説明

空気電池、空気電池スタック

【課題】大容量の空気電池を提供すること。
【解決手段】
負極17と、セパレータ6と、触媒層4及び正極集電体3を有する正極13と、酸素拡散膜2と、がこの順に積層された積層体19、並びに、前記負極17、前記セパレータ6、及び前記正極13と接触する電解質9を含む発電体を備え、
前記酸素拡散膜2の主面2mの一つは前記正極集電体3の主面3mの一つに対向して配置され、
前記酸素拡散膜2の周縁部の2c少なくとも一部が空気と接している空気電池1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池及び空気電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素を活物質として使用する空気電池は高エネルギー密度化が可能であることから、電気自動車用等の種々の用途への応用が期待されている。そして、さらなる応用を実現するためには容量をより大きくすることが求められている。例えば、特許文献1には、第1セルと第2セルとが酸素透過部を介して配置された空気電池において、第1セルと第2セルが交互に充電と放電とを行う空気二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−91248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記空気二次電池は、一方のセルが充電を行う際、他方のセルが放電を行うため、放電に寄与するセルはいつも装置の片方側のセルであり、装置の大きさに対して得られる容量が必ずしも大きくならない。また、装置が大型になり、幅広い用途で用いることが困難であった。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、大容量化が容易な空気電池、空気電池スタックおよび捲回型の空気電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明は、負極と、セパレータと、触媒層及び正極集電体を有する正極と、酸素拡散膜と、がこの順に配置された積層体、並びに、負極、セパレータ、及び正極と接触する電解質を含む発電体を備え、酸素拡散膜の主面の一つは正極集電体の主面の一つに対向して配置され、酸素拡散膜の周縁部の少なくとも一部が空気と接している空気電池を提供する。
【0007】
本発明の空気電池は、酸素拡散膜の周縁部の少なくとも一部が空気と接するように配置されることにより、放電時には、この酸素拡散膜の周縁部の少なくとも一部から酸素拡散膜を介して正極に到達した空気が放電に寄与することとなる。また、空気二次電池として用いる場合の充電時には、正極で発生した空気が酸素拡散膜を介して酸素拡散膜の周縁部の少なくとも一部から酸素拡散膜を介して外部へ放出される。そして、本発明の空気電池は、従来の空気電池のような正極及び酸素拡散膜の主面側から空気を取り込む形態ではないため、主面同士を重ね合わせてスタックすることが可能となる。これにより、大容量化を容易に実現することができる。
【0008】
ここで、本発明の空気電池は、発電体が電解質と溶媒とを含む溶液を有し、酸素拡散膜の表面に対する溶媒の接触角が90°以上であることが好ましい。これにより、酸素拡散膜中の酸素が拡散する空孔が、電解質が溶解している溶媒で濡れにくくなり、空孔が塞がれることを抑制できる。
【0009】
また、本発明の空気電池は、発電体が電解質と溶媒とを含む溶液を有し、酸素拡散膜の表面に対する溶媒の接触角が150°以上であることが好ましい。これにより、酸素拡散膜の空孔が、電解質が溶解している溶媒でより濡れにくくなり、空孔が塞がれることを一層抑制できる。
【0010】
また、発電体が電解質と溶媒とゲル化剤とを含む溶液を有することがより好ましい。これにより、酸素拡散膜の空孔に液体の溶媒が接触することを抑制することができる。そして、空孔が、電解質が溶解している溶媒で濡れにくくなり、空孔が塞がれることをより一層抑制できる。
【0011】
また、本発明の空気電池においては、負極に含まれる負極活物質が、水素、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄、及び亜鉛からなる群から選択される1つ以上であることが好ましい。負極活物質が上記材料であると、空気電池から十分な放電容量が得られやすい。
【0012】
また、本発明の空気電池においては、負極に含まれる負極活物質が、水素、リチウム、アルミニウム、カリウム、鉄又は亜鉛であることがより好ましい。負極活物質が上記材料であると、空気電池から大きな放電容量がより得られやすい。
【0013】
また、本発明の空気電池においては、触媒層が二酸化マンガン、又は白金を含むことが好ましい。これにより、空気電池から大きな放電容量が得られる。特に、白金は酸素の吸蔵放出能を有するため、空気二次電池として用いることも容易である。
【0014】
また、本発明の空気電池においては、触媒層が、ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含み、AサイトにLa、Sr及びCaからなる群から選ばれる少なくとも2種の原子を含み、BサイトにMn、Fe、Cr及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含む。触媒層が、ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含む場合、当該複合酸化物は酸素の吸蔵放出能を有するため、空気二次電池として用いることも容易である。
【0015】
また、本発明の空気電池においては、充電用正極をさらに備えることが好ましい。これにより、上述の正極の触媒層は放電専用となり、正極の触媒層に炭素のような酸化され易い材料を用いた場合にも、充電時に正極で発生する酸素により、この触媒層が酸化されることを防ぐことができ、二次電池として利用しやすい。
【0016】
また、本発明の空気電池においては、充電用正極が金属製のメッシュであることが好ましい。これにより、充電時に充電用正極表面で発生する酸素が、メッシュの網目を通過して、電池セルの外部へ排出され易くなる。
【0017】
また、本発明の空気電池は、空気二次電池であることが好ましい。本発明は大きな容量が得られる二次電池であり、電気、電子機器用の小型電池としての用途のみならず、電気自動車駆動(走行)用の電源としての用途にも用いることができる。
【0018】
本発明の空気電池において、上記積層体がシート状をなし、捲回されていることが好ましい。本発明によれば、捲回されてもなお酸素の出入りが容易であり大容量の空気電池を容易に得ることができる。
