説明

空調システム

【課題】高断熱・高気密住宅において、空調機の設置箇所からの距離によらず各居室を速やかに空調および換気するとともに、特に温暖な地域において速やかに効率よく冷房可能にした空調システムを提供する。
【解決手段】複数個の居室31を備えた高断熱・高気密木造家屋30において、少なくともひとつの空調機1を配置した空調室32を居室31から独立して設けるとともに、空調室32と各居室31を連結する給気ダクト10とを備え、屋外から給気される空気を空調機1により空調し、空調された空調室32内の空気を各居室31に給気ダクト10を介して個別的に分配給気し、各居室31を空調する。空調室32における各給気ダクト10の入口に各居室から独立制御可能な直流ファン10aを設ける。各居室31毎に各給気ダクト10の出口に連通する給気口10bと排気口20aを別々に備え、両者の給排気により各居室31内の換気と空調を同時に行う構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高断熱・高気密木造家屋の集中空調に適した空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、戸建住宅では、各部屋に空調機を設置して、それぞれ別個に空調が行われるのが一般的であった。これらの空調機は、部屋の大きさに応じて標準仕様の6畳用や8畳用などの表示に従って設置されているが、短時間で所定の温度に出来るように必要な熱交換容量に比べて過大な冷暖房能力を備え、エネルギー消費が大きいという問題があった。一方、主に寒冷地において、暖房費の節減等を目的として戸建住宅の高断熱高気密化が図られ、それに伴って、戸建住宅でも集中空調システムが検討されてきており、例えば、特許文献1には、予め所定の温度、湿度などに調和された空気を建物内の一箇所で生成し、これを建物内に循環させる空気搬送式の集中空調装置が提案されている。
【0003】
図2は、従来の空調システムの例であり、空気搬送式集中空調装置80が設置された寒冷地用住宅建物90が示されている。建物90は、一階および二階に複数の居室91を有している。集中空調装置80は、集中空調ユニット81を有し、吸い込んだ空気を熱交換器82で加熱し、ダクト83を通して各居室91へ送る。ダクト83の各居室91に開口する部分にはダンパ84が設置され、ルームコントローラ85により開度調整され、居室内をそれぞれ所定温度に維持するようになっている。
【0004】
一方、各室91へ送られた空気は順次ドア92から通路を通り、階段ホール93に集合する。その一部は集中空調ユニット81へ回収され、再びダクト83により各居室へ送られる。また、階段ホール93に設けられた全熱交換換気装置51により一部の空気が換気される。全熱交換換気装置51は、室内側吸気口52と屋外側排気口53とが内気排出経路を形成し、屋外側吸気口54と室内側排気口55が外気吸入経路を形成し、これらが互いに熱交換が行うように構成されている。
【0005】
しかしながら、このような集中空調システムでは、ダクトの分岐により、空調された空気が分散されるため、各居室への分岐経路に対する空調能力が低くなり、特に空調装置の設置箇所から離れた位置にある居室は所望の温度に達するまでに時間がかかるという問題があった。
【0006】
またこのような高断熱・高気密住宅における集中空調システムは、主に寒冷地における暖房の利用を想定しており、室内温度の方が外気温よりも高い状況において、居室に送られた空気は主に循環させ、一部のみを排気して導入する外気の量を抑えることによって暖房効率を高めている。しかしながら、温暖な地域においては、高断熱・高気密住宅では、夏季に室内温度の方が外気温よりも高くなる状況が生じるため、屋内で空気を循環させると、空調開始時に所望の温度に冷房するまでに時間を要する。
【0007】
さらに、高断熱・高気密住宅では、基本的に各居室の気密性が高く換気がされにくいところ、この集中空調システムでは、各居室の排気はドアを通じて、建物全体の空気循環の中で行われるだけであるので、閉じられた特定の居室内の空調維持が困難で、空気が汚染され、急に換気が必要となった場合に対応できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−190414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、高断熱・高気密住宅において、空調機の設置箇所からの距離にかかわらず各居室を速やかに空調するとともに、各居室を迅速に換気することができ、特に温暖な地域において速やかに効率よく冷房することが可能な空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決した本発明の空調システムは、複数個の居室を備えた高断熱・高気密木造家屋において、少なくともひとつの空調機を配置した空調室を居室から独立して設けるとともに、空調室と各居室を連結する給気ダクトとを備え、屋外から給気される空気を空調機により空調し、空調された空調室内の空気を各居室に給気ダクトを介して個別的に分配給気し、各居室を空調する空調システムであって、空調室における各給気ダクトの入口に各居室から独立制御可能な直流ファンを設けるとともに、各居室毎に各給気ダクトの出口に連通する給気口と排気口を別々に備え、両者の給排気により各居室内の換気と空調を同時に行う構成としている。
【0011】
また本発明の空調システムは、空調室と各居室を連結する給気ダクトが、清掃手段が入出可能な内径を有する断熱性可撓管からなるものである。
