説明

空気圧縮機

【課題】電動機のケーシング内に塵埃が侵入するのを防止することができ、信頼性の向上を図ることができる空気圧縮機を提供する。
【解決手段】圧縮機本体1と、電動機2と、電動機2の動力を圧縮機本体1へ伝達するギヤ機構3と、圧縮機本体1のケーシングと電動機2のケーシングとの間に接続され、ギヤ機構3を収納するギヤケーシング4と、ギヤケーシング4の内部空間と電動機メインケーシング8の内部空間とを区画する負荷側ケーシング9及びシールカバー24と、負荷側ケーシング9における電動機2の回転軸5の貫通部分の隙間に設けられた非接触式のビスコシール23とを備えた空気圧縮機において、負荷側ケーシング9及びシールカバー24におけるビスコシール23より電動機2側の隙間(溝25内の空間)と空気圧縮機の外部とを、電動機メインケーシング9の内部空間を経由しないで連通する連通孔26,27を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤケーシングの内部空間と電動機ケーシングの内部空間とを区画する隔壁部において電動機の回転軸が貫通する部分の隙間に非接触式のビスコシールを設けた空気圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
空気を圧縮する圧縮機本体と、この圧縮機本体の動力源である電動機と、この電動機の動力を圧縮機本体へ伝達するギヤ機構と、圧縮機本体のケーシングと電動機のケーシングとの間で接続され、ギヤ機構等を収納するギヤケーシングとを備えた空気圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。この空気圧縮機においては、ギヤケーシングの内部空間と電動機のケーシングの内部空間とを区画する隔壁部(特許文献1では、ギヤケーシングの一部)を有し、この隔壁部において電動機の回転軸が貫通する部分の隙間には、非接触式のビスコシールが設けられている。ビスコシールは、その内周面にネジ溝が形成されており、電動機の回転軸の回転によって電動機ケーシング側からギヤケーシング側への流れを発生させる。これにより、ギヤケーシング内の潤滑油が電動機のケーシング内に侵入するのを防止するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−97186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術には以下のような改善の余地がある。すなわち、上記従来技術では、ギヤケーシングの内部空間と電動機の内部空間とを区画する隔壁部において電動機の回転軸が貫通する部分の隙間にはビスコシールが設けられており、電動機の回転軸の回転によって電動機ケーシング側からギヤケーシング側への流れを発生させるようになっている。そのため、ビスコシールより電動機側が負圧となり、電動機のケーシングの内部空間が負圧となる。そして、電動機のケーシングに微少な隙間が生じていれば、電動機のケーシングの内部空間に外気(大気)を吸込んでしまい、長期にわたれば外気中に含まれた塵埃が堆積して過熱等の不具合が生じる可能性がある。
【0005】
本発明の目的は、電動機ケーシング内に塵埃が侵入するのを防止することができ、信頼性の向上を図ることができる空気圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記目的を達成するために、空気を圧縮する圧縮機本体と、前記圧縮機本体の動力源である電動機と、前記電動機の動力を前記圧縮機本体へ伝達するギヤ機構と、前記圧縮機本体のケーシングと前記電動機のケーシングとの間で接続され、前記ギヤ機構を収納するギヤケーシングと、前記ギヤケーシングの内部空間と前記電動機のケーシングの内部空間とを区画する隔壁部と、前記隔壁部における前記電動機の回転軸が貫通する部分の隙間に設けられ、前記ギヤケーシング内の潤滑油が前記電動機のケーシング内に侵入するのを防止する非接触式のビスコシールとを備えた空気圧縮機において、前記隔壁部における前記ビスコシールより前記電動機側の隙間と前記空気圧縮機の外部とを、前記電動機のケーシングの内部空間を経由しないで連通する連通孔を形成する。
【0007】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記連通孔は、前記隔壁部に形成する。
【0008】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記電動機の回転軸の反負荷側端部は、前記電動機のケーシングを貫通して外部まで延在し、前記電動機のケーシングにおける前記電動機の回転軸の反負荷側端部が貫通する部分の隙間には、接触式のシールを設けており、前記連通孔は、前記電動機の回転軸の内部に形成されて反負荷側端面まで延在する。
【発明の効果】
【0009】
