説明

空気入りタイヤ

【課題】ポリケトン繊維を用いてすだれ織物とした補強材をタイヤに適用することにより、タイヤの重量増加を招くことなく、耐カット性、低転がり抵抗性等の諸性能の確実な向上を実現した空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】クラウン部から両バットレス部3および両サイドウォール部2を順次経て両ビード部1に延び、該ビード部1に係留された、略ラジアル方向に配列したコード層よりなるカーカスプライ5を備える空気入りタイヤである。カーカスプライコード5が、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上含み、ディップ処理済みコードとしての最大熱収縮応力が0.1〜1.8cN/dtexの範囲内、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が1%〜5%の範囲内であり、カーカスプライ5が略ラジアル方向に配列した前記カーカスプライコードと交差する緯糸を含み、バットレス部3における前記カーカスプライ5が、L≦0.25rを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、骨格をなすカーカスプライの改良に係る空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一般に、左右一対のビード部に設けられたビードコアと、略ラジアル方向に配列したコード層よりなり、クラウン部から両サイド部を経て両ビード部に延び、ビード部に係留されるカーカスプライと、そのクラウン部ラジアル方向外側に配置されたベルトおよびトレッドとを備えている。
【0003】
このうちタイヤの骨格をなすカーカスプライに用いる補強コードとしては、従来より、レーヨンやナイロン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)など種々のものが検討され、使用されてきている。また、最近では、これら従来の有機繊維材料に代わる材料として、一酸化炭素とエチレン、プロペンなどのオレフィンをパラジウムやニッケルを触媒として重合させて得られる、一酸化炭素とオレフィンが実質完全に交互共重合した脂肪族ポリケトンを繊維化して、これをコード材料として用いることについても検討が行われている。ポリケトン繊維は、従来のポリオレフィン繊維に比べて融点が高く、また高強度および高弾性率を有することが知られており、この優れた物性を活かして産業資材用途、特にタイヤやベルト、ホース等のゴム補強材料として展開が期待されている。
【0004】
かかるポリケトン繊維を用いた補強材に関して、例えば、特許文献1には、経糸と緯糸とから構成されたすだれ織物において、経糸を構成する繊維の50質量%以上をポリケトン繊維として、経糸と緯糸との繊維−繊維間静止摩擦係数(μs)を0.2以上としたすだれ織物が開示されている。
【特許文献1】特開2003−49339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリケトン繊維を用いてすだれ織物とした従来の補強コードないし補強材をタイヤに適用しても、必ずしも十分な性能の向上が望めないのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ポリケトン繊維を用いてすだれ織物とした補強材をタイヤに適用することにより、タイヤの重量増加を招くことなく、耐カット性、低転がり抵抗性等の諸性能の確実な向上を実現した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリケトン繊維を用いたすだれ織物には以下のような問題があること突き止めた。
(イ)高強度および高弾性率を有するポリケトン繊維自体、およびそれを用いたポリケトン繊維からなるコードは熱収縮応力が高く、すだれ織物に製織後の熱収縮によってすだれ織物が歪んで平坦性が損なわれる。
(ロ)高強度および高弾性率を有するポリケトン繊維およびポリケトン繊維からなるコードは、すだれ織物としてゴム引きされたあとタイヤ製造時の加熱により、ポリケトン繊維の収縮に起因したカーカスコード配列の乱れが生じ、タイヤのユニフォミティを悪化させる。
【0008】
これら問題は、先行技術ではまったく触れられておらず、よって、本発明者らは、かかる問題を解決し、さらには高性能で高品位のすだれ織物を製造し、これをタイヤのカーカスプライに適用すべく鋭意検討した結果、前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の空気入りタイヤは、クラウン部から両バットレス部および両サイドウォール部を順次経て両ビード部に延び、該ビード部に係留された、略ラジアル方向に配列したコード層よりなるカーカスプライを備える空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスプライのコードが、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上含み、ディップ処理済みコードとしての最大熱収縮応力が0.1〜1.8cN/dtexの範囲内、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が1%〜5%の範囲内であり、
前記カーカスプライが略ラジアル方向に配列した前記カーカスプライコードと交差する緯糸を含み、前記バットレス部における前記カーカスプライが下記式、
L≦0.25r
(式中、rはカーカスプライコードの直径(mm)、Lは隣接する3本のカーカスプライコードの断面中心のうち、両端のカーカスプライコードの断面中心を結ぶ線上に、当該両端間のカーカスプライコード断面中心から下ろした垂線の長さ)を満たすことを特徴とするものである。
【0010】