【0019】
本発明の空気電池において、上記酸素拡散膜における上記正極と対向する側とは反対側に、さらに、第二触媒層及び第二正極集電体を有する第二正極と、第二セパレータと、第二負極とがこの順に配置されていることが好ましい。本発明によれば、大容量の空気電池を得ることができる。
【0020】
本発明は、上記発電体を二以上有し、各発電体は、上記積層体の積層方向に積層された空気電池スタックを提供する。本発明によれば、大容量の空気電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、大容量の空気電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1(a)は、本発明に係る空気電池の好適な実施形態の一例を示す概略図及び、図1(b)は図1(a)をIb−Ib線で切断した時の概略断面図である。
【図2】図2(a)は、本発明に係る空気電池の好適な実施形態の他の一例を示す概略図、及び、図2(b)は図2(a)をIIb−IIb線で切断した時の概略断面図である。
【図3】図3(a)は、充電用正極を備えた空気電池の一例を示す模式断面図、及び、図3(b)は、その他の一例を示す模式断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る空気電池スタックの第一実施形態を示す概略断面図である。
【図5】図5は、本発明に係る空気電池スタックの第二実施形態示す概略断面図である。
【図6】図6は、本発明に係る空気電池スタックの第三実施形態を示す概略断面図である。
【図7】図7は、本発明に係る空気電池スタックの第四実施形態を示す概略断面図である。
【図8】図8は、本発明に係る捲回型の空気電池の一例を示す概略断面図である。
【図9】図9は、比較例の空気電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る空気電池の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、実際の寸法比率は、図面の寸法比率と異なっていてもよい。
【0024】
[空気電池]
図1は、本発明に係る空気電池の好適な実施形態を示す概略図(a)及び、概略図(a)をIb−Ib線で切断した時の概略断面図(b)である。また、図2は、本発明に係る空気電池の好適な実施形態を示す概略図(a)及び、概略図(a)をIIb−IIb線で切断した時の概略断面図(b)である。
【0025】
本実施形態に係る空気電池1は、図1、2に示すように、負極17と、セパレータ6と、正極13と、酸素拡散膜2と、がこの順に配置された積層体19と、電解質9と、を含む発電体20を備える。そして、この発電体20が、容器10内に収容されている。
【0026】
(負極)
負極17は、負極集電体8、及びこの負極集電体8上に形成された負極活物質7を有し、負極集電体8の端部には外部接続端子(リード)11が接続されている。
【0027】
負極集電体8は導電材料であれば良く、例えば、ニッケル、クロム、鉄、チタンからなる群から選ばれる一種以上の金属または該金属を含む合金が挙げられ、好ましくは、ニッケル、ステンレスが挙げられる。形状としては、板、メッシュ、多孔板、金属スポンジ等が挙げられる。
【0028】
負極活物質7としては、空気電池を構成可能な負極材料であれば特に限定されない。負極活物質としては、水素又は金属が挙げられる。金属としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄、亜鉛が好ましい。中でも、水素、リチウム、アルミニウム、カリウム、鉄、亜鉛のいずれかであることが好ましい。負極活物質が水素の場合、水素は水素吸蔵合金などの合金や金属中に吸蔵されることが好ましい。
【0029】
(セパレータ)
セパレータ6としては、電解質の移動が可能な絶縁材料であれば特に限定されず、例えば、ポリオレフィンやフッ素樹脂等の樹脂からなる不織布や多孔質膜を用いることができる。具体的には、樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンが挙げられる。また電解質が水系溶媒に溶解している場合(以下、電解質が溶媒に溶解している溶液を、「電解液」ということがある。)は、樹脂として、親水性化処理されたポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0030】
(正極)
正極13は、正極集電体3、及び、正極集電体3上に形成された正極触媒層4を有し、正極集電体3の端部には外部接続端子(リード)5が接続されている。
【0031】
正極集電体3は導電材料であれば良く、例えば、ニッケル、クロム、鉄、チタンからなる金属または合金製が挙げられ、好ましくは、ニッケル、ステンレスである。形状としては、メッシュ、多孔板等である。正極集電体3がメッシュや多孔板であると、放電時には酸素拡散膜2から供給される酸素が正極触媒層に到達しやすく、また、充電時に充電用電極表面で発生する酸素が酸素拡散膜2を通って外部へ排出され易いため好ましい。
【0032】
正極触媒層4は、正極触媒を有するが、通常、正極触媒に加え、導電剤及びこれらを正極集電体3に接着する結着剤を含むことが好ましい。
【0033】
正極触媒としては、酸素を還元可能な材料であればよく、例えば、活性炭等の炭素材料、マンガン酸化物、白金、イリジウム、イリジウム酸化物、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン及びジルコニウムからなる群から選ばれた1種以上の金属を含むイリジウム酸化物、ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物等が挙げられる。ペロブスカイト型複合酸化物は、AサイトにLa、Sr及びCaからなる群から選ばれる少なくとも2種の原子を含み、BサイトにMn、Fe、Cr及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含むことが好ましい。中でも、酸素を還元可能もしくは酸素の還元体を酸化可能な材料が好ましい。
【0034】
特に、白金や、ペロブスカイト型複合酸化物は、酸素の吸蔵放出能を有し、空気二次電池に用いることもできて好ましい。
【0035】
導電剤としては特に限定されないがアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料が挙げられる。
【0036】
結着剤としては、使用する電解液に溶解しないものであればよく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素樹脂が好ましい。
