説明

積層基板

【課題】多孔質膜で被覆された基板であって、該多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されており、且つ、該多孔質膜に、基板から無孔質薄膜に向かう貫通孔が形成された積層基板を提供する。
【解決手段】本発明の積層基板は、多孔質膜で被覆された基板であり、前記多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されており、基板から無孔質薄膜に向かう複数の互いに並行する貫通孔が前記多孔質膜に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜で被覆された基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多孔質膜で被覆された基板(以下、「被覆基板」と呼ぶことがある。)は、軽量骨材や耐火物、断熱材、緩衝材、吸音材、吸着材、触媒、触媒担体などに利用されている。多孔質膜のなかでも、メソスケール(具体的には、2〜50nm程度)の微細な細孔が無数に形成されたメソポーラス膜は、細孔径が均一であるため、特に吸着材や触媒担体として利用することが期待されている。特に、膜厚を薄くすることで、透明性が出てくる場合は、例えば、光学材料や電子材料としても応用できる。
【0003】
こうした多孔質膜としては、二酸化ケイ素(シリカ)を原料とした多孔質シリカ膜やメソスケールの細孔が形成されたメソポーラスシリカ膜が知られている。特にメソポーラスシリカ膜は、界面活性剤ミセルを鋳型として製造され、界面活性剤の種類や合成条件などを制御することで、細孔の構造を調整できる。
【0004】
細孔の構造としては、個々の細孔が独立している構造や、細孔同士が互いに連通し、多孔質膜内にチューブ状の貫通孔を形成している構造が知られている。特に、細孔が貫通孔を形成している場合は、この貫通孔を基板面に対して垂直方向へ配向させることで、多孔質膜のさらなる用途拡大が期待できる。例えば、基板に磁性粒子をナノスケールで埋め込んでおき、この基板の表面に、貫通孔を基板面に対して垂直方向へ配向させた多孔質膜を形成すれば、磁気フィルターや次世代の超高密度磁気記録媒体などに利用できる。また、貫通孔を基板面に対して垂直方向へ配向させた多孔質膜を、透過膜の支持層として用いれば、貫通孔が3次元的にランダムに成長した多孔質膜を用いるよりも気体の透過率を高めることができる。
【0005】
貫通孔を多孔質膜に基板面に対して垂直方向へ配向させて形成させる技術が知られている(例えば、特許文献1や非特許文献1など)。特許文献1には、陽イオン界面活性剤と、加水分解によりシラノール化合物を生成するシリカ源を含む溶液を用いることで、基板に対してメソ細孔が略垂直に配向しているメソポーラスシリカ膜構造体を形成する技術が開示されている。しかし特許文献1には、多孔質膜の表面に無孔質薄膜を形成する点については記載されていない。
【0006】
また、非特許文献1には、高磁場中で、界面活性剤の自己組織化で形成されたリオトロピック液晶の配向を利用し、メソ細孔を基板面に対して垂直方向に配向させたメソポーラスシリコンフィルムを製造する技術が開示されている。しかしこの技術では、磁場強度によって用いることのできる界面活性剤の種類が限定されるため、空孔サイズを制御し難い。また、この文献には、多孔質膜の表面に無孔質薄膜を形成する点については記載されていない。
【0007】
多孔質膜内に貫通孔を基板面に対して垂直方向へ配向させて形成させる技術ではないが、本出願人は、先に、特許文献2の技術を提案している。この技術は、1対の平板の内部でゾル−ゲル反応を行なうことによって、3次元網目状に形成された多孔質膜を形成するものである。この技術によれば、多孔質膜の表面に、平滑で均一な連続皮膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−266049号公報
【特許文献2】特開2007−99540号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry,2005年,15,p.1137〜1140
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1と非特許文献1では、厚み方向に延びる貫通孔を有する多孔質膜を形成できる場合があるものの多孔質膜の表面に無孔質薄膜は形成されていない。一方、上記特許文献2では、多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されているものの多孔質膜内の貫通孔は3次元構造となっている。即ち、厚み方向に延びる貫通孔を有する多孔質膜の表面に、無孔質薄膜が形成された積層基板は未だ知られていない。
【0011】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、多孔質膜で被覆された基板であって、該多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されており、且つ、該多孔質膜に、基板から無孔質薄膜に向かう貫通孔が形成された積層基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明に係る積層基板は、多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されており、基板から無孔質薄膜に向かう複数の互いに並行する貫通孔が前記多孔質膜に形成されている点に要旨を有する。
