説明

空調用蓄熱器及び空調装置

【課題】 空調用蓄熱器を使用する場合であっても、空調された空気を適切に供給するという空調装置本来の機能を十分に確保するとともに、材料コスト及び製造コストの双方のコストダウンを図る。
【解決手段】 空調部2により空調された空気Aを吹出口3eまで導く通気ダクト3の内部に配設する空調用蓄熱器であって、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配する熱伝導性素材Rにより形成した複数のフィン部4…,及び熱伝導性素材Rにより形成したチューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、かつ各フィン部4…に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部6…を、一体構成してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調部により空調された空気を吹出口まで導く通気ダクトの内部に配設する空調用蓄熱器及びこの空調用蓄熱器を備える空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空調部(空気調和手段)により空調された空気を吹出口まで導く通気ダクトの内部に配設する空調用蓄熱器を備える空調装置としては、特許文献1で開示される精密温度制御装置が知られている。
【0003】
この温度制御装置は、吹出し側壁面から吹出した恒温空気を相対向して配置された吸込み側壁面から吸込むようにした恒温室と、恒温空気よりも気流速度が大きい恒温空気を恒温室内のターゲット空間に向けて吹出すとともに、当該恒温空気の気流方向が恒温空気の気流方向と一致するように恒温室内に配置された吹出しユニットとを具備し、この吹出しユニットは、空気調和手段から供給された調和空気を蓄熱体、整流体の順序で通過させた後に、恒温空気として吹出す構成とするとともに、恒温空気の下流側に、吹出しユニットとの間でターゲット空間を挟む通気性の気流制御部材が配置されたものである。この場合、蓄熱体は、熱容量が大きい通気性の部材により形成され、調和空気によって蓄熱されることにより設定温度を維持するものであり、コントローラによって制御され吹出しユニットに流入する調和空気が、制御誤差によって温度変動する場合でも、蓄熱体を通過する過程で蓄熱体の保有熱と熱交換され、設定温度に精密に調整される。
【0004】
また、この種の蓄熱体としては、特許文献2で開示される熱交換器に用いられる蓄熱体や特許文献3で開示されるハニカム状蓄熱体が知られている。特許文献2の蓄熱体は、結晶化度40%未満の低結晶性のポリオレフィンと、この低結晶性のポリオレフィンに担持された固−液間を可逆的に相転移する有機系蓄熱材を構成材料とするペレット状の粒子とした構成したものであり、多数用意した蓄熱体をハウジングに収容して使用する。一方、特許文献3のハニカム状蓄熱体は、セラミックス素材により形成した複数のハニカム構造体を組合わせるとともに、ハニカム構造体を固定するセラミックス製外囲いを設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−85607号公報
【特許文献2】特開平7−229690号公報
【特許文献2】特開平8−178564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の蓄熱体は、次のような問題点があった。
【0007】
第一に、いずれの蓄熱体も接触する流体との接触面積を大きくすることを目的として、多数の粒子の集合体として構成されたり、或いは多数の通気孔の集合体であるハニカム構造として構成されるため、空調した空気を吹出口まで導く通気ダクトの内部に配設する空調用蓄熱器として使用する場合には空気抵抗が大きくなる。したがって、空気の流れが阻害され、空調された空気を適切かつ十分に供給するという空調装置本来の機能が損なわれる虞れがあり、事実上、使用が困難となる。
【0008】
