説明

窒素式脱酸素装置の効率的制御方法

【課題】 本発明は、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ該原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御する方法において、必要以上の電力を無駄に消費することなく、窒素式脱酸素装置を効率的に制御する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ前記原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御するにあたり、前記原水の温度に応じて前記窒素式脱酸素装置の回転機器(具体的には、エアレータ方式の場合には自吸式散気装置のモータであり、リアクタ方式の場合には循環ポンプ)の回転数を調節することを特徴とする、窒素式脱酸素装置の効率的制御方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ前記原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置の効率的制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素は、ボイラ本体や配管の腐食を発生させる原因となるので、一般的にはボイラへの供給水は脱酸素処理が施される。
水中の溶存酸素を除去する方法としては、低圧蒸気ボイラでは従来から主に薬品による脱酸素処理が行われてきた(例えば、特許文献1参照)。
また、近年では脱気膜などを利用した溶存酸素除去の方法が採られている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
しかしながら、上記従来の薬品により脱酸素処理を施す方法では、蒸気の質の低下を招く恐れがある、化学物質を使用するため環境に対し安全無公害とは言えない、等の問題点があった。
また、脱気膜による方法では、水質により膜モジュールの寿命が短くなりランニングコストが高くなる、温度の高い給水の脱酸素ができない、等の問題点があった。
【0003】
その為近年では、安全無公害で人手がかからず、単に窒素ガスさえあれば溶存酸素を取り除くことが可能な、窒素式脱酸素装置が多く採用されるようになってきた。
加えて、最近では、設備全般におけるランニングコストの低減要求が高まってきており、窒素式脱酸素装置に対しても、経済的かつ効率的な設備制御方法の導入が強く求められるようになってきた。
【0004】
窒素式脱酸素装置には、水中に窒素ガスをバブリングする方式のもの(自吸式散気装置を具備したエアレータ方式)や、塔上部からミキシングエレメントを介して給水を噴霧落下させ、下部から窒素ガスを供給して接触させる方式のもの(気液接触装置を具備したリアクタ方式)、また、両者を組み合わせた方式のものなど種々方式のものがある(例えば、特許文献4及び特許文献5参照)。
自吸式散気装置を具備したエアレータ方式の窒素式脱酸素装置や、気液接触装置を具備したリアクタ方式の窒素式脱酸素装置、及び双方を組み合わせた方式の窒素式脱酸素装置において、従来では、ボイラ容量で決められる一定の水量を供給ポンプで供給し、前記一定供給水量に対応して、窒素式脱酸素装置の自吸式散気装置(エアレータ)のモータ回転数や、循環ポンプの回転数や、供給窒素ガス量を適宜決定していた。
【0005】
しかしながら、上記した従来の制御方法には以下のような問題点があり、効率的な制御方法の導入が課題であった。
ボイラへの供給水となる原水の流量に対応して、自吸式散気装置(エアレータ)のモータ回転数や循環ポンプの回転数を決定する方法では、除去すべき真に必要な酸素量に応じた制御とはなっていないため、該原水の温度領域によっては、自吸式散気装置(エアレータ)のモータ回転数や循環ポンプの回転数が必要以上に高く設定されていた。
従って、従来の制御方法では必要以上の電力が無駄に消費されており、その改善が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−120904号公報
【特許文献2】特開平6−193813号公報
【特許文献3】特開平7−227504号公報
【特許文献4】特開2004−261691号公報
【特許文献5】特開2005−95791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術の欠点を解消し、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ該原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御する方法において、必要以上の電力を無駄に消費することなく、窒素式脱酸素装置を効率的に制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その過程において本発明者は、ボイラへの供給水となる原水には、節水・省エネルギーの観点から蒸気凝縮水(ドレン水)を給水タンクに回収し再利用することが多く、ドレン水の回収量によってボイラへの供給水の温度が上下し、それに応じて原水中の溶存酸素量も変化することを知見した。
