説明

空気清浄装置乃至空気清浄システム

【課題】 光触媒機能で長期に亘り安定に空気の浄化を行うことができる空気清浄装置を提供する。
【解決手段】 炭素ドープされた酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能層を表面の少なくとも一部に設けた部材で形成した気体の通路104aと、この通路104aに配設した光源104bとを有する浄化ユニット104を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気清浄装置乃至空気清浄システムに関し、特に空気中の有機物を捕捉して浄化する用途に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
近年は種々の原因で空気が汚染されている。したがって、特に免疫力が弱い老人や幼児が居住乃至生活する老人ホーム、託児所等では空気を浄化してやる必要がある。一方では副流煙によるタバコの害も懸念されている。したがって、カラオケボックス、パチンコ店等、喫煙者も含め、人が多く集まる空間では十分な換気を行う必要がある。かかる事情は車室内等、密閉空間になりがちな空間には共通にあてはまる。
【0003】
かかる事情に鑑み積極的に空気の浄化も行う空気清浄装置が提案されている。ただ、従来技術に係る空気清浄装置は、フィルターの清掃を頻繁に行う必要がある等、そのランニングコストが大きな負担となっている。
【0004】
一方、長期に亘り極めて良好な空気清浄効果を発揮するものとして光触媒が注目されている。例えば、1)機器本体の内部に矩形状を呈する光触媒形フィルタを配置し、前記光触媒形フィルタと対向する位置に該光触媒形フィルタを励起する1本の直管形光源を配置し、前記直管形光源の向きを矩形状を呈する前記光触媒形フィルタの対角線に沿うように定めた空気清浄機(特許文献1参照)、2)被処理空気を反応器内に導入するための導入手段と、該導入手段により導入された被処理空気が内部に設けられた光触媒部により浄化処理され浄化空気とされて外部に排出される吸気口と排気口部を備えた反応器と、被処理空気中の分解対象物質を分解するための該反応器内部に設けられた光触媒部と、該光触媒部における光触媒機能を励起するための該反応器内部に設けられた光源とを有する空気清浄機であって、放電電極に負極電圧を印加して電子放射するマイナスイオン発生手段を有するマイナスイオン発生装置を、さらに備えている空気清浄機(特許文献2参照)、3)本体ケース内に吸い込んだ空気を浄化して本体ケース外に吹き出す空気清浄機において、オゾンを発生させる発光体としてのオゾンランプと、このオゾンランプからの光で活性化する光触媒フィルターと、この光触媒フィルターの下流側に位置するオゾン触媒フィルターとを内蔵する空気清浄装置(特許文献3参照)等がある。
【0005】
ところが、従来技術に係る光触媒製品は耐久性が乏しく、光触媒層の剥離等によって長期間の使用が困難であるばかりでなく、光触媒機能を発揮させるためには十分な紫外光を照射する必要があるという実用上の大きな問題を有していた。また、空気の浄化機能という点に着目した場合、十分な浄化力が得られず、かかる機能をより顕著に発揮し得る空気清浄装置の出現が待望されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−125368号公報
【特許文献2】特開2004−044882号公報
【特許文献3】特開2004−036912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、光触媒機能で長期に亘り安定に空気の浄化を行うことができる空気清浄装置乃至空気清浄システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成する本発明の第1の態様は、炭素ドープされた酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能層を表面の少なくとも一部に設けた部材で形成した気体の通路と、この通路に配設した光源とを有する浄化ユニットを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、前記多機能層が基体の表面に一体的に形成されたものであると共に該炭素がTi−C結合の状態でドープされており、該基体の少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンであることを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の態様は、上記第2の態様において、前記基体は、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる表面部形成層と心材とからなり、該心材がチタン、チタン合金、酸化チタン及びチタン合金酸化物以外の材質であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第4の態様は、上記第2又は3の態様において、前記多機能層のビッカース硬度が300以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第5の態様は、上記第2又は3において、前記多機能層のビッカース硬度が1000以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第6の態様は、少なくとも表面側がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有していると共に該突起部が炭素ドープされている多機能層を設けた部材で形成した気体の通路と、この通路に配設した光源とを有する浄化ユニットを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の第7の態様は、上記第6の態様において、前記多機能層が、微細柱が林立しているものであり且つ該微細中が炭素ドープされていることを特徴とする。
【0015】
本発明の第8の態様は、上記第6又は7の態様において、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれていることを特徴とする。
【0016】
本発明の第9の態様は、上記第6〜8の何れかにおいて、前記基体は、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる表面部形成層と心材とからなり、該心材がチタン、チタン合金、酸化チタン及びチタン合金酸化物以外の材質であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第10の態様は、上記第1〜9の何れかの空気清浄装置と電気集塵機とを組み合わせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、浄化ユニットを空気が流通する間に光の照射の下、その多機能層に接触することで塵埃中の有機物成分が分解されるので、浄化した空気を排出することができる。このとき、本発明によれば光触媒機能を発揮する多機能層部分を地金と一体的に形成することもでき、この場合には多機能層部分が地金乃至基体から剥離する心配はなく、従来の光触媒製品の比べ格段に耐摩耗性に優れたものとなるので、長期に亘り安定した浄化特性を継続して発揮させることができる。また、バインダを用いて光触媒を塗布したものでもないので、耐腐食性にも優れたものとなり、その分腐食性の微粒子等を含む空気であっても十分な浄化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず、本発明に用いることができる多機能層を有する多機能材について説明する。
【0020】
本発明で用いる第1の多機能材は、表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより得られるものであり、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する炭素ドープ酸化チタン層からなる多機能層を表面層として有するものである。
【0021】
即ち、本発明で用いる第1の多機能材は、少なくとも表面層が炭素ドープ酸化チタン層からなると共に該炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する多機能層を有することを特徴とする。
【0022】