本発明に空気入りタイヤにおいては、前記カーカスプライが1枚で形成され、前記カーカスプライコードが繊維原糸に撚りを加え、ディップ処理を施したコードであることが好ましい。また、前記緯糸がタイヤ周方向の複数箇所でほぼ一定間隔にて切断されていることが好ましく、その切断ピッチは5〜30mmの範囲内にあることが好ましい。さらに、前記カーカスプライコードが、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、該下撚り糸複数本を引き揃えて下撚りと逆方向に、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなり、前記下撚り係数N1と前記上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足することが好ましい。
N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 ・・・(1)
N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 ・・・(2)
0.81<N2/N1≦√(D2/D1) ・・・(3)
0.3≦N2≦0.9 ・・・(4)
(式中、n1は下撚り数(回/10cm)、n2は上撚り数(回/10cm)、D1は下撚り糸の表示デシテックス数、D2はトータル表示デシテックス数、ρは繊維原糸の比重(g/cm)である)
【0011】
また、本発明の空気入りタイヤにおいては、前記カーカスプライが、ディップ処理後のコード打ち込みピッチ50〜130本/100mmとして製織され、かつ、互いに略平行な前記緯糸間の距離が5〜50mmであることが好ましい。さらに、前記カーカスプライを形成する繊維コードに含まれるポリケトン繊維として、引っ張り強度が10cN/dtex以上であることが好ましい。
【0012】
ここで、コードの最大熱収縮応力とは、一般的なディップ処理を施した加硫前のカーカスプライコードの、25cmの長さ固定サンプルを5℃/分の昇温スピードで加熱して、177℃時にコードに発生する最大応力(単位:cN/dtex)である。また、乾熱処理時熱収縮率とは、同様のディップ処理済みコードに対しオーブン中で150℃、30分の乾熱処理を行ない、熱処理前後のコード長を、1/30(cN/dtex)の荷重をかけて計測して下式により求められる値である。
乾熱処理時熱収縮率(%)={(Lb−La)/Lb}×100
但し、Lbは熱処理前のコード長、Laは熱処理後のコード長である。また、ポリケトン繊維における引張強度および引張弾性率は、JIS−L−1013に準じて測定することにより得られる値であり、引張弾性率は伸度0.1%における荷重と伸度0.2%における荷重から算出した初期弾性率の値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、タイヤのユニフォミティを大幅に向上させることにより、タイヤの重量増加を招くことなく、耐カット性、低転がり抵抗性等の諸性能の大幅な改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの一例を示す部分断面図である。図示するタイヤは、ビードコア6が埋設された左右一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2からバットレス部3を介して連なるトレッド部4とを有し、一対のビード部1間にトロイド状に延在して、これら各部1、2、3、4を補強する1枚のコード層からなるカーカスプライ5を備える。また、カーカスプライ5のクラウン部のタイヤ半径方向外側には、2枚のベルト層からなるベルト7が配置されている。なお、バットレス部3は、トレッド部4において路面と接する接地端部と、接地端部からタイヤ最大幅部までの中央の位置とを両端とする部分である。
【0015】
図示する例では、ベルト7は2枚のベルト層からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルト7を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、ベルト層を構成する各コードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト7を構成する。
【0016】
また、カーカスプライ5は、略ラジアル方向に平行配列された複数の補強コードをコーティングゴムで被覆してなる。すなわち、カーカスプライコードを経糸として多本数引き揃えて、これに細く弱い緯糸を荒く打ち込み、スダレ状として、更にゴムと接着させるための接着剤処理を行う。その後、一定厚さのトッピングゴムを被覆して、ゴム被覆コードとする。次に、このゴム被覆コードの経糸が一定の長さとなるように裁断し、裁断面以外の両縁部を接合して、カーカス材料とすることができる。タイヤ成型時には、かかるカーカス材料をドラム成型機または類似設備上で経糸と同一方向に切断し、接合することにより筒状にする。
【0017】
カーカスプライ5は、図示する例では、クラウン部から両サイドウォール部を経て両ビード部に延び、ビードコア6に巻回されてビード部1に係留されているが、カーカスを構成するカーカスプライのうち、少なくとも1枚のプライは、ビードコア6の周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返されて、その折返し端がベルトとカーカスのクラウン部との間に位置する、いわゆるエンベロープ構造を有していてもよい。
【0018】
本発明においては、カーカスプライコードとして、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは100質量%含むことが必要である。50質量%未満であると、タイヤとしての強度、耐熱性、ゴムとの接着性のいずれかの性能が不十分となり、本発明の所期の効果が得られない。
【0019】