【0037】
(電解質)
電解質は、負極17、セパレータ6、及び、正極13と接触している。電解質9が溶媒に溶解している場合、電解質9が溶解した電解液が、セパレータ6、並びに、負極17、セパレータ6、及び、正極13を含む積層体に含浸されている。電解質9が水系溶媒に溶解している場合、例えば、電解質9が水溶液中に含まれる場合、水溶液は、NaOH、KOH、NHClが溶解した水溶液であることが好ましい。水溶液中のNaOH、KOH又はNHClの濃度は、1〜99重量(wt)%であることが好ましく、10〜60wt%であることがより好ましく、20〜40wt%であることがさらに好ましい。
【0038】
電解質9が非水系溶媒に溶解している場合、例えば、電解質9が有機溶媒に溶解している場合、有機溶媒として、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテルからなる群から選ばれる1種の溶媒又は2種以上の溶媒からなる混合溶媒を用いることができる。
【0039】
ここで、環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が挙げられる。環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等が挙げられる。環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。鎖状エーテルとしては、ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0040】
電解質9が非水系溶媒に溶解している場合、電解質として負極活物質7を構成する元素を含む塩を含有させることができる。
【0041】
電解質9が溶媒に溶解している場合、さらに、ゲル化剤が溶媒に溶解していることが好ましく、ゲル化剤を水系溶媒に溶解させることがより好ましい。ゲル化剤としては、水で膨潤するものであればよく、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)等のポリマーが好ましい。電解質9が溶媒中に含まれる場合に、溶媒と酸素拡散膜2との組み合わせにより程度の差はあるが、溶媒が酸素拡散膜2の空孔中に浸透する場合があり、酸素拡散膜2中を酸素が拡散し難くなる。しかしながら、ゲル化剤を溶解させることで溶媒は酸素拡散膜2に浸透し難くなり、酸素拡散膜2を酸素が透過し易くなる。
【0042】
電解質9は溶媒に溶解していなくてもよく、この場合、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、アルキルボラン含有高分子、ポリシリコーン誘導体(モメンティブ社製)、スルホン酸を含む高分子、β‐アルミナ固体電解質、ナシコン型固体電解質、高純度硫化リチウムと硫化りんを焼成した固体電解質、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LICGC)(オハラ社製)等の電解質を使用できる。
【0043】
(酸素拡散膜)
図1(a)、(b)に示すように、酸素拡散膜2の主面2mの一方、すなわち、酸素拡散膜2が有する面のうち最も面積が広い面2mの一方が、正極集電体3の主面3mの一方、すなわち、正極集電体3が有する面のうち最も面積が広い面3mの一方に対向するように配置されている。そして、酸素拡散膜2の周縁部2c、すなわち、酸素拡散膜2の主面2mの周縁部2b及び主面2m以外の面である側面2aの少なくとも一部が空気と接している。
【0044】
図1(a),(b)に示す空気電池1では、酸素拡散膜2の周縁部2cが、容器10の開口15を介して外部に突出しており、当該周縁部2cから空気中の酸素を発電体20の内部に取り込んだり、発電体20の内部で発生する酸素を外部に放出したりすることができる。また、図1に示す空気電池1においては、酸素拡散膜2の周縁部2cが4方向へ突出する形態を示すが、周縁部2cは少なくとも1方向へ突出していればよい。
【0045】
なお、図2(a)、(b)に示す空気電池1のように、酸素拡散膜2の周縁部2cが容器10の開口15から完全に外部に露出していなくてもよく、側面2aのみが、開口部15を介して空気と接触していても実施は可能である。また、図2の空気電池1において、酸素拡散膜2の4つの側面のうち少なくとも1面の側面2aが、開口部15から露出していればよい。
【0046】
酸素拡散膜2は、酸素を拡散して透過させるための連続した空孔を有する膜であり、通常、多孔膜といわれる膜である。酸素拡散膜2の連続した空孔により、酸素拡散膜2の周縁部2cの空気と接触する面と、酸素拡散膜2の正極13と対向する主面2mとの間で、酸素の拡散が可能となる。
【0047】
酸素拡散膜2の周縁部2cから主面2mにかけて、酸素が十分に透過するためには、空孔の径が、例えば、0.01μm〜2mm程度であることが好ましく、1μm〜2mm程度であることが特に好ましい。
【0048】
酸素拡散膜2の周縁部2cから主面2mにかけて、酸素が十分に透過するためには、その厚みは、1μm〜50mmであることが好ましく、5μm〜1mmであることがより好ましく、5μm〜100μmであることが特に好ましい。
【0049】
また、酸素拡散膜2の周縁部2cから主面2mにかけて、酸素が十分に透過するためには、酸素拡散膜の空隙率が1%〜95%であることが好ましく、10%〜90%であることがより好ましく、20%〜65%であることが特に好ましい。空隙率が高くなると、電解質が溶媒に溶解している場合に、溶媒が酸素拡散膜2に浸透し易くなるため、外部から供給される酸素が正極集電体3の表面まで到達し難くなり、放電速度が減少する傾向がある。空隙率が低くなると、空気の拡散経路が少なくなることから、酸素の透過性も悪くなり、放電速度が減少する傾向がある。
【0050】
ここで、酸素拡散膜2の材質としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体等が挙げられる。多孔膜とするためには、延伸法、溶媒除去法、フィラー除去法等により製造すればよい。
【0051】
電解質9が溶媒に溶解している場合、酸素拡散膜2の表面に対する溶媒の接触角は90°以上が好ましい。接触角が上記範囲内であると、溶媒が水系溶媒である場合には、酸素拡散膜2には撥水性があるものを用い、溶媒が非水系溶媒である場合には、撥油性があるものを用いることができる。このように酸素拡散膜2が溶媒をはじく性質を有する、すなわち、溶媒により濡れにくい性質を有することにより、酸素拡散膜2の連続した空孔内が、電解質が溶解している溶媒で濡れ、空孔が塞がれてしまうことを抑制できる。なお、接触角とは、溶媒の液滴表面の、当該溶媒の液滴、酸素拡散膜、及び空気との三相が接する点における接線と酸素拡散膜とのなす角(液の内部にある角をとる)を意味する。