本発明で用いる第1の多機能材は、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、例えば、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理することにより製造することができる。すなわち、これにより、基体の表面層であるチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの表面に炭素ドープ酸化チタン層が一体的に形成された構造部材となり、表面が耐久性に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する第1の多機能材となる。この少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体は、その基体の全体がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの何れかで構成されていても、或いはチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる表面部形成層と心材とで構成されていてそれらの材質が異なっていてもよい。すなわち、この場合には、複合材料の基体の表面層であるチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの表面に炭素ドープ酸化チタン層が一体的に形成された構造部材となり、これを表面が耐久性に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する第1の多機能材としてもよい。
【0023】
少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が表面部形成層と心材とで構成されていてそれらの材質が異なっている場合には、その表面部形成層の厚さは形成される炭素ドープ酸化チタン層の厚さと同一であっても(即ち、表面部形成層全体が炭素ドープ酸化チタン層となる)、厚くてもよい(即ち、表面部形成層の厚さ方向の一部が炭素ドープ酸化チタン層となり、一部がそのまま残る)。また、その心材の材質は第1の発明の製造方法における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。例えば、心材として鉄、鉄合金、非鉄合金、セラミックス、その他の陶磁器、高温耐熱性ガラス等を用いることができる。このような薄膜状の表面層と心材とで構成されている基体としては、例えば、心材の表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより心材の表面上に付与して皮膜を形成したもの等を挙げることができる。
【0024】
上記のチタン合金として公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはない。例えば、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−6V−2Sn、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−10V−2Fe−3Al、Ti−7Al−4Mo、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−6Al−5Zr−0.5Mo−0.2Si、Ti−5.5Al−3.5Sn−3Zr−0.3Mo−1Nb−0.3Si、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Mo−4Cr、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Sn、Ti−15V−3Cr−3Al−3Sn、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−15Mo−5Zr、Ti−13V−11Cr−3Al等を用いることができる。
【0025】
第1の多機能材の製造においては、炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用いることができ、特に還元炎を利用することが望ましい。炭化水素含有量が少ない燃料を用いる場合には、炭素のドープ量が不十分であったり、皆無であったりし、その結果として硬度が不十分となり、且つ可視光下での光触媒活性も不十分となる。本発明で用いる第1の多機能材の製造においてはこの炭化水素を主成分とするガスとは炭化水素を少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。本発明で用いる第1の多機能材の製造においては、炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
【0026】
本発明の第1の多機能材の製造において、加熱処理する基体の表面層がチタン又はチタン合金である場合には、該チタン又はチタン合金を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
【0027】
本発明で用いる第1の多機能材の製造においては、表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面を、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理するが、この場合に、基体の表面に炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を炭化水素を主成分とするガスの燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が粉末状である場合には、そのような粉末を火炎中に導入し、火炎中に所定時間滞留させて加熱処理するか、或いはそのような粉末を流動状態の高温の燃焼ガス中に流動床状態に所定時間維持することにより粒子全体を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタンとするか、炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有する粉末にすることができる。
【0028】
加熱処理については、基体の表面温度が900〜1500℃、好ましくは1000〜1200℃となり、基体の表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層が形成されるように加熱処理する必要がある。基体の表面温度が900℃未満で終わる加熱処理の場合には、得られる炭素ドープ酸化チタン層を有する基体の耐久性は不十分となり、且つ可視光下での光触媒活性も不十分となる。一方、基体の表面温度が1500℃を超える加熱処理の場合には、加熱処理後の冷却時にその基体表面部から極薄膜の剥離が生じ、第1の発明で目的としている耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)の効果が得られない。又、基体の表面温度が900〜1500℃の範囲内となる加熱処理の場合であっても、加熱処理時間が長くなると、加熱処理後の冷却時にその基体表面部から極薄膜の剥離が生じ、第1の多機能材の重要な機能である耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)の効果が得られないので、加熱処理後の冷却時にその基体表面部に剥離をもたらさない程度の時間であることが必要である。即ち、その加熱処理時間は該表面層を炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層とするのに十分な時間であるが加熱後の冷却時にその基体表面部からの極薄膜の剥離をもたらすことのない時間である必要がある。この加熱処理時間は加熱温度と相関関係にあるが、約400秒以下であることが好ましい。
【0029】
本発明で用いる第1の多機能材の製造においては、加熱温度及び加熱処理時間を調整することにより炭素を0.3〜15at%、好ましくは1〜10at%含有する炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を比較的容易に得ることができる。炭素のドープ量が少ない場合には炭素ドープ酸化チタン層は透明であり、炭素のドープ量が増えるに従って炭素ドープ酸化チタン層は半透明、不透明となる。従って、透明な板状心材の上に透明な炭素ドープ酸化チタン層を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する透明板を得ることができ、また、表面に有色模様を有する板上に透明な炭素ドープ酸化チタン層を形成することにより耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する化粧板を得ることができる。なお、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体が表面部形成層と心材とで構成されていてその表面部形成層の厚さが500nm以下である場合には、その表面部形成層の融点近傍まで加熱すると、海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じて半透明となる。
【0030】
炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有する第1の多機能材においては、炭素ドープ酸化チタン層の厚さは10nm以上であることが好ましく、高硬度、耐スクラッチ性、耐摩耗性を達成するためには50nm以上であることが一層好ましい。炭素ドープ酸化チタン層の厚さが10nm未満である場合には、得られる炭素ドープ酸化チタン層を有する多機能材の耐久性は不十分となる傾向がある。炭素ドープ酸化チタン層の厚さの上限については、コストと達成される効果とを考慮する必要があるが、特に制限されるものではない。
【0031】
