説明

空気ばね

【課題】デフレート時における水平方向の変位量を大きくとることができ、デフレート状態のままでも長時間走行可能な空気ばねを提供する。
【解決手段】上面板1と、下面板2と、上面板1及び下面板2の間に介装される筒状の可撓部材3と、下面板2から上方に突設され、デフレート時に上面板1を支持するデフレートストッパー部5と、上面板1の下面中央部に形成され、デフレート時にデフレートストッパー部5に着座する凹部7とを備え、可撓部材3の上端部3aが、上面板1において凹部7よりも半径方向外側に取り付けられ、可撓部材3の下端部3bが、下面板2においてデフレートストッパー部5よりも半径方向外側に取り付けられ、デフレートストッパー部5が、デフレート時における上面板1と下面板2との相対的な水平方向の変位によって、可撓部材の上端部3aと下端部3bとが接触しない高さに形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上面板及び下面板の間に筒状の可撓部材を介装した空気ばねに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両等に用いられる空気ばねとしては、車両の車体に取り付けられる上面板と、その下方で車輪側に配置される下面板と、上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、下面板と車輪側の支持フレームとの間に介装される弾性機構(ストッパー)とを備えたものが多用されている。筒状の可撓部材としては、ゴム製のベローズなどが使用される。
【0003】
上記空気ばねにおいては、空気ばねがパンクする、すなわち可撓部材内部の空気が抜ける(デフロートする)場合があり、このような場合であっても、車両の安全走行を確保することが要求される。デフロート時の車両の安全走行を確保できる空気ばねとして、たとえば、特許文献1に開示されているように、上面板と、この上面板に対して接近及び離隔変位可能な可動プレートとの間にストッパゴムを配設した空気ばねが知られている。
【0004】
上記空気ばねの下面板には、断面凸状で環状のビード受部が形成されており、このビード受部の外周側にベローズの下端部(ビード部)が嵌着される。デフレート時には、可動プレートが下面板のビード受部に囲まれた領域に着座するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−222197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両が走行する線路によっては、空気ばねとして、水平方向の変位量の大きい条件下で使用可能なものが要求される場合がある。このような場合、上記構成の空気ばねでは、デフレート時の水平方向の変位量は、可動プレートがビード受部に囲まれた領域内で移動可能な範囲に限定され、その範囲を大きく広げることが困難であるという不都合があった。しかも、近年では、デフロート時における車両の安全走行の確保のみならず、デフレート状態のままでも長時間走行可能な空気ばねが求められるようになってきている。
【0007】
そこで、本発明においては、上記問題に鑑み、デフレート時における水平方向の変位量を大きくとることができ、デフレート状態のままでも長時間走行可能な空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明にかかる空気ばねは、上面板と、下面板と、前記上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板から上方に突設され、デフレート時に前記上面板を支持するデフレートストッパー部と、前記上面板の下面中央部に形成され、デフレート時に前記デフレートストッパー部に着座する凹部とを備え、前記可撓部材の上端部が、前記上面板において前記凹部よりも半径方向外側に取り付けられ、前記可撓部材の下端部が、前記下面板において前記デフレートストッパー部よりも半径方向外側に取り付けられ、前記デフレートストッパー部が、デフレート時における前記上面板と下面板との相対的な水平方向の変位(以下、相対的水平変位と略する)によって、前記可撓部材の上端部と下端部とが接触しない高さに形成されたことを特徴とする。
【0009】
空気ばねにおいては、下面板よりも上面板のほうが大径に形成される。したがって、上記構成のように、デフレートストッパー部を下面板に形成し、デフレートストッパー部よりも大径の凹部を上面板に形成することにより、両者の径の差を大きくして上面板と下面板との相対的水平変位量を大きくすることが可能となる。
【0010】
さらに、デフレート時における上面板と下面板との相対的水平変位によって、可撓部材の上端部と下端部とが接触しないように、デフレートストッパー部の高さを設定することで、デフレートストッパー部と凹部の内周面とが接触した状態で可撓部材の上端部と下端部とを水平方向にオーバーラップさせることが可能となる。
