突然変異の可能性を判定する方法
本発明は、フィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法を対象とする。本発明の方法は、(i)個体の角質層から振動スペクトル得ること;(ii)振動スペクトルから局所の天然保湿因子の量を判定すること;(iii)任意にステップ(i)および(ii)を繰り返すこと;および(iv)個体の局所の天然保湿因子の量を基準値と比較することを含み、前記角質層は、フィラグリンをコードする遺伝子の前記1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要因によりも天然保湿因子の濃度に対して強い影響力を与える、前記個体の身体部位の角質層である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラグリンをコードする遺伝子において1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
皮膚科の主要な問題にアトピー性皮膚炎(AD:atopic dermatitis)がある。先進国におけるアトピー性皮膚炎の有病率は15%〜20%に及ぶと推定される。[ロール(Roll)ら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー(Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology)、2004年、第4巻(5)、p.373−378]アトピー性皮膚炎は、ヘルスケア全体の大きな負担になっている。
【0003】
皮膚は、真皮および表皮の2層に分けられる。表皮の最外層である角質層は、水分の喪失および有害物質の侵入から体を保護する主要なバリアである。アトピー性皮膚炎は、バリア機能障害が主要事象である可能性が高い。
【0004】
アトピー性皮膚炎は、皮膚の痒み、炎症を特徴とするありふれた慢性炎症性皮膚疾患である。[ロールら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー、2004年、第4巻(5)、p.373−378およびステムラー(Stemmler)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー(Journal of Investigative Dermatology)2007年、第127巻、p.722−724]また、アトピー性皮膚炎の素因がある人は、美容業および料理業などのある種の職業に携われない恐れがあることもよく知られている。
【0005】
現在では、低年齢児のアトピー性皮膚炎の発症素因を早期に検出し、皮膚バリアの標的処置を行えば、その後のアトピー症候群の発症を予防できると考えられている。
【0006】
タンパク質フィラグリンは、皮膚バリアの形成および維持に決定的に重要である。このタンパク質は、ケラチン繊維が安定なマクロ構造をとるのに必須であり、かつ天然保湿因子(NMF:natural moisturising factor)の産生のためのアミノ酸を与える。
【0007】
アトピー性皮膚炎には、フィラグリンをコードする遺伝子における機能喪失型突然変異が関係していると考えられてきた。[ロールら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー、2004年、第4巻(5)、p.373−378;ステムラーら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2007年、第127巻、p.722−724;サンディランズ(Sandilands)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775;サンディランズら著、ネイチャージェネティクス(Nature Genetics)、2006年、第38巻、p.337−342;およびスミス(Smith)ら著、ネイチャージェネティクス、2007年、第39巻、p.650−654]フィラグリンの産生能が部分的または完全に喪失すると、バリア機能障害が起こる。そのため、体はアレルゲン曝露を受けやすくなり、結果としてアトピー性皮膚炎が起こる恐れがある。フィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異は、先進国の主要問題であると同時に深刻化する問題であるアトピー性皮膚炎および喘息の強い素因である。[サンディランズら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775;サンディランズら著、ネイチャージェネティクス、2006年、第38巻、p.337−342;スミスら著、ネイチャージェネティクス、2007年、第39巻、p.650−654;およびアービン(Irvine)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1200−1202]ただし、フィラグリン遺伝子おける機能喪失型突然変異とアトピー性皮膚炎とに相関関係はあるものの、直接的な関係は認められない。遺伝子突然変異を持たない人がアトピー性皮膚炎を発症する場合もあり、遺伝子突然変異を持つ人が必ずしもアトピー性皮膚炎であるとは限らない。
【0008】
欧州系の人は約10%がフィラグリン遺伝子の突然変異を持っている。[サンディランズら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775]フィラグリン遺伝子のホモ接合型変異は、フィラグリンの産生能の完全な喪失を示す。
【0009】
フィラグリン遺伝子の突然変異を判定する既知の方法は、特殊な遺伝子型判定法を用いる。たとえば、米国特許出願公開第2003/0124553号を参照されたい。フィラグリンをコードする遺伝子に特異的な突然変異を検出するには、特定の生化学的分析が必要である。遺伝子型判定法では、複数サイクルのPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)増幅およびシーケンシングを行い、フィラグリンをコードするDNAを単離し、増幅する必要がある。次いで特定の遺伝子型判定アッセイにより各フィラグリン突然変異を解析する。こうしたアッセイの大部分は市販されておらず、フィラグリン遺伝子突然変異を研究している研究機関の中には、独自にアッセイを開発してきたところもある。サンディランズら著、ネイチャージェネティクス、2006年、第38巻、p.337−342にはフィラグリン突然変異の15種の変異体の解析が記載されている。こうした遺伝子型判定方法は費用と時間がかかるうえ、非常に特殊な研究施設および人員を必要とする。遺伝子型判定方法は、集団スクリーニングの目的には不適である。
【0010】
したがって、フィラグリン遺伝子に機能喪失型突然変異が存在する可能性を集団スクリーニングする短時間で簡便な方法が求められている。
【0011】
さらに、疾患を正しく診断し、適切な処置を選択するため、アトピー性皮膚炎患者にフィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異が存在するかどうかを判定する短時間で簡便な方法も求められている。
【0012】
インビボでの角質層のラマン分光測定によって、その主な供給源がタンパク質フィラグリンであり天然保湿因子(NMF)と総称される、アミノ酸とアミノ酸誘導体との複合体の相対濃度を判定することができる。フィラグリンは角質層の底部の狭い領域に存在し、そこで酵素分解されNMFになる。[スコット(Scott)ら著、バイオケミカエトバイオフィジカアクタ(Biochimica et Biophysica Acta)、1982年、第719巻(1)、p.110−117およびローリングス(Rawlings)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1994年、第103巻、p.731−741]このため、フィラグリンをコードする遺伝子における機能喪失型突然変異は、皮膚内のNMF量に関与している。しかしながら、皮膚内のNMF量は他の多くの要因によって決まるものであり、機能喪失型遺伝子突然変異よりもはるかに大きな影響を与えるものもある。
【0013】
したがって、フィラグリン遺伝子に機能喪失型突然変異があると、皮膚内のNMF量が減少する場合があるけれども、その逆はまず起こらない。一方、NMF量が異常に少なくても遺伝子突然変異が原因とは限らない。遺伝子転写およびプロフィラグリン産生のプロセス、フィラグリンへの酵素的プロセシング、およびその後のフィラグリンからNMFへの酵素/タンパク質分解は多くの要因の影響を受けるためである。とりわけ、このことが原因で、同じ機能的プロフィラグリン遺伝子が至るところに存在するにもかかわらず、NMF量は身体の部位によって大きく異なる。さらに、NMF量は年齢、入浴、石鹸による洗浄および環境などの要因にも影響される。これは、たとえば、フィラグリン(本質的にフィラグリン遺伝子がコードするタンパク質であるプロフィラグリンの酵素的プロセシングの産物)の酵素およびタンパク質分解によるNMF生成のプロセスについて記載しているローリングスら[ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1994年、第103巻、p.731−741]により説明されている。ローリングスらは、病状とNMFの欠損との相関関係、およびNMFの産生能の欠如が、単純な乾燥症から重度の乾癬に至る皮膚の病に関与する重要なメカニズムである可能性があることを記載している。また、ローリングスらは、洗浄により表面の角質層からNMFの大部分が流れ出ることについても言及している。さらに、合成活性の低下に起因して、角質層のNMF量が加齢に伴い2分の1以上と大きく減少することも指摘している。加えて、フィラグリンからNMFへの変換は水分活性に左右され、角質層が、曝される環境条件に合わせてこのプロセスを調整していることも述べている。NMF量は、臨床的に正常な皮膚を持つ個体間で大きく異なることが明らかになっている。身体の部位との関連で変化するのと同様に、年齢および季節的要因に応じて変化することも明らかにされている。[ファンデルポール(Van der Pol)ら著、アブストラクトIFSCCミーティング(Abstract IFSCC meeting)、アムステルダム、オランダ、2007年9月24〜27日およびファンデルポールら著、アブストラクトISBSナショナルミーティング(Abstract ISBS National meeting)、ストーンマウンテン(Stone Mountain)GA、米国、2006年10月12〜14日]。
【0014】
また、アトピー性皮膚炎の観点から記載されてきた異常な落屑などの作用が、皮膚内のNMF量にどの程度影響を与えるかは不明である。
【0015】
皮膚状態の処置の有効性の臨床徴候が観察できるようになるには、処置の開始からしばらく経ってからであることも珍しくない。たとえば、ラプティバ(Raptiva)(登録商標)(エファリズマブ、メルクセローノインターナショナル(Merck Serono International)S.A.、ジュネーブ、スイス)を用いた乾癬処置のオランダのガイドラインによれば、処置を12週間継続してから処置の継続または中止を臨床医が決定する。一方で、臨床的改善は、根底にある分子的変化に遅行する。このため、NMF量の変化などの分子的変化をモニターする方法を用いれば、従来の臨床評価よりもかなり速く皮膚処置の有効性を判定できると考えられる。
【0016】
本発明は、被検体、特にヒト被験者においてフィラグリン遺伝子の1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を迅速かつ非侵襲的に測定する方法および器具を提供することを目的とする。
【0017】
本発明はさらに、フィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異とを識別する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はさらに、局部塗布した生成物の浸透性および/または作用の判定に関する試験に好適な個体の集団を構成するための迅速かつ客観的な方法を提供すること、すなわち、各個体を試験群に含めるか、除外するかの客観的な指標を提供することを目的とする。
【0019】
本発明はさらに、職業性の皮膚病を発症するリスクが高いため、ある種の職業または活動に個体が不適であるか、あるいは少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0020】
本発明はさらに、フィラグリン遺伝子における1つまたは複数の機能喪失型突然変異に関連する皮膚状態の素因を低年齢児が持つかどうかを判定し、それにより予防処置による介入を早期実施できるようにし、および/または追加の診断検査を患者に指示するための集団スクリーニングを容易にする客観的方法を提供することを目的とする。
【0021】
本発明はさらに、アトピー性皮膚炎に罹患している個体がフィラグリンの欠損が原因で皮膚バリアに障害があるかどうかを判定し、それに合わせて療法を調整する客観的方法を提供することを目的とする。
【0022】
本発明はさらに、アトピー性皮膚炎の治療処置の有効性を判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0023】
本発明はさらに、改善の臨床徴候が認められる前にアトピー性皮膚炎の治療処置の有効性を判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0024】
本発明はさらに、皮膚疾患の療法または処置の結果を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0025】
本発明はさらに、パーソナルケア製品による皮膚処置の作用を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0026】
本発明はさらに、皮膚疾患の適切な処置または療法を選択する指針となる迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0027】
本発明はさらに、皮膚ケア用のパーソナルケア製品の選択の指針となる迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0028】
