説明

積層正特性サーミスタ及び積層正特性サーミスタの製造方法

【課題】耐電圧が高く、かつ動作時間を短い積層正特性サーミスタを提供する。
【解決手段】第1及び第2の外部電極のそれぞれに電気的に接続されるように形成されており、少なくともその一部がセラミック層を挟んで互いに重なり合った状態で形成された第1の内部電極及び第2の内部電極と、を有する積層正特性サーミスタであって、第1の内部電極及び前記第2の内部電極との組み合わせが、セラミック素体の厚み方向の最外層側から、順に、第1のグループと、第2のグループと、第3のグループと、からなり、第2のグループでは、第1の内部電極層及び第2の内部電極層により、サーミスタとして機能するサーミスタ有効部が形成され、第1のグループ及び第3のグループでは、第1の内部電極層及び第2の内部電極層のいずれか一方が形成されることで、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層正特性サーミスタ及び積層正特性サーミスタに関するものであって、より詳細には耐電圧性能を向上させることが可能な積層正特性サーミスタ及び積層正特性サーミスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正特性サーミスタは、電圧を印加することによって、セラミック素体が自己発熱し、所定の温度を超えると抵抗値が上昇する。これにより、キュリー温度を超えた所定の温度において、正特性サーミスタを通過する電流を小さくすることができる。このため、種々の電源回路等において過電流保護素子として利用されることが知られている。近年、電子機器の分野において、小型化かつ低抵抗化が求められており、これに伴い、正特性サーミスタについても、より小型化かつ低抵抗化が可能な積層正特性サーミスタが提案されている。
【0003】
積層正特性サーミスタは、例えば、特許文献1に示されるように、希土類元素をドナーとして含むBaTiO3系半導体セラミック材料からなるセラミック素体と、セラミック素体の内部に形成される複数の内部電極と、内部電極の一端に接続され、かつ、セラミック素体の両端面にそれぞれ形成される外部電極と、有している。セラミック素体は、複数のセラミック層と内部電極層とが交互に積層されてなり、積層方向に隣り合う内部電極は、異なる外部電極にそれぞれ接続されている構造が知られている。このような積層正特性サーミスタは、異なる電位に接続された内部電極間(ここでは、積層方向に隣り合う内部電極間)の面積及び距離により抵抗値が決定される。このため、複数の内部電極を積層している積層正特性サーミスタは、セラミック素体の内部に内部電極を有さないチップ型の正特性サーミスタに比べて、低抵抗化することが可能である。
【0004】
しかしながら、積層型正特性サーミスタの場合、セラミック素体の内部に内部電極を有さないチップ型の正特性サーミスタに比べて、異なる電位に接続された内部電極間に存在するセラミック結晶粒子の結晶粒界の数が少ない。したがって、電圧を印加した際に、1結晶粒界あたりに加わる電圧が高くなる。このため、保証範囲以上の高い電圧が加えられた場合には、セラミック層が自己発熱した際に、内部電極間に位置するセラミック層に熱がこもりやすくなり、熱暴走が生じて、セラミック素体の熱溶解が生じてしまう恐れがある。この保証範囲を示す最大電圧値は、「耐電圧」と呼ばれるが、積層正特性サーミスタの場合、耐電圧が構造上どうしても低くなってしまうという課題があった。
【0005】
ここで、積層正特性サーミスタの耐電圧を向上させるために、特許文献2ではサーミスタとして機能するサーミスタ有効部の積層方向の中央部分に、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部を設けた構成が開示されている。このように、セラミック素体の中央部に無効層を設けることによって、発熱を分散させ、熱がこもることを防ぎ、耐電圧を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−47508号公報
【特許文献2】特開2005−294670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の場合、正特性サーミスタの動作時間が長くなってしまうという課題があった。ここでいう動作時間とは、正特性サーミスタに過電流が流れ始めてから、その抵抗値が室温25℃における室温抵抗値の2倍以上に達するまでの時間のことをいう。