また、本発明に用いるカーカスプライコードは、ディップ処理済みコードとしての最大熱収縮応力が、0.1〜1.8cN/dtex、好ましくは0.4〜1.6cN/dtex、より好ましくは0.6〜1.4cN/dtexの範囲にあることが必要である。最大熱収縮応力が0.1cN/dtex未満であると、タイヤ製造時の加熱による引き揃え効率が著しく低下し、タイヤとしての強度が不十分となる。一方、最大熱収縮応力が1.8cN/dtexを超えると、タイヤ製造時の加熱によりコードが著しく収縮するため、出来上がりのタイヤ形状が悪化する懸念がある。
【0020】
さらに、本発明に用いるカーカスプライコードは、ディップ処理済みコードとしての150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が1%〜5%の範囲に、好ましくは2%〜4%の範囲にあることが望ましい。150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が1%未満の場合には、タイヤ製造時の加熱による引き揃え効率が著しく低下し、タイヤとしての強度が不十分となる。一方、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が5%を超える場合には、タイヤ製造時の加熱によりコードが著しく収縮するため、出来上がりのタイヤ形状が悪化する懸念がある。
【0021】
さらにまた、本発明において、バットレス部3におけるカーカスプライ5は、下記式、
L≦0.25r
を満足する必要があり、この式を満たさないと、タイヤのユニフォミティを著しく損なうこととなる。ここで、式中、rは、図2に示すカーカスプライコード10、11、12の直径(mm)を表す。また、Lは隣接する3本のカーカスプライコード10、11、12の断面中心のうち、両端のカーカスプライコード10、12の断面中心を結ぶ線上に、当該両端間のカーカスプライコード11の断面中心から下ろした垂線の長さを表す。
【0022】
カーカスプライ5は、略ラジアル方向に配列したカーカスプライコードと交差する緯糸を含む。かかるカーカスプライ5の枚数は、特に制限されるべきものではないが、タイヤのユニフォミティ向上および軽量化の観点から、1枚のカーカスプライでカーカスを構成することが好ましい。
【0023】
カーカスプライ5内の緯糸はタイヤ周方向の複数箇所でほぼ一定間隔にて切断されていることが好ましい。この緯糸を切断する手段としては、特開平5−208458号公報等に記載の既知のピックブレーカー処理により行うことができるが、それ以外の方法を用いて緯糸を切断することができるのは勿論である。
【0024】
さらに、緯糸の切断ピッチは5〜30mmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは7〜15mmの範囲である。切断ピッチが5mm未満の場合、切断工程においてカーカスコードに損傷を与える懸念がある。一方、30mmを超える場合、タイヤ周方向の均一性を十分に改良できなくなる。
【0025】
また、カーカスプライ5内のカーカスプライコードは、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、該下撚り糸複数本を引き揃えて下撚りと逆方向に、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなり、前記下撚り係数N1と前記上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足することが好ましい。
N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 ・・・(1)
N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 ・・・(2)
0.81<N2/N1≦√(D2/D1) ・・・(3)
0.3≦N2≦0.9 ・・・(4)
式中、n1は下撚り数(回/10cm)、n2は上撚り数(回/10cm)、D1は下撚り糸の表示デシテックス数、D2はトータル表示デシテックス数、ρは繊維原糸の比重(g/cm)である。これらの関係を満足することにより、織物としての平坦性が保持されやすくなり、また、カーカスプライコードの配列の乱れも少なくなる。
【0026】
カーカスプライ5は、ディップ処理後のコード打ち込みピッチが、好ましくは50〜130本/100mmとして製織され、また、互いに略平行な緯糸間の距離が、好ましくは5〜50mm、さらに好ましくは20〜35mmである。コード打ち込みピッチが50本/100mm未満であると、タイヤとしての強度が不十分となり、一方、130本/100mmを超えるとタイヤ重量が増え、低燃費性能が低下したり、乗り心地性能を損なうこととなる。また、緯糸間の距離が5mm未満の場合には、すだれ織物の生産性が悪くなる。一方、50mmを超える場合には、すだれ織物の性状が悪くなる。
【0027】
また、緯糸は、繊度が、好ましくは60dtex〜600dtex、より好ましくは100dtex〜400dtexの範囲である。繊度が60dtex未満の場合には、すだれ織物の製造からタイヤ製造におけるプロセスにおいて緯糸切れが多発する懸念がある。一方、繊度が600dtex超える場合には、タイヤ製造の拡張工程において均一に破断しなくなり、カーカスコード配列の乱れが大きくなる懸念がある。
【0028】
さらに、緯糸は、引張強力が、好ましくは100g〜2000g、より好ましくは200g〜1500g、さらに好ましくは300g〜1500gの範囲内である。引張強力が100g未満の場合には、すだれ製造からタイヤ製造におけるプロセスにおいて緯糸切れが多発する懸念がある。一方、引張強力が2000gを超える場合には、タイヤ製造の拡張工程において均一に破断しなくなり、カーカスコ−ド配列の乱れが大きくなる懸念がある。
【0029】
