説明

空気分離モジュールに所定の温度の空気を供給する装置および方法

【課題】航空機のエンジンブリードなどの高温の圧縮空気は、空気分離モジュールに送られるまでに、ダクトや熱換器における熱の損失が大きい。
【解決手段】圧縮空気源220が、ダクト260と、圧縮空気を空気分離モジュール215まで直接的に送る第1の経路240と、を介して、高温の圧縮空気を通流させるとともに、熱交換器230内を通る第2の経路225を介して高温の圧縮空気を通流させる。熱交換器230内を通る第2の経路225は、熱交換器230の下流に配置されている弁245によって調節される。センサ250が、空気分離モジュール215に流入するときの空気の温度を測定し、コントローラ255が、センサ250からのフィードバックを受けるとともに、第1の経路と第2の経路からの温度の異なる空気の混合物が適当な温度となって空気分離モジュールに供給されるように、弁245の位置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気分離モジュールに所定の温度の空気を供給する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機には、燃料タンク事故を少なくするために、搭載型不活性ガス発生システム(OBIGGS:on board inert gas generating system)を使用しているものがある。燃料タンク内のエアスペースに存在する危険性のある燃料/空気混合物(このような混合物は「アレージ(ullage)」として知られる)は、該アレージの酸素含有率を減らすことによって、希釈され、最小限に抑えられる。OBIGGSは、アレージに窒素リッチの空気(NEA:nitrogen enriched air)を添加することによって希釈を行う。OBIGGSは、周囲空気から酸素を分離し、酸素が奪われて比較的不活性なNEAを燃料タンクに圧送する。
【0003】
OBBIGSは、空気分離モジュール(ASM:air separation module)内の通気膜(permeable membranes)を使用することによってNEAを生成することができる。空気分離モジュールは、一般に、両端に入口および出口を備えるとともに、側面にベントポートを備えた円筒状のシェル内に、中空の通気性繊維部材の束が詰められたものからなる。圧縮空気が空気分離モジュール入口から入って中空の繊維を通るときに、この繊維壁を通しての拡散によって、酸素が空気流から分離される。酸素は、側面のベントポートを介して流出し、ここで捕集することもができるが、この酸素は排気ガスとして機外に捨てられることが多い。
【0004】
残りの空気は、窒素リッチであると考えられる。なぜなら、空気中のガスの通常レベルでは、空気からすべての酸素が除かれた場合、残りの空気の約97%は、窒素だからである。しかし、NEAに含まれる通常の酸素濃度は、ゼロではないことが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
残ったNEAは、1つまたは複数の燃料タンクを不活性にして燃焼の可能性を低減することを目的として、出口ポートを介して空気分離モジュールから流出し、該1つまたは複数の燃料タンクのアレージスペースに供給される。空気分離モジュールは、管を通過する酸素の通気の点では、通常180°F〜200°F(約82℃〜約93℃)の高温において、最も効率よく作動する。
【0006】
NEA発生に使用される圧縮空気は、通常、航空機内のエンジンブリードシステムまたは他の圧縮源からのものである。エンジンブリードシステムでは、圧縮された高温の空気は、普通は、熱交換器によって最適な温度まで冷却されてから空気分離モジュールまで通気される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非制限的な一実施例によると、空気分離モジュールに所定の温度の空気を供給する装置であって、ある温度の空気を空気分離モジュールに送る第1の経路と、ある温度の空気を空気分離モジュールに送る第2の経路と、第2の経路が内部を通り、かつその空気の温度を第2の温度になるように調節する熱交換器と、第2の経路を通して流れる空気の量を制御する弁と、を備え、この弁による制御によって、第1の経路と第2の経路を介して空気分離モジュールに送られる空気の温度が空気分離モジュールを作動させるための所望の温度よりも低い場合、ほぼすべての空気が第1の経路を通して流れるようにすることを特徴とする装置が提示される。
【0008】
本明細書中に示される他の非制限的な実施例によると、所望の温度範囲で作動し、かつ所望の温度範囲よりも低い温度環境下で用いられる空気分離モジュールに、所定の温度の空気を供給する方法であって、空気分離モジュールに第1の空気流を供給し、選択的に熱交換器に第2の空気流を供給し、第1の空気流と第2の空気流とを混合することによって所望の温度範囲で空気を送ることができる場合には、第1の空気流と第2の空気流とを混合すること、を含む方法が提示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】空気分離モジュールに空気を供給する従来技術のOBIGGSを示す概略図。
【図1B】空気分離モジュールに空気を供給する従来技術のOBIGGSを示す概略図。
【図2】空気分離モジュールに空気を供給する本発明のOBIGGSの一実施例の概略図。