本発明はさらに、ある種の環境条件、化学製品およびその他の事項に対する皮膚曝露の影響を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の態様では、本発明は、個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法であって、
(i)個体の角質層から振動スペクトルを得ること;
(ii)得られた振動スペクトルから局所の天然保湿因子の量を判定すること;
(iii)任意にステップ(i)および(ii)を繰り返すこと;および
(iv)個体の局所の天然保湿因子の量を基準値と比較すること
を含み、前記角質層は、フィラグリンをコードする遺伝子の前記1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要素よりも天然保湿因子の濃度に強い影響を与える、前記個体の身体部位の角質層である、測定法を対象とする。
【0030】
さらに、本発明は、個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異を区別する方法であって、天然保湿因子の量に応じて機能喪失型突然変異を分類することを含む、方法を対象とする。
【0031】
さらに、本発明は、皮膚疾患の処置を受けている個体の療法または処置が所望の効果を上げる可能性があるかどうかを予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法により前記皮膚疾患の処置を受けている一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 一群の個体の角質層における天然保湿因子の量と処置の効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係により前記個体の前記療法または処置が有効であるかどうかを予測すること
を含む、方法を対象とする。
【0032】
本発明はさらに、個体による皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法により前記皮膚のパーソナルケア製品を使用している一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記個体による前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測すること
を含む、方法も対象とする。
【0033】
さらに、本発明は、環境条件、化学製品または他の事項に対する個体の曝露の影響を予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法を用いて、前記環境条件、化学製品または他の事項に曝露される一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 一群の個体の角質層における天然保湿因子の量と曝露の影響との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記環境条件、化学製品または他の事項に対する前記個体の曝露の影響を予測すること
を含む、方法を対象とする。
【0034】
さらに、本発明は、アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、フィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異がその個体に存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】フィラグリン突然変異を持たない個体の腕の角質層のラマンスペクトルである。黒の領域(番号1および2)はNMFのラマンバンドを示す。灰色の部分(番号3)は角質層組織のラマンバンドを示す。
【図2】フィラグリン突然変異を持つ個体の腕の角質層のラマンスペクトルである。黒の領域(番号1および2)はNMFのラマンバンドを示す。灰色の部分(番号3)は、角質層組織のラマンバンドを示す。
【図3】振動シグナルからNMF量を判定する一方法を図示する、角質層のラマンスペクトルである。
【図4】天然保湿因子のラマンスペクトルである。
【図5】ヒト皮膚のラマンスペクトルである。
【図6】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の天然保湿因子の皮膚の深さプロファイルである
【図7】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の天然保湿因子の皮膚の深さプロファイルである。
【図8】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の腕における天然保湿因子の相対量を示す。破線はNMF量の中央値を示す。
【図9】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の腕における天然保湿因子の相対量を示す。破線は、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の腕におけるNMF量の中央値を示す。
【図10】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の母指球における天然保湿因子の相対量を示す。破線はNMF量の中央値を示す。
【図11】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の母指球における天然保湿因子の相対量を示す。破線は、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の母指球におけるNMF量の中央値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
「振動分光」という語は、本明細書で使用する場合、分子の振動モードおよび/または回転モードの解析が可能な任意の分光学的手法と定義する。
【0037】
「ラマン分光」という語は、本明細書で使用する場合、ある系において振動モードおよび/または回転モードの調査に用いる分光学的手法と定義し、通常、可視、近赤外または近紫外領域のレーザーからの単色光の非弾性散乱(ラマン散乱とも呼ばれる)を利用する。入射レーザー光は系の振動エネルギーおよび/または回転エネルギーの量を増減させ、その結果、レーザーの光子エネルギーが変化する場合がある。このレーザーの光子エネルギーの変化によりスペクトルシフトが起こり、系の振動モードおよび/または回転モードに関する情報が得られる。一般に、レーザービームをサンプルに照射する。照射スポットからの光はレンズで集光され、スペクトロメーターを通して送られる。(弾性レイリー散乱による)レーザー線に近い波長は除外され、レーザー線から離れた一定のスペクトル窓の波長が検出器に分散される。
【0038】
ラマンスペクトルは、入射光に照射されたときに目的分子から放射される、非常に狭い一連のスペクトル線である。各スペクトル線の幅は入射光のスペクトル幅に強く影響されるため、レーザーなどの単色性に優れた光源を使用する。各ラマン線の波長は、ラマン線と入射光との波数の差である、入射光に対する波数シフトで表す。絶対波数でないラマン線の波数シフトは、分子内の特定の原子団に特有である。ラマンスペクトルは、分子構造により、特にメチレン、エチレン、アミド、ホスファートまたはスルフィドなどの原子団により決定されるその分子の振動モードおよび/または回転モードを測定する。
【0039】
生物学におけるラマン分光は、巨大分子または関連する小分子の振動モードおよび/または回転モードの変化に関係して使用されるのが大部分である。原子団における1本のラマン線の波数シフトの変化あるいは2本以上のラマン線の相対強度の変化は、巨大分子における立体構造変化を示すと解釈されている。このため、ラマン分光は主に、生物学において分子および分子動力学の定性試験に使用されている。ラマンスペクトルを容易かつ明確に解釈するため、この手法の使用は主として精製材料およびその酵素反応などの系に限定されてきた。しかしながら、ラマンスペクトルは原子団に特有の振動および/または回転に基礎を置いているため、フィンガープリンティングと同様の方法により分子の混合物を原子団の組成物として特徴付けを行い、定量するために使用することもできる。ラマンスペクトルはサンプルの組成を化学物質のリストとして完全に決定することはできないが、一方で、最も多く含まれる分子種であれば、自然環境における分子組成および経時的変化の概略を与える。
【0040】
「局所の天然保湿因子の量」という語は、本明細書で使用する場合、前腕の手のひら側または母指球(手のひら)など、身体の所定の部位における角質層内、および皮膚表面下の所定距離の角質層内のNMF量またはNMF濃度と定義する。
【0041】
本発明は、多くの要因が皮膚の角質層(corneum stratum)内のNMF量のNMF濃度に影響を与えており、したがって、NMF量に対する機能喪失型遺伝子突然変異の作用は顕在化しないものの、プロフィラグリン(profillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異以外の要因およびプロセスによりNMF濃度が比較的影響を受けない部位が個体の身体に存在するとの知見に基づく。この知見によれば、好適な測定手法を選択すれば、個体がフィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異を持っていることにより、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎などに対するリスクが高いという信頼できる診断が得られる。フィラグリン産生に障害があると、個体の角質層内のNMFが正常濃度よりも低くなることが明らかになっているが、これを振動分光により検出することができる。これまでに遺伝子突然変異の存在を判定する方法としてNMF濃度を用いることは示唆されたことがなかったが、驚くべきことにこれが可能になりそうである。
【0042】
フィラグリン遺伝子における1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、NMF濃度に影響を与える他の要因よりもNMF濃度に対して強い影響を及ぼす個体の身体部位は、以下のように発見することができる。
【0043】
試験用身体部位の選択後、フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の1例または複数例の個体の試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得て、振動スペクトルの解析により試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定する。さらに、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の1例または複数例の個体の試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得る。やはり、振動スペクトルの解析により試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定する。最後に、フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の個体における試験用身体部位の角質層内の天然保湿因子の量が、フィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の個体よりも少ないかどうかを評価して、試験用身体部位のフィラグリンをコードする遺伝子の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要因よりも天然保湿因子の濃度に対して強い影響を及ぼすかどうかを判定する。フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の個体およびフィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の個体はそれぞれ、好ましくは少なくとも6例の個体、一層好ましくは少なくとも12例の個体を含む。
【0044】
本発明の方法を用いれば、角質層内の検出可能なNMF量がある程度少ない可能性がある、フィラグリン突然変異のヘテロ接合キャリアと、角質層内の検出可能なNMFがほぼ完全に存在しない可能性がある、フィラグリン突然変異のホモ接合キャリアとを区別できる。
【0045】
本発明の方法によれば、個体の角質層の振動スペクトルまたはその選択部分を測定する。振動スペクトルは、任意の振動分光手法を用いて測定することができる。好ましい分光法はラマン分光法である。他の分光法として、たとえば、ボーマナン(Bommannan)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1990年、第95巻(4)、p.403−408に記載されているような近赤外分光法、フーリエ変換赤外(FT−IR:Fourier transform infrared)分光法または減衰全反射(ATR:attenuated total reflection)赤外分光法などの赤外分光法が挙げられる。
【0046】
振動スペクトルは、サンプルの分子組成を表す。以下のやり方のいずれかで振動スペクトルから角質層内のNMF量を測定することができる。
【0047】
一実施形態では、内部基準の振動シグナルの強度に対するNMFの振動シグナルの強度としてNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンのシグナルである。したがって、NMFのシグナル強度とケラチンのシグナル強度との比としてNMF量を測定してもよい。ただし、NMFを共に構成する分子化合物群に属さない、皮膚に共通の他の成分を好適な内部基準として用いても構わない。たとえば、そうした内部基準は、NMFを共に構成する分子化合物の全部または大部分を除去した後の角質層組織のサンプルの振動シグナルであってもよい。角質層のサンプルからNMFを抽出する方法は、キャスパース(Caspers)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442に記載されている。この論文では、NMF量の個体間のばらつきを検出する可能性のほか、ラマン分光を用いて追加の特定を行わない、疾患のプロセスおよび処置に起因する皮膚内の分子の濃度差の研究が示唆されている。