【0052】
さらに、酸素拡散膜2の表面に対する溶媒の接触角は150°以上であることがより好ましい。接触角が上記範囲内であると、溶媒が水系溶媒である場合には、酸素拡散膜2には超撥水性があり、溶媒が非水系溶媒である場合には、超撥油性があるということができる。このように酸素拡散膜2が溶媒を非常に極めてよくはじく性質を有する、すなわち、溶媒により、非常に濡れにくい性質を有することにより、酸素拡散膜2の空孔内が、電解質が溶解している溶媒で濡れ、空孔が塞がれてしまうことをより一層抑制できる。
【0053】
電解質が水系溶媒に溶解している場合、撥水性を有する酸素拡散膜2としては、水との接触角が90°以上であればよく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレンが挙げられる。超撥水性を有する酸素拡散膜2としては、水との接触角が150°以上であればよく、UCファイバー(宇部日東化成製)、フッ素樹脂などでコート処理した不織布などが挙げられる。
空気電池の容量維持率を高める観点からは、酸素拡散膜が撥水性を有することが好ましく、超撥水性を有することがより好ましい。
【0054】
電解質が非水系溶媒に溶解している場合、撥油性を有する酸素拡散膜2としては、有機溶媒との接触角が90°以上であればよく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体等のフッ素樹脂からなる不織布等が挙げられる。超撥油性を有する酸素拡散膜2としては、有機溶媒との接触角が150°以上であればよく、宇部日東化成製のUCファイバー、フッ素樹脂などでコート処理した不織布などが挙げられる。空気電池の容量維持率を高める観点からは、酸素拡散膜が撥油性を有することが好ましく、超撥油性を有することがより好ましい。
【0055】
また、表面処理によって上述の撥水、撥油性を発現させることもできる。例えば、フッ素樹脂などでコート処理した不織布などを用いることができる。
【0056】
酸素拡散膜2の形状や大きさは特に限定はされず、電池セルの形状や大きさ、特に正極の形状や大きさに応じて、適宜形状や大きさを変えて使用することができる。放電速度の観点からは、例えば、酸素拡散膜2の主面2mの面積は、正極集電体3の主面3mの面積より大きいことが好ましい。この場合、酸素拡散膜2の周縁部を突出させて大気に接触させることが容易である。
【0057】
また、本実施形態に係る空気電池1は、酸素拡散膜2と正極集電体3とが対向していればよく、例えば、酸素拡散膜2と正極集電体3との間に、酸素を透過し易くかつ二酸化炭素が透過し難い、酸素の透過選択性を有する膜を介在させてもよい。酸素の透過選択性を有する膜としては、例えば、芳香族基を1つ以上有するアルキンの重合体膜が挙げられる。空気から二酸化炭素が選択的に除去されると、例えば、電解質9を含む水溶液中にOHが含まれる場合には、二酸化炭素とOHとの中和反応により、水溶液中のOHが減少し、充放電効率が低下することを抑制できる。上記アルキンの重合体膜に含まれる芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、ピリジニル基、ピロイル基、チオフェンイル基及びフリル基からなる群より選ばれる基であるか、又は該基における水素原子の少なくとも一部が置換されている置換芳香族基であることが好ましい。芳香族基が上記の基のいずれかであると、酸素/二酸化炭素選択透過性が一層向上する。また、芳香族基が、フェニル基又は置換フェニル基であることがより好ましい。
【0058】
(充電用正極)
また、本実施形態に係る空気電池は、充電用に用いる充電用正極をさらに備えることができる。これにより、上述の正極触媒層4は放電専用となる。充電用正極の場所も特に限定されないが、例えば、図3(a)に示す空気電池1のように、充電用電極72を正極13の正極触媒層4の正極集電体3とは反対側の表面に、絶縁性のセパレータ71を介して設けることができ、また、図3(b)の空気電池1のように、充電用電極72を負極17の負極集電体8の負極活物質7とは反対側の表面に、絶縁性のセパレータ71を介して設けることもできる。セパレータ71はセパレータ6と同様のものである。
【0059】
充電用正極72の材料は特に限定されないが、金属が好ましく、特に、金属製のメッシュや多孔板であることが好ましい。これにより、充電時に充電用正極72の表面で発生する酸素が、メッシュ等の網目を通り電池セルの外部へ排出され易くなる。また、図3(a)のように充電用正極72が、正極触媒層4の正極集電体3とは反対側の表面に配置された場合であっても、充電用正極72が正極触媒層4と負極活物質7との間を拡散するイオンの移動の妨げにならない。充電用電極72には、リード端子73が接続されている。
【0060】
充電用正極72の作用は以下のとおりである。充電時には正極で酸素が生成するため、例えば炭素材料のような酸化され易い材料を正極触媒層4とする正極13を用いて充電を行なうと生成する酸素により正極触媒層4が酸化されやすい。これに対して、充電用電極72を用いて充電を行なうことにより、充電時に正極触媒層4で酸素が生成することがなくなり、充電時にこの酸素により正極集電体3が酸化されることを抑制することができる。
【0061】
(容器)
容器10は、積層体19及び電解質9を含む発電体20を収容するものであり、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルやABS等の樹脂製、負極、正極、電解液と反応しない金属製である。容器10に形成された開口15を介して、上述の酸素拡散膜2の周縁部2cが空気と接触している。また、充電用正極を含む電池構造の場合は、充電時に充電用正極で発生する酸素を排出する酸素排出口(図示せず)を有する。この酸素排出口には、気体は通すが、電解質は通さない膜または弁が設置されていることが好ましい。
【0062】
例えば、図1(b)に示すように、容器10を容器本体10a及び蓋部材10bの2つから構成し、電解質9と共に積層体19を容器本体10aに配置した後、容器10の開口15から酸素拡散膜2の周縁部2cが空気に露出するようにし、容器本体10aと容器の蓋10bとを接着剤等で接着すればよい。
【0063】
[空気電池スタック]
続いて、上述の発電体20を積層体19の積層方向に複数積層した空気電池スタックについて説明する。
【0064】
(第一実施形態)
