説明

積層方法及び積層装置

【課題】シート体を正確且つ迅速に積層する。
【解決手段】積層装置10は、セパレータ24、膜電極構造体22及びセパレータ26を積層する。積層装置10は、セパレータ24を載置する載置台30と、載置台30に載置されたセパレータ24の上面の一部を押さえる第1クランプ32と、載置台30に載置されたセパレータ24の上面に膜電極構造体22を重ね合わせる移載手段と、重ね合わされた膜電極構造体22の上面の一部を押さえる第2クランプ34と、膜電極構造体22及び第2クランプ34の上面にセパレータ26を重ね合わせる移載手段と、セパレータ26を中央で押圧して弾性変形させて膜電極構造体22に当接させる押圧部材96と、膜電極構造体22及びセパレータ26との間から第2クランプ34を引き抜く引抜手段とを有する。第2クランプ34は、一度上昇をしてから側方に引き抜かれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型の燃料電池で用いられる膜電極構造体やセパレータ等のシート体を積層する積層方法及び積層装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池では、膜電極構造体及びセパレータを交互に積層して形成される複数のセルに対して酸素や水素が供給されることにより、化学反応を起こして発電をする。
【0003】
燃料電池は発電効率が高くしかも二酸化炭素を排出しないことから注目されており、膜電極構造体及びセパレータを交互に積層する手段について開発がなされている。これに関連する文献としては、例えば特許文献1が挙げられる。また、本出願人は特願2006−199573において、昇降装置により下からシート体を押圧して上面位置を一定高さに維持して重ね合わせを行う積層装置を提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2003−22827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の燃料電池は研究的な対象であり、量産化又は低廉化については必ずしも十分な取り組みがなされてなく、膜電極構造体及びセパレータを交互に積層する作業は一部人手に頼ることもある。
【0006】
燃料電池を量産化、低廉化するとともに発電性能を良好に維持するためには、膜電極構造体及びセパレータを一層正確且つ迅速に積層することが望まれている。
【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、膜電極構造体及びセパレータ等のシート体を一層正確且つ迅速に積層することができる積層方法及び積層装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層方法は、少なくとも一方のシート体に他方のシート体を積層する積層方法であって、一方のシート体は載置部に載置され、該一方のシート体の他方面の部分をクランプ手段により押さえる第1工程と、前記一方のシート体を前記クランプ手段により押さえたまま、他方面に他方のシート体を重ね合わせるとともに、該他方のシート体を押圧手段により、押圧して弾性変形させ、少なくとも他方のシート体の一部分を前記一方のシート体に当接させる第2工程と、前記一方のシート体と前記他方のシート体との間から引抜手段により前記クランプ手段を引き抜く第3工程とを有することを特徴とする。
【0009】
つまり、一方のシート体は最初の段階ではクランプ手段によって押さえられており、次に押圧手段により他方のシート体を介して押さえられた後にクランプ手段を引き抜くので、一方のシート体は載置部に対して非固定となる工程がなく、ずれることがない。
【0010】
前記第3工程では、前記クランプ手段を一度他方に移動させてから側方に引き抜いてもよい。
【0011】
また、本発明に係る積層装置は、少なくとも第1シート体、第2シート体及び第3シート体を積層する積層装置であって、前記第1シート体を載置する載置部と、載置部に載置された前記第1シート体の上面の一部を押さえる第1クランプ手段と、載置部に載置された前記第1シート体の上面に前記第2シート体を重ね合わせる手段と、重ね合わされた前記第2シート体の上面の一部を押さえる第2クランプ手段と、前記第2シート体及び前記第2クランプ手段の上面に前記第3シート体を重ね合わせる手段と、前記第3シート体を前記第2クランプ手段以外の箇所で押圧して弾性変形させ、少なくとも一部を前記第2シート体に当接させる押圧手段と、前記第2シート体及び前記第3シート体との間から前記クランプ手段を引き抜く引抜手段とを有することを特徴とする。
