説明

窯業製品の製造方法及び素地材

【課題】成形成分の粘土に因らずして素地材の含水率を調整して流動性と可塑性を制御することができ、かつ乾燥工程を不要となして成形時の水分を含んだままで焼成工程を行なえる植物性バインダーを用いた窯業製品の製造方法を提供する。
【解決手段】所定量の素地原料をなす廃棄物52と所定量の植物性バインダーなす植物原料51を配合53、混練54して素地材を形成し、素地材を成型55して成形体となし、少なくとも植物性バインダーにより加えた水分を含む成形体を焼成56する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窯業製品の製造方法及び素地材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の陶磁器等の窯業製品の基本的な製法は以下に例示するようなものであった。図5に示すように、主な原料は、骨格成分をなす珪石1、成形成分をなす粘土2、焼結成分をなす長石3である。粘土2は水との混合比を調整することで流動性と可塑性を制御し、乾燥により機械的強度を確保する。
【0003】
珪石1と粘土2と長石3の各々の適当量を粉砕12して配合4し、さらに粉砕12して後に水を加えて混練5して坏土を得る。坏土を目的に応じた成形法によって所定形状に成形6し、その後に乾燥7させる。次に、乾燥した成形物に施釉8し、焼成用の窯で焼成9して釉焼きし、釉焼きした面に加飾10して後に焼成11する。
【0004】
ところで、このような窯業の手法を利用する先行技術としては、例えば特許文献1に記載するものがある。これは溶融スラグの高級資源化方法に関するものであり、都市ごみ、下水汚泥、飛灰、鉱山廃砕,河川の堆積物,湖沼のヘドロ等の廃棄物を溶融処理して溶融スラグ化するに際し、廃棄物に調整材を添加して溶融処理することにより調整溶融スラグを生成する。そして、この調整溶融スラグを冷却固化して所定の性能を有する低融点ガラスを形成し、この低融点ガラスを適当粒度に粉砕することにより窯業原料としての原料ガラスを得るものである。
【0005】
また、特許文献2に記載する多孔質セラミックス製品の製造方法は、混練工程において、所定温度で焼結することによりセラミックス製品を構成し得る原料粉末と所定温度への加熱により消失する消失性材料粉末とを少なくとも水とともに混練して混練物とし、成形工程において混練物で成形体を成形し、焼結工程において成形体を所定温度で焼結するものである。
【0006】
また、特許文献3には、アルミナ及び/又はシリカを主成分とする窯業原料にもみ殻を加えて混合し、成形し、焼成して廃水処理用担体を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3188326号公報
【特許文献2】特開2000−128657号公報
【特許文献3】特開平6−86995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来の窯業製品の製造方法においては、坏土の可塑性を考慮すると素地配合における含水率は7〜20重量%であり、添加できる水分の上限は20重量%が限界であり、かつ水分調整は成形成分をなす粘土に対してのみ行なうことができる。含水率が上限値を超えると坏土の流動性が高まって可塑性が低下するために、水や骨格成分をなす原料を均質に保持することが困難となってそれらの偏りが起こるとともに、成形体の型崩れが生じて適切な形状に成形することが困難となる。また、成形体の含水率が高いと乾燥時間が大幅に長引くことになる。
【0009】
従来の窯業製品の製造方法において軽比重の多孔体を製造する場合には、一般的にかさ比重は約0.4が限界であり、かさ比重を下げるためにおが粉、籾殻、紙、パーライトなどを混練しているが、これらのものは一般的に粘性がないので、別途、粘土などのバインダーとなるものが必要であった。発泡体は薬品の添加によって製造できるが、大きな陶磁器では強度が保てないので成形が困難であり、セメントなどを添加する必要があった。また、大型品であれば乾燥や焼成時の収縮や膨張によりわれやひびなどの欠陥が出やすく、製品化が困難であった。
【0010】
従来の窯業製品の製造方法では、成形体は成形後に乾燥させることが必須であり、乾燥させない場合には焼成時に割れやひびなどの欠点を発する。この乾燥工程には設備費や管理費、燃料代がコストとして発生する。
【0011】