【0048】
シグナル強度は、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、および内部基準シグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅における振動シグナルから好適に判定することができる。次いで、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅の曲線下面積A1からNMFのシグナル強度を判定すればよい(図1および図2の番号1および2の領域を参照されたい)。基準シグナル強度については、内部基準からのシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅の曲線下面積A2から判定すればよい(図1および図2の番号3の領域を参照されたい)。したがって、NMF量(R)の有用な指標は、R=A1/A2の比から得ることができる。
【0049】
別の実施形態では、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、内部基準シグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、およびほとんどあるいはまったくラマンシグナルが予測されないため、バックグラウンドのシグナル強度の推定に役立つ場合がある1つまたは(ore)複数のスペクトル間隔からシグナル強度を測定する。次いで図3に示すように、NMFシグナルが有力な曲線下面積A3および内部基準シグナルの曲線下面積A4からNMF量を判定することができる。曲線下面積については、以下の式に従って様々な波長幅で測定したシグナル強度から判定することができる。式中、Inはスペクトル間隔nから測定したシグナル強度、Anはスペクトル間隔nの曲線下面積、xnはスペクトル間隔nの中心波数、ynはスペクトル間隔nの平均シグナル強度、およびdnはスペクトル間隔nの幅である(図3を参照)。NMFの曲線下面積A3は、以下を用いて判定することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
内部基準シグナルの曲線下面積A4は以下を用いて判定することができる。
【0052】
【数2】
【0053】
ここで、以下の曲線下面積A3とA4との比からNMF量の指標を得ることができる。
CNMF=A3/A4
【0054】
当業者であれば、他のシグナル強度比を用いてもNMF量の推定値が得られることを理解するであろう。本発明の方法の場合、NMF量測定の指標がNMF量と比例関係にあることは重要ではない。たとえば、指標はNMF量と単調関係にあれば十分である。
【0055】
好ましい実施形態では、内部基準の振動シグナルの強度に対するNMFの振動シグナルの強度からNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンである。
【0056】
好ましい実施形態では、スペクトルフィッティングによりNMF量を判定する。皮膚の振動スペクトルまたは皮膚の振動スペクトルの大部分を含む一連の基準振動スペクトルから、皮膚の振動スペクトルに対する各基準スペクトルの寄与を判定する。相対的寄与は、基準スペクトルまたは基準スペクトルの選択したスペクトル領域を皮膚の振動スペクトルまたは皮膚の振動スペクトルの選択したスペクトル領域にフィッティングさせれば判定することができる。フィッティング係数は、各基準スペクトルの相対的寄与である。[キャスパースら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442]好ましくは、基準スペクトルの1つは、NMFのスペクトルである。あるいは、1個または複数個の基準スペクトルは、NMFの成分のスペクトルである。基準スペクトルのセットをインビトロで純粋な皮膚成分、純粋な皮膚成分の溶液および/または純粋な皮膚成分の集合体から集めてもよい。基準スペクトルに用いてもよい特に好ましい皮膚成分は、ケラチンである。
【0057】
別の実施形態では、NMFの振動スペクトルまたはNMFの成分のスペクトルにおける1つまたは複数のピークの強度、および内部基準のスペクトルにおける1つまたは複数のピークの強度を算出してNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンである。ただし、NMFを共に構成する分子化合物群に属さない、角質層に共通の他の成分を好適な内部基準として用いても構わない。
【0058】
振動スペクトル、具体的にはラマンスペクトルは、振動スペクトルから角質層内のNMF量を算出するようにプログラムされたパーソナルコンピューターを用いてリアルタイムで自動解析することができる。これを用いれば、解析結果をすぐに利用できる。別の実施形態では、振動スペクトルを保管して後で解析する。
【0059】
好ましくは、インビボで皮膚の振動スペクトルを直接記録してNMF量を判定する。ただし、エキソビボで個体から採取した角質層サンプルの振動スペクトルを記録してNMF量を判定してもよい。
【0060】
本発明の特別な実施形態では、皮膚の表面までの距離に応じて振動スペクトルを測定することで局所のNMF量を判定する。こうすれば、いわゆるNMFの深さプロファイルが得られる。
【0061】
別の実施形態では、所定の身体部位の皮膚表面から最適な一定距離離れたところ、好ましくは角質層の中心部の振動スペクトルを測定して皮膚内のNMF量を判定する。母指球の角質層の振動スペクトルは、皮膚表面下1〜70μm、好ましくは皮膚表面下2〜50μm、一層好ましくは皮膚表面下3〜30μmのところで測定してもよい。たとえば、前腕の手のひら側の角質層の振動スペクトルは、皮膚表面下1〜10μm、好ましくは皮膚表面下2〜8μm、一層好ましくは皮膚表面下3〜6μmで測定してもよい。
【0062】
別の実施形態では、角質層の全層または特定の深さ距離における平均NMF量として角質層内のNMF量全体を判定する。NMF量は、皮膚表面下のいくつもの距離で、たとえば、皮膚下の3つの距離で測定してもよい。母指球について測定する場合、好ましくは皮膚表面下約30、40および50μmでNMF量を測定する。前腕内側について測定する場合、好ましくは皮膚表面下約4、6および8μmでNMF量を測定する。その後、様々な深さで測定したNMF量を平均すればNMF量の単一値を得ることができる。
【0063】
別の実施形態では、角質層の全層または層の一部における平均NMF量として角質層内のNMF量全体を測定する。ラマン機器は、角質層の全層または層の一部として大きさ、軸方向寸法ごとに同じ深さ分解能を持つことができる。振動スペクトルは、所定の身体部位の皮膚表面から最適な一定距離離れたところ、好ましくは角質層(stratum)の中心部から測定することができる。このため、角質層の全層または層の一部の振動スペクトルは、1回の測定で測定することができる。
【0064】
別の実施形態では、本方法を用いて、異常なNMF量と関連する皮膚状態、たとえば、アトピー性皮膚炎の処置を受けている患者の角質層内のNMF量における変化または変化のないことをモニターする。こうした実施形態では、本方法は、処置の有効性に直接関係する臨床情報を提供する。
【0065】
個体の角質層からは1個または複数個の振動スペクトルを測定することができる。複数個のスペクトル、たとえば、少なくとも2個のスペクトル、好ましくは少なくとも5個のスペクトル、一層好ましくは少なくとも10個のスペクトルを測定することが好ましい。NMF量の生物学的な横方向の変化を平均するため、若干異なる部位でNMF量の測定を数回(2〜10回など)繰り返してもよい。若干異なる部位は、たとえば、0.05〜1mm、好ましくは0.1〜0.75mm、一層好ましくは0.2〜0.5mmにわたって平行移動させてもよい。
【0066】
特に好ましい実施形態では、個体の母指球の振動スペクトルを記録する。振動スペクトルを得るのに好ましい別の部位としては、個体の前腕の手のひら側がある。ただし、原則として、個体の体表であれば他のどのような部分の振動スペクトルを記録してもよい。
【0067】
好ましくは、振動スペクトルはラマン分光により測定する。特別な実施形態では、キャスパースらが記載したようなインビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーターを用いて振動スペクトルを記録してもよい。[キャスパースら著、バイオスペクトロスコピー(Biospectroscopy)、1998年、第4巻、p.31−39およびキャスパースら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442]インビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーターの別の例として、モデル3510皮膚組成物アナライザー(Skin Composition Analyzer)(リバーダイアグノスティックス(River Diagnostics)、ロッテルダム、オランダ)がある。しかしながら、本発明の方法を実施するには、単純なラマンスペクトロメーターも好適である。
【0068】
単純かつ安価な実施形態では、皮膚表面から一定の距離のところにレーザー光を集光させる。厚さが100μm程度の比較的厚い母指球の角質層の場合、この一定距離は、皮膚表面下1〜70μm、好ましくは2〜50μm、一層好ましくは3〜30μmであってもよい。前腕の手のひら側など12〜25μmの比較的薄いの角質層の場合、一定距離は、1〜10μm、好ましくは2〜8μm、一層好ましくは3〜6μmであってもよい。この距離であれば、モデル3510皮膚組成物アナライザー(リバーダイアグノスティックス)などの市販されている共焦点システムの一部である正確なダイナミックフォーカス装置は必要ない。こうした正確なダイナミックフォーカス装置を用いると、本発明による方法を実施するための機器費用が必要以上にかさむことになる。
【0069】
ラマンスペクトロメーターは高い空間分解能を備えている必要はない。実際のところ、中程度または低い空間分解能でも、1回の測定で、たとえば、角質層の比較的大きな部分1個からシグナルを集められるため有用である場合がある。したがって、光の照射および検出の経路には、比較的簡便で割安な光学的要素を用いてもよい。
【0070】
さらに、スペクトル分解能が低くてもラマンスペクトルの複数の選択部分を検出し、正常なNMF量と異常なNMF量を識別するのに十分な情報を与えるラマンスペクトロメーターを用いて構わない。NMFのシグナルの関与は主に3つのスペクトル窓800〜900cm−1、1280〜1480cm−1および1640〜1660cm−1で起こる。図4を参照されたい。好ましい実施形態では、前述のスペクトル領域の1つまたは複数からNMFのラマンシグナルを記録し、重複しないあるいは部分的に重複するスペクトル領域から内部標準のラマンスペクトルを記録する。図5を参照されたい。
【0071】
市販されているラマン皮膚アナライザーを用いても構わない。たとえば、モデル3510皮膚組成物アナライザー(リバーダイアグノスティックス)を用いてもよい。このシステムは、皮膚の分子組成を迅速かつ非侵襲的に解析できるように設計されている。この装置を用いれば、皮膚表面下の一定範囲の深さで皮膚のラマンスペクトルを測定することができ、したがって、皮膚表面までの距離に応じて皮膚内の分子濃度または量の定量的および半定量的解析が可能になる。
【0072】
本発明の方法により、個々の個体がある種の職業(美容師またはコックなど)または活動に不適であるか、または少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定することができる。
【0073】
さらに、本発明の方法により、天然保湿因子の量に応じて機能喪失型突然変異を分類することで、個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異とを区別することもできる。角質層内の検出可能なNMF量がある程度少なければ、フィラグリン突然変異のヘテロ接合キャリアであることが示唆されるのに対し、角質層内に検出可能なNMFがほぼ完全に存在しなければ、フィラグリン突然変異のホモ接合キャリアであることが示唆される。
【0074】
別の実施形態では、本方法を用いて、皮膚疾患の処置を受ける患者に対してある種の療法または処置が所望の効果を上げられるかどうかを予測する。皮膚疾患はADもしくは乾癬または別の皮膚疾患であってもよい。この実施形態では、処置の結果が角質層内のNMFの相対量と相関しており、角質層内のNMFの相対量を処置または療法の作用の予測マーカーとして用いる。
【0075】
この実施形態では、第1のステップにおいて、処置を受ける何人かの患者の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、処置を受ける患者の角質層内のNMF量と処置の作用との相関関係を判定する。
【0076】
第2のステップでは、患者の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、患者の処置が成功する可能性を予測する。
【0077】
任意の第3のステップでは、利用できる可能性があるいくつかの処置または療法の予測結果を比較することで、第1および第2のステップで可能な処置および療法の評価をある種の療法または処置の選択を導く手段として用いる。
【0078】
別の実施形態では、本方法を用いてある種のパーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果を予測する。この実施形態では、パーソナル(皮膚)ケア製品の使用の結果が角質層内のNMF相対量と相関しており、角質層内のNMF相対量をパーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果の予測マーカーとして用いる。
【0079】
この実施形態では、第1のステップにおいて、パーソナル(皮膚)ケア製品を使用する何人かの被検体の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、製品使用前の角質層内のNMF量と前記パーソナル(皮膚)ケア製品による効果との相関関係を判定する。
【0080】