このような知見を基に、本発明者はさらに研究を行った結果、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ前記原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御する方法において、前記原水の温度に応じて、前記窒素式脱酸素装置の回転機器(具体的には、エアレータ方式の場合には自吸式散気装置のモータであり、リアクタ方式の場合には循環ポンプ)の回転数を調節することにより、必要以上の電力を無駄に消費することを防ぐことができ、窒素式脱酸素装置の効率的な制御が可能になることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
なお、本発明者は、ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素濃度を直接測定し、その値に応じて前記原水への前記回転機器の回転数を調節できることも見出した。しかし、ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素量を測定するためには、複雑な前処理機器や高額な測定機器が必要となる。
それに対して、ボイラへの供給水となる原水の温度は、溶存酸素量と密接な相関関係にあり、入手が簡単で配管への取り付けも容易な温度測定器を用いることで、極めて簡易に測定することが可能である。
【0010】
即ち、請求項1に係る本発明は、ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ前記原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御するにあたり、前記原水の温度に応じて、前記窒素式脱酸素装置の回転機器の回転数を調節することを特徴とする、窒素式脱酸素装置の効率的制御方法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、前記窒素式脱酸素装置が、自吸式散気装置を具備したエアレータ方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が自吸式散気装置のモータである、請求項1に記載の方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、前記窒素式脱酸素装置が、気液接触装置を具備したリアクタ方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が循環ポンプである、請求項1に記載の方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、前記窒素式脱酸素装置が、自吸式散気装置を具備したエアレータ方式と、気液接触装置を具備したリアクタ方式と、を組み合わせた方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が自吸式散気装置のモータ及び/又は循環ポンプである、請求項1に記載の方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、窒素式脱酸素装置を効率的に制御することができる。本発明の方法は、従来の制御方法に比較して、自吸式散気装置(エアレータ)のモータ回転数や循環ポンプの回転数を減らすことができるため、消費電力量を大幅に削減することができる。即ち、本発明によれば、必要以上の電力を無駄に消費することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、特に図面を参照して説明する。
本発明においては、ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素を低下させるために、窒素ガスを効率よく接触させ、分圧差分を利用して水中の酸素濃度を低下させ、溶存酸素を除去する方法を採用している。
図1〜図3は、本発明における窒素式脱酸素装置の効率的制御方法が実施可能となる、ボイラへの供給水を製造するシステムの例を示す概略図である。図1はエアレータ方式の窒素式脱酸素装置を、図2はリアクタ方式の窒素式脱酸素装置を、図3はエアレータ方式とリアクタ方式の組合せ方式の窒素式脱酸素装置を、それぞれ含むシステムを示すものである。
【0013】
本発明である窒素式脱酸素装置の効率的制御方法が実施可能となる、ボイラへの供給水を製造するシステムは、主に、窒素式脱酸素装置1と、窒素供給装置2と、窒素ガス用バッファタンク3と、窒素ガス用弁4と、原水用給水タンク5と、原水用供給ポンプ6と、温度計7と、処理水用供給ポンプ8と、ボイラ41、リード線27(27a,27b)と、各種配管と、からなる。
ここで、配管としては、窒素ガス用配管21(21a,21b,21c)と、原水用配管22(22a,22b,22c)と、処理水用配管23(23a,23b)と、排気配管25と、凝縮水用配管26と、を有している。
【0014】
本発明における、窒素供給装置2としては、例えば特開2002−86136号公報に記載されているような、圧力変動吸着分離法により、空気中の窒素ガス(N)を分離供給する装置[窒素PSA(Pressure Swing Adsorption)装置]を挙げることができる。
