説明

積層塗膜形成方法および塗装物

【課題】電着塗膜の上にベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる積層塗膜を形成する、いわゆる中塗りレス塗装において、得られる塗膜の層間密着性および耐チッピング性などの塗膜性能を確保しつつ、かつ、得られる積層塗膜の塗膜外観を向上させること。
【解決手段】電着塗膜が形成された基材の上に水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗装する工程、および、塗装された未硬化の2層の塗膜を一度に焼き付け硬化させる工程、を包含する積層塗膜形成方法であって、この水性ベース塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(ア);ポリエーテルポリオール(イ);活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ);を含む、
積層塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などに形成される積層塗膜の形成方法、およびその方法により得られる積層塗膜を有する塗装物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業用塗料に用いられる塗料として、溶剤型塗料組成物と呼ばれる、希釈溶剤として有機溶剤を用いる塗料組成物が広く用いられていた。しかしながらこの溶剤型塗料組成物は、塗料中に多量の有機溶剤を含んでいる。そのため、近年の環境に対する意識の高まりから、塗料組成物中に含まれる有機溶剤の低減化が求められている。そしてこの有機溶剤含有量低減化の要請を受けて、水性塗料組成物の開発が求められている。
【0003】
自動車車体などの塗装において用いられるベース塗料組成物は、着色顔料および/または光輝性顔料を含み、得られる塗装物の意匠性に大きく影響を与える塗料組成物である。そのためこのベース塗料組成物により得られる塗膜の仕上がりは、得られる積層塗膜の塗膜外観に大きな影響を及ぼす。このベース塗料組成物として、従来は溶剤型ベース塗料組成物が広く用いられていたが、上記有機溶剤含有量低減化の要請を受けて水性ベース塗料組成物の使用が求められつつある。
【0004】
水性ベース塗料組成物として、例えば特開2001−311035号公報(特許文献1)には、ポリエーテルポリオールとエマルション樹脂とを含有する水性ベースコート塗料が記載されている。この特許文献1にはさらに、この水性ベースコート塗料を塗装し、その上にクリヤートップコート塗料を塗装し、次いで両者を同時に硬化させる、いわゆる2コート1ベーク方法による、複合塗膜形成方法が記載されている。この塗膜形成方法は、ベース塗料組成物の焼き付け工程を省略することができる。そのため、経済的利点があり、さらにはCO排出量を削減できるという利点もある。
【0005】
しかしながら、水性ベース塗料組成物を用いる2コート1ベーク方法によって得られる積層塗膜は、溶剤型ベース塗料組成物を用いて得られる積層塗膜と比較して、一般的に光輝感および光沢感が劣るという問題がある。一般に、被塗物に高級感を与える塗膜の役割として、塗膜平滑性が高く鏡面のような光沢感をもつことは重要な要素と言える。特に、自動車塗装などの分野においては、このような塗膜外観において求められるレベルは年々高まりつつある。
【0006】
ところで、自動車塗装などの分野においては、一般に、電着塗膜、中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜がこの順に形成されている。しかしながら、近年における省エネルギー、CO排出量削減およびコストダウンの要請から、焼き付け工程のみならず、1部の塗装工程自体を省く方法が採用されつつある。この塗装工程の簡略化の1態様として、中塗り塗装を省く方法が挙げられる。しかしながら中塗り塗装を省くことによって、得られる積層塗膜において、中塗り塗膜が有する耐チッピング性能が低下することとなるおそれが高い。また、電着塗膜およびベース塗膜の間に設けられる中塗り塗膜は、これらの電着塗膜およびベース塗膜の塗膜密着性を向上させる効果も有している。そのため、中塗り塗装を省いた場合は、電着塗膜およびベース塗膜の密着性が劣ることとなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−311035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電着塗膜の上に、ベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる積層塗膜を形成する、中塗り塗装工程を省いた塗装方法において、得られる塗膜の層間密着性および耐チッピング性などの塗膜性能を確保しつつ、かつ、得られる積層塗膜の塗膜外観を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、電着塗膜の上に、水性ベース塗料組成物および特定のクリヤー塗料組成物を順次塗装し、その後に未硬化の2層の塗膜を焼き付け硬化させる、中塗り塗装工程を省いた積層塗膜形成方法において、得られる塗膜の層間密着性および耐チッピング性などの塗膜性能を確保するという課題を解決することを図った。そして発明者らは鋭意検討を加えた結果、水性ベース塗料組成物に特定のブロックポリイソシアネートを用いることによって、上記課題を解決することができることを見いだした。
【0010】
すなわち本発明は、
電着塗膜が形成された基材の上に、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、順次ウェットオンウェットで塗装する工程、および
塗装された未硬化の2層の塗膜を一度に焼き付け硬化させる工程、
を包含する積層塗膜形成方法であって、
該水性ベース塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(ア);ポリエーテルポリオール(イ);活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ);を含み、
該アクリル樹脂エマルション(ア)は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基を含有する多官能性不飽和モノマーを1〜20質量%含むモノマー混合物(a)を乳化重合して得られる架橋構造を有するコア部と、
カルボン酸基含有不飽和モノマーおよび水酸基含有不飽和モノマーを含むモノマー混合物(b)を乳化重合して得られるシェル部とからなる、
水酸基価10〜200、酸価1〜80mgKOH/gであるコアシェル型のアクリル樹脂エマルションであり、
該ポリエーテルポリオール(イ)は、1分子中に一級水酸基を平均0.02個以上有し、数平均分子量300〜3000であり、水トレランスが2.0以上であるポリエーテルポリオールである、
水性ベース塗料組成物であって、さらに
該クリヤー塗料組成物は、
カルボキシル基含有アクリル樹脂(A);カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B);およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C);を含む1液型クリヤー塗料組成物である、
積層塗膜形成方法、
を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
また、本発明では、前記クリヤー塗料組成物が、水酸基含有アクリル樹脂(D)を含む主剤;およびイソシアネート化合物(E)を含む硬化剤;からなる2液型クリヤー塗料組成物であり、主剤に含まれる水酸基含有アクリル樹脂(D)が、数平均分子量(Mn)1500〜6000、水酸基価100〜200であり、かつ該水酸基価のうち2級水酸基の割合が20〜100%である、水酸基含有アクリル樹脂であるのが好ましい。
【0012】
本発明は、更に、上記積層塗膜形成方法により得られる積層塗膜を有する塗装物も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明における、電着塗膜の上にベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる積層塗膜を形成する、中塗り塗装工程を省いた塗装方法において、特定の水性ベース塗料組成物を用いることによって、得られる塗膜の層間密着性および耐チッピング性などの塗膜性能を確保することが可能となる。さらに、この積層塗膜形成方法において得られる積層塗膜は、平滑性が高く優れた塗膜外観を有するものであるという特徴を有する。
【0014】
中塗り塗装工程を省いた塗装方法においては、中塗り塗料組成物の塗装および焼き付け硬化手順が省略されているため、経済性に非常に優れた方法である。また2コート1ベーク方法は、ベース塗料組成物用の焼き付け乾燥炉を省略することができるため、経済性に優れており、またCO排出削減を図ることができ環境への負荷が少ないという利点を有する。また2コート1ベーク方法において水性ベース塗料組成物を用いることによって、塗膜形成において排出される有機溶剤の量を低減することができる。そして本発明により、塗膜物性の低下または塗膜外観の低下などを伴うことなく、中塗り塗装工程を省いた2コート1ベーク方法による積層塗膜の形成が可能となる。本発明の積層塗膜形成方法によって、経済的利点および環境面での利点を有する工業的に優れた方法により、優れた塗膜性能および塗膜外観を有する積層塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
水性ベース塗料組成物
本発明の塗膜形成方法に用いられる水性ベース塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(ア);ポリエーテルポリオール(イ);活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ);を含む塗料組成物である。なお上記水性ベース塗料組成物は、上記成分(ア)〜(ウ)以外にも、その他の塗膜形成性樹脂、着色顔料などを必要に応じて含んでもよい。
【0016】
アクリル樹脂エマルション(ア)
水性ベース塗料組成物に含まれるアクリル樹脂エマルション(ア)は、
1分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基を含有する多官能性不飽和モノマーを1〜20質量%含むモノマー混合物(a)を乳化重合して得られる架橋構造を有するコア部と、
カルボン酸基含有不飽和モノマーおよび水酸基含有不飽和モノマーを含むモノマー混合物(b)を乳化重合して得られるシェル部とからなる、
水酸基価10〜200、酸価1〜80mgKOH/gであるコアシェル型のアクリル樹脂エマルションである。
【0017】
コア部の調製に用いられるモノマー混合物(a)に含まれる上記多官能性不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、などを挙げることができる。上記多官能性不飽和モノマーの含有量が1質量%を下回ると得られる塗膜の意匠性が低下し、また、20質量%を超えると得られる塗膜の平滑性が低下する。好ましくは1〜15質量%である。コア部の調製に用いられるモノマー混合物(a)に上記多官能性不飽和モノマーが含まれることによって、コア部が架橋構造を有することとなる。
【0018】
コア部の調製に用いられるモノマー混合物(a)はさらに、その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、