第2のステップでは、被検体の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、パーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果を予測する。
【0081】
任意の第3のステップでは、いくつかのパーソナルケア製品の予測結果と比較することで、第1および第2のステップで可能な処置および療法の評価をある種のパーソナルケア製品の選択を導く手段として用いる。
【0082】
別の実施形態では、本方法を用いてある種の環境条件、化学製品または他の事項に対する人の曝露の影響を予測する。この実施形態では、そうした曝露の結果が角質層内のNMF相対量と相関しており、角質層内のNMF相対量を曝露の影響の予測マーカーとして用いる。
【0083】
この実施形態では、第1のステップにおいて、ある種の環境条件(単数または複数)、化学製品または他の事項に曝露される何人かの被検体の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、曝露前の角質層内のNMF量と曝露の影響との相関関係を判定する。
【0084】
第2のステップでは、被検体の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、ある種の環境条件(単数または複数)、化学製品または他の事項に対する曝露の影響を予測する。
【0085】
任意の第3のステップでは、特定の種類の曝露の回避など、曝露に関する助言を与える手段として第1および第2のステップで可能な曝露の評価を用いる。
【0086】
さらなる態様では、本発明は、アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、その個体に、上記のようなフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法を対象とする。療法については、たとえば、より明確に皮膚バリア障害を標的にすることで調整してもよく、抗ヒスタミン剤の経口投与、エモリエントの局部投与、ドキセピンの局部投与、コルチコステロイドの局部投与、ヒドロコルチゾンの局部投与、免疫調節剤および/または紫外線療法薬の局部投与を含んでもよい。
【0087】
本発明の方法は、魅力的で比較的安価なスクリーニング方法である。このスクリーニングの結果に基づき、追加の(より高価な)スクリーニングまたは診断が必要かどうかを判定することができる。
【実施例】
【0088】
フィラグリン遺伝子に既知の機能喪失型突然変異を持たない個体7例、およびフィラグリン(fillagrin)遺伝子に既知の機能喪失型突然変異R501Xあるいは2282del4のどちらかを持つ個体6例からなる一連の個体について測定を行った。
【0089】
ラマン測定では、インビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーター、モデル3510皮膚組成物アナライザーを用いた。各個体に、測定ステージに設置した溶融石英ウインドウに目的の皮膚部分を置いてもらった。ウインドウの下にある顕微鏡対物レンズでレーザー光を皮膚に集光した。皮膚表面までのレーザーの焦点距離を機器制御ソフトウェア(RiverICon、リバーダイアグノスティックス)で調節した。開始ポイントと終了ポイントを決めてステップサイズが大きくなるように設定してから、ソフトウェアにより、皮膚表面まで一定範囲の距離の皮膚内で記録した一連のラマンスペクトルからなる深さプロファイルを自動記録した。
【0090】
個体の前腕の手のひら側および母指球についてラマン測定を行った。785nmのレーザー光を皮膚に集光し、本明細書で「フィンガープリント領域」と定義する400〜1800cm−1のスペクトル領域でラマンスペクトルを記録した。腕で記録した深さの範囲は0〜20μm、ステップを4μmとした。母指球で記録した深さの範囲は30〜50μm、ステップを10μmとした。腕および母指球での測定を個体ごとに10回繰り返し、その間、正確な測定部位を50〜500μm程度平行移動させて若干変えた。
【0091】
モデル3510皮膚組成物アナライザーの内部較正標準および機器制御ソフトウェアRiverICon(リバーダイアグノスティックス)により、スペクトルの波数軸のキャリブレーションを行った。また、このソフトウェアは、機器の波数依存性シグナルの検出効率の補正にも使用した。
【0092】
皮膚解析ソフトウェアスキンツールズ(SkinTools)2.0(リバーダイアグノスティックス)を用いて、フィンガープリント領域で測定した各ラマンスペクトルからNMF量を判定した。このソフトウェアによる解析方法は、キャスパースらによりジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442に記載されている。この解析方法には古典的な最小二乗フィッティングステップが含まれており、主な皮膚成分の基準スペクトル1セットをそれぞれ腕または手掌のラマンスペクトルにフィッティングさせる。フィッティング係数は、角質層内の乾燥質量分率が圧倒的であるケラチンのスペクトルのフィッティング係数で割った商である。この正規化ステップにより、レーザーの焦点位置から皮膚表面までの距離と共に減少する絶対ラマン強度のばらつきを補正する。解析方法の結果はNMFの相対量の指標であり、NMFとケラチンとの比として任意単位で表す。
【0093】
皮膚表面下30〜50μmから測定したNMF相対量の数値平均を算出して、個体ごとに母指球の角質層内の平均NMF量を判定した。
【0094】
皮膚表面下4μmで測定したNMF相対量から、個体ごとに腕の角質層内の平均NMF量を判定した。
【0095】
フィラグリン突然変異を持つ個体の腕および母指球で認められたNMF量は、フィラグリン突然変異を持たない対照群の腕および母指球よりも著しく少ないことが明らかになった。これを図6〜図11に示す。
【0096】
NMF量には生物学的に大きなばらつきがあることが報告されてきたが、実施例に示すように、本発明を用いれば測定プロトコルを設計できるため、ある種の皮膚状態になりやすい、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持っている可能性がある個体を確実に特定することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラグリンをコードする遺伝子において1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
皮膚科の主要な問題にアトピー性皮膚炎(AD:atopic dermatitis)がある。先進国におけるアトピー性皮膚炎の有病率は15%〜20%に及ぶと推定される。[ロール(Roll)ら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー(Current Opinion in Allergy and Clinical Immunology)、2004年、第4巻(5)、p.373−378]アトピー性皮膚炎は、ヘルスケア全体の大きな負担になっている。
【0003】
皮膚は、真皮および表皮の2層に分けられる。表皮の最外層である角質層は、水分の喪失および有害物質の侵入から体を保護する主要なバリアである。アトピー性皮膚炎は、バリア機能障害が主要事象である可能性が高い。
【0004】
アトピー性皮膚炎は、皮膚の痒み、炎症を特徴とするありふれた慢性炎症性皮膚疾患である。[ロールら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー、2004年、第4巻(5)、p.373−378およびステムラー(Stemmler)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー(Journal of Investigative Dermatology)2007年、第127巻、p.722−724]また、アトピー性皮膚炎の素因がある人は、美容業および料理業などのある種の職業に携われない恐れがあることもよく知られている。
【0005】
現在では、低年齢児のアトピー性皮膚炎の発症素因を早期に検出し、皮膚バリアの標的処置を行えば、その後のアトピー症候群の発症を予防できると考えられている。
【0006】
タンパク質フィラグリンは、皮膚バリアの形成および維持に決定的に重要である。このタンパク質は、ケラチン繊維が安定なマクロ構造をとるのに必須であり、かつ天然保湿因子(NMF:natural moisturising factor)の産生のためのアミノ酸を与える。
【0007】
アトピー性皮膚炎には、フィラグリンをコードする遺伝子における機能喪失型突然変異が関係していると考えられてきた。[ロールら著、カレントオピニオンインアレルギーアンドクリニカルイムノロジー、2004年、第4巻(5)、p.373−378;ステムラーら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2007年、第127巻、p.722−724;サンディランズ(Sandilands)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775;サンディランズら著、ネイチャージェネティクス(Nature Genetics)、2006年、第38巻、p.337−342;およびスミス(Smith)ら著、ネイチャージェネティクス、2007年、第39巻、p.650−654]フィラグリンの産生能が部分的または完全に喪失すると、バリア機能障害が起こる。そのため、体はアレルゲン曝露を受けやすくなり、結果としてアトピー性皮膚炎が起こる恐れがある。フィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異は、先進国の主要問題であると同時に深刻化する問題であるアトピー性皮膚炎および喘息の強い素因である。[サンディランズら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775;サンディランズら著、ネイチャージェネティクス、2006年、第38巻、p.337−342;スミスら著、ネイチャージェネティクス、2007年、第39巻、p.650−654;およびアービン(Irvine)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1200−1202]ただし、フィラグリン遺伝子おける機能喪失型突然変異とアトピー性皮膚炎とに相関関係はあるものの、直接的な関係は認められない。遺伝子突然変異を持たない人がアトピー性皮膚炎を発症する場合もあり、遺伝子突然変異を持つ人が必ずしもアトピー性皮膚炎であるとは限らない。
【0008】
欧州系の人は約10%がフィラグリン遺伝子の突然変異を持っている。[サンディランズら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2006年、第126巻、p.1770−1775]フィラグリン遺伝子のホモ接合型変異は、フィラグリンの産生能の完全な喪失を示す。
【0009】
フィラグリン遺伝子の突然変異を判定する既知の方法は、特殊な遺伝子型判定法を用いる。たとえば、米国特許出願公開第2003/0124553号を参照されたい。フィラグリンをコードする遺伝子に特異的な突然変異を検出するには、特定の生化学的分析が必要である。遺伝子型判定法では、複数サイクルのPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)増幅およびシーケンシングを行い、フィラグリンをコードするDNAを単離し、増幅する必要がある。次いで特定の遺伝子型判定アッセイにより各フィラグリン突然変異を解析する。こうしたアッセイの大部分は市販されておらず、フィラグリン遺伝子突然変異を研究している研究機関の中には、独自にアッセイを開発してきたところもある。サンディランズら著、ネイチャージェネティクス、2006年、第38巻、p.337−342にはフィラグリン突然変異の15種の変異体の解析が記載されている。こうした遺伝子型判定方法は費用と時間がかかるうえ、非常に特殊な研究施設および人員を必要とする。遺伝子型判定方法は、集団スクリーニングの目的には不適である。
【0010】
したがって、フィラグリン遺伝子に機能喪失型突然変異が存在する可能性を集団スクリーニングする短時間で簡便な方法が求められている。
【0011】
さらに、疾患を正しく診断し、適切な処置を選択するため、アトピー性皮膚炎患者にフィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異が存在するかどうかを判定する短時間で簡便な方法も求められている。
【0012】
インビボでの角質層のラマン分光測定によって、その主な供給源がタンパク質フィラグリンであり天然保湿因子(NMF)と総称される、アミノ酸とアミノ酸誘導体との複合体の相対濃度を判定することができる。フィラグリンは角質層の底部の狭い領域に存在し、そこで酵素分解されNMFになる。[スコット(Scott)ら著、バイオケミカエトバイオフィジカアクタ(Biochimica et Biophysica Acta)、1982年、第719巻(1)、p.110−117およびローリングス(Rawlings)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1994年、第103巻、p.731−741]このため、フィラグリンをコードする遺伝子における機能喪失型突然変異は、皮膚内のNMF量に関与している。しかしながら、皮膚内のNMF量は他の多くの要因によって決まるものであり、機能喪失型遺伝子突然変異よりもはるかに大きな影響を与えるものもある。
【0013】
