説明

空気入りタイヤ

【課題】ゴムやけの発生が格段に少なくなると共に、ゴム含有時の加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を含有した時に見られるブルームを極力抑制し、配合ゴムの経時変化が少なく安定した接着性を発現するスチールコード等の金属との接着性に優れるゴム組成物を空気入りタイヤのタイヤ部材(ベルト層、カーカスプライ層)に用いることにより、作業性、耐久性に優れた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、硫黄と、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤、特定のレゾルシン系化合物とを含有してなるゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤及び特定構造の化合物を含有したスチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れるゴム組成物をベルト層やカーカースプライ層などのタイヤ部材に用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用タイヤ、コンベアベルト、ホース等、特に強度が要求されるゴム製品には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆した複合材料が用いられている。
このゴム−金属複合材料が高い補強効果を発揮し信頼性を得るためには、ゴム−金属補強材間に安定した経時変化の少ない接着が必要である。
【0003】
また、ゴムと金属を接着する場合、ゴムと金属の結合を同時に行う方法、即ち、直接加硫接着法が知られているが、この場合、ゴムの加硫とゴムと金属の結合を同時に行う上で、加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有用とされている。
【0004】
現在、市販されているスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として、例えば、下記式で表されるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(以下、「DCBS」と略す)が知られている。
【化1】

また、このDCBSの加硫反応の遅効性よりも更に遅効性が必要な場合は、スルフェンアミド系加硫促進剤とは別に、加硫遅延剤を併用することが行われている。なお、市販されている代表的な加硫遅延剤としては、N−(シクロヘキシルチオ)フタルイミド(以下、「CTP」と略す)が知られているが、このCTPをゴムに多量に配合すると、加硫ゴムの物理的物性に悪影響を及ぼし、かつ、加硫ゴムの外観の悪化及び接着性に悪影響を及ぼすブルーミングの原因になることは既に知られている。
【0005】
更に、上記DCBS以外のスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、特定式で表されるビススルフェンアミド(例えば、特許文献1参照)や、天然油脂由来のアミンを原料としたベンゾチアゾルリルスルフェンアミド系加硫促進剤(例えば、特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、これらの特許文献1及び2に記載されるスルフェンアミド系加硫促進剤には、ゴム物性のみの記載であり、接着性能についての記載や示唆はないものであり、しかも、本発明のスルフェンアミド化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができることについては全く記載も示唆もないものである。
【0006】
更にまた、本発明の中に用いられるスルフェンアミド化合物のいくつかの製法に関しては、例えば、特許文献3、4及び5に知られているが、これらの化合物がゴム用の加硫促進剤として新規に用いることができること、及びこの促進剤がもたらすスチールコードとの接着性能については全く記載も示唆もないものである。
【0007】
一方、直接加硫接着におけるゴム−金属補強材間の接着性、特に、耐湿熱接着性向上のために様々な検討が行われている。
例えば、重量平均分子量が3000〜45000のレゾルシン骨格を有する混合ポリエステルからなる接着材料が知られている(例えば、特許文献6参照)。
しかしながら、この特許文献6に記載される分子量が大きな混合ポリエステルは、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂(以下、「RF樹脂」と略記する。)と比較してゴムとの相溶性は改善されるものの、完全に満足できるものとはなっていない点に課題がある。さらに、高分子量の混合ポリエステルをゴムに配合すると、配合ゴムの粘度が上昇し、加工性が低下するといった問題があり、耐湿熱接着性も十分なものとはなっていない点に課題がある。
【0008】
また、レゾルシン又は、レゾルシンとホルマリンを縮合して得られるRF樹脂を耐湿熱接着性向上の目的で配合したゴム組成物が知られている(例えば、特許文献7参照)。このRF樹脂を配合することでスチールコードとゴムとの耐湿熱接着性は、確かに飛躍的に向上するものである。
しかしながら、レゾルシンやRF樹脂は極性が非常に高いためゴムとの相溶性に乏しく、混合、配合、貯蔵等の条件によって、レゾルシンやRF樹脂が析出するいわゆるブルームが発生するため、配合ゴムの経時変化が大きく、安定した接着性を発現させることができない点に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−139082号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2005−139239号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】EP0314663A1公開公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】英国特許第1177790号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特公昭48−11214号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開平7−118621号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献7】特開2001−234140号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記従来の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、空気入りタイヤのタイヤ部材に、加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、DCBSと同等以上の加硫遅延効果を有する加硫促進剤を用いて、ゴムやけの発生が格段に少なく、しかも、ゴム含有時の加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を配合した時に見られるブルームを極力抑制し、配合ゴムの経時変化が少なく安定した接着性を発現するスチールコード等の金属との接着性に優れたゴム組成物を用いることにより、作業性、耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、特定のスルフェンアミド系加硫促進剤及び特定構造の化合物を含む組成物をゴム成分に所定量含有した材料が、レゾルシンやRF樹脂を含有したゴム組成物と同様の耐湿熱接着性を維持しつつ、該ゴム組成物の課題である加工性を保持すると共に、ブルーム発生を抑制し、配合、貯蔵等の条件によらず安定した接着性を発現できることなどを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0012】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(15)に存する。
(1) ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤、下記一般式(II)で表される化合物とを含有してなるゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化2】

【化3】

(2) 前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部、上記一般式(II)で表される化合物0.1〜10質量部を含有してなる上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(3) 前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部を含有してなる上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(4) 前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部と、上記一般式(II)で表される化合物0.1〜10質量部とを含有してなる上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(5) 前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−アルキル基であり、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子である上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(6) 前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子である上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(7) 前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2はメチル基、エチル基、n−プロピル基であり、R3〜R6は、水素原子である上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(8) 前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2はエチル基であり、R3〜R6は、水素原子である上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(9) 前記ゴム組成物における一般式(II)で表される化合物が下記一般式(III)で表される化合物である上記(1)記載の空気入りタイヤ。
【化4】

