説明

空気電池用正極及び空気電池

【課題】酸素含有ガスを厚さ方向へ容易に拡散させることが可能な空気電池用正極、及び、容量や出力を増大させることが可能な空気電池を提供する。
【解決手段】孔を有する第1支持体及び該第1支持体に担持される触媒を有する第1層と、孔を有する第2支持体及び該第2支持体に担持される触媒を有する第2層とを少なくとも備え、第1層及び第2層が積層され、第1支持体に備えられている孔の径と第2支持体に備えられている孔の径とが異なる空気電池用正極、並びに、該空気電池用正極と、負極と、負極及び空気電池用正極の間でイオンの伝導を担う電解液とを具備し、第2層が第1層と電解液との間に配設され、第2支持体に備えられている孔の径が、第1支持体に備えられている孔の径よりも小さい、空気電池とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池用正極及び空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
空気電池は、酸素を正極活物質とする電池であり、放電時には酸素含有ガスを外部から取り込んで用いる。そのため、正極及び負極の活物質を電池内に有する他の電池に比べ、電池容器内に占める負極活物質の割合を大きくすることが可能になる。したがって、原理的に放電できる電気容量が大きく、小型化や軽量化が容易という特徴を有している。また、正極活物質として用いる酸素の酸化力は強力であるため、電池の起電力が比較的高い。さらに、酸素は資源的な制約がなくクリーンな材料であるという特徴も有するため、空気電池は環境負荷が小さい。このように、多くの利点を有する空気電池は、ハイブリッド車用電池や携帯機器用電池等への利用が期待されており、近年、空気電池の高性能化が求められている。
【0003】
空気電池の高性能化を実現するためには、(1)複数の空気電池を積層する、(2)正極(以下において、「空気極」ということがある。)や負極の厚さを厚くする、(3)正極や負極の面積を増大させる、等の対策を施すことが考えられる。しかしながら、対策(1)には、積層体とすることにより電池全体の体積当たりのエネルギー密度が低下しやすいという問題があり、かかる問題を解決するためには、複数の空気電池の部材を共有化した構造の実現等が必要とされる。また、対策(2)及び対策(3)には、正極への酸素供給が滞りやすい等の問題があり、かかる問題を解決するためには、正極を、酸素が拡散しやすい構造にすること等が必要とされる。
【0004】
このような空気電池に関する技術として、例えば特許文献1には、空隙率の異なる少なくとも2層で形成された正極触媒層を備える空気電池が開示されている。そして、特許文献1には、圧延ローラーの圧力と触媒粉供給量とを調整することで、空隙率の異なる正極触媒層を作製する旨、記載されている。また、特許文献2には、ニッケル−鉄合金、鉄−ニッケル−クロム合金、又は、ニッケル−銅合金を空気極の芯材材料に用いた空気亜鉛電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−19145号公報
【特許文献2】特開平9−92289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術によれば、空隙率の異なる少なくとも2層で形成された正極触媒層が備えられているので、孔径を適切に制御することができれば、酸素が拡散しやすい正極を有する空気電池を提供できると考えられる。しかしながら、特許文献1に開示されている技術では、孔径が大きい空隙を形成することが困難であるため、正極の厚さ方向への酸素含有ガスの拡散が滞りやすいという問題があった。かかる問題は、特許文献1に開示されている技術と、特許文献2に開示されている技術とを組み合わせたとしても、解決することが困難であった。
【0007】
そこで本発明は、酸素含有ガスを厚さ方向へ容易に拡散させることが可能な空気電池用正極、及び、容量や出力を増大させることが可能な空気電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明の第1の態様は、孔を有する第1支持体及び該第1支持体に担持される触媒を有する第1層と、孔を有する第2支持体及び該第2支持体に担持される触媒を有する第2層とを少なくとも備える空気電池用正極であって、第1層及び第2層が積層され、第1支持体に備えられている孔の径と第2支持体に備えられている孔の径とが異なることを特徴とする、空気電池用正極である。
【0009】
