説明

空気清浄機

【課題】空気中に含まれる粒子状成分と気体状汚染物質の双方を効率的に除去できる空気清浄機を提供する。
【解決手段】 放電極と、その放電極から所定間隔をおいて配置された、透水性材料からなる保水層とを備える。また、保水層の、前記放電極とは反対側の面に流水層が隣接する。放電極と、前記流水層との間に電圧を印加し、前記流水層から前記保水層に染み込んだ水と前記放電極との間に放電を発生させる。放電空間へ空気を送ると、空気中に含まれる汚染物質が放電によって帯電・分解して、保水層の水に吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場等では従来から湿式集塵装置が用いられている。これは放電極と集塵極を備え、集塵極に水を供給して湿潤状態にしたものである。放電極と集塵極の間に高電圧を印加してコロナ放電を発生させることにより、空気中の塵を帯電させ、その塵を集塵極に付着させる。集塵極は湿潤状態にされているので、一旦付着した塵が再離散しにくい特徴がある。
【0003】
集塵極を湿潤状態にする方法としては様々なものが知られている。例えば下記特許文献1には、毛細管現象により吸液性又は吸湿性を有する多孔性材料からなる集塵極が開示されている。また、下記特許文献2には、多孔性合成樹脂などで形成された管状集塵電極を有し、この管状集塵電極を取り付ける取付枠部から水が染み込むようにした湿式集塵装置が開示されている。
【特許文献1】特公昭36−009249号公報
【特許文献2】実公昭43−012238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の装置は粉塵の捕集を目的としていたので、集塵電極の表面に水膜ができれば良く、水そのものへの溶解力をあまり考慮する必要がなかった。しかし、空気中の汚染物質には粉塵の他にガス状成分(アンモニアやメチルメルカプタン等)が含まれており、このガス状成分を水に溶解させることも考慮した場合、水膜のガス溶解力をできるだけ高める事が望ましい。しかし、従来の集塵装置は、供給した水を静置する構造なので、水の使用量を少なくすると、水に溶解したガス濃度が飽和しやすくなり、ガス状成分の水への溶解効率が悪くなる問題が生じる。
【0005】
本発明は上述のような事情を背景になされたもので、特に、空気中に含まれる粒子状成分と気体状汚染物質の双方を効率的に除去できる空気清浄機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
この発明は、放電極と、
その放電極から所定間隔をおいて配置された、透水性材料からなる保水層と、
その保水層の、前記放電極とは反対側の面に隣接する流水層と、
前記放電極と、前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記流水層から前記保水層に染み込んだ水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
その放電空間へ空気を供給する空気供給手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機である。
【0007】
上記本発明によると、放電極が設けられ、その放電極から所定間隔をおいた位置に、透水性材料からなる保水層が設けられている。そして保水層の、放電極とは反対側の面に流水層が隣接している。このようにすると、流水層から保水層へ水が染み込み、放電極側の面へ染み出てくる。放電極と水の間に高電圧を印加することにより、コロナ放電を発生することができる。空気供給手段(ファン等)によって、煙草の煙などの汚染物質を含んだ空気が放電空間へ送られる。この汚染物質は放電によって帯電または分解されて、保水層の水に吸収される。より詳しくは、汚染物質は放電によって帯電されたり、または放電によって発生した活性種(例えば活性酸素)によって分解され、その後、水に吸収される。
【0008】
また、保水層の水が汚染物質を吸収すると、汚染物質の濃度が高まるが、流水層における汚染物質の濃度は低いため、濃度の差である「濃度勾配」ができる。この差により水に溶け込んでいる成分が流水層に移動するため、保水層に再び汚染物質を溶け込ませる促進作用が生じる。
【0009】
さらに、保水層に染み込んだ水は流下するので、保水層の表面を常にきれいな状態に保つセルフクリーニング効果がある。このセルフクリーニング効果によって、一旦捕集した塵(粒子状物質)が再飛散することを防止できる。
【0010】
なお、上記透水性材料とは、例えば焼結成型体、素焼セラミックス、多孔質ガラス、海綿、連続発砲性樹脂などの総称を指す。つまり、素材中に微細な空間(微細孔、繊維と繊維との隙間、発砲など)が形成されて、水が浸透するようにされたものをいう。