【0011】
すなわち、凹部の径を可撓部材の上端部に近接する位置まで大きく形成することができるとともに、デフレートストッパー部の径を可撓部材の下端部に近接する位置まで大きく形成することが可能となる。これにより、デフレート時におけるデフレートストッパー部と凹部との接触面積を大きくして上面板を安定支持しつつ、水平方向の変位量を大きくすることが可能となる。
【0012】
さらに、デフレートストッパー部の出っ張りを凹部で吸収することが可能となるため、空気ばねに空気を充填した状態で上面板が上下動するのに必要な上面板と下面板との間の隙間を十分に確保することができる。
【0013】
したがって、上面板と下面板との相対的水平変位によって、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが衝突する際に、凹部の深さとデフレートストッパー部の高さを十分にとることで、両者の衝突面積を大きくして、単位面積当たりにかかる衝撃力を緩和することができる。これにより、デフレートストッパー部及び凹部の内周面の変形や破損を防止し、デフレート状態での車両の長時間走行が可能となる。
【0014】
本発明では、上記構成に加えて、凹部の内周面及びデフレート時に前記内周面に相対するデフレートストッパー部の側面のうち、少なくとも一方の面に緩衝層を配することができる。これにより、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが衝突する際の衝撃を緩和して乗り心地性を維持しつつ、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが衝突する際に発する衝突音を小さくすることで乗客の不快感を低減するという緩衝効果を発揮することが可能となる。
【0015】
緩衝層は凹部の内周面及びデフレート時に前記内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面のうち、いずれか一方の面に配してもよいが、両方の面に緩衝層を配することで、デフレートストッパー部及び凹部にかかる衝撃力を2つの緩衝層で緩和することが可能となり、緩衝効果をより高めることができるとともに、緩衝層の劣化を抑制することができる。
【0016】
凹部の内周面及びデフレート時に前記内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面の各面にそれぞれ第一緩衝層及び第二緩衝層を配する場合、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにするのが好ましい。
【0017】
なお、本発明において歪み率(%)とは、最初の緩衝層の層厚をα(mm)、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面との衝突によって緩衝層が緩衝した場合(緩衝層に外力が負荷された場合)に弾性変形した状態の緩衝層の層厚をβ(mm)としたとき、(α−β)×100/αで表わされる数値(%)を意味するものである。また、緩衝層が良好な緩衝効果を発揮するためには、上記歪み率は1%〜25%であるのが好ましく、5%〜15%であるのがより好ましい。
【0018】
また、第一緩衝層の歪み率と第二緩衝層の歪み率とが同等であるためには、具体的に、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率の値が、歪み率の小さい方の値を1としたときに、歪み率の大きい方の値が1.05以下であるのが好ましい。
【0019】
すなわち、第一緩衝層及び第二緩衝層について、同じ緩衝材を使用して同じ層厚になるように形成した場合、凹部の内周面に配された第一緩衝層の周長と、デフレートストッパー部の側面に配された第二緩衝層の周長とでは、第一緩衝層の周長の方が長くなる。従って、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが衝突する際の、第一緩衝層の受圧面積と、第二緩衝層の受圧面積とでは、第一緩衝層の受圧面積の方が大きくなる。
【0020】
そうすると、デフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが衝突する際、第一緩衝層及び第二緩衝層には同じ力が作用するため、単位面積当たりにかかる力は、第二緩衝層の方が大きくなる。その結果、第一緩衝層の歪み率よりも第二緩衝層の歪み率の方が大きくなり、デフレート時にデフレートストッパー部の側面と凹部の内周面とが繰り返して衝突すると、緩衝層の劣化は、歪み率の大きい第二緩衝層の方が第一緩衝層よりも進行が速くなる。
【0021】
