説明

空気入りタイヤ用インナーライナー

【課題】疲労による空気遮断性の低下が少なく、かつ作製が容易な、空気入りタイヤ用インナーライナーを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤ用インナーライナーは、30℃における空気透過係数が25×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下の熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム片をゴム100質量部に対し0.02質量部以上15質量部未満の範囲で配合したゴム組成物からなる。使用するフィルム片は、平均主面面積S(μm)と平均厚さG(μm)との比Aが10〜2.5×10であり、平均厚さが0.1μm以上、インナーライナーの厚さの0.1倍以下であり、平均最大長さがインナーライナーの厚さの0.001倍以上3倍以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用インナーライナーおよびそのインナーライナーを有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ用のインナーライナーとして、古くから、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムからなるブチルゴムインナーライナーが用いられている。さらに、ブチルゴムインナーライナーの空気遮断性を改善するために、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムに、デンプン/可塑剤複合材料を配合したもの(特許文献1)、エチレン−ビニルアルコール共重合体を配合したもの(特許文献2)、層状または板状鉱物を配合したもの(特許文献3、特許文献4)が知られている。また、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムよりも空気遮断性の高い樹脂のフィルムまたはその積層体からなる樹脂フィルムインナーライナーも知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−113908号公報
【特許文献2】特開2007−291256号公報
【特許文献3】特開2002−88191号公報
【特許文献4】特開2002−88208号公報
【特許文献5】特開2003−200706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂フィルムインナーライナーは、ブチルゴムインナーライナーよりも空気遮断性が高いが、繰返し変形により空気遮断性が低下し、また接着剤や接着ゴムが必要で作製に手間がかかる。
本発明は、作製が容易で空気遮断性が高く、疲労による空気遮断性の低下が少ないインナーライナーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、30℃における空気透過係数が25×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下の熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム片が、ゴム100質量部に対し0.02質量部以上15質量部未満の範囲で配合されたゴム組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナーである。
【0006】
好ましくは、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム片の平均主面面積S(μm)と平均厚さG(μm)との比Aが10〜2.5×10である。
好ましくは、インナーライナーの厚さをt(μm)としたとき、熱可塑性樹脂のフィルム片の平均厚さG(μm)が次式
0.1≦G≦0.1t
の範囲である。
好ましくは、インナーライナーの厚さをt(μm)としたとき、熱可塑性樹脂のフィルム片の平均最大長さL(μm)が次式
0.001t≦L≦3t
の範囲である。
【0007】
好ましくは、熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
より好ましくは、熱可塑性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分とを含む。
好ましくは、熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分が、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0008】
本件第2発明は、前記のインナーライナーを有する空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物の小片化フィルムを配合したゴムインナーライナーであり、フィルムをあらかじめ小片化してあることで、フィルムに負荷がかかりにくく、疲労による空気遮断性の低下が少ない。また、作製に接着剤や接着ゴムが不要であり、かつ小片化したフィルムを配合して混合するだけなので、作製が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、ゴムに熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物のフィルム片が配合されたゴム組成物からなる。
「熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物」を、以下、単に「熱可塑性エラストマー組成物」ともいう。
【0011】
ここで、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のフィルム片とは、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の平板状の小片をいい、その調製方法は、限定するものではないが、たとえば熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のフィルムを細かく切断したり、冷凍破砕することにより、得ることができる。なお、これらのフィルムの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法により製造することができ、たとえば、Tダイ押出成形装置やインフレーション成形装置を用いて製造することができる。
【0012】