この動作時間が短ければ短いほど、過電流から保護される部品(例えば、IC等)に過電流が流れる時間が短くなるため、保護機能が優れているといえる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、本願発明は上述の課題を解決したものであり、耐電圧が高いままで、かつ動作時間を短い積層正特性サーミスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、正の抵抗温度係数を有する半導体セラミック材料からなり、複数のセラミック層が積層されてなるセラミック素体と、セラミック素体の外表面上の互いに異なる位置に形成される第1及び第2の外部電極と、セラミック素体の内部であって、第1及び第2の外部電極のそれぞれに電気的に接続されるように形成されており、少なくともその一部がセラミック層を挟んで互いに重なり合った状態で形成された第1の内部電極及び第2の内部電極と、を有する積層正特性サーミスタであって、前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極との組み合わせが、前記セラミック素体の厚み方向の最外層側から、順に、第1のグループと、第2のグループと、第3のグループと、からなり、前記第2のグループでは、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層が、サーミスタとして機能するサーミスタ有効部が形成され、前記第1のグループ及び前記第3のグループでは、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層のいずれか一方が形成されることで、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
このように、積層正特性サーミスタの内部電極のうち、セラミック素体の厚み方向の最外層側から順に、第1のグループと、第2のグループと、第3のグループとに分けたとき、セラミック素体の中央部に位置する第2のグループにサーミスタとして機能するサーミスタ有効部を形成し、セラミック素体の中央部よりもセラミック素体の外表面側に位置する第1のグループと第3のグループに、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部が形成することによって、セラミック素体の中央部の熱を分散させなくても、十分な耐電圧を得ることができ、かつ、動作時間を短くすることができることを見出した。これは、本発明者らは動作時間を短くするためには、セラミック素体の中央部における熱が関与していることを見出した。具体的に説明すると、サーミスタ有効部が存在するセラミック素体中央部の熱が分散する構造にすると、耐電圧は向上するものの、セラミック素体の中央部に熱がこもりにくくなり、セラミック素体の温度は低くなるため、各セラミック層の抵抗が変化するのに時間がかかる。そこで、本願発明では、敢えてセラミック素体の中央部に熱がこもる構造を残しておきつつ、その構造よりもセラミック素体の表面側に自己発熱が生じないセラミック無効部を構成し、セラミック無効部の内部電極の熱伝導により熱を外部へ導くことを考えた。これにより、動作時間を短くしつつも、耐電圧を向上することができる。
【0011】
本発明は、第2のグループに位置する第1の内部電極層は、第1の外部電極層に接続され、第1の内部電極層に対してセラミック層を挟んで対向する位置に存在する第2の内部電極層は前記第2の外部電極に接続される構成からなり、第1のグループ及び第3のグループに位置には、第1の外部電極層に接続された第1の内部電極層のみ、または、第2の外部電極層に接続された第2の内部電極層のみからなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は第1のグループ及び第3のグループに位置する内部電極層の数が、第2のグループに位置する内部電極層の数よりも多いことが好ましい。このような構成にすることによって、セラミック素体の内部にこもった熱を外部へ放熱する効果が高くなり、より高い耐電圧が得られる。
【0013】
また、本発明の第1のグループにおける内部電極層の体積をA、第2のグループにおける内部電極層に挟まれたサーミスタ有効部のセラミック層の体積をV、第3のグループにおける内部電極層の体積をBとしたとき、A:V:BのA及びBの体積を1としたとき、Vの体積比は106以下であることが好ましい。このような構成にすることによって、耐電圧の向上率が格段に向上し、より好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、敢えてセラミック素体の中央部に熱がこもる構造を残しておきつつ、その構造よりもセラミック素体の表面側に自己発熱が生じないセラミック無効部を構成し、セラミック無効部の内部電極の熱伝導により熱を外部へ導くことにより、動作時間を短くしつつも、耐電圧を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る積層正特性サーミスタの第1実施形態(かつ、実験例の試料2)の横断面図である。