本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層は、従来の化学修飾酸化チタンや、従来から提案されている種々の原子又はアニオンXをドープしてなるチタン化合物Ti−O−Xを含有する酸化チタンとは異なり、炭素を比較的多量に含有し、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれている。この結果として、耐スクラッチ性、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、ビッカース硬度が著しく増大すると考えられる。また、耐熱性も向上する。
【0032】
本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層は、300以上、好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上、最も好ましくは1000以上のビッカース硬度を有している。1000以上のビッカース硬度は硬質クロムめっきの硬度よりも固いものである。従って、本発明の第1の多機能材は、従来硬質クロムめっきが利用されていた種々の技術分野に有意に利用できる。
【0033】
本発明で用いる第1の多機能材の多機能層である炭素ドープ酸化チタン層は、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として有効に作用するものである。従って、本発明で用いる第1の多機能材は可視光応答型光触媒として使用することができ、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。また、本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層は接触角3°以下の超親水性を示す。
【0034】
本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層は耐薬品性にも優れており、1M硫酸及び1M水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に一週間浸漬した後、皮膜硬度、耐摩耗性及び光電流密度を測定し、処理前の測定値と比較したところ、有為な変化はみられなかった。因みに、市販の酸化チタン皮膜については、一般的にはバインダーはその種類によって酸又はアルカリに溶解するので膜が剥離してしまい、耐酸性、耐アルカリ性がほとんどない。
【0035】
更に、本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層は、γ線等の放射線にも応答する触媒としても使用できる。すなわち、本発明者らは、酸化チタン等の溶射膜が放射線に応答して原子炉構造部材の応力腐食割れやスケール付着等を抑制することを先に発明しているが、本発明で用いる第1の多機能材の炭素ドープ酸化チタン層も同様にこのような放射線応答型触媒として使用した場合に、基材の電位を低下させて孔食や全面腐食、並びに応力腐食割れを抑制でき、また酸化力によりスケールや汚れ等を分解することができるという効果を奏する。他の放射線触媒の成膜法と比較して簡便であり、かつ耐薬品性及び耐摩耗性等の耐久性の観点からも優れている。
【0036】
また、第2の多機能材は、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面に不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎を直接当てて特定の条件下で加熱処理するか、又は該基体の表面を特定の条件下で不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理することによって、該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が形成されること、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とが得られること、即ち、この両者とも表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有していること、この両者とも有用な多機能材であること、また該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる突起部である微細柱、連続した狭幅突起部が炭素ドープされていることにより、光触媒活性が高く、可視光応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れたものである。
【0037】
即ち、本発明で用いる第2の多機能材は、表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有しており、例えば、表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出しているか又は薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出しており、該突起部、例えば該微細柱、該狭幅突起部が炭素ドープされていることを特徴とする。
【0038】
本発明で用いる第2の多機能材は、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面を例えば不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎で加熱処理して、該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に、普通には該基体上の大部分に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることにより製造でき、即ち、この両者とも表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有している多機能材であり、この両者とも本発明で用いる第2の多機能材である。
【0039】
この少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体は、その基体の全体がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物の何れかで構成されていてもよく、或いはチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる表面部形成層とその他の材質からなる心材とで構成されていてもよい。
【0040】
少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体が、チタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる表面部形成層とその他の材質からなる心材とで構成されている場合には、その表面部形成層の厚さ(量)は形成される酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の量に匹敵する厚さであっても(即ち、表面部形成層全体が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となる)、それより厚くてもよい(即ち、表面部形成層の厚さ方向の一部が酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層となり、残部が変化しないでそのまま残る)。また、その心材の材質は本発明で用いる第2の多機能材の製造における加熱処理の際に燃焼したり、溶融したり、変形したりするものでなければ、特に制限されることはない。例えば、心材として鉄、鉄合金、非鉄合金、ガラス、セラミックス等を用いることができる。このような薄膜状の表面層と心材とで構成されている基体としては、例えば、心材の表面にチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの、或いは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより心材の表面上に付与して皮膜を形成したもの等を挙げることができる。この表面層の厚さについては好ましくは0.5μm以上、より好ましくは4μm以上である。
【0041】
上記のチタン合金として公知の種々のチタン合金を用いることができ、特に制限されることはなく、第1の多機能材と同様なものを用いることができる。
【0042】
本発明で用いる第2の多機能材の製造においては、例えば、不飽和炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎を用い、特に還元炎を利用することが望ましい。本発明の多機能材の製造においては不飽和炭化水素を少なくとも50容量%含有するガス、例えば、アセチレンを少なくとも50容量%含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを用いることが好ましい。本発明で用いる第2の多機能材の製造においては、燃料成分がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易く、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれる。このように微細柱に炭素ドープが生じると微細柱の硬度が高くなり、結果として多機能材の硬度、耐磨耗性等の機械的強度が向上し、耐熱性も向上する。