水酸基含有不飽和モノマー(例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アリルアルコール、メタクリルアルコール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε−カプロラクトン付加物など。これらの中でより好ましいものは、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε−カプロラクトン付加物である。)
(メタ)アクリル酸エステル(例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸ジヒドロジシクロペンタジエニルなど)、
重合性アミド化合物(例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド 2,4−ジヒドロキシ−4’−ビニルベンゾフェノン、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど)、
重合性芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルケトン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレンおよびビニルナフタレンなど)、
重合性ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなど)、
α−オレフィン(例えば、エチレン、プロピレンなど)、
ビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、
ジエン(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、
などが挙げられる。これらは所望性能に応じて種々選択することができる。
その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、水酸基含有不飽和モノマー、および(メタ)アクリルアミドなどの重合性アミド化合物が含まれる態様がより好ましい。
コア部の調製において水酸基含有不飽和モノマーを用いることによって、硬化性を確保することができる。またコア部の調製において重合性アミド化合物を用いることによって、得られる塗膜の耐溶剤性を向上することができる。
【0019】
本発明においては、シェル部の調製に用いられるモノマー混合物(b)は、カルボン酸基含有不飽和モノマーおよび水酸基含有不飽和モノマーを含む。
【0020】
カルボン酸基含有不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸などを挙げることができる。
【0021】
水酸基含有不飽和モノマーとして、コア部の調製に用いられるモノマー混合物(a)において記載された水酸基含有不飽和モノマーなどを同様に用いることができる。
【0022】
シェル部の調製に用いられるモノマー混合物(b)はさらに、その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーを含んでもよい。その他のα,β−エチレン性不飽和モノマーとして、例えば、モノマー混合物(a)において例示した、水酸基含有不飽和モノマー、エステル部の炭素数3以上の(メタ)アクリル酸エステル、重合性芳香族化合物、重合性ニトリル、α−オレフィン、ビニルエステル、ジエンなどが挙げられる。これらは所望性能に応じて種々選択することができる。
【0023】
本発明におけるアクリル樹脂エマルション(ア)の水酸基価は10〜200である。この水酸基価は20〜150であるのが好ましい。上記水酸基価が10を下回ると充分な硬化性が得られないおそれがある。また200を超えると得られる塗膜の諸性能が低下するおそれがある。
【0024】
また、本発明におけるアクリル樹脂エマルション(ア)の酸価は1〜80mgKOH/gである。この酸価は3〜50mgKOH/gであるのが好ましい。上記酸価が1mgKOH/gを下回ると塗装作業性が不充分となるおそれがある。また80mgKOH/gを超えると得られる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。
【0025】
また、アクリル樹脂エマルション(ア)のガラス転移温度(Tg)は、得られる塗膜の物性の観点から、−20〜80℃であることが好ましい。
【0026】
なお、得られたアクリル樹脂エマルション(ア)の酸価、水酸基価およびTgは、上記アクリル樹脂エマルション(ア)を実測して求めることもできるが、本明細書においては、上記モノマー混合物(a)およびモノマー混合物(b)における各種不飽和モノマーの配合量から計算によって求めた値である。
【0027】
上記アクリル樹脂エマルション(ア)は、2段階の乳化重合によって調製される。すなわち、まず上記モノマー混合物(a)の乳化重合を行って架橋構造を有するコア部を得た後、上記モノマー混合物(b)を更に加えて乳化重合を行ってシェル部を得るという方法である。
【0028】
ここで行われる乳化重合は、当業者において用いられる通常の方法を用いて行うことができる。具体的には、水、または必要に応じてアルコールなどの有機溶剤を含む水性媒体中に乳化剤を溶解させ、加熱撹拌下、上記モノマー混合物(a)または上記モノマー混合物(b)と、重合開始剤とを滴下することにより行うことができる。乳化剤と水とを用いて予め乳化したモノマー混合物(a)またはモノマー混合物(b)を同様に滴下してもよい。
【0029】
上記重合開始剤としては、アゾ系の油性化合物(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)など)および水性化合物(例えば、アニオン系の4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、カチオン系の2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン));並びに、レドックス系の油性過酸化物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートなど)および水性過酸化物(例えば、過硫酸カリウム、過酸化アンモニウムなど)などが好ましい。
【0030】
上記乳化剤としては、当業者によって通常用いられるものを挙げることができる。特に、反応性乳化剤、例えば、アントックス(Antox)MS−60(日本乳化剤社製)、エレミノールJS−2(三洋化成工業社製)、アデカリアソープNE−20(旭電化社製)およびアクアロンHS−10(第一工業製薬社製)などが好ましい。また、分子量を調節するために、ラウリルメルカプタンのようなメルカプタンおよびα−メチルスチレンダイマーなどのような連鎖移動剤を必要に応じて用いてもよい。
【0031】
反応温度は重合開始剤により決定され、例えば、アゾ系開始剤では60〜90℃であり、レドックス系では30〜70℃で行うことが好ましい。一般に、反応時間は1〜8時間である。上記モノマー混合物(a)と上記モノマー混合物(b)との合計質量に対する重合開始剤の含有量は、一般に0.1〜5質量%であり、0.2〜2質量%であることが好ましい。
【0032】
このようにして得られる上記アクリル樹脂エマルション(ア)の平均粒子径は0.01〜1.0μmの範囲であることが好ましい。上記平均粒子径が0.01μm未満である場合、塗装作業性の向上が小さく、1.0μmを超える場合、得られる塗膜の外観が低下する恐れがある。この平均粒子径の調節は、例えば、モノマー組成や乳化重合条件を調整することにより可能である。
【0033】
上記アクリル樹脂エマルション(ア)は、必要に応じて塩基で中和することにより、pH=5〜10で用いることができる。これは、このpH領域における安定性が高いためである。この中和は、乳化重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンやトリエチルアミンのような3級アミンを系に添加することにより行うことが好ましい。
【0034】
本発明の複層塗膜形成方法において用いられる水性ベース塗料組成物中の上記アクリル樹脂エマルション(ア)の含有量は、塗料固形分中、5〜95質量%であることが好ましく、10〜85質量%であることがより好ましく、20〜70質量%であることが更に好ましい。上記含有量が上記範囲外である場合、塗装作業性や得られる塗膜の外観が低下する恐れがある。
【0035】
その他の塗膜形成樹脂
本発明の塗膜形成方法に用いる水性ベース塗料組成物には、アクリル樹脂エマルション(ア)以外にも、必要に応じてその他の塗膜形成性樹脂を含んでいてもよい。このようなものとしては、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの塗膜形成性樹脂が利用できる。
【0036】
また、上記その他の塗膜形成性樹脂は、数平均分子量3000〜50000、好ましくは6000〜30000である。3000より小さいと塗装作業性および硬化性が十分でなく、50000を超えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、かえって塗装作業性が悪くなる。
【0037】
上記その他の塗膜形成性樹脂は、酸価が10〜100mgKOH/gであるのが好ましく、20〜80mgKOH/gであるのがより好ましい。上限を超えると塗膜の耐水性が低下するおそれがあり、下限を下回ると樹脂の水分散性が低下するおそれがある。また、水酸基価は20〜180mgKOH/gであるのが好ましく、30〜160mgKOH/gであるのがより好ましい。上限を超えると塗膜の耐水性が低下するおそれがあり、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下するおそれがある。
【0038】
なお、上記塗膜形成性樹脂としては、得られる塗膜のフリップフロップ性および耐チッピング性の観点から、ポリエステル樹脂またはアルキド樹脂であることが好ましい。
【0039】
上記ポリエステル樹脂は酸成分およびアルコール成分を縮重合して得られる。上記酸成分としては特に限定されず、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、無水フタル酸などの多価カルボン酸化合物およびそれらの無水物を挙げることができる。さらに、酸成分として、ジメチロールプロピオン酸などの1分子中にカルボン酸基と水酸基とを有する化合物を用いることができる。また、上記アルコール成分としては特に限定されず、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの多価アルコール化合物を挙げることができる。
【0040】
上記アルキド樹脂としては特に限定されず、上記酸成分、上記アルコール成分およびヤシ油、アマニ油などの油脂類を縮重合して得られる。さらに上記塗膜形成性樹脂は、必要に応じてジメチルエタノールやトリエチルアミンのような3級アミンなどの塩基によって中和され、水に溶解または分散されていてもよい。
【0041】
上記水性ベース塗料における樹脂成分の内、上記アクリル樹脂エマルション(ア)とその他の塗膜形成性樹脂との配合割合は、その樹脂固形分総量を基準にして、アクリル樹脂エマルション(ア)が5〜95質量%、更に好ましくは10〜85質量%、特に好ましくは20〜70質量%であり、その他の塗膜形成性樹脂が95〜5質量%、更に好ましくは90〜15質量%、特に好ましくは80〜30質量%である。アクリル樹脂エマルション(ア)の割合が5質量%を下回るとタレの抑制および塗膜外観が低下し、95質量%より多いと塗膜外観が悪くなる恐れがある。
【0042】
ポリエーテルポリオール(イ)
上記水性ベース塗料組成物に含有されるポリエーテルポリオール(イ)は、1分子中に一級水酸基を平均0.02個以上有し、数平均分子量300〜3000であり、水トレランスが2.0以上である。水性ベース塗料組成物がこのポリエーテルポリオールを含有することにより、塗膜のフリップフロップ性、耐水性、耐チッピング性を向上させることができる。