【図3】空気分離モジュールに空気を供給する本発明のOBIGGSの他の実施例の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1Aに、空気分離モジュール15に圧縮空気を供給する従来技術のOBIGGS10を示す。航空機エンジン(図示せず)などの圧縮空気源20が、ダクト60と2つの別個の経路を介して空気分離モジュール15に圧縮空気を供給する。第1の経路25は、弁を介することなく、熱交換器30を介して、高温の圧縮空気の第1の部分を供給する。熱交換器30は、高温の圧縮空気を取り入れ、周囲空気または航空機内の他の冷却空気源35(図示せず)を使って、この高温の圧縮空気を冷却する。第2の経路40は、弁45を介して、高温の圧縮空気の第2の部分を供給し、この第2の部分は、熱交換器30を通過した空気の下流で第1の経路25内の空気と混合する。
【0011】
空気分離モジュール15は、一般に、効率良く作動するために、180°F〜200°F(約82℃〜約93℃)付近の温度の空気を要求する。圧縮空気源20からの空気は、一般に、300°F〜500°F(約149℃〜約260℃)の範囲の温度で供給される。センサ50が、空気分離モジュールに流入するときの空気の温度を測定し、コントローラ55が、センサ50からのフィードバックを受けて、第1の経路25と第2の経路40からの異なる温度の空気の混合物が適当な温度となって空気分離モジュールに供給されるように、弁45の位置を制御する。
【0012】
図1Bに、空気分離モジュール115に圧縮空気を供給する第2の従来技術のOBIGGS65のシステムを示す。このシステムによると、空気分離モジュール115に送られる空気のすべてが、熱交換器130に送られて冷却されてから空気分離モジュール115に供給される。このシステムは、熱交換器130に供給される冷却空気の量を弁145で制御することによって、空気分離モジュールに送られる空気の温度を調節する。センサ150が、空気分離モジュール115に流入するときの空気の温度を測定し、コントローラ155が、センサ150からのフィードバックを受けて、空気分離モジュール115に送られる空気が空気分離モジュール115を効率良く作動させるのに適当な温度範囲まで冷却されるように、熱交換器130へ冷却空気を導く弁145の位置を制御する。
【0013】
図1Aおよび図1Bに示す従来技術のシステムには、問題点がある。圧縮空気源20,120、熱交換器30,130および空気分離モジュール15,115を繋いでいるダクト60,160や経路40,140,25,125内を流れている時に、熱の損失が大きい。例えば、高度30,000フィート(約9,144メートル)における外気温は、−30°F(約−34℃)以下になり得る。そのような低温においては、システム内で大きな熱の損失が生じることがある。この熱の損失によって、空気分離モジュールに送られる空気の最高温度が、空気分離モジュールを効率良く作動させるのに適当な温度範囲よりも低くなることがある。ダクト内の熱の損失の問題をさらに複雑にすることとして、航空機エンジン(図示せず)は、高所での要求動力が小さく、エンジンブリードエアの温度がブリードエア温度範囲の最低温度となり得るということがある。
【0014】
例えば、図1Aの例においては、熱交換器30内を流れている冷却空気が調節されず、高所における非常に冷たい空気が熱交換器30内を流れるので、高温の空気を第2の経路40に導く弁45が完全に開いている場合でも、ダクト60および経路25,45に冷たい空気が作用することと相俟って、180°F(約82℃)よりも温度が低下してしまうことがある。この場合には、熱交換器30を通る第1の経路25内の圧縮空気の温度が下がり過ぎてしまうので、弁45を介して第2の経路40に流れる高温の圧縮空気の量では、混合空気の温度を180°F〜200°F(約82℃〜約93℃)まで上昇させることができない。
【0015】
また、図1Bの例においては、高温の圧縮空気のすべてが、熱交換器130を通って流れる。冷却空気源135から熱交換器130へ流れる冷却空気を調節することができるとしても、ダクト160および経路125,140内における熱の損失と、熱交換器130の放熱効果とによって、空気分離モジュールに供給される空気の温度が180°F(約82℃)よりも低くなってしまうことがある。これは、冷却空気源135から熱交換器130内へ冷却空気が流れることを可能にする弁145が完全に閉じている場合にも、当てはまる。
【0016】
図2は、空気分離モジュール215に圧縮空気を供給する本発明のOBIGGS70の非制限的な一実施例を示す。この実施例においては、圧縮空気源220が、ダクト260と、圧縮空気を空気分離モジュール215まで直接的に送る第1の経路240と、を介して、高温の圧縮空気を通流させる。この圧縮空気源220は、また、熱交換器230内を通る第2の経路225を介して高温の圧縮空気を通流させる。熱交換器230内を通る第2の経路225は、熱交換器230の下流に配置されている弁245によって調節される。センサ250が、空気分離モジュール215に流入する空気の温度を測定し、コントローラ255が、センサ250からのフィードバックを受けて、第1の経路と第2の経路からの温度の異なる空気の混合物が適当な温度となって空気分離モジュールに供給されるように、弁245の位置を制御する。
【0017】
図2を参照すると、熱交換器230を通る低温空気流を制御する弁245が閉じられている場合、高温の圧縮空気は、第1の経路240を通って直接的に空気分離モジュールまで流れる。換言すれば、従来技術とは異なり、高温の圧縮空気の出力を、先に熱交換器230に通すこと(図1Aおよび図1Bを参照)なく、直接的に空気分離モジュールまで送ることができるので、ダクト260、第2の経路225および熱交換器230における熱の損失によって空気分離モジュール215に流入するときの空気の温度が要求温度よりも低下することがない。熱交換器230、経路225,240およびダクト260を流れている圧縮空気の熱の損失が大き過ぎる場合、冷却は必要ではない。
【0018】