本発明において、孔の径とは、孔が円形の場合にはその直径をいう。また、孔が正方形の場合にはその一辺の長さをいう。また、孔が正方形以外の四角形の場合には二つの対角線の長さの平均値をいう。また、孔が三角形又は五角形以上の多角形である場合には、当該孔に内接する円の直径をいう。本発明において、第1支持体及び第2支持体は、それぞれに備えられている孔の径が異なっていれば、その形態は特に限定されるものではない。第1支持体及び第2支持体は、導電性材料によって構成されていても良く、絶縁性材料によって構成されていても良い。第1支持体が絶縁性材料によって構成される場合、第1層には、第1支持体及び触媒に加えて、導電性材料が含有される。また、第2支持体が絶縁性材料によって構成される場合、第2層には、第2支持体及び触媒に加えて、導電性材料が含有される。これに対し、第1支持体が導電性材料によって構成される場合、第1層は、第1支持体及び触媒を有していれば良く、これらに加えてさらに導電性材料が含有されていても良い。また、第2支持体が導電性材料によって構成される場合、第2層は、第2支持体及び触媒を有していれば良く、これらに加えてさらに導電性材料が含有されていても良い。本発明において、電子伝導性を向上させることにより高性能の空気電池用正極を提供する等の観点からは、第1支持体及び第2支持体が導電性材料によって構成されることが好ましい。また、同様の観点から、第1層は、触媒及び導電性材料によって構成される第1支持体に加え、さらに導電性材料が含有される形態とすることが好ましく、第2層は、触媒及び導電性材料によって構成される第2支持体に加え、さらに導電性材料が含有される形態とすることが好ましい。第1支持体が導電性材料によって構成される場合、当該第1支持体は空気電池用正極の集電体として機能させることもできる。同様に、第2支持体が導電性材料によって構成される場合、当該第2支持体は空気電池用正極の集電体として機能させることもできる。また、本発明において、空気電池用正極に含まれる触媒は、空気電池の正極で生じる反応の触媒として機能する物質をいい、空気電池の正極で使用可能な公知の触媒を適宜用いることができる。
【0010】
また、上記本発明の第1の態様において、第1支持体及び/又は第2支持体が金属製であることが好ましい。
【0011】
本発明において、金属製の支持体(第1支持体及び/又は第2支持体)としては、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属不織布、及び、発泡金属等を例示することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、負極と、酸素含有ガスが供給される正極と、負極及び正極の間でイオンの伝導を担う電解液と、を具備する空気電池であって、正極が、上記本発明の第1の態様にかかる空気電池用正極であり、第2層が、第1層と電解液との間に配設され、第2支持体に備えられている孔の径が、第1支持体に備えられている孔の径よりも小さいことを特徴とする、空気電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の態様にかかる空気電池用正極では、孔の径が異なる第1支持体及び第2支持体が積層されている。第1支持体及び第2支持体には孔が予め形成されているので、本発明の第1の態様によれば、均一且つ大きな孔を有する第1支持体及び第2支持体が備えられる形態とすることができる。かかる形態とすることにより、厚さ方向への酸素含有ガスの拡散を容易にすることができるので、本発明の第1の態様によれば、酸素含有ガスを厚さ方向へ容易に拡散させることが可能な空気電池用正極を提供することができる。
【0014】
また、本発明の第1の態様において、第1支持体及び/又は第2支持体が金属製であることにより、孔径や空隙率の制御が容易になる。したがって、かかる形態とすることにより、酸素含有ガスが厚さ方向へ拡散しやすい空気電池用正極を提供することができる。
【0015】
本発明の第2の態様にかかる空気電池では、本発明の第1の態様にかかる空気電池用正極が備えられ、相対的に大きな径の孔を有する第1支持体と電解液との間に、相対的に小さな径の孔を有する第2支持体が配置される。かかる形態とすることにより、正極の、電解液に近い領域における孔の径を小さくすることができるので、電解液の揮発を抑制することができる。加えて、正極の、電解液から離れた領域(酸素含有ガスに近い領域)における孔の径を大きくすることができるので、多量の酸素含有ガスを正極内へと導くことが可能になる。電解液の揮発を抑制し、多量の酸素含有ガスを正極内へと導くことにより、空気電池の出力及び容量を増大させることが可能になるので、本発明の第2の態様によれば、出力及び容量を増大させることが可能な空気電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】空気電池10を示す断面図である。
【図2】空気極1を示す断面図である。
【図3】空気電池20を示す断面図である。
【図4】空気極11を示す断面図である。
