説明

窯業系材料の運搬容器

【課題】容器内に収容する際や運搬時や保管時における石綿の容器外への飛散を良好に防止できるようにする。
【解決手段】容器本体3の角筒状部分の側面に、収容物を搬入可能な搬入口4を設ける。搬入口4には、揺動開閉自在に扉6を付設する。容器本体3の下端部に、収容物を搬出する搬出部7を設け、その搬出部7の上部に開閉シャッター8を付設する。容器本体3の天板部に容器本体3内と連通する状態で、排気ファン9を設け、排気ファン9の下流側に、微粉の排出を防止するフィルター10を設ける。これにより、容器本体3内を負圧化し、搬入口4を通じての石綿含有窯業系建築廃材の搬入時や、運搬時や保管時の石綿の飛散を防止する。容器本体3内の上部に噴霧器11を備え、容器本体3内に水を噴霧し、石綿やそれ以外の粉塵の飛散を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿を含有する廃材の破砕等で生じる、飛散する可能性のある石綿を含有する窯業系材料を、健康上安全に保管したり運搬したりする運搬容器に関する。
【背景技術】
【0002】
石綿は、安価で熱に強く、摩擦にも強くて切れにくい、酸やアルカリにも強いなど、丈夫で変化しにくいという特性を持っており、昭和40年ごろから、石綿含有窯業系建築材料に使われ始めた。石綿含有窯業系建築材料には、繊維強化セメント板、押出成形セメント板、パルプセメント板、スラグ石膏板、窯業系サイディングおよび住宅屋根用化粧スレート板などがあり、石綿を使用することにより、紫外線や酸性雨、風雪などの厳しい環境の中で、長期間にわたって耐強度や靭性を保持するのに役立つ。また、コスト性にも優れ、更に、石綿は保水性も良く、成形性に優れることもあり、特に使い始めの昭和40年代は盛んに使用され、その含有率も高かった。またこの頃は、アスベストに対する有害性の認識が低く、有害性の高いアモサイトやクロシドライト(現在は法的に使用禁止)も一部使用されていた。
【0003】
石綿は人工的に作られるガラス繊維などと比較しても非常に径が小さく丈夫で変化しにくいため、吸い込んで肺の中に入ると組織に突き刺さり、潜伏期間を経て、肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こすことがある。
【0004】
一般環境への汚染防止のための法律としては、大気汚染防止法、廃棄物処理および清掃に関する法律、PRTR法があり、労働者の健康確保のための法律としては、労働安全衛生法などがあって、吹き付け石綿(飛散型)に関しては、明確な基準やマニュアルがあるが、製品の時はセメントで石綿が固化され非飛散型に属する、石綿含有窯業系建築材料には明確な規制が無いのが現状である。
【0005】
建築物の耐用年数を30年とすると、今後解体が予想される石綿含有窯業系建築廃材は、今後10年間は120万トン前後で推移し、2020年頃にピークを迎え、総量的に膨大なものになると予想されている。
【0006】
寿命が到来した戸建て住宅の窯業系サイディングや化粧スレート瓦等の石綿含有窯業系建築材料を処理する場合、現在は、分別なしの重機によるミンチ解体は激減し、屋根用スレート瓦などでは、多くの場合、現場でバール等を使って解体されることが多い。
【0007】
通常、解体された石綿含有窯業系廃材は、開放系の運搬車により中間処理業者に運び込まれ、中間処理業者で、埋め立てに適した大きさに粉砕される。このときに保管される場合も開放系であり、再度開放系運搬車により運搬されて、最終処分場(安定型廃棄物として)に運ばれて埋め立てられる。都市部では最終処分場が激減しており、かなり遠方まで輸送されているのが現状である。
【0008】
このような状況下において、石綿含有窯業系建築材料(スレート板や瓦などの石綿含有窯業系建築廃材など)の場合、石綿がセメントにより固化されて浮遊しないように固定されている状態では大きな問題は無いが、解体や中間処理で破損したり、破砕や粉砕処理されたものは、保管や運搬中に石綿の飛散があり、環境や人体に影響を及ぼすことが容易に考えられる。
【0009】
殊に、石綿含有窯業系廃材は、生産量とその推定される寿命年数から考えると、前述したように、これから右肩上がりで増加の一途をたどって行く。一方、埋め立て処分場は場所が無くなり、特に東京や名古屋付近の都市部ではどんどん都市部から離れた遠方へとなってきている。これまでの開放形の運搬方式では、解体や中間処理で破損したり、故意に破砕や粉砕処理された石綿含有窯業系建築廃材を長時間かけて最終処分場(埋め立て場)等までの運搬中に大気に拡散されていくことが考えられ、運搬量、時間の増加とともに飛散石綿量は増えていく。また、粉砕後の中間処理の保管中でも石綿含有窯業系建築廃材の量が増加するとともに石綿の飛散量はアップしていく。
【0010】
従来、粉塵の発生を伴わないで粉体を充填・排出するものとして、例えば次のようなものが知られている。すなわち、粉体を収容する容器の最下部に円錐型の底部が設けられ、その底部の下端に、カップラーを備えた充填・排出口が設けられている。粉体の充填と排出は、キャップを外した後、カップラーを用いて搬送配管と接続し、粉体搬送ポンプにより行うように構成されている。容器内部の上部にはナイロン製脱気用フィルターが備えられ、脱気用フィルターと天板部との間にガス排出口が設けられている。
【0011】
