説明

窒化珪素質焼結体及びその製造方法並びに窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法

【課題】 複数の部品を組み合わせてなる精密機器において、一方の部品を構成する窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を、他方の部品の熱膨張係数と一致させることのできる窒化珪素質焼結体及びその熱膨張係数の調整方法を提供する。
【解決手段】 母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相であることを特徴とする窒化珪素質焼結体である。粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体を用い、チタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整することを特徴とする熱膨張係数の調整方法である。粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体においては、窒化珪素質焼結体のチタン含有量と熱膨張係数との間に極めて良好な相関関係が存在し、チタン含有量の調整によって熱膨張係数を十数%の範囲で精密に調整することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器の部品に用いる窒化珪素質焼結体及びその製造方法並びに窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の精密加工技術におけるより高い加工精度に対する要求が高まるにつれて、精密加工機を構成する部材の材料についても、その寸法の安定性を保証することが重要になってきている。このため機構部材の材料には、従来になく高度な低熱膨張特性が求められるようになっている。
【0003】
低熱膨張材料としては、コーディエライトやユークリプタイトなどの珪酸塩化合物が用いられることが多い。ところが、精密機器を構成する部品とするためには、これら珪酸塩化合物はその剛性や強度などが十分でないという問題を有している。
【0004】
窒化珪素質セラミックスは、上記珪酸塩化合物ほどではないにしても比較的低熱膨張であり、熱膨張係数(室温〜500℃)は約3ppm/Kと低い。窒化珪素質セラミックスは何よりも、優れた機械的特性を有し、耐熱部品や耐摩耗部品として好適である。そのため、温度変化に対する膨張収縮を嫌う精密機器などの部品にも、窒化珪素質セラミックスが使用されている。
【0005】
特許文献1に記載の窒化珪素系焼結体は、母相となる窒化珪素が66〜99体積%のβ−Si34と残部のα−Si34とからなる。母相のα−Si34は、β−Si34結晶粒の異常成長抑制のためのものである。母相結晶粒内に平均粒径1〜100nm、および粒界相に平均粒径300nm以下のチタン化合物を含有することで、強度と破壊靭性を同時に向上させるとしている。
【0006】
また、特許文献2に記載の窒化珪素−窒化チタン系複合セラミックスは、窒化珪素をマトリックスとし、窒化チタン、炭化珪素の粒子および/またはウィスカが分散した複合セラミックス構造によって、強度と破壊靭性をともに向上させるとしている。
【0007】
窒化珪素質焼結体は、比較的熱膨張係数が低いといってもゼロではない。したがって特許文献3に記載のように、精密機器などの部品において、複数部品を締結して使用する際、それぞれの部品の熱膨張係数が異なると、わずかな温度変化によって発生する部品の膨張収縮により、締結された部品全体が歪む等の問題が発生する。この場合、複数部品のいずれも同一の熱膨張係数を有する材料を用いて形成することとすれば、温度変化に起因する歪の問題を解消することができる。従来は、複数部品を同一材質の材料で製造することにより、熱膨張係数を一致させていた。
【0008】
たとえば、特許文献4に記載のような半導体製造用のステージ装置において、位置決め用鏡面部品とテーブル部品とは組み合わせて使用するため、熱膨張係数が等しい材料を用いることが必要である。位置決め用鏡面部品には鏡面に加工することのできる気孔のない緻密な窒化珪素質セラミックスを用い、一方テーブル部品については、鏡面に加工する必要はないが、剛性が高い窒化珪素質セラミックスを用いている。位置決め用鏡面部品とテーブル部品は同じ窒化珪素質セラミックスで構成するため、熱膨張係数の値が近い値となり、締結された部品全体が温度変化によって発生する膨張収縮起因の歪が少なくて済む。
【0009】
【特許文献1】特開平6−100370号公報
【特許文献2】特開平8−245264号公報
【特許文献3】特開平8−1533に号公報
【特許文献4】特開2004−241670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、鏡面に加工することのできる気孔のない緻密な窒化珪素質セラミックスと剛性が高い窒化珪素質セラミックスはいずれも窒化珪素質セラミックスではあるが、0.01ppm/Kオーダーで熱膨張係数を評価すると両者の熱膨張係数には相違が存在する。同一材質においても添加剤の種類や量および処理方法がわずかに違うだけで、熱膨張係数に差異が認められるためであり、特許文献4に記載のような締結部品においてはこの程度の熱膨張係数の差を嫌うケースが出てきた。
【0011】
本発明は、複数の部品を組み合わせてなる精密機器において、一方の部品を構成する窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を、他方の部品の熱膨張係数と一致させることのできる窒化珪素質焼結体及びその製造方法並びに窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