第一緩衝層及び第二緩衝層において、両層とも同じ程度で少しずつ劣化が進行する場合と、どちらか一方の層に偏って劣化が進行する場合とでは、前者の方が後者に比べてより長く良好な緩衝効果を維持することが可能となる。
【0022】
したがって、前述のごとく、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率が同等になるようにすることで、空気ばねの良好な緩衝効果をより長く維持することが可能となり、デフレート状態のまま乗り心地性を維持しつつ、より長時間にわたって車両の走行が可能な空気ばねを提供することができる。
【0023】
具体的に、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率が同等になるようにするには、第一緩衝層及び第二緩衝層の層厚が同じ場合は、第一緩衝層の硬さよりも第二緩衝層の硬さを大きくすることによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにすることができる。
【0024】
また、第一緩衝層及び第二緩衝層の硬さが同じ場合には、第二緩衝層の厚みよりも第一緩衝層の厚みを厚くすることによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにすることができる。
【0025】
さらに、第一緩衝層及び第二緩衝層の硬さ及び層厚を調整することによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにすることも可能である。
【0026】
上記構成によれば、第一緩衝層及び第二緩衝層の硬さ、層厚、あるいは、硬さと層厚の両方を調整することによって、両層の歪み率を同等にバランスさせて緩衝効果をより長く維持することが可能となり、デフレート状態のまま乗り心地性を維持しつつ、より長時間にわたって車両の走行が可能な空気ばねを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、下面板において、上面板に向かってデフレートストッパー部を突設し、上面板の下面中央部に、デフレート時にデフレートストッパー部に着座する凹部を形成し、デフレート時における上面板と下面板との相対的水平変位によって、可撓部材の上端部と下端部とが接触しない高さになるようにデフレートストッパー部を形成したため、デフレート時における上面板と下面板との相対的水平変位量を大きくすることができ、さらにデフレート状態のままでも長時間走行可能な空気ばねを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態に係る空気ばね(空気充填状態)の縦断面図
【図2】図1の空気ばねのデフレート状態を示す半部断面図
【図3】第二実施形態に係る空気ばね(空気充填状態)の半部断面図
【図4】図3の空気ばねのデフレート状態を示す半部断面図
【図5】実施例における空気ばねの評価結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第一実施形態]
以下、本発明について図面に基づいて説明する。図1及び図2は、本発明に係る車両用空気ばねの第一実施形態を示す図である。図1は空気ばねの縦断面図であり、空気が充填された状態を示している。図2は図1において空気が抜けた状態(デフレート状態)の空気ばねを示す縦断面図であり、空気ばねの中心線CL1、CL2を中心として半部を示している。なお、図2では上面板と下面板との相対水平変位量が最大の状態を示している。
【0030】
空気ばねは、車両の車体に取り付けられる上面板1と、その下方で車輪側に配置される下面板2と、上面板1及び下面板2の間に介装される筒状の可撓部材3と、下面板2と車輪側の支持フレームとの間に介装されるストッパー4とを備えている。
【0031】
本実施形態では、可撓部材3として、ゴム製のマン型ベローズを使用している。可撓部材3は、スチールコード等の補強コードが埋設された補強ゴム層を中間層とする積層ゴムから構成されており、可撓部材3の上端部3a及び下端部3bにはビードコアに補強ゴム層を巻き付けたビード部が形成されている。
【0032】
図1に示すように、上面板1及び下面板2は、金属材料によって円盤状に形成される。下面板2の中央部には、上面板1に向かって上方に円筒形状のデフレートストッパー部5が形成される。一方、上面板1の下面の中央部には凹部7(深さA)が形成される。デフレート時には、上面板1の凹部7がデフレートストッパー部5の上面に着座する。
【0033】
デフレートストッパー部5の上面には摺動シート6が固着されている。摺動シート6は薄く強靭なシートに成形可能な熱可塑性あるいは熱硬化性合成樹脂からなり、摩擦係数が小さいものが用いられる。具体的には、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。本実施形態ではフッ素樹脂シートを使用している。
