説明

窒化珪素質焼結体およびこれを用いた装飾部品

【課題】 加工効率が高く、しかも欠けにくい窒化珪素質焼結体およびこれを用いた装飾部品を提供する。
【解決手段】 β−窒化珪素を主成分としてなり、X線回折法を用いて得られる、β−窒化珪素の(101)面および(210)面のそれぞれの回折強度をI(101),I(210)としたとき、内部における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも小さく、研磨された表面における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも大きい窒化珪素質焼結体である。回折強度の比I(101)/I(210)を上述のようにすることによって、内部から表面に向かって結晶の配向性が変化するので、内部および表面における回折強度の比I(101
)/I(210)が1よりも小さい場合に比べて、表面における破壊靱性は低くなり、加工
効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素質焼結体に関するものであり、とりわけ腕時計用ケース,腕時計用バンド駒等に好適に用いられて美しい色調を醸し出すことができる窒化珪素質焼結体およびこれを用いた装飾部品に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化珪素質焼結体は、原料としてα型の窒化珪素粉末を主成分とする粉末を用いて焼結体を得ると、焼結過程においてα型からβ型の相移転が起こるほか、生成したβ型の窒化珪素の結晶粒子が柱状になり、これら結晶粒子が互いに絡み合った組織となり、等方的な形状の結晶からなる組織よりも機械的特性が向上することが知られている。
【0003】
このような機械的特性が高い窒化珪素質焼結体として、特許文献1では、窒化ケイ素−添加物系の焼結体からなる窒化ケイ素系セラミックスにおいて、β型窒化ケイ素の柱状結晶が一平面に平行にならんでおり、そのならんでいる面のX線回析法を用いて得られる、β−窒化ケイ素の(101)面の強度(I101)と、(210)面の強度(I210)の比(I101/I210)が0.4以下である窒化ケイ素系セラミックスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2563392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された窒化ケイ素系セラミックスは、高温強度および破壊靱性が高くなるものの、加工効率が考慮されたものではなく、その表面をラップ装置,バレル装置等を用いて研磨しようとすると、加工効率が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、加工効率が高い窒化珪素質焼結体およびこれを用いた装飾部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の窒化珪素質焼結体は、X線回折法を用いて得られる、β−窒化珪素の(101)面および(210)面のそれぞれの回折強度をI(101),I(210)としたとき、内部における前記回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも小さく、研磨された表面における前記回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも大きいことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の装飾部品は、上記の窒化珪素質焼結体を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の窒化珪素質焼結体によれば、β−窒化珪素を主成分としてなり、X線回折法を用いて得られる、β−窒化珪素の(101)面および(210)面のそれぞれの回折強度をI(101),I(210)としたとき、内部における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも小さく、研磨された表面における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも大きいことから、内部から上記表面に向かって結晶の配向性が変化しているので、内部および上記表面における回折強度の比I(101)/I(210)が1
よりも小さい場合に比べて、上記表面における破壊靱性は低くなり、加工効率が高くなる。
【0010】
また、本発明の装飾部品によれば、本発明の窒化珪素質焼結体を用いてなることから、加工効率が高くなることにより、生産効率を高くすることができるので、付加価値の高い装飾部品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の窒化珪素質焼結体にX線を照射して得られる、(a)は内部、(b)は、研磨された表面をX線回折した結果を示す図の一例である。
【図2】(a)〜(f)は、それぞれ本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた装飾部品の一例を示す、装飾面を平面視した模式図である。
【図3】本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示す、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側からみた斜視図である。
【図4】本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。
【図5】本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用裏蓋の一例を示す底面図である。
【図6】本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態の一例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
本実施形態の窒化珪素質焼結体は、β−窒化珪素を主成分としてなる窒化珪素質焼結体であって、例えば、アルミニウム,カルシウム,マグネシウムおよび希土類元素の各酸化物の少なくとも1種と、クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,モリブデンおよびタングステンの各珪化物の少なくとも1種を含むことが好適である。
【0014】
ここで、アルミニウム,カルシウム,マグネシウムおよび希土類元素の各酸化物は、焼結を促進する焼結助剤として作用する。より具体的には、組成式が、例えば、Al,CaO,MgOおよびRE(以下、REは希土類元素を示す。)として表される成分である。また、クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,モリブデンおよびタングステンの各珪化物は、粒界相の固化を制御し高温強度を高めるとともに、焼結体の色調を黒色化し、焼結体の内部と表面との色調差を少なくする作用をなす。より具体的には、組成式が、例えば、CrSi,MnSi,FeSi,FeSi,CoSi,NiSi,MoSi,WSiおよびWSi等として表される成分である。