【0012】
つまり、第2シート体は最初の段階では第2クランプ手段によって押さえられており、次に押圧手段により第3シート体を介して押さえられた後にクランプ手段を引き抜くので、第3シート体は載置部に対して非固定となる工程がなく、ずれることがない。
【0013】
前記第2クランプ手段は、クランプ昇降機構により一度上昇をしてから、前記引抜手段により側方に引き抜かれると、第2クランプ手段は少なくとも第2シート体に上面を摺ることがない。
【0014】
前記第1シート体は、前記載置部が載置部昇降機構により上昇をすることにより、該載置部と前記第1クランプ手段により挟持されるようにしてもよい。これにより、第1シート体の上面は第1クランプ手段の高さに維持され、第2移載手段が第2シート体を搬送する際の高さ制御が簡便化され又は不要になる。
【0015】
前記第1クランプ手段は、前記第1シート体に前記第2シート体を重ね合わせた後に一度退避し、さらに、載置された前記第3シート体の上方に配置され、積層された前記第1シート体、前記第2シート体及び前記第3シート体は、前記載置部が載置部昇降機構により上昇をすることにより該載置部と前記第1クランプ手段により挟持される。これにより、積層体の上面は第1クランプ手段の高さに維持され、第1移載手段及び第2移載手段が各シート体を搬送する際の高さ制御が簡便化され又は不要になる。
【0016】
前記押圧手段は、前記第3シート体の長尺方向に離間した少なくとも2点で該第3シート体を押圧すると、積層体が回転することがなく、一層正確に積層することができる。
【0017】
前記第2クランプ手段は2つで、前記載置部の左右に設けられ、前記押圧手段の前記第3シート体を押圧する部分の長尺方向中心線は、2つの前記クランプ手段の各中心を結ぶ線分に対して、該線分の中点で略直交する向きとしてもよい。これにより、第2シート体をバランスよく押圧することができる。また、一方が過度に弾性変形することがない。
【0018】
2つの前記第2クランプ手段は、前記載置部における前記第3シート体の短尺方向の左右に設けられ、前記押圧手段の前記第3シート体を押圧する部分の長尺方向中心線は、2つの前記クランプ手段の各中心を結ぶ線分に対して略直交し、前記第3シート体の長尺方向について、前記長尺方向中心線の長さは、前記第2クランプの長さの2倍以内にしてもよい。これにより、第3シート体が第2クランプ手段を覆う箇所で山なりに膨らんでしまうことを防止できる。
【0019】
なお、本発明で、上面、下面、上層及び下層とは、各シート体の向きを特定するための便宜上の表現であり、上方向に積層する場合に限られない。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る積層方法及び積層装置によれば、下層シート体又は第2シート体は最初の段階ではクランプ手段によって押さえられており、次に押圧手段により上層シート体又は第3シート体を介して押さえられた後にクランプ手段を引き抜くので、下層シート体又は第2シート体は載置部に対して非固定となる工程がなく、ずれることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る積層方法及び積層装置について実施の形態を挙げ、添付の図1〜図19を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係る積層装置10は、組立ライン12に設けられている。組立ライン12は、積層装置10以外に連結ピン打込装置14が設けられており、これらの積層装置10と連結ピン打込装置14との間はレール16で接続され、該レール16上を基板18が往復移動をする。
【0023】
連結ピン打込装置14は、積層装置10において形成された積層体29(図2参照)に対して、所定の挿入孔に連結ピンを打ち込んで締結させるための装置である。
【0024】
積層装置10は、固体高分子型の燃料電池で用いられる膜電極構造体(第2シート体、下層シート体)22を2枚のセパレータ24(第1シート体)及びセパレータ26(第3シート体、上層シート体)で挟むように積層して、単位セルを形成する装置である。セパレータ24とセパレータ26は同様の構造である。膜電極構造体22はMEA(Membrane Electrode Assembly)とも呼ばれる。膜電極構造体22及びセパレータ24、26は薄いシート体であるが、図面上では理解が容易となるように、適度に厚く示す。
【0025】
