説明

空調制御システム

【課題】在室者に不快感を抱かせない温度設定を維持しつつ電力使用量の目標削減率を達成しやすい空調制御システムを提供すること。
【解決手段】複数の空調システム1A〜1Nの各空調機4A〜4Nに組み込まれているコンプレッサーを、サーバ10の制御指令で稼働停止させて電力使用量を削減するという空調制御システムであって、サーバ10の全体空調制御計算部13は、空調システム1A〜1N全体の電力使用量の目標削減率を達成するために必要な各空調機4A〜4Nのコンプレッサー停止時間を算出するだけでなく、算出結果を適用してコンプレッサーを稼働停止させたときに室温の変動が在室者に不快感を抱かせない範囲内か否かを確認する。そして、室温の変動が在室者に不快感を抱かせると予測された場合には、サーバ10が各空調機4A〜4Nのコンプレッサー停止時間を補正できるようにしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機の運転状態を監視して制御する空調制御システムに係り、特に、電力使用量の目標削減率に基づいた制御が可能な空調制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の空調制御システムとしては、従来、空調機のコンプレッサーを停止予定時刻よりも所定時間だけ早めに停止させることによって、電力使用量の目標削減率を達成できるようにした制御システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。かかる従来技術は、空調機の運転中における室温の変化に基づいて、コンプレッサーが稼働停止する予定時刻を算出すると共に、目標削減率に基づいて算出された時間だけコンプレッサーを停止予定時刻よりも早めに稼働停止させるというものである。そして、コンプレッサーを稼働停止させた後、室温が空調機の設定温度から例えば1℃上昇(冷房時)または下降(暖房時)した時点でコンプレッサーは自動的に起動するので、コンプレッサーの次なる停止予定時刻を算出して再び所定の時間だけ早めに停止させるようにしている。このようにして空調機を制御することにより、電力使用量の目標削減率に対応した時間だけ空調機の稼働時間を短縮させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−28873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記の従来技術では、空調機のコンプレッサーを停止予定時刻よりも早く稼働停止させればさせるほど、その後に室温が変化してコンプレッサーが起動するまでに要する時間は短くなってしまう。つまり、短い時間帯だけを捉えれば、コンプレッサーを停止予定時刻よりも早く稼働停止させるほど電力使用量の削減量は増えるように感じるが、早めに稼働停止させたコンプレッサーは短時間で起動してしまうので停止時間の短縮化が避けられない。それゆえ、長い時間帯で捉えるとコンプレッサーの停止時間はさほど短縮されず、よって電力使用量を大きく削減することは困難であると思われる。
【0005】
そこで、空調機のコンプレッサーを稼働停止させた後、このコンプレッサーが一定時間内は起動しないように設定しておくことにより、コンプレッサーの停止時間が過度に短縮されないようにするという手法が考えられる。しかるに、上記の従来技術において、予め入力される電力使用量の目標削減率が高めに設定されている場合、コンプレッサーは停止予定時刻よりもかなり早めに稼働停止されるので、コンプレッサーの停止時間が長いと、室温が大きく変化して在室者が不快に感じる温度になってしまう可能性がある。その場合、在室者によって設定温度が変更されて電力使用量が増大してしまうことも危惧される。
【0006】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、在室者に不快感を抱かせない温度設定を維持しつつ電力使用量の目標削減率を達成しやすい空調制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、複数の空調システムの各空調機に組み込まれているコンプレッサーを稼働停止させて電力使用量を削減する空調制御システムにおいて、前記各空調システムから電力使用量、室温、外気温および設定温度の各データが自動入力されると共に、これら複数の空調システム全体の電力使用量の目標削減