(10) 前記ゴム組成物における一般式(II)で表される化合物が下記一般式(IV)で表される化合物である上記(1)記載の空気入りタイヤ。
【化5】

(11) 前記ゴム組成物には、更に、コバルト及び/又はコバルトを含有する化合物を含有する上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
(12) コバルト及び/又はコバルトを含有する化合物の含有量がコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部である上記(11)に記載の空気入りタイヤ。
(13) コバルトを含有する化合物が、有機酸のコバルト塩である上記(11)又は(12))に記載の空気入りタイヤ。
(14) 前記ゴム組成物のゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む上記(1)〜(13)の何れか一つに記載の空気入りタイヤ。
(15) 前記ゴム組成物のゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる上記(1)〜(13)の何れか一つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気入りタイヤのタイヤ部材に、ゴムやけの発生が格段に少なくなると共に、ゴム含有時の加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を含有した時に見られるブルームを極力抑制し、配合ゴムの経時変化が少なく安定した接着性を発現するスチールコード等の金属との接着性に優れたゴム組成物を用いることにより、作業性、耐久性に優れた空気入りタイヤが得られるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
本発明の空気入りタイヤは、ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤、下記一般式(II)で表される化合物とを含有してなるゴム組成物を空気入りタイヤのタイヤ部材に用いたことを特徴とするものである。
【化6】