上記構成により、粉体の排出に際して、ガス排出口を通して外気を容器内に流入させ、容器内が負圧になることを回避して、粉体を容易に排出するとともに落下する粉体の飛散を抑えるようになっている。また、粉体の充填に際しては、ガス排出口を通しての排気により、容器内のガス圧が上昇することを回避して、圧縮されたガス流による粉塵の周囲への飛散を防止するようになっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−112389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来例の場合、収容物の充填に際して、充填に伴う上昇圧力によって容器内のガスを排出するだけであり、粉体の飛散を抑える点で不充分であった。
【0013】
また、大きな収容物を搬入・搬出するために比較的大きい搬入・搬出口を設け、その開口を開閉扉で閉じるように構成する場合、その搬入・搬出口でパッキングが異物を噛み込んだり、経時的に劣化したようなときに、収容物の運搬時や保管時に粉体が容器外に洩れ出すおそれがあるなど、未だ改善の余地があった。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、容器内に収容する際や運搬時や保管時における石綿の容器外への飛散を良好に防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、上述のような目的を達成するために、石綿を含有する窯業系材料の運搬容器であって、収容物を外気から隔離可能な容器本体と、前記容器本体に開閉自在に備えられて収容物を搬入可能な搬入口と、前記容器本体に開閉自在に備えられるとともに搬出用ホースを接続可能に備えられて収容物を搬出する搬出部と、前記容器本体内を負圧化する排気手段と、前記排気手段による排気路に設けられて微粉の排出を防止するフィルターとを有することを特徴としている。
【0016】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の窯業系材料の運搬容器において、容器本体内の収容物を加湿する加湿手段を備えて構成している。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明の窯業系材料の運搬容器によれば、排気手段によって容器本体内を負圧化するから、搬入口や搬出部でパッキングが異物を噛み込んだり、経時的に劣化したとしても、外気を容器内に吸い込む側に流し、搬出部への排出用ホースの取り付け時や石綿含有窯業系材料の搬入・搬出時、ならびに運搬時や保管時に石綿が容器本体外に流出飛散することを良好に防止できる。
【0018】
また、請求項2に係る発明の窯業系材料の運搬容器によれば、石綿が保水性能が強くて水分と結びつきやすい特性を利用し、収容物を加湿するから、水分を付着した石綿が重くなるとともに、親水性を有し、石綿が容器本体外に流出飛散することを一層良好に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る窯業系材料の運搬容器の実施例を示す全体正面図であり、キャスター車輪1を備えた走行可能な走行フレーム2に、収容物を外気から隔離可能な容器本体3が搭載されている。
【0020】
容器本体3は、上側が平面視長方形状の角筒状に構成されるとともに、下部側が逆四角錐形状に構成されている。容器本体3の角筒状部分の側面には、収容物の搬入が可能であり、搬出にも利用可能な搬入口4が設けられている。搬入口4には、蝶番5により鉛直方向の軸心周りで揺動開閉自在に扉6が付設されている。図示しないが、搬入口4の周囲と扉6との間には、閉じ状態で密閉可能なようにラバー(パッキング)が介装されている。搬入口4の開口面積は、粉砕したものに限らず、窯業系サイディング、化粧スレート瓦などを分割したり粉砕せずに大きなままで搬入するためにできるだけ大きくとるのが望ましい。
【0021】
容器本体3の下端部に、搬出用ホース(図示せず)を接続可能に、収容物を搬出する搬出部7が設けられ、その搬出部7の上部に開閉シャッター8が付設されている。これにより、排気ポンプなどの外部動力に接続された搬出用ホースを搬出部7に接続し、開閉シャッター8を開くとともに排気ファン9を停止させ、粉砕された飛散の確率の高い、石綿含有窯業系建築廃材の粉砕品を、外部動力により吸引し、スムーズにかつ飛散させることなく、処理工程に圧送することができる。
【0022】
容器本体3の天板部に容器本体3内と連通する状態で、排気手段としての排気ファン9が設けられている。排気ファン9の下流側の排気路には、微粉の排出を防止するフィルター10が設けられている。これにより、容器本体3内を負圧化し、搬入口4を通じての石綿含有窯業系建築廃材の搬入・搬出、運搬時や保管時の石綿の飛散を防止できるようになっている。
【0023】
容器本体3内の上部に噴霧器11が備えられている。また、容器本体3の上部に水タンク12と給水ポンプ13が設けられ、噴霧器11と給水ポンプ13とが接続され、容器本体3内に水を噴霧し、石綿やそれ以外の粉塵(例えば、発がん性があるといわれる結晶性シリカなど)の飛散を抑えるように構成されている。上述の噴霧器11と水タンク12と給水ポンプ13とから成る構成をして加湿手段と称する。
【0024】