【0011】
また、本発明は、放電極と、
その放電極から所定間隔をおいて配置された、透水性材料からなる保水層と、
前記放電極と、前記保水層に含まれる水との間に電圧を印加することにより、その水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
その放電へ空気を供給し、その空気に含まれる汚染物質を、前記放電により帯電または分解させて、前記保水層に含まれる水に吸収させる空気供給手段と、
前記水に吸収された汚染物質の濃度勾配を形成する濃度勾配形成手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機である。
【0012】
上記本発明によると、濃度勾配形成手段によって、水に吸収された汚染物質の濃度勾配が形成されるようになっている。このため、汚染物質の吸収効率が高い。ここで「濃度勾配を形成する」とは、保水層の、放電極側から反対側へ向かう汚染物質の濃度勾配が、その濃度勾配形成手段が無かった場合に比べて急峻にされることを意味する。
【0013】
より具体的には、前記濃度勾配形成手段は、前記保水層の、前記放電極とは反対側の面に隣接する流水層とされている。保水層の水が汚染物質を吸収すると、汚染物質の濃度が高まるが、流水層における汚染物質の濃度は低いため、濃度の差である「濃度勾配」ができる。すなわち、流水層が上記濃度勾配形成手段となっている。この濃度勾配により、水に溶け込んでいる成分が流水層に移るため、保水層に再度汚染物質を溶け込ませる促進作用が生じる。
【0014】
また、前記流水層は、かけ流しか又は循環流動するようにされている。すなわち、水道からの水をかけ流すことにより流水層を形成したり、液体ポンプを使って循環流動したりすることができる。かけ流しにすると、常に新鮮な水を利用できるので、空気を清浄化する効率が高い。また、ポンプによって循環流動させ、水がある程度汚れた後で交換するようにすれば、水を節約することができる。
【0015】
さらに本発明は、線状または針状の放電極と、
その放電極を所定間隔をおいて取り囲む円筒形状に形成され、両端が開口し、透水性材料からなる保水層と、
その保水層を所定間隔をおいて取り囲む壁部と、
その壁部に形成された給水孔を通して水を供給することにより、前記保水層と前記壁部との間に流水層を形成する水流動手段と、
前記放電極と、前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記流水層から前記保水層に染み込んだ水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
前記円筒形状の保水層の両端に形成された開口部のうち一方の開口部から他方の開口部へ空気を送る空気供給手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機である。
【0016】
上記本発明によると、放電極は線状または針状に形成されている。そして保水層は、放電極を取り囲む円筒形状に形成されている。保水層は透水性材料からなり、その周りに流水層が形成されている。この流水層と放電極の間に電圧を印加すると、保水層が円筒形状にされているため、放電極の周りに強度が均一な放電を発生させることができる。また、保水層の周りには所定間隔をおいて壁部が取り囲むようになっており、その壁部に形成された給水孔を通して外部から水が供給され(水流動手段)、上記流水層が形成されている。また、水を出すための排水孔が壁部に形成されている。これら給水孔および排水孔は液体ポンプに接続され、水が循環するようになっている。さらに、円筒形状の保水層は両端が開口しており、空気供給手段(ファン等)によって一方の開口部から他端へ向かって空気が送られる。その空気に含まれる汚染物質(煙草の煙など)は、放電によって分解または帯電されて、保水層の水に吸収される。これにより保水層の水は、汚染物質の濃度が高まることとなるが、流水層は汚染物質の濃度が低いため、濃度勾配が生じ、水に溶け込んでいる汚染物質が流水層に移動する。そのため、保水層に再び汚染物質を溶け込ませる促進効果が生じる。
【0017】
さらに本発明は、
線状または針状に形成され、鉛直方向を向くように配置された放電極と、
その放電極を中心軸位置として取り囲む円筒形状に形成され、両端が開口し、透水性材料からなる保水層と、
その保水層を所定間隔をおいて取り囲む壁部と、
前記壁部に形成された給水孔および排水孔を通して水を供給し、前記保水層と前記壁部との間に流水層を形成する水流動手段と、
非透水性の材質からなり、前記保水層の表面の一部分を覆うことにより、前記流水層から前記保水層へ染み込む水の量を調節する被膜と、