率が入力されるサーバを備え、このサーバが、前記各空調システムと通信回線を介して接続された通信手段と、温度変動の許容範囲に関するデータが格納されている記憶装置と、前記各空調機に対する個別の制御データを算出する全体空調制御計算部とを有し、かつ、前記全体空調制御計算部が、前記目標削減率を達成するために必要な前記各空調機のコンプレッサー停止時間を算出すると共に、その算出結果を適用した場合の室温の温度変動を予測して、この温度変動予測値が許容範囲を上回る空調システムがある場合には、該当する空調システムの空調機のコンプレッサー停止時間を短縮して別の空調システムの空調機のコンプレッサー停止時間を延長するという補正を行うようにした。
【0008】
このように複数の空調システム全体の電力使用量の目標削減率を達成するために必要な各空調機のコンプレッサー停止時間を算出するだけでなく、算出結果を適用してコンプレッサーを稼働停止させたときに室温の変動が在室者に不快感を抱かせない範囲内か否かを確認し、室温の変動が在室者に不快感を抱かせると予測された場合には、サーバが各空調機のコンプレッサー停止時間を補正できるようにしてあると、どの空調システムにおいても在室者に不快感を抱かせるような温度変動が起こらないように配慮したうえで、目標削減率を達成することか容易となる。つまり、補正前の温度変動予測値が許容範囲を上回る空調システムに対しては、空調機のコンプレッサー停止時間を短くするという補正によって電力削減量は減少するものの、コンプレッサー稼働停止中における室温の温度変動幅が小さくなるため、在室者に不快感を抱かせる虞が小さくなる。また、補正前の温度変動予測値が比較的小さい空調システムに対しては、空調機のコンプレッサー停止時間を長くする補正を行っても温度変動を許容範囲内に抑えることが可能であり、よって電力削減量を増大させることができる。それゆえ、補正計算時に、前者の空調システムで減少する電力削減量と、後者の空調システムで増大する電力削減量とを相殺させれば、目標削減率に悪影響を及ぼさずに、在室者に不快感を抱かせるような室温の変動を起こさないための補正が行えることになる。
【0009】
上記の構成の空調制御システムにおいて、サーバに対して電力使用量の目標削減率の達成を優先させるか否かという指定が可能であり、目標削減率の達成を優先した場合は、温度変動予測値が許容範囲を上回る空調システムが見込まれても目標削減率が達成できるようにコンプレッサー停止時間の補正を行い、かつ、目標削減率の達成を優先しない場合は、目標削減率の未達成が見込まれても温度変動予測値が許容範囲内に抑えられるようにコンプレッサー停止時間の補正を行うようにしてあれば、状況に応じた柔軟で実用性の高い制御が行えるようになるため好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空調制御システムによれば、複数の空調システム全体の電力使用量の目標削減率を達成するために必要な各空調機のコンプレッサー停止時間を算出するだけでなく、算出結果を適用してコンプレッサーを稼働停止させたときに室温の変動が在室者に不快感を抱かせない範囲内か否かを確認し、室温の変動が在室者に不快感を抱かせると予測された場合には、サーバが各空調機のコンプレッサー停止時間を補正できるようにしてあるため、どの空調システムにおいても在室者に不快感を抱かせるような温度変動が起こらないように配慮したうえで、目標削減率を達成することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態例に係る空調制御システムの全体構成図である。
【図2】該空調制御システムのサーバで行われる制御手順を示すフローチャートである。
【図3】該サーバに制御される2つの空調機の稼働状態を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態例について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態例に係る空調制御システムは、離れた建物もしくは同一建物に設置されている複数の空調システム1A〜1N(ただしNは2以上の整数)の各空調機4A〜4Nに組み込まれているコンプレッサーを、サーバ10の制御指令で稼働停止させて電力使用量を削減するというものである。
【0013】
