説明

穴あけ装置

【課題】調査・補修装置が鋼管内部を移動できるように、鋼管内部を閉鎖するフランジ板にできる限り大きな穴を開けるための装置を提供することである。
【解決手段】鋼管鉄塔等のような鋼管構造物Pの鋼管上端から鋼管内部に吊り下げて移動させ、鋼管内を閉鎖したフランジ板等に穴を開けるための穴あけ装置1である。この穴あけ装置は、穴あけ装置を鋼管内で固定するための少なくとも1組の開閉脚自在な支持アーム4を備えた支持本体部2と、この支持本体部に設けられた作業部回転モータ5によって鋼管内周縁に沿った方向へ回転される回転作業部3とから構成される。回転作業部は、プラズマ切断機の切断トーチ9と、該切断トーチをその先端に保持する作業アーム8と、この作業アームを作業アーム開閉機構を介して開閉脚する作業アーム駆動モータとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管鉄塔等のような鋼管構造物の鋼管上端から鋼管内部に吊り下げて移動させ、鋼管内を閉鎖したフランジ板等に穴を開けるため装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管鉄塔等のような既設の鋼管構造物についてその鋼管内面の調査、補修を行う場合、鋼管の上端から鋼管内部へ調査・補修装置を吊り下げて挿入する方法が取られている(例えば、特許文献1〜3参照)。この方法は、鋼管自体の強度を損なうことなく行え、また調査や補修のための大規模な足場作り等を必要としないめ、非常に有効な手段である。しかしながら、例えば、図5に示すような鉄塔の場合、主柱aの傾斜角度が異なる部分b、c、dの各連結部位e、fに、図6に示すように、接手のフランジ板gが主柱aの鋼管内部を閉鎖しており、そのため、主柱aの上端hからその中に吊り下げて下降させる調査・補修装置(図示なし)は、最初の接手位置のフランジ板gによってその移動を阻止されてしまい、それより下方の部分については調査・補修を行うことができなかった。
【特許文献1】特開2004−011013号公報
【特許文献2】特開2004−286114号公報
【特許文献3】特開2005−090173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、鋼管内部を閉鎖するフランジ板に穴を開けるための装置を提供することにあり、特に、調査・補修装置の移動を容易にするために、できる限り大きな穴をフランジ板に開けることができる装置を提供することにある。
【0004】
本発明の別の目的は、鋼管の中心軸に対して斜めに交差するフランジ板等に、できる限り大きな穴を開けることができる穴あけ装置を提供し、また、大電力を必要とするプラズマ切断機の切断トーチのための相対的に太い電力供給用コードが鋼管の中心軸と交差する方向へ張り出して穴あけ装置の移動及び作動を阻害するのを回避できる穴あけ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による穴あけ装置は、鋼管鉄塔等のような鋼管構造物の鋼管上端から鋼管内部に吊り下げて移動させ、鋼管内を閉鎖したフランジ板等に穴を開けるための穴あけ装置である。この穴あけ装置では、穴あけ装置を鋼管内で固定するための少なくとも1組の開閉脚自在な支持アームを備えた支持本体部と、この支持本体部に設けられた作業部回転モータによって鋼管内周縁に沿った方向へ回転される回転作業部とから構成される。回転作業部は、プラズマ切断機の切断トーチと、該切断トーチをその先端に保持する作業アームと、この作業アームを作業アーム駆動モータによって開閉脚する作業アーム開閉機構とを備える。
【0006】
本発明による穴あけ装置はまた、切断トーチに電力を供給するためのコードを、支持本体部と回転作業部とにそれぞれ固定し、そして、この2つの固定位置間におけるコードの長さを回転作業部が半回転するのに対応できるだけの長さにしてもよい。また、切断トーチを作業アームの伸延方向へスライド可能に保持する保持部を作業アームの先端に設け、切断トーチの外周面上にガイドローラを装着し、作業アームを開脚する方向へ弾性的に前進させるための圧縮バネ部材を作業アーム開閉機構に設けることもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の穴あけ装置を鋼管上端から鋼管内部に吊り下げ、穴あけすべきフランジ板等の位置へ移動させ、支持本体部の支持アームを開脚して穴あけ装置を固定することにより、支持本体部の作業部回転モータの回転中心軸と鋼管の中心軸とを合致させる。その一方で、切断トーチが鋼管の内周壁に接触するように回転作業部の作業アームを開脚する。次いで、切断トーチに電力を供給して穴あけ作業を開始すると共に、作業部回転モータによって回転作業部を1回転させることにより、切断トーチが鋼管の内周壁に沿って1周するため、可能な限り大きな穴を開けることができる。
