説明

空気入りタイヤ

【課題】石油資源の使用量削減、さらには転がり抵抗の低減を図りながら、タイヤの耐久性を向上させる。
【解決手段】ベルト層7の半径方向外側に、該ベルト層7の少なくともタイヤ軸方向外端部7Eを覆うバンド層9を具える。バンド層9は、ゴム成分中に天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムG0を用いた小巾長尺の帯状ゴムプライ10を、螺旋状に巻回することにより形成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油資源の使用量削減、さらには転がり抵抗の低減を図りながら、バンド層の耐久性を改善した空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、タイヤの高速耐久性能を向上させる目的で、ベルト層の半径方向外側に、互いに平行に引き揃えられた複数本の有機繊維コード(バンドコード)をトッピングゴムによって被覆した長尺帯状の帯状コードプライを螺旋状に巻回させたバンド層を形成したタイヤ構造が多用されている。そしてこのバンド層のバンドコードとして、従来、破断強度や耐久性に優れるナイロン繊維コードが広く使用されている。
【0003】
また近年、地球環境改善のために、例えば特許文献2に示すように、石油外資源由来の原材料を主成分して形成されたタイヤ(以下、「エコタイヤ」ということがある。)が注目されており、前記バンドコードに関しても、石油外資源由来のナイロン繊維コードの代替として、天然素材を原材料とする石油外資源由来のレーヨン繊維コードの使用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−40013号公報
【特許文献2】特開平2003−63206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レーヨン繊維コードは吸水性が高く、例えば水分率が4%を越えた時にゴムとの接着性が低下する傾向がある。又破断強度が低く脆いため、高速走行等においてコードが破断する恐れがある。
【0006】
又前記エコタイヤのために、さらにはタイヤの転がり抵抗低減のために、前記バンド層において、トッピングゴムの補強剤としてのカーボンブラックを、石油外資源由来のシリカに置きかえることも検討されている。しかしシリカ配合のゴムをバンド層に適用した場合、バンドコードとの接着性が減じ、タイヤの耐久性を低下させるという問題がある。特にバンドコードにレーヨン繊維コードを用いた場合には、その吸水性による接着性低下と相俟って耐久性の低下は顕著となる。
【0007】
そこで本発明は、前記帯状コードプライに代え、天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムを用いた帯状ゴムプライによってバンド層を形成することを基本として、石油資源の使用量削減、さらには転がり抵抗の低減を図りながら、タイヤの耐久性を改良した空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るトロイド状のカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるベルト層と、このベルト層の半径方向外側に配されかつ該ベルト層の少なくともタイヤ軸方向外端部を覆うバンド層とを具えるとともに、
前記バンド層は、ゴム成分中に天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムを用いた小巾長尺の帯状ゴムプライを、螺旋状に巻回することにより形成されたことを特徴としている。
【0009】
又請求項2の発明では、前記帯状ゴムプライは、前記短繊維・シリカ配合ゴムからなる内側層と、短繊維を配合しない短繊維非配合ゴムからなりかつ前記内側層の少なくとも上面及び下面を被覆する被覆層とから形成されることを特徴としている。
【0010】
又請求項3の発明では、前記短繊維・シリカ配合ゴムの短繊維は、その表面の少なくとも一部に、ラテックスにレゾルシノールとホルムアルデヒドとの縮合物を分散させたRFL溶液に浸漬することによって形成される接着層を具えることを特徴としている。
【0011】