【図2】実験例1の試料1となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図3】実験例1の試料3となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図4】実験例2の試料4となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図5】実験例2の試料5となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図6】実験例2の試料6となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図7】実験例2の試料7となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【図8】実験例2の試料8となる積層正特性サーミスタの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0017】
図1は、この発明の第1の実施形態による積層正特性サーミスタ1を示す断面図である。積層正特性サーミスタ1は、直方体状のセラミック素体2を備えている。セラミック素体2は、正の抵抗温度係数を有する、たとえば希土類元素がドナーとして添加されたBaTiO3 系の半導体セラミックからなる。そして、セラミック素体2は、複数のサーミスタ層3を積層した構造を有している。
【0018】
セラミック素体の内部であって複数のサーミスタ層3間の所定の界面に沿って、各々複数の第1および第2の内部電極4および5が形成される。内部電極4および5は、半導体セラミック材料とオーミック接触が得られる金属材料からなり、たとえばニッケル、銅、アルミニウムの単体またはその合金等が使用される。ここでは、ニッケルを導電成分として含んでいる。
【0019】
サーミスタ素体2の外表面上であって、互いに対向する第1および第2の端面上には、第1および第2の外部電極6および7がそれぞれ形成される。第1および第2の外部電極6および7は、それぞれ、第1および第2の内部電極4および5に電気的に接続される。第1及び第2の外部電極6及び7の上には、半田等からなるめっき層8から構成される。第1及び第2の外部電極6及び7は、たとえば、スパッタリングによって形成され、セラミック素体2の端面上に形成されるクロム層、その上に形成されるニッケル−銅層およびその上に形成される銀層から構成される。めっき層8は、上述した半田めっきの他、ニッケルめっき、錫めっき等によって形成されてもよく、通常、電解めっきを用いて形成される。
【0020】
また、セラミック素体2の外表面上であって、第1及び第2の外部電極7および8によって覆われない領域には、ガラスコート(図示せず)が施されてもよい。
【0021】
以上説明した積層正特性サーミスタ1において、この実施形態では、次のような特徴を有している。
【0022】
ここで、第1の内部電極4及び前記第2の内部電極5との組み合わせが、サーミスタ素体2の厚み方向の最外層側から、順に、第1のグループLと、第2のグループMと、第3のグループNと、からなる。そして、第2のグループMでは、第1の内部電極層4a及び第2の内部電極層5aにより、サーミスタとして機能するサーミスタ有効部Sが形成され、第1のグループL及び第3のグループNでは、第1の内部電極層4b及び第2の内部電極層5bのいずれか一方が形成されることで、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部Tが形成されていることを特徴とする。具体的には、第2のグループMに位置する第1の内部電極層4aは、第1の外部電極6に接続され、第1の内部電極層4bに対してセラミック層を挟んで対向する位置に存在する第2の内部電極層5bは第2の外部電極7に接続される構成からなる。また、第1のグループL及び第3のグループNに位置には、第1の外部電極6に接続された第1の内部電極層4bのみ、または、第2の外部電極7に接続された第2の内部電極層5bのみからなることを特徴とする。
【0023】
ここで、サーミスタ有効部Sとはサーミスタとして機能しうる層であり、積層方向に隣り合う第1の内部電極4aと第2の内部電極5aとがそれぞれ異なる電位の外部電極6及び7により接続されることによってサーミスタ特性が発現する領域である。また、サーミスタ無効部Tとは、サーミスタとして機能し得ない層であり、積層方向に隣り合う第1の内部電極4b、又は、第2の内部電極5bが同じ電位の外部電極6、又7に接続されることによって、サーミスタ特性が発現しない領域である。
【0024】
