説明

空気入りタイヤ

【課題】重量の低減、高速耐久性の向上を図りながら加硫ストレッチを充分に確保する。
【解決手段】バンドコード10は、同一素材の有機繊維フィラメントfからなる有機繊維コード20であって、有機繊維フィラメントfが束ねられかつ下撚りされたフィラメント束21に、ディップストレッチ処理Kを施した2本以上のディップストランド22を、撚り合わすことにより形成される。バンドコード10の応力−伸び曲線は、原点から変曲点Pに至る低弾性域S1と、変曲点Pをこえる高弾性域S2とを具え、しかも前記変曲点Pは、伸び1〜7%の範囲にあり、かつ高弾性域S2の弾性率EHと、低弾性域S1の弾性率ELとの比EH/ELを2〜10とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンドコードとして、下撚りした有機繊維のフィラメント束にディップストレッチ処理を施した後に上撚りしたコードを採用し、加硫ストレッチに基づくタイヤ成形精度を確保しながら高速耐久性を向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ラジアル構造の空気入りタイヤでは、ベルト層の半径方向外側に、バンドコードを螺旋巻きしてなるバンド層を形成した構造のものが広く採用されている。このバンド層は、トレッド部に対する拘束力を高めて高速耐久性能や振動特性を向上させる等の効果を有する。
【0003】
そして近年、車両の高速化や高性能化に伴い、前記高速耐久性や振動特性のいっそうの改善を図るため、バンドコードとして、例えばナイロン繊維コード等の低弾性コードから、例えば芳香族ポリアミド繊維コート(アラミド繊維コード)等の高弾性コードへの移行が望まれている。しかし、バンドコードに高弾性コードを採用した場合、生タイヤを加硫金型内で加硫するに際して、成形内圧によるタイヤの伸張や膨張(加硫ストレッチ)が不十分となり、金型内面への押付け力が不足してユニフォミティーが損なわれたり、さらには加硫成形自体ができなくなる等の問題が発生する。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、高弾性フィラメントと低弾性フィラメントとの2種類の異種素材を撚り合わせることにより、応力−伸び曲線において低弾性域と高弾性域とを有する複合コードをバンドコードに採用することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特許第2757940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし低弾性フィラメントは、高弾性フィラメントよりも、一般的に破断強力も低い。従って、破断強力としては、前記複合コードは、高弾性フィラメントのみで撚り合わされた高弾性コードよりも低くなる。バンド層では、トレッド部の遠心力で破断しないことが重要であり、従って、高速走行時の耐コード破断性能を確保するため、複合コードでは、高弾性コードに比してコードの繊度(太さ)を上げる必要がある。そのため、プライの厚さが増しタイヤの重量増加をもたらすという問題がある。
【0007】
このような状況に鑑み本発明者が研究した結果、フラメントを束ねて下撚りしたフィラメント束の段階で、ディップストレッチ処理を施し、しかる後このディップストレッチ処理されたフィラメント束を撚り合わすことで、同一素材の有機繊維フィラメントのみを用いながら、応力−伸び曲線に低弾性域と高弾性域とを付与しうることを見出し得た。
【0008】
本発明は、同一素材の有機繊維フィラメントのみで構成しながらも、バンドコードに、低弾性域と高弾性域とを有する伸び特性を付与することができ、加硫ストレッチに基づくタイヤ成形精度を高く維持しながら高速耐久性を向上させうるとともに、コードの細径化によりタイヤ重量の低減を図りうる空気入りタイヤの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、このカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるバンド層とを具える空気入りタイヤであって、
前記バンド層は、バンドコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で螺旋状に巻回させたバンドプライから形成され、
かつ前記バンドコードは、同一素材の有機繊維フィラメントからなる有機繊維コードであって、多数本の前記有機繊維フィラメントが束ねられかつ下撚りされたフィラメント束に、ディップストレッチ処理を施した2本以上のディップストランドを、撚り合わすことにより形成されるとともに、
前記バンドコードの応力−伸び曲線は、原点から変曲点に至る低弾性域と、変曲点をこえる高弾性域とを具え、しかも前記変曲点は、伸び1〜7%の範囲にあり、かつ高弾性域の弾性率EHと、低弾性域の弾性率ELとの比EH/ELを2〜10としたことを特徴としている。