【0008】
穴あけ装置を鋼管内部に吊り下げるとき、切断トーチに電力を供給するためのコードは、作業部回転モータによって回転作業部を一方向へ回転させることにより、穴あけ装置の外周上に完全に巻きつけられている。この状態は、実質的に、穴あけ装置と一体化された輪郭形状となるため、相対的に剛性の高いコードが外方へ突出して鋼管内部での穴あけ装置の移動を阻害されるのを回避できる。穴あけ作業は、回転作業部を前記方向とは逆の方向へ1回転させることにより行われるが、最初の半回転分の回転中、コードは穴あけ装置から解かれ、次の半回転分の回転中は、穴あけ装置の外周上に逆巻きに巻きつけられる。このため、穴あけ装置から遊離状態となるコードの最大長さが回転作業部の半回転分の長さであることを意味しており、遊離状態となったコードが鋼管内壁等に衝突して穴あけのための回転作業を阻害する虞を回避できる。この逆巻きにコードを巻きつけた位置は次の穴あけ作業の開始位置として使用し、切断トーチを前回の穴あけ時の回転方向と逆方向へ回転させることにより次の穴あけ作業を遂行できるため、コードの巻きつけのために無用に作業部回転モータを作動させる必要はない。
【0009】
切断トーチは、ガイドローラが鋼管の内周壁と接触した状態で回転されるため、切断トーチの内周壁に沿った移動を円滑に行わせることができる。また、作業アーム先端に切断トーチをスライド可能に保持されていることと、作業アームが開脚する方向へ弾性的に前進させられていることとにより、作業部回転モータの回転中心軸と鋼管の中心軸との間に位置的ズレがあっても、或いはまた、鋼管の中心軸に対して斜めに交差するフランジ板等に穴あけする場合であっても、切断トーチのスライドと作業アームの弾性的開脚または閉脚とにより、切断トーチと鋼管の内周壁および穴あけしようとするフランジ板等の表面との間に無用な空間を生じることなく、切断トーチを常に鋼管の内周壁に押し付けた状態で回転させることができ、それにより、内周壁に沿った可能な限り大きな穴を開けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例による穴あけ装置1は、図1に示すように、鋼管鉄塔等のような鋼管構造物の鋼管Pの内部に穴あけ装置1を吊り下げて移動させるためのワイヤWにその一端を連結される支持本体部2と、支持本体部2の他端(すなわち、吊下げ方向下方端)に連結される回転作業部3とから構成される。図中、参照符号Cで示すものは、吊下げ移動時や穴あけ作業時に鋼管内部や作業状態を観察するためのビデオカメラであり、参照符号Lで示すものは、ビデオカメラCでの撮影に必要な光量を提供するためのLEDである。
【0011】
支持本体部2は、鋼管P内で穴あけ装置1を固定するための少なくとも1組(図示の場合、2組)の開閉脚自在な支持アーム4と、支持本体部2に連結された回転作業部3を可逆回転するための作業部回転モータ5とを備えている。支持アーム4は、穴あけ装置1の固定時にその軸心方向を鋼管2の軸心方向に合致させるという観点から、穴あけ装置1の軸心から放射方向へ均等な間隔で少なくとも3本配置される。作業部回転モータ5は穴あけ装置1の軸心の周りに回転作業部3を可逆回転させる。
【0012】
支持アーム4は、図2により詳細に示すように、支持アーム駆動機構6を介して支持アーム駆動モータ7により開閉脚される。この支持アームを開閉脚するための支持アーム駆動機構6については、本出願人が特願2006−283139号で提案したアーム駆動機構を適用することができる。
【0013】
このアーム駆動機構は、概説すると、支持アーム駆動モータ7が作動すると、支持アーム駆動モータ7の出力軸に連結されたボルト60が回転し、ボルト60に螺合されたナット61がボルト60上を直線的に移動する。ナット61にはラック62が結合されており、ナット61の移動に伴ってラック62に噛合されたピニオン63が回転し、それにより、支持アーム4が開閉脚される。ナット61とラック62の間には、支持アーム4を開脚する方向へラック62を弾性的に前進させるための圧縮バネ64が設けられている。この圧縮バネ64は、例えば、穴あけ装置1の鋼管Pからの取出し時に支持アーム4を閉脚し忘れているような場合、下方側の相対的に大きな内径の鋼管Pから上方側の相対的に小さな内径の鋼管Pへ移動する際に、鋼管内壁等によって閉脚する方向の力が支持アーム4に加えられると、ラック62が圧縮バネ64の発条力に抗して移動することにより支持アーム4の閉脚を可能にし、それにより、支持アーム4が破損されてしまうのを回避している。
【0014】