前記放電極と前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記保水層に染み込んだ前記水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
前記保水層の両端に形成された開口部のうち一方の開口部から他方の開口部へ空気を送ることにより、その空気中に含まれる汚染物質を前記放電によって帯電または分解させ、その汚染物質の少なくとも一部を、前記保水層に染み込んだ前記水へ溶解させる空気供給手段と、
前記保水層の下部に設けられ、前記保水層の内部または表面を流下する、前記汚染物質を吸収した水を貯留するための汚水貯留部と、
を備えることを特徴とする空気清浄機である。
【0018】
上記本発明によると、保水層が円筒形状とされ、線状または針状の放電極を取り囲むように形成されているため、放電極との間に強度が均一な放電を発生させることができる。また、保水層を所定間隔をおいて取り囲む壁部が設けられ、水流動手段(液体ポンプ)が給水孔および排水孔を通して水を循環供給している。これにより、保水層と壁部との間に流水層が形成される。さらに、保水層の一部分を非透水性の被膜が覆っているので、流水層から保水層へ染み込む水の量を調節することができる。つまり、保水層の下部では、流水層の水による水圧が高くなるため、染み込む水の量が多すぎてしまう場合がある。しかし、非透水性の被膜で保水層の一部を覆うことにより、染み込む水の量を調節することができる。一方、保水層の水が汚染物質を吸収すると、汚染物質の濃度が高くなって汚水となるが、その汚水は保水層の内部または内面を流下して、汚水貯留部に貯えられる。そのため、保水層の内面における汚染物質の濃度が上がり過ぎることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る空気清浄機1の概略断面図である。このように、線状の放電極2が通っており、その放電極2を中心として所定距離をおいて円筒形状の保水層3が設けられている。そして、保水層3のさらに外側に水が流れる流水層4が設けられている。保水層3は多孔質プラスチック、焼結成型体、素焼セラミックスなどの透水性材料からなり、流水層4から水が染み込んで、放電極2側の面Pへ染み出してくる。
【0020】
一方、放電極2と流水層4の間は、図示しない電源によって電圧が印加されている。これにより、流水層4を流れる水が対向電極となり、保水層3の内周面Pと放電極2との間に放電5(例えばコロナ放電)が生じる。また、ファン等の空気供給手段(図示しない)によって、煙草の煙等を含む汚染空気が、放電空間へ送られる。放電5が生じることにより、放電極2から保水層3に向かって僅かな風が発生しており、この風によって汚染物質が運ばれて保水層3に吹き付けられ、水に溶け込む。放電極2に負電圧を印加した場合、この放電極2から電子が放出される。この時、放電極2の付近では高電界となるため非常に反応性が高く、放出された電子によって活性酸素等が生成され、放電極2の遠方へと反応が進行していく。これらの反応の進行方向に対し、終着地点である保水層3に水が含まれるので、粒子状成分のみならず、ガス状成分に対する水処理効果が高くなる。また、保水層3が湿潤なので、粒子状成分を捕集することもでき、逆電離による再飛散を防止する効果も生じる。なお、放電5を出た空気は、装置下部に設けられた触媒部を通る。これにより、放電5によって生じたオゾンや活性酸素を分解している。
【0021】
汚染物質を吸収すると、保水層の水は濃度が高まるが、その周りの流水層4は濃度が低いため、濃度の差である「濃度勾配」が形成される。この差により保水層3に溶け込んでいる成分が流水層4に移るため、保水層3に再び汚染物質を溶け込ませる促進作用が生じ、高い空気清浄化効果を維持できる。
【0022】
なお、本発明における流水層4は、図1に示すようにかけ流しにしてもよいし、後述するように循環流動するようにしてもよい。
【0023】
一方、従来の湿式空気清浄機として、保水層3の代わりに、非透水性材料から構成された円筒管を用いるものがあった。このタイプの湿式空気清浄機では、円筒管の内面に流水による水膜を形成していた。しかし装置では、水膜の表面が不安定なため、円筒管内に風を通すと水膜表面が荒れてしまう場合があった。そのため、一定の強度の放電を形成できず、オゾンやOHラジカルを発生させるために必要となる電界強度を効率的に得られない問題があった。それに対して本発明は、保水層3を透水性材料から構成し、流水層4から染み出してくる水によって水膜を形成しているため、保水層3内に風を通しても水膜形状が安定しており、従って、反応性に富んだ放電状態を安定的に作り出すことが可能となる。
【0024】