窒化珪素質焼結体の熱膨張係数は、焼結体を構成する各含有成分の種類や含有量および製造方法によって微妙に相違する。従来、それら成分含有量を調整することによって熱膨張係数を任意に調整する方法は知られていなかった。
【0013】
それに対し本発明者らは、粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体においては、窒化珪素質焼結体のチタン含有量と熱膨張係数との間に極めて良好な相関関係が存在し、チタン含有量の調整によって熱膨張係数を十数%の範囲で精密に調整することが可能であることを見いだした。チタン含有量が多いほど熱膨張係数の値が大きくなる。
【0014】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、即ち、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相であることを特徴とする窒化珪素質焼結体。
(2)母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の窒化珪素質焼結体。
(3)含有元素が、珪素、アルミニウム及びチタンからなり、もしくは、珪素、アルミニウム、チタンに加え、マグネシウムとイットリウムの1種又は2種からなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の窒化珪素質焼結体。
(4)熱膨張係数の制御を必要とする精密機器の部品に用いることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれに記載の窒化珪素質焼結体。
(5)前記精密機器の部品がステージ装置を構成することを特徴とする上記(4)記載の窒化珪素質焼結体。
(6)複数の部品を組み合わせてなる精密機器であって、少なくとも一方の部品を粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体によって構成し、当該一方の部品と他方の部品との熱膨張係数を略一致させてなることを特徴とする精密機器。
(7)複数の部品を組み合わせてなる精密機器であって、少なくとも一方の部品を上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体によって構成し、当該一方の部品と他方の部品との熱膨張係数を略一致させてなることを特徴とする精密機器。
(8)前記窒化珪素質焼結体からなる部品がステージ装置を構成することを特徴とする上記(6)又は(7)に記載の精密機器。
(9)粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体を用い、該窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整することを特徴とする窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法。
(10)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体を用い、該窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整することを特徴とする窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法。
(11)アルミニウムの酸化物および21R型サイアロン(AlNポリタイプと呼ばれる固溶体)の少なくとも1種、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種の合計が0〜10質量%、チタンの化合物0.05〜2質量%および残部が窒化珪素からなる混合粉末を成形し、成形した物を不活性ガス雰囲気中1500〜1750℃の温度範囲で焼結することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
(12)前記焼結が、常圧焼成、ガス圧焼成、ホットプレス焼成、HIP焼成のいずれか、または、それらを組み合わせてなることを特徴とする上記(11)に記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体とし、チタン含有量の調整によって熱膨張係数を十数%の範囲で精密に調整することが可能である。これにより、複数の部品を組み合わせてなる精密機器において、一方の部品を構成する窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を、他方の部品の熱膨張係数と一致させることのできる窒化珪素質焼結体とすることができる。
【0016】
本発明の窒化珪素質焼結体は、母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相であることとすると好ましい。母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であると好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の窒化珪素質焼結体は、その粒界が非晶質のチタン化合物からなることを特徴とする。これにより、窒化珪素質焼結体のチタン含有量と熱膨張係数との間に極めて良好な相関関係が存在し、チタン含有量の調整によって熱膨張係数を十数%の範囲で精密に調整することが可能となる。チタン含有量が多いほど熱膨張係数の値が大きくなる。
【0018】