【0013】
基板から無孔質薄膜に向かう並行貫通孔は、基板方向に逆戻りすることなく、常に無孔質薄膜に向けて進み続けるものである。
【0014】
前記多孔質膜の厚みD1と前記無孔質薄膜の厚みD2の比(D1:D2)は、例えば、2:1〜100000:1である。前記多孔質膜の厚みD1は、具体的には、1nm以上1000μm以下である。前記貫通孔の平均直径は、例えば、0.1nm以上1μm以下である。前記多孔質膜は、無機質膜であればよく、例えば、シリカ膜である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の積層基板は、多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されているため、この無孔質薄膜の表面に、例えば金属膜などを積層できる。そのため積層基板の用途を拡大できる。また多孔質膜には、基板から無孔質薄膜に向かう貫通孔が形成されているため、例えば、気体の透過率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実験例1で得られた積層基板の厚み方向における断面を走査型電子顕微鏡で撮影した図面代用写真である。
【図2】図2は、実験例2で得られた積層基板の厚み方向における断面を走査型電子顕微鏡で撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の積層基板は、基板、多孔質膜、無孔質薄膜が、この順で積層したものである。多孔質膜には、基板から無孔質薄膜に向かう複数の互いに並行する貫通孔が形成されており、この多孔質膜の表面には、無孔質薄膜が形成されている。以下、本発明の積層基板について、基板、多孔質膜、無孔質薄膜の順に説明する。
【0018】
《基板について》
本発明の積層基板のベースとなる基板は、多孔質膜と無孔質薄膜をこの順で積層し、強度を確保するために用いる。
【0019】
基板の材料は特に限定されず、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属フッ化物、半導体材料、シリコン、セラミックスなどを用いることができる。
【0020】
基板の厚みは、積層基板の強度を確保できる程度であれば特に限定されず、例えば、0.5〜2mm程度である。
【0021】
《多孔質膜について》
多孔質膜には、基板から無孔質薄膜に向かう複数の互いに並行する貫通孔(以下、「並行貫通孔」または単に「貫通孔」と呼ぶことがある。)が形成されているため、例えば、気体の透過率を高めることができる。また、本発明の積層基板に形成されている無孔質薄膜を除去して貫通孔の開口部を露出させ、該開口部から貫通孔内へ新たな特性を付与する物質を充填させると、積層基板に新たな特性を付与することができる。
【0022】
この並行貫通孔は、多孔質膜のうち、(1)ベースとして用いた基板と多孔質膜との界面近傍、(2)多孔質膜の厚み方向の中央付近、(3)多孔質膜と無孔質薄膜との界面近傍の何れの位置においても基板から無孔質薄膜に向かっていればよい。即ち、上記並行貫通孔は、常に無孔質薄膜に向けて進み続ける。従って、基板から出発した貫通孔は、基板方向に逆戻りしない。
【0023】
基板から無孔質薄膜に向かう状態は、例えば、基板面と並行なx軸と、基板面の法線に並行で且つ基板から無孔質薄膜に向かう方向を正方向とするy軸とから構成されるxy座標に上記並行貫通孔の流れを描き、この流れを関数y=f(x)で示したとき、この関数をxで微分したy’=f’(x)の値が正になっている状態である。
【0024】
上記並行貫通孔の流れを示した曲線の接線と、上記x軸との成す角(以下、配向度と呼ぶことがある。)は、0°を超え90°以下であればよく、好ましくは45°以上90°以下、より好ましくは75°以上90°以下である。
【0025】
上記貫通孔の平均直径は、例えば、0.1nm以上1μm以下である。貫通孔の平均直径が小さ過ぎると、気体透過性が低下する。一方、貫通孔の平均直径が大き過ぎると、多孔質膜の密度が小さくなって強度が低下する。従って貫通孔の平均直径は0.1nm以上1μm以下、好ましくは1nm以上500nm以下、より好ましくは1nm以上100nm以下とする。貫通孔の平均直径をナノオーダーにすれば、ナノワイヤ(例えば、シリコンナノワイヤ)を形成することができる。
【0026】
上記貫通孔が形成された多孔質膜の厚みD1は、例えば、1nm以上1000μm以下、好ましくは10nm以上100μm以下、より好ましくは100nm以上10μm以下である。多孔質膜の厚みD1が大き過ぎると、貫通孔が基板から無孔質薄膜に向かい難くなり、3次元網目構造化し易くなる。
【0027】