【0015】
本実施形態の窒化珪素質焼結体は、β−窒化珪素の含有量が81.8質量%以上であり、例えば、残部が焼結助剤として、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物を含み、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物の含有量は、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物の合計100質量%に対して
、それぞれ0.3質量%以上1.5質量%以下,14.2質量%以上48.8質量%以下であって、残部が希土類元素の酸化物からなる。また、珪化物は、例えば、珪化鉄および珪化タングステンであって、これらの珪化物の含有量は、それぞれFe換算で0.2質量%以上10質量%以
下,W換算で0.1質量%以上3質量%以下である。なお本実施形態の窒化珪素質焼結体は
、不可避不純物が窒化珪素質焼結体100質量%に対して、1質量%以下含んでいても何ら
差しつかえもない。
【0016】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体の他の例としては、β−窒化珪素の含有量が81.8質量%以上であり、例えば、残部が焼結助剤として、酸化アルミニウム,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムを含み、酸化アルミニウム,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの含有量は、酸化アルミニウム,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計100
質量%に対して、それぞれ12質量%以上22質量%以下,20質量%以上33質量%以下であって、残部が酸化カルシウムからなる。また、珪化物は、例えば、珪化鉄および珪化タングステンであって、これらの珪化物の含有量は、それぞれFe換算で0.2質量%以上10質量
%以下,W換算で0.1質量%以上3質量%以下である。
【0017】
ここで、窒化珪素質焼結体を構成する成分については、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により含有量を求めればよい。具体的なICP発光分光分析法による含有量の求め方は、まず、前処理として窒化珪素質焼結体の一部を超硬乳鉢にて粉砕した試料にホウ酸および炭酸ナトリウムを加えて融解する。そして、放冷した後に塩酸溶液にて溶解し、溶解液をフラスコに移して水で標線まで薄めて定容とし、検量線用溶液とともにICP発光分光分析装置で測定することにより、窒化珪素質焼結体を構成する成分の金属元素の各含有量を求めることができる。
【0018】
この値を基に、Si以外の成分、例えば、Al,Ca,MgおよびRE(希土類元素)については、それぞれ酸化物に換算することにより、酸化アルミニウム(Al),酸化カルシウム(CaO),酸化マグネシウム(MgO)および希土類元素の酸化物(RE)の各含有量を求めることができる。また、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,MoおよびWについては、それぞれ珪化物に換算することにより、珪化クロム(CrSi),珪化マンガン(MnSi),珪化鉄(FeSi),珪化コバルト(CoSi),珪化ニッケル(NiSi),珪化モリブデン(MoSi)および珪化タングステン(WSi)の各含有量を求めることができる。
【0019】
また、窒化珪素の含有量は、Al,Ca,Mg,RE,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,MoおよびWの各含有量を測定して、それぞれ酸化アルミニウム,酸化カルシウム,酸化マグネシウムおよび希土類元素の酸化物ならびに珪化クロム,珪化マンガン,珪化鉄,珪化コバルト,珪化ニッケル,珪化モリブデンおよび珪化タングステンに換算し、100質
量%から酸化アルミニウム,酸化カルシウム,酸化マグネシウムおよび希土類元素の酸化物の各含有量と、珪化鉄,珪化コバルト,珪化ニッケル,珪化モリブデンおよび珪化タングステンの各含有量との合計を引いた値を窒化珪素の含有量としてもよい。
【0020】
図1は、本実施形態の窒化珪素質焼結体にX線を照射して得られる、(a)は内部、(b)は、研磨された表面をX線回折した結果を示す図の一例である。
【0021】
図1に施した○印および△印は、それぞれβ−窒化珪素の(101)面,(210)面の回折強度I(101),I(210)である。
【0022】
そして、図1に示す例のように、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、X線回折法を用いて得られる、β−窒化珪素の(101)面および(210)面のそれぞれの回折強度をI(101
),I(210)としたとき、内部における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも
小さく、研磨された表面における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも大きいことが重要である。回折強度の比I(101)/I(210)をこのような関係にすると、内部から表面に向かって結晶の配向性が変化するので、内部および表面における回折強度の比I(101)/I(210)が1よりも小さい場合に比べて、表面における破壊靱性は低くなり、加工効率が高くなる傾向にある。なお、ここでいう研磨された表面とは、焼成してできた窒化珪素質焼結体の表面を深さ方向に10μm以上60μm以下研磨することによってできた面であることが好ましい。
【0023】
特に、回折強度の比I(101)/I(210)は、上述の関係を維持した上で、内部における回折強度の比I(101)/I(210)と研磨された表面における回折強度の比I(101)
/I(210)との差が0.65以上であり、内部における回折強度の比I(101)/I(210)
が0.45以下であることが好適である。このようにすると、内部における破壊靱性が高くなり、研磨された表面における破壊靱性が内部の破壊靱性よりも低くなって、加工効率および機械的特性ともに高い焼結体となりやすい。
【0024】
なお、窒化珪素質焼結体を構成するβ−窒化珪素の同定については、X線回折法を用い、PDF(登録商標)Number:00−033−1160で示されるカードと照合すればよい。