【0043】
本発明で用いる第2の多機能材の製造においては、表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる基体の表面に燃焼炎を直接当てて加熱処理するか、又は該基体の表面を燃焼排ガス雰囲気中で加熱処理するのであるが、この加熱処理は例えばガスバーナーにより、或いは炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、ガスバーナーにより、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼排ガス雰囲気中で高温で加熱処理する場合には、上記のような燃料ガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼排ガスを含む雰囲気を利用すればよい。
【0044】
加熱処理については、少なくとも表面層がチタン、酸化チタン、チタン合金又はチタン合金酸化物からなる該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることが可能なように、加熱温度、加熱処理時間を調整する必要がある。この加熱処理は600℃以上の温度で実施することが好ましい。
【0045】
このような条件下で加熱処理することにより、微細柱が林立している層の高さが1〜20μm程度であり、その上の薄膜の厚さが0.1〜10μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜3μm程度である中間体が形成される。その後に、例えば熱応力、剪断応力、引張力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させることにより、該基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材(即ち、基体上の微細柱が林立している層の上に存在していた薄膜の全部又は大部分が剥離するが、微細柱が林立している層の上に存在していた薄膜の一部が剥離しないで残ることがある)と、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材とを得ることができる。
【0046】
熱応力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、基体の表面及び裏面の何れか一方を冷却するか、又は加熱することにより基体の表面と裏面との間に温度差を設ける。この冷却方法として例えば上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかを冷却用物体、例えばステンレスブロックと接触させるか、冷気(常温の空気)を上記の熱い中間体の表面又は裏面の何れかに吹き付ける。上記の熱い中間体を放冷しても熱応力が生じるが、その程度は低い。
【0047】
剪断応力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、上記の中間体の表面及び裏面に摩擦力により相対的に逆方向の力を与える。また、引張力を与えて微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させる場合には、例えば、真空吸着盤等を用いて上記の中間体の表面及び裏面をそれらの面の垂直方向で逆方向に引張る。なお、基体上の少なくとも一部に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材のみを利用する場合には、上記の中間体の薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材に相当する部分を研磨、スパッタリング等によって除去することもできる。
【0048】
上記のようにして得られた基体上の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材においては、微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって微細柱が林立している層の高さが変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜20μm程度であり、微細柱の平均太さが0.5〜3μm程度である。この部材はVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高く、更には皮膜硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性にも優れた第2の多機能材である。
【0049】
一方、上記のようにして得られた薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は小片状となり、各小片上の突起部の高さは2〜12μm程度であり、該微細柱の高さは微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させた微細柱の高さ位置によって変化するが、微細柱が林立している層の高さは一般的には1〜5μm程度であり、微細柱の平均太さが0.2〜0.5μm程度である。しかし、微細柱が林立している層を表面層に沿う方向で切断させ条件によっては微細柱が殆ど存在しないで多数の連続した狭幅突起部が露出している場合もある。この部材もVOCを吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。また、この部材はそのまま用いることも粉砕して用いることもでき、その粉砕物もVOCを容易に吸着でき、表面積が大きいので光触媒としての活性が高い。
【0050】
本発明で用いる第2の多機能材においては、酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱、多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が炭素ドープされているので、紫外線は勿論、400nm以上の波長の可視光にも応答し、光触媒として特に有効に作用し、可視光応答型光触媒として使用することができ、室外は勿論、室内でも光触媒機能を発現する。
【0051】
本発明で用いる第2の多機能材を構成する酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状については、図10及び図13の顕微鏡写真から判断されるように、角柱状、円柱状、角錐状、円錐状、逆角錐状若しくは逆円錐状等で、基板の表面とは直角方向又は傾斜した方向に真っ直ぐ伸びているもの、湾曲又は屈曲しながら伸びているもの、枝状に分岐して伸びているもの、それらの複合体状のもの等がある。また、その全体形状としては、霜柱状、起毛カーペット状、珊瑚状、列柱状、積木で組み立てられた柱状等の種々の表現で示すことができる。また、それらの微細柱の太さ、高さ、その付け根(底面)の大きさ等は加熱条件等により変化する。
【0052】
本発明で用いる第2の多機能材である、薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している部材は、図12の顕微鏡写真から判断されるように、その多数の連続した狭幅突起部はクルミの殻の外側の外見、軽石の外見をしていると見ることができ、また各々の連続した狭幅突起部は湯じわやちぢみ状の模様が屈曲していると見ることができる。また、該突起部上に林立している微細柱の形状は上記した基体上の微細柱が林立している層の各々の微細柱の形状と同様であるが、微細柱と薄膜との接合部で切断されるものが多いので、該突起部上に林立している微細柱の密度は上記の基体上の微細柱が林立している層の微細柱の密度よりも一般的に小さくなる。
【0053】
本発明で用いる第3の多機能材は、基体表面にコーティング等の手法により炭素がドープされた酸化チタン又はチタン合金酸化の粉末(以下、炭素ドープ酸化チタン粉末という)を含む多機能層を設けたものである。この場合の多機能層は、炭素ドープ酸化チタンと無機系バインダーとを含むコーティング剤により形成されるものである。ここで、無機系バインダーとしては、例えば、エチルシリケートなどのアルコキシシラン、アルコキシシランの部分縮合物、シリカゾルなどを挙げることができる。
【0054】
このような第3の多機能材に用いられる炭素ドープ酸化チタン粉末は、チタン粉末を基体として用い、第1の多機能材の製造方法と同様に、炭化水素、特にアセチレンを主成分とするガスの燃焼炎等を用いた加熱処理により形成することができる。この場合、粉末の粒径が小さい場合に上記のような加熱処理により粒子全体を炭素ドープ酸化チタンとすることが可能であるが、この用途では表面層のみが炭素ドープ酸化チタンとなれば良いのであり、従って、粉末の粒径については何ら制限されることはない。しかし、加熱処理の容易性、製造の容易性を考慮すると15nm以上であることが好ましい。
【0055】
また、炭素ドープ酸化チタン粉末は、第2の多機能材の微細柱又は微細柱を有する薄膜を粉砕することにより得ることができる。
【0056】