上記多孔質膜は、熱安定性、加工性、および機械的強度の観点から無機質膜、特に無機酸化物膜が好ましく、例えば、チタン、珪素、アルミニウム、硼素、ゲルマニウム、ランタン、マグネシウム、ニオブ、リン、タンタル、スズ、バナジウム、ジルコニウムなどの無機酸化物膜が含まれる。これらのなかでも、多孔質膜の誘電率を低くする観点からシリカを主成分とする酸化膜が好ましい。
【0028】
《無孔質薄膜について》
本発明の積層基板は、基板の表面に設けられた多孔質膜の表面に、無孔質薄膜が連続的に形成されている。そのため、この無孔質薄膜の表面に、更に金属膜等の別の物質を成膜でき、成膜した物質の特性に応じて、積層基板に新たな特性を付与できる。具体的には、無孔質薄膜の表面に、例えば、Pd膜を形成すると共に、ベース基板にエッチング加工を施して孔を開ければ、基板から無孔質薄膜に向かう複数の並行する貫通孔が形成されていることで気体の透過率を高めるという作用も両立する。こうした積層基板は、例えば、水素透過モジュール等へ適用できる。
【0029】
また、多孔質膜の表面に設けられた無孔質薄膜をドライエッチング等により剥離し、多孔質膜に設けられた貫通孔の開口部を露出させ、この開口部から貫通孔内に例えばPtなどの金属を担持させることで、ナノワイヤー等を形成することも考えられる。更には、貫通孔内に、例えば磁性粒子を埋め込むことで、高密度磁気記録媒体を作製できる。
【0030】
上記無孔質薄膜の厚みD2は、無機質薄膜の表面に別の物質を担持できる程度であればよく、厚過ぎる場合は、エッチング等によって削って調整すればよい。
【0031】
上記多孔質膜の厚みD1と無孔質薄膜の厚みD2の比(D1:D2)は、2:1〜100000:1、好ましくは5:1〜10000:1、より好ましくは10:1〜1000:1、特に好ましくは30:1〜500:1である。
【0032】
上記無孔質薄膜は、通常、上記多孔質膜と同じ材料で構成される。
【0033】
本発明の積層基板は、概略、以下のようにして製造できる。即ち、基板の表面に、多孔質膜を形成するための前駆体材料(多孔質材料)と界面活性剤を含む前駆体溶液を塗布した後、塗布面を別の基板で蓋をし、基板/塗布液/基板(蓋)の三層積層体を形成する。そしてこの三層積層体を乾燥して塗膜から溶媒を除去した後、更に塗膜から界面活性剤を除去し、次いで焼成すると、塗膜内部には一方の基板から他方の基板に向かう複数の並行貫通孔が形成されると共に、塗膜表面(基板側界面)に無孔質薄膜が形成されるため、本発明の積層基板を製造できる。この方法によれば、磁場などを利用しなくても、簡便かつ確実に並行貫通孔を形成できる。
【0034】
上記方法によって並行貫通孔が形成されるのは、前記塗布液内で界面活性剤が、疎水基を中心側、親水基を表面側とする円筒形構造を形成し、多孔質材料が、この円筒形構造の表面側(親水基側)に結合するためと推察される。そして、後述する実験例で実証するように、塗布液を別の基板で蓋をすると、円筒形構造表面に結合した多孔質材料が塗布膜の厚み方向に連続的に整列し、溶剤と界面活性剤を除去することにより、並行貫通孔が形成されるものと思料される。
【0035】
上記多孔質材料としては、前記無機材料(特に、無機酸化物)を形成でき、かつ前記塗布液に溶解可能な材料であればよい。この多孔質材料には、前記例示の無機元素(チタン、珪素、アルミニウム、硼素、ゲルマニウム、ランタン、マグネシウム、ニオブ、リン、タンタル、スズ、バナジウム、ジルコニウムなど)のアルコキシドを例示できる。アルコキシドは、界面活性剤との混和性が良好であり、貫通孔直径が均一な多孔質膜を形成できる。
【0036】
チタンのアルコキシドには、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトライソプロポキシチタニウム、テトラノルマルブトキシチタニウムなどのテトラC1-6アルコキシチタニウムが含まれる。
【0037】
珪素のアルコキシドには、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラノルマルブトキシシランなどのテトラC1-6アルコキシシラン;トリメトキシシラン、トリメトキシフロロシラン、メチルトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリエトキシフロロシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリイソプロポキシフロロシラン、トリノルマルプロポキシフロロシラン、トリノルマルブトキシフロロシランなどのトリC1-6アルコキシシラン類[モノハロゲン化物(特に、モノフッ素)、C1-6アルキル置換体、アリール置換体などを含む];ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルジエトキシクロロシランなどのジC1-6アルコキシシラン類[モノハロゲン化物(特に、モノフッ素)、C1-6アルキル置換体、アリール置換体などを含む];トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシランなどのモノC1-6アルコキシシラン類;トリスメトキシエトキシビニルシラン、などが含まれる。
【0038】