図4は、本発明に係る空気電池スタックの第一実施形態を示す概略断面図である。この空気電池スタック40では、互いに隣接する発電体20における、一方の発電体20の有する負極17と、他方の発電体20の有する酸素拡散膜2とが対向するように、複数の発電体20が積層配置されている。酸素拡散膜2が、電解質9の溶解している溶媒をはじく性質を十分に有さない場合、一方の発電体20の有する電解質9が、他方の発電体20の有する酸素拡散膜2の主面2mに接触することによって、酸素拡散膜2の酸素透過性が低下することを抑制するために、一方の発電体20の有する電解質9と他方の発電体20の酸素拡散膜2との間に、例えば電解質9が溶解している溶媒をはじく性質を有する膜等のセパレータ21を配置してもよい。酸素拡散膜2が、電解質9の溶解している溶媒をはじく性質を十分に有する場合には、図5に示すように一方の発電体20の有する電解質9と他方の発電体20の酸素拡散膜2との間のセパレータ21を省くことができる。また、互いに隣接する発電体20を、負極8同士が対向するように配置したり、酸素拡散膜2同士が対向するように配置しても実施可能である。これらの電池スタック40は、容易に大容量の空気電池スタックを得ることができる。
【0065】
(第二実施形態)
図5は、本発明に係る空気電池スタックの第二実施形態を示す概略断面図である。本実施形態に係る空気電池スタック40は、第一実施形態に係る空気電池スタック40の発電体20として、図3(a)に示すような、充電用電極72をさらに備えた発電体20’を用いた形態である。本実施形態に係る空気電池スタック40においては、充電用電極72が、正極13とセパレータ6との間に配置されているが、充電用電極72が、図3(b)に示す発電体20’のように、負極17と電解質9との間に配置されていてもよく、場所は限定されない。
【0066】
(第三実施形態)
図6は、本発明に係る空気電池スタックの第三実施形態を示す概略断面図である。本実施形態に係る空気電池スタック40は、各発電体20が容器10にそれぞれ封入された空気電池1を、積層体19の積層方向に複数積層したものである。この空気電池スタック40では、互いに隣接する空気電池1は、一方の空気電池の有する負極17と、他方の空気電池1の有する酸素拡散膜2とが対向するように複数の空気電池1が積層配置されている。なお、互いに隣接する空気電池1を、負極17同士が対向するように配置したり、酸素拡散膜2同士が対向するように配置しても実施可能である。このような電池スタック40は、容易に大容量の空気電池スタックを得ることができる。
【0067】
(第四実施形態)
互いに隣接する空気電池1を酸素拡散膜2同士が対向するように配置する際には、隣接する2つのセルにおいて酸素拡散膜2を共通化することも可能である。図7は、このような空気電池スタックを示す概略断面図である。本実施形態に係る電池スタック50は、2つの空気電池1’から構成される。当該空気電池1’は、上述の積層体19及び電解質9を有し、さらに、酸素拡散膜2における正極13とは反対側に、さらに、第二触媒層4’及び第二正極集電体3’を有する第二正極13’と、第二セパレータ6’と、第二負極17’とがこの順に配置される。なお、第二正極13’は、第二第正極集電体3’が酸素拡散膜2と対向するように配置される。第二触媒層4’及び第二正極集電体3’を有する第二正極13’と、第二セパレータ6’と、第二負極17’とは、それぞれ、触媒層4及び正極集電体3を有する正極13と、セパレータ6と、負極17と同様のものであり、電解質9と同様の電解質9’と接触している。
本実施形態に係る空気電池スタック50は、各空気電池1’において、一枚の酸素拡散膜2が、その両側の主面2m、2m’と、周縁部2c等との間での酸素の拡散を可能とするので、上述の発電体20を積層する形態や、上述の空気電池1を積層する形態に比べて全体厚みの低減が可能であり、電池を配置する上での省スペース化が実現できる。
【0068】
なお、第四実施形態に係る空気電池スタックについても、正極13とセパレータ6との間や負極17と電解質9との間等に充電用電極72をさらに備えた空気電池を用いることもできる。
【0069】
本発明に係る空気電池スタックは、上記の第一から第四実施形態に限定されない。例えば、上述の空気電池1と空気電池1’とを組み合わせて空気電池スタックを形成してもよい。
【0070】
[捲回型の空気電池]
図8は、本発明に係る捲回型の空気電池の好適な実施形態の一例を示す概略断面図である。本実施形態に係る捲回型の空気電池60は、シート状の負極17と、シート状のセパレータ6と、触媒層4が形成された正極集電体3を有するシート状の正極13と、酸素拡散膜2と、がこの順に配置されたシート状の積層体19が渦状に捲回され、電解質9と共に容器本体63に入れられ、空気が出入りするための空気孔61を有する蓋62及び絶縁性のパッキン64で密封された構造体である。容器本体63及び蓋62は金属等の導電性材料であり、外部接続端子5,11と電気的に接続されている。
本実施形態では、酸素拡散膜2の周縁部2cは容器内に位置するものの、電解液9とは接触しておらず、空気と接触している。
【0071】
つづいて、これらの本発明に係る空気電池及び空気電池スタックの作用について説明する。本実施形態では(例えば、図1(b)参照)、放電時に酸素拡散膜2の周縁部2cから空気中の酸素を発電体の内部に取り込むことができ、二次電池として使用する場合の充電時には、電池セルの内部で発生する酸素をこの酸素拡散膜2の周縁部2cから外部に放出したりすることができる。
【0072】
具体的には、例えば、電解質9が水系溶媒に溶解し、負極活物質7が金属である場合(負極活物質は、下記式中、Mで示す。)、充電時には、下記式(1)、(2)に示すように、外部接続端子11から負極集電体8へ電子が流れ込み、負極17において、電解液中の負極活物質7の酸化体が還元される。そして、正極13において、電解液に含まれるOHがOを発生させるとともに電子を放出し、正極集電体3から外部接続端子5へ電子が流れ出す。この反応において、正極13上で発生したOは、電池内の内圧増加により、酸素拡散膜2の主面から空孔を通り、酸素拡散膜2の周縁部2cから空気電池1の外部へ排出される。なお、正極13に代わりに充電用正極72を用いる場合、充電用正極72で発生した酸素は、上述したように、酸素排出口(図示せず)から酸素が排出される。
(正極) 2OH → 1/2O + HO + 2e (1)
(負極) MO + HO + 2e → M + 2OH (2)
【0073】
一方、放電時には、下記式(3)、(4)に示すように、負極17において、負極活物質7が酸化され、その酸化体が電解液中へ拡散するとともに電子が放出され、負極集電体8から外部接続端子11へ電子が流れ出す。そして、正極13においては、外部接続端子5から正極集電体3へ電子が流れ込み、酸素拡散膜2の周縁部2cから空孔を通って供給されるOが、OHに還元される反応が生じる。