したがって、フィラグリン遺伝子に機能喪失型突然変異があると、皮膚内のNMF量が減少する場合があるけれども、その逆はまず起こらない。一方、NMF量が異常に少なくても遺伝子突然変異が原因とは限らない。遺伝子転写およびプロフィラグリン産生のプロセス、フィラグリンへの酵素的プロセシング、およびその後のフィラグリンからNMFへの酵素/タンパク質分解は多くの要因の影響を受けるためである。とりわけ、このことが原因で、同じ機能的プロフィラグリン遺伝子が至るところに存在するにもかかわらず、NMF量は身体の部位によって大きく異なる。さらに、NMF量は年齢、入浴、石鹸による洗浄および環境などの要因にも影響される。これは、たとえば、フィラグリン(本質的にフィラグリン遺伝子がコードするタンパク質であるプロフィラグリンの酵素的プロセシングの産物)の酵素およびタンパク質分解によるNMF生成のプロセスについて記載しているローリングスら[ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1994年、第103巻、p.731−741]により説明されている。ローリングスらは、病状とNMFの欠損との相関関係、およびNMFの産生能の欠如が、単純な乾燥症から重度の乾癬に至る皮膚の病に関与する重要なメカニズムである可能性があることを記載している。また、ローリングスらは、洗浄により表面の角質層からNMFの大部分が流れ出ることについても言及している。さらに、合成活性の低下に起因して、角質層のNMF量が加齢に伴い2分の1以上と大きく減少することも指摘している。加えて、フィラグリンからNMFへの変換は水分活性に左右され、角質層が、曝される環境条件に合わせてこのプロセスを調整していることも述べている。NMF量は、臨床的に正常な皮膚を持つ個体間で大きく異なることが明らかになっている。身体の部位との関連で変化するのと同様に、年齢および季節的要因に応じて変化することも明らかにされている。[ファンデルポール(Van der Pol)ら著、アブストラクトIFSCCミーティング(Abstract IFSCC meeting)、アムステルダム、オランダ、2007年9月24〜27日およびファンデルポールら著、アブストラクトISBSナショナルミーティング(Abstract ISBS National meeting)、ストーンマウンテン(Stone Mountain)GA、米国、2006年10月12〜14日]。
【0014】
また、アトピー性皮膚炎の観点から記載されてきた異常な落屑などの作用が、皮膚内のNMF量にどの程度影響を与えるかは不明である。
【0015】
皮膚状態の処置の有効性の臨床徴候が観察できるようになるには、処置の開始からしばらく経ってからであることも珍しくない。たとえば、ラプティバ(Raptiva)(登録商標)(エファリズマブ、メルクセローノインターナショナル(Merck Serono International)S.A.、ジュネーブ、スイス)を用いた乾癬処置のオランダのガイドラインによれば、処置を12週間継続してから処置の継続または中止を臨床医が決定する。一方で、臨床的改善は、根底にある分子的変化に遅行する。このため、NMF量の変化などの分子的変化をモニターする方法を用いれば、従来の臨床評価よりもかなり速く皮膚処置の有効性を判定できると考えられる。
【0016】
本発明は、被検体、特にヒト被験者においてフィラグリン遺伝子の1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を迅速かつ非侵襲的に測定する方法および器具を提供することを目的とする。
【0017】
本発明はさらに、フィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異とを識別する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はさらに、局部塗布した生成物の浸透性および/または作用の判定に関する試験に好適な個体の集団を構成するための迅速かつ客観的な方法を提供すること、すなわち、各個体を試験群に含めるか、除外するかの客観的な指標を提供することを目的とする。
【0019】
本発明はさらに、職業性の皮膚病を発症するリスクが高いため、ある種の職業または活動に個体が不適であるか、あるいは少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0020】
本発明はさらに、フィラグリン遺伝子における1つまたは複数の機能喪失型突然変異に関連する皮膚状態の素因を低年齢児が持つかどうかを判定し、それにより予防処置による介入を早期実施できるようにし、および/または追加の診断検査を患者に指示するための集団スクリーニングを容易にする客観的方法を提供することを目的とする。
【0021】
本発明はさらに、アトピー性皮膚炎に罹患している個体がフィラグリンの欠損が原因で皮膚バリアに障害があるかどうかを判定し、それに合わせて療法を調整する客観的方法を提供することを目的とする。
【0022】
本発明はさらに、アトピー性皮膚炎の治療処置の有効性を判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0023】
本発明はさらに、改善の臨床徴候が認められる前にアトピー性皮膚炎の治療処置の有効性を判定する客観的方法を提供することを目的とする。
【0024】
本発明はさらに、皮膚疾患の療法または処置の結果を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0025】
本発明はさらに、パーソナルケア製品による皮膚処置の作用を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0026】
本発明はさらに、皮膚疾患の適切な処置または療法を選択する指針となる迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0027】
本発明はさらに、皮膚ケア用のパーソナルケア製品の選択の指針となる迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【0028】
本発明はさらに、ある種の環境条件、化学製品およびその他の事項に対する皮膚曝露の影響を予測する迅速かつ客観的な方法を提供することを目的とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0029】
第1の態様では、本発明は、個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法であって、
(i)個体の角質層から振動スペクトルを得ること;
(ii)得られた振動スペクトルから局所の天然保湿因子の量を判定すること;
(iii)任意にステップ(i)および(ii)を繰り返すこと;および
(iv)個体の局所の天然保湿因子の量を基準値と比較すること
を含み、前記角質層は、フィラグリンをコードする遺伝子の前記1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要素よりも天然保湿因子の濃度に強い影響を与える、前記個体の身体部位の角質層である、測定法を対象とする。
【0030】
さらに、本発明は、個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異を区別する方法であって、天然保湿因子の量に応じて機能喪失型突然変異を分類することを含む、方法を対象とする。
【0031】
さらに、本発明は、皮膚疾患の処置を受けている個体の療法または処置が所望の効果を上げる可能性があるかどうかを予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法により前記皮膚疾患の処置を受けている一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 一群の個体の角質層における天然保湿因子の量と処置の効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係により前記個体の前記療法または処置が有効であるかどうかを予測すること
を含む、方法を対象とする。
【0032】
本発明はさらに、個体による皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法により前記皮膚のパーソナルケア製品を使用している一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記個体による前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測すること
を含む、方法も対象とする。
【0033】
さらに、本発明は、環境条件、化学製品または他の事項に対する個体の曝露の影響を予測する方法であって、
− 本発明に記載の方法を用いて、前記環境条件、化学製品または他の事項に曝露される一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 一群の個体の角質層における天然保湿因子の量と曝露の影響との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記環境条件、化学製品または他の事項に対する前記個体の曝露の影響を予測すること
を含む、方法を対象とする。
【0034】
さらに、本発明は、アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、フィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異がその個体に存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法を対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】フィラグリン突然変異を持たない個体の腕の角質層のラマンスペクトルである。黒の領域(番号1および2)はNMFのラマンバンドを示す。灰色の部分(番号3)は角質層組織のラマンバンドを示す。
【図2】フィラグリン突然変異を持つ個体の腕の角質層のラマンスペクトルである。黒の領域(番号1および2)はNMFのラマンバンドを示す。灰色の部分(番号3)は、角質層組織のラマンバンドを示す。
【図3】振動シグナルからNMF量を判定する一方法を図示する、角質層のラマンスペクトルである。
【図4】天然保湿因子のラマンスペクトルである。
【図5】ヒト皮膚のラマンスペクトルである。
【図6】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の天然保湿因子の皮膚の深さプロファイルである
【図7】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の天然保湿因子の皮膚の深さプロファイルである。
【図8】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の腕における天然保湿因子の相対量を示す。破線はNMF量の中央値を示す。
【図9】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の腕における天然保湿因子の相対量を示す。破線は、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の腕におけるNMF量の中央値を示す。
【図10】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の母指球における天然保湿因子の相対量を示す。破線はNMF量の中央値を示す。
【図11】フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持つ個体の母指球における天然保湿因子の相対量を示す。破線は、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない個体の母指球におけるNMF量の中央値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
「振動分光」という語は、本明細書で使用する場合、分子の振動モードおよび/または回転モードの解析が可能な任意の分光学的手法と定義する。
【0037】
「ラマン分光」という語は、本明細書で使用する場合、ある系において振動モードおよび/または回転モードの調査に用いる分光学的手法と定義し、通常、可視、近赤外または近紫外領域のレーザーからの単色光の非弾性散乱(ラマン散乱とも呼ばれる)を利用する。入射レーザー光は系の振動エネルギーおよび/または回転エネルギーの量を増減させ、その結果、レーザーの光子エネルギーが変化する場合がある。このレーザーの光子エネルギーの変化によりスペクトルシフトが起こり、系の振動モードおよび/または回転モードに関する情報が得られる。一般に、レーザービームをサンプルに照射する。照射スポットからの光はレンズで集光され、スペクトロメーターを通して送られる。(弾性レイリー散乱による)レーザー線に近い波長は除外され、レーザー線から離れた一定のスペクトル窓の波長が検出器に分散される。
【0038】
ラマンスペクトルは、入射光に照射されたときに目的分子から放射される、非常に狭い一連のスペクトル線である。各スペクトル線の幅は入射光のスペクトル幅に強く影響されるため、レーザーなどの単色性に優れた光源を使用する。各ラマン線の波長は、ラマン線と入射光との波数の差である、入射光に対する波数シフトで表す。絶対波数でないラマン線の波数シフトは、分子内の特定の原子団に特有である。ラマンスペクトルは、分子構造により、特にメチレン、エチレン、アミド、ホスファートまたはスルフィドなどの原子団により決定されるその分子の振動モードおよび/または回転モードを測定する。
【0039】
生物学におけるラマン分光は、巨大分子または関連する小分子の振動モードおよび/または回転モードの変化に関係して使用されるのが大部分である。原子団における1本のラマン線の波数シフトの変化あるいは2本以上のラマン線の相対強度の変化は、巨大分子における立体構造変化を示すと解釈されている。このため、ラマン分光は主に、生物学において分子および分子動力学の定性試験に使用されている。ラマンスペクトルを容易かつ明確に解釈するため、この手法の使用は主として精製材料およびその酵素反応などの系に限定されてきた。しかしながら、ラマンスペクトルは原子団に特有の振動および/または回転に基礎を置いているため、フィンガープリンティングと同様の方法により分子の混合物を原子団の組成物として特徴付けを行い、定量するために使用することもできる。ラマンスペクトルはサンプルの組成を化学物質のリストとして完全に決定することはできないが、一方で、最も多く含まれる分子種であれば、自然環境における分子組成および経時的変化の概略を与える。
【0040】
「局所の天然保湿因子の量」という語は、本明細書で使用する場合、前腕の手のひら側または母指球(手のひら)など、身体の所定の部位における角質層内、および皮膚表面下の所定距離の角質層内のNMF量またはNMF濃度と定義する。