【化7】

【0015】
本発明に用いるゴム成分としては、空気入りタイヤのタイヤ部材に用いられるゴムであれば特に限定されず、主鎖に二重結合があるゴム成分であれば硫黄架橋可能であるため、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤が機能するものであり、例えば、天然ゴム及び/又はジエン合成系ゴムが用いられる。具体的には、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の少なくとも1種を使用することができる。
好ましくは、カーカスコードやベルトコード等に用いるスチールコード等の金属補強材への接着性の点から、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含むことが好ましく、更に、ベルトゴムの耐久性の点から、ゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を上記の少なくとも1種の合成ゴムよりなることが望ましい。
【0016】
本発明の上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤は、コバルト系の接着剤との組み合わせでは今まで報告されておらず、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド同等の加硫遅延効果を有し、かつ、スチールコード等の金属補強材との直接加硫接着における接着耐久性に優れており空気入りタイヤのベルト層、カーカス層などの被覆用ゴム組成物として好適に使用することができるものである。
更に、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、特に、R1が、tert−ブチル基であり、x=1又は2、n=0であり、R2は直鎖がより好ましいが、直鎖の中でもメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基であり、最も好ましいのはメチル基、エチル基であり、R3〜R6が好ましくは水素原子であるスルフェンアミド化合物を加硫促進剤として用いることが接着性と加硫遅延効果の点で最も好ましい。これらのスルフェンアミド系加硫促進剤は、本発明で初めて加硫促進剤として用いられるものであり、かつ、従来のスルフェンアミド系加硫促進剤の中で、最も加硫反応に遅効性を与える加硫促進剤として知られるN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド以上の加硫遅延効果を有しながら十分な加硫促進能力を両立するものであり、しかも、スチールコード等の金属補強材との直接加硫接着における接着耐久性に優れている。そのため、空気入りタイヤにおけるベルト層、カーカスプライ層などに用いるスチールコード等の金属補強材との直接加硫接着における接着耐久性に優れたコーティング用等のゴム組成物に好適に使用することができる。
【0017】
本発明において、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1は、炭素数3〜12の分岐アルキル基を表す。このR1が炭素数3〜12の分岐アルキル基であれば、一般式(I)で表される化合物の加硫促進性能が良好であると共に、接着性能を高めることができる。
上記一般式(I)で表される化合物のR1の具体例としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基,tert−ブチル基、イソアミル基(イソペンチル基)、ネオペンチル基、tert−アミル基(tert−ペンチル基)、イソヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、tert−ヘプチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、イソノニル基、tert−ノニル基、イソデシル基、tert−デシル基、イソウンデシル基、tert−ウンデシル基、イソドデシル基、tert−ドデシル基などが挙げられる。
これらの中でも、加硫速度、接着性、人体蓄積性等の点から、R1はα位に分岐を有することが好ましく、更に好ましくは、好適なスコーチタイムが得られるなどの効果の点から、炭素数3〜12のtert−アルキル基が好ましく、特に、tert−ブチル基、tert−アミル基(tert−ペンチル基)、tert−ドデシル基、トリイソブチル基、中でもtert−ブチル基が合成面、原料入手の観点から経済的に優れており、しかも、DCBS(DZ)と同等の加硫速度が得られ、かつ、更なる接着性の点から特に望ましい。
【0018】
また、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基を表す。このR2が炭素数1〜10の直鎖アルキル基であれば、一般式(I)で表される化合物の加硫促進性能が良好であると共に、接着性能を高めることができる。
上記一般式(I)で表される化合物のR2の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基(n−ペンチル基)、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。これらの中でも、合成のし易さや原材料コストなどの効果の点から、炭素数1〜8の直鎖アルキル基、更に炭素数1〜6の直鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が好ましい。
特に好ましくは、好適なムーニースコーチタイムが得られかつ高いスチールコード接着が得られる点で、炭素数1〜6の直鎖アルキル基が望ましい。これは炭素数が増えると加硫が更に遅れるため生産性が低下したり、接着性が低下するためである。これらの中でも、炭素数4以下の直鎖アルキル基であるメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基が最も望ましい。
また、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR3〜R6は、水素原子、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であり、これらは同一であっても異なっていてもよく、なかでも、R3とR5が、炭素数1〜4の直鎖アルキル基又はアルコキシ基、炭素数3〜4の分岐のアルキル基又はアルコキシ基であることが好ましい。また、R3〜R6が、炭素数1〜4のアルキル基又はアルコキシ基の場合、炭素数1であることが好ましく、水素原子であることが特に好ましい。好ましいいずれの場合も、化合物の合成のし易さ及び加硫速度が遅くならないためである。
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物のR3〜R6の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基,tert−ブトキシ基が挙げられる。
【0019】
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1、R2がどちらも分岐アルキル基の場合は、合成の困難性が増すこととなり、しかも、安定したものが合成できにくいものとなる、特に、R1、R2が共にtert−ブチル基の場合は合成がうまくできない。また、R1、R2がどちらも分岐アルキル基の場合は、耐熱接着性が悪くなり、好ましくないものとなる。本発明では、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1は、炭素数3〜12の分岐アルキル基であり、R2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基であり、この組み合わせにおいて、従来にない本発明の特有の効果を発揮するものとなる。
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1、R2の特に好ましい組み合わせとしては、R1がtert−ブチル基であり、R2が炭素数1〜10の直鎖アルキル基、R3〜R6は、水素原子の組み合わせである。この組み合わせの中でも、ベストモードとなる組み合わせとしては、R1がtert−ブチル基であり、R2が炭素数4以下となるメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基となる場合であり、更に好ましくは、R2が炭素数3以下、特に好ましくは炭素数2以下であるこの組み合わせの場合に、加硫速度がDCBS(DZ)と同等、更なる接着性能確保、人体蓄積性の見地から最も性能バランスが良いものとなる。
上記ベストモードとなる組み合わせは、薬品の凝縮性を評価する簡易メジャーの一つであるオクタノール/水分配係数(logPOW)の数値から確認することができる。本発明では、このlogPの値は小さいほど、上記加硫速度、接着性能確保、人体蓄積性のバランスがより良好となる。
本発明(後述する実施例等を含む)において、上記オクタノール/水分配係数(logP)の測定は、JIS Z 7260−117(2006)に準拠して、高速液体クロマトグラフィー法により実施することができ、下記式により定義される。
logP=log(「Co」/「Cw」)
C0:1−オクタノール層中の被験物質濃度
Cw:水層中の被験物質濃度
【0020】
上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のxは1又は2の整数を表し、また、nは、0又は1の整数を表し、合成のし易さや原材料コストなどの効果の点から、nは、0であるものが望ましい。
以上のように、本発明に用いる上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物の中で好ましい化合物から更に好ましい化合物を順番にまとめてみると、具体的には、ムーニースコーチタイムが早くなりすぎず加工時にゴム焦げを起こさず、作業性の低下、かつ接着性の低下を回避する点等から、1)上記一般式(I)のR1は、tert−ブチル基であり、n=0、R2は、炭素数1〜10の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子であるもの、2)上記一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、nは0又は1の整数、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子であるもの、3)上記一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子であるもの、4)上記一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2は炭素数4以下の直鎖アルキル基(好ましくは炭素数3以下の直鎖アルキル基)であり、R3〜R6は、水素原子であるもの、5)上記一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2は炭素数2以下の直鎖アルキル基(メチル基、エチル基)であり、R3〜R6は、水素原子であるものが好ましいものとなる(降順する程、好適なスルフェンアミド化合物となる)。
なお、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1が炭素数3〜12の分岐アルキル基以外の各官能基(例えば、n−オクタデシル基等)や炭素数が12を超える分岐アルキル基である場合、また、R2が炭素数1〜10の直鎖アルキル基以外の各官能基(例えば、n−オクタデシル基等)や炭素数10を超える直鎖アルキル基である場合、更にR3〜R6が上記範囲外の各官能基、各炭素数の範囲外である場合、更にまた、nが2以上の場合には、本発明の目的の効果を発揮することが少なく、好適なムーニースコーチタイムが遅くなり加硫時間が長くなることによる生産性低下、若しくは、接着性が低下したり、または、促進剤としての加硫性能やゴム性能が低下したりすることがある。更に、xが3以上では、安定性の点で好ましくない。また、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物中のR1が分岐アルキル基である場合に、α位以外に分岐を有するもの、例えば、2−エチルヘキシル、2−エチルブチルなどの場合には、加硫速度、接着性能確保、人体蓄積性のバランスが悪化する傾向となるので、α位に分岐があることが望ましい。
【0021】
本発明において、上記一般式(I)で表される化合物の代表例としては、N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−ブチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−メチル−N−イソアミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−イソアミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−イソアミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−ブチル−N−イソアミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−メチル−N−tert−アミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−tert−アミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−tert−アミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−ブチル−N−tert−アミルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−メチル−N−tert−ヘプチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−tert−ヘプチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−tert−ヘプチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−ブチル−N−tert−ヘプチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を混合して(本明細書では、単に「少なくとも1種」という)用いることができる。
好ましくは、更なる接着性能の点から、N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドが好ましい。
これらの中でも、特に、最も長いスコーチタイムと優れた接着性能を有する点で、N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド、N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを用いることが望ましい。
これらの化合物は、1種でも組み合わせて使用してもよい。また、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾ−ルスルフェンアミド(CBS)、ジベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)などの汎用の加硫促進剤と組み合わせて使用することも可能である。
【0022】
本発明の上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド化合物の好ましい製造方法としては、下記方法を挙げることができる。
すなわち、対応するアミンと次亜塩素酸ソーダの反応によりあらかじめ調製したN−クロロアミンとビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィドを、アミンおよび塩基存在下、適切な溶媒中で反応させる。塩基としてアミンを用いた場合は、中和を行い、遊離のアミンに戻した後、得られた反応混合物の性状に従って、ろ過、水洗、濃縮、再結晶など適切な後処理をおこなうと、目的とするスルフェンアミドが得られる。
本製造方法に用いる塩基としては、過剰量用いた原料アミン、トリエチルアミンなどの3級アミン、水酸化アルカリ、炭酸アルカリ、重炭酸アルカリ、ナトリウムアルコキシドなどが挙げられる。特に、過剰の原料アミンを塩基として用いたり、3級アミンであるトリエチルアミンを用いて反応を行い、水酸化ナトリウムで生成した塩酸塩を中和し、目的物を取り出した後、ろ液からアミンを再利用する方法が望ましい。
本製造方法に用いる溶媒としては、アルコールが望ましく、特にメタノールが望ましい。
【0023】
例えば、N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドでは、N−t−ブチルエチルアミンに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド、N−t−ブチルエチルアミンおよび前述の油層を、メタノ−ルに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウムで中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とするBEBS(白色固体)を得ることができる。
【0024】
これらのスルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1〜10質量部、好ましくは、0.5〜5.0質量部、更に好ましくは、0.8〜2.5質量部とすることが望ましい。
この加硫促進剤の含有量が0.1質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ブルームが問題となり、好ましくない。
【0025】
本発明に用いる硫黄は、加硫剤となるものであり、その含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.3〜10質量部、好ましくは、1.0〜7.0質量部、更に好ましくは、3.0〜7.0質量部とすることが望ましい。
この硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、十分に加硫しなくなり、一方、10質量部を越えると、ゴムの老化性能が低下し、好ましくない。
【0026】
本発明に用いる上記一般式(II)で表される化合物は、レゾルシン系化合物(レゾルシン誘導体)であり、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤の作用、並びに、加硫後のゴム物性の低下を損なうことなく、更にタイヤ部材に用いるスチールコード等の金属材とゴムと安定した接着性等を発揮せしめるために含有せしめるものであり、上記式(II)中のR3及びR4は、炭素数1〜16の2価の脂肪族基、2価の芳香族基を表す。
この一般式(II)で表される化合物としては、好ましくは、下記一般式(III)で表される化合物、更に好ましくは、下記一般式(IV)で表される化合物が挙げられる。一般式(III)又は(IV)中のRは、一般式(II)中のR3及びR4と同義であり、炭素数1〜16の2価の脂肪族基、2価の芳香族基を示す。
【化8】