【0034】
空気ばねは、図1に示すように、空気が充填された静止状態で、上面板1のセンターラインCL1と下面板2のセンターラインCL2とが一致するように形成される。凹部7の径(内径)は、デフレートストッパー部5の外径よりも大径に形成される。デフレート時において、上面板1と下面板2とは、デフレートストッパー部5が凹部7内で移動可能な範囲で相対的水平変位が可能とされる。
【0035】
いいかえれば、デフレートストッパー部5の側面が凹部7の内周面に接触することで、上面板1と下面板2との相対的水平変位が規制される。デフレートストッパー部5の側面が凹部7の内周面に接触した状態で、上面板1のセンターラインCL1と下面板2のセンターラインCL2とのズレ幅Dが、上面板1と下面板2との最大の相対的水平変位量となる。
【0036】
下面板2において、デフレートストッパー部5よりも半径方向外側にビード受部2aが形成され、このビード受部2aに可撓部材3の下端部3bが嵌着される。また、上面板1の凹部7よりも半径方向外側(フランジ状に張り出した部分)において、可撓部材3の上端部3aがクランプ11によって固定される。
【0037】
図2に示すように、デフレートストッパー部5は、デフレート時における上面板1と下面板2との相対的水平変位によって、デフレートストッパー部5が凹部7の内周面に接触したときに、可撓部材3の上端部3aと下端部3bとが接触しないような高さに形成される。
【0038】
すなわち、本実施形態では、デフレート時にデフレートストッパー部5によって上面板1を安定支持しつつ相対的水平変位量を大きくするために、凹部7の径を可撓部材の上端部3aに近接する位置まで大きく形成し、さらにデフレートストッパー部5の径を可撓部材の下端部3bに近接する位置まで大きく形成している。
【0039】
したがって、デフレート時にデフレートストッパー部5が凹部7の内周面に接触した状態で、可撓部材3の上端部3aと下端部3bとが接触しないような高さにデフレートストッパー部5を形成することによって、可撓部材3の変形や破損を防止することが可能となる。
【0040】
なお、本実施形態では可撓部材3としてマン型ベローズが使用されているため、可撓部材3に合わせて下面板2の径よりも上面板1の径の方がかなり大径に形成される。したがって、凹部7の径をより大径に形成することができ、上面板1と下面板2との相対的水平変位量をより大きくすることが可能となる。
【0041】
凹部7の内周面及びデフレート時に凹部7の内周面に相対するデフレートストッパー部5の側面には、それぞれ第一緩衝層8及び第二緩衝層9が形成される。各緩衝層の構成材料としてはデフレートストッパー部5と凹部7の内周面とが衝突したときの衝撃を緩和するものであればよく、たとえば、ゴムやエラストマー等の弾性体を用いることができる。
【0042】
本実施形態では、第一緩衝層8及び第二緩衝層9について、各層の層厚を一定にした上で、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率の値が、歪み率の小さい方の値を1としたとき、歪み率の大きい方の値が1.05以下になるように緩衝層8,9の硬さを調整している。
【0043】
また、第一緩衝層8及び第二緩衝層9の歪み率を同程度にバランスさせる他の態様として、各層の硬さを一定にした上で、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率の値が、歪み率の小さい方の値を1としたとき、歪み率の大きい方の値が1.05以下になるように緩衝層8,9の層厚を調整することも可能である。
【0044】
さらに別の態様として、第一緩衝層8及び第二緩衝層9について層厚及び硬さをそれぞれ調整して、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率の値が、歪み率の小さい方の値を1としたとき、歪み率の大きい方の値が1.05以下になるようにすることも可能である。
【0045】
[第二実施形態]
本実施形態の空気ばねは、空気を充填した状態で、デフレートストッパー部5が凹部7内に一部オーバーラップLしている点が第一実施形態と異なり、その他の構成は第一実施形態と同じとした。
【0046】
図3及び図4は、空気ばねの第二実施形態を示す図であり、図3は空気が充填された状態の空気ばねの縦断面図であり、図4は図3においてデフレート状態の空気ばねを示す縦断面図である。なお、図3及び図4ともに空気ばねの上面板1の中心線CL1を中心として半部を示している。また、図4では上面板と下面板との相対水平変位量が最大の状態を示している。
【0047】
図3に示すように、本実施形態では、空気ばねに空気が充填された状態で、デフレートストッパー部5が凹部7内に一部オーバーラップLしているため、空気ばねの通常の使用状態において、上面板1と下面板2との相対的水平変位量を規制することが可能となる。