【0041】
本発明は、多くの要因が皮膚の角質層(corneum stratum)内のNMF量のNMF濃度に影響を与えており、したがって、NMF量に対する機能喪失型遺伝子突然変異の作用は顕在化しないものの、プロフィラグリン(profillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異以外の要因およびプロセスによりNMF濃度が比較的影響を受けない部位が個体の身体に存在するとの知見に基づく。この知見によれば、好適な測定手法を選択すれば、個体がフィラグリン遺伝子における機能喪失型突然変異を持っていることにより、アトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎などに対するリスクが高いという信頼できる診断が得られる。フィラグリン産生に障害があると、個体の角質層内のNMFが正常濃度よりも低くなることが明らかになっているが、これを振動分光により検出することができる。これまでに遺伝子突然変異の存在を判定する方法としてNMF濃度を用いることは示唆されたことがなかったが、驚くべきことにこれが可能になりそうである。
【0042】
フィラグリン遺伝子における1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、NMF濃度に影響を与える他の要因よりもNMF濃度に対して強い影響を及ぼす個体の身体部位は、以下のように発見することができる。
【0043】
試験用身体部位の選択後、フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の1例または複数例の個体の試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得て、振動スペクトルの解析により試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定する。さらに、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の1例または複数例の個体の試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得る。やはり、振動スペクトルの解析により試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定する。最後に、フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の個体における試験用身体部位の角質層内の天然保湿因子の量が、フィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の個体よりも少ないかどうかを評価して、試験用身体部位のフィラグリンをコードする遺伝子の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要因よりも天然保湿因子の濃度に対して強い影響を及ぼすかどうかを判定する。フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の個体およびフィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の個体はそれぞれ、好ましくは少なくとも6例の個体、一層好ましくは少なくとも12例の個体を含む。
【0044】
本発明の方法を用いれば、角質層内の検出可能なNMF量がある程度少ない可能性がある、フィラグリン突然変異のヘテロ接合キャリアと、角質層内の検出可能なNMFがほぼ完全に存在しない可能性がある、フィラグリン突然変異のホモ接合キャリアとを区別できる。
【0045】
本発明の方法によれば、個体の角質層の振動スペクトルまたはその選択部分を測定する。振動スペクトルは、任意の振動分光手法を用いて測定することができる。好ましい分光法はラマン分光法である。他の分光法として、たとえば、ボーマナン(Bommannan)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、1990年、第95巻(4)、p.403−408に記載されているような近赤外分光法、フーリエ変換赤外(FT−IR:Fourier transform infrared)分光法または減衰全反射(ATR:attenuated total reflection)赤外分光法などの赤外分光法が挙げられる。
【0046】
振動スペクトルは、サンプルの分子組成を表す。以下のやり方のいずれかで振動スペクトルから角質層内のNMF量を測定することができる。
【0047】
一実施形態では、内部基準の振動シグナルの強度に対するNMFの振動シグナルの強度としてNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンのシグナルである。したがって、NMFのシグナル強度とケラチンのシグナル強度との比としてNMF量を測定してもよい。ただし、NMFを共に構成する分子化合物群に属さない、皮膚に共通の他の成分を好適な内部基準として用いても構わない。たとえば、そうした内部基準は、NMFを共に構成する分子化合物の全部または大部分を除去した後の角質層組織のサンプルの振動シグナルであってもよい。角質層のサンプルからNMFを抽出する方法は、キャスパース(Caspers)ら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442に記載されている。この論文では、NMF量の個体間のばらつきを検出する可能性のほか、ラマン分光を用いて追加の特定を行わない、疾患のプロセスおよび処置に起因する皮膚内の分子の濃度差の研究が示唆されている。
【0048】
シグナル強度は、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、および内部基準シグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅における振動シグナルから好適に判定することができる。次いで、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅の曲線下面積A1からNMFのシグナル強度を判定すればよい(図1および図2の番号1および2の領域を参照されたい)。基準シグナル強度については、内部基準からのシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅の曲線下面積A2から判定すればよい(図1および図2の番号3の領域を参照されたい)。したがって、NMF量(R)の有用な指標は、R=A1/A2の比から得ることができる。
【0049】
別の実施形態では、NMFシグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、内部基準シグナルの関与が有力である1つまたは複数の波長幅、およびほとんどあるいはまったくラマンシグナルが予測されないため、バックグラウンドのシグナル強度の推定に役立つ場合がある1つまたは(ore)複数のスペクトル間隔からシグナル強度を測定する。次いで図3に示すように、NMFシグナルが有力な曲線下面積A3および内部基準シグナルの曲線下面積A4からNMF量を判定することができる。曲線下面積については、以下の式に従って様々な波長幅で測定したシグナル強度から判定することができる。式中、Inはスペクトル間隔nから測定したシグナル強度、Anはスペクトル間隔nの曲線下面積、xnはスペクトル間隔nの中心波数、ynはスペクトル間隔nの平均シグナル強度、およびdnはスペクトル間隔nの幅である(図3を参照)。NMFの曲線下面積A3は、以下を用いて判定することができる。
【0050】
【数1】
【0051】
内部基準シグナルの曲線下面積A4は以下を用いて判定することができる。
【0052】
【数2】
【0053】
ここで、以下の曲線下面積A3とA4との比からNMF量の指標を得ることができる。
CNMF=A3/A4
【0054】
当業者であれば、他のシグナル強度比を用いてもNMF量の推定値が得られることを理解するであろう。本発明の方法の場合、NMF量測定の指標がNMF量と比例関係にあることは重要ではない。たとえば、指標はNMF量と単調関係にあれば十分である。
【0055】
好ましい実施形態では、内部基準の振動シグナルの強度に対するNMFの振動シグナルの強度からNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンである。
【0056】
好ましい実施形態では、スペクトルフィッティングによりNMF量を判定する。皮膚の振動スペクトルまたは皮膚の振動スペクトルの大部分を含む一連の基準振動スペクトルから、皮膚の振動スペクトルに対する各基準スペクトルの寄与を判定する。相対的寄与は、基準スペクトルまたは基準スペクトルの選択したスペクトル領域を皮膚の振動スペクトルまたは皮膚の振動スペクトルの選択したスペクトル領域にフィッティングさせれば判定することができる。フィッティング係数は、各基準スペクトルの相対的寄与である。[キャスパースら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442]好ましくは、基準スペクトルの1つは、NMFのスペクトルである。あるいは、1個または複数個の基準スペクトルは、NMFの成分のスペクトルである。基準スペクトルのセットをインビトロで純粋な皮膚成分、純粋な皮膚成分の溶液および/または純粋な皮膚成分の集合体から集めてもよい。基準スペクトルに用いてもよい特に好ましい皮膚成分は、ケラチンである。
【0057】
別の実施形態では、NMFの振動スペクトルまたはNMFの成分のスペクトルにおける1つまたは複数のピークの強度、および内部基準のスペクトルにおける1つまたは複数のピークの強度を算出してNMF量を測定する。好適な内部基準は、たとえば、ケラチンである。ただし、NMFを共に構成する分子化合物群に属さない、角質層に共通の他の成分を好適な内部基準として用いても構わない。
【0058】
振動スペクトル、具体的にはラマンスペクトルは、振動スペクトルから角質層内のNMF量を算出するようにプログラムされたパーソナルコンピューターを用いてリアルタイムで自動解析することができる。これを用いれば、解析結果をすぐに利用できる。別の実施形態では、振動スペクトルを保管して後で解析する。
【0059】
好ましくは、インビボで皮膚の振動スペクトルを直接記録してNMF量を判定する。ただし、エキソビボで個体から採取した角質層サンプルの振動スペクトルを記録してNMF量を判定してもよい。
【0060】
本発明の特別な実施形態では、皮膚の表面までの距離に応じて振動スペクトルを測定することで局所のNMF量を判定する。こうすれば、いわゆるNMFの深さプロファイルが得られる。
【0061】
別の実施形態では、所定の身体部位の皮膚表面から最適な一定距離離れたところ、好ましくは角質層の中心部の振動スペクトルを測定して皮膚内のNMF量を判定する。母指球の角質層の振動スペクトルは、皮膚表面下1〜70μm、好ましくは皮膚表面下2〜50μm、一層好ましくは皮膚表面下3〜30μmのところで測定してもよい。たとえば、前腕の手のひら側の角質層の振動スペクトルは、皮膚表面下1〜10μm、好ましくは皮膚表面下2〜8μm、一層好ましくは皮膚表面下3〜6μmで測定してもよい。
【0062】
別の実施形態では、角質層の全層または特定の深さ距離における平均NMF量として角質層内のNMF量全体を判定する。NMF量は、皮膚表面下のいくつもの距離で、たとえば、皮膚下の3つの距離で測定してもよい。母指球について測定する場合、好ましくは皮膚表面下約30、40および50μmでNMF量を測定する。前腕内側について測定する場合、好ましくは皮膚表面下約4、6および8μmでNMF量を測定する。その後、様々な深さで測定したNMF量を平均すればNMF量の単一値を得ることができる。
【0063】
別の実施形態では、角質層の全層または層の一部における平均NMF量として角質層内のNMF量全体を測定する。ラマン機器は、角質層の全層または層の一部として大きさ、軸方向寸法ごとに同じ深さ分解能を持つことができる。振動スペクトルは、所定の身体部位の皮膚表面から最適な一定距離離れたところ、好ましくは角質層(stratum)の中心部から測定することができる。このため、角質層の全層または層の一部の振動スペクトルは、1回の測定で測定することができる。
【0064】
別の実施形態では、本方法を用いて、異常なNMF量と関連する皮膚状態、たとえば、アトピー性皮膚炎の処置を受けている患者の角質層内のNMF量における変化または変化のないことをモニターする。こうした実施形態では、本方法は、処置の有効性に直接関係する臨床情報を提供する。
【0065】
個体の角質層からは1個または複数個の振動スペクトルを測定することができる。複数個のスペクトル、たとえば、少なくとも2個のスペクトル、好ましくは少なくとも5個のスペクトル、一層好ましくは少なくとも10個のスペクトルを測定することが好ましい。NMF量の生物学的な横方向の変化を平均するため、若干異なる部位でNMF量の測定を数回(2〜10回など)繰り返してもよい。若干異なる部位は、たとえば、0.05〜1mm、好ましくは0.1〜0.75mm、一層好ましくは0.2〜0.5mmにわたって平行移動させてもよい。
【0066】
特に好ましい実施形態では、個体の母指球の振動スペクトルを記録する。振動スペクトルを得るのに好ましい別の部位としては、個体の前腕の手のひら側がある。ただし、原則として、個体の体表であれば他のどのような部分の振動スペクトルを記録してもよい。
【0067】
好ましくは、振動スペクトルはラマン分光により測定する。特別な実施形態では、キャスパースらが記載したようなインビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーターを用いて振動スペクトルを記録してもよい。[キャスパースら著、バイオスペクトロスコピー(Biospectroscopy)、1998年、第4巻、p.31−39およびキャスパースら著、ジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442]インビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーターの別の例として、モデル3510皮膚組成物アナライザー(Skin Composition Analyzer)(リバーダイアグノスティックス(River Diagnostics)、ロッテルダム、オランダ)がある。しかしながら、本発明の方法を実施するには、単純なラマンスペクトロメーターも好適である。
