説明

空調用加熱器および加熱ユニット

【課題】精密加工時などに要求される空調空気の温度を、温度ムラを発生することなく、高精度にコントロールできる空調用加熱器および加熱ユニットを提供する。
【解決手段】 精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する空調用加熱器であって、ダクト内部に多段平行流路を形成し、各流路壁面にシート状ヒータを設けたものである。あるいは。精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する空調用加熱器であって、ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密加工・計測分野に用いられる精密温度制御空調に用いられる空調用加熱器および加熱ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の大規模集積化に伴い、精密加工・計測精度の環境因子である空気温度を高度制御した精密環境チャンバなどの要求が高まっている。空気温度の制御では、温度センサの測定値を用い、フィードバック制御などで空調用加熱器の出力を調整する手法が採られるが、この場合、高精度な空気温度制御を実現するためには、空調用加熱器に、制御信号に対する応答の速さや、微細な出力の調整が可能であること、空気過熱後の温度ムラが小さいといった特性が要求される。
【0003】
高精度な空気温度制御を実現するため空調用加熱器としては、一般に、コイル状に巻いた伝熱ワイヤを保護管に挿入し、保護管内に絶縁材を充填したシースヒータが用いられる。この加熱器は、通電により伝熱ワイヤを発熱させ、保護管を加熱し、保護管表面と空気との接触熱伝達により空気を加熱、昇温するものである。
【0004】
この種の加熱器を使用した温度制御システムを図9に示す。ブロア1からの送風空気はダクト2を通じて精密加工・計測領域に供給されている。この供給空気を温度制御するのであるが、空気用ダクト2に加熱器3を挿入配置するとともに、加熱器3の下流に温度センサ4を設置している。温度センサ4は空気温度を測定し、調節計5に測定値信号を送る。調節計5では測定値を基に加熱器3の内部ヒータへの出力電圧が演算され、サイリスタ6に出力信号を送る。サイリスタ6は出力信号に応じて加熱器3への印加電圧を調節し、所定温度に高精度に制御するのである。
【0005】
この発明に関連する先行文献としては下記のものが挙げられる。
【特許文献1】特開平6−281181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来用いられているシースヒータ加熱器では、加熱器自体の熱容量が大きく、応答性が悪い。このため制御機器からの出力信号に加熱器が追従できず、制御性能が低くなる問題があった。また、伝熱面積が小さく、所定の熱量を空気に伝達するためには加熱器表面温度を高くする必要がある。このため加熱器と空気の温度差が大きくなり、加熱器出口で空気の温度ムラが発生する問題があった。
【0007】
本発明は、精密加工時などに要求される空調空気の温度を、温度ムラを発生することなく、高精度にコントロールできる加熱器および加熱ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、熱容量が小さく、伝熱面積が広い加熱器を発明した。本加熱器では、加熱部材として薄いシート形状をしており、面内でほぼ一様発熱するヒータ(例えばガラスクロスにカーボン素材を含浸し成型した抵抗体を、ラミネート処理したもの)を用い、これを空気流に対して平行に、かつ加熱器内部の空気流路中に均等な割合で存在する様に複数枚配置したものである。
【0009】
具体的には、本発明に係る空調用加熱器は、精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する加熱器であって、ダクト内部に多段平行流路を形成し、各流路壁面にシート状ヒータを設けたものである。あるいは、精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する加熱器であって、ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成するように構成することができる。
【0010】
また、本発明に係る空調用加熱ユニットは、ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成した空調用加熱器と、前記多段平行流路の上流部に配置された整流手段とを有し、前記多段平行流路の各入口流速を均一化するように構成した。
【0011】
また、更に、ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成した空調用加熱器と、前記多段平行流路の上流部に設けられた畜熱体とを有し、空気温度変動を緩和させて多段平衡流路に通流させるように構成することもできる。
【発明の効果】
【0012】
上記構成によれば、ダクトを流れる空気は、多段平行流路を通過する際に層状に分割され、分割面の上下両面から加熱されることになる。これによって温度制御の応答性が格段に向上し、本発明により、高精度なく空気温度制御が可能となり、精密加工・計測用環境チャンバ等に応用することができる。ダクトを通流する空気はダクト中心部で最大速度で、ダクト壁面に接触領域が最小速度となるような速度分布をなし、空気とシート状ヒータの接触時間が各平行流路で異なって昇温度が異なる可能性がある場合には、多段平行流路の前段に整流手段、例えば整流板を設けて速度分布がダクト断面で均一になるように調整することによって温度分布のムラのない加熱が可能となる。また、多段平行流路の前段部に畜熱体を置くことにより、空気温度変動が抑制され、温度加熱制御時のオーバーシュートを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る空調用加熱器並びに加熱ユニットの最良の実施形態について、添付図面を参照しつつ、詳細に説明する。
本実施形態に係る空調用加熱器を図1〜2に示す。図示のように、実施形態に係る空調用加熱器10は、矩形断面をもつダクトケーシング12を有している。矩形ダクトケーシング12の内部流路は、空気の流れ方向を横断する方向に分割されており、平行に配置された複数の分割隔壁によって多段平行流路14(141〜14n)が形成されている。そして、実施形態の場合には、各流路間の隔壁をシート状ヒータ16によって直接形成しており、当該シート状ヒータ16を流れに対して平行に、等間隔のピッチで配置した構造となっている。薄いシート状ヒータ16であるため、熱容量が小さく、温度制御信号に対する応答性が高い。また伝熱面が広く空気との接触面積が増大している分だけ伝熱面温度を低くでき、かつ伝熱面が空気流路内で均等に分布しているため、空調用加熱器10出口での温度ムラを小さくすることができる。