図3は、空気分離モジュール315に圧縮空気を供給するOBIGGS70の他の実施例である。この実施例においては、圧縮空気源320は、ダクト360と、圧縮空気を空気分離モジュール315まで直接的に送る第1の経路340と、を介して、高温の圧縮空気を通流させる。この圧縮空気源320は、また、熱交換器330内を通る第2の経路325を介して高温の圧縮空気を通流させる。第1の経路340内を流れている空気と、第2の経路325内を流れている空気と、の比率は、熱交換器330の上流に配置されている弁345によって調節される。センサ350が、空気分離モジュール315に流入するときの空気の温度を測定し、コントローラ355が、センサ350からのフィードバックを受けて、第1の経路と第2の経路からの異なる温度の空気の混合物が適当な温度となって空気分離モジュールに供給されるように、弁345の位置を制御する。
【0019】
さらに図3を参照すると、熱交換器330を通る低温空気流を制御する弁345が閉じられている場合、高温の圧縮空気は、第1の経路340を通って直接的に空気分離モジュールまで流れる。換言すれば、従来技術とは異なり、高温の圧縮空気の出力を、先に熱交換器330を通すこと(図1Aおよび図1Bを参照)なく、空気分離モジュールまで直接的に送ることができるので、ダクト360、第2の経路325や熱交換器330における熱の損失によって空気分離モジュール315に流入するときの空気の温度が要求温度よりも低下することがない。熱交換器330、経路325,340およびダクト360を流れている圧縮空気の熱の損失が大き過ぎる場合、冷却は必要とされない。
【0020】
以上の説明は、本発明の範囲を限定するためのものではなく、例示するためのものである。本明細書中にさまざまな非制限的な実施例を開示したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく、上記の教示を参照して、さまざまな変更および修正がなされ得ることを理解されるであろう。そのため、本発明の特許請求の範囲を逸脱することなく、具体的に説明した以外の態様で本発明が実施され得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0021】
215…空気分離モジュール
220…圧縮空気源
230…熱交換器
235…冷却空気源
255…コントローラ
315…空気分離モジュール
320…圧縮空気源
330…熱交換器
235…冷却空気源
230…熱交換器
255…冷却空気源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気分離モジュールに所定の温度の空気を供給する装置であって、
ある温度の空気を上記空気分離モジュールに送る第1の経路と、
ある温度の空気を上記空気分離モジュールに送る第2の経路と、
上記第2の経路が内部を通り、かつその空気の温度を第2の温度になるように調節する熱交換器と、
上記第2の経路を通して流れる空気の量を制御する弁と、
を備え、
上記弁による制御によって、上記第1の経路と第2の経路を介して上記空気分離モジュールに送られる空気の温度が上記空気分離モジュールを作動させるための所望の温度よりも低い場合、ほぼすべての空気が上記第1の経路を通して流れるようにすることを特徴とする装置。
【請求項2】
上記第1の経路と第2の経路が上記熱交換器の下流で合流することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
上記第1の経路および第2の経路に、ある温度の圧縮空気を供給する圧縮空気源をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】
上記弁は、上記熱交換器の上流に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】
上記弁は、上記熱交換器の下流に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
所望の温度範囲で作動し、かつ該所望の温度範囲よりも低い環境下で用いられる空気分離モジュールに、所定の温度の空気を供給する方法であって、
上記空気分離モジュールに第1の空気流を供給し、
選択的に熱交換器に第2の空気流を供給し、
上記第1の空気流と第2の空気流とを混合することによって上記所望の温度範囲で空気を送ることができる場合には、上記第1の空気流と第2の空気流とを混合すること、
を含む方法。
【請求項7】
上記混合された空気流を上記分離モジュールに供給することをさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記混合することによって上記所望の温度範囲で空気を送ることができない場合には、上記第1の空気流と第2の空気流とを混合しないことをさらに含む請求項6に記載の方法。
【請求項9】
選択的に第2の空気流を供給することが、上記熱交換器の上流での弁の調整を含む請求項6に記載の方法。
【請求項10】
選択的に第2の空気流を供給することが、上記熱交換器の下流での弁の調整を含む請求項6に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−142801(P2010−142801A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264487(P2009−264487)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(500107762)ハミルトン・サンドストランド・コーポレイション (165)
【氏名又は名称原語表記】HAMILTON SUNDSTRAND CORPORATION
【住所又は居所原語表記】One Hamilton Road, Windsor Locks, CT 06096−1010, U.S.A.
【Fターム(参考)】