又請求項4の発明では、前記短繊維・シリカ配合ゴムは、ゴム成分100質量部に対して、短繊維を10〜50質量部、シリカを20〜60質量部配合したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明は叙上の如く、天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムを用いた小巾長尺の帯状ゴムプライを、螺旋状に巻回することによりバンド層を形成している。そのため、ナイロン繊維コードをバンドコードとして使用した従来的なバンド層に比して、石油資源の使用量を削減しうる。又シリカ配合によるタイヤの転がり抵抗低減によって低燃費性能を向上できるため、二酸化炭素の排出量低減にも貢献しうる。
【0013】
又バンド層は、前記短繊維により周方向剛性が高められ、高弾性の弾性リングとして機能する。そのためベルト層の外端部を起点としたリフティングや外径成長を抑制でき高速耐久性を向上させうる。しかも、バンドコードに石油外資源由来のレーヨンコードを使用した場合に生じる、コードの破断損傷、及びコードの吸湿性に起因するコードとゴムとの接着性低下、さらにはシリカ配合に起因するコードとゴムとの接着性低下を回避しうるため、バンドコードにナイロン繊維コードを用いた場合とほぼ同等の高速耐久性、及び一般耐久性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】バンド層をベルト層とともに誇張して示す断面図である。
【図3】(A)、(B)は、バンド層の他の例を誇張して示す断面図である。
【図4】バンド層に用いる帯状ゴムプライの一例を示す斜視図である。
【図5】(A)は前記帯状ゴムプライの断面図、(B)は帯状ゴムプライの他の例を示す断面図である。
【図6】(A)、(B)は、帯状ゴムプライの形成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤ1が乗用車用ラジアルタイヤである場合の断面図であり、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るトロイド状のカーカス6と、該カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるベルト層7と、このベルト層7のさらに半径方向外側に配されるバンド層9とを少なくとも具える。
【0016】
前記カーカス6は、タイヤ周方向に対して例えば75゜〜90゜の角度で配列されるカーカスコードの配列体をトッピングゴムにて被覆した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを一連に具える。又該プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配置されている。
【0017】
前記ベルト層7は、タイヤ周方向に対して例えば10゜〜35゜の角度で配列されるベルトコードの配列体をトッピングゴムにて被覆した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。このベルト層7では、各ベルトコードがプライ7A、7B間で互いに交差し、これによりベルト剛性が高まり、トレッド部2の略全巾を強固に補強している。
【0018】
本発明のタイヤでは、カーカスコード及びベルトコードについては特に規制されないが、石油資源の使用量削減化の観点から石油外資源由来のコードが好ましく、カーカスコードにおいては、天然素材を原材料とした天然繊維コードが好適に使用できる。
【0019】
この天然繊維コードとしては、植物繊維の繊維素であるセルロースを加工した再生セルロース繊維および精製セルロース繊維のコードが好適に使用しうる。前記再生セルロース繊維は、セルロースを溶剤を用いていったん化学分解し、しかる後それを凝固再生したもので、レーヨン、アセテート、キュプラなどが知られている。又精製セルロース繊維は、セルロースを化学分解せずに物理的に精製したもので、セルロースの分子を生かしたまま溶解、連続紡糸することで形成される。この精製セルロース繊維としては、例えばリヨセル(レンチング社の商標)や、テンセル(コートルズ社の商標)が知られている。そして、カーカスコードでは、バンドコードほどには高い破断強度が要求されていないため、本例では、これら再生セルロース繊維、及び精製セルロース繊維をカーカスコードとして使用している。なお要求により、ナイロン、ポリエステル等の石油資源由来の合成繊維コードを使用することもできるが、この場合には、再生ポリエステル繊維などの再生繊維を用いることが石油資源の使用量削減の観点から好ましい。
【0020】