図2に示すように、セパレータ24及び26は薄いシート体であり、周辺部にフレーム25が設けられたやや長尺な四角形状であり、フレーム25の内周側には位置決め用の低い突起27が設けられている。膜電極構造体22は薄いシート体であり、セパレータ24及び26よりやや小さく、下層のセパレータ24の突起27の内側に嵌り込む形状となっている。このように膜電極構造体22を2枚のセパレータ24及びセパレータ26で挟み込んで、単位セルとしての積層体29が形成される。
【0026】
図1に戻り、積層装置10は、基板18に設けられた載置台(載置部)30と、該載置台30の長尺方向(以下、X方向ともいう。)両端に設けられた一対の第1クランプ32と、短尺方向(以下、Y方向ともいう。)両端に設けられた一対の第2クランプ34と、図1における右側に設けられた第1ストッカ36と、図1における左側に設けられた第2ストッカ38と、第1ストッカ36と載置台30との間を往復移動する第1移載装置40と、第2ストッカ38と載置台30との間を往復移動する第2移載装置42とを有する。第1クランプ32は、セパレータ24又は26のフレーム25の両端上面に当接して固定する。第2クランプ34はセパレータ24の上に載置された膜電極構造体22の端部上面に当接して固定する。セパレータ26は、膜電極構造体22及び第2クランプ34の上面に重ね合わせられ、後述する押圧部材96(図6参照)により、セパレータ26の中央部を押圧し、該中央部を膜電極構造体22に当接させる。
【0027】
第1ストッカ36にはセパレータ24及び26が相当数格納されている。セパレータ24とセパレータ26は細部が異なる場合があり、個別のストッカに分けて収納してもよい。第2ストッカ38には膜電極構造体22が相当数格納されている。第1移載装置40は、第1ストッカ36からセパレータ24(又は26)を取り出し、駆動部44の作用下にレール46に沿って載置台30まで移動し、搬送したセパレータ24(又は26)を載置台30に載置する。第2移載装置42は、第2ストッカ38から膜電極構造体22を取り出し、駆動部48の作用下にレール50に沿って載置台30まで移動し、搬送した膜電極構造体22を載置台30に載置する。
【0028】
図3に示すように、基板18は架台60と、該架台60の中央に設けられた昇降装置62とを有し、載置台30は、昇降装置62のロッド62aに中空のジョイント64を介して昇降可能に取り付けられている。ロッド62aには上端の第1フランジ64aと、やや下方の第2フランジ64bが設けられている。載置台30は、架台60に対して複数のコイルスプリング65によって弾性的に支持されている。
【0029】
架台60は、詳細な構造についての説明は省略するが、水平2軸及び水平面内で回転可能に構成されており、図示しない複数の撮像手段によりセパレータ24、26及び膜電極構造体22の位置及び向きを検出して、これに合うように自動調整可能となっている。
【0030】
第1フランジ64aはジョイント64の内部に配置されており、ロッド62aが伸びるときには載置台30の下面に当接して押し上げ、ロッド62aが縮退するときにはジョイント64の底面に当接して、コイルスプリング65の弾性力に抗して載置台30を引き下げる。
【0031】
載置台30には載置したセパレータ24を吸着する複数の吸引部30aが設けられている。吸引部30aは、図示しない吸引手段により真空作用で下層のセパレータ24を吸着する。吸引部30a(及び84、104)には図示しないバルブが設けられており、吸着作用のオン・オフ切り換えが可能である。
【0032】
図1及び図3に示すように、2台の第1クランプ32は、それぞれ基板18に設けられており、シリンダで構成されるクランプ昇降部66と、進退部68とを有する。進退部68の先端にはクランプ部材70が設けられている。クランプ部材70はL字形状であって、セパレータ24、26の端部上面に当接する下面70aと、該下面70aに対して直角で載置台30の側面に当接するストッパ面70bとを有する。
【0033】
図3に示すように、2台の第2クランプ34は、それぞれ基板18に設けられており、シリンダで構成されるクランプ昇降部72と、進退部(引抜手段)74とを有する。進退部74の先端にはクランプ部材76が設けられている。クランプ部材76はL字形状であって、膜電極構造体22の端部上面に当接する下面76aと、該下面76aに対して直角で載置台30の側面に当接するストッパ面76bとを有する。
【0034】
図4に示すように、クランプ部材76は、平面視で2つの部分に分かれており、それぞれ先端の下面には樹脂(例えば、ウレタン)の小さい突起78が設けられている。クランプ部材76が2つに分かれているのは、所定の位置決めピンとの干渉を避けるためである。