なお、何れの場合も、炭素ドープ酸化チタン粉末は、炭素がTi−C結合の状態でドープされたものが特に好ましく、その効果は上述した通りである。
【0057】
以下に、本発明で用いる多機能材の機能を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0058】
実施例1〜3(第1の多機能材)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。1100℃での加熱処理時間をそれぞれ5秒(実施例1)、3秒(実施例2)、1秒(実施例3)に調整することにより炭素ドープ量及び炭素ドープ酸化チタン層の厚さが異なる炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0059】
この実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について蛍光X線分析装置で炭素含有量を求めた。その炭素含有量に基づいてTiO2-xCxの分子構造を仮定すると、実施例1については炭素含有量8at%、TiO1.760.24、実施例2については炭素含有量約3.3at%、TiO1.900.10、実施例3については炭素含有量1.7at%、TiO1.950.05であった。また、実施例1〜3で形成された炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0060】
比較例1
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
【0061】
比較例2
SUS板上に酸化チタンがスプレーコートされている市販品を比較例2の酸化チタン皮膜を有する基体とした。
【0062】
試験例1(ビッカース硬度)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、ナノハードネステスター(NHT)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ベルコビッチタイプ、試験荷重:2mN、負荷除荷速度:4mN/minの条件下で皮膜硬度を測定したところ、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層はビッカース硬度が1340と高い値であった。一方、比較例1の酸化チタン皮膜のビッカース硬度は160であった。
【0063】
これらの結果を図1に示す。なお、参考のため、硬質クロムめっき層及びニッケルめっき層のビッカース硬度の文献値(友野、「実用めっきマニュアル」、6章、オーム社(1971)から引用)を併せて示す。実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は、ニッケルめっき層や硬質クロムめっき層よりも高硬度であることは明らかである。
【0064】
試験例2(耐スクラッチ性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、マイクロスクラッチテスター(MST)(スイスのCSM Instruments製)により、圧子:ロックウェル(ダイヤモンド)、先端半径200μm、初期荷重:0N、最終荷重:30N、負荷速度:50N/min、スクラッチ長:6mm、ステージ速度:10.5mm/minの条件下で耐スクラッチ性試験を実施した。スクラッチ痕内に小さな膜の剥離が起こる「剥離開始」荷重及びスクラッチ痕全体に膜の剥離が起こる「全面剥離」荷重を求めた。その結果は第1表に示す通りであった。
【0065】
【表1】

【0066】
試験例3(耐摩耗性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、高温トライボメーター(HT−TRM)(スイスのCSM Instruments製)により、試験温度:室温及び470℃、ボール:直径12.4mmのSiC球、荷重:1N、摺動速度:20mm/sec、回転半径:1mm、試験回転数:1000回転の条件下で摩耗試験を実施した。
【0067】
この結果、比較例1の酸化チタン皮膜については、室温及び470℃の両方について剥離が発生したが、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層については、室温及び470℃の両方の条件下で有意なトレース摩耗は検出されなかった。
【0068】
試験例4(耐薬品性)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬した後、上記の皮膜硬度、耐摩耗性、及び後記する光電流密度を測定したところ、浸漬の前後で、結果に有意な差は認められなかった。即ち、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層は高い耐薬品性を有することが認められた。
【0069】
試験例5(炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の構造)
実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果を図2に示す。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.7eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、炭素ドープ酸化チタン層の深さ方向の異なる位置の11点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0070】
また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でもTi−C結合が確認された。従って、炭素ドープ酸化チタン層中のTi−C結合により硬度が高くなっており、また、炭素ドープ酸化チタン層と基体との境界でのTi−C結合により皮膜剥離強度が著しく大きくなっていることが予想される。
【0071】
試験例6(波長応答性)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜の波長応答性をOriel社のモノクロメーターを用いて測定した。具体的には、それぞれの層、皮膜に対し、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、光電流密度を測定した。
【0072】
その結果を図3に示す。図3には、得られた光電流密度jpを照射波長に対して示してある。実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の波長吸収端は、490nmに及んでおり、炭素ドープ量の増大に伴って光電流密度が増大することが認められた。なお、ここには示していないが、炭素ドープ量が10at%を越えると電流密度が減少する傾向になり、さらに15at%を越えるとその傾向は顕著になることがわかった。よって、炭素ドープ量が1〜10at%程度に最適値があることが認められた。一方、比較例1、2の酸化チタン皮膜では、光電流密度が著しく小さく、且つ波長吸収端も410nm程度であることが認められた。
【0073】
試験例7(光エネルギー変換効率)
実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1、2の酸化チタン皮膜について、式
η=jp(Ews−Eapp)/I
で定義される光エネルギー変換効率ηを求めた。ここで、Ewsは水の理論分解電圧(=1.23V)、Eappは印加電圧(=0.3V)、Iは照射光強度である。この結果を図4に示す。図4は光エネルギー変換効率ηを照射光波長に対して示してある。
【0074】
図4から明らかなように、実施例1〜3の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の光エネルギー変換効率は著しく高く、波長450nm付近での変換効率が比較例1、2の酸化チタン皮膜の紫外線領域(200〜380nm)での変換効率より優れていることが認められた。また、実施例1の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層の水分解効率は、波長370nmで約8%であり、350nm以下では10%を越える効率が得られることがわかった。
【0075】
試験例8(消臭試験)
実施例1及び2の炭素がTi−C結合の状態でドープされた炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、消臭試験を実施した。具体的には、消臭試験に一般的に用いられるアセトアルデヒドを炭素ドープ酸化チタン層を有する基体と共に1000mlのガラス容器に封入し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、UVカットフィルタ付き蛍光灯にて可視光を照射し、所定の照射時間毎にアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。なお、各皮膜の表面積は8.0cm2とした。
【0076】