【0010】
又請求項2の発明では、前記バンドコードは、前記2本以上のディップストランド同士を、上撚りにて互いに撚り合わせた双撚り構造をなすことを特徴としている。
【0011】
又請求項3の発明では、前記有機繊維フィラメントは、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、強度15g/d以上のポリビニールアルコール繊維、炭素繊維、ポリケトン繊維、又はレーヨン繊維からなる有機繊維のフィラメントであることを特徴としている。
【0012】
又請求項4の発明では、前記バンドコードは、1%伸び時の荷重が20〜60N、かつ3%伸び時の荷重が225〜431Nであることを特徴としている。
【0013】
又請求項5の発明では、前記2本以上のディップストランドは、下撚り数Nが最小Nmin の低撚りディップストランドと、下撚り数Nが最大Nmax の高撚りディップストランドとを含み、かつ下撚り数Nの最小Nmin と最大Nmaxとの比Nmin/Nmaxを0.9以下としたことを特徴としている。
【0014】
又請求項6の発明では、前記バンドコードの上撚り数Mは、前記下撚り数Nの最小Nmin 以上かつ最大Nmax 以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は叙上の如く、バンド層に、同一素材の有機繊維フィラメントからなる有機繊維コードを採用している。従って、前記有機繊維フィラメントに、例えば芳香族ポリアミド繊維等の高弾性フィラメントを用いることで、コードの細径化によるタイヤ重量の低減を図りながら、高速耐久性を向上させることができる。
【0016】
又前記有機繊維コードでは、有機繊維フィラメントが束ねられかつ下撚りされたフィラメント束の段階で、ディップストレッチ処理を施す。そして、このディップストレッチ処理が施されたフィラメント束であるディップストランドの2本以上を、上撚りにて撚り合わせてコードとしている。このように、下撚り→ディップストレッチ処理→上撚りの順序でコードを構成することにより、有機繊維コードに、低弾性域と高弾性域とを有する伸び特性を付与することができる。そしてこの低弾性域と高弾性域との間の変曲点の位置、及び弾性率を特定することで、前述のタイヤ重量の低減、及び高速耐久性の向上を図りながら加硫ストレッチを充分に確保でき、加硫成形不良の防止やユニフォミティーの向上を達成しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤ1が乗用車用タイヤとして形成された場合の子午断面を示している。
【0018】
図1において、空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内部かつ前記カーカス6の外側に配されるベルト層7と、このベルト層7のさらに外側に配されるバンド層9とを少なくとも具えて構成される。
【0019】
前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ周方向に対して例えば75〜90゜の角度で配列した1枚以上、本例では、1枚のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨るプライ本体部6aの両側に、前記ビードコア5の周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを具える。前記プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、ビードコア5から半径方向外側に先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配置され、ビード部4からサイドウォール部3にかけて補強する。前記カーカスコードとしては、乗用車用タイヤの場合、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維コードが好適に採用されるが、タイヤサイズやカテゴリー等に応じてスチールコードも採用しうる。
【0020】
又前記ベルト層7は、スチールコード等の高強力のベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば15〜40゜の角度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがプライ間相互で交差することにより、ベルト剛性を高め、トレッド部2の略全巾をタガ効果を有して強固に補強する。本例では、半径方向内側のベルトプライ7Aのプライ巾は、外側のベルトプライ7Bに比べて巾広に形成され、これにより、前記ベルトプライ7Aのプライ巾がベルト層7のベルト巾WBを構成する。