【0035】
図5に示すように、第1移載装置40は、駆動部44に接続されるハンド80と、該ハンド80に設けられ開閉可能な一対の把持部82と、該ハンド80に設けられた吸引部84(図3参照)と、押圧治具86とを有する。把持部82は閉じることによりセパレータ24、26を保持することができる。吸引部84は吸引手段に接続されており真空作用でセパレータ24、26を吸着することができる。
【0036】
図6に示すように、押圧治具86は、シリンダ88と、リンク機構90と、鉛直なガイド筒92と、該ガイド筒92に挿入されている昇降ロッド94と、昇降ロッド94の下端に設けられた押圧部材96とを有する。押圧治具86では、シリンダ88の作用下にリンク機構90が動作し昇降ロッド94をガイド筒92に沿って昇降させることができる。押圧部材96はX方向に長尺な板形状であって、X方向両端下面には樹脂製(例えば、ウレタン)で略半球状で下方に凸のパッド98が設けられている。
【0037】
図1に示すように、第2移載装置42は、駆動部48に接続されるハンド100と、該ハンド100に設けられ開閉可能な一対の把持部102と、該ハンド100に設けられた吸引部104(図13参照)とを有する。把持部102は閉じることにより膜電極構造体22を保持することができる。吸引部104は吸引手段に接続されており真空作用で膜電極構造体22を吸着することができる。
【0038】
積層装置10及び連結ピン打込装置14を含む組立ライン12は、制御部110(図1参照)の作用下に自動的に動作する。制御部110は所定のプログラムを読み込み実行するソフトウェア処理により組立ライン12を制御する。
【0039】
次に、このように構成される組立ライン12のうち、主に積層装置10の作用について説明する。この処理は制御部110によって行われる。
【0040】
先ず、図7のステップS1において、所定のカウンタnを0にリセットする。
【0041】
ステップS2において、セパレータ24又は26の積層動作を行う。
【0042】
ステップS3において、カウンタnをインクリメントする。つまり、n←n+1とする。
【0043】
ステップS4において、カウンタnの値を確認し、n=2であればステップS6へ移り、n<2であればステップS5へ移る。
【0044】
ステップS5において、膜電極構造体22の積層動作を行う。この後、ステップS2へ戻る。すなわち、これらのステップS1〜S5は、所定の積層動作の回数を計数するものであり、換言すると、所定数のセパレータ24、26及び膜電極構造体22について所定の枚数を計数する。
【0045】
一方、ステップS6においては、基板18を連結ピン打込装置14まで移動し、連結ピンの打ち込み動作を行い、図7に示す処理を終了する。
【0046】
次に、下層のセパレータ24の積層動作(つまり、前記のステップS2におけるn=0の場合)について説明する。
【0047】
先ず、図8のステップS101において、第1移載装置40により第1ストッカ36から1枚のセパレータ24を取り出し、レール46に沿って載置台30まで運ぶ。このとき、図3に示すように、第1移載装置40は載置台30の上方の準備位置にあり、セパレータ24は把持部82により把持されるとともに吸引部84により吸着されている。また、載置台30は、昇降装置62の作用下に引き下げられている。
【0048】
ステップS102において把持部82を開く(図3の仮想線参照)。セパレータ24は依然として吸引部84によって吸着されており、落下することはない。把持部82を開くときには、該把持部82を一度微少量下降させてから水平方向に開くとよい。把持部82がセパレータ24の表面を摺ることがないためである。なお、制御部110は、図示しない複数の撮像手段によりセパレータ24の位置及び向きを検出して、これに載置台30が合うように架台60を移動調整する。
【0049】
ステップS103において、図9に示すように、第1移載装置40を下降させ、セパレータ24を載置台30上に正確に載置する。
【0050】
ステップS104において、ストッパ面70bが載置台30の端面に当接するまでX方向両端の第1クランプ32を前進させる(図11の前段階)。
【0051】
ステップS105において、第1移載装置40の吸引部84の吸引を停止するとともに、テーブル側の吸引部30aの吸引を開始する。
【0052】
ステップS106において、第1移載装置40を載置台30の上方の準備位置に戻す。この後、第1移載装置40を第1ストッカ36の位置まで退避する。
【0053】