【0012】
また本発明の空調システムは、各居室の排気口から集められた排気が、屋外からの吸気と熱交換して屋外に排出される構成としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空調システムは、高断熱・高気密住宅において、空調機の設置箇所から離れた居室であっても速やかに空調することができ、また各居室を個別に迅速に換気することが可能である。特に温暖な地域においても、立ち上がり時に効率よく速やかに所望の温度に冷房することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来の集中空調システムを示す概略構成図である。
【図2】本発明の空調システムを示す概略構成図である。
【図3】実施例1における居室内温度と外気温の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の空調システムの実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0016】
図1には、本発明の空調システムを適用した高断熱・高気密木造家屋30が示されている。家屋30は、被空調区画である複数の居室31を有する二階建ての住宅であり、高断熱・高気密化されている。ここで、高断熱・高気密木造家屋とは、熱損失係数Q値が、地域毎の次世代省エネルギー基準(平成11年)の基準値を満足するものをいう。
【0017】
2階には、居室31とは独立して空調室32が設けられ、ここには家屋30内の全館空調を行える空調能力を備えた一台の空調機1が備えられている。空調機1は、吸い込んだ空気の温度を調整して吐出する機能を有しており、必要に応じ、除湿や加湿を行う湿度調整機能、塵埃を集める集塵機能等を備えていても良い。
【0018】
空調室32と各居室31とは、それぞれ個別の給気ダクト10により連結されている。給気ダクト10は、清掃手段が入出可能な内径を有する断熱性可撓管からなる。清掃手段としては、例えば、150mmφ程度の煙突掃除用ワイヤーブラシ等が例示される。給気ダクト10は、1階の各居室31の天井裏空間および2階の各居室31の床下空間により形成される空間33に配設されている。
【0019】
空調室32における各給気ダクト10の入口には、各居室31から独立制御可能な直流ファン10aが設けられており、各居室31に設けられたコントローラーにより、各居室31へ供給する空調された空気の風量を調整することができる。一方、各居室31には、各給気ダクト10の出口と連通する給気口10bが設けられている。
【0020】
屋外から給気される空気は、空調機1により空調され、空調された空調室32内の空気は、給気ダクト10を介して各居室31へ個別的に分配される。空調室32内の各給気ダクト10の入口に設けられた直流ファンにより、各居室31への空気の供給量を個別に制御している。
【0021】
一方、各居室31には排気口20aが給気口10bとは別に備えられており、排気口20aにも直流ファンが設けられている。排気口20aの直流ファンも各居室31に備えられたコントローラーにより独立制御可能となっている。各居室31の排気口20aには、排気ダクト20が連結されており、これらは各階の天井裏空間等に配設され、2階に設けられた中間ダクトファン3に集約される。1本に集約されたダクト21は熱交換機2に連結している。
【0022】
各居室31へ送られた空気は、排気口20aから排気ダクト20を通り中間ダクトファン3を経て集約され、熱交換器2において、ダクト12より屋外から導入された外気と熱交換した後、ダクト22により屋外へ排気される。一方、導入された外気は熱交換後ダクト11より空調機1に入り空調され、給気ダクト10により各居室31へ供給される。
【0023】
このように、本発明の空調システムでは、空調室32と各居室31は分岐のない1本の給気ダクト10で連結されており、また空調室32の直流ファン10aと各居室31の排気口20aの直流ファンとにより空気の循環が促されるため、距離が長い給気ダクトであっても空調された空気が速やかに搬送され、空調室32から距離が離れた居室31においても所望の温度に早期に到達し得る。
【0024】
また、各居室31に個別に制御可能な直流ファンを備えた排気口20aが設けられているため、特定の居室31で急いで換気を行う必要が生じた場合にも、迅速に室内の汚れた空気を排気し、新鮮な外気を導入することができる。
【0025】
さらに、温暖な地域で屋内よりも外気温の方が低い状況において、本発明の空調システムでは、各居室31の排気口20aから排気ダクト20に入った空気は、再び屋内で循環することなく全て排気され、これに相当する量の温度の低い外気が導入されるため、立ち上がり時に効率よく速やかに冷房できる。
【実施例】
【0026】
実施例1
宮崎県日向市に設置した高断熱高気密住宅において集中空調システムによる冷房を実施した。当該住宅は、地域区分「V」における省エネルギー対策等級「4」の性能の2倍に相当する高断熱高気密性能を備えたものであり(国土交通省住宅局住宅生産課監修、「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」、14ページ)、建坪は129.38m、2階建で居室数6(居室全体の気積405.86m)、空調室1を有している。空調システムは、空調室に2.8Kwの空調機を1台備え、空調室から各居室間を直流ファン付150mm給気ダクトで接続している。同様に各居室から中間ダクト間も直流ファン付150mm排気ダクトで接続しており、換気量は1時間に1/2回である。各居室からの排気は、熱交換器(熱交換効率70%)を通して熱交換し屋外に排気される。