回転作業部3は、図3に示すように、作業アーム8と、作業アーム8の先端に保持されたプラズマ切断機の切断トーチ9と、作業アーム開閉機構10を介して作業アーム8を開閉脚する作業アーム駆動モータ11とを備えている。作業アーム開閉機構10は、基本的に支持アーム駆動機構6と同様な構造を有しており、作業アーム駆動モータ11の回転出力軸111に結合されたボルト100と、ボルト100に螺合されてボルト100に沿って直線的に移動するナット101と、ナット101に連結されたラック102と、ラック102に噛合されたピニオン103とから構成される。ピニオン103には作業アーム8の基部側端部が結合されており、ナット101とラック102の間には、作業アーム8を開脚する方向へラック102を弾性的に前進させるための圧縮バネ104が設けられている。作業アーム開閉機構10の圧縮バネ104は、支持アーム駆動機構6における圧縮バネ64が支持アーム4の破損を目的として設けられるのに対し、後述するように、穴あけ作業時に、鋼管Pの中心軸と作業アーム8の回転中心軸との間のズレを補完することにより、より大きな穴を開けることを目的として設けられている。切断トーチ9は、後述する理由により、作業アーム8の保持部80にスライド可能に保持されており、その外周面上にガイドローラ90を備えている。ガイドローラ90は、少なくとも切断トーチ9が鋼管Pの内周壁に接触した状態で移動するのを円滑に行わせるために設けられる。ガイドローラ90はまた、鋼管Pの軸方向への移動に対しても円滑に行うことができるように形成される。
【0015】
切断トーチ9に切断のための電力を供給するコード12は、図4に示すように、固定具121および122により支持本体部2および回転作業部3にそれぞれ固定される。固定具121および122間におけるコード12の長さは、回転作業部3が半回転するのに対応できるだけの長さである。コード12は、鋼管P内に挿入される際、穴あけ装置1の周りにいずれか一方向へ巻き付けられている(図4の(A)参照)。コード12を解く方向へ回転作業部3を回転させると、コード12は半回転されたところで最も固定具121および122間で外方へ張り出し(図4の(B)参照)、次いで、穴あけ装置1の周りにコード12が逆向きに巻き付けられ(図4の(C)参照)、これにより、回転作業部3が1回転する。ここにおいて、回転作業部3の半回転および1回転の用語は、厳密な意味での180度の回転や360度の回転を意味するものでなく、後述する1回の切断トーチ9の回転によって穴あけを行うのに必要な回転量を意味するものである。
【0016】
上述の如く構成される本発明の穴あけ装置1は、鋼管Pの上端より吊下げられてフランジ板Fの位置まで下降され、支持アーム駆動モータ7を駆動して支持アーム4を開脚することにより固定され、回転作業部3の回転中心軸が鋼管Pの中心軸と合致するよう保持される。次いで、作業アーム駆動モータ11を駆動し、切断トーチ9が鋼管Pの内周壁に当接するまで、より実際的には、切断トーチ9の外周面に設けられたガイドローラ90が鋼管Pの内周壁に当接するまで作業アーム8を開脚させる。コード12を介して切断トーチ9へ切断用電力を供給してフランジ板Fの溶断を開始する共に、作業部回転モータ5を駆動して回転作業部3を1回転させることにより、フランジ板Fへの穴あけ作業が遂行される。
【0017】
この回転作業部3の回転中におけるコード12の外方への張り出しは、回転作業部3の半回転分に対応する長さであり、張り出したコードが他の部分や鋼管内壁に不用意に接触して回転作業部3の回転を阻害する虞を回避している。また、半回転分張り出したコードが回転作業部3に逆向きに巻き付けられたときが1回転であるため、コード張り出しを気にすることなしに穴あけ装置1を移動させることができ、そして、回転作業部3の回転終了位置が次回の穴あけ作業の開始位置として適用することが可能となる。
【0018】
ここにおいて、上述したように、穴あけ装置1は、理論的には、回転作業部3の回転中心軸が鋼管Pの中心軸と合致するように保持されるのであるが、実際には、ミリメートル単位での位置的ズレや数度の角度的ズレを有することなしに穴あけ装置1を固定させることは至難である。このような位置的ズレや角度的ズレが回転作業部3の回転中心軸と鋼管Pの中心軸の間に生じている場合、切断トーチ9が鋼管Pの内周壁によって回転を阻止されて穴あけ作業が行えなかったり、回転する切断トーチ9の描く円が鋼管Pの内周壁から大きく離間して相対的に小さな穴しか開かなかったりする。このような現象が生起されるのを回避するために、本発明の穴あけ装置1は、切断トーチ9が鋼管Pの内周壁に当接するまで作業アーム8を開脚したのち、作業アーム開閉機構10の圧縮バネ104が適当に圧縮されるまで作業アーム駆動モータ11を作動させる。圧縮バネ104が適当に(完全にではない。)圧縮されていることにより、作業アーム8は開脚する方向へ移動する傾向を有する一方、更に閉脚する方向の力が加えられたときは圧縮バネ104を更に圧縮することで閉脚させることができる。これにより、回転作業部3の回転中心軸と鋼管Pの中心軸とが合致していない場合であっても、切断トーチ9を鋼管Pの内周壁に常に当接させた状態で作業アーム8が回転されるため、可能な限り大きな穴が開けられることになる。