アルミニウムのアルコキシドには、例えば、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリノルマルプロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリノルマルブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリセカンダリーブトキシアルミニウム、トリターシャリーブトキシアルミニウムなどのトリC1-6アルコキシアルミニウムが含まれる。
【0039】
硼素のアルコキシドには、例えば、トリメトキシボロン、トリエトキシボロン、トリイソプロポキシボロン、トリノルマルブトキシボロン、トリイソブトキシボロン、トリセカンダリーブトキシボロンなどのトリC1-6アルコキシボロンが含まれる。
【0040】
ゲルマニウムのアルコキシドには、例えば、テトラメトキシゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム、テトライソプロポキシゲルマニウム、テトラノルマルブトキシゲルマニウムなどのテトラC1-6アルコキシゲルマニウムが含まれる。
【0041】
ランタンのアルコキシドには、例えば、トリスエトキシエトランタンなどが含まれる。
【0042】
マグネシウムのアルコキシドには、例えば、ビス(2−エトキシエトキシ)マグネシウムなどが含まれる。
【0043】
ニオブのアルコキシドには、例えば、ペンタメトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタノルマルプロポキシニオブ、ペンタイソプロポキシニオブ、ペンタノルマルブトキシニオブなどのペンタC1-6アルコキシニオブが含まれる。
【0044】
リンのアルコキシドには、例えば、トリメチルフォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリノルマルプロピルフォスファイト、トリイソプロポキシフォスファイト、トリノルマルブチルフォスファイトなどのトリC1-6アルコキシフォスファイト;トリメチルフォスフェイト、トリエチルフォスフェイト、トリノルマルプロピルフォスフェイト、トリイソプロポキシフォスフェイト、トリノルマルブチルフォスフェイトなどのトリC1-6アルコキシフォスフェイトが含まれる。
【0045】
タンタルのアルコキシドには、例えば、ペンタメトキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、ペンタイソプロポキシタンタルなどのペンタC1-6アルコキシタンタルが含まれる。
【0046】
スズのアルコキシドには、例えば、テトラターシャリーブトキシスズなどのテトラC1-6アルコキシスズ;酢酸スズ;トリイソプロポキシノルマルブチルスズが含まれる。
【0047】
バナジウムのアルコキシドには、例えば、トリエトキシバナジウム、トリノルマルプロポキシオキシバナジウム、トリスアセチルアセトナトバナジウムなどが含まれる。
【0048】
ジルコニウムのアルコキシドには、例えば、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム、テトラターシャリーブトキシジルコニウムなどのテトラC1-6アルコキシジルコニウムが含まれる。
【0049】
これらのアルコキシドのなかでも、特に、チタン、珪素、アルミニウムのアルコキシドを用いることが好ましい。具体的には、テトラアルコキシチタニウム(テトライソプロポキシチタニウム、テトラノルマルブトキシチタニウムなど)、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラノルマルブトキシシランなど)、トリアルコキシアルミニウム(トリイソブトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウムなど)を用いることが好ましい。より好ましくはテトラエトキシシランである。
【0050】
上記元素のアルコキシドは、1種または任意に選ばれる2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
上記多孔質材料は、前駆体溶液に対して、例えば、0.1〜50質量%である。
【0052】
上記界面活性剤としては、(a)ノニオン性界面活性剤や(b)カチオン性界面活性剤を利用できる。
【0053】
(a)ノニオン性界面活性剤としては、例えば、酸化エチレン誘導体、酸化プロピレン誘導体、ポリオキシエチレン単位とポリオキシプロピレン単位を有する誘導体などを利用できる。これらの誘導体は、エーテル系、アミン系、アミド系、エステル系などに分類できる。
【0054】