【0043】
上記ポリエーテルポリオール1分子中における一級水酸基が平均0.02個未満である場合は、塗膜の耐水性、耐チッピング性が低下する。また、1分子中に一級水酸基を0.04個以上有することが好ましい。特に、1分子中に一級水酸基を1つ以上有することが更に好ましい。この一級水酸基の他、二級および三級水酸基を含めた水酸基の個数は、1分子中に少なくとも2個以上であることが塗膜の耐水性、耐チッピング性の観点から好ましい。また、水酸基価の観点から見た場合には、水酸基価が30〜700であることが好ましい。水酸基価が下限を下回ると硬化性が低下し、塗膜の耐水性、耐チッピング性が低下する。上限を超えると塗料安定性、塗膜の耐水性が低下する。特に好ましくは50〜500である。
【0044】
また、上記ポリエーテルポリオールの数平均分子量が300未満だと塗膜の耐水性が低下し、3000を超えると塗膜の硬化性、耐チッピング性が低下する。好ましくは400〜2000である。尚、本明細書では、分子量はスチレンポリマーを標準とするGPC法により決定される。
【0045】
一方、上記ポリエーテルポリオールの水トレランスが2.0を下回ると、水分散性が低下し、塗膜外観が悪くなる。特に、3.0以上であることが好ましい。
【0046】
ここで用いる水トレランスとは、親水性の度合を評価するためのものであり、その値が高いほど親水性が高いことを意味する。本明細書における水トレランス値の測定方法は、25℃の条件下で、100mlビーカー内に上記ポリエーテルポリオール0.5gをアセトン10mlに混合して分散させ、この混合物にビュレットを用い、脱イオン水を徐々に加え、この混合物が白濁を生じるまでに要する脱イオン水の量(ml)を測定する。この脱イオン水の量(ml)を水トレランス値とする。
【0047】
この方法では、例えば、ポリエーテルポリオールが疎水性である場合、最初はポリエーテルポリオールとアセトンとが良相溶状態であったものが、少量の脱イオン水の添加により、不相溶状態となり、測定系に白濁を生じる。逆に、ポリエーテルポリオールが親水性である場合、ポリエーテルポリオールの親水性が高いものほど白濁を生じるまでに多くの脱イオン水を要する。従って、この方法によりポリエーテルポリオールの親水性/疎水性の度合を測定することができる。
【0048】
上記ポリエーテルポリオールは、塗料樹脂固形分中で、1〜40質量%含有されることが好ましく、3〜30質量%が更に好ましい。上限を超えると塗膜の耐水性、耐チッピング性が低下し、下限を下回ると塗膜の外観が低下する。
【0049】
上記ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコール、多価フェノール、多価カルボン酸類などの活性水素含有化合物にアルキレンオキサイドが付加した化合物が挙げられる。活性水素原子含有化合物としては、例えば、水、多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキシレングリコールなどの2価のアルコール、グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール、ペンタメチルグリセリン、ペンタグリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価アルコール、ペンタエリスリトール、1,2,3,4−ペンタンテトロール、2,3,4,5−ヘキサンテトロール、1,2,4,5−ペンタンテトロール、1,3,4,5−ヘキサンテトロール、ジグリセリン、ソルビタンなどの4価アルコール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、トリグリセリンなどの5価アルコール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、イノシトール、ダルシトール、タロース、アロースなどの6価アルコール、蔗糖などの8価アルコール、ポリグリセリンなど);多価フェノール類[多価フェノール(ピロガロール、ヒドロキノン、フロログルシンなど)、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールスルフォンなど)];ポリカルボン酸[脂肪族ポリカルボン酸(コハク酸、アジピン酸など)、芳香族ポリカルボン酸(フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸など)]など;およびこれらの2種以上の混合物が挙げられる。特に一分子中に少なくとも3個以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールを形成するのに用いられる3価以上のアルコールとして好ましいものは、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトールなどである。
【0050】
上記ポリエーテルポリオールは、通常アルカリ触媒の存在下、前記活性水素含有化合物にアルキレンオキサイドを、常法により常圧または加圧下、60〜160℃の温度で付加反応を行うことにより得られる。上記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドが挙げられ、これらは1種または2種以上を併用することができる。2種以上を併用する場合の付加形式はブロックもしくはランダムのいずれでもよい。
【0051】
尚、上記ポリエーテルポリオールは、市販されているものを使用することができ、例えば、プライムポールPX−1000、サンニックスSP−750、PP−400(上記いずれも三洋化成工業社製)、PTMG−650(三菱化学社製)などを挙げることができる。
【0052】
また更に、上記ポリエーテルポリオールは顔料分散性を向上させるために特開昭59−138269号公報で示されるように、後述するアミノ樹脂やヒドロキシエチルエチレンイミン(例えば、相互薬工の「HEA」)、2−ヒドロキシプロピル−2−アジリジニルエチルカルボキシレート(例えば相互薬工「HPAC」)などの塩基性物質により変性することができる。変性剤の量は上記ポリエーテルポリオールに対し1〜10質量%が好ましい。1質量%未満では十分な変性効果が得られず、10質量%を超えると変性後のポリエーテルポリオールの安定性が悪くなる。
【0053】
活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)
水性ベース塗料組成物には、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)が含まれる。水性ベース塗料組成物中に含まれる活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)は、硬化剤として機能する成分である。この活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)は、加熱によりブロック剤が解離してイソシアネート基が発生する。この発生したイソシアネート基が、上記アクリル樹脂エマルション(ア)およびその他の塗膜形成樹脂の官能基と反応して、塗膜が硬化することとなる。
【0054】
この活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)は、ポリイソシアネートに、活性メチレン基を有する化合物を付加反応させることによって調製される。活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)の調製に用いられるポリイソシアネートは、特に限定されず、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート;1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式イソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチルなどの脂環族イソシアネート;およびこれらのビューレット体、ヌレート体などの多量体および混合物を用いることができる。また活性メチレン基を有する化合物としては、アセト酢酸アルキル(例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルなど)、マロン酸アルキル(例えば、マロン酸メチル、マロン酸エチルなど)、アセチルアセトンなどの活性メチレン化合物が挙げられる。
【0055】
ポリイソシアネートに、活性メチレン基を有する化合物を付加反応させる条件は、当業者が通常用いる条件を特に制限されることなく用いることができる。
【0056】
上記活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)として、市販品を用いることもできる。市販品として、例えば、旭化成社製デュラネート(商標)シリーズ(例えば17B−60PX、TPA−B80E、MF−B60X、MF−K60X、E402−B80T、K−6000など)などの活性メチレン型ブロックイソシアネートなど挙げられる。
【0057】
活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)の含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして10〜60質量%である。この含有量は10〜40質量%であるのがより好ましい。活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)の含有量が10質量%未満の場合は、ベース塗膜と電着塗膜との密着性が劣ることとなる。また含有量が60質量%である場合は、塗料の貯蔵安定性が低下する。
【0058】
メラミン樹脂
本発明における水性ベース塗料組成物はさらにメラミン樹脂を含んでもよい。このメラミン樹脂は、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)と同様に、硬化剤として機能する成分である。メラミン樹脂は特に限定されるものではなく、水溶性メラミン樹脂あるいは非水溶性メラミン樹脂を用いることができる。塗料の安定性の観点から、水トレランス値が3.0以上のメラミン樹脂を用いることが好ましい。なお、上記水トレランス値は、先のポリエーテルポリオールで述べた方法と同様にして測定することができる。
【0059】
メラミン樹脂の具体例として、アルキルエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂などを挙げることができる。なかでも、メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂がより好ましく用いることができる。上記メトキシ基および/またはブトキシ基で置換されたメラミン樹脂としては、メトキシ基を単独で有するものとして、サイメル325、サイメル327、サイメル370、マイコート723;メトキシ基とブトキシ基との混合タイプとして、サイメル202、サイメル204、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル254、サイメル266、サイメル267(何れも商品名、三井サイテック社製);ブトキシ基を単独で有するものとして、マイコート506、マイコート723、マイコート2677(商品名、三井サイテック社製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