チタン化合物が母相粒内や粒界相に結晶として存在せず、非晶質相であることによって、空孔の少ない緻密な焼結体を得ることができる。粒界を構成するチタン化合物が非晶質相であることにより、その含有量と窒化珪素質焼結体の熱膨張係数との間に極めて良好な相関が生まれ、熱膨張係数の精密な調整が可能になったものと考えられる。
【0019】
チタン化合物の添加量は、酸化チタン質量%換算で2質量%以下、好ましくは1質量%以下である。2質量%を超えると、チタン化合物粒子同士の合体が起こり、結晶化するため緻密化を阻害する。
【0020】
粒界のチタン化合物の存在形態としては、アルミニウムの酸化物および21R型サイアロンの少なくとも1種類、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種から形成される相になっている。
【0021】
粒界のチタン化合物を非晶質相とするためには、添加するチタン化合物の平均粒径が0.5〜2μmの粉末を用い、2質量%以下の添加量とし、1500〜1750℃の範囲で焼結せしめることが必要である。
【0022】
粒界がチタン化合物の非晶質相になっている点については、X線回折によって確認することができる。
【0023】
本発明の窒化珪素質焼結体は、好ましくは母相の窒化珪素が安定相であるβ−Si34からなる。窒化珪素質焼結体を製造する際に使用する窒化珪素粉末を他の原料と混合して焼結することにより、母相の窒化珪素をβ−Si34とすることができる。
【0024】
母相の窒化珪素がβ−Si34となっている点については、X線回折によって確認することができる。
【0025】
本発明の窒化珪素質焼結体は、好ましくは母相の窒化珪素含有量が90質量%以上である。母相の窒化珪素含有量が少なすぎると、窒化珪素のもつ機械的性質や低熱膨張性が失われるという問題が起こることがある。母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であれば、このような問題が発生することがない。
【0026】
本発明の窒化珪素質焼結体は、好ましくは含有元素が、珪素、アルミニウム及びチタンからなり、さらに加えてマグネシウムとイットリウムの1種又は2種からなる。珪素は窒化珪素を構成する主要成分である。またチタンは粒界のチタン化合物を構成する主要成分である。
【0027】
アルミニウム、マグネシウムおよびイットリウムの少なくとも1種類の元素は、窒化珪素の焼結助剤として機能し、さらにチタンの化合物を形成している。含有量は、窒化珪素含有量が90質量%以上となる範囲が好ましい。
【0028】
本発明の窒化珪素質焼結体は、熱膨張係数の制御を必要とする精密機器の部品に用いることとすると好ましい。即ち、複数の部品を組み合わせてなる精密機器であり、結合する部品相互で異なった材料を用いる場合であって、両者の熱膨張係数を精密に一致させる必要がある場合である。このような場合、少なくとも一方の部品を粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体によって構成する。この部品は、窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、熱膨張係数を所定の範囲内で任意の値に精密に調整することができる。そこで、他方の部品の熱膨張係数と略一致させるようにチタン化合物の含有量を調整する。ここで略一致とは、熱膨張係数の差を2%程度以下を意味する。
【0029】
上記精密機器の部品として用いるに際し、窒化珪素質焼結体としては、母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相である窒化珪素質焼結体を用いると好ましい。また、母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であると好ましい。さらに、含有元素が、珪素、アルミニウム及びチタンからなり、もしくは、珪素、アルミニウム、チタンに加え、マグネシウムとイットリウムの1種又は2種からなると好ましい。好ましい理由はそれぞれ前記詳述したとおりである。
【0030】
上記精密機器の部品であって窒化珪素質焼結体からなる部品がステージ装置を構成することとすると好ましい。
【0031】
たとえば、特許文献4に記載のような半導体製造用のステージ装置において、位置決め用鏡面部品とテーブル部品とは組み合わせて使用するため、熱膨張係数が等しい材料を用いることが必要である。従来、位置決め用鏡面部品には鏡面に加工することのできる気孔のない緻密な窒化珪素質セラミックスを、テーブル部品については鏡面に加工する必要はないが、剛性が高い窒化珪素質セラミックスを用いていた。同じ窒化珪素質焼結体ではあるが、鏡面に加工することのできる気孔のない緻密な窒化珪素質セラミックスと鏡面に加工する必要はないが、剛性が高い窒化珪素質セラミックスとの間には熱膨張係数の差が5〜10%程度存在していた。
【0032】
本発明においては、位置決め用鏡面部品に本発明の窒化珪素質焼結体を用いる。テーブル部品には従来通り窒化珪素質焼結体を用いる。位置決め用鏡面部品の窒化珪素質焼結体のチタン化合物含有量を調整することにより、位置決め用鏡面部品の熱膨張係数を調整し、テーブル部品の熱膨張係数との差を2%程度以下まで低減することが可能となる。
【0033】
以上の説明から明らかなように、本発明の窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法においては、粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体を用い、該窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整する。これにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を、所定の範囲内で任意の値に精密に調整することが可能となる。