又前記ベルトコードには、従来的な石油外資源由来の金属コード、例えばスチールコードが好適に採用しうる。
【0021】
次に、前記バンド層9は、前記ベルト層7の半径方向外側に配され、このベルト層7の少なくともタイヤ軸方向外端部7Eを覆ってこの外端部7Eを拘束する。これにより、高速走行による遠心力に起因した前記外端部7Eを起点としたリフティングや外径成長を抑制し、高速耐久性を向上させる。
【0022】
本例では、前記バンド層9として、図2に示すように、前記外端部7Eを含むベルト層7の略全巾を覆うフルバンドプライ9Aから形成された場合が示される。しかし、例えば図3(A)に示すように、前記外端部7Eのみを被覆する左右一対のエッジバンドプライ9B、9Bから形成されるもの、或いは図3(B)に示すように、前記フルバンドプライ9Aとエッジバンドプライ9B、9Bとを組合せたものなども適宜採用しうる。
【0023】
そして、前記フルバンドプライ9A、及びエッジバンドプライ9Bは、図4、5に示すように、ゴム成分中に天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムG0を用いた小巾長尺の帯状ゴムプライ10を、螺旋状に巻回することにより形成される。なお前記帯状ゴムプライ10の巾W、及び厚さtについては特に規制されないが、従来のバンド層に用いる帯状コードプライの場合と同様、5〜10mmの巾、0.7〜3.0mmの厚さのものが、従来の巻回装置を利用しうる等の観点から好ましい。
【0024】
又前記帯状ゴムプライ10は、本例では、前記短繊維・シリカ配合ゴムG0からなる内側層10Aと、短繊維を配合しない短繊維非配合ゴムG1からなりかつ前記内側層10Aの少なくとも上面S1及び下面S2を被覆する薄い被覆層10Bとから形成される。特に図5(A)には、内側層10Aの周囲を被覆層10Bで被覆したものが示されるが、図5(B)に示すように、内側層10Aの上面S1及び下面S2を上下の被覆層10Bで被覆したものも採用しうる。
【0025】
前記短繊維・シリカ配合ゴムG0、及び短繊維非配合ゴムG1のゴム成分としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム等のジエン系ゴムが単独或いは組み合わせて使用されるが、石油資源の使用量削減や接着性の観点から、ゴム成分中に天然ゴムを65質量%以上、さらには75質量%以上含むものが特に好適である。なお前記天然ゴムとしては、天然ゴムの一部を例えばクロルヒドリン法、直接酸化法、過酸化水素法、アルキルヒドロペルオキシド法、過酸法等の方法によってエポキシ化したエポキシ化天然ゴムも含まれる。
【0026】
又前記短繊維・シリカ配合ゴムG0に用いる短繊維としては、天然素材のものが使用される。この天然素材の短繊維として、植物繊維、動物繊維、前記再生セルロース繊維、及び前記精製セルロース繊維の短繊維が挙げられるが、前記再生セルロース繊維、精製セルロース繊維は、補強効果の観点から好適である。なお短繊維が細かすぎると補強効果が減じる傾向があり、又粗すぎると帯状ゴムプライ10にクラックが生じやすくなるなど耐久性が減じる傾向となる。従って短繊維を篩にて分級したとき、タイラーメッシュで20メッシュを通り60メッシュを通らない粗さのものが好適に採用しうる。なお短繊維としてその平均直径Dが1〜50μm、平均長さLが100〜3000μm、又平均長さLと平均直径Dとの比であるアスペクト比L/Dが10〜500のものが好適に採用しうる。
【0027】
又前記短繊維では、ゴム成分との接着性を高めるために、その表面の少なくとも一部に、RFL溶液に浸漬することによって形成される接着層を具えることが好ましい。このような短繊維は、例えば下記の方法にて得ることができる。まず前記短繊維の材料となる繊維コード或いは繊維糸(以下総称して繊維コード等と呼ぶ。)を、RFL溶液に浸漬する。しかる後、この繊維コード等を温度100〜160℃(例えば約120℃)にて加熱して乾燥させるとともに、この乾燥させた繊維コード等を、さらに温度215〜260℃で時間1〜4分間加熱処理し、繊維コード等とそれに付着するRFL溶液の固形分との結合力を高める。その後、この繊維コード等を粉砕機にて粉砕することにより、前記RFL溶液の固形分からなる接着層を表面の少なくとも一部に有する短繊維を形成することができる。なお前記RFL溶液は、ゴムラテックス(L)に、レゾルシノール(R)とホルムアルデヒド(F)との縮合物を分散させた周知の接着用の処理溶液である。
【0028】