【0048】
本実施形態のように、デフレートストッパー部5を凹部7内にオーバーラップさせる場合には、図4に示すように、凹部7の深さBを第一実施形態の凹部深さAより深くすることで、デフレートストッパー部5と凹部7の間の隙間を十分に確保することができる。また、凹部7の深さとデフレートストッパー部5の高さを十分にとることで、両者の衝突面積を大きくして、単位面積当たりにかかる衝撃力を緩和することが可能となる。
【実施例】
【0049】
上記第一実施形態にて作製した空気ばねについて、実際にデフレート状態で使用した後の第一緩衝層8及び第二緩衝層9の劣化についての評価試験を行った。試験品としては、先ず、第一緩衝層8及び第二緩衝層9の層厚を同じとした上で、第一緩衝層8の硬さ(JIS K6253に規定するタイプAデュロメータ硬さ試験で測定した硬さ、以下同じ)と第二緩衝層9の硬さを調整したものを試験品1及び2とした。
【0050】
具体的には、第一緩衝層8の硬さをA68とし、これを内径572mmの凹部7の内周面に層厚10.00mmになるように形成し、第二緩衝層9の硬さをA72としてこれを外径262mmのデフレートストッパー部5の側面に層厚10.00mmになるように形成し、第一緩衝層8及び第二緩衝層9の歪み率が同じ10.0%になるように調整したものを試験品1とした。
【0051】
なお、本実施例において、歪み率とは、内径572mmの凹部7の内周面に第一緩衝層8を形成し、外径262mmのデフレートストッパー部5の側面に第二緩衝層9を形成した状態で、評価試験前に凹部7の内周面とデフレートストッパー部5の側面とを10kNの力で押しつけ合ったときの各緩衝層の歪み率を意味するものとする。
【0052】
そして、試験品1において、第一緩衝層8の硬さ及び第二緩衝層9の硬さを、A68及びA73に変更し、第一緩衝層8と第二緩衝層9の歪み率比(歪み率の小さい方の値を1としたときに、歪み率の大きい方の値)が1.05になるように調整したものを試験品2とした。
【0053】
次に、第一緩衝層8と第二緩衝層9の硬さを一定にした上で、第一緩衝層8の層厚と第二緩衝層9の層厚を調整したものを試験品3及び4とした。具体的には、第一緩衝層8及び第二緩衝層9の硬さをA68で同じとした上で、第一緩衝層8を層厚10.65mmになるように形成し、第二緩衝層9を層厚10.00mmになるように形成し、第一緩衝層8及び第二緩衝層9の歪み率比が1.00になるように調整したものを試験品3とした。
【0054】
そして、試験品3において、第一緩衝層8の層厚及び第二緩衝層9の層厚を、10.95mm及び10.00mmに変更し、第一緩衝層8と第二緩衝層9の歪み率比が1.05になるように調整したものを試験品4とした。
【0055】
さらに、第一緩衝層8と第二緩衝層9の層厚及び硬さを調整したものを試験品5及び6とした。具体的には、硬さA70の第一緩衝層8を層厚11.00mmになるように形成し、硬さA68の第二緩衝層9を層厚10.00mmになるように形成し、第一緩衝層8と第二緩衝層9の歪み率比が1.00になるように調整したものを試験品5とした。
【0056】
また、第一緩衝層8を硬さA68で層厚10.50mmになるように形成し、上記第二緩衝層9を硬さA71で層厚10.00mmになるように形成し、第一緩衝層8と第二緩衝層9の歪み率比が1.05になるように調整したものを試験品6とした。
【0057】
さらに、第一緩衝層8及び第二緩衝層9において、硬さ及び層厚が同じになるように形成したものを試験品7とした。具体的には、硬さA68の第一緩衝層8を層厚10.00mmになるように形成し、硬さA68の第二緩衝層9を層厚10.00mmになるように形成したものを試験品7とした。
【0058】
上記7種類の空気ばねについて、次に示す条件で評価試験を行った。すなわち、上記各空気ばねについて、上面板の凹部7がデフレートストッパー部5に着座したデフレート状態のまま、下面板2を可動アームに取り付けた。なお、下面板2を可動アームに取り付ける際には、上面板のセンターラインと下面板のセンターラインが一致するようにし、上面板1は左右方向に動かないように固定した。
【0059】
この状態で、可動アームを左右方向に繰り返し変位させた(振動数1Hzで5万サイクル)。これにより、凹部7の内周面とデフレートストッパー部5の側面とを左右方向において繰り返し衝突させた。なお、凹部7の内周面とデフレートストッパー部5の側面とが衝突する際の衝撃力が10kNになるように可動アームの変位を調節した。試験終了後に第一緩衝層8及び第二緩衝層9が互いに衝突した部分の層厚を測定し、試験前の層厚からの層厚変化量(層厚減少量)及び試験前の層厚に対する層厚変化量の割合(層厚変化率)を求めた。
【0060】