【0025】
また、研磨された表面とは、例えば、ラップ研磨,ポリッシング研磨,バレル研磨およびバフ研磨等によって得られる面であり、表面の算術平均粗さRaは、光の反射率に影響を及ぼして色調が変わるため、光沢を有する黒色を得るにあたっては、表面の算術平均粗さRaを0.03μm以下としておくことが好ましい。
【0026】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、研磨された表面における炭素の含有量が0.3
質量%以下(但し、0質量%を除く)であることが好適である。炭素の含有量が0.3質量
%以下であるときには、炭素が窒化珪素に拡散して固溶体を形成して焼結を促進するため、硬度を高くすることができるとともに、炭素の呈する黒色により、無彩色化の傾向が僅かに現れて色むらが抑制されると思われ、窒化珪素質焼結体が、例えば、装飾部品として用いられる場合にはクロマティクネス指数a*およびb*ならびに以下の式(A)で規定される色調感の差である色差(△E*ab)を小さくすることができるので、装飾部品間で発生する色差をほとんど感じることのない好ましい極黒色とすることができる。特に、破壊靱性や硬度等の機械的特性を十分高くすることができるという観点から、研磨された表面における炭素の含有量は0.1質量%以上であることが好適である。
△E*ab=((△L*)+(△a*)+(△b*)))1/2・・・(A)
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、研磨された表面における開気孔率が0.5%以
下であることが好適である。開気孔率が0.5%以下であるときには、気孔が形成する輪郭
による色むらが減少して表面における色調が濃くなるため、明度指数L*の値が小さくなり、窒化珪素質焼結体が、例えば、装飾部品として用いられる場合には、より質感が増すため、高い美的満足感を得られやすくなる。
【0027】
なお、研磨された表面における開気孔率は、以下のようにして算出する。まず、光学顕微鏡を用いて、倍率を200倍にしてCCDカメラで装飾面の画像を取り込む。次に、画像
解析装置((株)ニレコ製LUZEX−FS等)により、画像内の1視野の測定面積を2.25×10−2mm,測定視野数を20,つまり測定総面積を4.5×10−1mmとして、当
該測定総面積における開気孔の面積を求める。当該開気孔の面積を測定総面積で除して、測定総面積における当該開気孔の面積の割合を表面の開気孔率とする。これにより、表面における開気孔率を算出することができる。
【0028】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、研磨された表面における開気孔の最大開口径が0.1mm以下であることが好適である。表面における開気孔の最大開口径が0.1mm以下であると、開気孔が形成する輪郭によって他の部分との違いによる色むらが減少するとともに、例えば、この窒化珪素質焼結体を腕時計用バンド駒として用いると、隣り合うバンド駒との色調の違いがほとんどなくなるため、部品交換をしても違和感を低減できる。
【0029】
特に、研磨された表面における開気孔の最大開口径が0.05mm以下であることがより好適である。
【0030】
開気孔の最大開口径については、光学顕微鏡を用いて測定することができる。
【0031】
具体的には、倍率を100倍とし、窒化珪素質焼結体の研磨された表面から1箇所当たり
の面積を1235μm×926μmに設定した範囲を5箇所抜き取り、その中で最も大きい開気
孔の径を測定することで求められる。
【0032】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、表面の算術平均粗さRaを0.06μm以上0.25μm以下とすることが好ましい。
【0033】
この様な表面状態であれば、表面全体が適度に荒れた状態となり、開気孔が部分的に集中した場合でも、開気孔の輪郭が見えにくくなり色むらが生じることを抑制することができる。また、このような表面状態であれば、窒化珪素質焼結体の親水性がさらに向上するので、皮脂に由来する油成分の汚れなどが付着しにくくなり、清潔感が保たれやすくなる。
【0034】
さらに、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、表面の粗さ曲線から求められるクルトシス(Rku)が2.5以上4.5以下であることが好ましい。
【0035】
このような表面状態であれば、開気孔によって形成される輪郭にも山や谷となっている先端部分が、適度に丸みを帯びたものと尖りを帯びたものに分散されていることから、輪郭の境目がさらに薄れた状態となって色むらをさらに抑制することができる。
【0036】
表面の算術平均粗さRaおよびクルトシス(Rku)はJIS B 0601−2001(ISO
4287−1997)に準拠して測定すればよく、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5m
mおよび0.8mmとし、触針式の表面粗さ計を用いて測定する場合であれば、例えば、窒
化珪素質焼結体の研磨された表面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均粗さRaおよ
びクルトシス(Rku)の値とする。
【0037】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体の構成成分である窒化珪素は、組成式がSi6−ZAl8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンであることが好適である。組成式がSi6−ZAl8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロン
とは、β−Si内にAl,O,N成分が固溶した結晶から構成されるものであり、固溶量zの値が上記範囲内であるβ−サイアロンであるときには、異常に成長した柱状結晶が少なくなるため、強度がほとんど低下せず、また、β−Siの結晶対称性がほとんど損なわれていないため、熱伝導率が低下しにくく、摺動を伴う装飾部品として用いられる場合には、摩擦熱の発生に伴う局部的な温度上昇を抑制することができる。特に、固溶量zは0.35以上0.70以下であることがより好適である。
【0038】
ここで、固溶量zは、次のようにして算出することができる。まず、ASTM E 11−61に記載されている粒度番号が200のメッシュを通過するまで試料を粉砕し、得られた粉
末に粉末X線回折法における回折角の角度補正用サンプルである高純度α−窒化珪素粉末(宇部興産製E−10グレード、アルミニウム含有量は20質量ppm以下)を60質量%添加して乳鉢にて均一になるように混合し、粉末X線回折法により解析範囲2θを33〜37°とし、走査ステップ幅を0.002°として、Cu−Kα線(λ=1.54056Å)にてプロファイル強度を測定する。なお、角度の補正は、角度補正用サンプルより得られるピークの最大値を用いて補正する。