【0021】
次に、前記バンド層9は、バンドコード10(図3に示す)をタイヤ周方向に対して5°以下の角度で螺旋状に巻回してなる1枚以上、本例では1枚のバンドプライ9Aから形成される。本例では、このバンドプライ9Aが、ベルト層7の略全巾を覆う所謂フルバンドである場合を例示しているが、ベルト層7の外端部のみを覆う左右一対の所謂エッジバンドであっても良く、バンド層9は、これらフルバンド、エッジバンドを単独、或いは組み合わせて形成される。なお前記フルバンドに関して、ベルト層7の「略全巾を覆う」とは、前記ベルト巾WBの95%以上を覆うことを意味し、本例では、バンドプライの巾Wが前記ベルト巾WBと実質的に等しい場合を例示する。
【0022】
又前記バンドプライ9Aは、本例では図2に示すように、1本のバンドコード10または複数本のバンドコード10の引き揃え体をトッピングゴム12中に埋設してなるテープ状の帯状プライ13を、タイヤ周方向に沿って螺旋巻することにより形成され、このとき前記バンドコード10とタイヤ周方向とのなす角度を5°以下に設定する。このようなバンドプライ9Aは、継ぎ目のない所謂ジョイントレス構造をなすため、タイヤのユニフォミティに優れかつトレッド部2への拘束力を高めてタガ効果を向上させる。
【0023】
そして本発明では、前記バンドコード10として、図3に概念的に示すように、同一素材の有機繊維フィラメントfからなる有機繊維コード20が使用される。有機繊維フィラメントfとしては、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、強度15g/d以上のポリビニールアルコール繊維、炭素繊維、ポリケトン繊維、又はレーヨン繊維からなる高弾性フィラメントが好適に採用できる。特に芳香族ポリアミド繊維は、弾性率が高いため、本発明の効果をより高く発揮する上で好ましい。
【0024】
前記有機繊維コード20では、2本以上のディップストランド22を、撚り合わすことにより形成され、本例では、例えば2本のディップストランド同士を、上撚りにて互いに撚り合わせた双撚り構造をなす場合が示されている。又各ディップストランド22は、多数本のフィラメントfが束ねられかつ下撚りされたフィラメント束21の段階で、ディップストレッチ処理Kを施すことで形成される。
【0025】
ここで、前記ディップストレッチ処理Kは、図4に概念的に示すように、ディップ工程Kaと、乾燥工程Kbと、ストレッチ工程Kcと、リラックス工程Kdとを含む。このうち前記ディップ工程Kaでは、下撚りした前記フィラメント束21を、ディップ液に浸漬する。このディップ液は、ゴムとの接着性を高めるために有機繊維フィラメントの表面に付着される接着用樹脂溶液であって、ディップ液として、例えば、レゾルシノール−フォルマリン−ラテックス(Resorcinol-Formalin-Latex:RFL)が好適に使用できる。しかし芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維など、ゴムとの接着に劣る有機繊維に対しては、前記RFL液に、例えばエポキシ化合物、イソシアネート化合物、尿素化合物などの化合物を加えたものをディップ液として使用することも好ましい。又前記芳香族ポリアミド繊維など、ゴムとの接着に劣る有機繊維に対しては、前記エポキシ化合物、イソシアネート化合物、尿素化合物などの化合物の溶液(或いは乳濁液)である第1のディップ液に浸漬する第1浴の後に、前記RFL液である第2のディップ液に浸漬する第2浴を行う二浴処理法などを採用することも好ましい。なお二浴処理法における第2のディップ液として、前記RFL液に、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、尿素化合物などの化合物を加えたものを使用することもできる。
【0026】
又前記乾燥工程Kbは、フィラメント束21に付着したディップ液の水分除去が目的であり、前記フィラメント束21がほぼ乾燥するまで、或いは完全に乾燥するまで、例えば0.1〜1.5g/dtexの張力を付加しながら、乾燥温度100〜160℃、乾燥時間60〜300秒の条件にて加熱乾燥を行う。
【0027】
又前記ストレッチ工程Kcでは、前記乾燥させたフィラメント束21を、さらに高温度で加熱しながら張力を付加することで、コードの寸法安定性、及び強度などを向上させる。このストレッチ工程Kcでは、乾燥させたフィラメント束21を、例えば加熱温度215〜255℃、加熱時間30〜120秒の条件にて加熱しながら、0.1〜1.5g/dtexの張力(例えば0.2g/dtex)を加え、フィラメント束21にストレッチ(引き延ばし)を行う。
【0028】
又前記リラックス工程Kdでは、ストレッチ工程Kc後のフィラメント束21に対して、徐々に冷却しながら、張力を徐々に低減させる。これによりディップストレッチ処理Kされたディップストランド22が形成される。