空気清浄機1の要部拡大図を図2Aに示す。放電5によって帯電または分解した汚染物質は保水層3の水に吸収され、流水層4へ向かって拡散していく。流水層4における汚染物質の濃度は低いので、図2Bに示すように、濃度勾配が急峻に形成される。ここで仮に、流水層4の水が流れずに止まっていたとすると、図2Cに示すように濃度勾配が急峻にならないため、保水層3に溶け込んでいる汚染物質が流水層4に移動しない。そのため、保水層3に再び汚染物質を溶け込ませる促進作用が生じない。
【0025】
次に、本発明の空気清浄機1を用いた性能評価結果を図3〜図5に示す。これは装置を耐久使用した時、煙草の煙に含まれる各物質に対するワンパス除去性能が、どのように推移するかを測定したものである。比較対象として、放電5の体積と同体積を有する評価装置に活性炭素添着フィルターを充填したものを用いた。
【0026】
評価対象成分としては、アンモニア、アセトアルデヒド、トルエンを用いた。
【0027】
アンモニア、アセトアルデヒド及びトルエンに対して、従来の活性炭素フィルターを使用した時はたばこの本数を増やすに従って性能が劣化していく様子が確認されるのに対し、本発明の空気清浄機1では高い性能が持続することを確認できる。これらの結果は、従来の活性炭吸着では耐久性が低かった成分に対して、本発明が効果的であることを示すものである。
【0028】
また、図5に示すように、トルエンに対しても一定の除去効果が得られた。そこで、放電によりトルエンにどのような変化が起こっているのかGC/MS分析により確認を行った。
【0029】
図6は、乾式円筒放電管と湿式円筒放電管(本発明の空気清浄機1)の、放電時・無放電時における排気をそれぞれ採取して分析したものである。乾式、湿式ともに電圧を印加しない場合は、RT14min付近にトルエンのピークが検知されるだけであるが、高電圧を印加することで乾式、湿式いずれにおいてもトルエンのピークは無くなり、代わりに22minと24min付近に新たなピークが検出された。新たに検出されたピークは22minがアセトフェノン、24minが安息香酸であり、放電によってトルエンから誘導された可能性がある。これらのピーク成分はトルエンに比べて親水性であることから、乾式放電時の排気よりも湿式放電時の排気の方が検出量が小さかった(ピークが低かった)と考えられる。以上の分析により、本発明のように湿式と放電を組み合わせた空気清浄機が、トルエン等の疎水性物質についても高い除去効率を示すことが分かった。
【0030】
次に、本発明に係る空気清浄機の別の実施形態を、図7の斜視図および図8の縦断面図を用いて説明する。この空気清浄機1は、線状または針状に形成され、鉛直方向を向く放電極2と、その放電極2を中心軸位置とする円筒形状に形成され、透水性材料からなる保水層3を備える。そして、保水層3を取り囲むように壁部6を設け、この壁部6と保水層3との間に流水層4を形成した。壁部6には給水孔8(下部孔)および排水孔9(上部孔)が形成されている。給水孔8および排水孔9にはホース14が接続され、ポンプ13(水流動手段)によって水が循環供給されている。このポンプ13の作用により、流水層4における水の流れが維持される。
【0031】
水を循環供給する際には、図8に示す方向に送るのが好ましい。これは以下の理由による。すなわち、空気清浄機1を稼動する前は、保水層3と壁部6との間には水が入っておらず、空気が詰まっている状態だが、ここで仮に上部孔9から水を入れたとすると、流水層4の上部Uが閉じられているため、内部の空気が逃げることができず、その結果、水が入らなくなってしまう。それに対して、水を下部孔8から供給すれば、押し出された空気が上部孔9から排気されるので、スムーズに水5を供給することが可能となる。なお、保水層3と壁部6の間は、上部Uが閉じられていないと、給水量が多すぎた場合には、水5が溢れて保水層3の上端から放電極2側へ流出してしまうことがある。そのような不具合を防止するために、上部Uが閉じられている。
【0032】
なお、図8では液体供給手段としてポンプ13を用いており、水を循環供給して、水の汚れが一定のレベルを超えた場合に交換するようにしているが、ホース14を水道管に繋いで、常に新鮮な水を供給するよう(即ち、かけ流し)にしてもよい。
【0033】
一方、図8では装置上部(吸気孔11)から吸気し、装置下部(排気孔12)から排気しているが、空気の流れを逆にしてもよい。すなわち、装置下部から吸気して、装置上部から排気してもよい。このようにすると、装置内に供給された空気に含まれるガス状成分と粒子状成分のうち、粒子状成分がまず保水層3下部において水に補足され、空気から粒子状成分がまず分離される。そして、この粒子状成分を取り込んだ水は保水層3を流下して滴下する。一方、ガス状成分の比率が相対的に高くなった空気は装置の下部から上部にかけて水に補足される。つまり、粒子状成分は装置下部において水に補足され、その水は滴下するので、循環している水に粒子状成分が拡散するようなことがなくなり、これにより、粒子状成分による水の汚染を防止することができる。