第二に、ポリオレフィン(高分子化合物)素材やセラミックス素材等の蓄熱素材により粒子或いはハニカム構造体として製造されるため、専用の製造工程が必要となる。したがって、必ずしも製造が容易であるとはいえず、材料コスト及び製造コストの双方における無視できないコストアップを招く。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した空調用蓄熱器及び空調装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る空調用蓄熱器1は、上述した課題を解決するため、空調部2により空調された空気Aを吹出口3eまで導く通気ダクト3の内部に配設する空調用蓄熱器であって、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配する熱伝導性素材Rにより形成した複数のフィン部4…,及び熱伝導性素材Rにより形成したチューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、かつ各フィン部4…に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部6…を、一体構成してなることを特徴とする。
【0011】
一方、本発明に係る空調装置Mは、上述した課題を解決するため、空調部2により空調された空気Aを吹出口3eまで導く通気ダクト3の内部に配設した空調用蓄熱器を備える空調装置であって、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配する熱伝導性素材Rにより形成した複数のフィン部4…,及び熱伝導性素材Rにより形成したチューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、かつ各フィン部4…に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部6…を、一体構成してなる空調用蓄熱器1と、この空調用蓄熱器1の温度Tiを検出する温度センサ7と、この温度センサ7により検出した温度Tiが予め設定した目標温度Tsに達したなら空調した空気Aの使用を開始可能にする開始制御手段8とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、好適な態様により、蓄熱性溶液Lには、少なくとも水又は不凍液を含ませることができるとともに、開始制御手段8には、少なくとも視覚的又は聴覚的に報知する報知手段8a,空気Aの供給先を切換える切換手段8bの一方又は双方を含ませることができる。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係る空調用蓄熱器1及び空調装置Mによれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 空調用蓄熱器1は、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配する熱伝導性素材Rにより形成した複数のフィン部4…,及び熱伝導性素材Rにより形成したチューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、かつ各フィン部4…に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部6…を、一体構成してなるため、構造上は、通気路に配設する一般的なフィンアンドチューブ方式の熱交換器と類似構成にできる。したがって、空調用蓄熱器1を通気ダクト3に配設する場合であっても、空気Aの流れを阻害する不具合を回避でき、空調された空気Aを適切かつ十分に供給するという空調装置本来の機能を確保できる。
【0015】
(2) 空調用蓄熱器1は、通気路に配設する一般的なフィンアンドチューブ方式の熱交換器と類似構成にできるため、製造に用いる材料には、一般的な金属素材や水等を使用すれば足りる。また、空調機器メーカにとっては、フィンアンドチューブ方式による熱交換器の製造工程を流用できるなど、容易に製造することができる。これにより、材料コスト及び製造コストの双方のコストダウンを実現できる。
【0016】
(3) 空調装置Mには、空調用蓄熱器1と、この空調用蓄熱器1の温度Tiを検出する温度センサ7と、この温度センサ7により検出した温度Tiが予め設定した目標温度Tsに達したなら空調された空気Aの使用を開始可能にする開始制御手段8とを設けたため、空調された空気Aは、目標温度Tsに達した時点から速やかに使用できるとともに、使用までの立上げ時間の短縮及び生産性(生産効率)の向上を図ることができる。
【0017】