さらにまた、緯糸は、切断伸度が、好ましくは3%〜30%の範囲、好ましくは5%〜15%の範囲にある。切断伸度が3%未満の場合には、すだれ製造からタイヤ製造におけるプロセスにおいて緯糸切れが多発する懸念がある。一方、切断伸度が20%を超える場合には、タイヤ製造の拡張工程において均一に破断しなくなり、カーカスコード配列の乱れが大きくなる懸念がある。
【0030】
カーカスプライコードに含まれるポリケトン繊維として、引っ張り強度が、好ましくは10cN/dtex以上に、より好ましくは15cN/dtex以上にある。引っ張り強度が10cN/dtex未満の場合、タイヤとしての強度が不十分となる。さらに、カーカスプライコードに含まれるポリケトン繊維として、弾性率が、好ましくは200cN/dtex以上、より好ましくは250cN/dtex以上である。弾性率が200cN/dtex未満の場合、タイヤとして形状保持性が不十分となる。
【0031】
次に、本発明に使用し得る、ポリケトン繊維(以下「PK繊維」と略記する)を少なくとも50質量%以上含むカーカスプライコードについて詳述する。
【0032】
本発明に使用し得るPK繊維以外の繊維は、ナイロン、エステル、レーヨン、ポリノジック、リヨセル、ビニロン等を挙げることができる。
【0033】
上記PK繊維の原料のポリケトンとしては、下記一般式(II)、

(式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分であり、各繰り返し単位において同一であっても異なっていてもよい)で表される繰り返し単位から実質的になるものが好適であり、その中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1−オキソトリメチレン[−CH−CH−CO−]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1−オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
【0034】
かかるポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基とが交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0035】
また、上記式(II)において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン、ブテン、ペンテン、シクロペンテン、ヘキセン、シクロヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、スチレン、アセチレン、アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、ウンデセン酸、ウンデセノール、6−クロロヘキセン、N−ビニルピロリドン、スルニルホスホン酸のジエチルエステル、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、ビニルピロリドンおよび塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
【0036】
さらに、上記ポリケトンの重合度としては、下記式(III)、

(上記式中、tおよびTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールおよび該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、cは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である)で定義される極限粘度[η]が、1〜20dL/gの範囲内にあることが好ましく、3〜8dL/gの範囲内にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時および延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間およびコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性および物性に悪影響が出ることがある。
【0037】
さらにまた、PK繊維は、結晶化度が50〜90%、結晶配向度が95%以上の結晶構造を有することが好ましい。結晶化度が50%未満の場合、繊維の構造形成が不十分であって十分な強度が得られないばかりか加熱時の収縮特性や寸法安定性も不安定となるおそれがある。このため、結晶化度としては50〜90%が好ましく、より好ましくは60〜85%である。
【0038】
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度および倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)または(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
【0039】
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載されているようなヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載されているような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
【0040】
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm−クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン、エタノール、イソプロパノール、n−ヘキサン、イソオクタン、アセトン、メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