【図5】第2層の構造を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
これまでに提案されている空気電池は、空気極の構造が十分に制御されていなかったため、例えば、空気極の厚さを厚くすると、空気極内における酸素含有ガスの拡散が不十分になる虞があった。本発明者らは、鋭意研究の結果、予め異なる径の孔が形成された、触媒を担持させた複数の支持体を積層した構造の空気極を用いることにより、厚さを厚くしても、酸素含有ガスを十分に拡散させることが可能な空気極を提供できることを知見した。また、この空気極が備えられる形態とすることにより、空気電池の高性能化を図ることが可能になることも知見した。厚さを厚くしても、空気極に酸素含有ガスを十分に拡散させることができれば、例えば、複数の空気電池(単電池)が筐体に収容される形態とした場合に、従来よりも厚さが厚い1つの空気極を複数の単電池に共有させて、部材の共有化を図ることも可能になる。そのため、厚さを厚くしても酸素含有ガスを十分に拡散させることが可能な空気極を提供することにより、上記対策(1)〜(3)を施した場合の問題点を解決することが可能になると考えられる。
【0018】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。本発明は、酸素含有ガスを厚さ方向へ容易に拡散させることが可能な空気電池用正極、及び、容量や出力を増大させることが可能な空気電池を提供することを、主な要旨とする。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。
【0020】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態にかかる本発明の空気電池10を簡略化して示す断面図である。図2は、空気電池10に備えられる空気極1を拡大して示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、空気電池10は、空気極1、負極2、並びに、空気極1及び負極2の間に配設された電解質層3を備える発電部4と、発電部4を収容する筐体5と、を具備している。空気電池10において、負極2には、金属のイオンを放出、又は、吸蔵・放出可能な物質(金属の単体又は化合物。以下において「金属」という。)が含有されており、電解質層3には、電解液を保持したセパレータが収容されている。また、筐体5の上面と発電部4との間の空間6には、酸素含有ガスが充満している。
【0022】
図2に示すように、空気極1は、第1支持体1a及びその表面に配設された組成物1dを有する第1層1x、第2支持体1b及びその表面に配設された組成物1dを有する第2層1y、並びに、第3支持体1c及びその表面に配設された組成物1dを有する第3層1zを具備し、第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cは、エキスパンドメタルによって構成されている。また、組成物1dには触媒、導電性材料、及び、結着材が含有されている。図1の空気電池10では、第1支持体1aを有する第1層1xが空間6側に配置され、第3支持体1cを有する第3層1zが電解質層3側に配置されている。
【0023】
空気極1において、第2支持体1bの空隙率は第1支持体1aの空隙率よりも小さく、第2支持体1bに形成されている孔の径は、第1支持体1aに形成されている孔の径よりも小さい。同様に、空気極1において、第3支持体1cの空隙率は第2支持体1bの空隙率よりも小さく、第3支持体1cに形成されている孔の径は、第2支持体1bに形成されている孔の径よりも小さい。すなわち、空気極1は、電解質層3から空間6へ向けて孔が大きくなるように構成されている。かかる形態とすることにより、空間6に存在する酸素含有ガスを、空気極1の厚さ方向へと導きやすくなる。そのため、空気極1における、導電体(第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cや、組成物1dに含有されている導電性材料)と電解液との界面へと供給される酸素含有ガスの量を増大させることが可能になり、その結果、空気電池10の高性能化を図ることが可能になる。このように、空気極1は、空気極1の内部へ酸素含有ガスを拡散させやすい形態とされているので、従来の空気極よりも厚さを厚くした場合であっても、空気極1の内部における酸素含有ガスの拡散を確保することができる。そのため、例えば、高性能化を図ること等を目的として、1つの筐体に複数の空気電池を収容する場合に、複数の空気電池それぞれにおける空気極の機能を、従来の空気極よりも厚さを厚く構成した空気極1へと集中させて、複数の空気電池の部材を共有化したとしても、空気極1は酸素含有ガスが拡散しやすい構成とされているので、電池全体の体積当たりのエネルギー密度の低下を抑制することが可能になる。また、空気極1は、電解質層3から空間6へ向けて孔が大きくなるように構成されているので、電解質層3に充填されている電解液の揮発を低減することが可能になる。電解液の揮発を低減することにより、導電体と電解液と酸素含有ガスとの界面の減少を抑制することができるので、空気電池10の高性能化を図ることが可能になる。以下、空気電池10について、構成ごとに説明する。
