伝導度すなわち膜電極複合体の低界面抵抗を維持することができ、また5.0(mmol/g)以下とすることで、たとえば、直接メタノール型燃料電池など液体燃料が直接接触するような高分子電解質型燃料電池に使用する際に、該炭化水素系高分子被膜が燃料により過度に膨潤し溶出したり流出したりするのを防ぐことができる。
【0031】
ここで、スルホン酸基密度とは、高分子材料の単位乾燥重量当たりに導入されたスルホン酸基のモル量であり、この値が大きいほどスルホン化の度合いが高いことを意味する。使用する高分子材料のスルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定あるいは核磁気共鳴スペクトル法等により測定が可能である。スルホン酸基密度測定の容易さや精度の点で、元素分析が好ましく、通常はこの方法で分析を行う。ただし、スルホン酸基以外に硫黄源を含む場合など元素分析法では正確なスルホン酸基密度の算出が困難な場合には中和滴定法を用いるものとする。さらに、これらの方法でもスルホン酸基密度の決定が困難な場合においては、核磁気共鳴スペクトル法を用いることが可能である。
【0032】
本発明におけるイオン性基を有する炭化水素系高分子材料の具体例としては、機械的強度、燃料耐久性、耐熱性などの観点から、主鎖に芳香環を有する高分子電解質材料が好ましく、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の作製上の観点から、イオン性基含有ポリエーテルケトンが特に好ましく用いられる。
【0033】
これらの炭化水素系高分子材料にイオン性基を導入する方法については、重合体にイオン性基を導入してもよいし、イオン性基を有するモノマーを重合してもよい。重合体へのホスホン酸基の導入は、例えば、「ポリマープレプリンツジャパン」(Polymer Preprints, Japan ), 51, 750 (2002). 等に記載の方法によって可能である。重合体へのリン酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーのリン酸エステル化によって可能である。重合体へのカルボン酸基の導入は、例えば、アルキル基やヒドロキシアルキル基を有するポリマーを酸化することによって可能である。重合体へのスルホンイミド基の導入は、例えば、スルホン酸基を有するポリマーをアルキルスルホンアミドで処理するによって可能である。重合体への硫酸基の導入は、例えば、ヒドロキシル基を有するポリマーの硫酸エステル化によって可能である。重合体へのスルホン酸基の導入は例えば、重合体をクロロスルホン酸、濃硫酸、発煙硫酸と反応させる方法により行うことができる。これらの、イオン性基導入方法は、処理時間、濃度、温度などの条件を適宜選択することにより目的とするイオン性基密度に制御できる。
【0034】
また、イオン性基を有するモノマーを重合する方法としては、例えば、「ポリマー プレプリンツ」(Polymer Preprints), 41(1) (2000) 237. 等に記載の方法によって可能である。この方法により重合体を得る場合には、イオン性基の導入の度合いはイオン酸基を有するモノマーの仕込み比率により、容易に制御することができる。
【0035】
また、使用するイオン性基を有した高分子材料が非架橋構造を有する場合、重量平均分子量は1〜500万が好ましく、より好ましくは3〜100万である。重量平均分子量を1万以上とすることで、該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜として実用に供しうる機械的強度を得ることができる。一方、500万以下とすることで、取り扱いの容易な該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物を得ることができ、良好な加工性を維持することができる。該重量平均分子量はGPC法によって測定できる。
【0036】
本発明におけるイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の剥離基材で挟持されてなる積層体は、まず前記イオン性基を有する炭化水素系高分子材料(以後、高分子材料と略す)を不揮発性溶媒で溶解、混合し、イオン性基を有する炭化水素系高分子組成物(以後、塗工用組成物と略す)を調製する。次に、塗工用剥離基材に該塗工用組成物を塗工、乾燥を行って該転写組成物(以後、転写組成物と略す)を得る。次に、該転写組成物面にラミネート用剥離基材で保護し、該積層体(以後、積層体と略す)が得られる。
【0037】
積層体の形状はロール状およびまたはシート状でもいいが、溶媒拡散防止にはロール状が好ましい。
【0038】
本発明における剥離基材は、溶媒不透過性であることが必要である。溶媒透過性は、50重量%1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン水溶液を使用した場合の1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン透過量で定義され、溶媒透過性が10μmol・分−1・cm−2以下の場合、溶媒不透過性であるとする。溶媒透過性が10μmol・分−1・cm−2以下の場合、該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物に含有する溶媒が剥離基材側への透過を防止できる。
【0039】
本発明における剥離基材の溶媒透過性は好ましくは5μmol・分−1・cm−2以下、さらに好ましくは2.5μmol・分−1・cm−2以下で0μmol・分−1・cm−2が最も好ましい。ここで溶媒透過性は、次の方法で測定することができる。すなわち、SUS304製のH型セル間に剥離基材を挟み、一方のセルには純水を入れ、他方のセルには50重量%1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン水溶液を入れ、20℃において両方のセルを攪拌し、1時間、2時間および3時間経過時点で純水中に溶出した1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン量を島津製作所製ガスクロマトグラフィ(GC−2010)で測定し定量し、グラフの傾きから単位時間、単位体積あたりの1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン透過量を求めるものである。