【0068】
単純かつ安価な実施形態では、皮膚表面から一定の距離のところにレーザー光を集光させる。厚さが100μm程度の比較的厚い母指球の角質層の場合、この一定距離は、皮膚表面下1〜70μm、好ましくは2〜50μm、一層好ましくは3〜30μmであってもよい。前腕の手のひら側など12〜25μmの比較的薄いの角質層の場合、一定距離は、1〜10μm、好ましくは2〜8μm、一層好ましくは3〜6μmであってもよい。この距離であれば、モデル3510皮膚組成物アナライザー(リバーダイアグノスティックス)などの市販されている共焦点システムの一部である正確なダイナミックフォーカス装置は必要ない。こうした正確なダイナミックフォーカス装置を用いると、本発明による方法を実施するための機器費用が必要以上にかさむことになる。
【0069】
ラマンスペクトロメーターは高い空間分解能を備えている必要はない。実際のところ、中程度または低い空間分解能でも、1回の測定で、たとえば、角質層の比較的大きな部分1個からシグナルを集められるため有用である場合がある。したがって、光の照射および検出の経路には、比較的簡便で割安な光学的要素を用いてもよい。
【0070】
さらに、スペクトル分解能が低くてもラマンスペクトルの複数の選択部分を検出し、正常なNMF量と異常なNMF量を識別するのに十分な情報を与えるラマンスペクトロメーターを用いて構わない。NMFのシグナルの関与は主に3つのスペクトル窓800〜900cm−1、1280〜1480cm−1および1640〜1660cm−1で起こる。図4を参照されたい。好ましい実施形態では、前述のスペクトル領域の1つまたは複数からNMFのラマンシグナルを記録し、重複しないあるいは部分的に重複するスペクトル領域から内部標準のラマンスペクトルを記録する。図5を参照されたい。
【0071】
市販されているラマン皮膚アナライザーを用いても構わない。たとえば、モデル3510皮膚組成物アナライザー(リバーダイアグノスティックス)を用いてもよい。このシステムは、皮膚の分子組成を迅速かつ非侵襲的に解析できるように設計されている。この装置を用いれば、皮膚表面下の一定範囲の深さで皮膚のラマンスペクトルを測定することができ、したがって、皮膚表面までの距離に応じて皮膚内の分子濃度または量の定量的および半定量的解析が可能になる。
【0072】
本発明の方法により、個々の個体がある種の職業(美容師またはコックなど)または活動に不適であるか、または少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定することができる。
【0073】
さらに、本発明の方法により、天然保湿因子の量に応じて機能喪失型突然変異を分類することで、個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異とを区別することもできる。角質層内の検出可能なNMF量がある程度少なければ、フィラグリン突然変異のヘテロ接合キャリアであることが示唆されるのに対し、角質層内に検出可能なNMFがほぼ完全に存在しなければ、フィラグリン突然変異のホモ接合キャリアであることが示唆される。
【0074】
別の実施形態では、本方法を用いて、皮膚疾患の処置を受ける患者に対してある種の療法または処置が所望の効果を上げられるかどうかを予測する。皮膚疾患はADもしくは乾癬または別の皮膚疾患であってもよい。この実施形態では、処置の結果が角質層内のNMFの相対量と相関しており、角質層内のNMFの相対量を処置または療法の作用の予測マーカーとして用いる。
【0075】
この実施形態では、第1のステップにおいて、処置を受ける何人かの患者の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、処置を受ける患者の角質層内のNMF量と処置の作用との相関関係を判定する。
【0076】
第2のステップでは、患者の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、患者の処置が成功する可能性を予測する。
【0077】
任意の第3のステップでは、利用できる可能性があるいくつかの処置または療法の予測結果を比較することで、第1および第2のステップで可能な処置および療法の評価をある種の療法または処置の選択を導く手段として用いる。
【0078】
別の実施形態では、本方法を用いてある種のパーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果を予測する。この実施形態では、パーソナル(皮膚)ケア製品の使用の結果が角質層内のNMF相対量と相関しており、角質層内のNMF相対量をパーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果の予測マーカーとして用いる。
【0079】
この実施形態では、第1のステップにおいて、パーソナル(皮膚)ケア製品を使用する何人かの被検体の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、製品使用前の角質層内のNMF量と前記パーソナル(皮膚)ケア製品による効果との相関関係を判定する。
【0080】
第2のステップでは、被検体の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、パーソナル(皮膚)ケア製品の使用効果を予測する。
【0081】
任意の第3のステップでは、いくつかのパーソナルケア製品の予測結果と比較することで、第1および第2のステップで可能な処置および療法の評価をある種のパーソナルケア製品の選択を導く手段として用いる。
【0082】
別の実施形態では、本方法を用いてある種の環境条件、化学製品または他の事項に対する人の曝露の影響を予測する。この実施形態では、そうした曝露の結果が角質層内のNMF相対量と相関しており、角質層内のNMF相対量を曝露の影響の予測マーカーとして用いる。
【0083】
この実施形態では、第1のステップにおいて、ある種の環境条件(単数または複数)、化学製品または他の事項に曝露される何人かの被検体の角質層内のNMF量を本方法を用いて判定し、曝露前の角質層内のNMF量と曝露の影響との相関関係を判定する。
【0084】
第2のステップでは、被検体の角質層内のNMF量を判定し、第1のステップで確認された相関関係と併用して、ある種の環境条件(単数または複数)、化学製品または他の事項に対する曝露の影響を予測する。
【0085】
任意の第3のステップでは、特定の種類の曝露の回避など、曝露に関する助言を与える手段として第1および第2のステップで可能な曝露の評価を用いる。
【0086】
さらなる態様では、本発明は、アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、その個体に、上記のようなフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法を対象とする。療法については、たとえば、より明確に皮膚バリア障害を標的にすることで調整してもよく、抗ヒスタミン剤の経口投与、エモリエントの局部投与、ドキセピンの局部投与、コルチコステロイドの局部投与、ヒドロコルチゾンの局部投与、免疫調節剤および/または紫外線療法薬の局部投与を含んでもよい。
【0087】
本発明の方法は、魅力的で比較的安価なスクリーニング方法である。このスクリーニングの結果に基づき、追加の(より高価な)スクリーニングまたは診断が必要かどうかを判定することができる。
【実施例】
【0088】
フィラグリン遺伝子に既知の機能喪失型突然変異を持たない個体7例、およびフィラグリン(fillagrin)遺伝子に既知の機能喪失型突然変異R501Xあるいは2282del4のどちらかを持つ個体6例からなる一連の個体について測定を行った。
【0089】
ラマン測定では、インビボ共焦点ラマンマイクロスペクトロメーター、モデル3510皮膚組成物アナライザーを用いた。各個体に、測定ステージに設置した溶融石英ウインドウに目的の皮膚部分を置いてもらった。ウインドウの下にある顕微鏡対物レンズでレーザー光を皮膚に集光した。皮膚表面までのレーザーの焦点距離を機器制御ソフトウェア(RiverICon、リバーダイアグノスティックス)で調節した。開始ポイントと終了ポイントを決めてステップサイズが大きくなるように設定してから、ソフトウェアにより、皮膚表面まで一定範囲の距離の皮膚内で記録した一連のラマンスペクトルからなる深さプロファイルを自動記録した。
【0090】
個体の前腕の手のひら側および母指球についてラマン測定を行った。785nmのレーザー光を皮膚に集光し、本明細書で「フィンガープリント領域」と定義する400〜1800cm−1のスペクトル領域でラマンスペクトルを記録した。腕で記録した深さの範囲は0〜20μm、ステップを4μmとした。母指球で記録した深さの範囲は30〜50μm、ステップを10μmとした。腕および母指球での測定を個体ごとに10回繰り返し、その間、正確な測定部位を50〜500μm程度平行移動させて若干変えた。
【0091】
モデル3510皮膚組成物アナライザーの内部較正標準および機器制御ソフトウェアRiverICon(リバーダイアグノスティックス)により、スペクトルの波数軸のキャリブレーションを行った。また、このソフトウェアは、機器の波数依存性シグナルの検出効率の補正にも使用した。
【0092】
皮膚解析ソフトウェアスキンツールズ(SkinTools)2.0(リバーダイアグノスティックス)を用いて、フィンガープリント領域で測定した各ラマンスペクトルからNMF量を判定した。このソフトウェアによる解析方法は、キャスパースらによりジャーナルオブインベスティゲーティブデルマトロジー、2001年、第116巻、p.434−442に記載されている。この解析方法には古典的な最小二乗フィッティングステップが含まれており、主な皮膚成分の基準スペクトル1セットをそれぞれ腕または手掌のラマンスペクトルにフィッティングさせる。フィッティング係数は、角質層内の乾燥質量分率が圧倒的であるケラチンのスペクトルのフィッティング係数で割った商である。この正規化ステップにより、レーザーの焦点位置から皮膚表面までの距離と共に減少する絶対ラマン強度のばらつきを補正する。解析方法の結果はNMFの相対量の指標であり、NMFとケラチンとの比として任意単位で表す。
【0093】
皮膚表面下30〜50μmから測定したNMF相対量の数値平均を算出して、個体ごとに母指球の角質層内の平均NMF量を判定した。
【0094】
皮膚表面下4μmで測定したNMF相対量から、個体ごとに腕の角質層内の平均NMF量を判定した。
【0095】
フィラグリン突然変異を持つ個体の腕および母指球で認められたNMF量は、フィラグリン突然変異を持たない対照群の腕および母指球よりも著しく少ないことが明らかになった。これを図6〜図11に示す。
【0096】
NMF量には生物学的に大きなばらつきがあることが報告されてきたが、実施例に示すように、本発明を用いれば測定プロトコルを設計できるため、ある種の皮膚状態になりやすい、フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持っている可能性がある個体を確実に特定することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法であって、
(i)前記個体の角質層から振動スペクトルを得ること;
(ii)前記得られた振動スペクトルから局所の天然保湿因子の量を判定すること;
(iii)任意にステップ(i)および(ii)を繰り返すこと;および
(iv)前記個体の局所の天然保湿因子の量を基準値と比較すること
を含み、前記角質層は、フィラグリンをコードする遺伝子の前記1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要素よりも天然保湿因子の濃度に強い影響を与える、前記個体の身体部位の角質層である、測定法。
【請求項2】
前記個体の前記身体部位は、
a)試験用身体部位を選択すること;
b)フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の1例または複数例の個体の前記試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得ること、および前記振動スペクトルの解析から前記試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定すること;
c)フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の1例または複数例の個体の前記試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得ること、および前記振動スペクトルの解析から前記試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定すること;
d)フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ前記群の個体における前記試験用身体部位の角質層内の天然保湿因子の量がフィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない前記群の個体より少ないかどうかを評価して、前記試験用身体部位でフィラグリンをコードする遺伝子の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要因よりも天然保湿因子の濃度に対して強い影響を及ぼすかどうかを判定すること