【0024】
<空気極1>
空気極1は、第1支持体1a及びその表面に配設された組成物1dを有する第1層1x、第2支持体1b及びその表面に配設された組成物1dを有する第2層1y、並びに、第3支持体1c及びその表面に配設された組成物1dを有する第3層1zを具備し、組成物1dは、導電性材料、触媒、及び、これらを結着させる結着材を含有している。
【0025】
第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cを構成する金属は、空気電池10の使用時における環境に耐え得るものであれば、特に限定されるものではない。第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cを構成する金属は、例えば、空気電池の空気極における集電体を構成し得る金属等を適宜用いることができる。
【0026】
組成物1dに含有される導電性材料は、空気電池10の使用時における環境に耐えることができ、且つ、導電性を有するものであれば、特に限定されるものではない。このような導電性材料としては、カーボンブラック、活性炭、及び、炭素繊維等に代表される、高比表面積の炭素材料等を例示することができる。また、反応場の減少及び電池容量の低下を抑制する等の観点から、組成物1dにおける導電性材料の含有量は、10質量%以上とすることが好ましい。また、充分な触媒機能を発揮し得る形態にする等の観点から、組成物1dにおける導電性材料の含有量は、99質量%以下とすることが好ましい。
【0027】
組成物1dに含有される触媒としては、二酸化マンガンや二酸化セリウム等の無機セラミックスや、コバルトフタロシアニン等の有機錯体及びその複合材料を例示することができる。充分な触媒機能を発揮し得る形態にする等の観点から、組成物1dにおける触媒の含有量は、1質量%以上とすることが好ましい。また、反応場の減少及び電池容量の低下を抑制する等の観点から、組成物1dにおける触媒の含有量は、90質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
組成物1dに含有される結着材としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及び、スチレンブタジエンゴム(SBR)等、空気電池に使用可能な公知の結着材を例示することができる。組成物1dにおける結着材の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0029】
空気極1は、例えば、以下の工程を経て作製することができる。まず、導電性材料、触媒、及び、結着材を溶媒へ入れて混錬攪拌することにより作製したペーストを、第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cのそれぞれへ、スプレーガンを用いて塗布し乾燥することにより、第1支持体1a及びその表面に配設された組成物1dを有する第1層1x、第2支持体1b及びその表面に配設された組成物1dを有する第2層1y、並びに、第3支持体1c及びその表面に配設された組成物1dを有する第3層1zを作製する。このようにして、第1層1x、第2層1y、及び、第3層1zをそれぞれ作製したら、引き続き、これらを順次積層することにより、空気極1を作製することができる。このほか、導電性材料及び触媒を含む混合粉末と、第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cとを熱圧着することにより作製した第1層1x、第2層1y、及び、第3層1zを順次積層することにより、空気極1を作製することもできる。空気極1の作製時に使用され得る溶媒としては、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及び、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の揮発性溶媒を例示することができ、沸点が200℃以下の溶媒を好ましく用いることができる。
【0030】
<負極2>
負極2は、負極活物質として機能する金属を含有している。また、負極2には、負極2の内部又は外面に当接して、負極2の集電を行う負極集電体(不図示)が設けられる。
【0031】