【0039】
そして、2θ=34.565°付近に現れるα(102)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと34.565°との差(Δ2θ)、および2θ=35.333°付近に現れるα
(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θと35.333°との差(Δ2θ)をそれぞれ求め、その差の平均(Δ2θ+Δ2θ)/2を補正Δ2θとする。
【0040】
次に、2θ=36.055°付近に現れるβ(210)の0.002°毎に得られるピーク強度の上位10点の平均2θを補正Δ2θによって補正した角度を試料のβ(210)のピーク位置(2
θβ)とする。そして、ピーク位置(2θβ),λ=1.54056Å,(hkl)=(210)を以下の数式に代入して格子定数a(Å)を算出する。
sinθβ=λ(h+hk+k)/(3a)+λ/(4c
この数式で、算出した格子定数a(Å)と、K. H. Jack,J. Mater. Sci.,11(1976)1135−1158,Fig. 13に記載された格子定数a(Å)−固溶量zのグラフとから、固溶量
zを求めることができる。
【0041】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、研磨された表面のうち、装飾性が求められる面(以下、装飾面という。)の可視光線領域における反射率が13.6%以下であることが好適である。可視光線領域における反射率が13.6%以下であると、可視光線に対する反射が抑制されているので、可視光線に対する反射の抑制が求められる装飾部品として用いることができる。
【0042】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間におけるクロマティクネス指数a*およびb*がそれぞれ−0.5以上+0.5以下および−1.0以
上+1.0以下であることが好適である。クロマティクネス指数a*およびb*がこの範囲
であると、装飾面は洗練された印象を醸し出すことができるので、本実施形態の窒化珪素質焼結体を装飾部品として用いると、視覚を通じて、高級感,美的満足感および精神的安らぎを得ることができる。
【0043】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、装飾面のCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*が40以上45以下であることが好適である。明度指数L*がこの範囲であると、極黒色の色調にほどよい明るさが発現できるので、神々しい黒色が得られるため、高級感が増して、美的満足感もより高くなり、より精神的安らぎを得ることができる。
【0044】
上記装飾面の可視光線領域における反射率ならびにCIE1976L*a*b*色空間における明度指数L*の値およびクロマティクネス指数a*,b*の値は、JIS Z 8722−2000に準拠して測定することで求められる。例えば、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d等)を用い、光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を5mm×7mmに設定して測定することができる。
【0045】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体は、希土類元素の酸化物を構成する希土類元素(RE)が、ランタノイド系元素(La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)であることが好適であり、熱伝導率が高いセラミックスとするには、この中でもエルビウム(Er),イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)の少なくとも1種であることが好適である。その理由は、エルビウム(Er),イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)は、周期表第3族元素の中でイオン半径が小さい元素であることから、組成式がSi6−ZAl8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンを構成する元素であるSi,O,Nとの結合が強
いためにフォノンの伝達がよく、熱伝導率を高くすることができるからである。併せて、エルビウム(Er),イッテルビウム(Yb)およびルテチウム(Lu)は、Si,O,Nとの結合が強いために熱エネルギーによる格子振動が小さく、温度変化による体積膨張が小さいので、熱膨張係数を小さくすることができ、耐熱衝撃特性を高くすることができるからである。
【0046】
図2(a)〜(f)は、それぞれ本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた装飾部品の一例を示す、装飾面を平面視した模式図である。
【0047】
図2(a)〜(f)に示す装飾部品3は、装飾面を平面視して、極黒色を呈する本実施形態の窒化珪素質焼結体からなる装飾部材1と、装飾部材1と異なる色調の装飾面を有する装飾部材2とが並べて配置されているものの例である。装飾部材1および装飾部材2の形状として、図2(a)はいずれも三角形状であり、(b)はいずれも四角形状であり、(c)はいずれも平行四辺形状であり、(d)は六角形状と三角形状との組み合わせであり、(e)は八角形状と四角形状との組み合わせであり、(f)は四角形状の装飾部材1と装飾部材1の周囲を囲んだ装飾部材2との組み合わせである。
【0048】
また、装飾部材2の色調が黄金色であれば、装飾部材1の呈する色調の極黒色との組み合わせによって、視認性が高まり、遠方からの視認が求められる用途、例えば、案内板等の表示部品として好適に用いることができる。さらに、装飾部材2の色調が銀色であれば、より高級感に溢れた装飾性を高めることができる。
【0049】
なお、装飾部材2は、装飾部材1と異なる色調で装飾性を高めるものであればよいため、材質は問わず、また、装飾部材1および装飾部材2の形状や組み合わせについては、これらの図2(a)〜(f)に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0050】
また、本実施形態の装飾部品の他の例である時計用装飾部品は、上記構成の本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いたことを特徴とし、その例としては、時計用ケースや時計用バンド駒がある。
【0051】
