説明

空気入りタイヤ用ゴム組成物

【課題】簡易な組成物の調製により、弾性率および低発熱性を改善せしめ、タイヤのスチールコード被覆用ゴム組成物などとして好適に用いられる空気入りタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部当り、瀝青炭粉砕物10〜30重量部、カーボンブラック30〜70重量部および有機金属塩を金属含有量として0.05〜0.5重量部配合してなる空気入りタイヤ用ゴム組成物。この空気入りタイヤ用ゴム組成物は、従来品と比べて弾性率および低発熱性が改善されており、またその調製が簡易であるため、タイヤ用ゴム組成物、特にタイヤのスチールコード被覆用ゴムまたはスチールコード被覆ゴムに隣接したゴム部材に用いられるゴム組成物などとして好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、タイヤのスチールコード被覆用ゴム材料などとして好適に用いられる空気入りタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤには強い衝撃や大きな荷重がかかるため、補強材としてスチールコードが用いられている。かかるスチールコードを被覆するゴムは、走行中にタイヤが発熱することによる劣化と、衝撃あるいは荷重による劣化によって、ゴムとスチールコードとが剥離し、タイヤ故障の原因となる。従って、スチールコードの被覆に用いられるゴムの熱による劣化を防止するとともに、衝撃等によるゴム製品の変形量を小さくすることが必要であり、そのためにはスチールコード被覆用ゴム組成物の高弾性化が求められる。
【0003】
従来、ゴム組成物を高弾性化する方法としては、カーボンブラック、硫黄などの加硫剤あるいは加硫促進剤を増量して、架橋密度を高くする方法が用いられている。しかしながら、これらの方法はゴム組成物の高弾性化を可能にするものの、カーボンブラックを増量した場合には、発熱量の増加や未加硫時の粘度上昇による作業性の悪化をもたらし、硫黄を増量した場合には、熱酸化による劣化がみられ、かえってゴム製品の寿命を短くする場合があった。
【0004】
ここで、ゴム組成物の高弾性化と低発熱性を達成することを目的として、天然ゴム、合成ゴム又はこれらの混合ゴムからなるゴム100重量部に対し、キシレノール(A)と、フェノール、クレゾール又はこれらの混合物からなるフェノール類(B)とを、そのモル比(A/B)が25/75〜75/25の範囲で、アルデヒド化合物を用いて共縮合した、軟化点が90〜150℃のノボラック樹脂0.5〜10重量部と、加熱時メチレン基を供与しうる化合物0.5〜10重量部を配合してなるゴム組成物が提案されている。しかるに、かかる組成物は特殊な樹脂を必須の要件としているため、組成物の調製が煩雑であった。
【特許文献1】特開平5−156091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、簡易な組成物の調製により、弾性率および低発熱性を改善せしめ、タイヤのスチールコード被覆用ゴム組成物などとして好適に用いられる空気入りタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ジエン系ゴム100重量部当り、瀝青炭粉砕物10〜30重量部、カーボンブラック30〜70重量部および有機金属塩を金属含有量として0.05〜0.5重量部配合してなる空気入りタイヤ用ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る空気入りタイヤ用ゴム組成物は、従来品と比べて弾性率および低発熱性が改善されており、またその調製が簡易であるため、タイヤ用ゴム組成物、特にタイヤのスチールコード被覆用ゴムまたはスチールコード被覆ゴムに隣接したゴム部材に用いられるゴム組成物などとして好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が単独であるいはブレンドゴムとして用いられ、好ましくはNR、BRまたはこれらのブレンドゴムが用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0009】
粘結炭または非粘結炭である瀝青炭粉砕物は、石炭の一種で高品位炭と呼ばれる瀝青炭(JIS M1002の石炭分類でB1、B2、C)を含む石炭一般を、平均粒径(ASTM D1511準拠;average 測定機Microtrac SRA 150を用いて測定)約0.01〜100μm、好ましくは約0.05〜50μmに粉砕したものであり、その比重が1.6以下、好ましくは1.35以下のものが用いられる。
【0010】
瀝青炭粉砕物は、ジエン系ゴム100重量部当り10〜30重量部、好ましくは15〜25重量部の割合で用いられる。瀝青炭粉砕物がこれより少ない割合で用いられると、弾性率が低下するようになり、一方これより多い割合で用いられると、発熱量が増加するようになる。
【0011】
また、カーボンブラックとしては、HAF、FEF、GPF等のグレードのカーボンブラックが、ジエン系ゴム100重量部当り30〜70重量部、好ましくは40〜60重量部の割合で用いられる。カーボンブラックがこれより少ない割合で用いられると、弾性率が低下するようになり、一方これより多い割合で用いられると発熱量が増加するようになり好ましくない。
【0012】
有機金属塩としては、コバルト、ニッケルなどを金属として含有する有機金属塩、例えばナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、パルミチン酸、ネオデカン酸、ロジン酸、トール油酸、ホウ酸三ネオデカン酸などのコバルト塩またはニッケル塩が、ジエン系ゴム100重量部当り、金属含有量として0.05〜0.5重量部、好ましくは0.1〜0.3重量部の割合で用いられる。有機金属塩がこれ以外の割合で用いられると、弾性率および低発熱性の改善効果がみられなくなる。
【0013】