【0040】
本発明における剥離基材の具体例としては、例えば、紙等の基材上にシリコン等の剥離剤をコーティングした構造がとられ、剥離基材に用いる紙系の基材としては、和紙、麻紙、楮紙、雁皮紙、薄様、鳥の子紙、間似合紙、三椏紙、宿紙、紙屋紙、杉原紙、檀紙、奉書紙、洋紙、印刷用紙、上質紙、コート紙、新聞紙、製図用、ケント紙、トレーシングペーパー、クレー紙、アート紙、原稿用紙、書道用紙、水彩紙、ワトソン、アルッシュ、キャンソン、マーメイド、ミューズケナフ、ミューズタッチ、MO紙、画用紙、模造紙、包装紙、段ボール、紙パック、PC用紙、感熱紙、感圧紙、インクジェット用紙、フォーム用紙、カーボン複写用紙、OCR用紙、加工原紙、タック加工用紙、リリースベースペーパー、積層板原紙、建材原紙、化粧板原紙、石膏ボード原紙、板紙、段ボール原紙、白板紙、黄板紙、チップボールが挙げられる。
【0041】
また、剥離基材に用いる基材はフィルムでもよく、アイオノマー、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ナイロン、セロファン等を用いることができる。これらの基材は単独でも、混合や積層してもよい。
【0042】
剥離剤はシリコン系、フッ素系が挙げられ、片面または両面に設けられる。本発明における該積層体の特に好ましい2層の剥離基材は、剥離基材への塗工組成物の塗工性、転写組成物の剥離性、溶媒の目止め性、溶媒の揮発防止および紙の粉塵防止の観点から、連続製膜等の工業的生産性の観点では、剥離剤/フィルム/紙/フィルムからなる4層構造の溶媒不透過性両面ポリラミネート剥離紙が好ましく用いられる。また、実験室等のテスト的な観点では、剥離剤/フィルム/紙/フィルム/粘着剤からなる5層構造の溶媒不透過性両面ポリラミネート剥離紙が好ましく用いられる。好ましい剥離強度としては日東電工31Bテープを用いて300mm/minで180℃剥離したときの剥離力を基準の1N/50mmとして、0.01〜10N/50mmである。本発明の該積層体の場合は、その両面の剥離強度には差がある方がより好ましい。
【0043】
例えば、前記剥離基材の塗工用剥離基材に塗工用組成物を塗工し、乾燥後にラミネート用剥離基材をそのカバーとして使用する場合、転写組成物が塗工用剥離基材側に密着しラミネート用剥離基材側へは転写しない、すなわち剥離強度が塗工用剥離基材<ラミネート用剥離基材が好ましい。塗工用剥離基材については高分子組成物の塗工性、転写組成物の剥離性と接着性から0.1〜1N/50mmが好ましく、ラミネート用剥離基材は剥離性を重視するため0.01〜0.1N/50mmが好ましい。剥離強度は前記に限ったものではなく、塗工用組成物の組成比によって適宜変更される。
【0044】
塗工用組成物の粘度は、塗工時のハジキや乾燥時のハジキに起因する転写組成物の欠点防止の観点から100〜3000poiseが好ましく、さらに好ましくは300〜2000poiseである。塗工用組成物の粘度は前記に限ったものではなく、塗工用剥離基材の剥離強度およびコーティング方法によって適宜選択される。
【0045】
塗工用剥離基材への塗工用組成物のコーティング方法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷、ダイコート、ダイレクトグラビア、3本リバース、ドクターリバース、スリットダイコート、オフセットグラビア、4本リバース、キスリバース、ワイヤーバーなどの手法が適用できる。
【0046】
また、転写組成物の付量としては0.01mg/cm〜20mg/cmが好ましく、1mg/cm〜10mg/cmが特に好ましい。0.01mg以上とするのは触媒層の凹凸に追随するためで、20mg/cm以下とするのは燃料の浸透および生成物の排出をスムーズに行うためである。
【0047】
本発明における電解質膜と該転写組成物の界面抵抗の低減および相互進入構造の制御の観点からできる限り密着性を強固にすることが好ましいため、該転写組成物には膜電極複合体に使用する電解質膜を溶解または膨潤可能な溶媒を含有および残存させてもよい。この含有量および残存量は密着性や電解質膜性能への影響の観点から適宜実験的に決めることができる。該溶媒を含有および残存させることにより、電解質膜と該転写組成物との間の相互進入構造により密着性が向上し、これらの界面でのイオン伝導性の低下度合いを抑えることができる場合がある。逆に、多過ぎると電解質膜内部に浸透し電解質膜の燃料遮断性を低下させたり膜電極複合体が短絡したりする傾向がある。本発明における該転写組成物の作製方法は通常公知の方法が選択でき、例えば、高分子材料とその溶媒を適当な容器に投入し撹拌可能な温度で混練する方法、高分子材料と溶媒を押出機やニーダーなどに投入し溶融混練する方法などが挙げられる。また、この際、必要に応じて加熱しても差し支えない。
【0048】
該転写組成物中には、上記以外に被膜の強度や密着性、耐燃料性などを高める目的で高分子電解質以外の高分子材料、無機材料、塩類などを添加してもよく、モンモリロナイトやガラス繊維などの各種無機フィラー、炭素繊維やカーボンナノチューブなどのカーボン材料、後述する触媒に用いる各種の金属微粒子材料、シリカやアルミナ、ジルコニア、チタニア、ポリシルセスキオキサンなどの各種微粒子状物を添加しても、該転写組成物の機能に悪影響しなければ差し支えない。添加材料を混合した場合の不揮発性溶媒の含量は、(不揮発性溶媒量)/{(不揮発性溶媒量)+(イオン性基を有する炭化水素系高分子材料量)+(添加材料量)}である。