図3は本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用ケースの一例を示しており、(a)は時計用ケースを表側から見た斜視図であり、(b)は(a)の時計用ケースを裏側から見た斜視図である。また、図4は本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用ケースの他の例を示す斜視図である。また、図5は本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用裏蓋の一例を示す底面図である。また、図6は本実施形態の窒化珪素質焼結体を用いた時計用装飾部品である時計用バンドの構成の一例を示す模式図である。なお、これらの図において同じ部位を示す場合は同じ符号を付してある。
【0052】
図3(a)および(b)に示す時計用ケース10Aは、図示しないムーブメント(駆動機構)を収容する凹部11と、腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えており、凹部11は厚みの薄い底部13と厚みの厚い胴部14とからなる。また、図4に示す時計用ケース10Bは、図示しないムーブメント(駆動機構)が入る穴部15と、胴部14に形成された腕に時計を装着するための時計用バンド(図示しない)を固定する足部12とを備えている。
【0053】
図5に示す時計用裏蓋17は、周辺側に設けられた複数の取付け孔18にネジ(図示しない)を介して、例えば図4に示す時計用ケース10Bの裏側から取り付けられている。
【0054】
図6に示す時計用バンド50を構成するバンド駒は、ピン40が挿入される貫通孔21を有する中駒20と、中駒20を挟むようにして配置され、ピン40の両端が差し込まれるピン穴31を有する外駒30とから構成されており、中駒20の貫通孔21にピン40が挿入され、挿入されたピン40の両端が外駒30のピン穴31に差し込まれることにより、中駒20と外駒30とが順次連結されて時計用バンド50が構成されている。
【0055】
これら、時計用ケース10A,10B,時計用裏蓋17および時計用バンド50を構成するバン
ド駒として用いられる本実施形態の装飾部品は、本実施形態の窒化珪素質焼結体からなるものであることから、時計としての高級感,美的満足感を十分に得ることができ、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができるとともに、加工効率が高くなることにより、生産効率を高くすることができるので、付加価値の高い装飾部品とすることができる。
【0056】
なお、本実施形態の時計用装飾部品は、手首に装着するタイプの心拍計および脈拍計用装飾部品も含むものとする。
【0057】
また、本実施形態の窒化珪素質焼結体では、装飾面のビッカース硬度(Hv)が長期信頼性に影響を与える要因の一つとなり、ビッカース硬度(Hv)が13GPa以上であることが好ましい。ビッカース硬度(Hv)をこの範囲にすると、装飾面は傷が入りにくくなるので、ガラスまたは金属からなる塵埃のような硬度の高い物質と接触しても装飾面に容易に傷が生じることがないからである。この装飾面のビッカース硬度(Hv)はJIS R 1610−2003に準拠して測定することができる。
【0058】
また、破壊靱性は加工特性および装飾面の耐磨耗性に影響し、両方の特性を兼ね備えた焼結体とするには、本実施形態の窒化珪素質焼結体では6.5MPa・m1/2以上8MP
a・m1/2以下であることが好ましい。この破壊靱性はJIS R 1607−1995で規定する圧子圧入法(IF法)に準拠して測定することができる。
【0059】
窒化珪素質焼結体が身に付けて用いられるようなものである場合は、軽い方が好まれるため、本実施形態の窒化珪素質焼結体では、その見掛け密度は3.4g/cm以下(0g
/cmを除く)であることが好適であり、この見掛け密度はJIS R 1634−1998に準拠して測定される。また、水銀,ニッケル,錫,亜鉛およびパラジウム等のアレルギー金属は、皮膚に長時間触れると、皮膚が炎症を起こすおそれがあるので、その含有量は少ない方が好ましく、これらアレルギー金属は窒化珪素質焼結体100質量%に対して、それぞ
れの含有量は0.1質量%以下であり、合計で0.5質量%以下であることが好適である。このようなアレルギー金属の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分光分析法で測定することができる。
【0060】
次に、本実施形態の窒化珪素質焼結体および装飾部品のそれぞれの製造方法の一例について説明する。
【0061】
まず、β化率が40%以下であって、組成式がSi6−ZAl8−Zで表される、固溶量zが0.5以下である、アスペクト比の平均値が1.4以上である窒化珪素の粉末と、焼結助剤として酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物の各粉末とを、バレルミル,回転ミル,振動ミル,ビーズミルまたはアトライター等を用いて湿式混合し、粉砕してスラリーとする。なお、組成式がSi6−ZAl8−Z(z=0.1〜1)で表されるβ−サイアロンである窒化珪素を主成分とする柱状結晶を得るには、
固溶量zが0.05以上0.5以下である窒化珪素の粉末を用いればよい。
【0062】
ここで、焼結助剤である酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物の各粉末の合計は、窒化珪素質粉末とこれら焼結助剤の粉末の合計との総和を100質量%
としたときに、3質量%以上18.2質量%以下になるようにすればよく、また各焼結助剤の含有量は、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび希土類元素の酸化物の合計100質量
%に対して、酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムの含有量はそれぞれ0.3質量%以上1.5質量%以下,14.2質量%以上48.8質量%以下であって、残部を希土類元素の酸化物とすればよい。また、窒化珪素の粉末とこれら焼結助剤の粉末の合計に対して、酸化第2鉄および酸化タングステンの各粉末をそれぞれFe換算で0.2質量%以上3質量%以下,W換
算で0.1質量%以上3質量%以下添加してもよい。
【0063】
なお、添加した酸化第2鉄および酸化タングステンの各粉末は、後述する焼成で主相である窒化珪素と反応して、酸素を脱離し、鉄およびタングステンの珪化物をそれぞれ生成する。
【0064】
また、他の例としては、焼結助剤の含有量を、酸化アルミニウム,酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムの合計100質量%に対して、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウ
ムの含有量はそれぞれ12質量%以上22質量%以下,20質量%以上33質量%以下であって、残部が酸化カルシウムとする。
【0065】
ところで、窒化珪素には、その結晶構造の違いにより、α型およびβ型という2種類の窒化珪素が存在する。α型は低温で、β型は高温で安定であり、1400℃以上でα型からβ型への相転移が不可逆的に起こる。ここで、β化率とは、X線回折法で得られたα(102
)回折線とα(210)回折線との各ピーク強度の和をIα、β(101)回折線とβ(210)
回折線との各ピーク強度の和をIβとしたときに、次の式によって算出される値である。β化率={Iβ/(Iα+Iβ)}×100(%)
窒化珪素の粉末のβ化率は、窒化珪素を主成分とするセラミックスの強度および破壊靱性値に影響する。β化率が40%以下の窒化珪素の粉末を用いるのは、強度および破壊靱性値をともに高くすることができるからである。β化率が40%を超える窒化珪素の粉末は、焼成工程で粒成長の核となって、粗大で、しかもアスペクト比の小さい結晶となりやすく、強度および破壊靱性値が低下するおそれがある。そのため、特に、β化率が10%以下の窒化珪素の粉末を用いるのが好ましく、これにより、固溶量zを0.05以上にすることができる。
【0066】
また、固溶量zは、本実施形態の窒化珪素質焼結体の熱伝導率に影響し、固溶量zが0.5以下の粉末を用いるのは、焼結後にアスペクト比が5以上の柱状結晶が得られ、窒化珪
素質焼結体の強度および熱伝導率をともに高くすることができるからである。
【0067】
窒化珪素の粉末の粉砕で用いるボールは、窒化珪素質,ジルコニア質およびアルミナ質等の各種焼結体からなるボールを用いることができるが、不純物が混入しにくい材質、あるいは同じ材料組成の窒化珪素質焼結体からなるボールが好適である。
【0068】
なお、窒化珪素の粉末の粉砕は、粒度分布曲線の累積体積の総和を100%としたときの
累積体積が90%となる粒径(D90)が3μm以下となるまで粉砕することが、焼結性の向上および結晶組織の柱状化の点から好ましい。なお、粉砕によって得られる粒度分布は、ボール等の外径,ボール等の量,スラリーの粘度,粉砕時間等で調整することができる。
【0069】
そして、短時間で粉砕するには、予め累積体積50%となる粒径(D50)が1μm以下の粉末を用いることが好ましい。
【0070】
次に、ASTM E 11−61に記載されている粒度番号が200のメッシュまたはこのメッ
シュより細かいメッシュの篩いにスラリーを通し、異物を除去した後に、このスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、顆粒にする。
【0071】
そして、得られた顆粒と可塑性樹脂とをニーダに投入し、加熱しながら混練して得られた坏土をペレタイザーに投入することによって、インジェクション成形用の原料となるペレットを得る。なお、ニーダに投入する熱可塑性樹脂としては、エチレン酢酸ビニル共重合体やポリスチレンやアクリル系樹脂などを、得られた顆粒100質量部に対して10質量%
以上35質量%以下で添加すればよい。また、ニーダの混練の条件として、加熱温度は140
℃以上180℃以下に設定すればよく、圧力等のその他の条件は、用いるセラミックスの原
料、熱可塑性樹脂や添加材の種類に応じて適宜設定すればよい。得られたペレット状の混練体を所定形状の成形型を備えた射出成形機を用いて、射出成形機に付属しているシリンダーの温度を約150℃に加熱して混練体を溶融させ、例えば、加圧力,加圧時間および射
出速度をそれぞれ50MPa以上200MPa以下,10秒以上180秒以下,50cm/秒以上1000cm/秒以下として成形することにより、所望の成形体を得ることができる。
【0072】
ここで、窒化珪素質焼結体の研磨された表面における回折強度の比I(101)/I(210)を1よりも大きくするには、溶融させた混練体と接する表面が予め放電加工によって算術平均粗さRaが制御された成形型を用いることにより、成形型の表面近傍における、混練体を構成する結晶粒子の向きを変えることにより、窒化珪素質焼結体の内部における窒化珪素の結晶粒子の向きと研磨された表面の窒化珪素質焼結体とを異ならせるようにすることが好ましい。さらに好ましくは、その表面のクルトシスRkuの数値を3より大きくすればさらに混練体を構成する結晶粒子の向きを容易に変えられるので良い。
【0073】
また、表面における開気孔率が0.5%以下である窒化珪素質焼結体を得るには、予め累
積体積50%となる粒径(D50)が1μm以下の窒化珪素の粉末を用いればよい。
【0074】
また、表面における開気孔の最大開口径が0.1mm以下である窒化珪素質焼結体を得る
には、例えば、上記加圧力を120MPa以上とすればよい。
【0075】
得られた成形体は、窒素雰囲気中または真空雰囲気中などで、例えば保持時間を15時間以上48時間以下で脱脂する。脱脂温度は、添加した有機バインダの種類によって異なるが、900℃以下がよく、特に500℃以上800℃以下とすることが好適である。また、窒化珪素
質焼結体の表面における含有量は、脱脂における保持時間によって制御することができ、炭素の含有量を0.3質量%以下とするには、保持時間を、例えば、24時間以上48時間以下
とすればよい。
【0076】
次に、一般的な窒化珪素質成形体の焼成に用いる黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に成形体を配置し、焼成する。温度については、室温から300〜1000℃までは真空雰囲気
中にて昇温し、その後、窒素ガスを導入して、窒素分圧を10〜2000kPaに維持する。このとき成形体の開気孔率は40〜55%程度であるため、成形体中には窒素ガスが十分充填される。昇温を続けると、1000〜1400℃付近では上記含有成分が固相反応を経て、液相成分を形成し、約1400℃以上の温度域で、β−サイアロンを析出する。そして、微細な結晶組織を得るには、さらに昇温を続け、焼成温度を1700℃以上1800℃未満として、10〜15時間保持すればよい。
【0077】
また、成形体の配置方法として、成形体を窒化珪素または炭化珪素を主成分とする粉末中に埋設する方法を用いれば、電気炉において大気中で焼成することができる。このような方法を用いると、成形体をそれら粉末中に埋設したことにより大気中の酸素ガスは遮断され、実質的に焼成雰囲気は窒素雰囲気となる。
【0078】
そして、得られた焼結体は、表面を必要に応じてラップ加工した後、バレル研磨することにより、本実施形態の装飾部品を得ることができる。
【0079】
ここで、装飾面となる表面の算術平均粗さRaを0.06μm以上0.25μm以下として調整するには、錫製のラップ盤を用いて、例えば平均粒径が1.5μm以上3μm以下のダイヤ
モンド砥粒を用い、ラップ加工時間を2時間以上6時間以下とすればよい。また、算術平均粗さRaを0.03μm以下とするためには、平均粒径が1μm以下のダイヤモンド砥粒を用い、ラップ加工時間を4時間以上15時間以下とすればよい。