各空調システム1A〜1Nには、通信手段2A〜2Nや、空調制御装置3A〜3Nや、空調機4A〜4Nや、電力量計5A〜5Nや、温度センサ6A〜6Nがそれぞれ備えられている。空調機4A〜4Nはそれぞれ空調制御装置3A〜3Nによって制御され、空調制御装置3A〜3Nはそれぞれ通信手段2A〜2Nおよび通信回線(インターネットや電話回線等)20を介してサーバ10と接続されている。
【0014】
サーバ10には、通信手段11や記憶装置12、全体空調制御計算部13、入力部14A等が備えられている。ただし、通信回線20を介してサーバ10と接続されたパーソナルコンピュータ等の外部入力部14Bを入力部14Aに代替させることも可能である。
【0015】
空調システム1Aについて説明すると、電力量計5Aは空調機4Aの電力使用量を測定し、温度センサ6Aは室温や外気温を測定する。また、空調機4Aには予め設定温度が入力されている。電力量計5Aが測定した電力量データと、室温や外気温、設定温度等の温度データは、通信手段2Aおよび通信回線20を介してサーバ10に自動的に送信される。残余の空調システム1B〜1Nも同様に、その電力量データおよび温度データがサーバ10に自動的に送信される。
【0016】
このサーバ10には、空調機4A〜4N全体の電力使用量の目標削減率データと、この目標削減率の達成を優先するか否かを指定する優先度データとが、入力部14A(または外部入力部14B)から入力される。これらのデータは必要に応じてサーバ10の記憶装置12に格納される。なお、記憶装置12には、室温の変動に関する実績データや、室温の変動幅の許容範囲に関する基準データ等が格納されている。また、サーバ10の全体空調制御計算部13は、自動送信された前記電力量データおよび温度データや、入力された前記目標削減率データ等に基づいて、空調機4A〜4Nごとにコンプレッサーの最適な停止時間を算出する。その算出方法については後述するが、算出結果は通信手段11および通信回線20を介して各空調システム1A〜1Nに送信される。このように各空調機4A〜4Nのコンプレッサーをそれぞれ最適な時間だけ停止させるという制御を行うことにより、全ての空調システム1A〜1Nでコンプレッサーの稼働停止中における室温の変動を在室者が不快に感じない程度に抑えつつ、全体の電力使用量の目標削減率を達成することが容易となる。
【0017】
次に、空調機4A〜4Nにより室内が冷房されているものとして、サーバ10で行われる制御手順を図2のフローチャートに基づき説明する。なお、この制御手順におけるステップS1からステップS18までの一連の流れは、全ての空調システムが停止するまで所定の計算周期で繰り返される。
【0018】
サーバ10は、まず、インターネットや電話回線等の通信回線20を介して送信されてくる情報によって、複数の空調システムが稼働しているか否かを判定する(ステップS1)。複数の空調システムが稼働していない場合は制御を終了するが、そうでない限りステップS2へ進む。ステップS2において、サーバ10は、予め定めた特定期間の目標削減率データと、この目標削減率の達成を優先するか否かを指定する優先度データとを取り込む。前述したように、これらのデータは入力部14Aまたは外部入力部14Bから入力される。また、これらのデータはステップS2の段階で入力してもよいが、空調システムが稼働していないときに予め入力しておいてもよい。
【0019】
次なるステップS3で、サーバ10は、稼働している各空調システムから通信回線20を介して電力量データおよび温度データを取り込んで記憶装置12に格納する。ここで、電力量データとは、各空調システムの電力量計で測定された電力使用量のデータのことである。また、温度データとは、各空調システムの温度センサで測定された室温および外気温のデータと、各空調システムの空調機に設定されている設定温度のデータのことである。
【0020】
次なるステップS4では、サーバ10の全体空調制御計算部13が、前記特定期間の開始時から現在に至るまでの経過期間に実際に使用された各空調システムの電力量の合計を計算する。また、次なるステップS5では、この経過期間にサーバ10からコンプレッサーを稼働停止させる指令がなかったと仮定した場合に推定される各空調システムの電力量の合計を計算する。そして、次なるステップS6において、ステップS4で計算された実際の電力使用量とステップS5で計算された推定電力量とを比較し、電力使用量の目標削減率が達成されているか否かを判定する。
【0021】