フィルム片は、好ましくは、平均主面面積S(μm)と平均厚さG(μm)との比Aが10〜2.5×10であるものであり、より好ましくは、平均主面面積S(μm)と平均厚さG(μm)との比Aが100〜5.0×10であるものである。ここで、主面とは、フィルム片の外形を画定する面のうち最も面積の大きい面をいい、一般的には、厚さ方向に垂直な面である。平均主面面積は、少なくとも10個のフィルム片の顕微鏡写真を撮影し、その写真を画像解析して主面面積を算出し、数平均をとることによって、求めることができる。比Aが小さすぎると、空気遮断性改善の効果が少ない。逆に、比Aが大きすぎると、インナーライナーが破断しやすくなったり、繰返し変形により空気遮断性が減少してしまう。フィルム片の主面の形状は、限定されず、いかなる形状であってもよい。
【0013】
フィルム片の平均厚さは、好ましくは、0.1μm以上、インナーライナーの厚さの10分の1以下である。すなわち、インナーライナーの厚さ(μm)をtで表したとき、フィルム片の平均厚さG(μm)は、次式の範囲であることが好ましい。
0.1≦G≦0.1t
より好ましくは、次式の範囲である。
1≦G≦0.05t
フィルム片の平均厚さが小さすぎると空気遮断性改善の効果が小さく、逆に大きすぎるとフィルム片の配合量が多い場合、ゴム組成物をシート状に成形することが困難になり、インナーライナーを作製できたとしても、作製されたインナーライナーは破断しやすい。
【0014】
フィルム片の平均最大長さは、好ましくは、インナーライナーの厚さの0.001倍以上、インナーライナーの厚さの3倍以下である。すなわち、フィルム片の平均最大長さL(μm)は、次式の範囲であることが好ましい。
0.001t≦L≦3t
より好ましくは、次式の範囲である。
0.01t≦L≦t
ここで、フィルム片の最大長さとは、フィルム片の主面の輪郭上の2点を結ぶ線分のうち最も長い線分の長さをいう。平均最大長さは、少なくとも10個のフィルム片の最大長さを測定し、数平均をとることによって、求めることができる。
フィルム片の平均最大長さが小さすぎると空気遮断性改善の効果が少なく、逆に大きすぎるとインナーライナーが破断しやすくなる。
【0015】
インナーライナーの厚さtは、好ましくは0.1〜5.0mmであり、より好ましくは0.2〜4.0mmである。インナーライナーの厚さが薄すぎると十分な空気遮断性が得られないことや、圧延時の加工性が悪いなどの問題があり、逆に厚すぎるとタイヤ重量が大きくなり、自動車燃費が悪化する。
【0016】
フィルム片を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、30℃における空気透過係数が25×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下のもの、好ましくは0.001×10−12〜20×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgのものである。空気透過係数が大きすぎると、空気遮断性改善の効果が少ない。
【0017】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物の空気透過係数は、フィルムに成形した後、JIS K7126によって測定する。
【0018】
空気透過係数が前記の数値範囲内にある限り、熱可塑性樹脂の種類は問わないが、好ましい熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体等のハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6T、ならびにそれらの2種以上の混合物が挙げられる。より好ましい熱可塑性樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分との混合物である。
【0019】
空気透過係数が前記の数値範囲内にある限り、熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分およびエラストマー成分の種類は問わないが、好ましい熱可塑性樹脂成分としては前記の熱可塑性樹脂と同一のものが挙げられ、好ましいエラストマー成分としては、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体が挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含むことができる。
【0021】
本発明に用いられるゴムとしては、ジエン系ゴムおよびその水添物、オレフィン系ゴム、含ハロゲンゴム、シリコーンゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。ジエン系ゴムおよびその水添物としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等が挙げられる。オレフィン系ゴムとしては、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(変性EEA)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等が挙げられる。含ハロゲンゴムとしては、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)や塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)等のハロゲン化ブチルゴム、臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体(BIMS)、ハロゲン化イソブチレン−イソプレン共重合ゴム、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。シリコーンゴムとしては、メチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。含イオウゴムとしては、ポリスルフィドゴム等が挙げられる。フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコーン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等が挙げられる。なかでも、空気遮断性の観点から、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムが好ましく、臭素化ブチルゴムがより好ましい。ゴムは、2種以上のゴムの混合物であってもよい。
【0022】
熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物のフィルム片の配合比率は、ゴム100質量部に対し、フィルム片が0.02質量部以上15質量部未満であり、好ましくは0.2〜10質量部である。フィルム片の配合比率が少なすぎると、空気遮断性改善の効果が少ない。逆に、フィルム片の配合比率が多すぎると、ゴム組成物をシート状に成形することが困難になり、インナーライナーを作製できたとしても、作製されたインナーライナーは破断しやい。
【0023】