又前記短繊維・シリカ配合ゴムG0には、ゴム補強剤としてシリカが配合されている。シリカとしては、特に限定はされないが、窒素吸着比表面積(BET)が150〜250m/gの範囲、かつフタル酸ジブチル(DBP)吸油量が180ml/100g以上のコロイダル特性を示すものが、ゴムへの補強効果及びゴム加工性等の点で好ましい。このようなシリカは、カーボンブラックの使用量を減じて石油資源の使用量を削減しうるとともに、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上できるため、二酸化炭素の排出量低減にも貢献しうる。
【0029】
又前記被覆層10Bは、タイヤ形成時に帯状ゴムプライ10をベルト層7上で巻き付ける際、帯状ゴムプライ10とベルト層7との密着性を高めて、バンド層9の形成効率及び形成精度を高めるために形成される。従って、前記被覆層10Bには、表面が凹凸のない平滑面となりかつ粘着性を高めるために短繊維が配合されない短繊維非配合ゴムG1が使用される。この短繊維非配合ゴムG1では、補強剤としてカーボンブラックを使用することができるが、シリカを使用することが好ましい。又被覆層10Bの厚さTは、0.2〜1.0mmの範囲が好ましく、0.2mm未満では、被覆層10Bによる密着性向上効果が期待できず、逆に1.0mmを越えると、バンド層9に占める短繊維・シリカ配合ゴムG0の割合が減じるため、高速耐久性の向上に悪影響を与える。
【0030】
前記帯状ゴムプライ10は、例えば図6(A)に示すように、例えば多軸式の押出機E、プリフォーマM及びダイプレートPとを用いて容易に押出し成形することができる。なお図6(B)は、図6(A)のA−A断面図を示す。前記押出機Eは、例えば中央の第1の押出口O1から短繊維・シリカ配合ゴムG0を押し出し、又その周囲を囲む環状の第2の押出口O2から短繊維非配合ゴムG1を押し出す。また、それぞれ押し出されたゴムG0、G1は、押出機Eに固着されたプリフォーマM及びダイプレートPを経て相互に一体化し、前端のダイプレートPに設ける第3の押出口O3から、所定の断面形状に成形されて押し出される。
【0031】
なお帯状ゴムプライ10の製造方法は上記の具体例に限定されるものではなく、例えば押出機或いはカレンダーロールにより内側層10Aを形成し、その上下面に、他のカレンダーロールにて形成した被覆層10Bを貼着することで図5(B)に示す構造の帯状ゴムプライ10を形成することもできる。
【0032】
ここで、前記短繊維・シリカ配合ゴムG0を押出機を用いて押出成形する、或いはカレンダロールを用いて圧延成形する場合には、前記短繊維は、押し出し方向である帯状ゴムプライの長さ方向に沿って配向する。従って、前記帯状ゴムプライ10を螺旋状に巻回してバンド層9を形成することにより、前記短繊維はタイヤ周方向に配向し、周方向剛性を高める。これによりバンド層9を高弾性の弾性リングとして機能せしめ、ベルト層7の外端部7Eを起点としたリフティングや外径成長を抑制しうる。
【0033】
又バンド層9は、前記短繊維にレーヨン繊維を用いたとしても、レーヨン繊維コードの場合と異なり、吸水性に起因するコードとゴムとの接着性の低下、及びシリカに起因するコードとゴムとの接着性の低下が顕著に生じることがなく、しかもレーヨン繊維コードの脆さによる破断も発生しない。そのため、前記リフティングや外径成長の抑制を安定して発揮することができ、高速耐久性だけでなく一般耐久性を、例えばナイロン繊維コードを用いた従来のバンド層と、ほぼ同レベルで発揮することが可能となる。
【0034】
前記短繊維・シリカ配合ゴムG0では、ゴム成分100質量部に対して、短繊維を10〜50質量部、シリカを20〜60質量部配合するのが好ましい。前記短繊維の配合量が10質量部未満の場合には、ベルト層7に対するリフティングや外径成長の抑制が不充分であり、高速耐久性を満足させることが難しくなる。又シリカの配合量が20質量部未満の場合には、石油資源の使用量削減、および転がり抵抗の低減が充分達成されない。逆に、前記短繊維の配合量が50質量部を越える、及びシリカの配合量が60質量部を越える場合には、バンド層9が硬質化し過ぎて脆くなり、一般耐久性を損ねる傾向となる。従って、前記短繊維の配合量の下限は15質量部以上がより好ましく、上限は35質量部以下がより好ましい。又シリカの配合量の下限は25質量部以上がより好ましく、上限は55質量部以下がより好ましい。又シリカとカーボンブラックとを混用する場合、それぞれの配合量の合計が40質量部より大であるのが高速耐久性から好ましい。