窒素供給装置2には、窒素ガス用配管21aが接続されており、窒素ガス用配管21aを介して窒素ガス用バッファタンク3と接続されている。
【0015】
窒素供給装置2より供給された窒素ガスは、窒素ガス用配管21aを通って窒素ガス用バッファタンク3に貯蔵されるようになっている。
窒素ガス用バッファタンク3は、窒素供給装置2より供給された窒素ガスを貯蔵しておく装置であり、これに接続されている窒素式脱酸素装置1に、0.04〜0.1MPaの窒素ガスを供給する役割を果たしている。
このような窒素ガス用バッファタンク3は、窒素ガス用配管21bと接続され、さらに窒素ガス用弁4、窒素ガス用配管21cを介して窒素式脱酸素装置1に接続されている。なお、窒素式脱酸素装置1が、図1及び図3で示す自吸式散気装置9を具備した窒素式脱酸素装置である場合には、窒素ガス用配管21cは、自吸式散気装置9に接続される。
【0016】
本発明において、ボイラへの供給水となる原水は、節水・省エネルギーの観点から、ボイラからの蒸気凝縮水(ドレン水)を、給水タンクに回収し、再利用することが多く、ドレン水の回収率が高いと原水温度は上昇し、ドレン水の回収率が低いと原水温度が低下する傾向にある。
【0017】
窒素式脱酸素装置1に供給される原水は、原水用給水タンク5から供給される。原水用給水タンク5には、原水用配管22aが接続されており、原水用配管22aは、原水用供給ポンプ6と接続されている。原水用供給ポンプ6は、原水用配管22bに接続されており、原水用配管22bは温度計7と接続されている。さらに温度計7は、原水用配管22cと接続されており、原水用配管22cは窒素式脱酸素装置1に接続されている。
【0018】
原水用供給ポンプ6は、原水用給水タンク5に溜められた原水を、窒素式脱酸素装置1に送水するための揚力を供給している。この原水用供給ポンプ6が供給する揚力により、原水用給水タンク5に溜められている原水は、原水用配管22a、原水用供給ポンプ6、原水用配管22b、温度計7、原水用配管22cを経て、窒素式脱酸素装置1に送水される。
【0019】
窒素式脱酸素装置1は、原水に、窒素ガス用バッファタンク3からの窒素ガスを接触させて、分圧差分を利用して水中の酸素濃度を低下させ、溶存酸素を除去する装置である。
本発明における窒素式脱酸素装置1としては、図1に示す自吸式散気装置9を具備したエアレータ方式のもの(原水中に窒素ガスをバブリングするもの)、図2に示す気液接触装置10を具備したリアクタ方式のもの(塔上部からミキシングエレメントを介して給水を噴霧落下させ、下部から窒素ガスを供給して接触させるもの)、さらに図3に示す自吸式散気装置9と気液接触装置10とを具備した、エアレータ方式とリアクタ方式を組み合わせた方式のものなど、を用いることができる。
なお、窒素式脱酸素装置1は回転機器を具備しており、エアレータ方式の場合には自吸式散気装置9のモータであり、リアクタ方式の場合には循環ポンプ11である。
【0020】
窒素式脱酸素装置1が、図1で示す自吸式散気装置9を具備した「エアレータ方式」の窒素式脱酸素装置である場合、窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽の内壁には、自吸式散気装置9が具備される。また、窒素ガス用配管21cは自吸式散気装置9と接続され、原水用配管22cは、窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽と接続されている。
エアレータ方式の窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められた原水は、自吸式散気装置9によって窒素ガスのバブリングが行われる。さらに、バブリングされた窒素ガスは、窒素式脱酸素装置1の内部に充満することになる。
【0021】
自吸式散気装置9は、図1で示すエアレータ方式の窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽の内壁又は内壁を貫通した形状で具備されるものであり、インペラーを高速で回転させて窒素ガス用配管21cから供給される窒素ガスを原水中に微細気泡として拡散(バブリング)させ、原水中の溶存酸素濃度を低減することができる。
本発明における自吸式散気装置9は、モータで駆動するものであれば如何なるものを用いることもできる。
原水から除去した酸素を含んだ窒素との混合気体は、排気配管25より排気される。
【0022】
本発明においては、温度計7で測定された原水の温度に応じて、自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数が調節される。モータの回転数が調節されることにより、液中への窒素ガスの拡散効率が調節されることによって、窒素式脱酸素装置1により処理される水からの脱酸素量を調節することができる。
上記工程を経ることで、0.5mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以下の溶存酸素の濃度を示す脱酸素処理された処理水(以下、単に処理水という場合がある。)を製造することができ、ボイラへの供給水として用いることができる。
