説明

積層材料の層間剥離検出方法及び光ファイバセンサの埋込方法

【課題】積層材料の剥離進行情報を取得する。
【解決手段】積層材料Aの層a〜c間に複数の光ファイバセンサ2aを一次元状あるいは二次元状に配置し、各光ファイバセンサ2aの検出状態に基づいて剥離の進行状態を示す情報を取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層材料の層間剥離検出方法及び光ファイバセンサの埋込方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、繊維強化プラスチック積層板の層間剥離検出方法が開示されている。この層間剥離検出方法は、繊維強化プラスチック(FRP)等の積層板を検出対象とするものであり、積層板の層間に光ファイバを予め埋め込み、層間に剥離が発生したときに光ファイバセンサの光透過率が変化することを利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−340867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術は、層間剥離の発生を単純に検出するものであり、剥離のメカニズムを究明するために必要な剥離の進行状態を示す情報(以下、剥離進行情報という。)を提供するものではない。積層材料の機械的な特性を評価するためには、積層材料における剥離のメカニズムを究明する必要があり、剥離進行情報が不可欠である。繊維強化プラスチック積層板等の積層材料の技術分野では、剥離進行情報を取得する技術の開発が強く切望されている。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、積層材料の剥離進行情報を取得することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、積層材料の層間剥離検出方法に係る第1の解決手段として、積層材料の層間に複数の光ファイバセンサを一次元状あるいは二次元状に配置し、各光ファイバセンサの検出状態に基づいて剥離の進行状態を示す情報を取得する、という手段を採用する。
【0007】
積層材料の層間剥離検出方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、剥離を検出している光ファイバセンサと剥離を検出していない光ファイバセンサとに基づいて剥離領域と非剥離領域との境界位置を剥離の進行状態を示す情報として取得する、という手段を採用する。
【0008】
積層材料の層間剥離検出方法に係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、各光ファイバセンサの隔離検出時間に基づいて剥離の伝搬速度を剥離の進行状態を示す情報として取得する、という手段を採用する。
【0009】
また、本発明では、光ファイバセンサの埋込方法に係る第1の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段に係る積層材料の層間剥離検出方法における光ファイバセンサの層間への埋め込み方法であって、第1の層を構成する第1の材料片上に第2の層を構成する第2の材料片を重ねる際に、第2の材料片を複数に分割した分割材料片で各光ファイバセンサが設けられた光ファイバを挟み込むように配置し、さらに第3の層を構成する第3の材料片を重ね、第1〜第3の材料片を接合する、という手段を採用する。
【0010】
光ファイバセンサの埋込方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、第2の材料片の厚さは光ファイバの直径と同等である、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、積層材料の層間に複数の光ファイバセンサを一次元状あるいは二次元状に配置し、各光ファイバセンサの検出状態に基づいて剥離の進行状態を示す情報を取得するので、剥離のメカニズムを究明に必要な知見を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック(積層材料)の層間剥離検出方法において、材料本体1に複数のFBGセンサ2aを有する光ファイバ2が埋め込まれた繊維強化プラスチックAを示す斜視図及び光ファイバ1の配線方向における断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック(積層材料)の層間剥離検出方法において、繊維強化プラスチックAにて剥離が進展していく状態を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る繊維強化プラスチック(積層材料)の層間剥離検出方法において、各FBGセンサ1aの検出信号の変化を示す特性図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る光ファイバセンサの埋込方法を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る光ファイバセンサの埋込方法において、繊維強化プラスチックAの光ファイバ1の配線方向における断面図及び光ファイバ1の配線方向に直交する方向における断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る光ファイバセンサの埋込方法において、繊維強化プラスチックAの光ファイバ1の配線方向に直交する方向の断面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