従来の窯業製品の製造方法では、焼成工程を一般的に1100〜1300℃で焼結させる必要がある。従来の陶磁器は原料中に占める粘土の割合が大きいので、耐火度が高くて1000℃以下での焼成では強度が不足して製品に適正な品質を確保することが困難である。このため、全製造コストの中で焼成工程の燃料費が最も多く占めており、素焼き、釉焼き、本焼きと焼成を重ねるほどに燃料費が嵩む。
【0012】
また、発泡体は焼成時に膨張を伴うので、発泡体の寸法精度出しは一般的に焼成後に切断工程で切り出して整える必要があり、そのコストも加算される。大型品になると成形時より強度が要求されるので、一般的に粘土の配合率が多くなる。このため、乾燥時の乾燥収縮が大きくなって割れやひびが発生し易くなる。また、焼成工程においても粘土が多いほどに焼成収縮が大きくなり、自重によりひびや割れが発生する。
【0013】
本発明は上記した課題を解決するものであり、成形成分の粘土に因らずして素地材の含水率を調整して流動性と可塑性を制御することができ、かつ乾燥工程を不要となして成形時の水分を含んだままで焼成工程を行なえる窯業製品の製造方法及び素地材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の窯業製品の製造方法は、窯業用原料と鉱物性廃棄物のうちの少なくとも何れかを素地原料とし、所定量の素地原料と所定量の植物由来の成形材を配合、混練して素地材を形成し、素地材を成形して成形体となし、少なくとも植物由来の成形材に内包された水分を含む成形体を焼成することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の窯業製品の製造方法において、植物由来の成形材は、少なくとも生の植物、乾燥した植物の何れかであり、水分を内包する植物細胞を成形材中に含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の窯業製品の製造方法において、植物由来の成形材は、少なくとも植物性繊維質と多糖類を含む植物性原料であることを特徴とする。
また、本発明の窯業製品の製造方法において、鉱物性廃棄物は、結晶性物、非結晶性物、ガラス状物、ゲル状物、金属、それらの混合体の少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の窯業製品の製造方法において、成形体は所定の含水率を有する状態で焼成してかさ比重0.1〜0.4の多孔体となすことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の窯業製品の製造方法において、素地材の水分は植物由来の成形材の添加量により調整することを特徴とする。
また、本発明の窯業製品の製造方法において、素地材は20〜70重量%の含水率を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の窯業製品の製造方法において、植物由来の成形材は所定量のカリウム元素、ナトリウム元素およびその化合物を含み、成形体は600〜1000℃で焼成することを特徴とする。
【0020】
本発明の素地材は、窯業製品用の成形体を形成するための素地材であって、窯業用原料と鉱物性廃棄物のうちの少なくとも何れかの素地原料と、水分を内包する植物細胞を含む成形材を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上の本発明においては、植物由来の成形材を使用することで、一般的な成形成分である粘土に因らずして所定の流動性と粘性と可塑性を備えた素地材を調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態における窯業製品の製造方法を示す工程図
【図2】同実施の形態における植物性原料と廃棄物の結合構造を示す模式図
【図3】(a)は成形時の植物性原料と廃棄物の結合構造を示す模式図、(b)は(a)中のA部に含まれた植物細胞を示す拡大図
【図4】(a)は焼成時の植物性原料と廃棄物の結合構造を示す模式図、(b)は(a)中のB部を示す拡大図、(c)は(a)中のC部を示す拡大図
【図5】従来の窯業製品の製造方法を示す工程図
【図6】焼成温度とかさ比重の関係図