【0049】
本発明の該転写組成物を電解質膜とアノードおよびカソード電極との間に設ける方法としては特に限定されない。例えば、該転写組成物を電解質膜上に設けおよび/または該転写組成物を電極触媒層上に設けその後、該転写組成物を設けた電解質膜と電極を貼り合わせる、または該転写組成物を設けた電極と電解質膜を貼り合わせる、または該転写組成物を設けた電解質膜と該転写組成物を設けた電極を貼り合わせて、該転写組成物を電極と電解質膜との間に介在させることができる。さらには、該転写組成物単独からなるフィルムを電極と電解質膜との間に積層して複合化する工程などが例として挙げられる。
【0050】
電極と電解質膜の複合化は、通常公知の方法(例えば、「電気化学」1985, 53, 269.記載の化学メッキ法、「ジャーナル オブ エレクトロケミカル サイエンス」(J. Electrochem. Soc.): Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209. 記載のガス拡散電極の加熱プレス接合法など)を適用することが可能である。加熱プレスにより複合化することは好ましい方法であるが温度、圧力および時間は、電解質膜の耐熱性、機械的強度、膜厚、含水率、触媒層や電極基材により適宜選択すればよい。また、本発明では電解質膜が乾燥した状態または吸水した状態でもプレスによる複合化が可能である。特に、本発明の方法では、通常、電解質膜が含水状態でなければ、電極と電解質膜の接合状態の良好な膜電極複合体を得ることができないような電解質膜においても、電解質膜が乾燥した状態でプレスできるため電解質膜と触媒層の実質的な接触面積を大きくでき、さらには加熱プレス時の水分揮発による電解質膜の実質的な収縮がないことから、強固な密着性を有する極めて優れた品位の膜電極複合体を得ることができる。その結果として、高性能な高分子電解質型燃料電池が得られる。
【0051】
ここで具体的なプレス方法としては、圧力やクリアランスを規定したロールプレス、圧力を規定した平板プレスなどが挙げられ、加熱温度は該イオン性基を有する炭化水素系高分子被膜の流動性に応じて適宜選択でき、工業的生産性の観点から室温〜130℃の範囲で行うことが好ましい。また、加圧は電解質膜や触媒層の保護の観点からできる限り弱い方が好ましく、平板プレスの場合は0.1〜10(MPa)の範囲が好ましい。また、電解質膜に該転写組成物を設ける場合は、電極の触媒層を該転写組成物上に形成して膜電極複合体としてもよい。さらに、電極に該転写組成物を設ける場合は、あらためて電解質膜を準備しなくても該転写組成物兼電解質膜として電極同士貼り合わせて膜電極複合体にすることも可能である。この場合は、該転写組成物の目付量は短絡しない程度に多くすることが好ましく、電極面積より大きめに該転写組成物を設けることが好ましい。
【0052】
また、複合化した膜電極複合体を高分子電解質型燃料電池として発電する際に長期にわたって不揮発性溶媒が膜電極複合体中に存在する状態は現時点では影響が不明なため、不揮発性溶媒はできる限り除去する方が好ましいと考えられる。ここで不揮発性溶媒の除去方法としては、通常公知の方法が使用できる。例えば熱による乾燥、分解、溶媒による洗浄、触媒等による分解、電気化学的に分解する方法が挙げられる。使用する不揮発性溶媒、電解質膜、触媒など特性を十分考慮し適宜除去方法を選択できるが、工業的観点から除去工程はできる限り短時間が好ましく、例えば溶剤による洗浄が好ましい。本発明においては作業性、環境問題の観点から水および/または有機溶剤による抽出洗浄が好ましく、特にダイレクトメタノール型燃料電池の膜電極複合体を用いる場合は、水あるいはアルコール水による抽出洗浄除去が好ましく用いられる。従って不揮発性溶媒も水溶性であることが工業的に好ましい。
【0053】
具体的な除去工程としては、該転写組成物を介して複合化した膜電極複合体を不揮発性溶媒の良溶剤かつ電解質膜や触媒などの使用する部材に悪影響を及ぼさない溶剤に接触させて不揮発性溶媒を抽出除去する方法が好ましい。例えば水溶性溶媒を使用した場合は、膜電極複合体を水、アルコールまたはアルコール水溶液などの溶剤に一定時間浸漬する方法、水蒸気などで抽出除去する方法、膜電極複合体を燃料電池のセルにセットした後に水、アルコールまたはアルコール水溶液などの溶剤または蒸気を燃料供給箇所などから流して不揮発性溶媒を除去する方法が挙げられる。また、ダイレクトメタノール型燃料電池のようにメタノール水溶液を燃料とする場合は、初期エージングの工程を兼ねて発電時にアノード側はメタノール水溶液をカソード側は生成する水を利用し除去を行う方法などが挙げられる。
【0054】
本発明における膜電極複合体は、“ナフィオン”(登録商標)(デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質膜や炭化水素系電解質膜などすべての電解質膜に適用できるが、特に、前述した高耐熱性、高強度、高引っ張り弾性率および低含水率の電解質膜を使用した膜電極複合体の製造に好適である。具体的にはガラス転移温度130℃以上、引っ張り弾性率100MPa以上、含水率40重量%以下などの電解質膜が挙げられ、イオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレン、イオン性基含有ポリアゾメチン、イオン性基含有ポリイミドアゾメチン、イオン性基含有ポリスチレンおよびイオン性基含有スチレン−マレイミド系架橋共重合体などのイオン性基含有ポリオレフィン系高分子およびその架橋体などのイオン性基を有する芳香族炭化水素系高分子が挙げられる。これらの高分子材料は単独、あるいは二種以上併用して使用でき、ポリマーブレンド、ポリマーアロイ、また二層以上の積層膜として使用できる。また、ここでのイオン性基およびイオン性基の導入方法、合成方法、分子量の範囲については前述のとおりである。
【0055】