以上の各成分を必須成分とするジエン系ゴム組成物中には、ゴムの配合剤として一般的に用いられている配合剤、例えばジエン系ゴムの種類に応じて硫黄等の加硫剤、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系等の加硫促進剤、タルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸、パラフィンワックス、アロマオイル等の加工助剤、酸化亜鉛、老化防止剤、可塑剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0014】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、カレンダーロールによりスチールコード表面に圧着されることなどにより、帯状部材のスチール・ゴム複合体が形成される。かかるタイヤ用ゴム組成物は、カーカスまたはベルトなどの部材に用いられるスチールコードの被覆用ゴムのほか、高弾性、低発熱性が求められる空気入りタイヤ内の部位、例えばスチールコード被覆ゴムに隣接した部材、具体的にはベルトエッジテープ、ベルトエッジクッションなどの形成にも用いることができる。
【実施例】
【0015】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0016】
実施例1
天然ゴム(RSS♯3) 100重量部
HAFカーボンブラック(東海カーボン製品シースト300) 50 〃
瀝青炭粉砕物(Coal Fillers Incorporated社製品Austin Black 325; 20 〃
平均粒径5.50μm、比重1.31)
ネオデカン酸オルトホウ酸コバルト 1 〃
(ローディア社製品マノボンド:コバルト含有率22%)
酸化亜鉛(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 7 〃
硫黄(フレキシス製品クリステックスHS OT 20;硫黄分80%) 5 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーDS) 1 〃
【0017】
以上の各成分の内、加硫促進剤と硫黄を除く各成分を16L密閉型ミキサで6分間混練し、110℃に達したとき放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄を加え、オープンロールで混練し、ジエン系ゴム組成物を得た。
【0018】
実施例2
実施例1において、HAFカーボンブラック量が55重量部に、また瀝青炭粉砕物量が10重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0019】
実施例3
実施例1において、HAFカーボンブラック量が40重量部に、また瀝青炭粉砕物量が30重量部にそれぞれ変更されて用いられた。
【0020】
実施例4
実施例1において、天然ゴム量が90重量部に変更され、ブタジエン共重合ゴム(日本ゼオン製品NIPOL BR 1220)10重量部とのブレンドゴムとして用いられた。
【0021】
実施例5
実施例1において、天然ゴム量が90重量部に変更され、さらにシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンで変性したシス‐1,4‐ポリブタジエン(ビニルシスラバー)(宇部興産製品UBEPOL-VCR412)10重量部とのブレンドゴムとして用いられた。
【0022】
比較例1(標準例)
実施例1において、瀝青炭粉砕物が用いられず、HAFカーボンブラック量が60重量部に変更されて用いられた。
【0023】
比較例2
実施例1において、瀝青炭粉砕物が用いられなかった。
【0024】
比較例3
実施例1において、ネオデカン酸オルトホウ酸コバルト量が0.2重量部に変更されて用いられた。
【0025】
比較例4
実施例1において、ネオデカン酸オルトホウ酸コバルト量が3重量部に変更されて用いられた。
【0026】
以上の実施例および各比較例で得られたジエン系ゴム組成物を160℃で30分間加硫して加硫ゴムシート(15×15×0.2cm)を得、得られた加硫ゴムシートについて、弾性率(100%モジュラス)および発熱性の測定を行った。
弾性率:JIS K6251準拠、標準例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程、弾性率が高いことを示している)
発熱性:JIS K6255準拠、標準例で得られた値を100とする指数で示した
(この値が大きい程、低発熱であることを示している)
【0027】
得られた結果は、次の表に示される。

測定 実 施 例 比 較 例
項目
弾性率 110 113 103 105 108 100 91 98 102
発熱性 110 103 120 115 113 100 113 100 97
【0028】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例では、弾性率および低発熱性ともに良好である。
(2) 標準例である比較例1と比較して、カーボンブラックが規定量内であっても、瀝青炭粉砕物が配合されないと弾性率が低くなる(比較例2)。
(3) 有機金属塩が規定量以下になると、弾性率および低発熱性のいずれの改善もみられない (比較例3)。
(4) 有機金属塩が規定量以上になると、低発熱性の改善がみられない(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部当り、瀝青炭粉砕物10〜30重量部、カーボンブラック30〜70重量部および有機金属塩を金属含有量として0.05〜0.5重量部配合してなる空気入りタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
有機金属塩が有機コバルト塩または有機ニッケル塩である請求項1記載の空気入りタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
スチールコード被覆用ゴム材料またはスチールコード被覆ゴムに隣接した部材のゴム材料として用いられる請求項1記載の空気入りタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3記載のジエン系ゴム組成物で被覆されたスチールコード被覆部またはスチールコード被覆ゴムに隣接したゴム部材を有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2009−161650(P2009−161650A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272(P2008−272)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】