すなわち、緩衝層に繰り返し外力が加わって緩衝層が劣化すると、層厚が減少する、いわゆるヘタリが生じて緩衝効果が低下する。層厚変化量は、緩衝層の劣化の程度に応じて大きくなる。従って、第一緩衝層の層厚変化率と第二緩衝層の層厚変化率を比較することで第一緩衝層と第二緩衝層との間でどのように劣化が進んでいるかを判断することができる。
【0061】
具体的には、層厚変化率比(第一緩衝層及び第二緩衝層の層厚変化率のうち、大きい方の値を小さい方の値で割った比)が1に近づくほど、両層は均等に少しずつ劣化していることを意味し、層厚変化率比が1よりも大きくなるほど、一方の層が偏って劣化していることを意味する。
【0062】
評価結果を図5に示す。図5より、歪み率比(第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率のうち、大きい方の値を小さい方の値で割った比)が1.05以下である試験品1〜6は、いずれも層厚変化率比が1に近似する値となり、第一緩衝層及び第二緩衝層が少しずつ均等に劣化することが確認された。
【0063】
これに対して、試験品7は、硬さ調整及び層厚調整のいずれも行わなかったため、第一緩衝層及び第二緩衝層の歪み率の値に差が生じ、歪み率比が1.11と大きくなった。その結果、層厚変化率比が1.16と大きくなり、試験品1〜6よりも一方の緩衝層に偏って劣化することが確認された。
【0064】
以上より、第一緩衝層の歪み率と、第二緩衝層の歪み率とが同等になるように緩衝層の層厚及び/又は硬さを調整することにより、緩衝層の層厚及び層厚を調整しなかったものよりもさらに長く良好な緩衝効果を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1 上面板
2 下面板
3 可撓部材
4 ストッパー
5 デフレートストッパー部
6 摺動シート
7 凹部
8 第一緩衝層
9 第二緩衝層
11 クランプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面板と、下面板と、前記上面板及び下面板の間に介装される筒状の可撓部材と、前記下面板から上方に突設され、デフレート時に前記上面板を支持するデフレートストッパー部と、前記上面板の下面中央部に形成され、デフレート時に前記デフレートストッパー部に着座する凹部とを備え、前記可撓部材の上端部が、前記上面板において前記凹部よりも半径方向外側に取り付けられ、前記可撓部材の下端部が、前記下面板において前記デフレートストッパー部よりも半径方向外側に取り付けられ、前記デフレートストッパー部が、デフレート時における前記上面板と下面板との相対的な水平方向の変位によって、前記可撓部材の上端部と下端部とが接触しない高さに形成されたことを特徴とする空気ばね。
【請求項2】
前記凹部の内周面及びデフレート時に前記凹部の内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面のうち、少なくとも一方の面に緩衝層を配したことを特徴とする請求項1記載の空気ばね。
【請求項3】
前記凹部の内周面に第一緩衝層が配され、デフレート時に前記凹部の内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面に、前記第一緩衝層と同じ層厚の第二緩衝層が配され、前記第一緩衝層の硬さよりも第二緩衝層の硬さを大きくすることによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにしたことを特徴とする請求項2記載の空気ばね。
【請求項4】
前記凹部の内周面に第一緩衝層が配され、デフレート時に前記凹部の内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面に、前記第一緩衝層と同じ硬さの第二緩衝層が配され、前記第二緩衝層の厚みよりも第一緩衝層の厚みを厚くすることによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにしたことを特徴とする請求項2記載の空気ばね。
【請求項5】
前記凹部の内周面に第一緩衝層が配され、デフレート時に前記凹部の内周面に相対する前記デフレートストッパー部の側面に第二緩衝層が配され、前記第一緩衝層及び第二緩衝層の硬さ及び層厚を調整することによって、デフレート時に第一緩衝層と第二緩衝層とが衝突したときの両層の歪み率が同等になるようにしたことを特徴とする請求項2記載の空気ばね。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−57646(P2012−57646A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198688(P2010−198688)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】