特にイオン性基としては、前述のようにスルホン酸基を有する高分子材料が最も好ましいが、スルホン酸基を有する高分子材料を使用する一例として、−SOM基(Mは金属)含有のポリマーを溶液状態により製膜し、その後高温で熱処理し溶媒を除去し、プロトン置換して電解質膜とする方法が挙げられる。前記の金属Mはスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。これらの金属塩の状態で製膜することで高温での乾燥処理が可能となり、該方法は高ガラス転移点、低含水率が得られる高分子材料系には好適である。
【0056】
本発明における電解質膜の乾燥処理の温度としては、得られる電解質膜の含水率の観点から100〜500℃が好ましく、200〜450℃がより好ましく、250〜400℃がさらに好ましい。100℃以上とするのは、低含水率を得る上で好ましい。一方、500℃以下とすることで高分子材料の分解を防ぐことができる。また、乾燥処理時間としては生産性の点で10秒〜24時間が好ましく、30秒〜1時間がより好ましく、45秒〜30分がさらに好ましい。乾燥処理時間を10秒以上とすることで十分な溶媒除去が可能となり、その結果として燃料クロスオーバー抑制効果に優れる電解質膜が得られる。また、24時間以下とすることでポリマーの分解を防止しかつプロトン伝導性を維持し、その結果として工業的生産性も高くなる。
【0057】
本発明における電解質膜の作製方法としては、ポリマー溶液を適当なコーティング法で塗布し、溶媒を除去し、高温で処理後、酸処理する方法を例示することができる。例えばコーティング法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。
【0058】
溶媒を用いたコーティング法では、熱による溶媒の乾燥、ポリマーを溶解しない溶媒での湿式凝固法などで製膜でき、無溶媒では光、熱、湿気などで硬化させる方法、ポリマーを加熱溶融させ、膜状に製膜後冷却する方法などが適用できる。
【0059】
電解質膜の製膜に用いる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒が好適に用いられる。電解質膜の膜厚としては、通常3〜2000μmのものが好適に使用される。
【0060】
実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには2000μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜1000μm、さらに好ましい範囲は10〜500μmである。
【0061】
膜厚は、種々の方法で制御できる。例えば溶媒キャスト法で製膜する場合は、溶液濃度あるいは支持体上への塗布厚により制御することができるし、また、例えばキャスト重合法で製膜する場合は板間のスペーサー厚みによって調製することもできる。
【0062】
また、本発明の電解質膜は、必要に応じて放射線照射などの手段によって高分子構造全体あるいは一部を架橋せしめることもできる。架橋せしめることにより、燃料クロスオーバーおよび燃料に対する膨潤をさらに抑制する効果が期待でき、機械的強度が向上し、より好ましくなる場合がある。放射線照射の種類としては例えば、電子線照射やγ線照射を挙げることができる。架橋構造を有することにより、水分や燃料の浸入に対する高分子鎖間の広がりを抑えることができる。含水率を低く抑えることができ、また、燃料に対する膨潤も抑制できることから、その結果的として燃料クロスオーバーを低減することができる。また、高分子鎖を拘束できるため耐熱性や剛性も付与できる。ここでの架橋は、化学架橋であっても物理架橋であってもよい。
【0063】
この架橋構造は通常公知の方法で形成でき、例えば多官能単量体の共重合や電子線照射によって形成できる。特に、多官能単量体による架橋が経済的観点から好ましく、単官能ビニル単量体と多官能単量体の共重合体やビニル基やアリル基を有する高分子を多官能単量体で架橋したものが挙げられる。ここでの架橋構造とは、熱に対しての流動性が実質的に無い状態か溶媒に対して実質的に不溶の状態を意味する。
【0064】
また、本発明の電解質膜中には、イオン伝導性や燃料クロスオーバーの抑制効果を阻害しない範囲内において機械的強度の向上、イオン性基の熱安定性向上、加工性の向上などの観点からフィラーや無機微粒子を含有しても、ポリマーや金属酸化物からなるネットワークや微粒子を形成させても構わないし、さらに多穴質の支持体などに含浸した膜でも差し支えない。
【0065】
本発明における膜電極複合体に好適な電極の例を説明する。かかる電極は、触媒層および電極基材からなるものである。ここでいう触媒層は、電極反応を促進する触媒、電子伝導体、イオン伝導体などを含む層である。
【0066】
かかる触媒層に含まれる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、金などの貴金属触媒が好ましく用いられる。これらの内の1種類を単独で用いてもよいし、合金、混合物など、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
また、触媒層に電子伝導体(導電材)を使用する場合は、電子伝導性や化学的な安定性の点から炭素材料、無機導電材料が好ましく用いられる。なかでも、非晶質、結晶質の炭素材料が挙げられる。例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが電子伝導性と比表面積の大きさから好ましく用いられる。ファーネスブラックとしては、キャボット社製“バルカンXC−72”(登録商標)、“バルカンP”(登録商標)、“ブラックパールズ880”(登録商標)、“ブラックパールズ1100”(登録商標)、“ブラックパールズ1300”(登録商標)、“ブラックパールズ2000”(登録商標)、“リーガル400”(登録商標)、ケッチェンブラック・インターナショナル社製“ケッチェンブラック”EC(登録商標)、EC600JD、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製“デンカブラック”(登録商標)などが挙げられる。またカーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。