(正極) 1/2O + HO + 2e→ 2OH (3)
(負極) M + 2OH → MO + HO + 2e (4)
【0074】
また、例えば、電解質9が水系溶媒に溶解し、負極活物質7が水素である場合、充電時には、下記式(5)、(6)に示すように、負極17において、水素吸蔵合金(M’)とHOが反応し、金属水素化物(MH)とOHイオンを生成する。同時に正極13においてOHイオンが反応し、HOと酸素ガス(O)が生成する。
(正極) 2OH → HO + 1/2O +2e (5)
(負極) 2M’ + 2HO + 2e → 2M’H + 2OH (6)
【0075】
一方、放電時には、下記式(7)、(8)に示すように、正極13において酸素ガス(O)とHOが反応し、OHイオンを生成する。同時にOHイオンが負極17の金属水素化物(M’H)と反応して金属(M’)とHOを生成する。
(正極) 2HO + O + 4e → 4OH (7)
(負極) 4M’H +4OH → 4M’ + 4HO + 4e (8)
【0076】
本発明の空気電池1は、従来の空気電池のような正極及び酸素拡散膜の主面側から空気を取り込む形態ではないため、主面同士を重ね合わせてスタックすることが可能となる。これにより、大容量の空気電池を容易に得ることができる。また、捲回構造にすることも容易であり、何重に捲回しても、周縁部からの酸素の取り込み等が容易であり好ましい。
【0077】
[セパレータに固体電解質を用いた空気電池]
またセパレータに固体電解質を用いた場合は、上述した空気電池、空気電池スタックおよび捲回型の空気電池の実施形態の酸化還元反応に限定されず、以下のような酸化還元反応による充放電も可能である。
【0078】
充電時には、下記式(9)、(10)に示すように、外部接続端子11から負極集電体8へ電子が流れ込み、負極17において、電解質液中の負極活物質7(式中、Mで示す。)のカチオンイオン(酸化体)が還元される。そして、正極13において、電解液に含まれるOHがOを発生させるとともに電子を放出し、正極集電体3から外部接続端子5へ電子が流れ出す。この反応において、正極13上で発生したOは、酸素拡散膜2の主面から空孔を通り、酸素拡散膜2の周縁部2cから空気電池1の外部へ排出される。
(正極) 4OH → O + 2HO + 4e (9)
(負極) 4M +4e → 4M (10)
【0079】
放電時には、下記式(11)、(12)に示すように、負極17において、負極活物質7(式中、Mで示す。)が酸化され、そのカチオンイオン(酸化体)が電解液中へ拡散するとともに電子が放出され、負極集電体8から外部接続端子11へ電子が流れ出す。そして、正極13においては、外部接続端子5から正極集電体3へ電子が流れ込み、酸素拡散膜2の周縁部2cから空孔を通って供給されるOが、OHに還元される反応が生じる。
(正極) O + 2HO + 4e → 4OH (11)
(負極) 4M → 4M +4e (12)
【0080】
なお、上記式(9)〜(12)は、カチオンイオンの価数が1価である場合を想定した式である。
【0081】
セパレータに固体電解質を用いることで、電解質が水系溶媒に溶解した水系電解液と電解質が非水系溶媒に溶解した非水系電解液の同時使用が可能になる。例えばリチウム金属を負極に用いた場合、負極側は非水系電解液を用い、正極側は水系電解液を用いることが可能であり、リチウム金属と水分との接触を防ぎ、非水電解液のみを用いた場合に生成するLiOの析出を防ぐことができ、大容量電池として使用できる。
【0082】
固体電解質をセパレータ6として用いた空気電池1は、電解質9の代わりに負極17と固体電解質との間に非水系電解液が配置され、正極13と固体電解質との間に水系電解液が配置された積層体19を発電体20として用いることができる。そして、この発電体20が、容器10内に収容されている。以下、発電体20、20’の構成要素について説明する。ただし、セパレータに固体電解質を用いた空気電池において、負極集電体8、正極集電体4、正極触媒層3、及び酸素拡散膜2は上述したものと同じ材料を用いることができるため説明を省略する。
【0083】
負極活物質7としては、空気電池を構成可能な負極材料であれば特に限定されない。負極活物質としては、水素又は金属が挙げられる。金属としては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムが好ましい。中でも、リチウム、ナトリウム、カルシウムのいずれかであることが好ましい。
【0084】
(セパレータ)
セパレータ6としては、カチオンイオンの移動のみが可能な絶縁材料であれば特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、アルキルボラン含有高分子、ポリシリコーン誘導体(モメンティブ社製)、スルホン酸を含む高分子、β‐アルミナ固体電解質、ナシコン型固体電解質、高純度硫化リチウムと硫化りんを焼成した固体電解質、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LICGC)(オハラ社製)等を用いることができる。
【0085】
(電解質)
セパレータ6、及び、正極13と接触している正極側の電解液は、NaOH、KOH、NHClが溶解した水溶液であることが好ましい。水溶液中のNaOH、KOH又はNHClの濃度は、1〜99重量(wt)%であることが好ましく、10〜60wt%であることがより好ましく、20〜40wt%であることがさらに好ましい。
【0086】
セパレータ6、及び、負極17と接触している負極側の電解液は、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテルからなる群から選ばれる1種の溶媒又は2種以上の溶媒からなる混合溶媒を用いることができる。
【0087】
負極側の電解液は、電解質として負極活物質7を構成する元素を含む塩を含有させることができる。
【0088】
正極側の電解液はゲル化剤を含むことが好ましく、特に溶媒が水系溶媒である場合にゲル化剤を含むことがより好ましい。ゲル化剤としては、水で膨潤するものであればよく、ポリ(アクリル酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)等のポリマーが好ましい。溶媒と酸素拡散膜2との組み合わせにより程度の差はあるが、溶媒が酸素拡散膜2の空孔中に浸透する場合があり、酸素拡散膜2中を酸素が拡散し難くなる。しかしながら、ゲル化剤を含む電解液は酸素拡散膜2に浸透し難くなり、酸素拡散膜2を酸素が透過し易くなる。