ステップS107において、図10及び図11に示すように、昇降装置62がロッド62aを上昇させることにより載置台30がコイルスプリング65の弾性力によって上昇し、セパレータ24は第1クランプ32のクランプ部材70と載置台30によって挟持され固定される。このとき、第1フランジ64aを載置台30の下面には当接させず、コイルスプリング65の弾性力によって載置台30を押し上げることによって適度な力でセパレータ24を固定することができる。なお、載置台30を押し上げる部材については、コイルスプリング65を適用した例について説明したが、これ以外にもセパレータ24を適度な力で固定する弾性力を発揮できる弾性部材であればよく、例えば流体ダンパー(空気圧シリンダや他のガスシリンダ等)でもよく、さらには皿バネを積層した弾性部材でもよい。
【0054】
このように、載置台30が昇降装置62により上昇をすることにより、セパレータ24は、載置台30と第1クランプ32により挟持される。これにより、セパレータ24の上面は第1クランプ32の高さに維持され、後述するステップS204における第2移載装置42が膜電極構造体22を搬送する際の高さ制御が簡便化される。
【0055】
次に、膜電極構造体22の積層動作(つまり、前記のステップS5)について説明する。
【0056】
先ず、図12のステップS201において、第2移載装置42により第2ストッカ38から1枚の膜電極構造体22を取り出し、レール50に沿って載置台30まで運ぶ(図1参照)。このとき、図13に示すように、第2移載装置42は載置台30の上方の準備位置にあり、膜電極構造体22は把持部102により把持されるとともに吸引部104により吸着されている。また、載置台30は、前記のとおりコイルスプリング65の弾性力により上昇しており、クランプ部材70とによりセパレータ24を固定している。
【0057】
ステップS202において、図示しない撮像手段により下層のセパレータ24の位置を検出し、膜電極構造体22の位置及び向きに合うように載置台30をXY方向に移動するとともに水平回転して調整する。
【0058】
ステップS203において把持部102を開く(図13の仮想線参照)。膜電極構造体22は依然として吸引部104によって吸着されており、落下することはない。把持部102を開くときには、該把持部102を一度微少量下降させてから水平方向に開くとよい。把持部102が膜電極構造体22の表面を摺ることがないためである。
【0059】
ステップS204において第2移載装置42を下降させ、膜電極構造体22をセパレータ24の上に正確に載置する。このとき、セパレータ24は第1クランプ32により所定高さに維持されており、第2移載装置42が膜電極構造体22を搬送する際に、セパレータ24の厚みによる微妙な調整が不要であり、高さ制御が簡便である。
【0060】
ステップS205において、ストッパ面76bが載置台30の端面に当接するまでY方向両端の第2クランプ34を前進させる(図16以前の段階)。
【0061】
ステップS206において、吸引部104の吸引を停止する。
【0062】
ステップS207において、第2クランプ34をクランプ昇降部72の作用下に下降させ、クランプ部材76により膜電極構造体22の上面を適度な力で押圧して固定する(図4参照)。
【0063】
すなわち、クランプ昇降部72を構成するシリンダは、例えば油圧シリンダや空気圧シリンダ、あるいはその他の流体圧シリンダを適用可能である。また、シリンダに限らず膜電極構造体22の上面に対して適度な押圧力を発揮できる押圧手段を適用可能である(図3参照)。該押圧手段には図示しない押圧力制限手段(例えば、流体圧シリンダの場合にはレギュレータやリリーフ弁等)が装着されているとよい。
【0064】
クランプ昇降部72の昇降動作は、制御部110が発する動作指令に基づき行われる。動作指令は、電気信号、光信号又はその他の物理的原理を利用した伝達媒体を用いることができる。押圧手段に設けられる押圧力制限手段は、制御部110の動作指令に基づいて任意に変更可能であるとよい。これにより、第2クランプ34の押圧力を適度に押圧向きにプラス気味にしたり、第2クランプ34がクランプされるものに接してはいるものの押圧力がほとんど働かないように押圧向きに適度にマイナス気味にしたり、変更することができる。
【0065】
ステップS208において、昇降装置62がロッド62aを下降させることによりコイルスプリング65の弾性力に抗して載置台30を下降させる。このとき、第2クランプ34を載置台30の下降動作に同期させて下降させ、セパレータ24及び膜電極構造体22の固定状態を維持する。また、第2クランプ34を適度に押圧気味にし、セパレータ24及び膜電極構造体22が解放状態とならないようにするとよい。ステップS208においては、第1クランプ32は当初の高さに維持され、セパレータ24の表面から離間することになる。