【0068】
これらの炭素材料の形態としては、不定形粒子状のほか繊維状、鱗片状、チューブ状、円錐状、メガホン状のものも用いることができる。また、これら炭素材料を後処理加工したものを用いてもよい。また、電子伝導体を使用する場合は、触媒粒子と均一に分散していることが電極性能の点で好ましい。このため、触媒粒子と電子伝導体は予め塗液として良く分散しておくことが好ましい。さらに、触媒層としては触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボン等を用いることも好ましい実施態様である。この触媒担持カーボンを用いることにより、触媒の利用効率が向上し電池性能の向上および低コスト化に寄与できる。ここで、触媒層に触媒担持カーボンを用いた場合においても、電子伝導性をさらに高めるために導電剤を添加することも可能である。このような導電剤としては、前述のカーボンブラックなどが好ましく用いられる。
【0069】
触媒層に用いられるイオン伝導性を有する物質(イオン伝導体)としては、一般的に種々の有機、無機材料が公知であるが燃料電池に用いる場合には、イオン伝導性を向上するスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などのイオン性基を有するポリマー(イオン伝導性ポリマー)が好ましく用いられる。なかでもイオン性基の安定性の観点から、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖とから構成されるイオン伝導性を有するポリマーあるいは本発明の高分子電解質材料が好ましく用いられる。
【0070】
パーフルオロ系イオン伝導性ポリマーとしては、例えばデュポン社製の“ナフィオン”(登録商標)、旭化成社製の“Aciplex”(登録商標)、旭硝子社製“フレミオン”(登録商標)などが好ましく用いられる。これらのイオン伝導性ポリマーは、溶液または分散液の状態で触媒層中に設ける。この際にポリマーを溶解あるいは分散化する溶媒は特に限定されるものではないが、イオン伝導性ポリマーの溶解性の点から極性溶媒が好ましい。また、前述した電解質膜として好ましい炭化水素系高分子材料も触媒層中のイオン伝導性を有する物質(以下、イオン伝導体と略す)に好適に使用できる。特にメタノール水溶液やメタノールを燃料にするダイレクトメタノール型燃料電池の場合は、耐メタノール性の観点から前述の炭化水素系高分子材料が耐久性などに効果的な場合がある。前述の触媒と電子伝導体類は通常粉体であるのでイオン伝導体は、これらを固める役割を担うことが通常である。
【0071】
イオン伝導体は、触媒層を作製する際に触媒粒子と電子伝導体とを主たる構成物質とする塗液に予め添加し均一に分散した状態で塗布することが電極性能の点から好ましいものである。触媒層に含まれるイオン伝導体の量としては、要求される電極特性や用いられるイオン伝導体の伝導度などに応じて適宜決められるべきものであり、特に限定されるものではないが、重量比で1〜80%の範囲が好ましく、5〜50%の範囲がさらに好ましい。イオン伝導体が少な過ぎる場合は、イオン伝導度が低くかつ結着性が不良となり、多過ぎる場合は反応生成物の水やガス透過性の拡散を阻害する点でいずれも電極性能を低下させることがある。かかる触媒層には、前述の触媒、電子伝導体、イオン伝導体の他に種々の物質を含んでいてもよい。特に、触媒層中に含まれる物質の結着性を高めるために前述のイオン伝導性ポリマー以外のポリマーを含んでもよい。
【0072】
このようなポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(FEP)およびその共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)およびその共重合体などのフッ素原子を含むポリマー、これらの共重合体、これらのポリマーを構成するモノマー単位とエチレンやスチレンなどの他のモノマーとの共重合体、あるいはブレンドポリマーなどを用いることができる。これらポリマーの触媒層中の含有量としては、重量比で5〜40%の範囲が好ましい。ポリマー含有量が多すぎる場合、電子およびイオン抵抗が増大し電極性能が低下する傾向がある。また、触媒層は燃料が液体や気体の場合には、その液体や気体が透過しやすい構造を有していることが好ましく、電極反応に伴う反応生成物質の排出を促す構造が好ましい。また、電極基材としては電気抵抗が低く、集電あるいは給電を行えるものを用いることができる。また、前記触媒層を集電体兼用で使用する場合は、特に電極基材を用いなくてもよい。
【0073】
電極基材の構成材料としては、例えば炭素質、導電性無機物質が挙げられ、具体的にはポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。これらの形態は特に限定されず、例えば繊維状あるいは粒子状で用いられるが燃料透過性の点から炭素繊維などの繊維状導電性物質(導電性繊維)が好ましい。
【0074】
導電性繊維を用いた電極基材としては、織布あるいは不織布いずれの構造も使用可能である。例えば、東レ(株)製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E-TEK社製カーボンクロスなどが用いられる。かかる織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など特に限定されることなく用いられる。また、不織布としては抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法によるものなど特に限定されることなく用いられる。また、編物であってもよい。これらの布帛において特に炭素繊維を用いた場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化あるいは黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工した後に炭化あるいは黒鉛化した不織布、耐炎化糸あるいは炭化糸あるいは黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましく用いられる。特に、薄く強度のある布帛が得られる点から不織布やクロスを用いるのが好ましい。