エーテル系の酸化エチレン誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレインエーテル、ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレン長鎖アルキルエーテル、ポリオキシエチレンヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン精製ヤシアルコールエーテル、ポリオキシエチレン合成アルコールエーテル、ポリオキシエチレンセカンダリーアルコールエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルエーテル、ポリオキシエチレンβ−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンビスフェノール−A−エーテル、ポリオキシエチレンビスフェノール−F−エーテル、ポリオキシエチレンウールグリスエーテル、ポリオキシエチレンラノリンエーテル、ポリオキシエチレングリセロールエーテル、ポリオキシエチレントリメチロールプロパンエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールエーテル、ポリオキシエチレンペンタエリスリトールジオレエートエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモステアレートエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、ポリオキシエチレンポリエチレングリコール、などが挙げられる。
【0055】
アミン系の酸化エチレン誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン、ポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンN−シクロヘキシルアミン、ポリオキシエチレン牛脂プロピレンジアミン、ポリオキシエチレンステアリルプロピレンジアミン、ポリオキシエチレンメタキシレンジアミン、などが挙げられる。
【0056】
アミド系の酸化エチレン誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルアミド、ポリオキシエチレンステアリルアミド、などが挙げられる。
【0057】
エステル系の酸化エチレン誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノ牛脂オレエート、ポリオキシエチレンモノトール油脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンロジンエステル、などが挙げられる。
【0058】
エーテル系の酸化プロピレン誘導体としては、例えば、ポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシプロピレン合成アルコールエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレンビスフェノール−A−エーテル、ポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、などが挙げられる。
【0059】
アミン系の酸化プロピレン誘導体としては、例えば、ポリオキシプロピレンメタキシレンジアミンなどが挙げられる。
【0060】
ポリオキシエチレン単位とポリオキシプロピレン単位を有し、エーテル系の誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン合成アルコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、などが挙げられる。
【0061】
ポリオキシエチレン単位とポリオキシプロピレン単位を有し、アミン系の誘導体としては、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン牛脂アミン、などが挙げられる。
【0062】
上記ノニオン性界面活性剤は、1種または任意に選ばれる2種以上を混合して用いることができる。
【0063】
(b)カチオン性界面活性剤としては、例えば、Cn2n+1(Cm2m+13+-で示され第4級アルキルアンモニウム塩を用いることができる。炭素数nは8〜24、炭素数mは1〜3、Xは陰イオンとなる元素(例えば、ハロゲン元素であり、ClやBなど)である。
【0064】
第4級アルキルアンモニウムクロリドとしては、例えば、ドデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデカニルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムクロリド、オクタデカニルトリエチルアンモニウムクロリド、などが挙げられる。
【0065】
第4級アルキルアンモニウムブロミドとしては、例えば、ドデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデカニルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデカニルトリエチルアンモニウムブロミド、テトラデカニルトリエチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリエチルアンモニウムブロミド、オクタデカニルトリエチルアンモニウムブロミド、などが挙げられる。
【0066】
また、上記の他、1分子中に複数の親水性基と複数の疎水性基を有する、いわゆるジェミニ界面活性剤、例えば、
p2p+12+-(CH2r+-2q2q+1
で表される構造のものを用いることができる。
【0067】