【0029】
このディップストランド22は、いったんリールに巻き取った後、或いは直接に次工程である上撚り工程に導入される。該上撚り工程では、2本以上(本例では2本)のディップストランド22同士を、前記図3の如く、上撚りにて互いに撚り合わせ、1本の有機繊維コード20に形成する。
【0030】
なお従来の有機繊維コードでは、有機繊維フィラメントを束ねかつ下撚りしたフィラメント束同士を、先に撚り合わせ(上撚り)して、生コードを形成する。そしてこの生コードに対して、前述の如きディップストレッチ処理Kを施している。このような下撚り→上撚り→ディップストレッチ処理の順序で形成された従来コードの場合、その応力−伸び曲線は、図5に符号aで示すように、ほぼ直線状をなす。そのため、加硫ストレッチへの影響が大きい2%以下の低い伸びに対しても高弾性を示し、加硫ストレッチ不足をもたらす。
【0031】
これに対して、本実施形態の有機繊維コード20(バンドコード10)では、フィラメント束21の段階にてディップストレッチ処理Kを施し、その後に上撚りを行っている。これにより、図5に符号20で例示するように、コードの応力−伸び曲線Jが、原点Oから変曲点Pに至る低弾性域S1と、変曲点Pをこえる高弾性域S2とを有するなど、従来の複合コードの如き伸び特性をうることが可能となる。
【0032】
ここで、前記変曲点Pとは、伸び0%の点における曲線Jに接する接線と、破断点P1において曲線Jに接する接線とが交わる交点P0を通る垂直線が、前記曲線Jに交わる点として定義される。又前記低弾性域S1の弾性率ELは、前記原点Oと変曲点Pとを結ぶ直線の勾配で定義され、又高弾性域S2の弾性率EHは、前記変曲点Pと破断点P1とを結ぶ直線の勾配で定義される。
【0033】
このとき、前記変曲点Pは、伸び1〜7%の範囲、かつ高弾性域S2の弾性率EHと、低弾性域の弾性率ELとの比EH/ELは2〜10の範囲であることが必要である。
【0034】
これは、前記変曲点Pが伸び1〜7%の範囲に存在することによって、加硫成型時には低弾性域S1が機能し、充分な加硫ストレッチを確保して、ユニフォミティーの向上や成形不良の防止を図ることができる。又タイヤに使用内圧が付加された実使用状態においては、走行時、特に高速走行時の遠心力に基づくトレッド部の径変化を前記高弾性域S2によって抑制でき、高速耐久性や振動特性を向上しうる。このとき、前記弾性率EH、ELの比EH/ELが2未満の場合、低弾性域S1と高弾性域S2との差が過小となって前記特性が充分に活かされず、高速耐久性や振動特性の向上効果が不充分となる。なお比EH/ELが10を超えて大きくすることは、技術的に難しい。
【0035】
又加硫ストレッチの確保の観点から、有機繊維コード20の1%伸び時における荷重が20〜60Nの範囲、かつ3%伸び時における荷重が225〜431Nであるのが好ましい。前記1%伸び時の荷重が20Nを下回るには、下撚り数Ncを大きくする必要があり、大幅な生産性の低下を招く。逆に60Nを上回ると加硫時にタイヤ伸張や膨張(加硫ストレッチ)が不充分となる。又3%伸び時の荷重が225Nを下回るとタイヤ剛性不足により操縦安定性が低下し、逆に431Nを上回るとタイヤ剛性過多により乗り心地性が低下する。
【0036】
ここで、前記有機繊維コード20では、各ディップストランド22における下撚り方向は、本例では、互いに同方向であってかつ上撚り方向とは逆方向に設定されている。又前記ディップストランド22は、下撚り数Nが最小Nmin の低撚りディップストランド22Aと、下撚り数Nが最大Nmax の高撚りディップストランド22Bとを含む。本例の如くディップストランド22が2本の場合には、1本の低撚りディップストランド22Aと、1本の高撚りディップストランド22Bとから構成される。前記下撚り数Nの最小Nmin と最大Nmaxとの比Nmin /Nmax は0.9以下、さらには0.8以下が好ましく、0.9を超えると下撚り数の差が少なく、前記比EH/ELを大きく設定することが難しくなる。又比Nmin /Nmax の下限は特に規定されないが、0.5程度が好ましい。なお有機繊維コード20の上撚り数Mは、前記下撚り数Nの最小Nmin 以上かつ最大Nmax 以下であることが、コードの耐疲労性と、高弾性域の弾性率EHを大きくすることとのバランスの観点から好ましく、特に前記上撚り数Mを、前記下撚り数Nの最小Nmin と等しく設定するのが、前述のコードの耐疲労性と、高弾性域の弾性率EHを大きくすることとのバランスの観点から好ましい。
【0037】