本発明において、ビスコシールは、電動機の回転軸の回転によって電動機ケーシング側からギヤケーシング側への流れを発生させる。このとき、隔壁部におけるビスコシールより電動機側の隙間に連通孔を介して外気を供給することができ、電動機のケーシングの内部空間が負圧となるのを防止することができる。したがって、電動機のケーシングに微少な隙間が生じていても、電動機ケーシング内に塵埃が侵入するのを防止することができ、信頼性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施形態における空気圧縮機の断面構造を空気系統及び油系統とともに表す図である。
【図2】本発明の第2の実施形態における空気圧縮機の断面構造を空気系統及び油系統とともに表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施形態を図1により説明する。図1は、本実施形態における空気圧縮機の断面構造を空気系統及び油系統とともに表す図である。
【0012】
この図1において、空気圧縮機は、空気を圧縮する圧縮機本体1と、この圧縮機本体1の動力源である電動機(例えば永久磁石電動機)2と、この電動機2の動力を圧縮機本体1へ伝達するギヤ機構3と、このギヤ機構3等を収納するギヤケーシング4とを備えている。
【0013】
電動機2は、回転軸5と、この回転軸5に取付けられた回転子6と、この回転子6の外周側に配置された固定子7と、この固定子7が固定された電動機メインケーシング8と、この電動機メインケーシング8の回転軸方向負荷側(図1中左側)に接続された負荷側ケーシング9と、電動機メインケーシング8の回転軸方向反負荷側(図1中右側)に接続された反負荷側ケーシング10とを備えている。なお、負荷側ケーシング9は、ギヤケーシング4の一方側(図1中右側)側面に接続されている。
【0014】
回転軸5の負荷側端部は、負荷側ケーシング9を貫通してギヤケーシング4の内部まで延在し、負荷側ケーシング9に設けられた軸受11Aとギヤケーシング4に設けられた軸受11Bにより回転可能に支持されている。すなわち、電動機メインケーシング8内に位置する回転子6は、軸受11A,11Bに対してオーバーハングしている。また、回転軸5の負荷側端部には駆動ギヤ12が設けられている。なお、負荷側ケーシング9には、軸受11Aを覆うための軸受カバー13が取付けられている。
【0015】
スクリュー型の圧縮機本体1は、軸方向が略平行で互いに噛合うように回転する雄ロータ14A及び雌ロータ14Bと、これら雄ロータ14A及び雌ロータ14Bの歯部を収納する圧縮機メインケーシング15と、この圧縮機メインケーシング15のロータ軸方向吐出側(図1中左側)に接続された吐出ケーシング16とを備えている。なお、圧縮機メインケーシング15は、ギヤケーシング4の他方側(図1中左側)側面に接続されている。
【0016】
雄ロータ14Aの吐出側(図1中左側)及び吸込側(図1中右側)の軸部は、図示しない軸受で回転可能に支持されている。同様に、雌ロータ14Bの吐出側及び吸込側の軸部は、図示しない軸受で回転可能に支持されている。また、雄ロータ14A及び雌ロータ14Bの吐出側軸部にはタイミングギヤ17A,17Bが設けられており、これによって雄ロータ14A及び雌ロータ14Bが非接触状態で同期回転するようになっている。また、雄ロータ14Aの吸込側軸部は、圧縮機メインケーシング15からギヤケーシング4の内部まで延在しており、従動ギヤ18が設けられている。
【0017】
ギヤ機構3は、上述した駆動ギヤ12と従動ギヤ18との噛合いによって構成されている。そして、このギヤ機構3を介し電動機2の回転力が雄ロータ14Aに伝達されて雄ロータ14Aが回転し、さらにタイミングギヤ17A,17Bを介し雌ロータ14Bも回転するようになっている。そして、雄ロータ14A及び雌ロータ14Bの回転に伴い、作動室は、ロータ軸方向吐出側に移動するとともに容積が変動する。これにより、吸込流路19から空気を吸込んで圧縮し圧縮空気を吐出流路20へ吐出するようになっている。
【0018】
ギヤケーシング4の下部には潤滑油が溜められており、この潤滑油をタイミングギヤ17A,17B、ギヤ機構3、軸受11A,11B等に供給する油系統が設けられている。この油系統は、オイルポンプ21と、このオイルポンプ21の吸込側とギヤケーシング4の下部との間で接続された油配管22Aと、オイルポンプ21の吐出側と圧縮機本体1の吐出ケーシング16との間で接続された油配管22Bと、圧縮機本体1の吐出ケーシング16とギヤケーシング4の下部との間で接続された油配管22Cと、油配管22Bから分岐されてギヤケーシング4の上部に接続された油配管22Dとで構成されている。なお、ギヤケーシング4の上部には外気(大気)を取込むための連通孔(図示せず)が形成されており、ギヤケーシング4の内部圧力を外気圧以下に保つようになっている。
【0019】