水性ベース塗料組成物中にメラミン樹脂が含まれる場合の含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして5〜40質量%であることが好ましい。なお、硬化剤として機能する、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)およびメラミン樹脂の総含有量は、塗料樹脂固形分質量を基準にして10〜60質量%であることが好ましい。
【0061】
顔料成分
本発明の自動車車体の塗装仕上げ方法で用いられる水性ベース塗料組成物は、上記各成分に加えて光輝性顔料や着色顔料などの顔料成分を含むことができる。
【0062】
上記光輝性顔料の形状としては特に限定されず、着色されたものであっても良いが、例えば、平均粒径(D50)が下限2μm、上限50μmの範囲内であり、厚みが下限0.1μm、上限5μmの範囲内であることが好ましい。また、上記平均粒径が下限10μm、上限35μmの範囲内であると、光輝感に優れるためより好ましい。
【0063】
上記光輝性顔料としては特に限定されず、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、スズ、酸化アルミニウムなどの金属または合金などの無着色または着色された金属製光輝材およびその混合物などを挙げることができる。光輝性顔料としてさらに、干渉マイカ顔料、ホワイトマイカ顔料、グラファイト顔料などを用いることもできる。
【0064】
上記着色顔料としては特に限定されず、例えば、有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などを挙げることができる。無機系の着色顔料としてはとしては特に限定されず、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどを挙げることができる。
【0065】
上記水性ベース塗料組成物中の全顔料濃度(PWC)、つまり光輝性顔料および着色顔料を含む全顔料濃度は、塗料樹脂固形分質量100質量部に対して、下限0.1質量部、上限50質量部の範囲内であることが好ましい。上記上限は、40質量部がより好ましく、30質量部が更に好ましい。上記全顔料濃度が50質量部を超えると、塗膜外観が低下するため好ましくない。上記下限は、0.5質量部がより好ましく、1.0質量部が更に好ましい。
【0066】
本発明で用いられる水性ベース塗料組成物が、平均厚み0.05〜0.20μm、平均粒子径10〜20μmである薄膜アルミニウム顔料などの鱗片状の光輝性顔料を含有する場合は、リン酸基含有アクリル樹脂を含有することが好ましい。このリン酸基含有アクリル樹脂は、下記の一般式(I):
CH=CXCO(OY)OPO(OH) (I)
[式中、Xは、水素原子またはメチル基、Yは、炭素数2〜4のアルキレン基、nは、3〜30の整数を表す。]
で表されるモノマーとその他のエチレン性モノマーとを共重合して得られるアクリル樹脂である。
【0067】
上記リン酸基含有アクリル樹脂は、上記鱗片状の光輝性顔料を良好に分散するために使用される。この樹脂は、酸価15〜200mgKOH/gで、かつリン酸基による酸価が10〜150mgKOH/gであり、数平均分子量が1000〜50000であることが好ましい。酸価が15mgKOH/g未満であると、鱗片状の光輝性顔料の分散を充分に図ることができない場合がある。また、酸価が200mgKOH/gを超えると、水性ベース塗料組成物の貯蔵安定性が悪くなる場合がある。酸価15〜200mgKOH/gのうち、リン酸基による酸価が15〜100mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0068】
本発明で用いる水性ベース塗料組成物が金属製光輝材を含んでいる場合、光輝材に対する腐食防止剤として、または、光輝材のぬれ性を良くし、得られる複層塗膜の物性を向上するために、アルキル基を有するリン酸基含有化合物を含むことが好ましい。
【0069】
上記アルキル基の炭素数は、8〜18であることが好ましく、8〜14であることがより好ましい。上記炭素数が8未満である場合、ぬれ性が低下して密着性が低下し、18を超える場合、塗料中で化合物の結晶が析出し、不具合が生じるおそれがある。
【0070】
上記アルキル基を有するリン酸基含有化合物としては特に限定されず、例えば、モノ−またはジアルキルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。上記モノ−またはジアルキルアシッドホスフェートとしては特に限定されず、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノ−またはジ−イソデシルアシッドホスフェート、モノ−またはジ−トリデシルアシッドホスフェート、モノ−またはジ−ラウリルアシッドホスフェート、モノ−またはジ−ノニルフェニルアシッドホスフェートなどを挙げることができる。
【0071】
本発明で用いる水性ベース塗料組成物が上記リン酸基含有化合物を含む場合、上記リン酸基含有化合物の含有量は、塗料樹脂固形分に対して下限0.1質量%、上限5質量%の範囲内であることが好ましい。上記下限は、0.2質量%がより好ましく、上記上限は、2質量%がより好ましい。上記含有量が0.1質量%未満である場合は、腐食防止効果が十分でなくガスの発生や光輝材の変色が起こるおそれがある。また5質量%を超える場合は、耐水性が低下する恐れがある。
【0072】
他の成分
本発明における水性ベース塗料組成物中には、上記成分の他に塗料に通常添加される添加剤、例えば、表面調整剤、増粘剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、消泡剤などを配合してもよい。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0073】
水性ベース塗料組成物の製造
上記水性ベース塗料組成物の製造方法は、特に限定されず、上記成分をニーダーやロールなどを用いて混練、サンドグラインドミルやディスパーなどを用いて、水中に溶解および/または分散するなどの当業者に周知の全ての方法を用いることができる。
【0074】
水性ベース塗料組成物は、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)を含むことを特徴とする。そして、水性ベース塗料組成物に、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)が含まれることによって、得られるベース塗膜の耐チッピング性能が向上することとなる。これは、ウレタン結合の凝集力が高く、塗膜の応力緩和能が向上するためであると考えられる。
【0075】
また、水性ベース塗料組成物に活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)が含まれることによって、中塗り塗膜を設けない場合であっても、電着塗膜およびベース塗膜の密着性が向上するという効果が得られることとなる。これは、ベース塗膜中に活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)に由来するイソシアネート成分が存在することによって、電着塗膜とも架橋反応が起こり、密着性が向上するためと考えられる。
【0076】
クリヤー塗料組成物
本発明の方法において用いられるクリヤー塗料組成物は、
カルボキシル基含有アクリル樹脂(A);カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B);およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C);
を含む1液型クリヤー塗料組成物であるか、または、
水酸基含有アクリル樹脂(D)を含む主剤;およびイソシアネート化合物(E)を含む硬化剤;
からなる2液型クリヤー塗料組成物、
である。
【0077】
1液型クリヤー塗料組成物
本発明の塗膜形成方法においては、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)を含む、1液型クリヤー塗料組成物を用いることができる。この1液型クリヤー塗料組成物は、加熱によって、カルボキシル基とエポキシ基との反応によりエステル結合を形成して架橋する。
【0078】
上記クリヤー塗料組成物に含有されるカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)としては、1分子中に平均2個以上のカルボキシル基を有し、酸価5〜300mgKOH/g(固形分)および数平均分子量(Mn)500〜8000であるものが挙げられる。
【0079】
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)として、(1)アクリル系ポリ酸無水物と(2)モノアルコールとを反応させることにより得られる、カルボキシル基とカルボン酸エステル基とが隣接した炭素に結合するカルボキシル基含有アクリル樹脂を用いるのが更に望ましい。上記(1)アクリル系ポリ酸無水物は、酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーと、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとを共重合させることにより、得ることができる。
【0080】
上記酸無水物基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示される。
【0081】
上記酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、各種の(メタ)アクリル酸エステル、シェル社製のVeoVa−9およびVeoVa−10などのバーサティック酸グリシジルエステルなどが挙げられる。更に、酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸のようなカルボキシル基を有するモノマー、および水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーと酸無水物基含有化合物との付加物などを用いることもできる。
【0082】
上記(2)モノアルコールとしては、炭素数が1〜12個、特に1〜8個のものを用いることが好ましい。これにより、上記したアクリル系ポリ酸無水物との反応時にアルコールが揮発しやすく、酸無水物基を再生するのに好適となるからである。このような(2)モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、フルフリルアルコール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、アセトール、アリルアルコール、プロパルギルアルコールなどが例示される。
【0083】
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)は、樹脂組成物中の全不揮発分を基準として10〜70質量%、好ましくは15〜50質量%、より好ましくは20〜45質量%の量で用いられる。この配合量が下限を下回ると得られる塗膜の耐候性が低下する恐れがあり、上限を上回ると塗膜が固くなりすぎる恐れがある。
【0084】
上記クリヤー塗料組成物に含有されるカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)としては、(1)3個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールと(2)酸無水物とを反応させて得られる、酸価50〜350mgKOH/g(固形分)、数平均分子量400〜3500、および重量平均分子量/数平均分子量が1.8以下のものが挙げられる。
【0085】