(4) 好適な態様により、蓄熱性溶液Lに、少なくとも水又は不凍液を含ませれば、蓄熱性を有する溶液(液体)として、一般的な溶液を使用でき、容易かつ低コストに実施できるとともに、特に、不凍液を使用する場合には、寒冷地における凍結防止を図ることができる。しかも、水で希釈することにより濃度を変えることできるため、寒冷地でない場合には、希釈量を多くし、比熱の調整により蓄熱性能を高めることもできる。
【0018】
(5) 好適な態様により、開始制御手段8に、視覚的又は聴覚的に報知する報知手段8aを用いれば、ユーザは目標温度Tsに達したことを、容易かつ確実に知ることができるため、このタイミングで空調された空気Aの使用を速やかに開始することができる。
【0019】
(6) 好適な態様により、開始制御手段8に、空気Aの供給先を切換える切換手段8bを用いれば、目標温度Tsに達するまでは、他の場所に空気Aを逃がし、目標温度Tsに達したなら本来の使用する場所に自動で供給できるため、利便性をより高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の好適実施形態に係る空調装置に備える空調用蓄熱器の一部抽出拡大断面を含む正面構成図、
【図2】同空調用蓄熱器を備える空調装置の模式的全体構成図、
【図3】同空調装置の全体回路図、
【図4】同空調装置に備える空調用蓄熱器の平面図、
【図5】同空調装置に備える空調用蓄熱器の変更例を示す平面図、
【図6】同空調装置に備える開始制御手段の系統図、
【図7】同空調装置を用いた際の時間に対する温度変化特性図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態に係る空調用蓄熱器1を備える空調装置Mの全体構成について、図1〜図3を参照して説明する。
【0023】
図2に示す空調装置Mは、空冷式の精密温度調整装置であり、全体を覆うハウジング11を備える。ハウジング11の内部は、上半部を空気制御処理室11uとして構成し、下半部を放熱処理室11dとして構成する。ハウジング11の右側面には、上側に設けた空気Aの吸込口11ui及び下側に設けた吸込口11diを有するとともに、ハウジング11の上面には、空調された空気Aを外部に吹き出す吹出口3eを先端に有する通気ダクト3を突出させる。更に、ハウジング11の左側面の下側には、放熱処理室11dの吹出口11deを有する。なお、12…はハウジング11の底面に設けた複数のキャスタを示す。一方、空気制御処理室11uには、送風ファン(例示はシロッコファン)13を配設し、この送風ファン13の吸入口13iは処理ダクト14を介して空気Aの吸込口11uiに連通接続するとともに、送風ファン13の吐出口13eは上述した通気ダクト3の内端口に接続する。したがって、通気ダクト3は、後述する空調部2により空調された空気Aを吹出口3eまで導く機能を有している。また、処理ダクト14の内部には、右側面側から吸込フィルタ(エアフィルタ)16,蒸発器(冷却器)17,凝縮器(加熱器)18を順次配設することにより空調部2を構成する。これにより、凝縮器18の下流側位置に送風ファン13が配される。なお、13mは送風ファン13のファンモータを示す。
【0024】
さらに、空気制御処理室11uの内部にはケーシングに収容されたコントローラ19を備えるとともに、吹出口3eから吹き出す空調された空気Aの温度(空調温度)Taを検出する温度センサ20を備える。この温度センサ20はコントローラ19に接続する。コントローラ19は、各種制御処理等を行うコンピューティング機能を有し、少なくとも温度センサ20により検出される空調温度Taが予め設定された目標温度Tsとなるように、後述する圧縮機25を含む第一冷凍サイクルCc及び第二冷凍サイクルChを制御(フィードバック制御)するとともに、後述する第一調整弁43及び第二調整弁46を制御する機能を備える。
【0025】
一方、放熱処理室11dには、前端口21iを空気吸込口11diに連通接続し、かつ後端口21eを放熱処理室11dの内部に臨ませた放熱ダクト21を配設する。この放熱ダクト21の内部は空気Aが流通する熱交換通路15となる。そして、この放熱ダクト21の内部における右側面には吸込フィルタ(エアフィルタ)22を配設するとともに、この吸込フィルタ22の下流側に、熱交換ユニット23を配設する。