【0019】
穴あけ作業時、切断トーチ9は、必ずしもフランジ板Fに接触していなければならないものではないが、フランジ板Fから過剰に離間していると溶断が行われない。これに対しては、本発明では、切断トーチ9を作業アーム8の保持部80にスライド可能に保持させることにより対応している。切断トーチ9は、静的状態において、その自重および/または切断トーチ9に接続されたコード12の剛性によって作業アーム8の伸延方向外方へ延びる方向へ移動する傾向にある。このため、切断トーチ9を適当に(完全にではない。)後退させた状態で穴あけ作業を開始することにより、フランジ板Fとの間の離間間隔の変化に対応して切断トーチ9がスライドし、フランジ板Fに接触した状態を常に保持する。
【0020】
このことは、フランジ板Fが、図6に例示するように、鋼管Pの中心軸に対して、直角ではなく、斜交して配置されている場合(実際としては、この関係のものがほとんどである。)であっても同様に適用され、切断トーチ9がフランジ板Fに接触した状態を常に保持することは容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例による穴あけ装置を示す概略図である。
【図2】図1に示す穴あけ装置の支持本体部を示す部分図である。
【図3】図1に示す穴あけ装置の回転作業部を示す部分図である。
【図4】図1に示す穴あけ装置におけるコードの動きを説明するための図で、(A)は穴あけ開始(または終了)位置、(B)は回転作業部が半回転回転した位置、(C)は穴あけ終了(または開始)位置におけるコードの状態をそれぞれ示す図である。
【図5】本発明の穴あけ装置が用いられる鋼管構造物の例を示す概略図である。
【図6】図5に示す鋼管構造物におけるフランジ板を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 穴あけ装置 2 支持本体部
3 回転作業部 4 支持アーム
5 作業部回転モータ 6 支持アーム駆動機構
7 支持アーム駆動モータ 8 作業アーム
9 切断トーチ 10 作業アーム開閉機構
11 作業アーム駆動モータ 12 コード
60 ボルト 61 ナット
62 ラック 63 ピニオン
64 圧縮バネ
80 保持部
90 ガイドローラ
100 ボルト 101 ナット
102 ラック 103 ピニオン
104 圧縮バネ
121,122 固定具
C ビデオカメラ F フランジ板
L 照明用LED P 鋼管
W ワイヤ
a 主柱 b,c,d 傾斜角度が異なる部分
e,f 連結部位 g フランジ板
h 主柱の上端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管鉄塔等のような鋼管構造物の鋼管上端から鋼管内部に吊り下げて移動させ、鋼管内を閉鎖したフランジ板等に穴を開けるための穴あけ装置であって、穴あけ装置を鋼管内で固定するための少なくとも1組の開閉脚自在な支持アームを備えた支持本体部と、該支持本体部に設けられた作業部回転モータによって鋼管内周縁に沿った方向へ回転される回転作業部とから構成され、前記回転作業部は、プラズマ切断機の切断トーチと、該切断トーチをその先端に保持する作業アームと、該作業アームを作業アーム駆動モータによって開閉脚する作業アーム開閉機構とを備える、穴あけ装置。
【請求項2】
前記切断トーチに電力を供給するためのコードは、支持本体部と回転作業部とにそれぞれ固定され、該2つの固定位置間におけるコードの長さは、回転作業部が半回転するのに対応できるだけの長さである、請求項1に記載の穴あけ装置。
【請求項3】
前記作業アームは、その先端に切断トーチを作業アームの伸延方向へスライド可能に保持する保持部と、一端を作業アーム開閉機構に連結された基部とから構成され、前記切断トーチはその外周面上にガイドローラを備え、前記作業アーム開閉機構は作業アームを開脚する方向へ弾性的に前進させるための圧縮バネ部材を有する、請求項1または2に記載の穴あけ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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