又前記有機繊維コード20では、各ディップストランド22の繊度(太さ)を同一とすることもできるが、相違させることもできる。具体的には、ディップストランド22として、繊度(太さ)が最小の細径ディップストランド22bと、最大の太径ディップストランド22aとを含んで構成することができる。このとき、前記細径ディップストランド22bに最大Nmax の下撚り数を採用し、太径ディップストランド22aに最小Nmin の下撚り数を採用するのが好ましい。これにより、前記比EH/ELを大きく設定することができる。なお前記EH/EL、及び変曲点Pの位置は、ディップストランド22間における下撚り数の比Nmin /Nmax 、繊度(太さ)の比等を変化することで調整することが可能となる。
【0038】
なお図6に、バンドコード10の他の実施例を示す。本例では、バンドコード10は、1本以上、本例では2本のディップストランド22c、22cからなるコア25と、このコア25の周囲に螺旋に巻き付けられる1本以上、本例では2本のディップストランド22s、22sからなるシース26とを具えた層撚り構造をなす場合が示されている。なお本例では、引き揃えられた前記ディップストランド22c、22cを中間撚りにて互いに撚り合わせてコア25を形成しているが、中間撚りを行うことなく、たんに引き揃えることのみでコア25を形成することもできる。
【0039】
前記層撚り構造とした場合、シース用のディップストランド22sの下撚り数Nsを、コア用のディップストランド22cの下撚り数Ncよりも小とし、かつその比Ns/Ncを0.07〜0.11の範囲とするのが好ましい。又上撚り数Mを、前記下撚り数Ncより小かつ下撚り数Nsとの比M/Nsを0.5〜1.2の範囲とするのが好ましい。
【0040】
又前記シース26をなすディップストランド22sの繊度(dtex)の総和Dsは、コア25をなすディップストランド22cの繊度(dtex)の総和Dcとの比Ds/Dcを2.3以上に設定している。そして、前記撚り数の比Ns/Nc、比M/Ns、及び繊度の比Ds/Dcを調節することで、前記比EH/EL、及び変曲点Pの位置などを調整することが可能となる。
【0041】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明の空気入りタイヤ1は、本例の如く乗用車用タイヤとして形成する他、高速走行性能が要求される自動二輪車用タイヤ、或いは他のカテゴリのタイヤとして形成することもできる。なお前記自動二輪車用タイヤの場合、前記ベルト層7を介在させることなく、バンド層9をカーカス6の外側に隣接させて形成することもできるなど、本発明は、図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0042】
図1に示す構造を有するタイヤサイズ205/50R16の乗用車用ラジアルタイヤを表1、2の仕様に基づき試作するとともに、各試供タイヤの重量、高速耐久性、振動特性等を測定し比較した。なおバンドコード以外は、各タイヤとも同構成でありカーカス、ベルト層、バンド層の仕様は、以下の通りである。なお表1では、バンドコードは双撚り構造をなし、表2では、バンドコードは層撚り構造を有している。
・カーカス
プライ数:1枚、
コード:1680dtex/2(PET)、
コード角:90度、
コード打込み本数:50本/5cm、
・ベルト層
プライ数:2枚、
コード:1×4×0.27(スチール)、
コード角:+22度/−22度、
コード打込み数:40本/5cm、
・バンド層
プライ数:1枚(フルバンド)、
コード:表1、2
コード打込み数:49本/5cm、
【0043】
表中の「材質」において、ナイロンは脂肪族ポリアミド繊維、アラミドは芳香族ポリアミド繊維、レーヨンはレーヨン繊維、ビニロンはポリビニールアルコール繊維、ベクトランは全芳香族ポリエステル繊維、PET(ポリエチレンテレフタレ−ト)とPEN(ポリエチレンナフタレ−ト)は芳香族ポリエステル繊維である。表中の「生産工程」おいて、Aは、下撚り→上撚り→ディップストレッチ処理の従来的な工程順序で形成されたコードを意味し、Bは、下撚り→ディップストレッチ処理→上撚りの工程順序で形成されたコードを意味する。表中の「加硫状況」は、生タイヤを加硫成形する際の状況であり、「※1」は、加硫ストレッチが不足し、タイヤが歪な形状となるなど生産不良を起こしたことを意味する。
【0044】
(1)タイヤ重量:
タイヤ1本当たりの質量を測定し、比較例1を100とする指数で表示している。数値が小なほど軽量である。
【0045】
(2)高速耐久性:
ドラム走行試験機を用い、リム16×6.5JJ、内圧(300kPa)、荷重(3.90kN)の条件にて、20分毎に走行速度を10km/hづつ逐次上昇させ、バンド層に起因する損傷が生じたときの走行速度を比較例1を100とする指数で表示している。数値が大きいほど耐久性に優れることを示す。
【0046】
(3)振動特性:
ドラム走行試験機を用い、リム16×6.5JJ、内圧(200kPa)、荷重(4.00kN)の条件にて、時速120km/hにて走行させ、そのとき生じる振動を車軸を介して測定し、比較例1を100とする指数で表示している。数値が大きいほど振動特性に優れることを示す。
【0047】
【表1】


【0048】
【表2】

【0049】
実施例1と比較例5、実施例2と比較例6、実施例4と比較例7を互いに比較するように、各ストランドの繊度、及び下撚り数、上撚り数がそれぞれ同じであっても、実施例のコードは、下撚り→ディップストレッチ処理→上撚りの順序を採用することで、低弾性域と高弾性域とを有する伸び特性をうることができる。従って、加硫ストレッチを充分に確保でき、成形不良を防止しながら高速耐久性を向上させることができる。特に、有機繊維として芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)を採用することで、タイヤ質量の低減をも同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】帯状プライを示す斜視図である。
【図3】バンドコード10を概念的に示す斜視図である。
【図4】ディップストレッチ処理を概念的に示す工程図である。
【図5】コードの応力−伸び曲線の一例を示すグラフである。
【図6】バンドコードの他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
9 バンド層
9A バンドプライ
10 バンドコード
20 有機繊維コード
21 フィラメント束
22 ディップストランド
22A 低撚りディップストランド
22B 高撚りディップストランド
f 有機繊維フィラメント
K ディップストレッチ処理
P 変曲点
S1 低弾性域
S2 高弾性域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、このカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるバンド層とを具える空気入りタイヤであって、
前記バンド層は、バンドコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で螺旋状に巻回させたバンドプライから形成され、
かつ前記バンドコードは、同一素材の有機繊維フィラメントからなる有機繊維コードであって、多数本の前記有機繊維フィラメントが束ねられかつ下撚りされたフィラメント束に、ディップストレッチ処理を施した2本以上のディップストランドを、撚り合わすことにより形成されるとともに、
前記バンドコードの応力−伸び曲線は、原点から変曲点に至る低弾性域と、変曲点をこえる高弾性域とを具え、しかも前記変曲点は、伸び1〜7%の範囲にあり、かつ高弾性域の弾性率EHと、低弾性域の弾性率ELとの比EH/ELを2〜10としたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記バンドコードは、前記2本以上のディップストランド同士を、上撚りにて互いに撚り合わせた双撚り構造をなすことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ
【請求項3】
前記有機繊維フィラメントは、芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、強度15g/d以上のポリビニールアルコール繊維、炭素繊維、ポリケトン繊維、又はレーヨン繊維からなる有機繊維のフィラメントであることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記バンドコードは、1%伸び時の荷重が20〜60N、かつ3%伸び時の荷重が225〜431Nであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記2本以上のディップストランドは、下撚り数Nが最小Nmin の低撚りディップストランドと、下撚り数Nが最大Nmax の高撚りディップストランドとを含み、かつ下撚り数Nの最小Nmin と最大Nmaxとの比Nmin/Nmaxを0.9以下としたことを特徴とする請求項2記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記バンドコードの上撚り数Mは、前記下撚り数Nの最小Nmin 以上かつ最大Nmax 以下であることを特徴とする請求項5記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−46116(P2009−46116A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180419(P2008−180419)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】