熱交換ユニット23は、図2に示すように、後述する第一冷凍サイクルCcにおける凝縮器(放熱器)26hと第二冷凍サイクルChにおける蒸発器(吸熱器)26cを一体に構成したものであり、基本的には、凝縮器26h及び蒸発器26cに共通に用いる複数の配列したフィン27…と、蒸発器26cに対応し、かつ各フィン27…に貫通する複数の第一チューブ構成部28c…と、凝縮器26hに対応し、かつ各フィン27…に貫通する複数の第二チューブ構成部28h…とを有するとともに、少なくとも各フィン27…に接触する送風ファン29により送風される空気(外気)Aの流通方向Fwにおける各フィン27…の上流側エリアZuと下流側エリアZdに、第一チューブ構成部28c…と第二チューブ構成部28h…とを混在させて配置し、フィンアンドチューブ方式により一体構成する。図2中、第一チューブ構成部28cを「C」で表示するとともに、第二チューブ構成部28hを「H」で表示している。また、熱交換ユニット23の後方に位置する放熱ダクト21の後端口21eには送風ファン29を配設する。なお、25は放熱処理室11dの内部に配設した圧縮機をそれぞれ示す。
【0026】
他方、図3は空調装置Mの全体回路構成を示す。空調装置Mは、圧縮機25を共通にした第一冷凍サイクルCcと第二冷凍サイクルChを備える。この場合、第一冷凍サイクルCcは冷却側となり、第二冷凍サイクルChは加熱側となる。第一冷凍サイクルCcは、圧縮機25の吐出口→分流部P→第一調整弁(電子膨張弁)43→凝縮器(加熱器)17→電子膨張弁45→蒸発器(吸熱器)26c(第一チューブ構成部28c…)→合流部J→圧縮機25の吸込口の経路で冷媒(熱媒体)Kが循環する。第二冷凍サイクルChは、圧縮機25の吐出口→分流部P→第二調整弁(電子膨張弁)46→凝縮器(放熱器)26h(第二チューブ構成部28h…)→合流部42h→電子膨張弁47→蒸発器(冷却器)18→合流部J→圧縮機25の吸込口の経路で冷媒(熱媒)Kが循環する。その他、回路中、51,54,59は圧力ゲージ、52,56は圧力スイッチ、53,57はチェックバルブ、55,60はストレーナ、58はアキュムレータをそれぞれ示す。
【0027】
次に、本実施形態に係る空調用蓄熱器1の構成について、図1及び図2,図4〜図6を参照して説明する。
【0028】
空調用蓄熱器1は、図1及び図2に示すように、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcへ一定間隔毎に並べて配した複数のフィン部4…と、チューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入して構成した複数の蓄熱部6…とを備え、各蓄熱部6…を各フィン部4…に貫通させるとともに、外面を溶着等により固定して一体化させたものである。これにより、フィンアンドチューブ方式の熱交換器と同一原理の構成とすることができる。
【0029】
この場合、各フィン部4…と各チューブ部材5…は熱伝導性素材Rにより形成する。熱伝導性素材Rとしては、アルミニウム素材や銅素材等の一般的な金属素材を用いることができる。また、蓄熱性溶液Lには、水又は不凍液を用いることができる。蓄熱性能を高めるには熱容量を大きくすればよい。熱容量Chは、Ch=m・c(ただし、m:質量,c:比熱)で表されるため、比熱cの大きい溶液を用いる。0〔℃〕における水の比熱cは4.217〔J/g・K〕であるため、蓄熱性溶液Lとして適しているが、氷の比熱cは、2.1〔J/g・K〕(−1〔℃〕)となり半減する。一方、不凍液の比熱cは、水と氷の中間的な大きさとなる。したがって、凍結を防止し、年間を通した安定性を考慮すれば、不凍液が望ましい。不凍液の場合、通常、水で希釈して使用するため、不凍液としての本来の機能が確保され、同時に最も比熱cが大きくなるように希釈することが望ましい。なお、希釈する濃度を変更することにより、蓄熱性能を高めたり変更できるため、必要により、熱容量Chが異なる寒冷地仕様又は非寒冷地仕様として構成してもよい。
【0030】
また、蓄熱部6は各種形態で実施できる。図4に示す空調用蓄熱器1は、蓄熱部6を比較的短い直線タイプとして形成するとともに、この蓄熱部6を複数本(例示は七本)使用し、蓄熱部6…を等間隔に配して構成したものである。一方、図5に示す空調用蓄熱器1は、一本の長いチューブ材を順次湾曲させ、ジグザグタイプに形成することにより単一の蓄熱部6として構成したものである。空調用蓄熱器1における蓄熱部6は、熱交換器のように、内部に熱媒体を流通させる必要がないため、両端を閉塞したチューブ部材5の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、密閉した状態に構成する。したがって、空調用蓄熱器1は、図4に示すように、直線タイプとした複数の蓄熱部6…を組合わせた形態に構成してもよいし、図5に示すように、ジグザグタイプの単一の蓄熱部6を用いた形態に構成してもよいなど、各種形態により実施できる。図1中、7は蓄熱部6の温度(蓄熱温度)Tiを検出する温度センサを示し、この温度センサ7はコントローラ19に接続する。