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)は、(1)3個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールと(2)酸無水物とをハーフエステル化反応させることにより得ることができる。なお、ポリエステルポリオールとはエステル結合鎖を2個以上有する多価アルコールをいい、酸無水物基と反応して一分子あたり2個以上の酸官能性および下記の特性を有するものである。
【0086】
このような(1)ポリエステルポリオールは、少なくとも3個の水酸基を有する炭素数3〜16までの低分子多価アルコール、あるいはこの低分子多価アルコールにε−カプロラクトンなどのラクトン化合物を付加させて鎖延長することで合成することもできる。低分子多価アルコールに線状の脂肪族基を導入することにより、得られる塗膜に可撓性が付与され耐衝撃性が向上する。
【0087】
用いられる低分子多価アルコールとしては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、グリセリンおよびこれらの混合物が例示される。
【0088】
上記(2)酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水コハク酸などが例示される。
【0089】
上記(1)ポリエステルポリオールと(2)酸無水物とのハーフエステル化反応は、室温〜150℃、常圧のような通常の反応条件において行うことができる。但し、ポリエステルポリオールの水酸基の全てをカルボキシル基に変性する必要はなく、水酸基を残してもよい。上述の方法によれば、分子量分布がシャープとなるので、さらなるハイソリッド化が可能となり、耐候性および耐水性に優れた塗膜を形成することができる。
【0090】
上記カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)成分は、塗料中の全不揮発分の質量を基準として5〜70質量%、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40質量%の量で配合することができる。カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)の量が下限を下回ると塗料の不揮発分濃度が低くなる恐れがあり、上限を上回ると塗膜の耐候性が低下する恐れがある。
【0091】
本発明に用いられるクリヤー塗料組成物に含まれる、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、1分子中にエポキシ基を平均で2個以上、好ましくは2〜10個、より好ましくは3〜8個有するエポキシ基含有アクリル樹脂である。
【0092】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)として好ましいものは、(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー1と、(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとを共重合することで得られるエポキシ基含有アクリル樹脂である。
【0093】
上記(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えばグリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキサニル(メタ)アクリレートなどが例示される。バランスのとれた硬化性と貯蔵安定性を確保するためには、グリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。
【0094】
上記(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとしては、上述の酸無水物基を有しないエチレン性不飽和モノマーのうちエポキシ基に影響を及ぼさないものを同様に用いることができる。
【0095】
また(2)エポキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーとして、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーを用いることもできる。水酸基含有エチレン性不飽和モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、およびこれらのε−カプロラクトンとの反応物、(メタ)アクリル酸と大過剰のジオール(例えば1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)をエステル化した化合物などが例示される。
【0096】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、水酸基含有エチレン性不飽和モノマーと、(1)エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーと、必要に応じて用いられる水酸基およびエポキシ基いずれも有しないエチレン性不飽和モノマーとを共重合することによって得ることができる。この場合、得られるエポキシ基含有アクリル樹脂(C)は、1分子中にエポキシ基を平均で2〜12個、より好ましくは3〜10個、水酸基を平均で0.5〜10個、より好ましくは1〜8個有する。
【0097】
上記エポキシ基含有アクリル樹脂(C)成分は、硬化性樹脂組成物中の全固形分の質量を基準として10〜80質量%、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜65質量%の量で配合することができる。エポキシ基含有アクリル樹脂の量が下限を下回ると硬化性が低下する恐れがあり、上限を上回ると耐黄変性が悪化する恐れがある。
【0098】
上記クリヤー塗料組成物は、カルボキシル基含有アクリル樹脂(A)と、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)と、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)とを混合することにより製造することができる。特にカルボキシル基とカルボン酸エステル基とを有するカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)を用い、水酸基とエポキシ基とを有するエポキシ基含有アクリル樹脂(C)を用いた場合には、耐酸性に特に優れた塗膜を形成するクリヤー塗料組成物が得られる。
【0099】
このようにして得られるクリヤー塗料組成物の硬化機構は、先ず加熱によりカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中のカルボキシル基とカルボン酸エステル基とが反応してカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中に酸無水物基が生成し、遊離のモノアルコールが生成する。生成したモノアルコールは蒸発して系外へ除去される。そしてカルボキシル基含有アクリル樹脂(A)中に生成した酸無水物基はカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C)に含有される水酸基と反応することにより架橋点を形成し、再度カルボキシル基を形成する。このカルボキシル基およびカルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B)中に存在するカルボキシル基は、エポキシ基含有アクリル樹脂(C)中に存在するエポキシ基と反応することにより架橋点を形成する。このように3種類のポリマーが相互に反応することにより硬化が進行し、高い密度で架橋した塗膜が形成される。
【0100】
上記クリヤー塗料組成物中には、例えば4級アンモニウム塩などのような酸とエポキシとのエステル化反応に通常用いられる硬化触媒を含んでもよい。この硬化触媒としては、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリドまたはブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリドまたはブロミド、サリチレートまたはグリコレート、パラトルエンスルホネートなどが例示される。
【0101】
また上記クリヤー塗料組成物中には、特開平2−151651号公報などに記載される公知のスズ系の化合物を混合することもできる。このようなスズ系触媒としては、例えばジメチルスズビス(メチルマレート)、ジメチルスズビス(エチルマレート)、ジメチルスズビス(ブチルマレート)、ジブチルスズビス(ブチルマレート)などが挙げられる。
【0102】
上記クリヤー塗料組成物には、架橋密度を上げ、耐水性の向上を計るために、ブロック化イソシアネートを加えることもできる。また公知の紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などを添加してもよい。さらに公知のレオロジーコントロール剤、その他の表面調整剤などを添加してもよいし、粘度調整などの目的でアルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤などの溶剤を用いることもできる。
【0103】
2液型クリヤー塗料組成物
本発明の塗膜形成方法においては、また、水酸基含有アクリル樹脂(D)を含む主剤;およびイソシアネート化合物(E)を含む硬化剤;からなる2液型クリヤー塗料組成物を用いて、クリヤー塗膜を形成することもできる。この2液型クリヤー塗料組成物は、溶剤型であってもよく、水性型であってもよい。
【0104】
2液型クリヤー塗料組成物の主剤に含まれる水酸基含有アクリル樹脂(D)は、数平均分子量(Mn)1500〜6000、水酸基価100〜200であり、かつ水酸基価のうち二級水酸基の割合が20〜100%である、水酸基含有アクリル樹脂(D)であるのが好ましい。
【0105】
水酸基含有アクリル樹脂(D)は、水酸基含有アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和基含有モノマーとを、通常の方法により共重合することにより調製することができる。ここで、水酸基含有アクリルモノマーとして二級水酸基を有するアクリルモノマーを使用するのがより好ましい。
【0106】
水酸基含有アクリル樹脂(D)の合成に用いることができる二級水酸含有アクリルモノマーの例としては、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、二級水酸基ではなく、一級水酸基を有するアクリルモノマーも用いることができ、その例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;プラクセルFM−1(商品名、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとポリカプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業社製);ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを表す。
【0107】
上記他のエチレン性不飽和基含有モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;スチレン、ビニルトルエンなどの芳香族ビニル系モノマー類;グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマー類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有モノマー類;(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミドなどのアクリルアミド系モノマー類;アクリロニトリル、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0108】