【0041】
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、さらに脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0042】
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、さらに、かかる未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲内が好ましく、総延伸倍率は、好適には10倍以上とする。
【0043】
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留は大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
【0044】
また、PK繊維コードの高い熱収縮特性を最も効果的に活用するには、加工時の処理温度や使用時の成型品の温度が、最大熱収縮応力を示す温度(最大熱収縮温度)と近い温度であることが望ましい。具体的には、必要に応じて行われる接着剤処理におけるRFL処理温度や加硫温度等の加工温度が100〜250℃であること、また、繰り返し使用や高速回転によってタイヤ材料が発熱した際の温度は100〜200℃にもなることなどから、最大熱収縮温度は、好ましくは100〜250℃の範囲内、より好ましくは150〜240℃範囲内である。
【0045】
本発明に係るカーカスプライコードを被覆するコーティングゴムは、種々の形状からなることができる。代表的には、被膜、シート等である。また、コーティングゴムは、既知のゴム組成物を適宜採用することができ、特に制限されるべきものではない。
【0046】
本発明の空気入りタイヤは、ラジアルカーカス4として上述のカーカスプライを適用し、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
(PK繊維の調製例)
常法により調製したエチレンと一酸化炭素が完全交互共重合した極限粘度5.3のポリケトンポリマーを、塩化亜鉛65重量%/塩化ナトリウム10重量%含有する水溶液に添加し、80℃で2時間攪拌溶解し、ポリマー濃度8重量%のドープを得た。
【0048】
このドープを80℃に加温し、20μm焼結フィルターでろ過した後に、80℃に保温した紡口径0.10mmφ、50ホールの紡口より10mmのエアーギャップを通した後に5重量%の塩化亜鉛を含有する18℃の水中に吐出量2.5cc/分の速度で押出し、速度3.2m/分で引きながら凝固糸条とした。
【0049】
引き続き凝固糸条を濃度2重量%、温度25℃の硫酸水溶液で洗浄し、さらに30℃の水で洗浄した後に、速度3.2m/分で凝固糸を巻取った。
この凝固糸にIRGANOX1098(Ciba Specialty Chemicals社製)、IRGANOX1076(Ciba Specialty Chemicals社製)をそれぞれ0.05重量%ずつ(対ポリケトンポリマー)含浸せしめた後に、該凝固糸を240℃以上にて乾燥後、仕上剤を付与して未延伸糸を得た。なお、この乾燥温度を適宜コントロールすることで熱収縮率の調整が可能である。
【0050】
仕上剤は以下の組成のものを用いた。
オレイン酸ラウリルエステル/ビスオキシエチルビスフェノールA/ポリエーテル(プロピレンオキシド/エチレンオキシド=35/65:分子量20000)/ポリエチレンオキシド10モル付加オレイルエーテル/ポリエチレンオキシド10モル付加ひまし油エーテル/ステアリルスルホン酸ナトリウム/ジオクチルリン酸ナトリウム=30/30/10/5/23/1/1(重量%比)。
【0051】
得られた未延伸糸を1段目を240℃で、引き続き258℃で2段目、268℃で3段目、272℃で4段目の延伸を行った後に、引き続き5段目に200℃で1.08倍(延伸張力1.8cN/dtex)の5段延伸を行い、巻取機にて巻取った。未延伸糸から5段延伸糸までの全延伸倍率は17.1倍であった。この繊維原糸は強度15.6cN/dtex、伸度4.2%、弾性率347cN/dtexと高物性を有していた。また、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率は1.9%であった。このようして得られたPK繊維を下記の条件下でコードとして使用した。
【0052】
上記のようにして得られたPK繊維を、下記の条件下でコードとして使用した。
【0053】
(実施例1〜10,比較例1〜5,従来例)
下記の表1〜6に示すプライ構造、カーカスプライコードおよび緯糸を有する各種カーカスプライを、コーティングゴムで被覆後に緯糸を切断する等して作製し、得られたカーカスプライを用いてタイヤサイズ215/45 ZR17、245/40 R18、305/30 R19の各種ノーマルタイヤを試作した。
【0054】
なお、表中1〜3、プライ構造は下記の意味を表す。
2PH/L:ビードコアにてタイヤ幅方向内側から外側に向け高く折り返されたカーカスプライと、低く折り返されたカーカスプライとの2枚からなる。
1PH:ビードコアにてタイヤ幅方向内側から外側に向け高く折り返された1枚のカーカスプライからなる。
1P−Env:ビードコアにてタイヤ幅方向内側から外側に向け返されたカーカスプライと、ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返されて、その折返し端がベルトとカーカスのクラウン部との間に位置する、いわゆるエンベロープ構造を有するカーカスプライとからなる。
【0055】
また、表4〜6中、切断の有無のうち、「有り」はピックブレイクが施されており、「なし」は、ピックブレイクが施されていないことを意味する。
【0056】
(1)タイヤ重量
従来例のタイヤの重量を100として指数表示した。数値が大なる程、タイヤ重量が大きいことを表す。
(2)耐カット性