【0031】
このように、本実施形態に係る空調用蓄熱器1は、通気ダクト3の通気方向Fwに平行に配し、かつ通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配する熱伝導性素材Rにより形成した複数のフィン部4…,及び熱伝導性素材Rにより形成したチューブ部材5…の内部に蓄熱性溶液Lを封入し、かつ各フィン部4…に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部6…を、一体構成してなるため、構造上は、通気路に配設する一般的なフィンアンドチューブ方式の熱交換器と類似構成にできる。したがって、空調用蓄熱器1を通気ダクト3に配設する場合でも、空気Aの流れを阻害する不具合を回避でき、空調された空気Aを適切かつ十分に供給するという空調装置本来の機能を確保できる。
【0032】
しかも、通気路に配設する一般的なフィンアンドチューブ方式の熱交換器と類似構成にできることから、製造に用いる材料には、一般的な金属素材や水等を使用すれば足りる。また、空調機器メーカにとっては、フィンアンドチューブ方式による熱交換器の製造工程を流用できるなど、容易に製造することができる。これにより、材料コスト及び製造コストの双方のコストダウンを実現できる。加えて、蓄熱性溶液Lには、不凍液又は水を用いることができるため、比熱cが4〔J/g・K〕前後となる蓄熱性を有する汎用的な液体(溶液)の使用により、容易かつ低コストに実施できる。
【0033】
次に、本実施形態に係る空調用蓄熱器1の使用方法及びこの空調用蓄熱器1を備える空調装置Mの動作について、図1〜図7を参照して説明する。
【0034】
まず、空調用蓄熱器1は、図1及び図2、図4及び図5に示すように、通気ダクト3の内部に配設する。この場合、フィン部4…が通気ダクト3の通気方向Fwに平行になるように配設する。これにより、各フィン部4…は、通気方向Fwに対して直角方向Fcに並べて配され、必要な通気性が確保される。
【0035】
一方、空調装置Mでは、前述した空調温度Taに対する目標温度Tsが設定されることにより、予め設定された出力条件により分流部Pの分流比率が、設定された分流比率になるように、第一冷凍サイクルCc(冷却側)における第一調整弁43と第二冷凍サイクルCh(加熱側)における第二調整弁46の開度がセットされる。
【0036】
そして、空調装置Mの運転が開始すれば、温度センサ20により吹出口3eから吹き出す空気Aの温度(空調温度)Taが検出され、コントローラ19に付与される。これにより、コントローラ19では、付与された空調温度Taが設定された目標温度Tsとなるように、圧縮機25を含む第一冷凍サイクルCc及び第二冷凍サイクルChに対するフィードバック制御を行う。この際、運転開始後、目標温度Tsに達するまでは、第一調整弁43及び第二調整弁46も制御される。これにより、予め設定されたプログラムに従って分流比率が最適な分流比率になるように設定される。目標温度Tsに達した後は、第一調整弁43及び第二調整弁46は固定されるとともに、第一冷凍サイクルCc及び第二冷凍サイクルChに対しては通常のフィードバック制御が行われる。
【0037】
また、空気制御処理室11uでは、送風ファン13の作動により空気(外気)Aが吸込フィルタ16を通して吸い込まれ、処理ダクト14内を通過する際に冷却器(蒸発器)17により冷却されるとともに、加熱器(凝縮器)18により加熱される。これにより、空気Aに対する温度調整(空調)が行われる。空調された空気Aは送風ファン13を通り、通気ダクト3に至る。そして、空調された空気Aは空調用蓄熱器1を通過し、外部の被空調空間に供給される。
【0038】
初期段階では、空調された空気Aが空調用蓄熱器1を通過する際に、空調用蓄熱器1に対して空気Aの温度が作用し、空調用蓄熱器1に対する蓄熱が行われる。この場合、空調用蓄熱器1に対しては、フィン部4…を介して蓄熱部6…に作用するとともに、蓄熱部6…に対して直接作用する。これにより、蓄熱部6の温度が上昇するため、温度センサ7により検出される蓄熱温度Tiはコントローラ19に付与される。図7に蓄熱温度Tiと空調温度Taを示す。なお、Taoは常温値を示す。図7に示すように、蓄熱温度Tiは、徐々に上昇し、目標温度Tsに達した以降は安定する。