ところで、負荷側ケーシング9において電動機2の回転軸5が貫通する部分の隙間(詳細には、軸受11Aより電動機2側)には、ビスコシール23が設けられており、このビスコシール23を覆うための例えばアルミ製のシールカバー24が負荷側ケーシング9に取付けられている。ビスコシール23は、その内周面にネジ溝が形成されており、回転軸5の回転によって電動機メインケーシング8側からギヤケーシング4側への流れを発生させる。これにより、ギヤケーシング4内の潤滑油が電動機メインケーシング8内に侵入するのを防止するようになっている。しかし、このとき、ビスコシール23より電動機2側が負圧となるため、そのままでは、電動機メインケーシング8の内部空間が負圧となる可能性がある。
【0020】
そこで、本実施形態では、シールカバー24には、回転軸5が貫通する貫通穴より大きな略円形状の溝25と、この溝25から下側(言い換えれば、径方向外側)に向かって延在する連通溝(連通孔)26とが形成されている。なお、シールカバー24における溝25の側面(内周面)と回転軸5の外周面との間の隙間は、シールカバー24における溝25より電動機2側の部分の内周面と回転軸5の外周面との間の隙間より大きくなっている。また、シールカバー24の連通溝26の流路断面は、シールカバー24における溝25より電動機2側の部分の内周面と回転軸5の外周面との間の隙間より大きくなっている。そして、負荷側ケーシング9には、シールカバー24の連通溝26に連通するとともに、下側に向けて開口して外部に連通する連通孔27が形成されている。
【0021】
すなわち、本実施形態においては、負荷側ケーシング9及びシールカバー24は、ギヤケーシング4の内部空間と電動機メインケーシング8の内部空間とを区画する隔壁部を構成し、この隔壁部におけるビスコシール23より電動機2側の隙間(言い換えれば、溝25内の空間)と空気圧縮機の外部とを、電動機メインケーシング8の内部空間を経由しないで連通孔26,27を介し連通している。これにより、ビスコシール23より電動機2側の隙間に連通孔26,27を介して外気を供給することができ、電動機メインケーシング8の内部空間が負圧となるのを防止することができる。したがって、電動機2のケーシングに微少な隙間が生じていても(具体例の一つとして、電動機メインケーシング8と負荷側ケーシング9との接続部に微少な隙間が生じていても)、電動機メインケーシング8内に塵埃が侵入するのを防止することができ、信頼性の向上を図ることができる。
【0022】
なお、上記第1の実施形態では、図示のように、電動機2の回転軸5の反負荷側端部が反負荷側ケーシング10を貫通しない構造を例にとって示したが、これに限られない。すなわち、例えば、電動機2の回転軸5の反負荷側端部が反負荷側ケーシング10を貫通して外部まで延在する構造とし、反負荷側ケーシング10(若しくは、これに取付けられた反負荷側シールカバー)における回転軸5の貫通部の隙間に接触式のシールを設けてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0023】
本発明の第2の実施形態を図2により説明する。図2は、本実施形態における空気圧縮機の構造を空気系統及び油系統とともに表す図である。なお、この図2において、上記第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0024】
本実施形態では、電動機2の回転軸5Aの反負荷側端部は、反負荷側ケーシング10Aを貫通して外部まで延在している。反負荷側ケーシング10Aには例えばアルミ製の反負荷側シールカバー28が取付けられており、この反負荷側シールカバー28における回転軸5Aの貫通部の隙間には接触式のシール29が設けられている。
【0025】
負荷側のシールカバー24Aには、上記第1の実施形態同様、回転軸5が貫通する貫通穴より大きな略円形状の溝25が形成されている。そして、回転軸5Aの内部には、シールカバー24Aの溝25に連通する複数の径方向の連通孔30aと、これら連通孔30aに連通するとともに、回転軸5Aの反負荷側端面まで延在する軸方向の連通孔30bとが形成されている。
【0026】
すなわち、本実施形態においては、負荷側ケーシング9及びシールカバー24Aは、ギヤケーシング4の内部空間と電動機メインケーシング8の内部空間とを区画する隔壁部を構成し、この隔壁部におけるビスコシール23より電動機2側の隙間(言い換えれば、溝25内の空間)と空気圧縮機の外部とを、電動機メインケーシング8の内部空間を経由しないで連通孔30a,30bを介し連通している。これにより、ビスコシール23より電動機2側の隙間に連通孔30a,30bを介して外気を供給することができ、電動機メインケーシング8の内部空間が負圧となるのを防止することができる。したがって、電動機2のケーシングに微少な隙間が生じていても、電動機メインケーシング8内に塵埃が侵入するのを防止することができ、信頼性の向上を図ることができる。