負極2に含有され得る金属の単体としては、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Al、及び、Fe等を例示することができる。また、負極2に含有され得る金属の化合物としては、Li合金等を例示することができる。空気電池10がリチウム空気二次電池の場合、高容量化を図りやすい空気電池10を提供する等の観点からは、Liが含有されることが好ましい。
【0032】
負極2は少なくとも負極活物質を含有していれば良く、さらに、導電性を向上させる導電性材料や金属等を固定化させる結着材を含有していても良い。反応場の減少及び電池容量の低下を抑制する等の観点から、負極2における導電性材料の含有量は10質量%以下とすることが好ましい。また、負極2における結着材の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。負極2に含有され得る導電性材料及び結着材の種類、使用量等は、空気極1の場合と同様にすることができる。
【0033】
空気電池10では、負極2の内部又は外面に当接して、負極集電体が設けられる。負極集電体は、負極2の集電を行う機能を担う。空気電池10において、負極集電体の材料は、導電性を有する材料であれば特に限定されるものではない。負極集電体の材料としては、銅、ステンレス鋼、及び、ニッケル等を例示することができる。また、負極集電体の形状としては、箔状、板状、及び、メッシュ(グリッド)状等を例示することができる。空気電池10において、負極2は、例えば、導電性材料、触媒、及び、結着材からなる塗料を、負極集電体の表面に、ドクターブレード法にて塗布する等の方法により作製することができる。このほか、導電性材料及び触媒を含む混合粉末を熱圧着する等の方法により作製することもできる。
【0034】
<電解質層3>
電解質層3には、空気極1及び負極2の間でイオン(金属のイオン)の伝導を担う電解液を保持したセパレータが収容される。
【0035】
電解質層3に充填される電解液の形態は、金属イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、非水電解液を挙げることができる。電解質層3に充填される非水電解液の種類は、伝導する金属イオンの種類に応じて、適宜選択することが好ましい。例えば、リチウム空気電池の非水電解液は、通常、リチウム塩及び有機溶媒を含有する。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO及びLiAsF等の無機リチウム塩のほか、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩等を例示することができる。また、有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシメタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン及びこれらの混合物等を例示することができる。また、溶存酸素が効率良く反応に用いられる形態にする等の観点から、有機溶媒は、酸素溶解性が高い溶媒であることが好ましい。非水電解液におけるリチウム塩の濃度は、例えば0.2mol/L以上3mol/L以下とする。なお、本発明の空気電池においては、非水電解液として、例えばイオン性液体等の低揮発性液体を用いることができる。
【0036】
また、電解質層3に用いられるセパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜のほか、樹脂不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を例示することができる。
【0037】
<筐体5>
筐体5には、発電部4、及び、酸素含有ガスが少なくとも収容される。空気電池10において、筐体5の形状は特に限定されるものではない。筐体5の構成材料は、金属空気電池の筐体に使用可能な材料を適宜用いることができる。また、筐体5に収容される(空間6に存在させる)酸素含有ガスは、例えば、圧力が1.01×10Pa、酸素濃度が99.99%の酸素ガス等を用いることができる。
【0038】
2.第2実施形態
図3は、第2実施形態にかかる本発明の空気電池20を簡略化して示す断面図である。図4は、空気電池20に備えられる空気極11を拡大して示す断面図である。図3において、空気電池10と同様の構成を採るものには、図1で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。また、図4において、空気極1と同様の構成を採るものには、図2で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0039】