【0035】
次に、前記帯状ゴムプライ10では、前記被覆層10Bを設けることなく、短繊維・シリカ配合ゴムG0による内側層10Aのみによって形成することもできる。
【0036】
又バンド層9は、前記図3(A)に示すように、エッジバンドプライ9B、9Bによって形成することができる。この場合、前記エッジバンドプライ9Bを、ベルト層7のタイヤ軸方向外端から、ベルト層7のタイヤ軸方向巾WBの10%以上かつ20%以下の範囲Yを被覆するように形成するのが好ましい。なお前記被覆の範囲Yが10%未満では、高速耐久性の向上効果が充分に達成されない。又20%を越えても、高速耐久性向上効果のさらなる上昇が見込まれないため、コストの不必要な増加を招く。
【0037】
しかし前記高速耐久性に加えて、操縦安定性やロードノイズ性能の向上のために、前記20%を越えてエッジバンドプライ9Bを形成することができ、さらには、エッジバンドプライ9B、9B間であるタイヤ赤道側に、補助コードをトッピングゴムによって被覆した小巾長尺の帯状コードプライを螺旋状に巻回させたバンド補助層12(図3(A)に一点鎖線で示す。)を形成することもできる。このタイヤ赤道側では、前記リフティングや外径成長が発生し難いため、前記補助コードとして、前記天然繊維コード、例えばレーヨン繊維コードを用いることができ、又トッピングゴムには、短繊維を配合しない短繊維非配合ゴムを用いることができる。なおバンド補助層12を形成する場合、バンド補助層12の側縁部とエッジバンドプライ9Bの側縁部とを互いに突き合わせる以外に、両者を重ね合わせることも、又離間させることもできる。
【0038】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0039】
本発明の作用効果を確認するため、図1に示す内部構造を有するタイヤサイズ195/65R15の乗用車用ラジアルタイヤを表1、表2の仕様で試作するとともに、各試供タイヤの、高速耐久性、及び一般耐久性をテストし互いに比較した。又バンド層形成用の帯状プライ(帯状ゴムプライ及び帯状コードプライを総称して帯状プライという。)のサンプルを試作して、帯状プライ間の加硫後における接着性をテストした。なお各タイヤとも、表1、表2に記載のバンド層の仕様以外は実質的に同仕様である。
【0040】
なお比較例A1〜A4は、バンドコードを有する帯状プライを螺旋巻きすることによりバンド層を形成している。又表1の実施例A1〜A10、比較例A5〜A9は、帯状プライを内側層のみで形成しており、表2の実施例B1〜B8、比較例B1〜B6は、帯状プライを内側層と、その周囲を覆う被覆層とで形成している。なお被覆層の厚さTは1.0mmである。又短繊維として、40メッシュを通り50メッシュを通らない粗さのものを使用した。又バンド補助層は、比較例A2と同様レーヨン繊維コード(1260d/2)の配列体を短繊維非配合ゴムでトッピングした帯状コードプライを用いて形成している。
【0041】
(1)高速耐久性:
ドラム試験機を用い、リム(15x6)、内圧(280kPa)、荷重(4.83kN)の条件にて、JISD4230の6.4「高速性能試験A」に準拠し、初期速度(170 km/h)から190km/hまでは10分毎に10km/hづつステップアップさせ、
かつ200km/h以上は20分毎に10km/hづつステップアップさせ、トレッド部に損傷が生じた時の速度と時間を測定した。又トレッド部に損傷が生じた時の速度が210km/h以上の場合を合格とした。
【0042】
(2)一般耐久性:
ドラム試験機を用い、リム(15x6)、内圧(190kPa)、荷重(6.96kN)の条件にて、速度80km/hで3万km走行した後、バンド層の周辺を解体し、バンド層に損傷が発生しているかどうかを目視によって判定した。損傷がないものを合格とした。
【0043】
(3)接着性:
バンド層が帯状ゴムプライから形成される場合、帯状ゴムプライ形成用の配合ゴム(短繊維の水分率6%)を用いて、厚さ1.0mmの未加硫のゴムシートを形成するとともに、このゴムシートの2枚を貼り合わせ、170℃で15分間プレス加硫して接着性試験用のサンプルを試作した。このサンプルを、25cm巾にて短繊維の配向方向に沿って切断し、JISK6256−1に準拠して、2枚のゴムシート間を引張試験機により50mm/分の引張速度で引っ張ることにより、ゴムシート間の接着力(単位N/25cm)を測定した。又何れのサンプルも、ゴムシート間の界面とは異なる位置で、ゴムが引き千切られるように剥離しており、接着力は高い値を示している。