図1のように、セラミック素体2の厚み方向の最外層側から順に、第1のグループLと、第2のグループMと、第3のグループNとに分けたとき、セラミック素体2の中央部に位置する第2のグループMにサーミスタとして機能するサーミスタ有効部Sを形成し、セラミック素体2の中央部よりもセラミック素体2の表面側に位置する第1のグループLと第3のグループNに、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部Tが形成することによって、セラミック素体2の中央部の熱を分散させなくても、十分な耐電圧を得ることができ、かつ、動作時間を短くすることができる。これは、サーミスタ有効部が存在するセラミック素体中央部の熱が分散する構造にすると、耐電圧は向上するものの、セラミック素体の中央部における熱がこもりにくくなり、セラミック素体の温度は低くなるため、各セラミック層の抵抗が変化するのに時間がかかるが、本願発明では、敢えてセラミック素体の中央部に熱がこもる構造を残しておきつつ、その構造よりもセラミック素体の表面側に自己発熱が生じないセラミック無効部を構成し、セラミック無効部の内部電極の熱伝導により熱を外部へ導くことにより、動作時間を短くしつつも、耐電圧を向上することができる。
【0025】
以下に、この構成による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0026】
(実験例1)
まず、BaCO3 、TiO2 およびSm2 3 の各粉末を用意し、(Ba0.9998Sm0.0002)TiO3 となるように、これら原料粉末を調合した。
【0027】
次に、得られた混合粉末に、純水を加えて、ジルコニアボールとともに、10時間混合粉砕し、乾燥後、1000℃の温度で2時間仮焼した。
【0028】
次に、この仮焼粉末に、有機バインダ、分散剤および水を加えて、ジルコニアボールとともに、数時間混合してスラリーを得た。続いて、得られたスラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上にシート成形し、厚さ30μmのグリーンシートを成形した。
【0029】
次に、得られたグリーンシート上に、スクリーン印刷法によって、ニッケルを導電成分とする導電性ペーストを付与し、乾燥させることによって、内部電極となる導電性ペースト膜が形成されたグリーンシートを作製した。
【0030】
次に、導電性ペースト膜が形成された複数のグリーンシートを、表1の試料1(図2)、2(図1)、3(図4)で示すように積層するとともに、その上下に、導電性ペースト膜を形成していない保護用のグリーンシートを積層した。
【0031】
具体的には、試料1として、第1のグループ及び第3のグループとしては内部電極層を0枚とし、第2のグループとして、第1の内部電極と第2の内部電極とをそれぞれ2枚づつ用意し、交互に積層した。そして、導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に5枚づつ積層した。これは特許文献1に相当する構造である。
【0032】
試料2として、第1のグループとしては第2の内部電極として4枚用意し同電位となるように積層し、第2のグループとして第1の内部電極として1枚、第2の内部電極として1枚を用意してそれぞれ異なる電位となるように交互に積層し、第3のグループとして第1の内部電極を4枚用意して同電位となるように積層した。そして、導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に5枚づつ積層した。これは本願発明に相当する構成である。
【0033】
試料3として、第1のグループとしては第2の内部電極として1枚用意し、第2のグループに接続される最外内部電極(第1の内部電極)と異なる電位になるように積層されており、第2のグループとして第1の内部電極として7枚用意し、すべて同電位となるように積層し、第3のグループとして第1の内部電極を1枚、第2の内部電極を1枚用意して、第2のグループの最外内部電極(第1の内部電極)と異なる電位になるように交互に積層した。そして、導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に8枚づつ積層した。これは特許文献2に相当する構成である。
【0034】
これらはすべて、焼成後に得られた積層正特性サーミスタを4端子法により測定した室温抵抗値(25℃)が一定となるように設計されている。
【0035】
次いで圧着した後、所定の寸法にカットすることによって、チップ状の生の積層体を得た。次に、生の積層体を、大気中において350℃の温度で脱脂処理した後、H2 /N2 =3%の還元性雰囲気下において1300℃の温度で2時間焼成して、セラミック素体を得た。
【0036】
次に、セラミック素体を研磨メディアとともにバレル研磨し、セラミック素体の角部分および稜線部分を丸くするように処理した。その後、セラミック素体に対して、650℃の再酸化のための熱処理を施した。
【0037】
次に、外部電極を形成するため、積層体の両端面上に、スパッタリングによって、Cr層、その上にNi−Cu層およびその上にAg層を順次形成することによって、オーミック電極層を形成した。次いで、オーミック電極層上に、Niめっき及びSnめっきからなるめっき層を形成した。
【0038】
このようにして、寸法がL2.0mm×W1.2mm×H0.9mmであって、空孔における金属材料の存在比率が試料1〜3で示される量を有する積層正特性サーミスタを得た。
【0039】