【0080】
また、表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.25μm以下であり、かつ表面の粗さ曲線から求められるクルトシス(Rku)を2.5以上4.5以下とするには、回転バレル研磨機を用いて加工すればよい。例えば、メディアとしては、5〜10mmの大きさの球状、三角柱状、菱形状、円柱状および斜円柱状などから選択し、砥粒としては、番手が#80〜#8000であるグリーンカーボランダム(GC)を回転バレル研磨機に投入し、湿式で10時間以上行なえばよい。また、算術平均粗さRaを0.03μm以下とするためには、砥粒の番手を#3000〜#8000とすればよい。また、表面の算術平均粗さRaを0.06μm以上0.25μm以
下とするためには、砥粒の番手を#120〜#2000とし、さらに表面の粗さ曲線から求めら
れるクルトシス(Rku)を2.5以上4.5以下とするためには、バレル時間を14時間以上30時間以下とすればよい。
【0081】
以上のようにして得られる本実施形態の装飾部品は、特に美しい色調として評価の高い極黒色を呈し、高級感があって、美的満足感を得ることができ、その結果、視覚を通じて精神的安らぎを得ることができるので、上述のように、時計用ケース,時計用バンド駒等の時計用装飾部品や携帯電話機,ノート型パーソナルコンピュータ,スマートフォン等の携帯端末機用装飾部品を始め、石鹸ケース,コーヒーカップセット,ナイフ,フォーク,ハブラシやカミソリの柄,耳かき,ハサミ,印材や名刺等の生活部品用装飾部品や、メーカー名や車種名等のエンブレムやコーナーポール等の車両用装飾部品や、ゴルフクラブやスパイクシューズを装飾するスポーツ用品用装飾部品や、ギター等を装飾する楽器用装飾部品や、イヤホンユニットの装飾や人工歯冠,めがね,ブローチ,ネックレス,イヤリング,リング,ブレスレット,アンクレット,ネクタイピン,タイタック,メダル,ボタン等の装身具用装飾部品や、ヘッドホンまたは補聴器用筐体などの音響機器用部品や、床,壁,天井を飾るタイルあるいはドアハンドル用のグリップ等の建材用装飾部品として好適に用いることができる。また、時計と携帯電話とが複合化され、両者の機能を兼ね備えた腕時計型携帯電話機用装飾部品としても好適に用いることができる。
【0082】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0083】
まず、平均粒径が0.6μmであって、アスペクトの平均値が1.4である窒化珪素の粉末が85質量%と、残部が焼結助剤として、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムの各粉末とを用意した。そして、窒化珪素質焼結体における酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムの各含有量が、酸化カルシウム,酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムの合計100質量%に対して、それぞれ0.9質量%,31.5質量%、残部が希土類元素の酸化物からなるように秤量した混合粉末を溶媒である水と窒化珪素質からなるボールともに振動ミルに投入して、振動ミルを用いて72時間粉砕混合し、スラリーを作製した。なお、窒化珪素の粉末は、β化率が10%であって、いずれの試料も組成式Si6−ZAl8−Zにおける固溶量zが0.05である窒化珪素の粉末を用いた。
【0084】
次に、これらのスラリーをスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、顆粒を作製した。
【0085】
そして、得られた顆粒100質量%に対し、アクリル系樹脂、ポリスチレン、エチレン−
酢酸ビニル共重合体、ステアリン酸、及びフタル酸ブチル(DBP)を合計で25質量%加えてニーダに投入し、150℃に加熱しながら混練して得られた坏土をペレタイザーに投入
することによって、インジェクション成形用の原料となるペレットを得た。得られたペレット状の混練体を、図6に示す例の腕時計用バンドの中駒20を成形するための成形型を備えた射出成形機を用いて、射出成形機に付属しているシリンダーの温度を150℃に加熱し
て混練体を溶融させ、加圧力,加圧時間および射出速度をそれぞれ100MPa,100秒,50
0cm/秒として成形することにより、所定形状の成形体を得た。
【0086】
なお、成形型は、各試料毎に変更し、溶融した混練体と接する、成形型の表面の算術平均粗さRaは、表1に示す値に成るように加工した成形型を用いた。
【0087】
次に、600℃の窒素雰囲気中で、保持時間を20時間としてポリビニルアルコール(PV
A)を脱脂した後、黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に配置し、窒素分圧を110kP
aに維持した状態で、窒素分圧,焼成温度および保持時間をそれぞれ200kPa,1780℃
,10時間として焼成し、焼結体を得た。ここで、各焼結体の表面の算術平均粗さRaを
測定し、その値を表1に示した。なお、算術平均粗さRaはJIS B 0601−2001(ISO 4287−1997)に準拠して測定し、測定長さおよびカットオフ値をそれぞれ5mmおよ
び0.8mmとし、焼結体の表面に、触針先端半径が2μmの触針を当て、触針の走査速度
は0.5mm/秒に設定し、この測定で得られた5箇所の平均値を算術平均粗さRaの値と
した。
【0088】
そして、得られた焼結体の表面をバレル研磨して、図6に示す例の腕時計用バンドの中駒20である試料No.1〜4を得た。なお、いずれの試料も装飾面の算術平均粗さRaは、0.03μm以下であった。装飾面の算術平均粗さRaは、上述した方法と同じ方法で測定した。
【0089】
そして、各試料の内部および研磨された表面における、β−窒化珪素の(101)面およ
び(210)面のそれぞれの回折強度I(101),I(210)を、X線回折法を用いて測定し
、回折強度の比I(101)/I(210)を算出した。
【0090】
また、JIS JIS R 1607−2010(ISO 15732−2003(MOD))で規定される
圧子圧入法(IF法)に準拠して各試料の破壊靭性を測定した。
これらの値を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示す結果から分かるように、試料No.2〜4は、内部における回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも小さく、研磨された表面における回折強度の比I(101)
/I(210)は1よりも大きいことから、内部および上記表面における回折強度の比I(101)/I(210)が1よりも小さい試料No.1と比べ、上記表面における破壊靱性は低
くなり、加工効率が高くなるといえる。