温度に応じた自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数の調節方法としては、原水の温度に応じて手動でモータの回転数を調節してもよいが、好ましくは、温度計7で測定された原水の温度に応じて、自動的にモータの回転数を調節することが望ましい。これにより自動的にモータの回転数を調節することができる。
温度に応じて自動的にモータの回転数を調節する機能をもつ自吸式散気装置9としては、例えば、インバータによる調節を可能とした装置により、温度に応じて自動的にモータの回転数を調節する機能を備えたものを挙げることができる。具体的には、リード線27aを介して温度計7に接続され、温度計7において計測された温度に対応する電気的信号の種類と大きさに応じて、特定の信号を発信するようにプログラムを内蔵された装置(図示しない)、即ちインバータによる調節を可能とした装置(インバータ制御装置)、を備えたものを挙げることができる。
【0023】
本発明において用いることができる温度計7としては、100℃付近までの水温が測定できるものであれば如何なるものでも用いることができるが、原水の温度に応じて自動的にモータの回転数を調節するためには、温度に対応して電気抵抗が直線的に変化する物性を利用した測温抵抗体型の温度計や、温度に対応した起電力が発生する熱電対型の温度計であることが望ましい。
具体的には、温度との直線性・再現性が良く、しかも感度を高くすることのできる白金測温抵抗体型の温度計を用いることが好ましい。
【0024】
測温抵抗体型の温度計を温度計7として用いた場合、温度に対応して変化する電気抵抗値を電気的信号として利用することで、各種装置に対して、種々の作動を行わせることができる。また、熱電対型の温度計を温度計7として用いた場合、温度に対応して発生する起電力を電気的信号として利用することで、各種装置に対して、種々の作動を行わせることができる。
なお、具体的には、受理した電気的信号に対して特定の指令を発信するように組みこんだ制御装置を各種装置に具備させることにより、自吸式散気装置9、循環ポンプ11等の各種装置に対して種々の作動を行わせることができる。
【0025】
本発明において、「原水の温度に応じて」自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数を調節するとは、原水の温度に応じて、自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数を変化させることを意味する。好ましくは、温度に応じてインバータによる調節を行う。
本発明では、例えば図4に示すようにして、原水の温度と自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数とが関連づけられる。図4は、本発明において、ボイラへの供給水となる原水の温度と自吸式散気装置9に内蔵されるモータの回転数との関係を示した図である。
図4に示すように、原水の温度が50℃より低い範囲にある場合には、原水の流量に応じたモータ回転数で運転を行い、原水の温度に応じたモータ回転数の調節は行わない。
原水の温度が50℃から75℃の範囲にある場合は、原水の温度に応じて前記モータの回転数を調節する。
即ち、原水の温度毎に脱気すべき酸素量に対応した真に必要なモータ回転数を予め定めておき、原水の温度に応じて、当該予め定めていた回転数となるようにインバータで前記モータの回転数を調節する。
具体的には、図4の例に示す如く、50Hzで最大回転数となる3相交流モータに対し、原水の温度が50℃の場合には30Hzの回転数、原水の温度が60℃の場合には20Hzの回転数、原水の温度が70℃の場合には15Hzの回転数、原水の温度が75℃の場合には回転停止の状態、となるようにインバータにより回転数を調節する。
原水の温度が75℃より高い範囲にある場合には、ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素濃度は、自吸式散気装置のモータを回転させて窒素ガスを拡散させなくとも、窒素式脱酸素装置1に供給される窒素ガスとの接触だけで小さくすることができるので、前記モータを回転させない。
ただし、原水の温度に応じて調節を行う温度範囲及びモータ回転数の範囲は、原水の流量、窒素式脱酸素装置の能力、処理水の溶存酸素濃度の目標値等に応じて適宜設定することが可能である。
例えば、原水の温度に応じて調節を行う温度範囲は、上記具体例で示した50〜75℃の温度範囲に限定されず、30〜90℃の温度範囲で調節することも可能である。
【0026】
窒素式脱酸素装置1が、図2で示す気液接触装置10を具備した「リアクタ方式」の窒素式脱酸素装置である場合、窒素式脱酸素装置1の上部には、塔状の構造の装置である気液接触装置10が具備される。また、原水用配管22cは、気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)と接続され、窒素ガス用配管21cは、窒素式脱酸素装置1の本体部と接続されている。