最初に、本実施形態に係る繊維強化プラスチックA(積層材料)の層間剥離検出方法について、上記図1〜図3を参照して説明する。繊維強化プラスチックAは、図示するように材料本体1に複数のFBG(Fiber Bragg Grating)センサ2a(光ファイバセンサ)を有する光ファイバ2が埋め込まれたものである。材料本体1は、例えば第1〜第3の層a〜cからなる3層構造であり、光ファイバ2は、第2の層b内に直線状に埋め込まれている。第1〜第3の層a〜cは、強化繊維の配向方向が交互に直交する関係にある。
【0014】
光ファイバ2には、一定間隔で複数のFBGセンサ2aが設けられている。なお、図2では、便宜的に3つのFBGセンサ2aが設けられた状態を示している。このような光ファイバ2の一端は、光計測装置3の出射・受光端に接続されている。FBGセンサ2aは、光ファイバ2の軸線に沿って形成された一次元の回折格子(ブラッグ回折格子)であり、ブラッグ回折格子の格子間隔に応じた波長(ブラッグ波長)の反射光を発生させる。このブラッグ波長は、層間剥離が発生して内部応力が変化すると格子間隔が変化するので、内部応力に依存して変移するものである。なお、光ファイバ2の一端は、反射が発生しないように無反射処理が施されている。
【0015】
本実施形態における複数のFBGセンサ2aは、各々に異なる格子間隔を有するものであり、よってブラッグ波長もそれぞれ異なる。材料本体1において層間剥離が発生して内部応力が変化すると、層間剥離の発生部位近傍のFBGセンサ2aのブラッグ波長は変移する。
【0016】
光計測装置3は、出射・受光端から光ファイバ2の一端に測定光(レーザ光または自然放射光(ASE光))を出射すると共に、FBGセンサ2aで反射して出射・受光端に戻ってきた反射光を受光してブラッグ波長を測定する。層間剥離によってブラッグ波長が変異しても各FBGセンサ2aのブラッグ波長が重なり合うことがないように、各FBGセンサ2aのブラッグ波長は十分に離間して設定されているので、光計測装置3は、ブラッグ波長の変異を各FBGセンサ2a毎に個別に測定することができる。このような光計測装置3は、各FBGセンサ2a毎にブラッグ波長を時系列データとして取得・記憶する。
【0017】
以上説明したように、本実施形態における繊維強化プラスチックA(積層材料)は、材料本体1の第2の層b内に、一定間隔で設けられると共にブラッグ波長が互いに異なる複数のFBGセンサ2aが光ファイバ2が直線状に設けられたものである。したがって、光計測装置3によって光ファイバ2の一端から入射される反射光のブラッグ波長を測定することによって複数のFBGセンサ2aのうち、何れのFBGセンサ2aのブラッグ波長が変化し、また何れのFBGセンサ2aのブラッグ波長が変化していないかを容易に判定することができる。
【0018】
材料本体1に発生する層間剥離は、ある箇所を起点として周囲に伝搬してある面積を有する領域として発生するものと考えられる。例えば、図2に模式的に示すように、材料本体1の左端で発生した層間剥離が左側に向けて広がったと場合、FBG1〜FBG3で示す3つのFBGセンサ2aについて光計測装置3が取得するブラッグ波長の時系列データは、図3に示すように、順次時刻が遅れて層間剥離(つまり合材本体1のひずみ=ブラッグ波長の変移)を示すものとなる。すなわち、FBG1は時刻t1で層間剥離を検出し、FBG2は時刻t1よりも遅れた時刻t2で層間剥離を検出し、またFBG3は時刻t2よりも遅れた時刻t3で層間剥離を検出する。
【0019】
材料本体1において、ブラッグ波長が変化したFBGセンサ2aの近傍領域は層間剥離が発生した剥離領域であり、一方、ブラッグ波長が変化していないFBGセンサ2aの近傍領域は層間剥離が発生していない非剥離領域である。したがって、各FBGセンサ2aの層間剥離の検出/未検出は、剥離領域の境界位置や大きさを示す情報である。また、上記層間剥離の検出時刻t1、t2、t3は、各FBGセンサ2aの間隔が既知(固定値)なので、層間剥離の伝搬速度を与える情報である。
【0020】
次に、本実施形態に係る各光ファイバセンサ2aの埋込方法、つまり材料本体1に光ファイバ2が埋め込まれた繊維強化プラスチックAの製造方法について、図4〜図6を参照して説明する。なお、図5(b)における第2の層bは、断面構造が分かり易くなるように、便宜的に第1、第3の層a、cに対する大きさを誇張して示している。
【0021】
繊維強化プラスチックAは、上述したように3層構造の材料本体1に複数のFBG(Fiber Bragg Grating)センサ2a(光ファイバセンサ)を有する光ファイバ2が埋め込まれたものであるが、このような繊維強化プラスチックAは、第1の層aを構成する第1の材料片a1上に第2の層bを構成する2つの第2の材料片b1,b2を光ファイバ2を挟み込むように配置(載置)し、さらに第3の層cを構成する第3の材料片c1を重ねた状態に配置(載置)し、さらに第1〜第3の材料片a1,b1,b2,c1を全体として加熱して接合することによって製造される。
【0022】
ここで、第2の層bを構成する2つの第2の材料片b1,b2は、図5(b)に示されているように、第1の材料片a1の幅から光ファイバ2の直径を差し引いた寸法を2等分した幅の分割材料片であり、両側から光ファイバ2を挟み込んでいる。このような第2の材料片b1,b2と光ファイバ2とを第1の材料片a1上に(載置)する場合、図4、図5(a)に示すように、第1の材料片a1の両側にダム材D1,D2を載置して光ファイバ2の両端を支持することが好ましい。