【図7】焼成温度と収縮の度合いの関係図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、植物由来の成形材は、生の植物、乾燥した植物等の植物性原料であり、水分を内包する植物細胞を有するものであり、植物性原料は少なくとも植物性繊維質と多糖類を含むものである。
【0024】
本実施の形態で植物由来の成形材として使用する植物性原料51は、50〜97重量%の含水率を有するものであり、セルロース、セミセルロース、リグニンおよび無機物のカリウム元素、ナトリウム元素、その化合物等を含んでいる。植物性原料51は陸生植物、海生植物の何れでもよく、陸生植物では例えば草、木、竹、水草等であって水分、カリウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素などのミネラルを多く含むものである。海生植物では海藻や海草であって例えば昆布やてんぐさであり、植物性繊維質および多糖類を多く含むものが植物由来の成形材として有用である。陸生植物比べて海生植物はそのセルロースが弱くて柔軟性を有しており、本発明の植物由来の成形材に適している。
【0025】
さらに植物由来の成形材に適した植物性原料としては以下に示すようなものがある。
1.各種木材の廃棄物 間伐材、剪定材、大鋸粉
2.各種草類の廃棄物 草刈材、すすき、笹、竹、雑草
3.加工品の廃棄物 紙、建築廃材、布、おから
4.農業関係の廃棄物 農作物、稲、わら、とうもろこし、芋、大豆、茶殻の絞りかす、ぬか
5.食品の廃棄物 野菜、果物、およびその絞り汁、絞りかす
6.各種海草・水草類 あおさ、てんぐさ、わかめ、昆布などの海草、海藻類、水草、およびその絞り汁、絞りかす
素地原料の主たる成分をなす鉱物性廃棄物52はガラス質材であり、ガラス質材は廃棄ビン等のガラスカレットや廃棄物(都市ごみ、下水汚泥、工場などからの産業廃棄物)由来の溶融スラグ等からなり、鉱物性廃棄物52として金属(例えば、鉄くず、アルミくず、銅くず)を使用することも可能であり、鉱物性廃棄物52は、結晶性物、非結晶性物、ガラス状物、ゲル状物、それらの混合体の少なくとも何れかであればよい。
【0026】
しかし、従来の珪石などの窯業用原料を主たる材料とすることも可能であり、素地原料に粘土を含有させることも可能である。さらに、従来の製法における坏土中のバインダー機能をもつ粘土の一部を植物性原料51で置換する構成も可能である。
【0027】
植物性原料51および鉱物性廃棄物52は、後述する混練工程の混練手段をなす混練機等に投入可能な形状に粉砕58して前処理しており、その形状および粒径は任意に設定することが可能であり、植物性原料51は原型に近い状態での投入も可能である。
【0028】
この植物性原料51および鉱物性廃棄物52を配合53する。素地材の水分は50〜97重量%の含水率を有する植物性原料51の添加量により主として調整し、少なくとも植物由来の成形材としての植物性原料51により加えた水分を含むものである。本実施の形態では、さらに別途に水分を加えて水分調整しており、素地材の含水率が20〜70重量%の含水率となるように水分調整する。
【0029】
植物性原料51と鉱物性廃棄物52と水を配合調整したものを、混練手段をなす混練機に投入して混練54して20〜70重量%の所定含水率の素地材を調製する。植物性繊維質と多糖類を含む植物性原料51を植物由来の成形材とすることで、一般的な成形成分である粘土に因らずして所定の流動性と粘性と可塑性を備えた素地材を調製できる。
【0030】
植物は炭水化物であり、水溶性と不溶性の糖類で出来ており、生の植物は50%以上の水分を含有し、不溶性繊維にはゲル状と粘着性のあるものが多い。
すなわち、図2に示すように、植物性原料51からなる植物由来の成形材151は、所定量のセルロース、セミセルロース、リグニン、無機物のカリウム元素、ナトリウム元素、その化合物を含んでおり、その周囲に鉱物性廃棄物52からなる素地原料152を集めている。植物由来の成形材151は植物性原料中のセルロース、セミセルロースからなる植物性繊維質と素地原料152との間、素地原料152の相互間を多糖類あるいはリグニンは接着剤として接合することで、素地材に所定の流動性と粘性と可塑性を与える。
【0031】