ステップS6で目標削減率が達成されている(Yes)と判定された場合はステップS8へ進むが、目標削減率が達成されていない(No)と判定された場合は、ステップS7へ進んで目標削減率を達成するために必要な電力量分を上乗せした新たな削減率を暫定的な目標削減率としてから、ステップS8へと進む。
【0022】
ステップS8では、サーバ10の全体空調制御計算部13が、設定された目標削減率を達成するために必要な各空調機のコンプレッサー停止時間を算出する。そして、次なるステップS9で、ステップS8の算出結果を次回の計算周期まで各空調機に適用した場合の電力量を予測する。また、次なるステップS10では、空調システムごとに、ステップS8の算出結果を適用して空調機のコンプレッサーを稼働停止させた場合に見込まれる室温の上昇幅を、記憶装置12に格納されている前記温度データや実績データに基づいて予測する。
【0023】
次なるステップS11では、空調システムごとに、ステップS10で予測した室温の上昇幅を前記基準データと比較することによって、この室温上昇が在室者が不快に感じない温度上昇幅の範囲内であるか否かが判定される。なお、記憶装置12に格納されている前記基準データは、在室者が不快に感じる可能性は極めて低いとみなせる室温の変動幅の最大値を、室温と関連付けて予め入力したものである。
【0024】
そして、ステップS11の判定結果がYesの場合、つまり、全ての空調システムにおいて、ステップS8の算出結果を適用して空調機のコンプレッサーを稼働停止させたときに見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせない範囲内に抑えられていると判定された場合には、ステップS12へと進む。このステップS12では、サーバ10に入力されている前記優先度データに基づいて電力使用量の目標削減率の達成を優先するか否かが判定され、目標削減率の達成をあえて優先する必要がない場合(Noの場合)は、ステップS8で算出したコンプレッサー停止時間を各空調機に適用するものとし、最終のステップS18へと進む。つまり、この場合、サーバ10はステップS8で算出したコンプレッサー停止時間を各空調機に指示することになる。
【0025】
また、ステップS12において、前記優先度データに基づき目標削減率の達成を優先すると判定された場合(Yesの場合)には、ステップS13へと進む。このステップS13では、室温の上昇幅を在室者に不快感を抱かせない範囲内に抑えつつ各空調機のコンプレッサー停止時間を長くするという補正を行う。かかる補正を行うと、各空調機の電力削減量の合計が、目標削減率よりもかなり高い削減率で達成できるレベルに変更されることになる。そして、ステップS13でコンプレッサー停止時間の補正を行った後、最終のステップS18へ進むので、この場合、サーバ10は電力使用量の削減を優先した長めのコンプレッサー停止時間を各空調機に指示することになる。
【0026】
一方、ステップS11の判定結果がNoの場合、つまり、少なくとも1つの空調システムにおいて、ステップS8の算出結果を適用して空調機のコンプレッサーを稼働停止させたときに見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせてしまうほど大きくなると判定された場合には、ステップS14へと進む。このステップS14では、室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせてしまう空調機のコンプレッサー停止時間を短く補正すると共に、室温の上昇幅が比較的小さい別の空調機のコンプレッサー停止時間を長く補正することによって、各空調機のコンプレッサー停止時間を平準化する。そして、次なるステップS15において、かかるコンプレッサー停止時間の平準化により、全ての空調システムでコンプレッサー稼働停止時に見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせない範囲内に抑えられるようになったか否かが判定される。
【0027】
ステップS15での判定結果がYesの場合は最終のステップS18へ進むので、この場合サーバ10は、ステップS14で平準化したコンプレッサー停止時間を各空調機に指示することになる。また、ステップS15での判定結果がNoの場合、つまり、ステップS14でコンプレッサー停止時間を平準化したにも拘らず少なくとも1つの空調システムにおいて、コンプレッサー稼働停止時に見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせてしまうほど大きくなると判定された場合には、ステップS16へと進む。