【0039】
したがって、目標温度Tsに達した以降は、例えば、空調用蓄熱器1よりも上流側において、空気Aに温度変動が生じたとしても、空調用蓄熱器1により安定化される。即ち、空気Aが温度変動により若干下降した場合、空調用蓄熱器1を通過する際に、空調用蓄熱器1は、空気Aに対して目標温度Tsまで上昇させる熱交換作用を行うとともに、空気Aが温度変動により若干上昇した場合、空調用蓄熱器1を通過する際に、空調用蓄熱器1は、空気Aを目標温度Tsまで下降させる熱交換作用を行う。このように、蓄熱温度Tiが目標温度Tsに達し、安定した以降は、空調温度Taも目標温度Tsに安定することになり、空調温度Taに対しては、図7に示すように、ほとんど変動することのない精密制御が安定に行われる。
【0040】
なお、図7において、Trは空調用蓄熱器1を使用しない形態(比較例)の空調温度を示している。この場合、空調用蓄熱器1が存在しないことから、初期段階における空調温度Trの立ち上がりは早くなる。しかし、目標温度Tsに達しても、オーバシュートの発生及びフィードバック制御の影響により、しばらくは波打った状態の温度変動が継続し、結果的に空調温度Trが安定するまでに時間がかかる。これに対して、本実施形態に係る空調用蓄熱器1を使用した場合には、初期段階における空調温度Taの立ち上がりは遅くなるが、目標温度Tsに達したts時点以降は安定し、結果的に安定するまでの立ち上げ時間は短くなる。
【0041】
ところで、本実施形態に係る空調装置1(精密温度調整装置)は、精密な温度調整が要求されるため、通常、空調温度Taが安定した以降の空気Aを使用する必要があり、安定するまでは空気Aを使用することができない。したがって、早期に安定化させることは、重要な課題となる。本実施形態に係る空調用蓄熱器1を使用した空調装置1では、空調温度Taが安定するタイミング、即ち、蓄熱温度Tiが設定温度Tsに達するタイミング(時点ts)を容易に知ることができるため、図6に示すように、温度センサ7により検出した蓄熱温度Tiが予め設定した目標温度Tsに達したなら空調された空気Aの使用を開始可能にする開始制御手段8を設けることができる。開始制御手段8としては、視覚的又は聴覚的に報知する報知手段8aや空気Aの供給先を切換える切換手段8bを用いることができる。視覚的な報知手段8aとしては、報知ランプ等を用いることができるとともに、聴覚的な報知手段8aとしては、ブザーやチャイム等を用いることができる。また、切換手段8bには、電動式の方向切換弁70等を利用することができる。
【0042】
これにより、報知手段8aを用いた場合には、温度センサ7により検出した蓄熱温度Tiが図7に示すts時点で目標温度Tsに達すれば、コントローラ19は報知手段8aを作動制御し、報知ランプを点灯させたりチャイムを鳴らすなどにより作業者に報知することができる。作業者は、これに基づいて、空調された空気Aを、使用する被空調空間に供給開始することができる。このように、開始制御手段8に、視覚的又は聴覚的に報知する報知手段8aを用いれば、ユーザは目標温度Tsに達したことを容易かつ確実に知ることができるため、このタイミングにより空調された空気Aの使用を速やかに開始することができる。
【0043】
一方、切換手段8bを用いた場合には、温度センサ7により検出した蓄熱温度Tiが図7に示すts時点に達するまでは、コントローラ19は方向切換弁70を図6に示す分岐ダクト71側に切換え、別の場所に空気Aを逃がすとともに、ts時点に達したならコントローラ19により方向切換弁70を正規に使用する通気ダクト3s側に切換えるように構成すればよい。このように、開始制御手段8に、空気Aの供給先を切換える切換手段8bを用いれば、目標温度Tsに達するまでは、他の場所に空気Aを逃がし、目標温度Tsに達したなら本来の使用する場所に自動で供給できるため、利便性をより高めることができる。
【0044】
よって、このような本実施形態に係る空調装置Mによれば、空調用蓄熱器1と、この空調用蓄熱器1の温度Tiを検出する温度センサ7と、この温度センサ7により検出した温度Tiが予め設定した目標温度Tsに達したなら空調した空気Aの使用を開始可能にする開始制御手段8とを設けてなるため、空調された空気Aは、目標温度Tsに達した時点から速やかに使用できるとともに、使用までの立上げ時間の短縮及び生産性(生産効率)の向上を図ることができる。