この素地材を、型込め、プレス成形、手びねり等で成型55して所定形状の成形体となす。この成形時には、素地材はその水分の多くが植物の細胞中に含まれることで水分の移動が抑制された状態にあり、かつ植物の細胞が素地材中に均等に拡散することで成形体において水分が偏ることがなく全体として水分分布が平均化されており、水分の偏りに因る成形体の型崩れは生じない。よって、後述する焼成工程で成形体を焼成してなる窯業製品57が均質な品質となる。また、植物性繊維質によって成形体に強度が発現するので、例えば厚さ10cmで縦横1m×1m程度の大型の成形体を成形できる。
【0032】
本実施の形態では、例えば含水率40重量%の素地材をプレス成形や手びねりで成形55する。素地材は20〜70重量%の含水率の下でも所定の流動性と粘性と可塑性を有しており、骨格成分をなす素地原料を均質に保持することができる。このように、植物由来の成形材151を添加して20〜70重量%の含水率で所定の流動性と粘性と可塑性を備えた素地材を調製し、この素地材を成型55して成型体となすことを本実施の形態では水成形と称す。この水成形が本発明の一つの特徴をなす。
【0033】
従来では一定の条件下での成形体の乾燥を必須とし、乾燥条件が満たされない場合には成形体に割れやひびが生じた。
これは粘土に含まれた水分が粘土から均等に抜け出ず、成形体の一部が早期に乾燥することにより生じるものであり、十分に乾燥させない場合には成形体の粘土中に残留する水分が焼成時に急激に蒸発することにより、製品が膨張して製品に割れが生じる。
【0034】
従来では大型品になると成形時点でも成形体の強度が要求されるので、一般的に粘土の配合率が多くなり、乾燥時の乾燥収縮が大きくなって成形体の自重によりひび割れが発生し易くなり、焼成工程においても粘土が多いほどに焼成収縮が大きくなってその自重によりひび割れが発生する。
【0035】
しかしながら、本実施の形態では植物由来の成形材151がその粘着性により素地原料152をつなぎとめることで型崩れを防止でき、素地材中の水分の多くが植物の細胞中に含まれてその移動が抑制された状態にあり、かつ植物の細胞が素地材中に均等に拡散することで成形体において水分が偏ることがなく全体として水分分布が平均化されており、成形体は保水性が高くて水分が揮散し難いものとなり、常温の湿度を管理する下で成形体の含水率を維持することが可能となり、従来の乾燥工程におけるひびや割れに起因する不良品の発生がなくなる。
【0036】
また、焼成温度が600℃から850℃である低温領域では、成形体中で植物由来の成形材が成形成分として機能して骨格成分をなす素地原料を保持しているが、焼成時には細胞が消失して水分が素地原料のガラス質材の粒子間から容易に抜け出せるため、焼成収縮や焼成膨張がない焼成方法が可能となる。
【0037】
よって、寸法精度が焼成前の成形体と焼成後の窯業製品との間で維持でき、焼成収縮、焼成膨張に起因するひび割れが発現しづらく、大型の製品を製造することが可能となり、多孔体の焼成品を切り出して製品化する必要がなく、焼成品をそのまま多孔体の窯業製品とすることが可能である。
【0038】
また、それ以上の焼成温度の領域でも従来の方法法に比べて収縮率の小さい焼成方法が可能となるため、図7で示すように、従来の方法で製造可能なサイズに対して相対的に大きな焼成品を製造可能となる。
【0039】
このため、本実施の形態では、乾燥工程を経ることなく、少なくとも植物由来の成形材151により加えた水分を含む成形体を600〜1000℃で焼成56してかさ比重0.1〜0.4の多孔体の窯業製品57となす。
【0040】
また、図3に示すように、成形体中において水分は植物細胞201の細胞膜202の中に液胞203として存在し、細胞膜202の外側を強固な細胞壁204が取り囲んでいるので、焼成時の加熱によって水分153が蒸発するものの、遊離水でないのでゆっくりと蒸発するので、割れ等が生じない。焼成時には植物自身が自己の有機物中に含有する一定量の酸素で自己燃焼するので、外部からの加熱だけでなく成形体の内部からも加熱することができ、例えば厚さ10cmの厚い製品も焼成できる。
【0041】
炭素は加熱により酸素と反応して発熱する。しかしながら、炭素は岩石中の無機物である酸化ケイ素中の酸素と反応して発熱することはない。一方、植物中の炭素化合物は加熱により分解し、燃焼して水と炭酸ガスを生成して発熱する。このことが省エネ効果を発揮し、焼結反応を促進して低温焼結を可能にする大きな要因の一つである。よって、多く使用するほどに内部発熱による焼結安定性と省エネルギーが期待できる。
【0042】