【0089】
負極側に固体電解質を用いた態様も可能であり、この場合、例えば、負極活物質7に金属リチウムを用い、リチウムイオンが透過可能な固体電解質を負極活物質7に圧着させることが好ましい。リチウムイオンが透過可能な固体電解質としては、ポリエチレングリコール誘導体、ポリシリコーン誘導体(モメンティブ社製)、スルホン酸を含む高分子、β‐アルミナ固体電解質、ナシコン型固体電解質、高純度硫化リチウムと硫化りんを焼成した固体電解質、リチウムイオン伝導性ガラスセラミックス(LICGC)(オハラ社製)等が挙げられ、リチウムイオンが透過可能な固体電解質であればこの限りではない。
【0090】
セパレータに固体電解質を用いた電池も、上述した空気電池スタック及び捲回型の空気電池の態様が可能である。
【0091】
本実施形態に係る空気電池は特に、空気二次電池であることが好ましい。空気二次電池は、電気、電子機器用の小型電池としての用途のみならず、特に大容量が要求される電気自動車駆動(走行)用の電源として有用である。
【0092】
以上、本実施形態に係る空気電池、及び空気電池スタックについて、好適な実施形態を説明したが、本発明は上述した構造に限定されるものではない。例えば、本実施形態において、空気電池1の形状は直方体形状に特に限定されない。例えば、円盤状、円柱状等であってもよい。
【0093】
また、酸素拡散膜2は、周縁部2cの一部が空気と接していて酸素の流通が可能であればよく、どの部分を外部の空気と接するようにするかは任意である。例えば、空気電池スタックの設置状況等の用途に応じて、酸素拡散膜2の周縁部2cの空気との接触部分を決めることができ、外部接続端子の位置も適宜変えることができる。また、酸素拡散膜2の外形形状も特に限定されず、矩形、円形等でも構わない。
【実施例】
【0094】
以下、実施例及び比較例を示し、本願発明について具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
<空気二次電池>
図3(a)に示す平板状の空気二次電池を作製した。この電池は、負極に水素吸蔵合金を用いたものである。この電池の電池反応式は上記式(5)〜(8)に示す通りである。
【0096】
(負極17の作製)
負極活物質7の水素吸蔵合金は以下の方法で調整した。ランタンを主体としたミッシュメタル・ニッケル合金にコバルト、アルミニウム、マンガンを所定の合金組成(MmNi0.38Co0.8Al0.3Mn0.3:MmはミッシュメタルでLa、Ce、Nd、Prの混合物)になるように混合し、アーク溶解炉にて加熱溶解した後、粉砕して200メッシュの金網(規格JISZ8801−1:2000)を通過する粉末とし、水素吸蔵合金を製造した。この水素吸蔵合金を1.0wt%のポリビニルアルコールの水溶液と共に混練し、ペースト状にした後、ニッケルメッシュ製の負極集電体8(厚み0.1mm)に塗布し、乾燥して、水素吸蔵合金部分の厚みが0.12mmとなるようにプレスした。その後、縦40mm×横30mmにカットすることで、負極17を作製した。
次に、負極集電体8の端部に、外部接続用のニッケルリボン端子11(縦50mm×横3mm×厚み0.20mm)を接続した。
【0097】
(セパレータ6の作製)
セパレータ6としては、親水性処理されたポリテトラフルオロエチレンからなる多孔質膜(縦43×横33mm、厚み0.1mm)を用いた。
続いて、電解質9を、以下の方法で調製した。水酸化カリウムと純水とを、重量比にて、水酸化カリウム:純水=3:7となるように混合し、これらの合計重量100mgに対して、ゲル化剤として1mgのポリ(アクリル酸ナトリウム)を加え、電解質9としてのゲル化された水溶液を得た。この水溶液をセパレータ6に含浸させた。
【0098】
(放電用正極13及び充電用正極72の作製)
正極触媒層は、導電材としてアセチレンブラックと、酸素の還元を促進する触媒としての電解MnOと、結着剤としてのPTFE粉末とにより構成した。重量比として、アセチレンブラック:電解MnO:PTFE=10:10:1とし、縦40mm×横30mm、厚み0.3mmの正極触媒層4を成形した。また、ステンレスメッシュ製の放電用の正極集電体3(縦40mm×横30mm×厚み0.1mm)の端部に外部接続用のニッケルリボン端子5(縦50mm×横3mm×厚み0.20mm)を接続した。そして、放電用の正極集電体3に正極触媒層4を当接し、これらを圧着し、放電用正極13を得た。
充電用正極72としては、ニッケルメッシュを用い、充電用正極集電体72の端部に、外部接続用のニッケルリボン端子73(縦50mm×横3mm×厚み0.20mm)を接続した。
上記放電用正極13と、ニッケルリボン端子73を有する上記充電用正極72とを、セパレータ71を介して図3の(a)の順序で積層した。
【0099】
(酸素拡散膜2の作製)
酸素拡散膜2としては、連続する空孔を有するポリプロピレン多孔膜(日本バイリーン社製、縦60mm×横30mm×厚み0.1mm、水との接触角100°)を用い、放電用正極3上に積層した。
【0100】
上記のように作製した負極17、セパレータ6、放電用正極13/セパレータ71/充電用正極72との積層体、及び酸素拡散膜2をこの順に積層し、プレス機にて圧着することにより、積層体19を得た。積層体19における酸素拡散膜2以外の部分を、上述のように作製した電解質9で覆い含浸して、発電体20とした。発電体20を、ポリプロピレン製の容器10に入れた。この時、酸素拡散膜2の周縁部2cが、容器10の開口15から外部に突出するように配置した。突出部は2箇所あり、容器外方向の突出長さを0.5cmとした。
また、充放電用のニッケルリボン端子5、11および73を容器10の外部に引き出した。
【0101】
<空気二次電池性能評価>
(充放電試験)
上述のようにして作製した空気二次電池を、充放電試験機(東洋システム社製、製品名TOSCAT−3000U)にニッケルリボン端子11、73で接続し、30mAでCC(コンスタントカレント:定電流)充電を5時間行った。次にニッケルリボン端子5、11に接続を変えて、10mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。その結果、120mAhの放電容量を確認した。
【0102】
[実施例2]
負極活物質7を水素吸蔵合金から亜鉛に変更した以外は、実施例1と同様に空気二次電池を作製した。この電池の電池反応式は上記式(1)〜(4)に示す通りである。
このようにして作製した空気二次電池を、30mAでCC充電を20時間行い、10mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。