水酸基含有アクリル樹脂(D)は、数平均分子量(Mn)1,500〜6,000であるのが好ましく、2000〜5000であるのがより好ましい。数平均分子量が1,500より小さいと、作業性および硬化性が十分でなく、6,000を超えると塗装時の不揮発分が低くなりすぎ、作業性が悪くなる恐れがある。
【0109】
水酸基含有アクリル樹脂(D)は、100〜200の水酸基価を有するのが好ましい。この水酸基価は110〜180であるのが好ましい。水酸基価が上限を超えると塗膜の耐水性が低下し、下限を下回ると塗膜の硬化性が低下するおそれがある。さらに、本発明における水酸基含有アクリル樹脂(D)は、水酸基価のうち二級水酸基の割合が20〜100%であるのが好ましい。水酸基価のうちの二級水酸基の割合は、より好ましくは30〜100%である。二級水酸基が20%を下回ると、硬化反応速度を遅延させることができず、塗膜の内部応力が大きくなり、耐チッピング性が低下する傾向にある。二級水酸基が100%であっても、硬化反応速度の大幅な落ち込みはなく、作業性や硬化度にあまり悪影響を与えない。
【0110】
また、水酸基含有アクリル樹脂(D)において、水酸基価のうち二級水酸基の割合が20〜100%であることによって、主剤および硬化剤を混合した後の貯蔵安定性(ポットライフ)が向上するという利点もある。
【0111】
水酸基含有アクリル樹脂(D)は、酸価1〜45mgKOH/gであるのが好ましい。この酸価は2〜30mgKOH/gであるのがより好ましい。酸価が上限を超える場合は塗膜の耐水性が低下する恐れがあり、下限を下回る場合は塗膜の硬化性が低下する恐れがある。
【0112】
硬化剤に含まれるイソシアネート化合物(E)は、塗料の硬化剤として用いられるイソシアネート化合物であれば、特に限定されない。代表的なイソシアネート化合物としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族環式イソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6−トリレンジイソシアネートなどの芳香族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルナンジイソシアネートメチルなどの脂環族イソシアネート、これらのビューレット体、ヌレート体などの多量体および混合物を用いることができる。
【0113】
本発明において用いられる2液型クリヤー塗料組成物において、主剤に含まれる水酸基含有アクリル樹脂(D)および硬化剤に含まれるイソシアネート化合物(E)の配合比は、目的により種々選択できる。本発明においては、イソシアネート化合物(E)のイソシアネート基(NCO)と水酸基含有アクリル樹脂(D)の水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.6〜1.5の範囲となる量で用いるのが好ましい。イソシアネート化合物(E)の含有量が上記下限を下回る場合は硬化性が不十分となる恐れがあり、一方上限を上回る場合は硬化膜が堅くなり脆くなる恐れがある。イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)が0.7〜1.3の範囲となる量で用いるのが特に好ましい。
【0114】
上記した2液型クリヤー塗料組成物は、更に、粘性制御剤を含んでもよい。粘性制御剤を含むことによって、塗装作業性を向上させることができる。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用でき、例えば水性ベース塗料組成物において既に記載したものなどを使用することができる。また必要により、硬化触媒、表面調整剤などを含んでもよい。更に、公知の紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などを含んでもよい。さらに公知の表面調整剤などを添加してもよいし、粘度調整などの目的でアルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤などの溶剤を用いることもできる。これらの添加剤は、主剤および/または硬化剤に含めることができる。
【0115】
2液型クリヤー塗料組成物における、主剤および硬化剤の混合時期については、使用前に主剤および硬化剤を混合して、通常の塗装方法により塗装してもよい。また、2液混合ガンでそれぞれの液をガンまで送液し、ガン先で混合する方法で塗装してもよい。
【0116】
積層塗膜形成方法
基材
本発明の積層塗膜形成方法は、種々の基材、例えば金属、プラスチック、発泡体など、特に金属表面、および鋳造物に有利に用いることができる。中でも、カチオン電着塗装可能な金属製品に対し、特に好適に用いることができる。
【0117】
上記金属製品としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛などおよびこれらの金属を含む合金が挙げられる。具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および部品が挙げられる。これらの金属は予めリン酸塩、クロム酸塩、ジルコニウム塩などで化成処理されたものが特に好ましい。
【0118】
また、本発明の積層塗膜形成方法に用いられる被塗物は、必要に応じて化成処理された基材上に電着塗膜が形成される。電着塗膜を形成する電着塗料としては、カチオン型およびアニオン型を使用できるが、カチオン型電着塗料組成物が防食性において優れた積層塗膜を与えるため好ましい。好ましく用いることができるカチオン型電着塗料組成物として、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および必要に応じた顔料などを含むカチオン電着塗料組成物が挙げられる。カチオン電着塗装は、電着塗料組成物に基材を浸漬し、次いで基材を陰極として陽極との間に電圧を印加して被膜を析出させることによって行われる。通電時間は、電着条件によって異なるが、一般には2〜4分程である。印加電圧は、基材を陰極として陽極との間において、例えば50〜450Vの電圧が印加される。こうして電着塗装した後、必要に応じた水洗処理などを行う。次いで、通常は140〜180℃で10〜30分間焼き付けることによって、電着塗膜が形成される。
【0119】
本発明の積層塗膜形成においては、こうして電着塗膜が形成された基材を被塗物として、中塗り塗膜を設けることなく、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を順次形成する。
【0120】
積層塗膜形成
本発明の塗膜形成方法は、被塗物上に、水性ベース塗料組成物、およびクリヤー塗料組成物を順次ウェットオンウェットで塗布し、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する。
【0121】
水性ベース塗料組成物は、エアー静電スプレー塗装あるいはメタベル、μμベル、μベルなどの回転霧化式の静電塗装機により塗装することができる。ベース塗膜の乾燥膜厚は5〜35μmに設定することができ、好ましくは7〜30μmである。ベース塗膜の膜厚が35μmを超えると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがあり、5μm未満であると、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れ(塗膜が不連続な状態)が生じることがあるため、いずれも好ましくない。
【0122】
本発明の塗膜形成方法において、上記ベース塗膜を形成した後に塗装されるクリヤー塗膜は、上記ベース塗膜に起因する凹凸、光輝性顔料が含まれる場合、それに起因する凹凸などを平滑にし、保護するために形成される。塗装方法として具体的には、先に述べたμμベル、μベルなどの回転霧化式の静電塗装機により塗膜形成することが好ましい。
【0123】
上記クリヤー塗料組成物は、上述した静電塗装機の霧化方式、あるいは温度、湿度などの塗装環境などの要因を踏まえた経験的に求められた塗装粘度に、希釈媒体である有機溶剤を用いて希釈し、粘度調整した後に塗装される。一般に、温度が10℃〜40℃、湿度が10〜98%の範囲での塗装粘度は、15〜80秒(/20℃・No.4フォードカップ)であることが好ましい。この範囲外ではタレ、ワキなどの外観上の不具合が発生し易い。更に好ましくは18〜60秒(/20℃・No.4フォードカップ)である。
【0124】
上記クリヤー塗料組成物により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜80μm程度が好ましく、より好ましくは20〜60μm程度である。上限を超えると、ワキあるいはタレなどの不具合が起こることがある。また下限を下回ると、下地の凹凸が隠蔽できないことがある。
【0125】
こうして得られる2種の塗膜を、一度に焼き付け硬化させる、いわゆる2コート1ベークによって硬化させる。この方法は、ベース塗膜の焼き付け乾燥炉を省略することができ、経済性および環境保全の面からも好ましい。
【0126】
上記積層塗膜を硬化させる硬化温度を100〜180℃、好ましくは120〜160℃に設定することによって、良好な硬度を有する積層塗膜が得られる。上限を上回ると塗膜が固く脆くなる恐れがあり、下限を下回ると十分な硬化が得られない恐れがある。硬化時間は硬化温度により変化するが、120℃〜160℃で10〜60分程度である。
【0127】
本発明で形成される積層塗膜の膜厚は、多くの場合10〜150μmであり、好ましくは30〜150μmである。上限を超えると、冷熱サイクルなどの膜物性が低下し、下限を下回ると膜自体の強度が低下するおそれがある。
【0128】
本発明の積層塗膜形成方法においては、水性ベース塗料組成物に、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)が含まれることによって、得られる積層塗膜の塗膜平滑性が向上するという利点がある。
【0129】
ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、順次ウェットオンウェットで塗装し、その後に焼き付け硬化させる2コート1ベーク方法によって得られる積層塗膜の塗膜外観を向上させる手法として、各塗料組成物の硬化速度を制御する検討がなされている。例えば、未硬化のベース塗膜およびクリヤー塗膜の焼き付け時における硬化速度を、ベース塗膜が速くそしてクリヤー塗膜が遅く硬化するように塗料組成を組み立てることによって、より下層の塗膜から硬化が生じることとなり、これにより、塗膜中の溶剤が蒸発して抜けるときに素穴が生じることに由来する「ワキ」の発生を防ぐことができ、これにより塗膜平滑性が向上することとなると考えられる。
【0130】
本発明で用いられる水性ベース塗料組成物には、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)が含まれている。この活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ)は、一般的な水性ベース塗料組成物中に含まれるメラミン樹脂などと比較して反応性が高く、焼き付け硬化時においてより低温で反応することとなる。このため、水性ベース塗料組成物の硬化開始温度が低温化し、これにより未硬化のベース塗膜の硬化が、クリヤー塗膜の硬化と比較してより速く進行することとなる。このため、積層塗膜を形成する際、ベース塗膜中に含まれる溶媒の揮散がスムーズに行われ、積層塗膜における塗膜平滑性が向上することとなると考える。
