説明

積層糸

【目的】洗濯を繰り返しても抗菌力が低下せず、帯熱防止機能や帯電防止機能に優れ、美観に優れた糸を提供する。
【構成】合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着被膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ状構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成された積層糸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層構造を有する積層糸、特に、抗菌性、耐洗濯性、帯電防止性、帯熱防止性等の各種特性に優れた積層糸に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生観念の発達から抗菌性を備えた商品が求められるようになってきており、衣服や布巾にも抗菌性を備えたものが求められている。これら抗菌性を備えた衣服や布巾は、その材料として抗菌性を備えた抗菌糸を使用している。
【0003】
このような抗菌糸としては、従来から、銀や銅を細長く伸ばしてなる極細金属糸や、合成繊維などの糸の表面に銀や銅をメッキしてなるメッキ糸、抗菌剤を練りこみ又は塗布してなる抗菌剤含有糸等が使用されている。
【0004】
一方で、静電気による着衣者の不快感の低減や、静電気による電子製品の静電破壊防止の観点から、各種帯電防止繊維製品が使用されており、このような帯電防止繊維製品としては、従来から、炭素繊維糸を含むものが使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これら従来からある極細金属糸や炭素繊維等を繊維製品に使用し、繊維製品に抗菌性等の各種特性を付与しようとする場合には、次に掲げるような問題点があった。
まず、極細金属糸やメッキ糸には、その表面が経時変化や漂白剤などにより酸化して黒化するため、これらを繊維製品に使用すると当該繊維製品の見栄えが悪くなったり、抗菌性が低下するとの問題点があった。加えて、これら極細金属糸やメッキ糸の金属部分が赤外線等によって容易に熱せられるため、これらを材料として含む繊維製品を着用し、例えば赤外線温熱治療を行うと低温やけどを生じるとの問題点もあった。
【0006】
また、抗菌剤含有糸には、洗濯により抗菌剤が溶出するため、洗濯を繰り返すと抗菌性が低下し、抗菌性を短期間で喪失するとの問題点があった。
また、帯電防止繊維の炭素繊維糸は黒色糸であるため、商品の見栄えの点から使用可能な商品が限定され、さらに、これら複数の糸を組合せても、抗菌性、帯電防止性、帯熱防止性、商品の美観等複数の特性を備えた繊維製品を作り出すのは困難であった。
【0007】
そこで、この発明は、洗濯を繰り返しても抗菌力が低下せず、帯熱防止機能や帯電防止機能に優れ、美観に優れた積層糸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、この発明にかかる積層糸は、合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着被膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ状構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする。
【0009】
また、合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記の説明から明らかなように、この発明にかかる積層糸は、抗菌性金属からなる蒸着被膜の両側面を合成樹脂フィルムによって挟んだサンドイッチ状構造の糸であるため、外観が美しく、高い抗菌性を備え、洗濯を繰り返しても抗菌力が低下せず、帯熱防止機能や帯電防止機能を示した。また、合成樹脂フィルムの外側にコート層を設けることによって、光触媒による分解機能や保温機能を付与することもできた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、この発明にかかる積層糸1の構造を模式的に示す図であり、この図に示すように、積層糸1は、合成樹脂フィルム11によって、抗菌性金属からなる蒸着被膜12を挟み込んだサンドイッチ状構造の糸であり、次に示すような手順によって形成される。
【0012】