【0075】
かかる電極基材に用いられる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などが挙げられる。また、かかる電極基材には水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐための撥水処理や水の排出路を形成するための部分的撥水、親水処理、抵抗を下げるための炭素粉末の添加などを行うこともできる。また、電極基材と触媒層の間に少なくとも無機導電性物質と疎水性ポリマーを含む導電性中間層を設けることもできる。特に電極基材が空隙率の大きい炭素繊維織物や不織布である場合、導電性中間層を設けることで触媒層が電極基材にしみ込むことによる性能低下を抑えることができる。
【0076】
本発明の膜電極複合体を用いてなる高分子電解質型燃料電池の燃料としては、酸素、水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、ギ酸、酢酸、ジメチルエーテル、ハイドロキノン、シクロヘキサンなどの炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水との混合物等が挙げられ、1種または2種以上の混合物でもよい。特に、発電効率や電池全体のシステム簡素化の観点から水素、炭素数1〜6の有機化合物を含む燃料が好適に使用され、発電効率の点でとりわけ好ましいのは水素およびメタノール水溶液である。メタノール水溶液を用いる場合は、メタノールの濃度としては、使用する燃料電池のシステムによって適宜選択されるができる限り高濃度のほうが長時間駆動の観点から好ましい。
【0077】
例えば、送液ポンプや送風ファンなど発電に必要な媒体を膜電極複合体に送るシステム、冷却ファン、燃料希釈システム、生成物回収システムなどの補機を有するアクティブ型燃料電池は、メタノールの濃度30〜100%の燃料を燃料タンクや燃料カセットにより注入し、0.5〜20%程度に希釈して膜電極複合体に送ることが好ましく、また補機がないパッシブ型の燃料電池はメタノールの濃度が10〜100%の範囲の燃料が好ましい。また、本発明の膜電極複合体は複数枚のスタック状で使用しても並べた状態で使用してもよい。また、燃料電池は使用する機器に内蔵してもよいし、外付けのユニットとして使用してもよい。また、メンテナンスの観点から燃料電池セルから膜電極複合体が脱着可能な構成であることが好適である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、各物性の測定条件は次の通りである。
(測定方法)
実施例中の物性は下記に示す方法で測定した。
【0079】
(1)スルホン酸基密度
25℃の純水中で24時間以上撹拌洗浄したのち、100℃で24時間真空乾燥した後精製、乾燥後のポリマーについて、元素分析により測定した。C、H、Nの分析は、全自動元素分析装置varioELで、また、Sの分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定、Pの分析についてはフラスコ燃焼法・リンバナドモリブデン酸比色法で実施した。それぞれのポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度(mmol/g)を算出した。
【0080】
(2)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/Lを含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
【0081】
(3)イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の不揮発性溶媒含量
10〜100μmのシート状の組成物の重量測定を行い、60℃/5minの条件で熱風乾燥した後に重量測定を行い、その後、室温でメタノール、水のそれぞれに24時間浸漬し、乾燥後の重量を測定し、不揮発性溶媒含量を算出した。
【0082】
(4)イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の付量
10〜100μmの組成物をシート状に加工し、熱風乾燥した後の試料の重量測定を行い平方cm当りの付量を算出した。
【0083】
(5)積層体からのイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の剥離性
(a)転写組成物/ラミネート用剥離基材界面の剥離性
積層体に0.1MPa/cmの荷重下、室温で一晩放置後にラミネート用剥離基材を剥がし、剥離性を観察した。
【0084】
(b)塗工用剥離基材/転写組成物界面の剥離性
ラミネート用剥離基材を剥がし、電極基材に転写組成物/塗工用剥離基材を載せカプトンフィルムで挟持し、1MPa/cm圧力下100℃/5minの熱プレスを行った後に同圧力で冷却プレスを行った。その後、塗工用剥離基材を剥がし、剥離性および電極基材への転写組成物の転写性を観察した。
【0085】
(c)塗工用剥離基材/転写組成物/ラミネート用剥離基材の保存安定性
(a)と同条件の荷重下、室温で1週間、2週間、4週間保存し、(a)と同様に評価を行った。
【0086】
(6)膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。