【化9】

【0027】
ここで、炭素数1〜16の2価の脂肪族基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、ブチレン基、イソブチレン基、オクチレン基、2−エチルヘキシレン基等の直鎖または分岐鎖のアルキレン基、ビニレン基(エテニレン基)、ブテニレン基、オクテニレン基等の直鎖または分岐鎖のアルケニレン基、これらのアルキレン基又はアルケニレン基の水素原子がヒドロキシル基又はアミノ基等で置換されたアルキレン基またはアルケニレン基、シクロヘキシレン基等の脂環式基が挙げられる。
また、2価の芳香族基としては、置換されていてもよいフェニレン基、置換されていてもよいナフチレン基等が挙げられる。これらの中でも入手の容易さ等を考慮すれば、炭素数2〜10のアルキレン基及びフェニレン基が好ましく、特にエチレン基、ブチレン基、オクチレン基及びフェニレン基が好ましい。
【0028】
本発明に用いる上記一般式(II)〜(IV)の化合物の具体例としては、マロン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、コハク酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、フマル酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、マレイン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、リンゴ酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、イタコン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、シトラコン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、酒石酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、アゼライン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(2−ヒドロキシフェニル)エステル、マロン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、フマル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、マレイン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、リンゴ酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、イタコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シトラコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、酒石酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アゼライン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、マロン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、コハク酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、フマル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、マレイン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イタコン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、シトラコン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、酒石酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、アゼライン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル等の少なくとも1種が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、マロン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、フマル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、マレイン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、リンゴ酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、イタコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シトラコン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、酒石酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アゼライン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、シクロヘキサンジカルボン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステルが好ましく、特に、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、テレフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステル、イソフタル酸ビス(4−ヒドロキシフェニル)エステルが好ましい。
【0030】
上記一般式(II)で表される化合物の製造法は、特に限定されないが、例えば、下記一般式(V)で表されるジカルボン酸ハライドと、
【化10】

(式中、Rは炭素数1〜16の2価の脂肪族基、又は2価の芳香族基を表し、Xはハロゲン原子を表す。)
下記一般式(VI)で表される化合物と
【化11】

を塩基の存在下または非存在下で反応させて製造される。
【0031】
一般式(V)中のRは、前記一般式(II)中のRと同義であり、Xはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0032】
一般式(V)で表される化合物としては、例えば、マロン酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド、フマル酸ジクロライド、マレイン酸ジクイロライド、グルタル酸ジクロライド、アジピン酸ジクロライド、スベリン酸ジクロライド、アゼライン酸ジクロライド、セバシン酸ジクロライド、1,10−デカンジカルボン酸ジクロライド、1,12−ドデカンジカルボン酸ジクロライド、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸ジクロライド等の脂肪族ジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキセンジカルボン酸ジクロライド等の脂環式ジカルボン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド等の芳香族ジカルボン酸ジクロライド、マロン酸ジブロマイド、コハク酸ジブロマイド、フマル酸ジブロマイド、マレイン酸ジブロマイド、グルタル酸ジブロマイド、アジピン酸ジブロマイド、スベリン酸ジブロマイド、アゼライン酸ジブロマイド、セバシン酸ジブロマイド、1,10−デカンジカルボン酸ジブロマイド、1,12−ドデカンジカルボン酸ジブロマイド、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸ジブロマイド等の脂肪族ジカルボン酸ジブロマイド、シクロヘキサンジカルボン酸ジブロマイド、シクロヘキセンジカルボン酸ジブロマイド等の脂環式ジカルボン酸ジブロマイド、テレフタル酸ジブロマイド、イソフタル酸ジブロマイド等の芳香族ジカルボン酸ジブロマイド、が挙げられる。これらの中でも、マロン酸ジクロライド、コハク酸ジクロライド、アジピン酸ジクロライド、アゼライン酸ジクロライド、セバシン酸ジクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、マロン酸ジブロマイド、コハク酸ジブロマイド、アジピン酸ジブロマイド、アゼライン酸ジブロマイド、セバシン酸ジブロマイド、テレフタル酸ジブロマイド、イソフタル酸ジブロマイド等が好ましい。
【0033】
一方、一般式(VI)で表される化合物としては、カテコール、レゾルシンおよびハイドロキノンが挙げられる。
【0034】
上記一般式(V)で表される化合物と一般式(VI)で表される化合物とを反応させる際に使用する塩基としては、通常、ピリジン、β−ピコリン、N−メチルモルホリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の有機塩基が用いられる。
【0035】
また、上記一般式(V)で表される化合物と一般式(VI)で表される化合物とを反応させる際は、通常、一般式(V)で表される化合物と一般式(VI)で表される化合物とが1:4〜1:30のモル比となるように反応させる。
【0036】
一般式(V)で表される化合物と一般式(VI)で表される化合物とを反応させる際、原料を溶解させること等を目的として溶媒を用いることができる。溶媒としては、上述の有機塩基をそのまま溶媒として使用しても良いし、反応を阻害しない他の有機溶媒を用いても構わない。このような溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒が挙げられる。
【0037】
一般式(V)で表される化合物と一般式(VI)で表される化合物とを反応させる際の反応温度は、通常、−20℃〜120℃で行なわれる。
【0038】
前記の反応により得られる一般式(II)で表される化合物は、公知の方法により反応混合物から単離することができる。すなわち、減圧蒸留等の操作により、反応に用いた有機塩基および一般式(VI)で表される化合物、反応に有機溶媒を使用した場合にはこの有機溶媒を留去し乾固させる方法、反応混合物に一般式(II)で表される化合物の貧溶媒を添加して再沈殿させる方法、反応混合液に水および水と混和しない有機溶媒を添加して有機層に抽出する方法等が挙げられる。また、場合によっては再結晶により精製しても良い。
【0039】
前記一般式(II)で表される化合物の貧溶媒としては、通常、水が用いられる。また、上記水と混和しない有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類が用いられる。
一般式(VI)で表される化合物としてレゾルシンを用いた場合には、一般式(III)で表される化合物を主成分とする一般式(III)で表される化合物と下記一般式(VII)で表される化合物とからなる組成物が得られる。
【化12】