【0014】
したがって、各流路断面では流通する空気に対して伝熱面が均等になり、空気流れに沿った伝熱を効果的に行うことができ、空気流全体の温度ムラを小さくできるのである。
【0015】
ところで、上述のような空調用加熱器10を空調ダクト18に介在させて温度制御している状態を図3に示す。本実施形態では空調用加熱器10の流路断面内で均等に伝熱面が分布するようにしているが、ダクト18内では空気は、図3に示すように、その粘性によりダクト中心流速が早く、ダクト壁面接触部の流速が遅い速度分布となる。このような流路内で偏流が発生すると、局所的に流量の多い所では空気温度が低く、流量の少ない所では空気温度が高くなる。
【0016】
これを防止するための空調用加熱ユニットの実施形態を、図4に示す。この実施形態に係る空調用加熱ユニットは、上述した空調用加熱器10と、その上流に整流手段として設置された多孔板20とから構成したものである。これにより空調用加熱器10の多段平行流路14で一様な流れが形成でき、流路断面方向での場所による空気温度の違いを小さくすることができる。整流手段としては多孔板20に限らず、整流作用のある任意の部材を使用することができる。
【0017】
次に、図5には別の実施形態に係る空調用加熱ユニットの断面構成図を示している。この加熱ユニットは、上述した空調用加熱器10と、その上流における空調ダクト18内に配置した畜熱体22とを備えた構成となっている。この加熱ユニットは空調用加熱器10の下流側に温度センサ24が配置されており、温調後の温度状態を計測するようにしている。そして、当該温度センサ24により測定された温度に対応する温度信号は調節計26に送られ、ここで測定値を元に空調用加熱器10の内部ヒータへの出力電圧が演算され、サイリスタ28に出力信号を送る。サイリスタ28は出力信号に応じて空調用加熱器10への印加電圧を調節し、所定温度に高精度にフィードバック制御するのである。
【0018】
上述した空調用加熱器10のみを用い、フィードバック制御により空気温度制御した場合、空調用加熱器10の上流の温度変動に対する空調用加熱器10の下流における温度変動の感度は、例えば図6のようになる。図示のように、0.1Hz近辺の温度変動は、空調用加熱器10によって増幅され、温度変動周波数でb1〜b2の範囲でオーバーシュートが発生する。図示の例では、これを防止するため、前述したように、本実施形態では空調用加熱器10の上流に蓄熱体22を設け、空調用加熱器10で増幅される周波数の温度変動を予め抑制することで、温度制御を安定化させている。蓄熱体22はその形状や材質によって温度変動の抑制効果が異なり、図7に示すように、畜熱体Aの温度変動減衰効果が周波数a1(<b1)で現れ、畜熱体Aの温度変動減衰効果が周波数a2(>b1)から現れる場合、空調用加熱器10のオーバーシュート開始周波数b1より下位周波数a1から温度変動減衰効果が表れる畜熱体Aを選定するようにすればよい。もちろん、オーバーシュート開始周波数b1と同一もしくは近傍の下位周波数での減衰効果が開始する畜熱体であることを要する。したがって、図8に示した空調用加熱器10より畜熱体Aの組合わせによる温度変動感度曲線がXとなる特性が望ましい。特性線Yはオーバーシュートを防止できないため畜熱対Aとの組合わせは好ましくないのである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、半導体生産設備などが配置されるクリーンルームにおける製造設備や計測設備に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る空調用加熱器の実施形態の斜視図である。
【図2】同断面図である。
【図3】同実施形態に係る空調用加熱器を用いた風速分布や温度分布の説明図である。
【図4】本発明に係る空調用加熱ユニットの実施形態の断面構成図である。
【図5】同空調用加熱ユニットの他の実施形態の断面構成図である。
【図6】本実施形態に係る空調用加熱器を用いた場合のオーバーシュートの説明用グラフである。
【図7】実施形態に係る加熱ユニットに用いられる畜熱器の特性図である
【図8】空調用加熱器と畜熱体の加熱ユニットにおける温度変動の感度を示す特性図である。
【図9】従来の空調用加熱器を用いた温度制御システム図である。
【符号の説明】
【0021】
10………空調用加熱器、12………矩形ダクトケーシング、14(141〜14n)………多段平行流路、16………シート状ヒータ、18………空調ダクト、20………多孔板、22………畜熱体、24………温度センサ、26………調節計、28………サイリスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する加熱器であって、ダクト内部に多段平行流路を形成し、各流路壁面にシート状ヒータを設けたことを特徴とする空調用加熱器。
【請求項2】
精密加工・計測分野向けの精密温度制御空調設備で使用する加熱器であって、ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成したことを特徴とする空調用加熱器。
【請求項3】
ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成した空調用加熱器と、前記多段平行流路の上流部に配置された整流手段とを有し、前記多段平行流路の各入口流速を均一化してなることを特徴とする空調用加熱ユニット。
【請求項4】
ダクト内部に多段平衡流路を形成し、各流路隔壁をシート状ヒータにより形成した空調用加熱器と、前記多段平行流路の上流部に設けられた畜熱体とを有し、空気温度変動を緩和させて多段平衡流路に通流させるようにしてなることを特徴とする空調用加熱ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−90681(P2006−90681A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279949(P2004−279949)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000005452)日立プラント建設株式会社 (1,767)
【Fターム(参考)】