まず、合成樹脂フィルム11に抗菌性金属を真空蒸着法やイオン蒸着法等により蒸着し、蒸着被膜12を成膜する。蒸着被膜12の厚さは、約500〜1,000オングストローム程度であり、製品コストの点から、500オングストロームが好ましい。つぎに、蒸着被膜12が成膜された合成樹脂フィルム11同士を、蒸着被膜が内側になるように接着剤によって接着して、抗菌性金属を合成樹脂フィルムで挟んだサンドイッチ状構造の積層体を製造する。最後に、積層体を縦方向に幅0.1〜1.0ミリに切断して積層糸1が完成する。
【0013】
ここで、合成樹脂フィルムとは、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等から作られた厚さ約10〜100ミクロンのフィルムである。また、抗菌性金属とは、銀、銅、亜鉛等のイオン交換可能な抗菌性を有する金属である。この中でも、錆が発生しにくい、抗菌性能の高さから、銀の使用が最適である。さらに、上記接着剤としては、ポリウレタン系やポリエステル系接着剤など種々の接着剤を使用することができる。
【0014】
このように、積層糸1は、抗菌性金属からなる蒸着被膜12が合成樹脂フィルム11によって挟まれたサンドイッチ状構造の糸であり、抗菌性金属の色を備えた糸である。
ここで、蒸着被膜12の側面は外部に露出しているため、酸化・塩化するものの、隣接する繊維と互いにこすれあって、当該酸化部分は取れてしまう。また、蒸着被膜12の側面以外の部分は、合成樹脂フィルム11によって保護されているため、酸化・塩化しない。そのため、繰り返し洗濯を行ったり漂白剤を使用しても、抗菌力が低下したり、蒸着被膜12の黒化して、繊維製品の外観が悪化することはない。また、外部から熱を加えても、金属の蒸着被膜12の大部分が合成樹脂フィルムに覆われているため、積層糸1の温度が急上昇して低温やけどを起こすこともない。さらに、積層糸1が織り込まれた衣服等に静電気が生じても蒸着被膜12を通じて静電気が外部に移動するため、静電気を帯電させない効果も発揮する。
【実施例】
【0015】
次に、この発明に係る積層糸を製造して各種試験を行い、この発明をさらに詳細に説明する。
(1)積層糸の製造
厚さ12ミクロンのポリエステルフィルム(東洋紡績株式会社製)に銀イオンをイオン蒸着法により蒸着して、厚さ500オングストロームの蒸着被膜を成膜する。つぎに、ポリエステル系接着剤によって、前記蒸着皮膜を持つポリエステルフィルム同士をその蒸着被膜が内側になるように接着して、サンドイッチ状構造の積層体を製造する。最後に、前記積層体を縦方向に幅226ミクロンに切断して積層糸とし、以下の各種試験に供した。
【0016】
(2)抗菌性試験
地糸に積層糸を6mm間隔で織り込んだタオル地を使用して、シェークフラスコ法により抗菌性試験を行った。なお、供試菌として肺炎桿菌を使用し、無加工布(ナイロン製)を実験対照として使用した。その結果を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
つぎに、積層糸を5mm間隔で織り込んだ靴下のつま先部分を使用して、シェークフラスコ法により抗菌性試験を行った。なお、供試菌として肺炎桿菌を使用し、無加工布(ナイロン製)を実験対照として使用した。その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
さらに、積層糸を2mm間隔で織り込んだパンティストッキングを使用して、SEK菌数測定法により抗菌性試験を行った。なお、供試菌として白癬菌を使用し、実験対照として無加工布(ナイロン製)を使用した。その結果を表3に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
表1,表2および表3からも明らかなように、同数の供試菌を接種し、一定時間後の残存菌数を比較すると、試料と実験対照との間には抗菌力において充分な違いがあり、積層糸には十分な抗菌効果があることが認められた。また、上記積層糸の抗菌スペクトルは、細菌(原核生物)である肺炎桿菌から真菌(真核生物)である白癬菌にいたる幅広いものであることが認められた。
【0023】
(3)耐洗濯性試験
地糸に積層糸を4mm間隔で織り込んだタオル地を規定回数洗濯したあと、シェークフラスコ法により抗菌性試験を行ない、洗濯による抗菌力の変化を調べた。なお、供試菌として肺炎桿菌を使用した。その結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
つぎに、積層糸を5m間隔で織り込んだ食品ラップ布を規定回数洗濯したあと、シェークフラスコ法により抗菌性試験を行ない、洗濯による抗菌力の変化を調べた。なお、供試菌として大腸菌を使用した。その結果を表5に示す。
【0026】
【表5】