により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ前記群の個体、およびフィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない前記群の個体はそれぞれ少なくとも6例の個体、好ましくは少なくとも12例の個体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記振動スペクトルはインビボで得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記振動スペクトルは、エキソビボで前記個体から採取される角質層サンプルから得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記振動スペクトルはラマンスペクトルである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記振動スペクトルは皮膚の表面までの距離に応じて得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記振動スペクトルは前記個体の皮膚表面下1〜70μm、好ましくは2〜50μm、一層好ましくは3〜30μmの母指球の角質層から得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記振動スペクトルは前記個体の皮膚表面下1〜10μm、好ましくは2〜8μm、一層好ましくは3〜6μmの前腕の手のひら側の角質層から得られる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法
【請求項10】
前記局所の天然保湿因子の量は、内部基準の振動シグナルの強度に対する天然保湿因子の振動シグナルの強度から判定される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のステップi)およびii)は少なくとも2回、好ましくは少なくとも5回、一層好ましくは10回繰り返される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のステップ(ii)は、皮膚成分の少なくとも1つの基準スペクトルを前記得られた振動スペクトルにフィッティングさせることを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
フィッティング係数は内部基準スペクトルのフィッティング係数で割った商である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記内部基準はケラチンである、請求項10または13に記載の方法。
【請求項15】
ある種の職業または活動に対して個体が不適であるか、または少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異を区別する方法であって、天然保湿因子の量に応じて前記機能喪失型突然変異を分類することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
皮膚疾患の処置を受けている個体の療法または処置が所望の効果を上げる可能性があるかどうかを予測する方法であって、
− 請求項1〜14および16のいずれか1項に記載の方法により前記皮膚疾患の処置を受けている一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子において1つまたは複数の機能喪失型突然変異の存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記処置の効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係により前記個体の前記療法または処置が有効であるかどうかを予測すること
を含む、方法。
【請求項18】
個体による皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測する方法であって、
− 請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法により前記皮膚のパーソナルケア製品を使用している一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記個体による前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測すること
を含む、方法。
【請求項19】
環境条件、化学製品または他の事項に対する個体の曝露の影響を予測する方法であって、
請求項1〜14および16のいずれか1項に記載の方法を用いて、前記環境条件、化学製品または他の事項に曝露される一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記曝露の影響との相関関係を判定すること;
前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
前記相関関係を用いて前記環境条件、化学製品または他の事項に対する前記個体の前記曝露の影響を予測すること
を含む、方法。
【請求項20】
アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、請求項1〜14に記載のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が前記個体に存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法。
【請求項1】
個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を非侵襲的に測定する方法であって、
(i)前記個体の角質層から振動スペクトルを得ること;
(ii)前記得られた振動スペクトルから局所の天然保湿因子の量を判定すること;
(iii)任意にステップ(i)および(ii)を繰り返すこと;および
(iv)前記個体の局所の天然保湿因子の量を基準値と比較すること
を含み、前記角質層は、フィラグリンをコードする遺伝子の前記1つまたは複数の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要素よりも天然保湿因子の濃度に強い影響を与える、前記個体の身体部位の角質層である、測定法。
【請求項2】
前記個体の前記身体部位は、
a)試験用身体部位を選択すること;
b)フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ一群の1例または複数例の個体の前記試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得ること、および前記振動スペクトルの解析から前記試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定すること;
c)フィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない一群の1例または複数例の個体の前記試験用身体部位の角質層から振動スペクトルを得ること、および前記振動スペクトルの解析から前記試験用身体部位の天然保湿因子の量を判定すること;
d)フィラグリン(fillagrin)遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ前記群の個体における前記試験用身体部位の角質層内の天然保湿因子の量がフィラグリン(fillagrin)遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない前記群の個体より少ないかどうかを評価して、前記試験用身体部位でフィラグリンをコードする遺伝子の機能喪失型突然変異が、天然保湿因子の濃度に影響を与える他の要因よりも天然保湿因子の濃度に対して強い影響を及ぼすかどうかを判定すること
により決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
フィラグリン遺伝子の既知の機能喪失型突然変異を持つ前記群の個体、およびフィラグリン遺伝子の機能喪失型突然変異を持たない前記群の個体はそれぞれ少なくとも6例の個体、好ましくは少なくとも12例の個体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記振動スペクトルはインビボで得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記振動スペクトルは、エキソビボで前記個体から採取される角質層サンプルから得られる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記振動スペクトルはラマンスペクトルである、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記振動スペクトルは皮膚の表面までの距離に応じて得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記振動スペクトルは前記個体の皮膚表面下1〜70μm、好ましくは2〜50μm、一層好ましくは3〜30μmの母指球の角質層から得られる、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記振動スペクトルは前記個体の皮膚表面下1〜10μm、好ましくは2〜8μm、一層好ましくは3〜6μmの前腕の手のひら側の角質層から得られる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法
【請求項10】
前記局所の天然保湿因子の量は、内部基準の振動シグナルの強度に対する天然保湿因子の振動シグナルの強度から判定される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のステップi)およびii)は少なくとも2回、好ましくは少なくとも5回、一層好ましくは10回繰り返される、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のステップ(ii)は、皮膚成分の少なくとも1つの基準スペクトルを前記得られた振動スペクトルにフィッティングさせることを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
フィッティング係数は内部基準スペクトルのフィッティング係数で割った商である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記内部基準はケラチンである、請求項10または13に記載の方法。
【請求項15】
ある種の職業または活動に対して個体が不適であるか、または少なくとも好適とは言い難いかどうかを判定する、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
個体のフィラグリン遺伝子におけるホモ接合機能喪失型突然変異とヘテロ接合機能喪失型突然変異を区別する方法であって、天然保湿因子の量に応じて前記機能喪失型突然変異を分類することを含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
皮膚疾患の処置を受けている個体の療法または処置が所望の効果を上げる可能性があるかどうかを予測する方法であって、
− 請求項1〜14および16のいずれか1項に記載の方法により前記皮膚疾患の処置を受けている一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子において1つまたは複数の機能喪失型突然変異の存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記処置の効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係により前記個体の前記療法または処置が有効であるかどうかを予測すること
を含む、方法。
【請求項18】
個体による皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測する方法であって、
− 請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法により前記皮膚のパーソナルケア製品を使用している一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
− 前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果との相関関係を判定すること;
− 前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
− 前記相関関係を用いて前記個体による前記皮膚のパーソナルケア製品の使用効果を予測すること
を含む、方法。
【請求項19】
環境条件、化学製品または他の事項に対する個体の曝露の影響を予測する方法であって、
請求項1〜14および16のいずれか1項に記載の方法を用いて、前記環境条件、化学製品または他の事項に曝露される一群の個体のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が存在する可能性を判定すること;
前記群の個体の角質層における天然保湿因子の量と前記曝露の影響との相関関係を判定すること;
前記個体の角質層の天然保湿因子の量を判定すること;
前記相関関係を用いて前記環境条件、化学製品または他の事項に対する前記個体の前記曝露の影響を予測すること
を含む、方法。
【請求項20】
アトピー性皮膚炎に罹患している個体を処置する方法であって、請求項1〜14に記載のフィラグリンをコードする遺伝子に1つまたは複数の機能喪失型突然変異が前記個体に存在する可能性があるかどうかを判定すること、および前記判定結果に基づき療法を調整することを含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−532865(P2010−532865A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514662(P2010−514662)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050419
【国際公開番号】WO2009/002170
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510003276)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050419
【国際公開番号】WO2009/002170
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510003276)
【Fターム(参考)】
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