当該リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1は、当該リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1の本体部に供給される窒素ガスで充満することになり、窒素ガスは、当該リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1の上部構造である気液接触装置10の内部も窒素ガスで充満することになる。
気液接触装置10の内部には、多孔板を螺旋状に配置したミキシングエレメントが具備されている。気液接触装置10の上部より、原水を落下させることにより、原水は当該ミキシングエレメント中を流下する間に微細な水滴となり、気液接触効率が大幅に増大し原水中の溶存酸素を除去することができる。
当該脱酸素処理がされた水滴は、当該窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められる。
【0027】
当該リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽は、循環用配管24aが接続されており、循環用配管24aは循環ポンプ11と接続されている。そして、循環ポンプ11は、循環用配管24bと接続されており、循環用配管24bは、気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)と接続されている。
循環ポンプ11は、リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められた処理水を、循環供給水として、気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)に循環供給するための揚力を供給している。
気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)に送水された循環供給水(脱酸素処理水)は、再び当該ミキシングエレメント中を流下することになり、さらに溶存酸素が除去され、再び当該リアクタ方式の窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められる。
なお、原水から除去した酸素を含んだ窒素との混合気体は、気液接触装置10の上部に接続された排気配管25より排気される。
【0028】
本発明においては、温度計7で測定された原水の温度に応じて、循環ポンプ11(に内臓されるモータ)の回転数が調節される。循環ポンプ11の回転数が調節されることにより、気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)に循環供給される循環供給水の量が調節されることによって、窒素式脱酸素装置1により処理される水からの脱酸素量を調節することができる。
上記工程を経ることで、0.5mg/L以下、好ましくは0.1mg/L以下の溶存酸素の濃度を示す脱酸素処理された処理水を製造することができ、ボイラへの供給水として用いることができる。
温度に応じた循環ポンプ11の回転数の調節方法としては、原水の温度に応じて手動で循環ポンプ11の回転数を調節してもよいが、好ましくは、温度計7で測定された原水の温度に応じて、自動的に循環ポンプ11の回転数を調節することが望ましい。これにより自動的に循環ポンプ11の回転数を調節することができる。
温度に応じて自動的に回転数を調節する機能をもつ循環ポンプ11としては、例えば、インバータによる調節を可能とした装置により、温度に応じて自動的に循環ポンプ11の回転数を調節する機能を備えたものを挙げることができる。具体的には、リード線27bを介して温度計7に接続され、温度計7において計測された温度に対応する電気的信号の種類と大きさに応じて、特定の信号を発信するようにプログラムを内蔵された装置(図示しない)、即ちインバータによる調節を可能とした装置(インバータ制御装置)、を備えたものを挙げることができる。リード線27bとしては、前記したリード線27aと同様のものが用いられる。
【0029】
本発明において、「原水の温度に応じて」循環ポンプ11の回転数を調節するとは、原水の温度に応じて、循環ポンプ11の回転数を変化させることを意味する。好ましくは、温度に応じてインバータによる調節を行う。
本発明では、例えば図5に示すようにして、原水の温度と循環ポンプ11の回転数とが関連づけられる。図5は、本発明において、ボイラへの供給水となる原水の温度と循環ポンプ11の回転数との関係を示した図である。
図5に示すように、原水の温度が50℃より低い範囲にある場合には、原水の流量に応じた循環ポンプ11の回転数で運転を行い、原水の温度に応じた循環ポンプ11の回転数の調節は行わない。
原水の温度が50℃から75℃の範囲にある場合は、原水の温度に応じて前記循環ポンプ11の回転数を調節する。
即ち、原水の温度毎に脱気すべき酸素量に対応した真に必要な循環ポンプ11の回転数を予め定めておき、原水の温度に応じて、当該予め定めていた回転数となるようにインバータで前記循環ポンプ11の回転数を調節する。