【0028】
このステップS16では、前記優先度データに基づいて電力使用量の目標削減率の達成を優先するか否かが判定される。そして、目標削減率の達成を優先する場合(Yesの場合)には最終のステップS18へ進むので、この場合、サーバ10は、少なくとも1つの空調システムで在室者に不快感を抱かせてしまう室温の上昇が見込まれることを容認しつつも、あえて電力使用量の削減を優先したコンプレッサー停止時間を各空調機に指示することになる。ただし、この場合も各空調機のコンプレッサー停止時間は平準化されているため、室温の上昇幅が極端に大きくなることはなく、よって在室者の不快感はかなり抑えられるはずである。
【0029】
一方、ステップS16の判定結果がNoの場合、つまり、コンプレッサー停止時間を平準化したにも拘らず少なくとも1つの空調システムにおいて、コンプレッサー稼働停止時に見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせてしまうほど大きくなると判定され、かつ、目標削減率の達成をあえて優先する必要がない場合には、ステップS17へと進む。このステップS17では、室温の上昇幅が不所望に大きくなってしまう空調機のコンプレッサー停止時間を短くするという補正を行う。かかる補正を行うと、目標削減率は達成できないものの、全ての空調システムにおいて、コンプレッサー稼働停止時に見込まれる室温の上昇幅が在室者に不快感を抱かせない範囲内に抑えられることになる。そして、ステップS17でコンプレッサー停止時間の補正を行った後、最終のステップS18へ進むので、この場合、サーバ10は在室者に不快感を抱かせないことを優先したコンプレッサー停止時間を各空調機に指示することになる。
【0030】
次に、図3のタイムチャートを参照しながら、サーバ10によって制御される空調機4A,4Bのコンプレッサー稼働状況と室温の変化について説明する。なお、図3の横軸は時間軸であり、図中のTが前記計算周期に相当する。また、図3において、サーバ10から各空調機4A,4Bに実際に指示される補正済みのコンプレッサー停止時間は破線で示してあり、比較例として未補正のコンプレッサー停止時間(前記ステップS8の算出結果)が実線で示してある。
【0031】
図3に示すように、設定入力された目標削減率を達成するために必要な各空調機4A,4Bのコンプレッサー停止時間(前記ステップS8の算出結果)は、いずれも(t3−t1)となっている。また、サーバ10からの制御がない限り、空調機4A,4Bはいずれも室温を設定温度Cnに維持するような冷房運転を行うようになっている。サーバ10からの制御指令でコンプレッサーが稼働停止すると、室温は設定温度Cnから次第に上昇していき、室温が臨界温度Chに達すると在室者は不快感を抱くようになる。
【0032】
図3の比較例に示す未補正のコンプレッサー停止時間が適用された場合、時刻t1にコンプレッサーが稼働停止した後、空調機4Aで冷房されている室内は時刻t3まで経過しても室温が臨界温度Chに達しないため問題ないが、空調機4Bで冷房されている室内は時刻t3よりも前に室温が臨界温度Chに達してしまう。そのため、空調機4Bで冷房中の室内にいる人の多くが、過大な温度上昇で不快感を抱くようになることが予想される。
【0033】
そこで、サーバ10は、空調機4Bのコンプレッサー停止時間を(t2−t1)に短縮すると共に、空調機4Aのコンプレッサー停止時間を(t4−t1)に延長するという補正を行う。すなわち、図3の破線で示すように、空調機4Aはコンプレッサーの停止終了時刻(起動時刻)をt3からt4へ遅らせても室温が臨界温度Chに達する虞がなく、一方、空調機4Bはコンプレッサーの停止終了時刻をt3からt2へ早めることで室温が臨界温度Chに達する虞がなくなる。また、このときサーバ10は、図3の最下部に示すように、空調機4A,4Bのコンプレッサー停止時間の合計が補正前と補正後で等しくなるように補正計算を行っているため、両空調機4A,4Bで使用される電力量の合計は変化しない。つまり、補正計算時に、空調機4Bのコンプレッサー停止時間を短縮することで減少する電力削減量と、空調機4Aのコンプレッサー停止時間を延長することで増大する電力削減量とを相殺させれば、目標削減率に悪影響を及ぼさずに、在室者に不快感を抱かせるような室温の上昇を起こさないための補正が行えることになる。