【0066】
ステップS209において、第1クランプ32を原位置に向かって後退させる。第1クランプ部材70が後退しても、セパレータ24及び膜電極構造体22は第2クランプ部材76により固定状態に保持される。
【0067】
ステップS210において、第2移載装置42を載置台30の上方の準備位置に戻す。この後、第2移載装置42は第2ストッカ38の位置まで退避する。
【0068】
次に、上層のセパレータ24の積層動作(つまり、前記のステップS2におけるn=1の場合)について説明する。
【0069】
先ず、図14のステップS301〜S303は、ステップS101〜S103(図8参照)と同じ処理である。ステップS301では、前記ステップS202と同様に載置台30の位置及び向きを調整してもよい。
【0070】
ステップS304において、吸引部84の吸引を停止する。
【0071】
ステップS305において、図15に示すように、押圧治具86の押圧部材96を下降させ、セパレータ26を膜電極構造体22の全面及び両端のクランプ部材76の一部の上に重ね合わせる。押圧治具86により、セパレータ24、膜電極構造体22及びセパレータ26は全て固定状態となる。
【0072】
図16に示すように、押圧部材96は、セパレータ26のX方向に適度に離間した2点で該セパレータ26を押圧しており、積層体が回転することがなく、一層正確に積層することができる。積層体29の回転を防止するためには、押圧部材96が少なくとも2点でセパレータ26を押圧していればよく、例えば3点支持や直線状の支持であってもよい。押圧部材96の最下面のパッド98は樹脂材で構成されており、セパレータ26の表面を保護できる。
【0073】
図17に示すように、セパレータ26を押圧する押圧部材96の長尺方向中心線P1は、2つの第2クランプ34の各中心を結ぶ線分P2に対して、該線分P2の中点Mで直交する向きとなっている。これにより、膜電極構造体22をバランスよく押圧することができ、Y方向のいずれか一方が過度に弾性変形することがない。
【0074】
さらに、セパレータ26を押圧する押圧部材96の離間する2つの接面(つまり、最下面のパッド)86のX方向中心線は、2つの第2クランプ34の各中心を結ぶ線分P2に対して直交する。セパレータ26のX方向について、その長さ(長尺方向中心線)L1は、第2クランプ34の長さL2の2倍以内にするとよく、さらには長さL2の範囲内にするとよい。
【0075】
図18に示すように、長さL1が過度に長いと、セパレータ26が第2クランプ34を覆う箇所で山なりに膨らんでしまう懸念がある。これに対して、長さL1を第2クランプ34の長さL2の2倍以内、又は長さL2の範囲内にすることにより、セパレータ26が山なりに膨らむことを防止できる。
【0076】
ステップS306において、第2クランプ34をクランプ昇降部72の作用下に僅かに上昇させ、図19に示すように、クランプ部材76を膜電極構造体22の上面から離間させる。これにより、上層のセパレータ26はさらに弾性的に変形することになる。第2クランプ34の上昇高さH1は微小で足り、例えば0.5mm〜5mm程度にする。
【0077】
第2クランプ部材76が上昇しても、セパレータ24、膜電極構造体22及びセパレータ26は押圧部材96により固定状態に保持される。
【0078】
ステップS307において、第2クランプ34のクランプ部材76を原位置に向かって(図19では右方向)後退させる。これにより、クランプ部材76の先端上部の円弧部120がセパレータ26の下面に摺接しながら移動し、やがて、第2クランプ34は上層のセパレータ26から離間し、該セパレータ26は膜電極構造体22上に積層される。
【0079】
このように、第2クランプ34は、クランプ昇降部72により一度上昇をしてから、進退部74により側方に引き抜かれることから、第2クランプ34は少なくとも膜電極構造体22に上面を摺ることがない。
【0080】
ステップS308において、ストッパ面70bが載置台30の端面に当接するまでX方向両端の第1クランプ32を前進させる。
【0081】
ステップS309において、第1クランプ32をクランプ昇降部66の作用下に下降させ、クランプ部材70により上層のセパレータ26の上面を適度な力で押圧して固定する。
【0082】