次に、試料1〜3の各々に係る積層正特性サーミスタについて、上記の方法で各20個の試料を用いて、耐電圧及び動作時間を測定した。
【0040】
まず、耐電圧試験は、直流電源に直列に接続された端子に、各試料に係る積層正特性サーミスタのそれぞれの外部電極を挟み、6Vから1V毎に昇圧し、かつ各電圧において3分間印加した状態を保持する、ステップアップによる昇圧を適用することにより実施した。そして、試料となる積層正特性サーミスタが破壊するまで昇圧し、破壊の直前の電圧を、耐電圧とした。表1の数値は、各20個の試料の平均値である。
【0041】
また、動作時間は過電流保護素子としての保証最大電圧を印加し、積層正特性サーミスタに初期に流れる電流値(突入電流値)から、1/2の電流値に減衰するまでの時間を測定することで算出した。
【0042】
その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1から分かるように、本発明の構成である試料2は、特許文献1のような従来品である試料1に比べて、耐電圧が十分に高く、かつ、動作時間が試料1と同じ程度に短い積層正特性サーミスタが得られている。また、本発明の構成である試料2は、特許文献2に相当する試料3と比べて、耐電圧は同等であるが、動作時間が半分程度に短い優れた構成が得られることがわかる。これは、試料1の場合、セラミック素体の中央部に熱がこもるため、動作時間は短いものの、耐電圧が十分に得られない。また、試料3の場合、セラミック素体の中央部の熱が分散されるため、高い耐電圧が得られるが、セラミック素体の中央部に熱がこもりにくくなるため、動作時間が長くなる。
【0045】
また、本発明の試料2のように、第2のグループに位置する内部電極層の数に比べて、第1のグループ及び第3のグループに位置する内部電極層の数が多く形成すると、セラミック素体の中央部にこもりやすい熱を、第1のグループ及び第3のグループに位置するサーミスタ無効層の存在する内部電極によって、熱をより放散させることができるので、耐電圧をより向上させることができる。また、本発明の第1のグループにおける内部電極層の体積をAとし、第2のグループにおける内部電極層に挟まれたサーミスタ有効部のセラミック層の体積をVとし、第3のグループにおける内部電極層の体積をBとしたとき、A:V:Bの比で比較した場合、A及びBの体積を1としたときの、Vの体積比は106以下であることが好ましい。
【0046】
ここでいうVの体積とは、第2のグループにおけるサーミスタ有効部Sにおいて、内部電極層の平面方向から見て、内部電極層4a、5aが重なっている領域に位置するサーミスタ1層あたりの体積(内部電極層の重なり面積×内部電極層間距離)×サーミスタ有効部のセラミック層数により決められる。また、A及びBの体積とは、第1のグループ及び第3のグループに存在する内部電極層4b又は5bの面積×内部電極層の厚み×サーミスタ無効部の内部電極数で決められる。
【0047】
以下に、この構成による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0048】
(実験例2)
まず、BaCO3 、TiO2 およびSm2 3 の各粉末を用意し、(Ba0.9998Sm0.0002)TiO3 となるように、これら原料粉末を調合した。
【0049】
次に、得られた混合粉末に、純水を加えて、ジルコニアボールとともに、10時間混合粉砕し、乾燥後、1000℃の温度で2時間仮焼した。
【0050】
次に、この仮焼粉末に、有機バインダ、分散剤および水を加えて、ジルコニアボールとともに、数時間混合してスラリーを得た。続いて、得られたスラリーをドクターブレード法によりPETフィルム上にシート成形し、厚さ30μmのグリーンシートを成形した。
【0051】
次に、得られたグリーンシート上に、スクリーン印刷法によって、ニッケルを導電成分とする導電性ペーストを付与し、乾燥させることによって、内部電極となる導電性ペースト膜が形成されたグリーンシートを作製した。
【0052】
次に、導電性ペースト膜が形成された複数のグリーンシートを、表1の試料4(図4)、試料5(図5)、試料6(図6)、試料7(図7)、試料8(図8)で示すように積層するとともに、その上下に、導電性ペースト膜を形成していない保護用のグリーンシートを積層した。
【0053】
具体的には、試料4として、第1のグループとして、第1の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層し、第2のグループとして、第1の内部電極と第2の内部電極とをそれぞれ1枚づつ用意し、交互に積層し、第3のグループとして第2の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層した。そして、導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に8枚づつ積層した。
【0054】