次に、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る石綿を含有する窯業系材料の運搬容器の具体的な実施例及び比較例について説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定される訳ではない。
【0025】
まず、500mm×250mmで高さが250mmのステンレス製のボックスを2つ準備し、その内の250mm×250mmの面の一辺(側面)に蝶番を取り付け、蝶番によりその面の開閉が自由にできるように構成した。また、その面の四方にはラバーを貼り付け、閉じた状態で、ラバーによりきっちり密閉されるように構成した。そして、一方のボックスの上部にビニールパイプをしっかり取り付け、ビニールパイプの先端にはポンプを接続して吸引を絶えず行うようにした。圧力は0.9気圧になるように調節した。これをステンレスボックスAと称し、ビニールパイプ等を取り付けしていない他方のボックスをステンレスボックスBと称する。
【0026】
また、一般に戸建てでよく使われている化粧スレート瓦F20(松下電工社製 石綿は全重量中約5%含有されている)をボールミル粉砕機により20分間粉砕し、粉砕品を準備した。
【0027】
[実施例1] ステンレスボックスAの底面に、粉砕品を200g均一に敷き詰め、この状態のものを2m×2m×2mの大型チャンバーに入れた。その後、チャンバーを開けなくとも外部から操作できるハンドで、上記蝶番により開閉が自由にできるように構成した面を、10分間に1回開け閉めを繰り返し、4時間後に以下の方法により浮遊した石綿の本数を測定した。
【0028】
浮遊中の石綿濃度の測定方法としては、基本的には、大気汚染防止法施行規則16条の2及び3第1号に規定する石綿に係る特定粉塵の濃度測定法に従った。その概略を次に記す。
【0029】
チャンバー内の石綿繊維が浮遊している空気を、平均0.8μmのメンブランフィルター(直径47nm)を付けて電動式吸引ポンプにより捕集し、捕集したメンブランフィルターを薬品で透明にして、400倍の位相差顕微鏡を使用して石綿の本数を計数する。メンブランフィルター全面に付着した石綿繊維本数を吸引した空気量で除して石綿粉塵濃度を求める。但し、ここで計数する石綿は、長さが5μm以上、幅(直径)3μm未満、アスペクト比(長さ/幅)3以上のもののみである。
【0030】
[実施例2] 実施例1と同じステンレスボックスAを使用した。実施例1と同様に、同ロットのF20瓦のボールミル粉砕(直後)品200gをステンレスボックスAの底部に均一に敷き詰め、圧力が0.9気圧になるように調整して、更に霧吹きにより15ccの水分を与えた後、2m×2m×2mの大型チャンバーに入れた。その後、実施例1と同様にボックスの一面の開け閉めを繰り返し、4時間後に実施例1と同様にして浮遊石綿濃度を測定した。
【0031】
[比較例] ステンレスボックスBを使用し、実施例1および実施例2と同様に、同ロットのF20瓦のボールミル粉砕(直後)品200gをステンレスボックスBの底部に均一に敷き詰めた後、2m×2m×2mの大型チャンバーに入れた。その後、実施例1と同様にボックスの一面の開け閉めを繰り返し、4時間後に実施例1と同様にして浮遊石綿濃度を測定した。
【0032】
上述の測定結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
上記測定結果から、本発明の実施例によれば、比較例に比べて、容器本体の外部に飛散した石綿量を減少でき、高い石綿の飛散防止効果を発揮できていることが明らかであった。また、加湿により、石綿の飛散防止効果を一層高くできていることが明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る窯業系材料の運搬容器の実施例を示す全体正面図である。
【符号の説明】
【0036】
3…容器本体
4…搬入口
7…搬出部
9…排気ファン(排気手段)
10…フィルター
11…噴霧器(加湿手段)
12…水タンク(加湿手段)
13…給水ポンプ(加湿手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿を含有する窯業系材料の運搬容器であって、
収容物を外気から隔離可能な容器本体と、前記容器本体に開閉自在に備えられて収容物を搬入可能な搬入口と、前記容器本体に開閉自在に備えられるとともに搬出用ホースを接続可能に備えられて収容物を搬出する搬出部と、前記容器本体内を負圧化する排気手段と、前記排気手段による排気路に設けられて微粉の排出を防止するフィルターとを有することを特徴とする窯業系材料の運搬容器。
【請求項2】
請求項1に記載の窯業系材料の運搬容器において、
容器本体内の収容物を加湿する加湿手段を備えている窯業系材料の運搬容器。

【図1】
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【公開番号】特開2006−321527(P2006−321527A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145804(P2005−145804)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】