【0034】
以上説明したように本実施形態例に係る空調制御システムでは、空調システム1A〜1N全体の電力使用量の目標削減率を達成するために必要な各空調機4A〜4Nのコンプレッサー停止時間を算出するだけでなく、算出結果を適用してコンプレッサーを稼働停止させたときに室温の上昇が在室者に不快感を抱かせない範囲内か否かを確認し、室温の上昇が在室者に不快感を抱かせると予測された場合には、サーバ10が各空調機4A〜4Nのコンプレッサー停止時間を補正できるようにしてあるため、どの空調システムにおいても在室者に不快感を抱かせるような室温の上昇が起こらないように配慮したうえで、目標削減率を達成することが容易となる。
【0035】
また、本実施形態例に係る空調制御システムでは、サーバ10に対して電力使用量の目標削減率の達成を優先させるか否かという指定が可能であり、目標削減率の達成を優先した場合には、一部の空調システムにおいてコンプレッサーを稼働停止させたときに在室者に不快感を抱かせる室温の上昇が見込まれても、目標削減率を達成できるようにコンプレッサー停止時間の補正を行うようにしているため、目標削減率を確実に達成することができる。これに対して、目標削減率の達成を優先しないと指定した場合には、目標削減率の未達成が見込まれても、全ての空調システム1A〜1Nにおいて在室者に不快感を抱かせる室温の上昇が起こらないようにコンプレッサー停止時間の補正を行うようにしている。それゆえ、状況に応じた柔軟で実用性の高い制御が行える。
【0036】
なお、図2や図3を用いて説明した上記の実施形態例では、冷房運転中の各空調機に対するサーバの制御について述べているが、各空調機が暖房運転中の場合も、サーバの制御方法は基本的に同じである。ただし、暖房時には、サーバが、コンプレッサーの稼働停止時に見込まれる室温の下降幅を予測したり、この温度降下が在室者に不快感を抱かせてしまうほど大きいか否かを判定することになる。
【符号の説明】
【0037】
1A〜1N 空調システム
2A〜2N 通信手段
3A〜3N 空調制御装置
4A〜4N 空調機
5A〜5N 電力量計
6A〜6N 温度センサ
10 サーバ
11 通信手段
12 記憶装置
13 全体空調制御計算部
14A 入力部
14B 外部入力部
20 通信回線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の空調システムの各空調機に組み込まれているコンプレッサーを稼働停止させて電力使用量を削減する空調制御システムにおいて、
前記各空調システムから電力使用量、室温、外気温および設定温度の各データが自動入力されると共に、これら複数の空調システム全体の電力使用量の目標削減率が入力されるサーバを備え、このサーバが、前記各空調システムと通信回線を介して接続された通信手段と、温度変動の許容範囲に関するデータが格納されている記憶装置と、前記各空調機に対する個別の制御データを算出する全体空調制御計算部とを有し、
かつ、前記全体空調制御計算部が、前記目標削減率を達成するために必要な前記各空調機のコンプレッサー停止時間を算出すると共に、その算出結果を適用した場合の室温の温度変動を予測して、この温度変動予測値が許容範囲を上回る空調システムがある場合には、該当する空調システムの空調機のコンプレッサー停止時間を短縮して別の空調システムの空調機のコンプレッサー停止時間を延長するという補正を行うようにしたことを特徴とする空調制御システム。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記サーバに対して前記目標削減率の達成を優先させるか否かという指定が可能であり、前記目標削減率の達成を優先した場合は、前記温度変動予測値が許容範囲を上回る前記空調システムが見込まれても前記目標削減率が達成できるように前記コンプレッサー停止時間の補正を行い、かつ、前記目標削減率の達成を優先しない場合は、前記目標削減率の未達成が見込まれても前記温度変動予測値が許容範囲内に抑えられるように前記コンプレッサー停止時間の補正を行うようにしたことを特徴とする空調制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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