図3に示すように、空気電池20は、空気電池10の空気極1に代えて空気極11が備えられるほかは、空気電池10と同様に構成され、空気極11、負極2、並びに、空気極11及び負極2の間に配設された電解質層3を備える発電部12と、発電部12を収容する筐体5と、を具備している。図4に示すように、空気極11は、第1支持体1a及びその表面に配設された組成物1dを有する第1層1x、第2支持体1b及びその表面に配設された組成物1dを有する第2層1y、並びに、第3支持体1c及びその表面に配設された組成物1dを有する第3層1zを具備している。図3の空気電池20は、第3支持体1cを有する第3層1zが空間6側に配置され、第1支持体1aを有する第1層1xが電解質層3側に配置された空気極11を備えている。
【0040】
空気極11において、第2支持体1bの空隙率は第3支持体1cの空隙率よりも大きく、第2支持体1bに形成されている孔の径は、第3支持体1cに形成されている孔の径よりも大きい。同様に、空気極11において、第1支持体1aの空隙率は第2支持体1bの空隙率よりも大きく、第1支持体1aに形成されている孔の径は、第2支持体1bに形成されている孔の径よりも大きい。すなわち、空気極11は、電解質層3から空間6へ向けて孔が小さくなるように構成されている。小さな孔が空間6側に配置された形態とすることにより、空気極1よりも撥水性を向上させた空気極11とすることができ、その結果、空間6の酸素含有ガスに含有される水分が電解質層3側へ移動し難い形態とすることができる。さらに、かかる形態とすることにより、電解質層3側へと達してしまった水分を、毛細管現象によって空間6側へと移動させることが可能になる。このように、空気極11が備えられる空気電池20によれば、電解質層3に水分が存在し難い形態とすることが可能になる。電解質層3に水分が存在し難い形態とすることにより、負極2に含有されている金属と水との反応を低減することができるので、電池の劣化・異常・暴走を抑制することが可能な、空気電池20を提供することができる。
【0041】
本発明の空気極1、11、及び、本発明の空気電池10、20に関する上記説明では、電解質層3から空間6へ向けて孔が徐々に大きくなるように構成された空気極1、又は、電解質層3から空間6へ向けて孔が徐々に小さくなるように構成された空気極11を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明の空気電池用正極は、相対的に大きな孔を形成されている2つの支持体の間に、相対的に小さな孔が形成されている支持体が積層される形態とすることも可能であり、相対的に小さな孔が形成されている2つの支持体の間に、相対的に大きな孔が形成されている支持体が積層される形態とすることも可能である。
【0042】
また、本発明の空気極1、11、及び、本発明の空気電池10、20に関する上記説明では、空気極1及び空気極11に、3つの支持体(第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1c)が備えられる形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明の空気電池用正極に備えられる支持体の数は、2以上であれば、その数は、特に限定されるものではない。
【0043】
また、本発明の空気極1、11、及び、本発明の空気電池10、20に関する上記説明では、エキスパンドメタルによって構成される第1支持体1a、第2支持体1b、及び、第3支持体1cが備えられる形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。本発明の空気電池用正極に、導電性材料によって構成される支持体が備えられる場合、当該支持体は、孔を備えていればその形態は特に限定されるものではなく、例えば、金属又は炭素材料によって構成される繊維状部材、不織布、及び、発泡材等の形態を採ることができる。これらの中でも、カーボンペーパーや金属メッシュによって構成される支持体を用いることが好ましく、孔の大きさや分布等を制御しやすい形態にする等の観点からは、金属メッシュ(例えば、エキスパンドメタルやパンチングメタル等)によって構成される支持体を用いることがより好ましい。また、本発明の空気電池用正極に備えられる支持体は、絶縁性材料によって構成されていても良い。ただし、電子伝導性を向上させることにより高性能の空気電池用正極及び空気電池を提供可能にする等の観点からは、導電性材料によって構成される支持体が備えられる形態とすることが好ましい。
【0044】