【0027】
さらに、積層糸を5m間隔で織り込んだ食品ラップ布を規定回数洗濯したあと、SEK統一試験法により抗菌性試験を行ない、洗濯による抗菌力の変化を調べた。なお、供試菌として大腸菌O−157を使用し、実験対照として綿ガーゼを使用した。その結果を表6に示す。
【0028】
【表6】

【0029】
表4,表5および表6からも明らかなように、積層糸の抗菌力は、洗濯を繰り返しても低下することなく、むしろ洗濯を繰り返すほど抗菌力が向上することが分かった。
(4)耐塩素漂白剤試験
約10グラムの積層糸を束ね、規定回数漂白したあとの色変化を観察した。なお、漂白液は蒸留水300mlに台所用漂白剤12mlを加えたものを使用し、温度による違いを見るために温度を変えて実験した。その結果を表7示す。
【0030】
【表7】

【0031】
表7からも明らかなように、束ねた積層糸を漂白しても、特に、50℃30分という過酷な条件下で漂白しても、積層糸が黒化しないことが確認された。
(5)帯熱防止機能試験
積層糸を5m間隔で編みこんだ天竺でTシャツをつくり、当該Tシャツ上約20cmから赤外線ランプで加熱し、その表面及び生地内の温度変化を調べた。その結果を図2のグラフに示す。なお、実験対照として積層糸を含まないTシャツを使用した。
【0032】
図2からも明らかなように、積層糸を織り込んでも、帯熱防止機能は低下せず、実験対照と同程度にしか温度が上昇しないことが分かった。
(6)帯電防止機能試験
(5)で製造したTシャツを使用して、JIS 1094−5に記載の方法に沿って帯電防止機能試験を行った。測定条件は、20℃、20%RHである。その結果を表8に示す。なお、実験対照として積層糸を含まないTシャツを使用した。
【0033】
【表8】

【0034】
表8に示すように、Tシャツに蓄積する静電気の容量や電圧が低下しており、積層糸を織り込むことにより、帯電防止機能が向上していることが分かった。
なお、この発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において種々の変更が可能である。
【0035】
例えば、図3に示すように、積層糸2を構成する合成樹脂フィルム21の外側にコート層23を設けてもよい。コート層23の材料としては、例えば、光触媒機能を持つ酸化チタンやケイ素化合物などが挙げられ、当該酸化チタンをコート層23に使用した場合には、蒸着被膜22の抗菌性金属による死菌を光触媒(酸化チタン)によって発生した活性酸素により分解・無毒化することができ、ケイ素化合物をコート層23に使用した場合には、積層糸2の保温機能を高めることができる。
【0036】
また、図4に示すように、蒸着被膜32と合成樹脂フィルム31の間に酸化チタン等の顔料の層33を設けてもよい。これにより、抗菌性金属の金属色を消し、白衣のような金属色の糸が使用できないような繊維製品に対しても使用できるようになる。
【0037】
また、積層糸をナイロンウーリィ等と撚り合せ、撚糸として使用してもよい。これにより、積層糸の膚触りをよくすることができる。
さらに、積層糸は布製品のほかにも、合成樹脂フィルムの厚さを厚くすることによって、トイレ用等のたわし製品の材料として使うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】積層糸の構造を模式的に示した図である。
【図2】帯熱防止機能試験の結果を示すグラフである。
【図3】他の積層糸の構造を模式的に示した図である。
【図4】他の積層糸の構造を模式的に示した図である
【符号の説明】
【0039】
1 積層糸
11 合成樹脂フィルム
12 蒸着被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着被膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ状構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする積層糸。
【請求項2】
合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の積層糸。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−52523(P2006−52523A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319550(P2005−319550)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【分割の表示】特願平11−219180の分割
【原出願日】平成11年8月2日(1999.8.2)
【出願人】(598039699)トリテック有限会社 (2)
【出願人】(598030179)
【出願人】(390003872)豊島株式会社 (4)
【Fターム(参考)】