供試タイヤを実車に装着して、高さ100mmの縁石(段差部)に45°の角度で進入させた。進入速度を徐々に上げていき、タイヤが破断して内圧の抜けた速度を測定して、従来例を100として指数表示した。数値が大なる程耐カット性に優れ、良好である。
(3)転がり抵抗
直径2mの鉄製ドラム上にタイヤを接触させながらドラムを回転させ、一定速度まで上昇後、ドラムの駆動スイッチを切り、ドラムを自由回転させ、減速の度合いより転がり抵抗を求め、従来例のタイヤの転がり抵抗を100として指数表示した。指数値が小さい程、転がり抵抗が小さく、良好である。
(4)ユニフォミティ
230kPaの内圧を充填した供試タイヤのRFV(Radial Force Variation)およびLFV(Lateral Force Variation)を測定して、従来例のタイヤの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、ユニフォミティが良好である。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
前記表4〜6に示すタイヤ性能の評価結果から以下のことが確かめられた。先ず、従来例は、経糸(カーカスプライコード)の乱れが大きく、ユニフォミティが悪かった。これに対し、実施例1〜11はいずれも経糸(カーカスプライコード)の乱れが小さく、ユニフォミティが良好であった。一方、比較例1および2は、経糸の乱れが小さく、ユニフォミティが良好であったが、カーカスコード強力が実施例対比低いため、カーカスプライ枚数が2枚必要で、タイヤ重量の軽減が望めなかった。また、比較例3および5は、ピックブレイクが施されておらず、経糸の乱れが大きく、ユニフォミティが悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤを示す右半分断面図である。
【図2】カーカスプライ中のカーカスプライコードの乱れの状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 バットレス部
4 トレッド部
5 カーカスプライ
6 ビードコア
7 ベルト
10、11、12 カーカスプライコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウン部から両バットレス部および両サイドウォール部を順次経て両ビード部に延び、該ビード部に係留された、略ラジアル方向に配列したコード層よりなるカーカスプライを備える空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスプライのコードが、ポリケトン繊維を少なくとも50質量%以上含み、ディップ処理済みコードとしての最大熱収縮応力が0.1〜1.8cN/dtexの範囲内、150℃×30分乾熱処理時熱収縮率が1%〜5%の範囲内であり、
前記カーカスプライが略ラジアル方向に配列した前記カーカスプライコードと交差する緯糸を含み、前記バットレス部における前記カーカスプライが下記式、
L≦0.25r
(式中、rはカーカスプライコードの直径(mm)、Lは隣接する3本のカーカスプライコードの断面中心のうち、両端のカーカスプライコードの断面中心を結ぶ線上に、当該両端間のカーカスプライコード断面中心から下ろした垂線の長さ)を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記カーカスプライが1枚で形成され、前記カーカスプライコードが繊維原糸に撚りを加え、ディップ処理を施したコードである請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記緯糸がタイヤ周方向の複数箇所でほぼ一定間隔にて切断されている請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記緯糸の切断ピッチが5〜30mmの範囲内にある請求項3記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスプライコードが、繊維原糸に、下記式(1)で定義される下撚り係数N1で下撚りをかけた後、該下撚り糸複数本を引き揃えて下撚りと逆方向に、下記式(2)で定義される上撚り係数N2で上撚りをかけた撚糸よりなり、前記下撚り係数N1と前記上撚り係数N2とが下記式(3)で表される関係を満足し、かつ、上撚り係数N2が下記式(4)で表される関係を満足する請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
N1=n1×√(0.125×D1/ρ)×10−3 ・・・(1)
N2=n2×√(0.125×D2/ρ)×10−3 ・・・(2)
0.81<N2/N1≦√(D2/D1) ・・・(3)
0.3≦N2≦0.9 ・・・(4)
(式中、n1は下撚り数(回/10cm)、n2は上撚り数(回/10cm)、D1は下撚り糸の表示デシテックス数、D2はトータル表示デシテックス数、ρは繊維原糸の比重(g/cm)である)
【請求項6】
前記カーカスプライが、ディップ処理後のコード打ち込みピッチ50〜130本/100mmとして製織され、かつ、互いに略平行な前記緯糸間の距離が5〜50mmである請求項1〜5のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記カーカスプライを形成する繊維コードに含まれるポリケトン繊維として、引っ張り強度が10cN/dtex以上である請求項1〜6のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−23567(P2009−23567A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190154(P2007−190154)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】