インナーライナーを構成するゴム組成物は、ゴムおよびフィルム片以外に、補強剤(フィラー)、加硫剤(架橋剤)、加硫促進助剤、加硫促進剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を含むことができる。
【0024】
本発明のインナーライナーは、ゴム組成物を任意の成形手段によりシート状に成形することにより製造することができる。たとえば、ゴム組成物を、圧延装置によりシート状に圧延して、製造することができる。
【0025】
本発明の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、本発明のインナーライナーを用いて空気入りタイヤを製造するときは、タイヤ成形用ドラム上に、インナーライナーを置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0026】
(1)熱可塑性樹脂フィルムおよび熱可塑性エラストマー組成物フィルムの作製
(E1フィルム)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製エバール(登録商標)E171B)を、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、直径610mmにブロー成形し、厚さ10μmのフィルムを作製した。このフィルムを「E1フィルム」という。E1フィルムの空気透過係数を測定したところ、0.005×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
(E2フィルム)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製エバール(登録商標)L171B)を、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、直径610mmにブロー成形し、厚さ2μmのフィルムを作製した。このフィルムを「E2フィルム」という。E2フィルムの空気透過係数を測定したところ、0.01×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
(E3フィルム)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(株式会社クラレ製エバール(登録商標)L171B)を、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、直径610mmにブロー成形し、厚さ20μmのフィルムを作製した。このフィルムを「E3フィルム」という。E3フィルムの空気透過係数を測定したところ、0.005×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
(Y1フィルム)
臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体(エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製Exxpro(登録商標)MDX89−4)100質量部、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製亜鉛華3種)0.5質量部、ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸)0.2質量部、およびステアリン酸亜鉛(堺化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛)1質量部を、密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。得られたゴムコンパウンドのペレット101.7質量部、ナイロン6/66(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B)100質量部および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井・デュポンケミカル株式会社製HPRAR201)10質量部を2軸混練機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、直径610mmにブロー成形し、厚さ110μmのフィルムを作製した。このフィルムを「Y1フィルム」という。Y1フィルムの空気透過係数を測定したところ、20×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
(Y2フィルム)
臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体(エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)製Exxpro(登録商標)MDX89−4)100質量部、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製亜鉛華3種)0.5質量部、ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸)0.2質量部、およびステアリン酸亜鉛(堺化学工業株式会社製ステアリン酸亜鉛)1質量部を、密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。得られたゴムコンパウンドのペレット101.7質量部、ナイロン6/66(宇部興産株式会社製「UBEナイロン」5033B)90質量部および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体(三井・デュポンケミカル株式会社製HPRAR201)10質量部を2軸混練機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、インフレーション成形装置にてチューブ状に押し出し、直径610mmにブロー成形し、厚さ2μmのフィルムを作製した。このフィルムを「Y2フィルム」という。Y2フィルムの空気透過係数を測定したところ、25×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
【0027】
(2)フィルム片の作製
上記(1)で作製したフィルムを冷凍破砕し、破砕品を分級機を使用して分級し、平均主面面積の異なるフィルム片を作製した。得られたフィルム片の平均主面面積および平均最大長さを、表1に示す。
【0028】
(3)ゴム組成物の調製
臭素化ブチルゴム(日本ブチル株式会社製EXXON BROMOBUTYL 2255)80質量部、天然ゴム(TECK BEE HANG社製STR−20)20質量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社製ダイアブラック(登録商標)G)60質量部、酸化亜鉛(正同化学工業株式会社製亜鉛華3種)3質量部、ステアリン酸(日油株式会社製ビーズステアリン酸)0.5質量部、硫黄(細井化学工業株式会社製油処理イオウ)1質量部、および加硫促進剤(三新化学工業株式会社製サンセラーDM−PO)1質量部をバンバリーミキサー(神戸製鋼所製)に投入し、130℃で3分間混練し、ゴムベースコンパウンドを調製した。このゴムベースコンパウンドの空気透過係数を測定したところ、30℃において115×10−12cm・cm/cm・sec・cmHgであった。