具体的には、図5の例に示す如く、50Hzで最大回転数となる循環ポンプ11(3相交流モータ)に対し、原水の温度が50℃の場合には30Hzの回転数、原水の温度が60℃の場合には20Hzの回転数、原水の温度が70℃の場合には15Hzの回転数、原水の温度が75℃の場合には回転停止の状態、となるようにインバータにより回転数を調節する。
原水の温度が75℃より高い範囲にある場合には、ボイラへの供給水となる原水中の溶存酸素濃度は、モータを回転させなくとも、窒素式脱酸素装置1に供給される窒素ガスとの接触だけで小さくすることができるので、前記循環ポンプ11を回転させない。
ただし、原水の温度に応じて調節を行う温度範囲及び循環ポンプ11の回転数の範囲は、原水の流量、窒素式脱酸素装置の能力、処理水の溶存酸素濃度の目標値等に応じて適宜設定することが可能である。
例えば、原水の温度に応じて調節を行う温度範囲は、上記具体例で示した50〜75℃の温度範囲に限定されず、30〜90℃の温度範囲で調節することも可能である。
【0030】
窒素式脱酸素装置1が、図3で示す自吸式散気装置9と気液接触装置10とを具備した、エアレータ方式とリアクタ方式を組み合わせた方式の窒素式脱酸素装置である場合、窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽の内壁には自吸式散気装置9が具備され、窒素式脱酸素装置1の上部には、塔状の構造の装置である気液接触装置10が具備される。
また、窒素ガス用配管21cは自吸式散気装置9と接続され、原水用配管22cは、気液接触装置10の上部(塔状の構造の上部)と接続されている。
図3で示すエアレータ方式とリアクタ方式を組み合わせた方式の窒素式脱酸素装置が具備する自吸式散気装置9と気液接触装置10は、それぞれ図1と図2で示された自吸式散気装置9と気液接触装置10と同様のものを用いることができる。
即ち、自吸式散気装置9のモータの回転数および気液接触装置10へ循環供給水を供給する循環ポンプ11の回転数は、温度に応じて上記に記載と同様の方法で調節することができる。
【0031】
当該組合わせ方式の窒素式脱酸素装置1によって溶存酸素を除去された原水は、処理水として窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められる。
この場合、上記の自吸式散気装置9を具備したエアレータ方式や気液接触装置10を具備したリアクタ方式を単一で用いる窒素式脱酸素装置に比較して、より効率的な脱酸素が可能となる。
【0032】
本発明における窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽には、処理水用配管23aが接続されており、処理水用配管23aは、処理水用供給ポンプ8と接続されている。処理水用供給ポンプ8は、処理水用配管23bに接続されており、処理水用配管23bは、ボイラ41に接続されている。なお、図1〜3においては、三叉に分岐し、ボイラ41a、41b、41cに接続されているものを示している。
処理水用供給ポンプ8は、窒素式脱酸素装置1の下部に具備されるタンク又は水槽に溜められた脱酸素処理された処理水(ボイラへの供給水)を、ボイラ41(41a、41b、41c)に送水するための揚力を供給している。この処理水用供給ポンプ8が供給する揚力により、脱酸素処理された処理水(ボイラへの供給水)は、処理水用配管23a、処理水用供給ポンプ8、処理水用配管23bを経て、ボイラ41(41a、41b、41c)に送水される。
なお、図1〜3は、本発明の実施形態の1つとして、ボイラの設置数が3である多缶式の形態を示しているが、これに限定されるものではなく、任意の数のボイラに対して、脱酸素処理された処理水(ボイラへの供給水)を供給することができる。
【0033】
ボイラ41(41a、41b、41c)は、凝縮水用配管26を介して、給水タンクと接続されている。ボイラ41(41a、41b、41c)から蒸気凝縮水(ドレン水)として回収された水は、原水用給水タンク5に回収され、ボイラへの供給水の原水として再利用される。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1
図3に示す如き、温度に応じたインバータ制御が可能となるエアレータ方式とリアクタ方式の組合せ方式の窒素式脱酸素装置をボイラへの供給水を製造する設備に導入し、本発明の実施設備を構築した。
実施例1の設備において、自吸式散気装置(エアレータ)9のモータとしては、1.5KW−3相交流モータを用いた。循環ポンプ11としては、1.5KW−片吸込み渦巻きポンプ(駆動源3相交流モータ)を用いた。前記モータとポンプは、インバータによる調節がされる。また、温度計7としては、温度との直線性・再現性が良く、しかも感度を高くすることのできる測定温度範囲が0〜100℃対応の白金測温抵抗体型の温度計を用いた。
温度計7で計測された温度に対応して変化する電気抵抗値は、電気的信号としてリード線27a,27bを介して、自吸式散気装置9および循環ポンプ11に備えられた特定の信号を発信するようにプログラムを内蔵されたインバータ制御装置に伝達され、自吸式散気装置9のモータおよび循環ポンプ11の回転数を、温度に応じてインバータにより調節する。
【0035】
実施例1の設備において、原水(供給水)の温度と自吸式散気装置9のモータの回転数との関係を図4に示す。また、原水(供給水)の温度と循環ポンプ11の回転数の関係とを図5に示す。