p、qは夫々独立して5〜20であり、rは1〜10である。Zは水素原子または低級アルキル基(例えば、CH3、C25などのC1-4アルキル基)、Mは陰イオンとなる元素(例えば、ハロゲン元素であり、ClやBなど)を示す。
【0068】
好ましいジェミニ界面活性剤としては、例えば、
1225(CH32+Cl-(CH24+Cl-(CH321225
1225(CH32+Br-(CH24+Br-(CH321225
1633(CH32+Cl-(CH24+Cl-(CH321633
1633(CH32+Br-(CH24+Br-(CH321633
などが挙げられる。
【0069】
上記界面活性剤は、上記前駆体溶液に対して、例えば、0.1〜50質量%である。
【0070】
上記前駆体溶液は、上記多孔質材料(前駆体材料)および上記界面活性剤と溶剤を含んでおり、通常、更に酸を含んでいる。溶剤としては、水とアルコールの混合溶剤が使用されることが多く、アルコールには、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、などが含まれる。
【0071】
触媒として用いる上記酸としては、例えば、硝酸や塩酸などを用いることができる。
【0072】
酸は、多孔質材料100質量部に対して、例えば、0.1〜50%質量部程度使用する。
【0073】
上記塗布液(前駆体溶液)は、必要な成分を混合して調製される。混合時間は、例えば、1分以上10時間以下、好ましくは10分以上5時間以下、より好ましくは30分以上3時間以下である。
【0074】
混合温度は、例えば、10℃以上90℃以下、好ましくは20℃以上70℃以下、より好ましくは30℃以上60℃以下である。
【0075】
前駆体溶液の塗布方法は特に限定されないが、例えば、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、バーコーティング法、ショットコーティング法、プリモールドコーティング法、インモールドコーティング法などが挙げられる。特に、スピンコーティング法は、均一に膜を形成できるため好ましい。
【0076】
基板および別の基板(蓋)の材質は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0077】
また、基板および/または別の基板(蓋)の表面には、多孔質膜を除去し易くするために、疎水性処理を施してもよい。例えば、基板の表面に、フッ素樹脂や炭化水素系樹脂などの疎水性樹脂を被覆してもよい。
【0078】
なお、上記三層積層体の形成後、乾燥工程に移すまでは、自然乾燥を避けるために、三層積層体を雰囲気調整のできる密閉容器に入れて静置(エージング)することが好ましい。上記三層積層体をエージングする雰囲気は、例えば、湿潤雰囲気やアルコール雰囲気である。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。エージング時間は、例えば、10分以上1時間以下、好ましくは20分以上50分以下である。エージング温度は特に限定されず、室温でよい。
【0079】
三層積層体の乾燥では、加熱乾燥、真空乾燥を適宜組み合わせればよく、例えば、三層積層体を真空炉に入れて加熱乾燥してもよく、三層積層体をホットプレートに乗せて加熱乾燥してもよい。
【0080】
乾燥温度は、例えば、30〜500℃、好ましくは100〜400℃、より好ましくは200〜300℃である。
【0081】
乾燥時間は、溶剤を除去可能な範囲で適宜設定でき、例えば、10分以上1000時間以下、好ましく30分以上100時間以下、より好ましくは1時間以上10時間以下の範囲で設定できる。
【0082】
乾燥後、上述した様に、界面活性剤を除去し、焼成する。界面活性剤の除去方法は特に限定されないが、例えば、上記三層積層体を直接焼成温度まで加熱して、界面活性剤を除去しつつ焼成してもよく、上記三層積層体を超臨界流体で洗浄してから焼成してもよい。
【0083】
焼成温度は、例えば、500〜1400℃、好ましくは700〜1200℃、より好ましくは900〜1000℃である。
【0084】
超臨界流体としては、例えば、水、二酸化炭素などの超臨界流体が使用できる。
【0085】
本発明の積層基板は、基板から無孔質薄膜に向かう貫通孔を有する多孔質膜が形成されており、この多孔質膜の表面は膜厚がnmオーダーの無孔質薄膜で覆われている。そのため、気体の透過率を高めつつ、無孔質薄膜の表面に担持された別の物質による作用を発揮させることができる。よって本発明の積層基板は、例えば、気体透過膜として有用である。また、上記積層基板から無孔質薄膜を除去すれば、例えば、磁気フィルター、超高密度磁気記録媒体、高活性触媒、高感度センサーなどに応用適用できる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0087】
[実験例1]
水3.43gとエタノール8.846gの混合溶剤に、界面活性剤(BASF製「PluronicF127(商品名)」)2.8gと硝酸(70%水溶液)0.108gを加えて混合した。この混合液に、多孔質材料として、テトラエトキシシラン(TEOS;トリケミカル研究所製、「Tetraethoxysilane、Si(OC254」)を5.0g加え、60℃で1時間攪拌して前駆体溶液を調製した。