調製したゴムベースコンパウンド165.5質量部に、上記(2)で作製したフィルム片またはエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH樹脂」ともいう。)(株式会社クラレ製エバール(登録商標)L171B)を表1に示す量(質量部)で配合してバンバリーミキサー(神戸製鋼所製)に投入し、130℃で3分間混練し、ゴム組成物を調製した。
【0029】
(4)インナーライナー用シートの作製
上記(3)で調製したゴム組成物を、圧延装置を用いて、1mmまたは3mmの厚さのシートに押出成形し、インナーライナー用シートを作製した。作製したインナーライナー用シートの厚さを表1に示す。
【0030】
(5)評価
上記(4)で作製したインナーライナー用シートについて、初期および疲労後の空気遮断性を評価した。評価結果を表1に示す。なお、空気遮断性の評価方法は、次のとおりである。
【0031】
[空気遮断性]
インナーライナー用シートから、試験片を切り出し、その試験片の空気透過度をJIS K7126に従って測定し、10−12cm/cm・sec・cmHgで表わした空気透過度の値が、90未満のときは◎、90以上100未満のときは○、100以上110未満のときは△、110以上のときは×とした。
ここで、疲労後の空気遮断性とは、試験片に、25℃で定歪試験機により40%歪の変形を100万回繰返し与えた後に測定した空気遮断性をいい、初期の空気遮断性とは、定歪繰返し変形を与える前に測定した空気遮断性をいう。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例1は、フィルムの初期バリア性は高いが、繰返し変形の影響を比較的受けやすいエチレン−ビニルアルコール共重合体のため、インナーライナーの初期空気遮断性は◎だが、疲労後空気遮断性は○であった。
実施例2は、フィルムのバリア性がそこまで高くないので、インナーライナーの初期空気遮断性が◎にはならないが、繰返し変形による空気遮断性の悪化はなかった。
実施例3は、繰返し変形により遮断性が悪化する樹脂フィルムで、かつフィルム片が比較的大きい(Lが大、Aがやや大)ため、その影響を受けやすく、疲労後空気遮断性は△であった。
実施例4は、最も好ましい態様であり、初期空気遮断性も疲労後空気遮断性も◎であった。
実施例5は、フィルム片のAが小さいため、空気遮断性改善の効果は実施例4に比べ小さかった。
実施例6は、フィルム片の空気遮断性が小さいので、他の実施例に比べると、インナーライナーの空気遮断性改善の効果は小さいが、比較例3に比べ改善されている。
比較例1は、フィルム片の配合量が少なすぎ、空気遮断性改善の効果はなかった。
比較例2は、フィルムの片の配合量が多すぎるため、かつフィルム片の平均最大長さLが大きすぎるため、インナーライナーに成形することが困難であった。
比較例3は、フィルム片ではなく、樹脂(エチレン−ビニルアルコール共重合体)ペレットを配合した仕様で、実施例に比べ空気遮断性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のインナーライナーは、空気入りタイヤの製造に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30℃における空気透過係数が25×10−12cm・cm/cm・sec・cmHg以下の熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム片が、ゴム100質量部に対し0.02質量部以上15質量部未満の範囲で配合されたゴム組成物からなる空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂成分中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム片の平均主面面積S(μm)と平均厚さG(μm)との比Aが10〜2.5×10であることを特徴とする請求項1に記載のインナーライナー。
【請求項3】
インナーライナーの厚さをt(μm)としたとき、熱可塑性樹脂のフィルム片の平均厚さG(μm)が次式
0.1≦G≦0.1t
の範囲であることを特徴とする請求項1または2に記載のインナーライナー。
【請求項4】
インナーライナーの厚さをt(μm)としたとき、熱可塑性樹脂のフィルム片の平均最大長さL(μm)が次式
0.001t≦L≦3t
の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のインナーライナー。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインナーライナー。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が、エチレン−ビニルアルコール共重合体と、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種のナイロン成分とを含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインナーライナー。
【請求項7】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する熱可塑性樹脂成分が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロンMXD6、およびナイロン6Tからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、熱可塑性エラストマー組成物を構成するエラストマー成分が臭素化イソブチレン−p−メチルスチレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、および無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインナーライナー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のインナーライナーを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−76679(P2012−76679A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225683(P2010−225683)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】