【0027】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、負荷側ケーシング9とシールカバー24(又は24A)は別部材として形成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば負荷側ケーシング9とシールカバー24(又は24A)は一体的に同一部材として形成されてもよい。また、上記第1及び第2の実施形態においては、負荷側ケーシング9は、便宜上、電動機2のケーシングの一部として説明したが、ギヤケーシング4の一部として考えてもよい。そして、例えば負荷側ケーシング9とギヤケーシング4は一体的に同一部材として形成されてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、電動機2の回転軸5(又は5A)は、ギヤケーシング4及び負荷側ケーシング9に設けられた軸受11A,11Bにより回転可能に支持されており、電動機メインケーシング8内に位置する回転子6は、軸受11A,11Bに対してオーバーハングする構造を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば、回転軸5(又は5A)は、負荷側ケーシング9及び反負荷側ケーシング10(又は10A)に設けられた軸受により回転可能に支持されてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0029】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、ギヤ機構3は、一対のギヤ12,18で構成された場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば2対のギヤで構成されてもよい。詳細には、電動機2の回転軸5(又は5A)の負荷側端部に設けた駆動ギヤ及びこれに噛合う第1の中間ギヤと、圧縮機本体1の雄ロータ14Aの軸部に設けた従動ギヤ及びこれに噛合う第2の中間ギヤと、第1及び第2の中間ギヤを取付けた中間軸とを設けてもよい。また、雌ロータ14Bの吸入側軸部は、雄ロータ14Aの吸入側軸部の代わりに、圧縮機メインケーシング15からギヤケーシング4の内部まで延在し、従動ギヤが設けられてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、上記第1及び第2の実施形態においては、1段の圧縮機本体1を備えた場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、2段以上の圧縮機本体を備えてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 圧縮機本体
2 電動機
3 ギヤ機構
4 ギヤケーシング
5 回転軸
5A 回転軸
8 電動機メインケーシング
9 負荷側ケーシング(隔壁部)
10 反負荷側ケーシング
10A 反負荷側ケーシング
15 圧縮機メインケーシング
16 吐出ケーシング
23 ビスコシール
24 シールカバー(隔壁部)
24A シールカバー(隔壁部)
25 溝
26 連通溝(連通孔)
27 連通孔
28 反負荷側シールカバー
29 接触式のシール
30a 連通孔
30b 連通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を圧縮する圧縮機本体と、
前記圧縮機本体の動力源である電動機と、
前記電動機の動力を前記圧縮機本体へ伝達するギヤ機構と、
前記圧縮機本体のケーシングと前記電動機のケーシングとの間で接続され、前記ギヤ機構を収納するギヤケーシングと、
前記ギヤケーシングの内部空間と前記電動機のケーシングの内部空間とを区画する隔壁部と、
前記隔壁部における前記電動機の回転軸が貫通する部分の隙間に設けられ、前記ギヤケーシング内の潤滑油が前記電動機のケーシング内に侵入するのを防止する非接触式のビスコシールとを備えた空気圧縮機において、
前記隔壁部における前記ビスコシールより前記電動機側の隙間と前記空気圧縮機の外部とを、前記電動機のケーシングの内部空間を経由しないで連通する連通孔を形成したことを特徴とする空気圧縮機。
【請求項2】
請求項1記載の空気圧縮機において、
前記連通孔は、前記隔壁部に形成したことを特徴とする空気圧縮機。
【請求項3】
請求項1記載の空気圧縮機において、
前記電動機の回転軸の反負荷側端部は、前記電動機のケーシングを貫通して外部まで延在し、
前記電動機のケーシングにおける前記電動機の回転軸の反負荷側端部が貫通する部分の隙間には、接触式のシールを設けており、
前記連通孔は、前記電動機の回転軸の内部に形成されて反負荷側端面まで延在したことを特徴とする空気圧縮機。

【図1】
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【図2】
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