充放電試験機に接続する端子については、実施例2以降の充放電においても、実施例1と同様に充電と放電とで接続する端子を変えた。
その結果、485mAhの放電容量を確認した。
【0103】
[実施例3]
実施例1で用いたものと同じ酸素拡散膜2に、撥水スプレー(ダイキン株式会社製、商品名:ノヴァテック)を吹き付け、超撥水性を有する酸素拡散膜2を作製した。当該酸素拡散膜2の水に対する接触角は151°であった。超撥水性を有する酸素拡散膜2を用いた以外は実施例1と同様にして、空気二次電池を作製した。
このようにして作製した空気二次電池を、30mAでCC充電を5時間行い、10mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。
その結果、122mAhの放電容量を確認した。
【0104】
[実施例4]
負極活物質7の水素吸蔵合金を(縦40×横30mm×厚み1.2mm)に変更した以外は、実施例1と同様に空気二次電池を作製した。
このようにして作製した空気二次電池を、30mAでCC充電を48時間行い、10mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。
その結果、1150mAhの放電容量を確認した。
【0105】
[比較例1]
図9に示すように、酸素拡散膜2の一部が、大気と接していない以外は、実施例1と同様に空気二次電池を作製した。その結果、充電は可能であったが、放電は1mAhだけであった。
【0106】
(サイクル試験)
実施例1、3の電池について、サイクル試験を行った。
サイクル試験の設定電流は以下のようにした。30mAでCC充電を5時間行い、10mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。この条件を100回繰り返した。
その結果、100サイクル後の容量維持率は、1サイクル目を100%とした時、実施例1の電池が60%、実施例3の電池が75%であった。
【0107】
[実施例5]
(空気電池スタックの作製)
実施例1の発電体20を4つ積層し、ポリプロピレン製の容器10に入れ、図5に示すような空気電池スタックを作製した。この時、酸素拡散膜2の周縁部2cが、容器10の開口15から外部に突出するように配置した。突出部は2箇所あり、容器外方向への突出長さを0.5cmとした。
また、充放電用のニッケルリボン端子5、11および73の各4本、合計12本を容器10の外部に引き出した。
上述のようにして作製した空気二次電池を、120mAでCC充電を5時間行い、40mAでCC放電を行い、終止電圧0.5Vでカットオフした。その結果、485mAhの放電容量を確認した。
このように本発明の構成にすることで、空気電池のスタック化が容易にできることが確認できた。
【符号の説明】
【0108】
1、1’…空気電池、2…酸素拡散膜、2c…周縁部、3…(放電用)正極集電体、3’…第二正極集電体、4…正極触媒層、4’…第二触媒層、5,11,73…外部接続用端子、6,71…セパレータ、6’…第二セパレータ、7…負極活物質、8…負極集電体、9、9’…電解質、10…容器、13…(放電用)正極、13’…第二正極、17…負極、17’…第二負極、19…積層体、20…発電体、72…充電用正極、40,50…空気電池スタック、60…捲回型の空気電池、61…空気孔、62…蓋、63…容器本体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、セパレータと、触媒層及び正極集電体を有する正極と、酸素拡散膜と、がこの順に積層された積層体、並びに、前記負極、前記セパレータ、及び前記正極と接触する電解質を含む発電体を備え、
前記酸素拡散膜の主面の一つは前記正極集電体の主面の一つに対向して配置され、
前記酸素拡散膜の周縁部の少なくとも一部が空気と接している空気電池。
【請求項2】
前記発電体が前記電解質と溶媒とを含む溶液を有し、前記酸素拡散膜の表面に対する前記溶媒の接触角が90°以上である請求項1に記載の空気電池。
【請求項3】
前記発電体が前記電解質と溶媒とを含む溶液を有し、前記酸素拡散膜の表面に対する前記溶媒の接触角が150°以上である請求項1に記載の空気電池。
【請求項4】
前記発電体が前記電解質と溶媒とゲル化剤とを含む溶液を有する請求項1に記載の空気電池。
【請求項5】
前記負極に含まれる負極活物質が、水素、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、カルシウム、鉄及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜4のいずれかに記載の空気電池。
【請求項6】
前記触媒層が二酸化マンガン、又は白金を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の空気電池。
【請求項7】
前記触媒層が、ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物を含み、AサイトにLa、Sr及びCaからなる群から選ばれる少なくとも2種の原子を含み、BサイトにMn、Fe、Cr及びCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を含む請求項1〜6のいずれか一項記載の空気電池。
【請求項8】
充電用正極をさらに備える請求項1〜7のいずれか一項に記載の空気電池。
【請求項9】
空気二次電池である請求項1〜8のいずれか一項に記載の空気電池。
【請求項10】
前記積層体はシート状であり、捲回されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の空気電池。
【請求項11】
前記酸素拡散膜における前記正極と対向する側とは反対側に、さらに、第二触媒層及び第二正極集電体を有する第二正極と、第二セパレータと、第二負極とがこの順に配置された請求項1〜10のいずれか一項に記載の空気電池。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の発電体を二以上有し、
前記各発電体は、前記積層体の積層方向に積層された空気電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146339(P2011−146339A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8118(P2010−8118)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】