また、本発明の空気電池10、20に関する上記説明では、電解液を保持したセパレータが収容された電解質層3が備えられる形態を例示したが、本発明の空気電池は当該形態に限定されるものではない。本発明の空気電池における電解質層は、LiTFSI−PEO系等のポリマー電解質(ゲル状のポリマー電解質も含む)や、Li−La−Ti−O系等の固体電解質が充填されている形態とすることも可能である。
【0045】
また、本発明の空気電池10、20に関する上記説明では、発電部4と大気とが筐体5の上面によって隔てられ、発電部4が大気に開放されていない形態を例示したが、本発明の空気電池は当該形態に限定されるものではない。本発明の空気電池の筐体は、上蓋が備えられない形態とすることも可能である。ただし、空気極と負極との間に電解液が充填される場合には、電解液の枯渇を抑制可能な構成とする等の観点から、発電部が大気に開放されていない形態とすることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を参照しつつ、本発明についてさらに説明する。
【0047】
本発明の空気電池を模したセルを作製し、空気極の構造(第2層の構造)を観察した。
【0048】
1)評価用セルの作製
以下に示す材料を用いて、本発明のセルを作製した。具体的には、ガス置換コック付きの密閉ガラスデシケーターへ、電気化学セルを設置することにより、本発明のセルを作製した。なお、密閉ガラスデシケーター内は、純酸素雰囲気とした。
・空気極:カーボンブラック、二酸化マンガン触媒、及び、PVDFバインダーを質量比で25:42:33となるように秤量した後、これらをアセトン溶媒へ入れて混錬攪拌することにより、ペースト状の組成物を作製した。次いで、作製した組成物を、スプレーガンを用いて3枚の支持体(Niエキスパンドメタル、太陽金網株式会社製)の表面へと塗布し乾燥することにより、第1層、第2層、及び、第3層を作製した。そして、第1層、第2層、及び、第3層を順に積層することにより、空気極(空気電池用正極)を作製した。ここで、第1層の支持体の孔の径は1.53mm、第2層の支持体の孔の径は1.09mm、第3層の支持体の孔の径は0.77mmであった。
・負極 :Li(本城金属株式会社製)
・電解液:プロピレンカーボネート中にLiClOを濃度1mol/Lで溶解させた非水電解液(キシダ化学株式会社製)
・雰囲気:純酸素(99.99%、1気圧)
・セル :北斗電工株式会社製の電気化学セル
【0049】
2)顕微鏡観察
走査型電子顕微鏡(S4500、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、作製した第2層を観察した。結果を図5に示す。図5に示すように、支持体に形成されている孔の形状は、ひし形であり、Niエキスパンドメタル上にペースト状の組成物が塗布されていた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の空気電池は、電気自動車や携帯型情報機器の動力源等に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…空気極(空気電池用正極)
1a…第1支持体
1b…第2支持体
1c…第3支持体
1d…組成物
1x…第1層
1y…第2層
1z…第3層
2…負極
3…電解質層
4…発電部
5…筐体
6…空間
10…空気電池
11…空気極(空気電池用正極)
12…発電部
20…空気電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔を有する第1支持体及び該第1支持体に担持される触媒を有する第1層と、孔を有する第2支持体及び該第2支持体に担持される触媒を有する第2層とを少なくとも備える空気電池用正極であって、
前記第1層及び前記第2層が積層され、
前記第1支持体に備えられている前記孔の径と前記第2支持体に備えられている前記孔の径とが異なることを特徴とする、空気電池用正極。
【請求項2】
前記第1支持体及び/又は前記第2支持体が金属製であることを特徴とする、請求項1に記載の空気電池用正極。
【請求項3】
負極と、酸素含有ガスが供給される正極と、前記負極及び前記正極の間でイオンの伝導を担う電解液と、を具備する空気電池であって、
前記正極が、請求項1又は2に記載の空気電池用正極であり、
前記第2層が、前記第1層と前記電解液との間に配設され、
前記第2支持体に備えられている前記孔の径が、前記第1支持体に備えられている前記孔の径よりも小さいことを特徴とする、空気電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−257839(P2010−257839A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108069(P2009−108069)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】