【実施例2】
【0093】
実施例1で示した方法と同じ方法で成形体を作製した。なお、いずれの試料も、溶融した混練体と接する表面の算術平均粗さRaが0.12μmである成形型を備えた射出成形機を用いた。
【0094】
次に、600℃の窒素雰囲気中、表2に示す保持時間でポリビニルアルコール(PVA)
を脱脂した後、黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に配置し、窒素分圧を110kPaに
維持した状態で、窒素分圧,焼成温度および保持時間をそれぞれ200kPa,1780℃,10
時間として焼成し、焼結体を得た。
【0095】
そして、得られた焼結体の表面をバレル研磨して、図6に示す例の腕時計用バンドの中駒20である試料No.5〜8を得た。なお、いずれの試料も表面の算術平均粗さRaは、0.03μm以下であり、実施例1で示した方法と同じ方法で測定した。
【0096】
また、JIS Z 8722−2000に準拠して、分光測色計(コニカミノルタホールディングス(株)製CM−3700d)の光源をCIE標準光源D65,視野角を10°,測定範囲を3×5mmに設定して各試料の装飾面における明度指数およびクロマティクネス指数を測定した。そして、試料No.8を標準試料として、試料No.8に対する各試料の色差を上述した式(A)を用いて算出した。
【0097】
結果を表2に示す。
【0098】
【表2】

【0099】
表2に示す結果から分かるように、試料No.6,7は、表面における炭素の含有量が0.3質量%以下であることから、炭素が窒化珪素に拡散して固溶体を形成して焼結を促進
しているため、炭素の呈する黒色により、無彩色化の傾向が僅かに現れて色むらが抑制されていると思われ、色調感の差である色差(△E*ab)を小さくすることができているので、装飾部品間で発生する色調感の差をほとんど感じることがないといえる。
【実施例3】
【0100】
実施例1で示した方法と同じ方法で成形体を作製し、実施例2で示した焼成条件で焼成して焼結体を得た。
【0101】
そして、得られた焼結体の表面をバレル研磨して、図6に示す例の腕時計用バンドの中駒20である試料No.9〜12を得た。なお、いずれの試料も装飾面の算術平均粗さRaは、0.03μm以下であり、実施例1で示した方法と同じ方法で測定した。
【0102】
また、各試料の明度指数とクロマティクネス指数については、実施例2で示した方法と同じ方法を用いて測定した。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示す結果から分かるように、試料No.9〜11は、表面における開気孔率が0.5%以下であることから、気孔が形成する輪郭による色むらが減少して表面における色調が濃くなるため、明度指数L*の値が小さくなり、窒化珪素質焼結体が装飾部品として用いられる場合には、より質感が増すため、高い美的満足感を得られるといえる。
【実施例4】
【0105】
実施例1で示した方法と同じ方法で成型体を作製した。なお、成形については、いずれの試料も、溶融した混練体と接する表面の算術平均粗さRaが0.14μmである成形型を備えた射出成形機を用いて、加圧時間および加圧時間をそれぞれ100秒,500cm/秒とし、表4に示す加圧力で成形することにより、成形体を得た。
【0106】
次に、600℃の窒素雰囲気中、保持時間を20時間としてポリビニルアルコール(PVA
)を脱脂した後、黒鉛抵抗発熱体が設置された焼成炉内に配置し、窒素分圧を110kPa
に維持した状態で、窒素分圧,焼成温度および保持時間をそれぞれ200kPa,1780℃,10時間として焼成し、焼結体を得た。
【0107】
そして、得られた焼結体の表面をバレル研磨して、図6に示す例の腕時計用バンドの中駒20である試料No.13〜16を得た。なお、いずれの試料も装飾面の算術平均粗さRaは、0.03μm以下であり、実施例1で示した方法と同じ方法で測定した。
【0108】
【表4】

【0109】
表4に示す結果から分かるように、試料No.13〜15は、表面における開気孔の最大開口径が0.1mm以下であることから、開気孔が形成する輪郭によって他の部分との違いに
よる色むらが減少するとともに、この窒化珪素質焼結体が腕時計用バンド駒として用いられると、色調感の差である色差(△E*ab)を小さくすることができるので、隣り合うバンド駒との色調の違いがほとんどなくなるため、部品交換をしても違和感を覚えるようなことがないといえる。
【符号の説明】
【0110】
1:装飾部材
2:装飾部材
3:装飾部品
10A,10B:時計用ケース
11:凹部
12:足部
13:底部
14:胴部
15:穴部
17:時計用裏蓋
20:中駒
21:貫通孔
30:外駒
31:ピン穴
40:ピン
50:時計用バンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−窒化珪素を主成分としてなり、X線回折法を用いて得られる、β−窒化珪素の(101)面および(210)面のそれぞれの回折強度をI(101),I(210)としたとき、内部における前記回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも小さく、研磨された表面における前記回折強度の比I(101)/I(210)は1よりも大きいことを特徴とする窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
前記表面における炭素の含有量が0.3質量%以下(但し、0質量%を除く)であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
前記表面における開気孔率が0.5%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項4】
前記表面における開気孔の最大開口径が0.1mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項5】
前記表面の算術平均粗さRaが0.06μm以上0.25μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項6】
前記表面の粗さ曲線から求められるクルトシス(Rku)が2.5以上4.5以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体を用いたことを特徴とする装飾部品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−214372(P2012−214372A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−74076(P2012−74076)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】