【0088】
シリコン基板(SUMCO製、「4インチダミーウエハ」)の表面に、上記前駆体溶液を膜厚が1μmとなるようにスピンコーティング法で塗布した。この塗布面を覆うように、別のシリコン基板を重ねて蓋をして三層積層体を形成した。本実験例では、ベースとして用いたシリコン基板と、蓋として用いたシリコン基板は、同じ種類のものを用いた。
【0089】
エタノールを浸みこませたガーゼによってエタノール雰囲気を調製した密閉容器に、上記三層積層体を入れ、30分間保持(温度は室温)した。三層積層体を密閉容器から取り出して真空炉(圧力1.0×10-4torr以下)に移し、温度300℃に加熱して1時間保持し、乾燥した。次に、温度600℃まで加熱することで界面活性剤を除去しつつ焼成して多孔質膜を形成した後、室温まで冷却し、蓋として覆っていたシリコン基板を除去して積層基板を得た。
【0090】
得られた積層基板の厚み方向の断面を、日立製作所製の高分解能走査型電子顕微鏡「S−800(装置名)」で観察し、観察倍率15万倍で撮影した。撮影した図面代用写真を図1に示す。
【0091】
SEM観察した結果、シリコン基板の表面には多孔質膜が形成されており、この多孔質膜の表面には、無孔質薄膜が形成されていた。また、多孔質膜には、シリコン基板から無孔質薄膜に向かって複数の並行する貫通孔が形成されていた。また、無孔質薄膜の成分組成は、多孔質膜の成分組成と同じであった。
【0092】
撮影した写真から、多孔質膜の厚みD1と無孔質薄膜の厚みD2を測定した。膜厚の測定は20箇所で行い、平均値を算出した。その結果、多孔質膜の厚みD1(平均値)は628nmで、無孔質薄膜の厚みD2(平均値)は約15nmであった。多孔質膜の厚みD1と無孔質薄膜の厚みD2の比(D1:D2)は凡そ42:1であった。
【0093】
また、撮影した写真から、多孔質膜に形成された貫通孔の平均直径を測定した。測定位置は、基板近傍、中央部、無孔質薄膜近傍の3箇所とし、夫々の箇所で20箇所測定し、平均値を算出した。その結果、貫通孔の平均直径は約7nmであった。
【0094】
また、撮影した写真から、多孔質膜に形成された貫通孔の配向度を測定した。貫通孔の配向度は、貫通孔の流れを示した曲線の接線と、基板面と並行なx軸との成す角とし、図1に示すように、シリコン基板と多孔質膜の界面近傍、多孔質膜の厚み方向の中央部付近、多孔質膜と無孔質薄膜の界面近傍において、夫々10箇所ずつ測定し、これらを平均した。その結果、シリコン基板と多孔質膜の界面近傍での配向度は81°、多孔質膜の厚み方向の中央部付近での配向度は84°、多孔質膜と無孔質薄膜の界面近傍での配向度は85°、であった。
【0095】
[実験例2]
上記実験例1と同様にして、シリコン基板の表面に前駆体溶液を塗布した。次いで、別のシリコン基板による蓋をしない以外、上記実験例1と同様にしてエタノール雰囲気で1時間保持してから乾燥し、界面活性剤を除去し、焼成することでシリコン基板と多孔質膜からなる積層基板を製造した。
【0096】
得られた積層基板の厚み方向の断面をSEM観察して撮影した図面代用写真を図2に示す。
【0097】
SEM観察した結果、シリコン基板の表面には多孔質膜が形成されていたが、この多孔質膜の表面には、無孔質薄膜は形成されていなかった。また、多孔質膜に形成されていた空孔は、3次元構造を有しており、シリコン基板から無孔質薄膜に向かって延びる貫通孔は認められなかった。
【0098】
上記実験例1と実験例2の結果から明らかなように、シリコン基板の表面に前駆体溶液を塗布した後、別のシリコン基板を重ねて蓋をすることで、多孔質膜の表面に無孔質薄膜を形成することができ、しかも多孔質膜内には、基板から無孔質薄膜に向かう複数の並行する貫通孔を形成することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜で被覆された基板であって、前記多孔質膜の表面に無孔質薄膜が形成されており、基板から無孔質薄膜に向かう複数の互いに並行する貫通孔が前記多孔質膜に形成されていることを特徴とする積層基板。
【請求項2】
基板から無孔質薄膜に向かう並行貫通孔は、常に無孔質薄膜に向けて進み続けるものである請求項1に記載の積層基板。
【請求項3】
前記多孔質膜の厚みD1と前記無孔質薄膜の厚みD2の比(D1:D2)が2:1〜100000:1である請求項1または2に記載の積層基板。
【請求項4】
前記多孔質膜の厚みD1が、1nm以上1000μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の積層基板。
【請求項5】
前記貫通孔の平均直径が、0.1nm以上1μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層基板。
【請求項6】
前記多孔質膜が、無機質膜である請求項1〜5のいずれかに記載の積層基板。
【請求項7】
前記多孔質膜が、シリカ膜である請求項6に記載の積層基板。

【図1】
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【図2】
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