この結果を図5に示す。図5には、アセトアルデヒド濃度を可視光照射後の経過時間に対して示してある。実施例1及び2の炭素ドープ酸化チタン層のアセトアルデヒド分解速度は、比較例1の酸化チタン皮膜のアセトアルデヒド分解速度の約2倍以上の高い値となっており、また、炭素ドープ量が多く、光エネルギー変換効率の高い実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の方が、実施例2の炭素ドープ酸化チタン層と比較して分解速度が高いことがわかった。
【0077】
試験例9(防汚試験)
実施例1の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1の酸化チタン皮膜について、防汚試験を実施した。各皮膜を(財)電力中央研究所内の喫煙室内に設置し、145日後の表面の汚れを観察した。なお、この喫煙室内には太陽光の直接の入射はない。
【0078】
この結果を示す写真を図6に示す。比較例1の酸化チタン皮膜の表面には脂が付着し、薄い黄色を呈していたが、実施例1の炭素ドープ酸化チタン層の表面は特に変化がみられず、清浄に保たれており、防汚効果が十分に発揮されたことが認められた。
【0079】
実施例4〜7(第1の多機能材)
実施例1〜3と同様にアセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン板を形成した。
【0080】
比較例3
天然ガスの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのチタン板を、第2表に示す表面温度で第2表に示す時間の間加熱処理した。
【0081】
試験例10
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例3の皮膜について、上記の試験例1と同様にしてビッカース硬度(HV)を測定した。それらの結果を第2表に示す。また、実施例4〜7で形成された炭素ドープ酸化チタン層は、水滴との接触角が2°程度の超親水性であった。
【0082】
【表2】

【0083】
第2表に示すデータから明らかなように、天然ガスの燃焼ガスで表面温度が850℃になるように加熱処理した場合にはビッカース硬度160の皮膜しか得られなかったが、表面温度が1000℃以上になるようにアセチレンの燃焼ガスを用いて加熱処理した実施例4〜7の場合にはビッカース硬度1200の炭素ドープ酸化チタン層が得られた。
【0084】
試験例11
実施例4〜7の炭素ドープ酸化チタン層及び比較例1及び3の酸化チタン皮膜について、試験例6と同様に、0.05M硫酸ナトリウム水溶液中で対極との間に電圧を0.3V印加し、300nm〜520nmの光を照射して光電流密度を測定した。その結果を図7に示す。図7には、得られた光電流密度jpを電位ECP(V vs. SSE)に対して示してある。
【0085】
アセチレンの燃焼ガスを用いて表面温度が1000〜1200℃になるように加熱処理して得た実施例4〜6の炭素ドープ酸化チタン層は、相対的に光電流密度が大きく優れていることがわかった。一方、表面温度が850℃になるように加熱処理して得た比較例3の酸化チタン及び表面温度が1500℃になるように加熱処理して得た実施例7の炭素ドープ酸化チタン層は光電流密度が相対的に小さいことがわかった。
【0086】
実施例8(第1の多機能材)
アセチレンの燃焼炎を用い、厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板をその表面温度が約1100℃となるように加熱処理することにより、表面層が炭素ドープ酸化チタンを含有するチタン合金からなる合金板を形成した。1100℃での加熱処理時間を60秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタンを含有する層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0087】
実施例9(第1の多機能材)
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面にスパッタリングによって膜厚が約500nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が約900℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するステンレス鋼板を形成した。900℃での加熱処理時間を15秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は水滴との接触角が2°程度の超親水性であり、また、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0088】
実施例10(第1の多機能材)
粒径20μmの酸化チタン粉末をアセチレンの燃焼炎中に供給し、燃焼炎中に所定時間滞留させてその表面温度が約1000℃となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末を形成した。1000℃での加熱処理時間を4秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層を有するチタン粉末、実施例4で得られた炭素ドープ酸化チタン層と同様な光触媒活性を示した。
【0089】
実施例11〜12(第1の多機能材)
厚さ1mmのガラス板(パイレックス(登録商標))の表面にスパッタリングによって膜厚が約100nmのチタン薄膜を形成した。アセチレンの燃焼炎を用い、その表面温度が1100℃(実施例11)、又は1500℃(実施例12)となるように加熱処理することにより、表面層として炭素ドープ酸化チタン層を有するガラス板を形成した。1100℃、又は1500℃での加熱処理時間を10秒とした。このようにして形成された炭素ドープ酸化チタン層は表面温度が1100℃の場合には図8(a)に写真で示すように透明であったが、表面温度が1500℃の場合には図9に示すように海に浮かぶ多数の小島状の起伏が表面に生じており、図8(b)に示すように半透明となった。
【0090】
実施例13〜16(第2の多機能材)
厚さ0.3mmのチタン板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。即ち、加熱処理で表面層内部に形成された酸化チタンからなる微細柱が林立している層がその後の冷却で該微細柱が林立している層が該表面層に沿う方向で切断された。このようにして実施例13〜16の第2の多機能材を得た。
【0091】
図10は、実施例13で得られた第2の多機能材の顕微鏡写真であり、チタン板表面1上に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2が露出しており、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3がその層2上の一部に残っている状態を示している。なお、実施例13〜16の製造方法ではチタン板表面1は露出しないが、図10の顕微鏡写真は微細柱が林立している層2の一部を除去した状態を示している。図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真であり、図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態を示す顕微鏡写真であり、図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【0092】
実施例17(第2の多機能材)
厚さ0.3mmのTi−6Al−4V合金板の表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、チタン合金板表面の大部分にチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上にチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0093】
実施例18(第2の多機能材)
厚さ0.3mmのステンレス鋼板(SUS316)の表面に電子ビーム蒸着によって膜厚が約3μmのチタン薄膜を形成した。その薄膜表面を、アセチレンの燃焼炎により、第3表に示す表面層温度で第3表に示す時間加熱処理した。その後その燃焼炎を当てた表面を厚さ30mmのステンレスブロックの平らな面と接触させて冷却すると、ステンレス鋼板表面の大部分に白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層が露出している部材と、薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材とに分離した。
【0094】
比較例4
市販されている酸化チタンゾル(石原産業製STS−01)を厚さ0.3mmのチタン板にスピンコートした後、加熱して密着性を高めた酸化チタン皮膜を有するチタン板を形成した。
【0095】
試験例12(引っかき硬度試験:鉛筆法)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱側表面について、JIS K 5600−5−4(1999)に基づき、三菱鉛筆株式会社製ユニ1H〜9H鉛筆を用いて鉛筆引っかき硬度試験を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められなかった。
【0096】