具体的な調節状況としては、図4と図5に示すように、温度計7で計測された温度に応じて定めた自吸式散気装置9のモータ及び循環ポンプ11の回転数は、いずれも温度が50℃の場合、50Hzで最大の回転数に対し、30Hzの回転数に調節され、温度が60℃の場合、20Hzの回転数に調節され、また温度が70℃の場合、15Hzの回転数に調節される。温度が75℃の場合は、回転が停止される。
ただし、インバータによる調節を行う温度範囲及び回転機器(前記モータ、循環ポンプ11)の回転数の範囲は、原水の流量、窒素式脱酸素装置の能力、処理水の溶存酸素の目標値に応じて、適宜選定することが可能である。
例えば、インバータによる調節を行う温度範囲は、上記の調節例で示した50〜75℃の温度範囲に限定されず、30〜90℃の温度範囲で調節することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、窒素式脱酸素装置を効率的に制御することができる。本発明の方法は、従来の制御方法に比較して、自吸式散気装置(エアレータ)のモータ回転数や循環ポンプの回転数を減らすことができるため、消費電力量を大幅に削減することができる。本発明によれば、必要以上の電力を無駄に消費することがない。
従って、本発明は、ボイラ設備に付随して設置される窒素式脱酸素装置の運転技術の分野において有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態に係るエアレータ方式の窒素式脱酸素装置を効率的に制御する方法が実施可能となる、ボイラへの供給水を製造するシステムの一例を概略的に示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るリアクタ方式の窒素式脱酸素装置を効率的に制御する方法が実施可能となる、ボイラへの供給水を製造するシステムの一例を概略的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るエアレータ方式とリアクタ方式の組合せ方式の窒素式脱酸素装置を効率的に制御する方法が実施可能となる、ボイラへの供給水を製造するシステムの一例を概略的に示す図である。
【図4】本発明において、ボイラへの供給水となる原水の温度と該原水の温度に応じた自吸式散気装置のモータの回転数との関係を示した図である。
【図5】本発明において、ボイラへの供給水の原水の温度と該原水の温度に応じた循環ポンプの回転数との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0038】
1 窒素式脱酸素装置
2 窒素供給装置
3 窒素ガス用バッファタンク
4 窒素ガス用弁
5 原水用給水タンク
6 原水用供給ポンプ
7 温度計
8 処理水用供給ポンプ
9 自吸式散気装置
10 気液接触装置
11 循環ポンプ
21(21a,21b,21c) 窒素ガス用配管
22(22a,22b,22c) 原水用配管
23(23a,23b) 処理水用配管
24(24a,24b) 循環用配管
25 排気配管
26 凝縮水用配管
27(27a,27b) リード線
41(41a,41b,41c) ボイラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラへの供給水となる原水と窒素ガスとを接触させ前記原水中の溶存酸素を除去する窒素式脱酸素装置を制御するにあたり、前記原水の温度に応じて、前記窒素式脱酸素装置の回転機器の回転数を調節することを特徴とする、窒素式脱酸素装置の効率的制御方法。
【請求項2】
前記窒素式脱酸素装置が、自吸式散気装置を具備したエアレータ方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が自吸式散気装置のモータである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記窒素式脱酸素装置が、気液接触装置を具備したリアクタ方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が循環ポンプである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記窒素式脱酸素装置が、自吸式散気装置を具備したエアレータ方式と、気液接触装置を具備したリアクタ方式と、を組み合わせた方式の窒素式脱酸素装置であり、前記回転機器が自吸式散気装置のモータ及び/又は循環ポンプである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−285641(P2009−285641A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144077(P2008−144077)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(593012181)東洋紡エンジニアリング株式会社 (20)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【Fターム(参考)】