試料5として、第1のグループとしては第2の内部電極として4枚用意し同電位となるように積層し、第2のグループとして第1の内部電極として1枚、第2の内部電極として1枚を用意してそれぞれ異なる電位となるように交互に積層し、第3のグループとして第1の内部電極を4枚用意して同電位となるように積層した。そして、導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に5枚づつ積層した。これは実験例1の試料2と同一の構成である。
【0055】
試料6として、第1のグループとして、第1の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層し、第2のグループとして、第1の内部電極と第2の内部電極とをそれぞれ1枚づつ用意し、交互に積層し、第3のグループとして第2の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層した。導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に8枚づつ積層した。
【0056】
試料7として、第1のグループとして、第1の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層し、第2のグループとして、第1の内部電極と第2の内部電極とをそれぞれ1枚づつ用意し、交互に積層し、第3のグループとして第2の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層した。導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に6枚づつ積層した。
【0057】
試料8として、第1のグループとして、第1の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層し、第2のグループとして、第1の内部電極と第2の内部電極とをそれぞれ4枚づつ用意し、それぞれ異なる電位となるように交互に積層し、第3のグループとして第2の内部電極を1枚用意し、第2のグループに位置している最外内部電極に対して同電位となるように積層した。導電性ペースト膜が形成されていない保護用グリーンシートを上下に7枚づつ積層した。
【0058】
ここで、試料4から試料8における発熱層の厚みとは、第2グループにおける最外内部電極層間の距離により決められる。これらはすべて、焼成後に得られた積層正特性サーミスタを4端子法により測定した室温抵抗値(25℃)が一定となるように設計されている。
【0059】
次いで圧着した後、所定の寸法にカットすることによって、チップ状の生の積層体を得た。次に、生の積層体を、大気中において350℃の温度で脱脂処理した後、H2 /N2 =3%の還元性雰囲気下において1300℃の温度で2時間焼成して、セラミック素体を得た。 次に、セラミック素体を研磨メディアとともにバレル研磨し、セラミック素体の角部分および稜線部分を丸くするように処理した。その後、セラミック素体に対して、650℃の再酸化のための熱処理を施した。
【0060】
次に、外部電極を形成するため、積層体の両端面上に、スパッタリングによって、Cr層、その上にNi−Cu層およびその上にAg層を順次形成することによって、オーミック電極層を形成した。次いで、オーミック電極層上に、Niめっき及びSnめっきからなるめっき層を形成した。
【0061】
このようにして、寸法がL2.0mm×W1.2mm×T0.9mmであって、空孔における金属材料の存在比率が試料4〜8で示される量を有する積層正特性サーミスタを得た。なお、これらの試料4〜8は、「サーミスタ無効部あり試料4〜8」とする。
【0062】
また、比較資料として、試料4〜8のそれぞれの積層正特性サーミスタにおいて、サーミスタ無効部が形成されていない構造を作成し、「サーミスタ無効部なし試料4〜8」とした。
【0063】
まず、サーミスタ無効部あり試料4〜8について、A:V:Bを求めた。ここVは、第2のグループにおけるサーミスタ有効部において、内部電極層の平面方向から見て、内部電極層が重なっている領域に位置するサーミスタ1層あたりの体積(内部電極層の重なり面積×内部電極層間距離)×サーミスタ有効部のセラミック層数により求めた。また、A及びBは、第1のグループ及び第3のグループに存在する内部電極層の面積×内部電極層の厚み×サーミスタ無効部の内部電極数により求めた。A:V:Bにおいて、A及びBを1とし、Vが整数により割り切れない場合は、小数点1桁を四捨五入した。
【0064】
次に、「サーミスタ無効部あり試料4〜8」及び「サーミスタ無効部なし試料4〜8」の各々に係る積層正特性サーミスタについて、上記の方法で各20個の試料を用いて、耐電圧及び動作時間を測定し、耐電圧の向上率及び動作時間の変化率を計算した。耐電圧及び動作時間の測定は、実験例1と同一の方法で測定した。続いて、耐電圧向上率は、(サーミスタ無効部あり試料の耐電圧−サーミスタ無効部なし試料の耐電圧)/(サーミスタ無効部なし試料の耐電圧)により求めた。また、動作時間の向上率は、(サーミスタ無効部あり試料の動作時間−サーミスタ無効部なし試料の動作時間)/(サーミスタ無効部なし試料の動作時間)により求めた。