【0131】
上記2液型クリヤー塗料組成物中に含まれる水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基の20〜100%が二級水酸基であるものが好ましく用いられる。そしてこのように二級水酸基を含む水酸基含有アクリル樹脂を用いることによって、クリヤー塗料組成物の硬化反応が遅延することとなる。より具体的には、クリヤー塗料組成物の硬化開始温度が高くなる。クリヤー塗料組成物の硬化開始温度が高くなると、その下層、即ちベース塗膜から揮散する溶媒が、クリヤー塗膜が硬化を開始しない間に、揮散することとなる。このため、溶媒の抜け跡がクリヤー塗膜上に残らなくなるため、塗膜欠陥が生じず、塗膜外観がさらに向上することとなる。
【0132】
本発明では、好ましくは、それぞれの塗料の硬化開始温度が、クリヤー塗料組成物(またはクリヤー塗膜)>ベース塗料組成物(またはベース塗膜)の順になる。
【実施例】
【0133】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0134】
製造例1−1 アクリル樹脂エマルション(ア)の製造
反応容器に脱イオン水126.5部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、コア部の調製に用いるモノマー混合物(a)として、アクリル酸メチル33.70部、アクリル酸エチル34.88部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル7.42部、アクリルアミド4.00部、アクアロンHS−10(ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル,第一工業製薬社製)0.5部、アデカリアソープNE−20(α−[1−[(アリルオキシ)メチル]−2−(ノニルフェノキシ)エチル]−ω−ヒドロキシオキシエチレン、旭電化社製、80%水溶液)0.5部、および脱イオン水80部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.24部、および脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを2時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、1時間同温度で熟成を行った。
【0135】
次いで、シェル部の調製に用いるモノマー混合物(b)として、アクリル酸エチル15.84部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1.86部、メタクリル酸2.30部、アクアロンHS−100.2部、および脱イオン水10部からなるモノマー乳化物と、過硫酸アンモニウム0.06部、および脱イオン水10部からなる開始剤溶液とを、80℃で0.5時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0136】
次いで、40℃まで冷却し、400メッシュフィルターで濾過した後、脱イオン水67.1部およびジメチルアミノエタノール0.32部を加えpH6.5に調整し、平均粒子径190nm、不揮発分20%、固形分酸価15、水酸基価40のアクリル樹脂エマルション(ア)を得た。
【0137】
製造例1−2 アクリル樹脂の製造
反応容器にジプロピレングリコールメチルエーテル23.89部およびプロピレングリコールメチルエーテル16.11部を加え、窒素気流中で混合撹拌しながら105℃に昇温した。次いで、メタクリル酸メチル13.1部、アクリル酸エチル68.4部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル11.6部、メタクリル酸6.9部と、ジプロピレングリコールメチルエーテル10.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1部からなる開始剤溶液とを3時間にわたり並行して反応容器に滴下した。滴下終了後、0.5時間同温度で熟成を行った。
【0138】
さらに、ジプロピレングリコールメチルエーテル5.0部およびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3部からなる開始剤溶液を0.5時間にわたり反応容器に滴下した。滴下終了後、2時間同温度で熟成を行った。
【0139】
脱溶剤装置により、減圧下(70torr)110℃で溶剤を16.11部留去した後、脱イオン水204部およびジメチルアミノエタノール7.14部を加えてアクリル樹脂B−1溶液を得た。得られたアクリル樹脂溶液の不揮発分は30.0%、固形分酸価40、水酸基価50、粘度は140ポイズ(E型粘度計1rpm/25℃)であった。
【0140】
製造例1−3 リン酸基含有アクリル樹脂の製造
攪拌機、温度調整器、冷却管を備えた1リットルの反応容器にエトキシプロパノール40部を仕込み、これにスチレン4部、n−ブチルアクリレート35.96部、エチルヘキシルメタアクリレート18.45部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13.92部、メタクリル酸7.67部、エトキシプロパノール20部に、ホスマーPP(ユニケミカル社製アシッドホスホオキシヘキサ(オキシプロピレン)モノメタクリレート)20部を溶解した溶液40部、およびアゾビスイソブチロニトリル1.7部からなるモノマー溶液121.7部を120℃で3時間滴下した後、1時間さらに攪拌を継続した。
【0141】
得られた樹脂は、酸価105mgKOH/g、うちリン酸基による酸価55mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均分子量6000のアクリルワニス(不揮発分63%)であった。
【0142】
比較製造例1 ブロックポリイソシアネート(比−1)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート(デスモジュールH、住友バイエルウレタン社製)168.0部とメチルイソブチルケトン73.2部、およびジブチルスズジラウレート0.2部を秤りとった。攪拌、窒素をバブリングしながら、トリメチロールプロパンを34.6部を滴下ロートより滴下し、次いでメチルイソブチルケトンオキシム106.7部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後メチルイソブチルケトンを加え、不揮発分78%とし、ブロックポリイソシアネート(比−1)を得た。
【0143】
製造例2−1 水酸基含有アクリル樹脂(D)の製造
攪拌機、温度制御装置、還流冷却器を備えた容器に酢酸ブチル30gを仕込み120℃に昇温させた。次に下記組成の溶液(スチレン20部、n-ブチルアクリレート15.3部、n-ブチルメタアクリレート27.9部、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート36部、アクリル酸0.8部)およびカヤエステルO 12部および酢酸ブチル6部を3時間かけて同時に滴下させた後30分間放置し、カヤエステルO 0.5部、酢酸ブチル4部の溶液を30分間かけて滴下し、反応溶液を1時間攪拌し樹脂への変化率を上昇させた後、反応を終了させ、固形分70%、数平均分子量3800、水酸基価140(うち二級水酸基の割合100%)、酸価6.2mg/KOHである、水酸基含有アクリル樹脂(D)のワニスを得た。
【0144】
実施例1
水性ベース塗料組成物の製造
先の製造例1−1で得られたアクリル樹脂エマルション樹脂(ア)を55部、10質量%のジメチルエタノールアミン水溶液10部、製造例1−2のアクリル樹脂を10部、ポリエーテルポリオール(イ)としてのプライムポールPX−1000(三洋化成工業社製2官能ポリエーテルポリオール、数平均分子量400、水酸基価278、一級/二級水酸基価比=63/37)を10部、活性メチレン型ブロックポリイソシアネートとしてのデュラネート(商標)MFK60X(旭化成(株)社製、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(6官能))(ウ−1)41.7部、光輝性顔料(エ)としてアルペーストMH8801(旭化成社製アルミニウム顔料)21部、製造例1−3のリン酸基含有アクリル樹脂5部、ラウリルアシッドホスフェート0.3部とを添加し、均一分散することにより水性ベース塗料組成物を得た。
【0145】
積層塗膜形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。
【0146】
得られた塗板に、上記により製造した水性ベース塗料組成物を、脱イオン水を用いて30秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に希釈した。室温25℃、湿度85%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるように水系塗料塗装用「μμベルCOPES−IV型」(ABBインダストリー社製)で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、5分間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
【0147】
ついで、予め、No.4フォードカップで25秒/20℃に希釈調整された、1液型クリヤー塗料組成物「マックフローO−600」(日本ペイント社製)を、垂直に設置した未硬化の中塗りおよびベース塗膜が形成された被塗物に、ウェットオンウェットにより、クリヤー塗膜の乾燥塗膜が35μmになるように、「メタベル」(ランズバーグ社製回転霧化型静電塗装機)により1回塗りで塗装した。
【0148】
2層の未硬化の塗膜が形成された被塗物を、室温にて、垂直状態で7分間放置した後、垂直の状態のままで、140℃の乾燥器で20分間焼き付けることにより、2コート1ベークによる積層塗膜が得られた。
【0149】
実施例2
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートとして、デュラネート(商標)MFK60X(旭化成(株)社製、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(6官能))(ウ−1)を31.3部、さらにメラミン樹脂としてサイメル204(日本サイテック社製、混合アルキル化型メラミン)を8.1部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0150】
実施例3
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートとして、デュラネート(商標)MFK60X(旭化成(株)社製、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(6官能))(ウ−1)を20.8部、さらにメラミン樹脂としてサイメル204を29.2部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0151】
実施例4
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートとして、デュラネート(商標)MFK60X(旭化成(株)社製、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(6官能))(ウ−1)を10.4部、さらにメラミン樹脂としてサイメル204を24.3部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0152】
実施例5