【0087】
(7)高分子電解質型燃料電池の発電性能評価
膜電極複合体(MEA)をエレクトロケム社製セルにセットし、アノード電極側に3.2%メタノール水溶液を1ml/minで供給し、カソード電極側に空気を50ml/minで流し発電評価を行った。また、セパレーターの裏側に温調水を流し60℃に調整した。評価は、MEAに定電流を流しその時の電圧を測定した。電流を順次増加させ電圧が10mV以下になるまで測定を行った。各測定点での電流と電圧の積が出力となるがその最大値(MEAの単位面積あたり)を出力(mW/cm2)とした。前述の発電評価を繰り返し安定な出力が得られるまでエージングし、エージング中の最高出力(mW/cm)を初期発電出力とした。また、MEAでのメタノール透過量はカソードからの排出ガスを捕集管でサンプリングした。これを全有機炭素計TOC-VCSH(島津製作所製測定器)、あるいはMeOH透過量測定装置Micro GC CP-4900(ジ−エルサイエンス製ガスクロマトグラフ)を用い評価した。尚、メタノール透過量は、サンプリングガス中のMeOHと二酸化炭素の合計を測定して算出した。
【0088】
[合成例1]
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1gを発煙硫酸(50%SO)150mL中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0089】
[合成例2]
炭酸カリウム6.9g、4,4'−ジヒドロキシテトラフェニルメタン14.1g、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン4.4g、および前記合成例1で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを8.4g用いて、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中、190℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製、乾燥しポリマーAを得た。得られたポリマーAのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.8mmol/g、重量平均分子量20.4万であった。
【0090】
[合成例3]
炭酸カリウム17.3g、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン20.7g、4−4'−ビフェノール3.7g、前記合成例1で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン17.2g、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン13.4gを用いてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中、195℃で重合を行った。多量の水で再沈することで精製、乾燥しポリマーBを得た。得られたポリマーBのプロトン置換膜のスルホン酸基密度は、元素分析より1.5mmol/g、重量平均分子量33.5万であった。
【0091】
[電解質膜の作製例]
ポリマーBを11.3g、N−メチル−2−ピロリドン38.7gに溶解させ22.5%の塗液とした。当該塗液をPET基板上にアプリケーターを用いて流延塗布し、100℃/4時間乾燥した。次にPET基板から電解質膜を剥がした。その後、10%硫酸水溶液に60℃/1時間浸漬しプロトン置換を行い、精製水に1日浸漬して洗浄、乾燥を行い膜厚30μmの電解質膜を得た(EM)。
【0092】
[イオン性基を有する炭化水素系高分子材料の作製例]
粉砕器で粉状にしたポリマーAを大過剰量の2N−塩酸水溶液に60℃で24時間以上撹拌しプロトン置換を行った。多量の精製水で中性になるまで洗浄、ろ過を繰り返した後に60℃で24時間以上乾燥を行い、さらに真空雰囲気下80℃で24時間以上乾燥を行いプロトン交換されたポリマーを得た(ポリマーHA)。
【0093】
[イオン性基を有する炭化水素系高分子組成物(塗工用組成物)]
ポリマーHAを8.3g、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン55.8gに溶解させた後にグリセリン33.1g加え、イオン性基を有する炭化水素系高分子組成物を得た(塗工用組成物:CPHA)。該塗工用組成物をE型粘度計で23℃雰囲気下910poiseであった。
【0094】
[メタノール水溶液を燃料とする膜電極複合体用電極作製例]
炭素繊維の織物からなる米国E−TEK社製カーボン付きクロスTL−1400W電極基材上に、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru触媒“HiSPEC”(登録商標)6000とPt−Ru担持カーボン触媒“HiSPEC”(登録商標)10000とデュポン(DuPont)社製20%“ナフィオン”(登録商標)溶液の溶媒を全てN−メチル−2−ピロリドンに置換した溶液からなるアノード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してアノード電極Aを得た。尚、アノード触媒塗液の塗工はカーボン付き面に行った。また、同様に上記の電極基材上に田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eとジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt触媒HiSPEC”(登録商標)1000と“ナフィオン”(登録商標)溶液にN−メチル−2−ピロリドンを配合した溶液からなるカソード触媒塗液をスリットダイ塗工し、100℃で30分間熱処理してカソード電極Cを得た。
【0095】
[実施例1]