試験例13(耐薬品性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を1M硫酸水溶液及び1M水酸化ナトリウム水溶液にそれぞれ室温で1週間浸漬し、水洗し、乾燥させた後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐薬品性を有することが認められた。
【0097】
試験例14(耐熱性試験)
実施例13〜18で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材を管状炉内に入れ、大気雰囲気下で室温から1時間かけて500℃まで昇温させ、500℃の恒温で2時間保持し、更に1時間かけて室温まで静置冷却した後、上記の引っかき硬度試験:鉛筆法を実施した。その結果は第3表に示す通りであった。即ち、全ての試験片について9Hの鉛筆を用いた場合にも損傷は認められず、高い耐熱性を有することが認められた。
【0098】
【表3】

【0099】
試験例15(防汚試験)
試料として、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している表面積8cm2の部材及び比較例4で得られた酸化チタン皮膜を有する表面積8cm2のチタン板を用いて消臭試験を実施した。具体的には、それらの試料をそれぞれ、約12μmol/Lの濃度に調整したメチレンブルー水溶液80mL中に浸漬し、初期の吸着による濃度減少の影響が無視できるようになってから、松下電器産業株式会社製のUVカットフィルター付き蛍光灯により可視光を照射し、所定の照射時間毎に波長660nmにおけるメチレンブルー水溶液の吸光度をHACH社製水質検査装置DR/2400で測定した。その結果は図14に示す通りであった。
【0100】
図14から、実施例16で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材は、比較例4で得られた酸化チタン皮膜を有するチタン板に比較して、メチレンブルーの分解速度が速く、防汚効果が高いことが分かる。
【0101】
試験例16(結晶構造と結合状態)
実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱から得た試料についてX線回折(XRD)を行った結果、ルチル型の結晶構造を有することが判明した。
【0102】
また、実施例15で得られた基板表面に微細柱が林立している層が露出している部材の微細柱部分について、X線光電子分光分析装置(XPS)で、加速電圧:10kV、ターゲット:Alとし、2700秒間Arイオンスパッタリングを行い、分析を開始した。このスパッタ速度がSiO2膜相当の0.64Å/sとすると、深度は約173nmとなる。そのXPS分析の結果は図15に示す通りであった。結合エネルギーが284.6eVである時に最も高いピークが現れる。これはCls分析に一般的に見られるC−H(C)結合であると判断される。次に高いピークが結合エネルギー281.6eVである時に見られる。Ti−C結合の結合エネルギーが281.6eVであるので、実施例15の微細柱中ではCがTi−C結合としてドープされていると判断される。なお、微細柱の高さ位置の異なる位置の14点でXPS分析を行った結果、全ての点で281.6eV近傍に同様なピークが現れた。
【0103】
以上説明したように、第1の多機能材は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能するので、可視光応答型光触媒として使用できるだけでなく、従来硬質クロムめっきが利用されていた種々の技術分野にも有意に利用できる。また、基材の電位を低下させて孔食や全面腐食、並びに応力腐食割れ等の防止等を目的とする製品への応用が期待できる。さらに、紫外線のみならずγ線等の放射線に応答する放射線応答型触媒として原子炉構造物等の応力腐食割れやスケール付着等を抑制するために使用することで、他の成膜手法と比較して容易に成膜でき、かつ耐久性を向上させることもできるものである。
【0104】
また、第2の多機能材は、光触媒活性が高く、可視光応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れている。
【0105】
さらに、第3の多機能材は、光触媒活性が高く、可視光応答型光触媒として機能するものである。
【0106】
以下、上述した多機能材を適用した空気清浄システムの一例を説明する。図16は当該空気清浄システムを概念的に示す説明図である。同図に示すように、本形態に係る空気清浄システム100は、煙草の煙等の汚れ成分を含む空気を吸入する吸入口101から浄化した空気を排出する排出口102に至るダクト103を有しており、このダクト103の途中に浄化ユニット104が電気集塵機の電極105とともに配設してある。ダクト103内にはファン106も配設してあり、その駆動により、吸入口101から強制的に空気を吸入するようになっている。制御部107はファン106の駆動の制御を始めとして、当該空気清浄システムの全体の制御を行う。これら、ダクト103、制御部106等は筐体108内に収納してある。このように、筐体108のダクト103内には、空気の流れ方向(図中の矢印方向)に対して電極105、浄化ユニット104が順次配設してある。ここで、相対向する電極105間には高圧の直流電圧を印加するようになっており、この部分で電気集塵機を構成している。
【0107】
浄化ユニット104は、その一部を抽出して図17に詳細に示すように、前記多機能層を有する部材で形成したガスの通路104aと、この通路104aに配設した光源104bとを有している。
【0108】
ここで、通路104aは空気中の汚れ成分を効率的に捕捉し得るようになるべく小さい開口面積のものをなるべく多く形成する方が好ましい。したがって、図17に示すような、前記多機能層を有する部材を格子状に組み合わせた構造のものが好適な構成例として考えられる。他にもハニカム構造のもの、さらには波板状の部材で格子状乃至ハニカム構造としたもの等でも良い。また、各通路104aには支持部材104cを介して光源104bを配設してある。この光源104bは通路104aの断面積に応じて適切なものを選択して適用すれば良い。断面積が小さい場合には発光ダイオードを好適に用いることができる。
【0109】
上記多機能層を設ける第1の方法としては、通路104aを形成する構造体を、表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの表面部形成層を有する金属部材、又はチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる部材で構成し、これを第1の多機能材として説明したように、炭化水素を主成分とするガスの燃焼炎を用いて高温で加熱処理する方法を挙げることができる。
【0110】
これにより、浄化ユニット104となる構造体の表面に、炭素がTi−C結合の状態でドープされており、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能する炭素ドープ酸化チタン層からなる多機能層を形成することができる。
【0111】
また、第2の方法としては、通路104aを形成する構造体を、表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの表面部形成層を有する金属部材、又はチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる部材で構成し、上述した第2の多機能材として説明したように、表面を例えば不飽和炭化水素、特にアセチレンの燃焼炎で加熱処理して、該表面層内部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を形成させ、次いで、例えば熱応力、剪断応力、引張応力を与えて、該微細柱が林立している層を該表面層に沿う方向で切断させて該基体上の表面に、普通には該基体上の大部分に該酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層を露出させる方法を挙げることができる。これにより、第2の多機能材が具備する多機能層、すなわち、光触媒活性が高く、可視光線応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れている多機能層を通路104aを構成する部材の表面に容易に設けることができる。
【0112】
ここで、第1の方法及び第2の方法で使用される表面にチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンの表面形成層を有する金属部材は、例えば、鉄、鉄合金、ステンレスなどの心材の表面に、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる皮膜をスパッタリング、蒸着、溶射等の方法で形成したもの、あるいは、市販の酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティングやディッピングにより形成したもの等を挙げることができる。また、実施形態では、金属部材を例示したが、心材として、セラミックス、その他の陶磁器、高温耐熱性ガラス等を適用することができ、例えば、ガラスを用いた場合には、透明な多機能層を設けることにより、清潔感に優れた部材を提供できる。