【0027】
8月下旬の真夏日において、空調室の温度を23度に設定して、空調機及びダクトファンを終日運転した。居室内の目標温度は25度とした。空調室からの距離が異なる各居室の室温を測定した。送気用ファンの回転数は高速および中速の2段階で制御した。測定は、6時から22時まで1時間ごとに行った。参考として、測定時刻における外気温と空調室温度を測定した。測定結果を表1に示す。表1には、ダクト長で表示した空調室から各居室までの距離および居室の日照条件を併せて記載した。また、空調室から各居室までの距離が最も長い居室11における室内温度の変化を図3に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、一日の外気温の時間推移にともない、空調室で23℃に制御していても、空調室から遠い居室11、12、13で室温を25℃に保つにはファンの回転数は高速回転にする必要があるが、空調室に近い居室21、22、23ではファンの回転数は中回転ですむ。仮に、ファンの回転数を居室から制御できなければ、空調室からの距離長に依存して室温が上昇することは避けられない。本発明では、ファンの回転数を居室からダクト毎に独立制御できるようにすることにより、各居室を略同一標準温度に簡単に制御できる。加えて、居住者の体調、嗜好に応じて、あたかも各居室に空調機を設置しているのと同じように室温を居室毎に独立調節できる。
【0030】
空調室から各居室までの距離が最も長い居室11について、より詳細に温度変化を見てみると、図3より、朝の6時の時点では、建物内部全体が25度付近で維持されており、その後急激に外気温度が上昇しても、空調室の設定温度23度をそのままとした冷房能力の範囲内で、送気ファンを高速回転にするだけで十分に居室内温度を調節することができた。これは、気温が急激に上昇しているときにおいても、建物内部全体が持っている熱容量が大きいためと考えられる。
【0031】
午後になると直射熱や断熱材を通して、屋根や壁面からの入熱で建物内部全体の温度が上昇する。午後の後半に、やや負荷がかかり、17〜18時の2時間ほど、室温が目標温度から1度上昇したが、19時から目標温度に戻った。終日、空調機を運転継続するが、夜間は熱負荷が次第に低くなり、部屋の壁からの冷却効果で建物内部全体を冷却し、翌朝までには建物全体が25度の設定温度付近になっていた。
【0032】
また図3より、居室内温度と外気温度との差が最大となる正午前後よりも夕方に熱負荷のピークがあることが示された。建物の熱容量の効果により正午頃までは熱負荷が緩和されるが、夕方に日射熱の蓄積により建物内部が暖まってくるためと考えられる。外気温度による熱負荷が更に大きくなった際においても、空調機の冷房能力にはまだ余裕があるため、空調室の設定温度を下げることにより各居室内の温度を目標温度に維持することが容易である。建物の高断熱、遮熱、高気密性による効果に加え、建物内部の熱容量がある大きさを持つため、入熱を平均化することとなり、1台の空調機を連続稼動し、空調室からの距離に応じてファンの回転数を設定することにより、各室内を快適温度に保ちながら、かつ省エネを達成できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明の空調システムは、高断熱・高気密木造家屋の集中空調システムとして有用であり、特に温暖な地域における冷房システムとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 空調機
2 熱交換機
3 中間ダクトファン
10 給気ダクト
10a 直流ファン
10b 給気口
11、12 ダクト
20 排気ダクト
20a 排気口
21、22 ダクト
30 高断熱・高気密木造家屋
31 居室
32 空調室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の居室を備えた高断熱・高気密木造家屋において、少なくともひとつの空調機を配置した空調室を居室から独立して設けるとともに、空調室と各居室を連結する給気ダクトとを備え、屋外から給気される空気を空調機により空調し、空調された空調室内の空気を各居室に給気ダクトを介して個別的に分配給気し、各居室を空調する空調システムであって、空調室における各給気ダクトの入口に各居室から独立制御可能な直流ファンを設けるとともに、各居室毎に各給気ダクトの出口に連通する給気口と排気口を別々に備え、両者の給排気により各居室内の換気と空調を同時に行うことを特徴とする空調システム。
【請求項2】
空調室と各居室を連結する給気ダクトが、清掃手段が入出可能な内径を有する断熱性可撓管からなる請求項1に記載の空調システム。
【請求項3】
各居室の排気口から集められた排気が、屋外からの吸気と熱交換して屋外に排出される請求項1または2に記載の空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−127845(P2011−127845A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287593(P2009−287593)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(597174872)アイ・ホーム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】