【0044】
又バンド層が帯状コードプライから形成される場合、等間隔に並べたバンドコード(水分率6%)を、帯状コードプライ形成用の配合ゴムからなる厚さ0.7mmの2枚の未加硫のゴムシートにて挟み込んでコード入りゴムシートを形成するとともに、このコード入りゴムシートの2枚を貼り合わせ、170℃で15分間プレス加硫して接着性試験用のサンプルを試作した。このサンプルを、25cm巾にてバンドコードの長さ方向に沿って切断し、JISK6256−1に準拠して、2枚のコード入りゴムシート間を引張試験機により50mm/分の引張速度で引っ張ることにより、コード入りゴムシート間の接着力(単位N/25cm)を測定した。何れのサンプルも、バンドコードからゴムが剥がれるように剥離しており、接着力は低い値を示している。
【0045】
(4)バンド層形成時の密着性:
生タイヤ形成時にバンド層を形成する際の、帯状プライと、ベルト層との密着性を、
生タイヤ形成時に帯状プライをベルト層上で巻き付ける際の、帯状プライとベルト層との密着性を○、△、×の三段階で評価した。
○−−密着性に優れる。
△−−密着性に劣るが、バンド層の形成効率及び形成精度には、問題ない。
×−−密着性に劣り、バンド層の形成効率及び形成精度に悪影響を与える。
【0046】
【表1】


【0047】
【表2】

【0048】
表1に示すように、実施例のタイヤは、短繊維の配合量を調整することにより、石油資源の使用量を削減しながら、コードの破断損傷、及びコードの吸湿性に起因するコードとゴムとの接着性低下、さらにはシリカ配合に起因するコードとゴムとの接着性低下を回避でき、バンドコードにナイロン繊維コードを用いた場合とほぼ同等の高速耐久性、及び一般耐久性を確保することができるのが確認できる。
【0049】
又表2に示すように、帯状プライに、短繊維非配合ゴムからなる被覆層を設けることにより、上記効果を発揮しながら、帯状プライとベルト層との密着性を高めることができ、バンド層の形成効率及び形成精度を高く確保しうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0050】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
7 ベルト層
9 バンド層
10 帯状ゴムプライ
10A 内側層
10B 被覆層
G0 短繊維・シリカ配合ゴム
G1 短繊維非配合ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るトロイド状のカーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配されるベルト層と、このベルト層の半径方向外側に配されかつ該ベルト層の少なくともタイヤ軸方向外端部を覆うバンド層とを具えるとともに、
前記バンド層は、ゴム成分中に天然素材の短繊維とシリカとを配合した短繊維・シリカ配合ゴムを用いた小巾長尺の帯状ゴムプライを、螺旋状に巻回することにより形成されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記帯状ゴムプライは、前記短繊維・シリカ配合ゴムからなる内側層と、短繊維を配合しない短繊維非配合ゴムからなりかつ前記内側層の少なくとも上面及び下面を被覆する被覆層とから形成されることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記短繊維・シリカ配合ゴムの短繊維は、その表面の少なくとも一部に、ラテックスにレゾルシノールとホルムアルデヒドとの縮合物を分散させたRFL溶液に浸漬することによって形成される接着層を具えることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記短繊維・シリカ配合ゴムは、ゴム成分100質量部に対して、短繊維を10〜50質量部、シリカを20〜60質量部配合したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−136671(P2011−136671A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299131(P2009−299131)
【出願日】平成21年12月29日(2009.12.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】