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートとして、デュラネート(商標)MFK60Xの代わりに、デュラネート(商標)K−6000(旭化成(株)社製、活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(3官能))(ウ−2)を41.7部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0153】
実施例6
2液型クリヤー塗料組成物の製造
1Lの金属製容器に、製造例2−1の水酸基含有アクリル樹脂(D)のワニスを245.3部、チバガイギー社製紫外線吸収剤「チヌビン384」5.6部、チバガイギー社製光安定剤「チヌビン123」5.6部、アクリル系表面調整剤5.6部、トルエン37.0部およびキシレン37.0部を順次添加し、ディスパーにて十分撹拌した。次に、ビッグケミー社製有機カルボン酸のアンモニウム塩「BYK−ES80」0.5部およびメタノール6.0部を添加し、更に撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の主剤を得た。
【0154】
別の金属製容器に、住友バイエルウレタン社製「ディスモジュールN−3300」(NCO有効成分22%)100.0部および2−エチルエトキシプロパノールを順次添加し、十分撹拌し、2液型クリヤー塗料組成物の硬化剤を得た。
【0155】
積層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。
【0156】
得られた塗板に、実施例1により製造した水性ベース塗料組成物を、脱イオン水を用いて50秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に希釈した。室温25℃、湿度85%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるように水系塗料塗装用「μμベルCOPES−IV型」(ABBインダストリー社製)で2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1分間のインターバルセッティングを行った。2回目の塗布後、5分間のインターバルをとって、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
って、セッティングを行った。その後、80℃で5分間のプレヒートを行った。
【0157】
上記より得られた、2液型クリヤー塗料組成物の主剤と硬化剤を、62/38(質量比(%)、イソシアネート基(NCO)と水酸基(OH)との当量比(NCO/OH)=1.1/1)で混合し、クリヤー塗料組成物(有機溶剤含有量64質量%)を得た。得られたクリヤー塗料組成物を、2−エチルエトキシプロパノール/キシレン=1/1からなる希釈溶剤を用いて、30秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に希釈した。上記製造例のクリヤー塗料を、乾燥膜厚40μmとなるように「マイクロベル」により、1ステージ塗装した。
【0158】
2層の未硬化の塗膜が形成された被塗物を、室温にて、垂直状態で10分間放置した後、垂直の状態のままで、140℃の乾燥器で20分間焼き付けることにより、2コート1ベークによる積層塗膜が得られた。
【0159】
比較例1
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートを用いず、一方でメラミン樹脂としてサイメル204を32.5部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0160】
比較例2
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートを用いず、一方でメラミン樹脂としてユーバン20N60(三井化学社製、メチルイソブチル系イミノ型メラミン)を41.7部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0161】
比較例3
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートを用いず、一方でメラミン樹脂としてサイメル254(日本サイテック社製、メチルイソブチル系イミノ型メラミン)を31.3部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0162】
比較例4
水性ベース塗料組成物の製造および積層塗膜形成
活性メチレン型ブロックポリイソシアネートの代わりに、比較製造例1のブロックポリイソシアネート(比−1)を32.1部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、水性ベース塗料組成物を調製した。
得られた水性ベース塗料組成物を用いて、実施例1と同様にして積層塗膜を形成した。
【0163】
上記実施例および比較例により得られた塗膜を用いて、下記評価を行った。
【0164】
電着塗膜に対する付着性
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、190℃で1時間焼き付けた。
【0165】
得られた塗板に、各実施例および比較例において用いた水性ベース塗料組成物を各実施例および比較例に従って乾燥膜厚15μmとなるように塗装した。次いで、各実施例および比較例において用いたクリヤー塗料組成物を、各実施例および比較例に従って乾燥膜厚30μmとなるように塗装し、140℃で20分間焼き付け硬化させた。
上記より得られた積層塗膜の塗膜表面に、カッターナイフ(NTカッターS型またはA型)を用いて、間隔2mmで縦11本×横11本の塗膜を貫通して塗装板の素地に達するクロスカットを入れ、100個の正方形を塗膜に形成した。このクロスカットした塗膜の上に、幅24mmのセロハン粘着テープ(ニチバン社製)を気泡が生じないように指先で均一に圧着した。直ちに粘着テープの一端を持ち、塗板に対して約45°の角度で急激に引っ張ることにより粘着テープを塗板の表面から剥離させた。粘着テープと共に剥離した塗膜の面積率に基づく以下の基準の下に、塗膜の層間付着性を評価した。このときの[剥がれたます目の数]/[ごばん目のます目の数=100]を目視で測定して付着性を評価した。
【0166】
耐チッピング性評価
各実施例および比較例で得られた積層塗膜を有する試験板を、グラロベ試験機KSS−1(スガ試験機社製、ダイヤモンドショット方式)を用い、以下の条件下で飛石試験を行った。
<試験条件>
石の大きさ:6〜8mm
石の量:0.7〜0.8g/個
距離:35cm
ショット圧:0.6kg/cm2
ショット角度:45°
試験温度:−20℃
【0167】
飛石試験後の試験板を、下記基準により評価した。
5:剥離がほとんど見られない。
4:剥離面積は小さいが、電着塗膜とベース塗膜との界面で剥離がわずかに見られる。
3:剥離面積がやや大きく、電着塗膜とベース塗膜との界面で剥離が見られる。
2:剥離面積が大きく、電着塗膜とベース塗膜との界面で剥離が見られる。
1:剥離面積が大きく、電着塗膜が破壊している。
【0168】
積層塗膜の外観評価
上記より得られた積層塗膜の表面について、BYK−Gardner GmbH社製「ウエーブスキャンDOI」を用いて、Wa値を測定することにより仕上がり外観を評価した。Wa値は、塗膜の艶感および微小な肌を評価する指標である。この値が低い程、塗膜平滑性が高く、仕上がり外観が良好であることを示す。
【0169】
上記実施例および比較例の配合および評価結果を下記表にまとめる。なお下記表中の水性ベース塗料組成物の欄の数値は、各成分配合量(塗料樹脂固形分に対する固形分質量)を示す。
【0170】
【表1】

【0171】
本発明の配合による実施例では、耐チッピング性や積層塗膜の外観評価ともに優れている。比較例1〜3は、活性メチレン型ブロックポリイソシアネートを用いないで、メラミン樹脂の種類を変えて用いた例である。比較例1〜3で明らかなように、活性メチレン型ブロックポリイソシアネートを用いていない場合は、耐チッピング性が悪く、しかも外観評価のWa値も悪い。比較例4は、活性メチレン型ブロックポリイソシアネートではない比較製造例1のブロックポリイソシアネートを用いた例であるが、やはり耐チッピング性と積層塗膜の外観評価共に悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明における、電着塗膜の上にベース塗膜およびクリヤー塗膜からなる積層塗膜を形成する、中塗り塗装工程を省いた塗装方法において得られる積層塗膜は、中塗り塗装を行わないにも関わらず、塗膜の層間密着性および耐チッピング性などにおいて、良好な塗膜性能を有しているという特徴を有する。本発明により、塗膜物性の低下または塗膜外観の低下などを伴うことなく、中塗り塗装工程を行わず電着塗膜上に2コート1ベーク方法による積層塗膜の形成が可能となる。本発明の積層塗膜形成方法によって、工業的に優れた方法により、塗膜外観に優れた積層塗膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗膜が形成された基材の上に、水性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を、順次ウェットオンウェットで塗装する工程、および
塗装された未硬化の2層の塗膜を一度に焼き付け硬化させる工程、
を包含する積層塗膜形成方法であって、
該水性ベース塗料組成物は、アクリル樹脂エマルション(ア);ポリエーテルポリオール(イ);活性メチレン型ブロックポリイソシアネート(ウ);を含み、
該アクリル樹脂エマルション(ア)は、1分子中に2個以上の(メタ)アクリレート基を含有する多官能性不飽和モノマーを1〜20質量%含むモノマー混合物(a)を乳化重合して得られる架橋構造を有するコア部と、
カルボン酸基含有不飽和モノマーおよび水酸基含有不飽和モノマーを含むモノマー混合物(b)を乳化重合して得られるシェル部とからなる、
水酸基価10〜200、酸価1〜80mgKOH/gであるコアシェル型のアクリル樹脂エマルションであり、
該ポリエーテルポリオール(イ)は、1分子中に一級水酸基を平均0.02個以上有し、数平均分子量300〜3000であり、水トレランスが2.0以上であるポリエーテルポリオールである、
水性ベース塗料組成物であって、さらに
該クリヤー塗料組成物は、
カルボキシル基含有アクリル樹脂(A);カルボキシル基含有ポリエステル樹脂(B);およびエポキシ基含有アクリル樹脂(C);を含む1液型クリヤー塗料組成物であるか、または、
水酸基含有アクリル樹脂(D)を含む主剤;およびイソシアネート化合物(E)を含む硬化剤;からなる2液型クリヤー塗料組成物である、
積層塗膜形成方法。
【請求項2】
前記クリヤー塗料組成物は、水酸基含有アクリル樹脂(D)を含む主剤;およびイソシアネート化合物(E)を含む硬化剤;からなる2液型クリヤー塗料組成物であり、
該主剤に含まれる水酸基含有アクリル樹脂(D)は、数平均分子量(Mn)1500〜6000、水酸基価100〜200であり、かつ該水酸基価のうち2級水酸基の割合が20〜100%である、水酸基含有アクリル樹脂である、
請求項1記載の積層塗膜形成方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の積層塗膜形成方法により得られる積層塗膜を有する塗装物。

【公開番号】特開2010−253383(P2010−253383A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106500(P2009−106500)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】