【0113】
なお、第1の方法及び第2の方法における加熱処理方法は、第1の多機能材や第2の多機能材の製造方法で詳細に説明したので、ここでの説明は省略する。
【0114】
また、多機能層を設ける第3の方法としては、通路104aを構成する構造体の表面に、上述した第1の多機能材や第2の多機能材からなるパネルを貼付する方法を挙げることができる。
【0115】
さらに、第4の方法としては、上述した第3の多機能材で説明したように、前記構造体の表面に、コーティング等の手法により炭素ドープ酸化チタン粉末を含む多機能層を設ける方法である。この場合には、上述した第1〜第3の方法の場合と比較して耐久性に劣るが、光触媒活性が高く、可視光線応答型光触媒として機能する多機能層を非常に簡便に設けることができるという利点がある。
【0116】
以上説明したように本形態に係る多機能層を具備する部材で通路104aを形成した浄化ユニット104は、特に、第1の方法又は第3の方法で第1の多機能部材を適用したものでは、第1の多機能材は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れると共に多機能層の耐剥離性に優れ且つ可視光応答型光触媒として機能するので、耐久性に優れるという効果を奏する。すなわち、浄化ユニット104を洗浄する際に金属性のタワシを使用しても傷つくことはない。
【0117】
また、第2の方法又は第3の方法で第2の多機能材を適用した浄化ユニット104は、耐久性の面では上述したものより多少劣るが、光触媒活性が高く、可視光線応答型光触媒として機能し、更にVOCも容易に吸着でき、硬度も高く、耐剥離性、耐摩耗性、耐薬品性、耐熱性に優れ、さらに、多機能層の耐剥離性に優れているので、付着した有機物や微生物を分解することができ、高度の脱臭機能を発揮させることができる。
【0118】
さらに、第1の方法又は第2の方法で浄化ユニット104の通路104aの部材となる構造体自体をチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる部材で構成した場合には、通路104aが、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面に多機能層を有する部材、すなわち、表面に多機能層を具備するチタン系積層部材で構成されることになり、軽量で剛性が高いという効果を奏するものとなる。
【0119】
上述の如く、本形態に係る浄化ユニット104は、その多機能層による優れた光触媒機能により良好な脱臭機能を長期に亘り安定して発揮することができる。ここで、前記浄化ユニット104に流入するガスは、上流の電気集塵機で一旦清浄化されるので汚れ成分をより確実に除去して当該空気清浄システム外に排気することができる。ただ、このように電気集塵機と組み合わせることは必須ではない。浄化ユニットさえ備えていれば、本発明の目的は達成することができる。
【0120】
なお、本発明の空気清浄装置は、車室内の空気の清浄に用いるエアピュリファイア、クリーンルームへ空気を送り込む空気清浄設備、カラオケルーム用、病院用、遊技場用に適用して特に有用なものとなる。また、葬儀におけるご焼香の吸煙装置に組込んでも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は試験例1の皮膜硬度試験の結果を示す図である。
【図2】図2は試験例5のXPS分析の結果を示す図である。
【図3】図3は試験例6の光電流密度の波長応答性を示す図である。
【図4】図4は試験例7の光エネルギー変換効率の試験結果を示す図である。
【図5】図5は試験例8の消臭試験の結果を示す図である。
【図6】図6は試験例9の防汚試験の結果を示す写真である。
【図7】図7は試験例11の結果を示す図である。
【図8】図8は実施例11及び12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の光透過状態を示す写真である。
【図9】図9は実施例12で得られた炭素ドープ酸化チタン層の表面状態を示す写真である。
【図10】図10は実施例13で得られた多機能材の状態を示す顕微鏡写真である。
【図11】図11は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の薄膜側表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図12】図12は薄膜上に白色の酸化チタンからなる多数の連続した狭幅突起部及び突起部上に林立している微細柱が露出している小片部材3の多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出している側の表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図13】図13は白色の酸化チタンからなる微細柱が林立している層2の状態を示す顕微鏡写真である。
【図14】図14は試験例15(防汚試験)の結果を示すグラフである。
【図15】図15は試験例16(結晶構造と結合状態)の結果を示すグラフである。
【図16】図16は本発明の空気清浄システムを概念的に示す説明図である。
【図17】図17は図16に示す空気清浄システムの浄化ユニットの一部を抽出して示す拡大図である。
【符号の説明】
【0122】
100 空気清浄システム
101 吸入口
102 排出口
103 ダクト
104 浄化ユニット
104a 通路
104b 光源
104c 支持部材
105 電極
106 ファン
107 制御部
108 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素ドープされた酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多機能層を表面の少なくとも一部に設けた部材で形成した気体の通路と、この通路に配設した光源とを有する浄化ユニットを備えることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項2】
請求項1において、前記多機能層が基体の表面に一体的に形成されたものであると共に該炭素がTi−C結合の状態でドープされており、該基体の少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンであることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項3】
請求項2において、前記基体は、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる表面部形成層と心材とからなり、該心材がチタン、チタン合金、酸化チタン及びチタン合金酸化物以外の材質であることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、前記多機能層のビッカース硬度が300以上であることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項5】
請求項2又は3において、前記多機能層のビッカース硬度が1000以上であることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項6】
少なくとも表面側がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる基体の表面の少なくとも一部に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の突起部を有していると共に該突起部が炭素ドープされている多機能層を設けた部材で形成した気体の通路と、この通路に配設した光源とを有する浄化ユニットを備えることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項7】
請求項6において、前記多機能層が、微細柱が林立しているものであり且つ該微細中が炭素ドープされていることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、ドープされた炭素がTi−C結合の状態で含まれていることを特徴とすることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項9】
請求項6〜8の何れかにおいて、前記基体は、チタン、チタン合金、チタン合金酸化物又は酸化チタンからなる表面部形成層と心材とからなり、該心材がチタン、チタン合金、酸化チタン及びチタン合金酸化物以外の材質であることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかの空気清浄装置と電気集塵機とを組み合わせたことを特徴とする空気清浄システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−231293(P2006−231293A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53644(P2005−53644)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】