【0023】
このようなダム材D1,D2が配置された状態で第2の材料片b1,b2及び光ファイバ2の上に第1の材料片a1と同一形状の第3の材料片c1を重ねる。上記ダム材D1,D2がない場合には、光ファイバ2の両端が垂れ下がることによって光ファイバ2が上下方向に湾曲して中央近傍が持ち上がるので、第3の材料片c1を密着状態に第2の材料片b1,b2上に配置(載置)することが困難である。
【0024】
なお、第1の材料片a1と第2の材料片b1,b2とは内装される強化繊維の配向方向(繊維方向)が互いに直交関係にあり、また第2の材料片b1,b2と第3の材料片c1とは、内装される強化繊維の配向方向(繊維方向)が互いに直交関係にある。すなわち、第2の材料片b1,b2における強化繊維の配向方向は、光ファイバ2の延在方向と同一であり、第1の材料片a1及び第3の材料片c1における強化繊維の配向方向は、光ファイバ2の延在方向に直交する方向である。
【0025】
このようにして第3の材料片c1の配置が完了すると、図5(a)に示すように、さらに光ファイバ2の両端をダム材D1,D2と一緒に挟み込むようにダム材D3,D4を配置する。そして、このような状態において、加熱炉で加熱することにより繊維強化プラスチックAを製造する。
【0026】
このような各光ファイバセンサ2aの埋込方法によれば、図6(a)に示すように、光ファイバ2の周縁近傍に形成される樹脂リッチ部の面積が極めて小さい。従来では第1の材料片と同形の第2の材料片とによって光ファイバを単純に挟むことによって埋め込んでいるので、加熱する前の状態において光ファイバの周りに空隙が発生しており、この空隙に強化繊維よりも移動し易い樹脂が流れ込むことによって、図6(b)に示すような大きな樹脂リッチ部が形成されている。
【0027】
これに対して、本実施形態に係る光ファイバセンサ2aの埋込方法によれば、樹脂リッチ部の面積を従来よりも大幅に縮小させることができるので、光ファイバセンサ2aの埋込に起因する繊維強化プラスチックAの強度低下を抑制することが可能であり、よって本来の強度に近い繊維強化プラスチックAについて層間剥離の進行状態を示す剥離進行情報を取得することができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、第2の層bを構成する第2の材料片b1,b2の繊維方向と同方向となるように光ファイバ2を一次元的に配線したが、本発明はこれに限定されない。光ファイバ2を2次元状、例えば光ファイバ2を第2の層b内における直交する2方向に配線したり、あるいは同心円状に複数配線しても良い。図6を見ても分かるように、光ファイバ2の直径は、現状では強化繊維の直径に比較してかなり大きい。しかしながら、光ファイバ2の直径を強化繊維の直径に近づけることにより、より多くの本数の光ファイバ2を材料本体1内に埋め込むことが可能となる。
【0029】
(2)上記実施形態では、FBGセンサ2a(光ファイバセンサ)を一定間隔で設けたが、本発明はこれに限定されない。FBGセンサ2aの間隔は、層間剥離の進行状態を高分解能で検出したい個所には密に配置し、比較的分解能で良い箇所には祖に配置しても良い。
【0030】
(3)上記実施形態では繊維強化プラスチックの層間剥離検出方法において説明したが、検出対象となる積層材料、繊維強化プラスチックに限定されない。また、上記実施形態では第1の材料片a1及び第3の材料片c1における強化繊維の配向方向を光ファイバ2の延在方向に直交する方向としたが、直交(90°)以外の角度であっても良い。
【符号の説明】
【0031】
A…繊維強化プラスチック、1…材料本体、2…光ファイバ、2a…FBGセンサ(光ファイバセンサ)、3…光計測装置、a…第1の層、a1…第1の材料片、b…第2の層、b1,b2…第2の材料片、c…第3の層、c1…第3の材料片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層材料の層間に複数の光ファイバセンサを一次元状あるいは二次元状に配置し、各光ファイバセンサの検出状態に基づいて剥離の進行状態を示す情報を取得することを特徴とする積層材料の層間剥離検出方法。
【請求項2】
剥離を検出している光ファイバセンサと剥離を検出していない光ファイバセンサとに基づいて剥離領域と非剥離領域との境界位置を剥離の進行状態を示す情報として取得することを特徴とする請求項1記載の積層材料の層間剥離検出方法。
【請求項3】
各光ファイバセンサの隔離検出時間に基づいて剥離の伝搬速度を剥離の進行状態を示す情報として取得することを特徴とする請求項1または2記載の積層材料の層間剥離検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層材料の層間剥離検出方法における光ファイバセンサの層間への埋め込み方法であって、
第1の層を構成する第1の材料片上に第2の層を構成する第2の材料片を重ねる際に、第2の材料片を複数に分割した分割材料片で各光ファイバセンサが設けられた光ファイバを挟み込むように配置し、さらに第3の層を構成する第3の材料片を重ね、第1〜第3の材料片を接合することを特徴とする光ファイバセンサの埋込方法。
【請求項5】
第2の材料片の厚さは光ファイバの直径と同等であることを特徴とする請求項4記載の光ファイバセンサの埋込方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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