【0034】
上述したように、流水層4から保水層3に水が染み込んできて、染み出してくる。水と放電極2との間には電源7によって高電圧が印加されているのでコロナ放電5が発生しており、汚染物質を含む空気がそのコロナ放電5を通過すると分解・帯電して、保水層3の水に吸収される。保水層3の水は汚染物質の濃度が高まるが、流水層4の濃度が低いため、濃度勾配が生じる。そのため、保水層3から流水層4へ向かって汚染物質が移動し、その結果、保水層3の表面において汚染物質を再び吸収する作用が促進される。
【0035】
一方、図8に示すように、水は保水層3を流下して、装置の下部に配置された汚水貯留部15に貯えられる。その後、排水口16を通って外部へ排出される。また、保水層3と汚水貯留部15の接続部には湾曲面Cが形成されている。このようにすると、保水層3から流下した水が湾曲面Cをつたって汚液貯留部15へ流れるので、水を滴下させずに汚液貯留部15へ流すことができる。水が滴下すると飛び跳ねて、放電極2が濡れて絶縁不良が発生する場合があるが、上記構造を採用することにより、この不具合を未然に防止できる。なお、図示しないが、湾曲面Cの表面を親水素材とすることで、流下した水が湾曲面Cを伝わりやすくなり、その結果、水の滴下防止効果が向上する。
【0036】
保水層3の流水層4側の面は、下部を非透水性の被膜10で覆われている。これは、汚染物質の除去効率を上げるためには保水層3を縦長にして空気が通過する距離を長くする必要があるのだが、そうすると保水層3の下部では高い水圧がかかるため、必要以上の水が染み込んで、給水過多になってしまうからである。
【0037】
次に、図9の実施形態について説明する。上述したように、下部孔8から給水して上部孔9から排水するのが好ましいが、図9のような工夫をすることで、上部孔9から給水し、下部孔8から排水することも可能となる。すなわち、図9Aに示すように、上部孔9の上方に、保水層3と壁部4の間を塞ぐように水流出防止蓋17を設け、その水流出防止蓋17の一部に空気抜き孔18を設けるのである。上部孔9から給水すると、水が溢れて保水層3の上端部から放電極2側へ流出してしまう場合があるが、この水流出防止蓋17により、そのような水の流出を抑制できる。また、空気抜き孔18が形成されているので、給水開始時に空気の逃げ道を確保できる。このような構造を採用することにより、上部孔9からでも下部孔8からでも給水することが可能となる。そのため、ユーザがホースの接続を間違えてしまっても問題が無い。
【0038】
次に図10のブロック図を用いて、放電電流等を制御する方法について説明する。保水層3に十分な量の水が染み込まないと、コロナ放電が発生しにくくなり、放電電流が減少することとなる。そのまま放電を続けても、空気中の汚染物質を十分に除去することができない。逆に、何らかの原因で染み込む水の量が多すぎた場合は、放電電流が多くなり過ぎてしまい、そのままの状態で装置の稼動を続けるのは危険である。この問題を解決するために本発明は、放電電流の量を検出する電流測定手段19(電流計)を設け、測定した電流が予め決められた範囲内にあるか否かを、電流値判断手段22によって判断するようにした。電流値判断手段22は例えばマイコンを利用することができる。これは、電流測定手段19等と電気信号の送受信をするためのI/Oと、CPU,ROM,RAM,それらを繋ぐバス回路を含むものである。電流測定手段19によって測定された電流値が所定の範囲を下回っていると判断された場合は、例えば放電電流調節部20を調節して、一時的に放電を停止する。または、水流動手段13(ポンプ)を止めるなどして、空気清浄装置1の稼動を一時的に停止する。また、アラーム(図示しない)を鳴らすようにしてもよい。電流値判断手段22は、放電電流調節部20または水流動手段13を制御するための制御手段を兼ねている。ROMには制御プログラムが予め書き込まれており、CPUがそのプログラムを読み込んで実行することにより、これらの制御処理を行う。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る空気清浄機1の概略断面図。
【図2】(A)空気清浄機1の要部拡大図(B,C)保水層3における汚染物質の濃度勾配を示す図
【図3】煙草の煙に含まれるアンモニアのワンパス除去率を調査したグラフ
【図4】煙草の煙に含まれるアセトアルデヒドのワンパス除去率を調査したグラフ
【図5】煙草の煙に含まれるトルエンのワンパス除去率を調査したグラフ
【図6】放電によるトルエンの変化をGC/MS分析した結果