【0034】
上記窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法に用いるに際し、窒化珪素質焼結体としては、母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相である窒化珪素質焼結体を用いると好ましい。また、母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であると好ましい。さらに、含有元素が、珪素、アルミニウム及びチタンからなり、もしくは、珪素、アルミニウム、チタンに加え、マグネシウムとイットリウムの1種又は2種からなると好ましい。好ましい理由はそれぞれ前記詳述したとおりである。
【0035】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法においては、好ましくはアルミニウムの酸化物および21R型サイアロン(AlNポリタイプと呼ばれる固溶体)の少なくとも1種、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種の合計が0〜10質量%、チタンの化合物0.05〜2質量%および残部が窒化珪素からなる混合粉末を成形し、成形した物を不活性ガス雰囲気中1500〜1750℃の温度範囲で焼結する。
【0036】
原料の窒化珪素粉末は、1500〜1750℃の温度範囲で焼結することで、製品の窒化珪素質焼結体の母相の窒化珪素をβ−Si34とすることができる。
【0037】
窒化珪素粉末に混合するアルミニウムの酸化物および21R型サイアロン(AlNポリタイプと呼ばれる固溶体)の少なくとも1種、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種は、窒化珪素粉末の焼結助剤として働き、添加量は、窒化珪素含有量が90質量%以上となる範囲が好ましい。
【0038】
アルミニウムの酸化物としては、Al23粉末を用いることができる。
【0039】
21R型サイアロンとは、AlNポリタイプと呼ばれる固溶体であり、固溶体であるが故、窒化珪素の焼結助剤としてアルミニウムの酸化物と共存することで、その効果を高めていると考えられる。従って、21R型サイアロンを添加しない場合、他の焼結助剤がないと、密度の低下が見られる。
【0040】
マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種は、アルミニウムの酸化物および21R型サイアロンの少なくとも1種類の添加がない場合は必要となる。
【0041】
チタンの化合物は、粒界を構成するチタン化合物の原料として0.05〜2質量%の範囲で添加する。0.05質量%以上であればその効果を発揮することができ、一方2質量%を超えると十分な密度が得られない。チタン化合物としては、入手が容易な酸化チタンもしくは珪化チタンを使用するとよい。
【0042】
原料として用いるチタン化合物の粒径については、平均粒径は0.5〜2μmがよい。0.5μmより小さいと、チタン化合物が窒化珪素粒内に固溶し、チタン化合物含有量と窒化珪素質焼結体熱膨張係数との間の相関の良好性が低下する。また2μmより大きいと、均一に分散せず、欠陥を発生せしめることがある。
【0043】
粒界のチタン化合物の存在形態としては、アルミニウムの酸化物および21R型サイアロンの少なくとも1種類、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種から形成される相になっている。
【0044】
粒界のチタン化合物を非晶質相とするためには、添加するチタン化合物の平均粒径が0.5〜2μmの粉末を用い、2重量%以下の添加量とし、1500〜1750℃の範囲で焼結せしめることが必要である。
【0045】
これら原料の混合粉末を成形し、成形した物を不活性ガス雰囲気中1500〜1750℃の温度範囲で焼結する。
【0046】
混合に際しては、成形に必要なバインダーを加えても良い。さらに溶媒として精製水を用い、窒化珪素製ボールミルなどを用いて混練し、その後所定の形状に成形し、さらに焼結する。
【0047】
焼結は、窒化珪素粉末の酸化防止のため、不活性ガス雰囲気中で行う。完全にβ−Si34に転移させるために、1500℃以上の温度での焼結を行う。また、1750℃超の温度での焼結は、分解の恐れがあるため、1750℃以下での焼結とする。
【0048】
本発明の焼結方法としては、常圧焼成、ガス圧焼成、ホットプレス焼成、HIP焼成のいずれか、または、それらを組み合わせてなることとすると好ましい。
【実施例】
【0049】
窒化珪素粉末(平均粒径0.5μm)に、酸化アルミニウム粉末、水酸化マグネシウム粉末、酸化イットリウム粉末、21R型サイアロン粉末及び酸化チタン粉末または珪化チタン粉末のいずれかを表1に示す所定量(質量%)添加し、PVA系もしくはアクリル系のバインダーを5質量%加えて、溶媒として精製水を用いて、窒化珪素製ボールミルで15時間混練した。表1において、水酸化マグネシウム添加量はMgO換算、チタン化合物添加量はTiO2換算の質量%表示としている。
【0050】
なお、酸化アルミニウム粉末はAl23粉末(平均粒径0.5μm)、水酸化マグネシウム粉末はMg(OH)2粉末(平均粒径0.5μm)、酸化イットリウム粉末はY23粉末(平均粒径1.0μm)、21R型サイアロン粉末はSiAl626粉末(平均粒径2μm)、酸化チタン粉末はTiO2(平均粒径0.6ミクロン)、珪化チタン粉末はTiSi2粉末(平均粒径2μm)を用いた。