【0065】
その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2の耐電圧向上率及び動作時間変化率の結果から、試料4〜8のすべてにおいて、サーミスタ無効部が形成されていない場合に比べて、耐電圧が向上しており、動作時間は同等であることが確認できた。また、第1のグループにおける内部電極層の体積をAとし、第2のグループにおける内部電極層に挟まれたサーミスタ有効部のセラミック層の体積をVとし、第3のグループにおける内部電極層の体積をBとしたときの比をA:V:Bとしたとき、1:141:1の試料4及び試料5に比べて、1:106:1である試料3、1:27:1である試料2、1:13:1である試料1の場合、動作時間は同等のままで、耐電圧向上率が40%以上となることがわかった。すなわち、A及びBの体積を1としたとき、A及びBに対するVの体積比を106以下としたとき、耐電圧向上率が格段に向上することがわかった。このように、A及びBの体積に対して、Vの体積比が小さい場合、セラミック有効部が存在するセラミック素体の中央部に熱がこもりやすくなる傾向にあるが、上述のような構成にすることによって、セラミック素体の中央部にこもった熱を、セラミック無効部Tを構成する第1のグループ及び第3のグループに位置する内部電極から放熱の寄与度が大きくなることがわかる。このことから、A及びBの体積を1としたとき、A及びBに対するVの体積比を106以下となるような構成のときに、本願発明が非常に有効であることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
1 積層正特性サーミスタ
2 セラミック素体
3 サーミスタ層
4a、4b 第1の内部電極
5a、5b 第2の内部電極
6 第1の外部電極
7 第2の外部電極
8 めっき

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の抵抗温度係数を有する半導体セラミック材料からなり複数のセラミック層が積層されてなるセラミック素体と、
セラミック素体の外表面上の互いに異なる位置に形成される第1及び第2の外部電極と、
セラミック素体の内部であって、第1及び第2の外部電極のそれぞれに電気的に接続されるように形成されており、少なくともその一部がセラミック層を挟んで互いに重なり合った状態で形成された第1の内部電極及び第2の内部電極と、
を有する積層正特性サーミスタであって、
前記第1の内部電極及び前記第2の内部電極との組み合わせが、前記セラミック素体の厚み方向の最外層側から、順に、第1のグループと、第2のグループと、第3のグループと、からなり、
前記第2のグループでは、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層により、サーミスタとして機能するサーミスタ有効部が形成され、
前記第1のグループ及び前記第3のグループでは、前記第1の内部電極層及び前記第2の内部電極層のいずれか一方が形成されることで、サーミスタとして機能しないサーミスタ無効部が形成されていることを特徴とする積層正特性サーミスタ。
【請求項2】
前記第2のグループに位置する第1の内部電極層は、前記第1の外部電極層に接続され、前記第1の内部電極層に対してセラミック層を挟んで対向する位置に存在する第2の内部電極層は前記第2の外部電極に接続される構成からなり、
前記第1のグループ及び前記第3のグループに位置には、第1の外部電極層に接続された第1の内部電極層のみ、または、第2の外部電極層に接続された第2の内部電極層のみからなることを特徴とする請求項1に記載の積層正特性サーミスタ。
【請求項3】
前記第1のグループ及び前記第3のグループに位置する内部電極層の数が、前記第2のグループに位置する内部電極層の数よりも多いことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層正特性サーミスタ。
【請求項4】
前記第1のグループにおける内部電極層の体積をAとし、
前記第2のグループにおける内部電極層に挟まれたサーミスタ有効部のセラミック層の体積をVとし、
前記第3のグループにおける内部電極層の体積をBとしたとき、
A:V:Bの比において、A及びBの体積を1としたときの、Vの体積比は106以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層正特性サーミスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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