なお、このとき第1クランプ32を下降させるのではなく、前記のステップS107と同様に、載置台30を上昇させてセパレータ24、膜電極構造体22及びセパレータ26を該載置台30と第1クランプ32により挟持してもよい。これにより、積層体の上面は第1クランプ32の高さに維持され、第1移載装置40及び第2移載装置42が各シート体を搬送する際の高さ制御が簡便化され又は不要になる。つまり、積層体が4枚以上である場合に、4枚目以降に積層をするセパレータや膜電極構造体22を搬送する高さ制御が簡便となる。
【0083】
ステップS310において、第1移載装置40を載置台30の上方の準備位置に戻す。この後、第1移載装置40は第1ストッカ36の位置まで退避する。これにより、積層体29が形成され、該積層体29は連結ピン打込装置14に搬送されて所定の挿入孔に連結ピンが打ち込まれ、締結される。
【0084】
連結ピン打込装置14に搬送される搬送時には、積層装置10の基板18上に設けられた載置台30上に単位セルとして形成された積層体29は、該載置台30の長尺方向両端に設けられ基板18上に設けられた一対の第1クランプ32と該載置台30とに挟持されたまま、第1クランプと載置台30とが一体的に基板18ごと連結ピン打込装置14に搬送される。
【0085】
なお、上記の例では積層体29は、下層のセパレータ24、膜電極構造体22及び上層のセパレータ26の3枚から構成されているが、例えばセパレータと膜電極構造体を交互に積層して、5枚又はそれ以上の積層体を構成してもよい。
【0086】
上述したように、本実施の形態に係る積層装置10では、載置台30に載置されたセパレータ24の上面の一部を押さえる第1クランプ32と、下層のセパレータ24の上面に膜電極構造体22を重ね合わせる第1移載装置40と、重ね合わされた膜電極構造体22の上面の一部を押さえる第2クランプ34と、膜電極構造体22及び第2クランプ34の上面にセパレータ26を重ね合わせた後に、セパレータ26を中央で押圧して弾性変形させて膜電極構造体22に当接させる押圧部材96と、膜電極構造体22及びセパレータ26との間から第2クランプ34のクランプ部材76を引き抜く進退部74とを有する。
【0087】
つまり、膜電極構造体22は最初の段階では第2クランプ34によって押さえられており、次に押圧部材96によりセパレータ26を介して押さえられた後にクランプ部材76を引き抜くので、セパレータ26は載置台30に対して非固定となる段階がなく、ずれることがない。したがって、膜電極構造体22及びセパレータ24、26を正確且つ迅速に積層して積層体29が得られ、燃料電池の量産化、低廉化が図られるとともに、発電性能を良好に維持することができる。
【0088】
本発明に係る積層方法及び積層装置は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成乃至工程を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】組立ラインの平面図である。
【図2】積層体の分解斜視図である。
【図3】積層装置の断面側面図である。
【図4】第2クランプ及びその周辺の一部断面斜視図である。
【図5】第1移載装置の平面図である。
【図6】第1移載装置の側面図である。
【図7】積層方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】下層のセパレータを載置する手順を示すフローチャートである。
【図9】下層のセパレータを載置台に載置した状態の積層装置の断面側面図である。
【図10】昇降装置を上昇させた状態の積層装置の断面側面図である。
【図11】下層のセパレータを載置台に載置した状態の斜視図である。
【図12】膜電極構造体を載置する手順を示すフローチャートである。
【図13】第2移載装置により膜電極構造体を載置台の上方に搬送した状態の積層装置の断面側面図である。
【図14】上層のセパレータを載置する手順を示すフローチャートである。
【図15】押圧部材により上層のセパレータの中央を押圧した状態の積層装置の断面側面図である。
【図16】上層のセパレータを膜電極構造体の上に重ね合わせた状態を示す斜視図である。
【図17】上層のセパレータを膜電極構造体の上に重ね合わせた状態の平面図である。
【図18】上層のセパレータが山なりに重ね合わされた状態を示す斜視図である。
【図19】第2クランプのクランプ部材を僅かに上昇させた状態の断面側面図である。
【符号の説明】
【0090】
10…積層装置 12…組立ライン
14…連結ピン打込装置 22…膜電極構造体
24、26…セパレータ 29…積層体
30…載置台 32…第1クランプ