【0040】
例えば、前記の反応にレゾルシンを用いた場合に得られる一般式(IV)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とからなる組成物中には、通常、一般式(IV)で表される化合物が60〜100重量%、一般式(VII)におけるn=2の化合物が0〜20重量%、一般式(VII)におけるn=3の化合物が0〜10重量%、一般式(VII)におけるn=4〜6の化合物が合計で10重量%程度含まれる。これらの比率は、一般式(V)で表される化合物とレゾルシンのモル比を変化させることでコントロール可能である。
【0041】
前記一般式(IV)で表される化合物と一般式(VII)で表される化合物とからなる組成物も前記一般式(II)で表される化合物の単離方法と同様の方法により、これらを含む反応混合物から単離することができる。
【0042】
一般式(IV)で表される化合物が60重量%以上である場合、ゴムと配合して接着した際の湿熱接着性が向上する。湿熱接着性向上の観点から判断すれば、より好ましくは一般式(IV)で表される化合物の含有量が70〜100重量%であり、更に好ましくは80〜100重量%である。
【0043】
これらの上記一般式(II)で表される化合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは、0.1〜10質量部の範囲であり、更に好ましくは、0.3〜6質量部の範囲が望ましい。
一般式(II)で表される化合物の含有量がゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上であると、ゴム組成物の湿熱接着性が向上し、10質量部以下であると、一般式(II)で表される化合物のブルームを抑制できる点で好ましい。
【0044】
更に、本発明のゴム組成物には、初期接着性能の向上の点から、コバルト(単体)及び/又はコバルトを含有する化合物を含有せしめることが好ましい。
用いることができるコバルトを含有する化合物としては、有機酸のコバルト塩、無機酸のコバルト塩である塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、クロム酸コバルトの少なくとも1種が挙げられる。
好ましくは、更なる初期接着性能の向上の点から、有機酸のコバルト塩の使用が望ましい。
用いることができる有機酸のコバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト等の少なくとも1種を挙げることができ、また、有機酸コバルトは有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよく、具体的には、市販のOMG社製の商品名「マノボンド」等も用いることができる。
【0045】
これらのコバルト及び/又はコバルトを含有する化合物の(合計)含有量は、コバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部、好ましくは、0.03〜1質量部、更に好ましくは、0.05〜0.7質量部とすることが望ましい。
これらのコバルト量の含有量が0.03質量部未満では、更なる接着性を発揮することができず、一方、3質量部を越えると、老化物性が大きく低下し、好ましくない。
【0046】
本発明で用いるゴム組成物には、上記ゴム成分、硫黄、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤、上記一般式(II)で表される化合物、コバルト化合物等の他に、空気入りタイヤのタイヤ部材用で通常使用される配合剤を本発明の効果を阻害しない範囲で用いることができ、例えば、カーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、軟化剤、老化防止剤などを用途に応じて適宜配合することができる。
【0047】
本発明で用いるゴム組成物は、上記各成分を、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー等により混練りすることにより製造することができ、乗用車、トラック、バス、二輪車用等の空気入りタイヤのベルト層、カーカスプライ層などのゴムと金属(スチールコード)との直接加硫接着するタイヤ部材に好適に使用できる。
本発明の空気入りタイヤは、カーカスコードやベルトコード等の補強材となるスチールコードのコーティング用ゴムに上記構成のゴム組成物を使用したものである。例えば、一枚以上のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのタイヤ半径方向外側に配設した一枚以上のベルト層からなるベルトとを備え、該カーカス及びベルトの少なくとも一方がコーティングゴムで被覆したスチールコードよりなる層を含む空気入りタイヤにおいて、前記カーカス及びベルトの少なくとも一方で、スチールコードを被覆するコーティングゴムに、前記ゴム組成物を用いた空気入りタイヤなどが挙げられる。本発明では、特に強度が要求される空気入りタイヤのタイヤ部材、具体的には、ゴムを補強し強度、耐久性を向上させる目的で、スチールコード等の金属補強材をゴム組成物で被覆したベルト層、カーカスプライ層などに好適に適用することができる。
【0048】
このように構成される本発明の空気入りタイヤでは、加硫後ゴムの物性低下、ブルーミング等の問題を生じる可能性のある加硫遅延剤を使用することなく、DCBSと同等以上の加硫遅延効果を有する加硫促進剤、並びに、ブルームを発生することなく、安定した接着性を発揮することができる特定構造のレゾルシン系化合物を併用して、ゴムやけの発生が格段に少なくなると共に、ゴム含有時の加工性と高い耐湿熱接着性を維持しながら、レゾルシンやRF樹脂を含有した時に見られるブルームを極力抑制し、配合ゴムの経時変化が少なく安定した接着性を発現するスチールコード等の金属との接着性に優れたゴム組成物をベルト層、カーカスプライ層などに使用することにより、作業性、耐久性に優れた空気入りタイヤが得られるものとなり、また、コバルト(単体)及び/又はコバルトを含有する化合物を更に含有するゴム組成物をベルト層、カーカスプライ層などのタイヤ部材に用いた空気入りタイヤでは、更に、スチールコード等の金属補強材との接着耐久性に優れ、更に耐久性に優れた空気入りタイヤが得られるものとなる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明に用いる一般式(I)の加硫促進剤の製造例(A−1〜A−6)、一般式(II)の化合物の製造例(B−1〜B−7)、並びに、本発明のゴム組成物の実施例及び比較例に基づいて更に詳述するが、本発明は、これらの製造例、実施例に何ら限定されるものではない。
また、得られた加硫促進剤(A−1〜A−6)等のオクタノール/水分配係数(logP)を、JIS Z 7260−117(2006)に準拠して、高速液体クロマトグラフィー法により測定した。高速液体クロマトグラフィーは、島津製作所社製のものを使用した。
【0050】
〔製造例A−1:N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミン16.4g(0.162mol)に12%次亜塩素酸ナトリウム水溶液148gを0℃以下で滴下し、2時間攪拌後油層を分取した。ビス(ベンゾチアゾ−ル−2−イル)ジスルフィド39.8g(0.120mol)、N−t−ブチルエチルアミン24.3g(0.240mmol)および前述の油層を、メタノ−ル120mlに懸濁させ、還流下2時間攪拌した。冷却後、水酸化ナトリウム6.6g(0.166mol)で中和し、ろ過、水洗、減圧濃縮した後、再結晶することで目的とするN−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを41.9g(収率66%)の白色固体(融点60〜61℃)として得た。
得られたN−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのスペクトルデータを以下に示す。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=1.29(t,3H,J=7.1Hz,CH3(エチル))、1.34(s,9H,CH3(t−ブチル))、2.9−3.4(br−d,CH2)、7.23(1H,m)、7.37(1H,m)、7.75(1H,m)、7.78(1H,m):13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ=15.12、28.06、47.08、60.41、120.70、121.26、123.23、125.64、134.75、154.93、182.63:質量分析(EI、70eV):m/z;251(M+−CH4)、167(M+−C614N)、100(M+−C75NS2):IR(KBr,cm-1):3061,2975,2932,2868,1461,1429,1393,1366,1352,1309,1273,1238,1198,1103,1022,1011,936,895,756,727。
また、このN−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのオクタノール/水分配係数(logP)は、4.9であった。
【0051】