【0045】
他方、放熱処理室11dでは、送風ファン29の作動により空気Aが吸込フィルタ22を通して吸い込まれ、放熱ダクト21内に配した熱交換ユニット23を通過することにより熱交換が行われる。具体的には、各フィン27…の面内に混在する第一チューブ構成部28c…により構成される蒸発器26cによる吸熱が行われるとともに、各フィン27…の面内に混在する第二チューブ構成部28h…により構成される凝縮器26hの放熱が行われる。そして、放熱ダクト21内を通過することにより熱交換された空気Aは、吹出口11deから外部に排出される。この際、各第一チューブ構成部28c…と各第二チューブ構成部28h…は、各第一チューブ構成部28c単位及び各第二チューブ構成部28h単位で交互に配されるため、各第一チューブ構成部28c…と各第二チューブ構成部28h…間は、フィン27…自体の熱伝導を直接利用した相互の熱交換が行われる。
【0046】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。例えば、空調装置1は、空調部2により空調した空気Aを吹出口3eまで導く通気ダクト3を備えていればよく、これ以外の構成は任意に実施できる。また、熱伝導性素材Rは、例示に限定されるものではなく、熱伝導性を有する各種素材に適用できるとともに、蓄熱性溶液Lも例示に限定されるものではなく、蓄熱性を有する各種溶液に適用できる。さらに、例示した報知手段8aと切換手段8bは、それぞれ単独で用いてもよいし両方を併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る空調用蓄熱器は、例示の温度調整装置をはじめ、空調部により空調された空気を吹出口まで導く通気ダクトを備える各種空調装置に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1:空調用蓄熱器,2:空調部,3:通気ダクト,3e:吹出口,4…:フィン部,5…:チューブ部材,6…:蓄熱部,7:温度センサ,8:開始制御手段,8a:報知手段,8b:切換手段,A:空気,R:熱伝導性素材,Fw:通気方向,Fc:通気方向に対する直角方向,L:蓄熱性溶液,M:空調装置,Ti:空調用蓄熱器の温度(蓄熱温度),Ts:目標温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調部により空調された空気を吹出口まで導く通気ダクトの内部に配設する空調用蓄熱器であって、前記通気ダクトの通気方向に平行に配し、かつ通気方向に対して直角方向に並べて配する熱伝導性素材により形成した複数のフィン部,及び熱伝導性素材により形成したチューブ部材の内部に蓄熱性溶液を封入し、かつ各フィン部に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部を、一体構成してなることを特徴とする空調用蓄熱器。
【請求項2】
前記蓄熱性溶液には、少なくとも水又は不凍液を含むことを特徴とする請求項1記載の空調用蓄熱器。
【請求項3】
空調部により空調された空気を吹出口まで導く通気ダクトの内部に配設した空調用蓄熱器を備える空調装置であって、前記通気ダクトの通気方向に平行に配し、かつ通気方向に対して直角方向に並べて配する熱伝導性素材により形成した複数のフィン部,及び熱伝導性素材により形成したチューブ部材の内部に蓄熱性溶液を封入し、かつ各フィン部に貫通させることにより外面を固定した一又は二以上の蓄熱部を、一体構成してなる空調用蓄熱器と、この空調用蓄熱器の温度を検出する温度センサと、この温度センサにより検出した温度が予め設定した目標温度に達したなら空調された空気の使用を開始可能にする開始制御手段とを備えることを特徴とする空調装置。
【請求項4】
前記蓄熱性溶液には、少なくとも水又は不凍液を含むことを特徴とする請求項3記載の空調用蓄熱器。
【請求項5】
前記開始制御手段には、視覚的又は聴覚的に報知する報知手段を用いることを特徴とする請求項3又は4記載の空調装置。
【請求項6】
前記開始制御手段には、空気の供給先を切換える切換手段を用いることを特徴とする請求項3,4又は5記載の空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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