34…第2クランプ 40…第1移載装置
42…第2移載装置 62…昇降装置
65…コイルスプリング 66、72…クランプ昇降部
68、74…進退部 70、76…クランプ部材
78…突起 86…押圧治具
96…押圧部材 98…パッド
110…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方のシート体に他方のシート体を積層する積層方法であって、
一方のシート体は載置部に載置され、該一方のシート体の他方面の部分をクランプ手段により押さえる第1工程と、
前記一方のシート体を前記クランプ手段により押さえたまま、他方面に他方のシート体を重ね合わせるとともに、該他方のシート体を押圧手段により、押圧して弾性変形させ、少なくとも他方のシート体の一部分を前記一方のシート体に当接させる第2工程と、
前記一方のシート体と前記他方のシート体との間から引抜手段により前記クランプ手段を引き抜く第3工程と、
を有することを特徴とする積層方法。
【請求項2】
請求項1記載の積層方法において、
前記第3工程では、前記クランプ手段を一度他方に移動させてから側方に引き抜くことを特徴とする積層方法。
【請求項3】
少なくとも第1シート体、第2シート体及び第3シート体を積層する積層装置であって、
前記第1シート体を載置する載置部と、
載置部に載置された前記第1シート体の上面の一部を押さえる第1クランプ手段と、
載置部に載置された前記第1シート体の上面に前記第2シート体を重ね合わせる手段と、
重ね合わされた前記第2シート体の上面の一部を押さえる第2クランプ手段と、
前記第2シート体及び前記第2クランプ手段の上面に前記第3シート体を重ね合わせる手段と、
前記第3シート体を前記第2クランプ手段以外の箇所で押圧して弾性変形させ、少なくとも一部を前記第2シート体に当接させる押圧手段と、
前記第2シート体及び前記第3シート体との間から前記クランプ手段を引き抜く引抜手段と、
を有することを特徴とする積層装置。
【請求項4】
請求項3記載の積層装置において、
前記第2クランプ手段は、クランプ昇降機構により一度上昇させてから、前記引抜手段により側方に引き抜かれることを特徴とする積層装置。
【請求項5】
請求項3又は4記載の積層装置において、
前記第1シート体は、前記載置部が載置部昇降機構により上昇をすることにより、該載置部と前記第1クランプ手段により挟持されることを特徴とする積層装置。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の積層装置において、
前記第1クランプ手段は、前記第1シート体に前記第2シート体を重ね合わせた後に一度退避し、さらに、載置された前記第3シート体の上方に配置され、
積層された前記第1シート体、前記第2シート体及び前記第3シート体は、前記載置部が載置部昇降機構により上昇をすることにより該載置部と前記第1クランプ手段により挟持されることを特徴とする積層装置。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか1項に記載の積層装置において、
前記押圧手段は、前記第3シート体の長尺方向に離間した少なくとも2点で該第3シート体を押圧することを特徴とする積層装置。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載の積層装置において、
前記第2クランプ手段は2つで、前記載置部の左右に設けられ、
前記押圧手段の前記第3シート体を押圧する部分の長尺方向中心線は、2つの前記クランプ手段の各中心を結ぶ線分に対して、該線分の中点で略直交する向きであることを特徴とする積層装置。
【請求項9】
請求項3〜8のいずれか1項に記載の積層装置において、
2つの前記第2クランプ手段は、前記載置部における前記第3シート体の短尺方向の左右に設けられ、
前記押圧手段の前記第3シート体を押圧する部分の長尺方向中心線は、2つの前記クランプ手段の各中心を結ぶ線分に対して略直交し、
前記第3シート体の長尺方向について、前記長尺方向中心線の長さは、前記第2クランプの長さの2倍以内であることを特徴とする積層装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−277021(P2008−277021A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116802(P2007−116802)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】