塗工用組成物CPHAを1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン透過量が1.5μmol・分−1・cm−2、剥離強度が0.6N/50mmの溶媒不透過性剥離基材に株式会社ラボOS−300装置でライン速度1m/min、塗工付量8.5mg/cmで製膜、60℃→80℃→100℃→120℃で熱風乾燥を行った。熱風乾燥後付量は2.7mg/cmであった。ここで、サンプルの一部を用いて測定した、60℃/5minの熱風乾燥および溶媒抽出後の付量は0.73mg/cmであり、不揮発性溶媒含量は72.8重量%であった。
【0096】
積層体作製に記述を戻す。その後1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン透過量が1.3μmol・分−1・cm−2、剥離強度が0.04N/50mmの溶媒不透過性剥離基材でラミネートして、イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の溶媒不透過性剥離基材で挟持されてなる積層体を得た。該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の積層体からの該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の剥離性を表1に示した。
【0097】
[実施例2]
実施例1の乾燥条件を50℃→50℃→80℃→100℃に変更する以外は、同様に行った。製膜時の塗工付量8.5mg/cm2であり、熱風乾燥後付量は5.7mg/cmであり、60℃/5minの熱風乾燥および溶媒抽出後の付量は0.73mg/cmであり、不揮発性溶媒含量は86.9重量%であった。積層体からの該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の剥離性を表1に示した。
【0098】
[比較例1]
実施例1で60℃→80℃→100℃→120℃での熱風乾燥を行わなかった以外は、同様に行った。60℃/5minの熱風乾燥後付量は8.4mg/cmであり、溶媒抽出後の付量は0.73mg/cmであり、不揮発性溶媒含量は91.0重量%であった。積層体からの該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の剥離性を表1に示した。
【0099】
[比較例2]
実施例1でライン速度を0.1m/minに変更する以外は、同様に行った。製膜時の塗工付量8.5mg/cmであり、熱風乾燥後付量は1.21mg/cmであり、60℃/5minの熱風乾燥および溶媒抽出後の付量は1.20mg/cmであり、不揮発性溶媒含量は39.5重量%であった。該転写組成物は、乾燥後に塗工用剥離基材から転写組成物が剥離し、ラミネート用剥離基材で挟持できなく積層体が得られなかった。
【0100】
[実施例3]
前記実施例1の積層体からラミネート用剥離基材を剥がし、電極面積5cmのアノード電極Aおよびカソード電極Cの触媒層上に転写組成物/塗工用剥離基材を載せカプトンフィルムで挟持し、1MPa/cm圧力下100℃/5minの熱プレスを行った後に同圧力で冷却プレスを行い、その後塗工用溶媒不透過性剥離基材を剥がした。次に前記転写組成物面を電解質膜EMに貼り付け、カプトンフィルムで挟持し、3MPa/cm圧力下100℃/8minの熱プレスを行った後に同圧力で冷却プレスを行い、膜電極複合体を得た。その後、膜電極複合体を50mlの純水に30分間浸し、該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物中に残存している不揮発性溶媒を抽出洗浄し、発電用セルに組み込み高分子電解質型燃料電池とした。出力は110mW/cm、メタノール透過量は8μmol/min/cmであった。
【0101】
[比較例3]
実施例1で1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン透過量が43μmol・分−1・cm−2、剥離強度が0.03N/50mmの剥離基材でラミネートする以外は、同様に行った。積層体からの該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物の剥離性を表1に示した。
【0102】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不揮発性溶媒を50〜90重量%含有するイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物が2層の溶媒不透過性剥離基材で挟持されてなる積層体。
【請求項2】
請求項1記載の積層体から1層の溶媒不透過性剥離基材を剥離する工程、剥離面のイオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物を電極触媒層上に接着する工程、電極触媒層上に設けられた該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物から1層の溶媒不透過性剥離基材を剥離する工程、電極触媒層上に設けられた該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物と電解質膜とを接着する工程および該イオン性基を有する炭化水素系高分子転写組成物から溶媒を除去する工程からなることを特徴とする膜電極複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の膜電極複合体の製造方法で製造された膜電極複合体を含むことを特徴とする燃料電池。

【公開番号】特開2011−230387(P2011−230387A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103199(P2010−103199)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】