【0051】
得られた混合スラリーをスプレードライヤーにて乾燥、成形後、焼成した。成形条件としては冷間静水圧による加圧150MPaとした。
【0052】
焼結条件としては、窒素もしくはアルゴンの不活性ガス雰囲気の大気圧中で、表1に示す温度にて4時間保持した。
【0053】
得られた焼結体の密度を表1に示す。熱膨張係数については、JIS R3251に準拠し、レーザー干渉計を用いて測定した。さらに、比較例No.17の0〜500℃における熱膨張係数(3×10-6/K)を基準とし、比較例No.17の熱膨張係数に対する熱膨張係数変化率を%で表し、表1に示している。
【0054】
【表1】

【0055】
本発明例No.2〜8は、比較例No.1の成分組成にチタン化合物を所定の含有量で添加したもの、本発明例No.No.10、11は、比較例No.9の成分組成にチタン化合物を所定の含有量で添加したもの、本発明例No.13、14は、比較例No.12の成分組成にチタン化合物を所定の含有量で添加したもの、本発明例No.16は、比較例No.15の成分組成にチタン化合物を所定の含有量で添加したものである。比較例No.17は、熱膨張係数の基準となる成分組成である。
【0056】
図1は、チタン化合物添加量(TiO2換算)を横軸に、熱膨張定数の変化量を縦軸にして、表1の各成分組成毎に熱膨張係数の変化に対するチタン化合物添加量の影響をプロットしたものである。図の○内の数字は、表1の試験No.を表している。図1から明らかなように、各成分系毎に、チタン含有量の調整によって熱膨張係数を精密に調整できることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】窒化珪素質焼結体の各成分組成毎に熱膨張係数の変化に対するチタン化合物添加量の影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母相の窒化珪素がβ−Si34からなり、粒界がチタン化合物からなる非晶質相であることを特徴とする窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
母相の窒化珪素含有量が90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
含有元素が、珪素、アルミニウム及びチタンからなり、もしくは、珪素、アルミニウム、チタンに加え、マグネシウムとイットリウムの1種又は2種からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項4】
熱膨張係数の制御を必要とする精密機器の部品に用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれに記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項5】
前記精密機器の部品がステージ装置を構成することを特徴とする請求項4記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項6】
複数の部品を組み合わせてなる精密機器であって、少なくとも一方の部品を粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体によって構成し、当該一方の部品と他方の部品との熱膨張係数を略一致させてなることを特徴とする精密機器。
【請求項7】
複数の部品を組み合わせてなる精密機器であって、少なくとも一方の部品を請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体によって構成し、当該一方の部品と他方の部品との熱膨張係数を略一致させてなることを特徴とする精密機器。
【請求項8】
前記窒化珪素質焼結体からなる部品がステージ装置を構成することを特徴とする請求項6又は7に記載の精密機器。
【請求項9】
粒界が非晶質のチタン化合物からなる窒化珪素質焼結体を用い、該窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整することを特徴とする窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体を用い、該窒化珪素質焼結体中のチタン化合物の含有量を調整することにより、窒化珪素質焼結体の熱膨張係数を調整することを特徴とする窒化珪素質焼結体の熱膨張係数の調整方法。
【請求項11】
アルミニウムの酸化物および21R型サイアロン(AlNポリタイプと呼ばれる固溶体)の少なくとも1種、マグネシウムの化合物および希土類元素の酸化物の少なくとも1種の合計が0〜10質量%、チタンの化合物0.05〜2質量%および残部が窒化珪素からなる混合粉末を成形し、成形した物を不活性ガス雰囲気中1500〜1750℃の温度範囲で焼結することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼結が、常圧焼成、ガス圧焼成、ホットプレス焼成、HIP焼成のいずれか、または、それらを組み合わせてなることを特徴とする請求項11に記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265014(P2006−265014A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83171(P2005−83171)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】