例えば、800℃程度での焼成では、成形体に含まれた水分は蒸発してなくなり、水分が占めていた領域が空隙となり、植物由来の成形材151の植物細胞も消失し、植物由来の成形材151が占めていた領域が空隙となる。この状態でかさ比重は例えば0.2程度であり、大型品の製造が可能となる。
【0043】
一方、焼成温度が900℃程度では、空隙の領域に、素地原料152、無機物のカリウム元素、ナトリウム元素、その化合物が移動して成形体が縮み、かさ比重が例えば1.0程度となるものが製造可能となる。
【0044】
また、焼成温度が1000℃程度では、空隙を埋めるように素地原料152、無機物のカリウム元素、ナトリウム元素、その化合物が移動して空隙がわずかとなり、素地原料152の周りをカリウム元素、ナトリウム元素などの低沸点物質が焼結成分として取り囲み、さらに比重の大きな焼成品の製造が可能となる。
【0045】
このように、焼成時には植物由来の成形材151をなす植物性原料51に含まれたカリウム元素、ナトリウム元素などの低沸点物質が焼結成分として機能することで600〜1000℃で焼成することができるので、従来の窯業製品の焼成する設備において従来よりも短時間で焼成することができ、金属セッターを使用して焼成することが可能となり、省エネルギー化とコストの低減をはかることができる。
【0046】
また、図4の(a)に示すように、焼成時は、低温下で成形体中の水分153が外表面へ移行し、有機物が燃焼した燃焼排ガス154は水分が蒸発したときに生じた素地中の微細空隙を通過するので、燃焼排ガス154の噴出により焼成体に割れ等の欠陥が生じ難い。また、カリウム元素、ナトリウム元素などの低沸点物質の塩類155が燃焼排ガス154とともに低温時点で成形体の表面に移動し、表面で釉薬のように集結固化することで窯業製品57の表面強度が高まる。焼成時には加飾も同時に可能であり、窯業製品57へのレーザーによる溶射加工も可能であり、複合や補強による各種機能強化のための加工が可能である。
【0047】
また、図4の(b)に示すように、焼成温度が低温域である場合は、成形体中の成形材151の植物性原料51が成形成分として機能して骨格成分をなす素地原料152の鉱物性廃棄物52のガラス質材を保持し、焼成時には細胞が消失して水分がガラス質材の粒子間から容易に抜け出ることで、焼成収縮や焼成膨張がない焼成方法が可能となる。詳述すると、図4の(c)に示すように、焼成温度が無機物同士で反応しない低温域においては、成形材151をなす植物性原料51のみが先に燃焼し、成形体の内部からも焼成でき、植物性原料51の燃焼により成形体の内部から発生する熱(矢印Aで示す)が素地原料152の鉱物性廃棄物52に伝わり、燃焼で発生した低沸点物質の塩類155が素地原料152の鉱物性廃棄物52のガラス質材同士を接合する焼結助材の役目を果す挙動を示すので、全体としては収縮しない。焼成温度が無機物同士で反応する高温域では無機物同士の反応に起因して収縮が始まる。
【0048】
このため、寸法精度が焼成前の成形体と焼成後の窯業製品57との間で変わらず、多孔体の焼成品を切り出して製品化する必要がなく、焼成品をそのまま多孔体の窯業製品57とすることが可能であり、焼成収縮、焼成膨張に起因するひび割れが発現しづらく、大型の製品を製造することが可能となる。
【0049】
本実施の形態において、素地材の含水率が高くなることは、焼成後に残る素地原料152である鉱物性廃棄物52の割合が少なくなり、焼成によって消失する植物由来の成形材151である植物性原料51の割合が多くなることである。
【0050】
このため、含水率が高い成形体は植物性原料51の水分によって膨潤した状態にあり、この含水率が高い成形体を焼成することで、かさ比重が小さい窯業製品57となり、植物性原料51の含有率を調整することで、焼成後の窯業製品57の比重を任意に調整して、かさ比重0.1〜0.4(屋根、壁材の複合材に用いる)の多孔質の窯業製品57を製造できる。逆に素地材の含水率を低く設定することで、かさ比重0.4〜1.5(屋根および壁材に用いる)の多孔質の窯業製品57を製造することも可能であり、さらに素地材の含水率を低く設定することで、かさ比重1.5〜3.0(床材に用いる)の窯業製品57を製造できる。
【0051】
多孔体の窯業製品57における気泡サイズは、混練機に投入する植物性原料51を前処理して適切な粒径に加工することで、任意に調整することが可能である。この軽比重で多孔体の窯業製品57は、機能的に広い用途に使用することができ、例えば機能性建材(防火、防音、吸湿)に適している。