〔製造例A−2:N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミンの代わりにN−t−ブチルメチルアミン14.1g(0.162mol)用いて実施例1と同様に行い、N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを46.8g(収率82%)の白色固体(融点56〜58℃)として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=1.32(9H,s,CH3(t−ブチル))、3.02(3H,s,CH3(メチル))、7.24(1H,m)、7.38(1H,m)、7.77(1H,m)、7.79(1H,m):13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ=27.3、41.9、59.2、120.9、121.4、123.3、125.7、135.0、155.5、180.8:質量分析(EI,70eV)m/z;252(M+)、237(M+−CH3)、223(M+−C26)、195(M+−C49)、167(M+−C512N)、86(M+−C74NS2)。
また、このN−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのオクタノール/水分配係数(logP)は、4.5であった。
【0052】
〔製造例A−3:N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミンの代わりにN−n−プロピル−t−ブチルアミン18.7g(0.162mol)を用いて実施例1と同様に行い、N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを白色固体(融点50〜52℃)として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ:0.92(t,J=7.3Hz,3H),1.34(s,9H),1.75(br,2H),3.03(brd,2H),7.24(t,J=7.0Hz,1H),7.38(t,J=7.0Hz,1H),7.77(d,J=7.5Hz,1H),7.79(d,J=7.5Hz,1H)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ:11.7,23.0,28.1,55.3,60.4,120.7,121.3,123.3,125.7,134.7,154.8,181.3。
また、このN−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのオクタノール/水分配係数(logP)は、5.3であった。
【0053】
〔製造例A−4:N−i−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミンの代わりにN−i−プロピル−t−ブチルアミン18.7g(0.162mol)を用いて実施例1と同様に行い、N−i−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを白色固体(融点68〜70℃)として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ:1.20−1.25(dd,(1.22ppm:J=6.4Hz,1.23ppm:J=6.4Hz)6H),1.37(s,9H),3.78(m,J=6.3Hz,1H),7.23(t,J=7.0Hz,1H),7.38(t,J=7.0Hz,1H),7.77(d,J=7.5Hz,1H),7.79(d,J=7.5Hz,1H)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ:22.3,23.9,29.1,50.6,61.4,120.6,121.2,123.2,125.6,134.5,154.5,183.3。
また、このN−i−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのオクタノール/水分配係数(logP)は、5.1であった。
【0054】
〔製造例A−5:N,N−ジ−i−プロピルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミンの代わりにN−ジ−i−プロピルアミン16.4g(0.162mol)を用いて実施例1と同様に行い、N,N−ジ−i−プロピルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを白色固体(融点57〜59℃)として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ:1.26(d,J=6.5Hz,12H),3.49(dq,J=6.5Hz,2H),7.24(t,J=7.0Hz,1H),7.37(t,J=7.0Hz,1H),7.75(d,J=8.6Hz,1H),7.79(d,J=8.6Hz,1H)。
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ:21.7,22.5,55.7,120.8,121.3,123.4,125.7,134.7,155.1,182.2。
質量分析(EI,70eV),m/z266(M+),251(M+−15),218(M+−48),209(M+−57),182(M+−84),167(M+−99),148(M+−118),100(M+−166:base)。
【0055】
〔製造例A−6:N−n−ブチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドの合成〕
N−t−ブチルエチルアミンの代わりにN−t−ブチル−n−ブチルアミン20.9g(0.162mol)を用いて実施例1と同様に行い、N−n−ブチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドを42.4g(収率60%)の白色固体(融点55〜56℃)として得た。
1H−NMR(400MHz,CDCl3)δ=0.89(3H,t,J=7.32Hz,CH3(n−Bu))、1.2−1.4(s+m,11H,CH3(t−ブチル)+CH2(n−ブチル))、1.70(br.s,2H,CH2)、2.9−3.2(br.d,2H,N−CH2)、7.23(1H,m)、7.37(1H,m)、7.75(1H,m)、7.78(1H,m);13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ:14.0、20.4、27.9、31.8、53.0、60.3、120.6、121.1、123.1、125.5、134.6、154.8、181.2;質量分析(EI,70eV)、m/z294(M+)、279(M+−CH3)、237(M+−C49)、167(M+−C818N)、128(M+−C74NS2):IR(neat):1707cm-1,3302cm-1
また、このN−n−ブチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミドのオクタノール/水分配係数(logP)は、5.8であった。
【0056】
〔製造例B−1、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの合成〕
レゾルシン330.6g(3.0mol)をピリジン600.0gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これに塩化アジポイル54.9g(0.30mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置して反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物に水1200gを加えて氷冷すると沈殿が析出した。析出した沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、白色〜淡黄色の粉体84gを得た。この粉体を分取用装置を備えた液体クロマトグラフィーで下記の条件で処理し、主たる成分を含む溶離液を分取した。この溶離液を濃縮し、析出した結晶をろ過して回収し、減圧乾燥して融点140〜143℃の結晶を得た。分析の結果、この結晶はアジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであった。
【0057】
分取用のHPLC条件は下記の通りである。
カラム :Shim-pack PREP−ODS(島津製作所製)
カラム温度 :25℃
溶離液 :メタノール/水混合溶剤(85/15(w/w%))
溶離液の流速:流量3ml/分
検出器 :UV検出器(254nm)
【0058】
なお、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの同定データは下記の通りである。
MSスペクトルデータ
EI(Pos.) m/z=330
IRスペクトルデータ
3436cm−1 : 水酸基
2936cm−1 : アルキル
1739cm−1 : エステル
NMRスペクトルデータを下記表1−1及び表1−2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
〔製造例B−2、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル等の合成〕
製造例B−1と同様に反応を行い得られた粉体84gをHPLCにて分析した結果、この粉体中のアジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルは89重量%であった。粉体中には、他に下記式で表される化合物(以下、オリゴマーということもある。)中のn=2の化合物が7重量%、下記式で表される化合物中のn=3の化合物が2重量%、原料レゾルシンが2重量%含まれていた。尚、下記式で表される化合物の同定はLC−MSにて行った。
【化13】