【図7】空気清浄機1の別の実施例
【図8】図7の空気清浄機1の断面図
【図9】別の実施例(要部拡大図)
【図10】マイコン制御をする場合のブロック構成
【符号の説明】
【0040】
1 空気清浄機
2 放電極
3 保水層
4 流水層
5 放電
6 壁部
7 電源
8 下部孔(給水孔)
9 上部孔(排水孔)
10 被膜
13 水流動手段(ポンプ)
15 汚水貯留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電極と、
その放電極から所定間隔をおいて配置された、透水性材料からなる保水層と、
その保水層の、前記放電極とは反対側の面に隣接する流水層と、
前記放電極と、前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記流水層から前記保水層に染み込んだ水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
その放電空間へ空気を供給する空気供給手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機。
【請求項2】
放電極と、
その放電極から所定間隔をおいて配置された、透水性材料からなる保水層と、
前記放電極と、前記保水層に含まれる水との間に電圧を印加することにより、その水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
その放電へ空気を供給し、その空気に含まれる汚染物質を、前記放電により帯電または分解させて、前記保水層に含まれる水に吸収させる空気供給手段と、
前記水に吸収された汚染物質の濃度勾配を形成する濃度勾配形成手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機。
【請求項3】
前記濃度勾配形成手段は、前記保水層の、前記放電極とは反対側の面に隣接する流水層である請求項2記載の空気清浄機。
【請求項4】
前記流水層は、かけ流しか又は循環流動するようにされている請求項1または3記載の空気清浄機。
【請求項5】
線状または針状の放電極と、
その放電極を所定間隔をおいて取り囲む円筒形状に形成され、両端が開口し、透水性材料からなる保水層と、
その保水層を所定間隔をおいて取り囲む壁部と、
その壁部に形成された給水孔を通して水を供給することにより、前記保水層と前記壁部との間に流水層を形成する水流動手段と、
前記放電極と、前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記流水層から前記保水層に染み込んだ水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
前記円筒形状の保水層の両端に形成された開口部のうち一方の開口部から他方の開口部へ空気を送る空気供給手段と、
を備えることを特徴とする空気清浄機。
【請求項6】
線状または針状に形成され、鉛直方向を向くように配置された放電極と、
その放電極を中心軸位置として取り囲む円筒形状に形成され、両端が開口し、透水性材料からなる保水層と、
その保水層を所定間隔をおいて取り囲む壁部と、
前記壁部に形成された給水孔および排水孔を通して水を供給し、前記保水層と前記壁部との間に流水層を形成する水流動手段と、
非透水性の材質からなり、前記保水層の表面の一部分を覆うことにより、前記流水層から前記保水層へ染み込む水の量を調節する被膜と、
前記放電極と前記流水層との間に電圧を印加することにより、前記保水層に染み込んだ前記水と前記放電極との間に放電を発生させる電源と、
前記保水層の両端に形成された開口部のうち一方の開口部から他方の開口部へ空気を送ることにより、その空気中に含まれる汚染物質を前記放電によって帯電または分解させ、その汚染物質の少なくとも一部を、前記保水層に染み込んだ前記水へ溶解させる空気供給手段と、
前記保水層の下部に設けられ、前記保水層の内部または表面を流下する、前記汚染物質を吸収した水を貯留するための汚水貯留部と、
を備えることを特徴とする空気清浄機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−117921(P2007−117921A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315125(P2005−315125)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年(平成17年)6月29日 「日刊工業新聞」に発表
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】