実施例1
焼成温度800℃、かさ比重0.2の軽量体
配合例
木材粉砕物50%
海藻粉砕物15%
溶融スラグ粉砕物30%
焼結助剤5%
実施例2
焼成温度900℃、かさ比重1.0の焼結体
配合例
木材粉砕物30%
海藻粉砕物10%
下水溶融スラグ粉砕物(粗粒)40%
ごみ焼却灰溶融スラグ粉砕物(細粒)15%
ベントナイト5%
実施例3
焼成温度1000℃、かさ比重2.0の焼結体
配合例
笹粉砕物10%
海藻粉砕物5%
窯業原料70%
湾岸ヘドロ15%
図6に示すように、従来は焼成温度1000℃以上でかさ比重が0.4以上の焼成品しかできなかったが、実施例1では焼成温度800℃でかさ比重0.2のものを製造できる。
【0052】
図7に示すように、成形材に植物を用いて製造した本発明の方法の焼成品は成形材の一部を粘土に置き換えて製造したものに比べて収縮の度合いが小さく、特に実施例1の配合、焼成温度では収縮率が0となる。
尚、上記実施の形態において、窯業用原料である珪石や砂、粘土、フリット等も素地原料に使用してよく、さらには、上記のような窯業用原料と鉱物性廃棄物とを素地原料に使用してもよい。
【符号の説明】
【0053】
51 植物性原料
52 廃棄物
53 配合
54 混練
55 成型
56 焼成
57 窯業製品
58 粉砕
151 植物由来の成形材
152 素地原料
153 水分
154 燃焼排ガス
155 低沸点物質の塩類
201 植物細胞
202 細胞膜
203 液胞
204 細胞壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窯業用原料と鉱物性廃棄物のうちの少なくとも何れかを素地原料とし、所定量の素地原料と所定量の植物由来の成形材を配合、混練して素地材を形成し、素地材を成形して成形体となし、少なくとも植物由来の成形材に内包された水分を含む成形体を焼成することを特徴とする窯業製品の製造方法。
【請求項2】
植物由来の成形材は、少なくとも生の植物、乾燥した植物の何れかであり、水分を内包する植物細胞を成形材中に含むことを特徴とする請求項1に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項3】
植物由来の成形材は、少なくとも植物性繊維質と多糖類を含む植物性原料であることを特徴とする請求項1に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項4】
鉱物性廃棄物は、結晶性物、非結晶性物、ガラス状物、ゲル状物、それらの混合体の少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項5】
成形体は所定の含水率を有する状態で焼成してかさ比重0.1〜0.4の多孔体となすことを特徴とする請求項1に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項6】
素地材の水分は植物由来の成形材の添加量により調整することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項7】
素地材は20〜70重量%の含水率を有することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項8】
植物由来の成形材は所定量のカリウム元素、ナトリウム元素およびその化合物を含み、成形体は600〜1000℃で焼成することを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の窯業製品の製造方法。
【請求項9】
窯業製品用の成形体を形成するための素地材であって、窯業用原料と鉱物性廃棄物のうちの少なくとも何れかの素地原料と、水分を内包する植物細胞を含む成形材を配合したことを特徴とする素地材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−26170(P2011−26170A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173777(P2009−173777)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(591221824)有限会社美濃資源開発 (4)
【Fターム(参考)】