【0061】
MSスペクトルの測定条件は下記のとおりである。
質量範囲 : 200〜2000amu(1.98+0.02sec)
イオン化法 : ESI(エレクトロスプレー)
モード : 正
Capilary : 3.15kV
Cone : 35V
S.B.Tmp. : 150℃
Deslv.tmp : 400℃
Multi : 650V
N2 : 750L/hr
n=2 : 551.1[M+H]+ 、 568.2[M+NH4]+
n=3 : 771.2[M+H]+ 、 788.2[M+NH4]+
n=4 : 1008.3[M+NH4]+
n=5 : 1228.3[M+NH4]+
【0062】
また、HPLCの分析条件は下記のとおりである。
1.アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル、レゾルシンの分析
カラム :YMC社 A−312 ODS
カラム温度:40℃
溶離液 :メタノール/水=7/3(リン酸でpH=3に調整)
検出 : UV(254nm)
2.オリゴマーの分析
カラム : YMC社 A−312 ODS
カラム温度: 40℃
溶離液 : アセトニトリル/水=8/2(酢酸でpH=3.5に調整)
検出 : UV(254nm)
【0063】
〔製造例B−3、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステル等の合成〕
レゾルシンを176.2g(1.6mol)、ピリジンを400g、塩化アジポイルを73.2g(0.40mol)に変えた以外は製造例B−1と同様の操作を行い、118.6gの粉体を得た。HPLC分析の結果、粉体中には、アジピン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルが73.4重量%、上記製造例B−2の式で表され且つn=2の化合物が13.9重量%、上記式で表され且つn=3の化合物が3.0重量%、上記式で表され且つn=4の化合物が0.8重量%、上記式で表され且つn=5の化合物が0.2重量%、原料レゾルシンが2.9重量%含まれていた。
【0064】
〔製造例B−4、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの合成〕
レゾルシン440.4g(4.0mol)をピリジン405.0gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これにコハク酸ジクロライド62.0g(0.4mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置し反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物に水1800gを加えて氷冷すると液全体が白濁し二層に分離した。オイル層に水200gおよび酢酸エチル600gを添加し抽出操作を行った。得られた有機層を冷水で5回洗浄した後に硫酸マグネシウムで乾燥した。その後酢酸エチルを留去し得られた粘ちょう物にトルエン500gを添加して結晶化させ、濾過、トルエン洗浄した後、水1Lでのスラッジングを2回行った。得られた湿体を100gのメタノールに溶解した後、水1Lを加えて再沈殿させ、濾過、洗浄、乾燥して82.3gの淡黄色粉体を得た。HPLC分析の結果、粉体の主成分は91.0面積%に相当する成分であることがわかった。また、この粉体中にはレゾルシンが0.7重量%含まれていた。構造解析の結果、粉体中の主成分はコハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであることが判った。
なお、コハク酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの同定データは下記の通りである。
MSスペクトルデータ
EI(Pos.) m/z=302
IRスペクトルデータ
3361cm−1 : 水酸基
2984cm−1 : アルキル
1732cm−1 : エステル
NMRスペクトルデータを下記表2−1及び表2−2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
〔製造例B−5、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの合成〕
レゾルシン330.3g(3.0mol)をピリジン303.7gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これにセバシン酸ジクロライド71.7g(0.3mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置し反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物に水250gを加えて氷冷すると沈殿が析出した。析出した沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、白色〜淡黄色の粉体102.8gを得た。HPLC分析の結果、粉体の主成分は98.7面積%に相当する成分であることがわかった。また、この粉体中にはレゾルシンが0.2重量%含まれていた。構造解析の結果、粉体中の主成分はセバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであることが判った。
なお、セバシン酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの同定データは下記の通りである。
MSスペクトルデータ
EI(Pos.) m/z=386
IRスペクトルデータ
3380cm−1 : 水酸基
3000〜2800cm−1 : 長鎖アルキル
1732、1749cm−1 : エステル
NMRスペクトルデータを下記表3−1および表3−2に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
〔製造例B−6、テレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの合成〕
レゾルシン440.4g(4.0mol)をピリジン405gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これにテレフタル酸ジクロライド81.2g(0.4mol)をトルエン180gに懸濁させた液を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置し反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物を放冷すると沈殿が生成した。水300gを添加して懸濁させ、水1L中に排出し、得られた沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、ベージュ色の粉体130.0gを得た。HPLC分析の結果、粉体の主成分は90.7面積%に相当する成分であることがわかった。また、この粉体中にはレゾルシンが0.2重量%含まれていた。構造解析の結果、粉体中の主成分はテレフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルであることが判った。
【0069】
〔製造例B−7、イソフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルの合成〕
レゾルシン440.4g(4.0mol)をピリジン405gに溶解した溶液を氷浴上で15℃以下に保ちながら、これにイソフタル酸ジクロライド81.2g(0.4mol)をトルエン80gに懸濁させた液を徐々に滴下した。滴下終了後、得られた反応混合物を室温まで昇温し、一昼夜放置し反応を完結させた。反応混合物から、ピリジンを減圧下に留去し、残留物を放冷すると沈殿が生成した。水500gを添加して氷冷下熟成し、濾過、洗浄により湿体を得た。得られた湿体を200gのメタノールに溶解し、水2L中に排出し、得られた沈殿をろ過、水洗し、得られた湿体を減圧乾燥して、ベージュ色の粉体130.2gを得た。HPLC分析の結果、粉体の主成分は89.4面積%に相当する成分であることがわかった。また、この粉体中にはレゾルシンが0.8重量%含まれていた。構造解析の結果、粉体中の主成分はイソフタル酸ビス(3−ヒドロキシフェニル)エステルである事が判った。
【0070】
〔実施例1〜10及び比較例1〜12〕
2200mlのバンバリーミキサーを使用して、ゴム成分、硫黄、上記製造例(A−1〜A−6、B−1〜B−7)で得た各加硫促進剤、各レゾルシン系化合物(レゾルシン誘導体)、有機酸コバルト塩、その他の配合剤を下記表4及び表5に示す配合処方で混練り混合して未加硫のゴム組成物を調製し、以下の方法で、耐ブルーム性、ムーニー粘度、ムーニースコーチタイム、各接着性能(耐熱接着性、湿熱接着性、接着安定性)、タイヤ性能(接着耐久性)を以下に示す方法で評価した。
これらの結果を下記表4及び表5に示す。
なお、レゾルシン誘導体として、実施例では、上記製造例(B−1〜B−7)で得たものを使用し、比較例3ではレゾルシン、比較例4では、下記合成のRF樹脂を用いた。
【0071】
(比較例4のRF樹脂の合成)
まず、水1100g、レゾルシン1100g(10mol)、p−トルエンスルホン酸1.72g(10mmol)を冷却管、攪拌装置、温度計、滴下ロート、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに仕込み、70℃まで昇温した。37%ホルマリン溶液を477g(5.9mol)を2時間かけて滴下し、そのままの温度で5時間保持し、反応を完結させた。反応終了後、10%水酸化ナトリウム水溶液を4g加え中和した後、冷却器をディーンスターク型還流器に変え、水を留去しながら150℃まで昇温し、更に20mmHgの減圧下で1時間かけて水を除去し、RF樹脂を得た。得られたRF樹脂の軟化点は124℃、残存レゾルシン量は17%であった。
【0072】
(1)耐ブルーム性の評価方法
未加硫のゴム組成物を40℃で7日間貯蔵した後、配合剤がゴム表面に析出したか否かを目視で確認し、下記評価基準で官能評価した。
評価基準:
○:表面に配合剤が析出していない
△:一部に析出
×:全面に配合剤が析出
【0073】
(2)ムーニー粘度、ムーニースコーチタイムの評価方法
JIS K 6300−1:2001に準拠して行った。
なお、評価は、比較例1の値を100として指数表示した。ムーニー粘度は、値が小さいほど作業性が良好であることを示し、ムーニースコーチタイムは、値が大きい程、作業性が良好であることを示す。
【0074】
(3)耐熱接着性、湿熱接着性の評価方法
黄銅(Cu;63質量%、Zn;37質量%)メッキしたスチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下両側から上記未加硫ゴム組成物でコーティングし、これを直ちに160℃で20分間加硫して、幅12.5mmのサンプルを作製した。次に、ASTM−D−2229に準拠して、該サンプルのスチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、被覆率を0〜100%で表示して、各接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好であることを示す。
耐熱接着性は、各サンプルを100℃のギヤオーブンに15日、30日間放置した後に、上記試験法にて、スチールコードを引き抜き、ゴムの被覆状態を目視で観察し、0〜100%で表示し、各熱接着性の指標とした。数値が大きい程、耐熱接着性に優れていることを示す。
また、湿熱接着性は、加硫後、70℃、100%RH、4日間の湿熱条件下で老化させた後に測定した結果である。
【0075】
(4)接着安定性の評価方法
上記未加硫状態のスチールコード−コード複合体を、40℃、80%RHの恒温恒湿槽中に7日間放置した後、160℃で15分間加硫して、上記と同様にして初期接着性を測定し、接着安定性の指標とした。
【0076】
(5)タイヤ性能(接着耐久性)の評価方法
供試タイヤを、100℃、95%RHに保持した恒温恒湿槽中に5週間放置した後、タイヤからベルト層を取り出し、ベルト層中のスチールコードを引張試験機により50mm/minの速度で引張りベルト層より剥離し、露出したスチールコードのゴムの被覆状態を目視で観察し、その被覆率を0〜100%で表示して湿熱接着性の指標とした。数値が大きい程、接着性が高く良好であることを示す。
【0077】
【表4】

【0078】
【表5】

【0079】
上記表4及び表5中の*1〜*12は、下記のとおりである。
*1:N−フェニル−N´−1,3−ジメチルブチル―p−フェニレンジアミン
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラー6C)
*2:N,N´−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーDZ)
*3:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド
(大内新興化学工業社製、商品名:ノクセラーCZ)
*4:OMG社製、商品名:マノボンドC22.5、コバルト含有量22.5質量%
*5:N−メチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*6:N−エチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*7:N−n−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*8:N−i−プロピル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*9:N,N−ジ−i−プロピルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*10:N−n−ブチル−N−t−ブチルベンゾチアゾ−ル−2−スルフェンアミド
*11:レゾルシン
*12:RF樹脂
【0080】
上記表4及び表5の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜10は、本発明の範囲外となる比較例1〜12に較べて、耐ブルーム性が良好で有り、ムーニースコートタイムを長くすることができるので、作業性に優れると共に、耐熱接着性、湿熱接着性及び接着安定性、タイヤ性能に優れていることが判った。
また、本発明範囲の実施例1〜4は、R1が分岐アルキル基であり、R2が直鎖アルキル基であり、この組み合わせの加硫促進剤を用いることにより、従来にない本発明の特有の効果を発揮するものに対して、比較例11及び12では、R1、R2がどちらも分岐アルキル基の組み合わせの加硫促進剤を用いたものでは、本発明の効果を発揮できないことが判った。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の空気入りタイヤでは、乗用車、トラック、バス、二輪車用等のタイヤなどに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、硫黄と、下記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤、下記一般式(II)で表される化合物とを含有してなるゴム組成物をタイヤ部材に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部、上記一般式(II)で表される化合物0.1〜10質量部を含有してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部を含有してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄0.3〜10質量部と、上記一般式(I)で表されるスルフェンアミド系加硫促進剤0.1〜10質量部と、上記一般式(II)で表される化合物0.1〜10質量部とを含有してなる請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−アルキル基であり、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基であり、R3〜R6は、水素原子である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2はメチル基、エチル基、n−プロピル基であり、R3〜R6は、水素原子である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ゴム組成物における一般式(I)中のR1は、tert−ブチル基であり、n=0であり、R2はエチル基であり、R3〜R6は、水素原子である請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記ゴム組成物における一般式(II)で表される化合物が下記一般式(III)で表される化合物である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【化3】

【請求項10】
前記ゴム組成物における一般式(II)で表される化合物が下記一般式(IV)で表される化合物である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【化4】

【請求項11】
前記ゴム組成物には、更に、コバルト及び/又はコバルトを含有する化合物を含有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
コバルト及び/又はコバルトを含有する化合物の含有量がコバルト量として、ゴム成分100質量部に対し、0.03〜3質量部である請求項11に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
コバルトを含有する化合物が、有機酸のコバルト塩である請求項11又は12に記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記ゴム組成物のゴム成分が、天然ゴム及びポリイソプレンゴムの少なくとも一方を含む請求項1〜13の何れか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
前記ゴム組成物のゴム成分が、50質量%以上の天然ゴム及び残部を合成ゴムよりなる請求項1〜13の何れか一つに記載の空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−12164(P2011−12164A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157150(P2009−157150)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】