説明

立体画像分析装置

【課題】
一つの画面上に飛び出して見える部分と奥に引っ込んで見える部分が混在する立体画像中、観察者の注目点の飛出し量を正確に測定できるようにする。
【解決手段】
画面(2)から予め設定された所定の視距離(D)だけ離れた観察位置(W)でその画面(2)に映し出される立体画像を観察するときに、観察空間上に再生される当該立体画像の画面からの飛出し量(Hn)を測定する立体画像分析装置(1)は、立体画像観察中の左右両眼の瞳孔を撮像する撮像カメラ(7R,7L)が設けられた瞳孔撮像ゴーグル(3)と、前記撮像カメラ(7R,7L)で撮像された瞳孔画像に基づいて左右の瞳孔間隔(Pn)を随時検出する画像処理装置(11)と、検出された瞳孔間隔(Pn)に基づいて立体画像の飛出し量(Hn)を測定する演算装置(12)とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画面から予め設定された所定の視距離だけ離れた観察位置からその画面に映し出される立体画像を観察したときに、観察空間上に飛び出してあるいは引っ込んで見える立体画像の画面からの飛出し量を測定する立体画像分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は立体画像の原理を示す説明図で、画面21上に水平方向に所定の視差量Lだけずらして左眼用画像22L及び右眼用画像22Rを表示させ、偏光レンズを利用した立体視用眼鏡23などを利用して各画像22L及び22Rを左眼24L及び右眼24Rで選択的に視認すると、観察者の左右の視線が画面21よりも手前(あるいは奥)で輻輳(交差)するために、画像は画面21より手前に飛び出して見える。
【0003】
このとき、目のピント調節は画面21上に合っているので、ピント調節されている画面までの視距離Dと、目から左右の視線の交差する点までの輻輳距離Fとは異なることとなるが、このような観察状態は日常では生じないため、見辛さや不自然さを感じる場合がある。
特に、左眼用画像22Rと右眼用画像22Lの視差量Lが大きかったり、被写体が短時間で画面から飛び出してくるような急激な視差変化を多く動画像では、強い立体効果が得られる反面、より見辛くなり、視神経への負担が問題視されている。
【0004】
このため、左右画像の視差量に基づいて立体画像の飛出し量を算出し、立体画像を評価する手段が提案されている(特許文献1)。
これによれば、図6に示すように、観察位置から画面までの視距離Dと、左右画像の視差量Lと、瞳孔間隔Pに基づいて、画面から立体画像の再生位置までの飛出し量Hを次式で算出するようにしている。
H=D×L/(P+L)
【0005】
例えば、視差量Lは、左眼用画像と右眼用画像が画面上で左右逆方向配列になっている状態を+の値とし、左右順方向配列になっている状態を−の値とし、瞳孔間隔PDは平均的な瞳孔間隔である65mmとすれば、3m離れたところに置かれた画面上に視差量L=+30mmで映し出された画像の飛出し量Hは、
H=3000×30/(65+30)≒950(mm)
となり、画面から95cm手前に飛び出した画像を見ていることになる。
また、視差量L=−20mmで映し出された画像の飛出し量Hは、
H=3000×(−10)/(65−10)≒−550(mm)
となり、画面から55cm奥に引っ込んだ画像を見ていることになる。
【0006】
しかしながら、このように視差量に基づいて理論的に飛出し量を算出することができても、立体画像を映し出している一画面上には、飛び出して見える部分と奥に引っ込んで見える部分が混在し、その立体画像中のどの部分に注目しているかは不明である。
例えば、画面から急に被写体が飛び出してくるような動きをすれば、人間の目は飛出し量の最も大きな手前の画像に注目するであろうし、動きの少ない景色や物体が立体的に映し出されている場合は、必ずしも最も手前の画像に注目せずに、奥行方向の中間位置近傍に注目することもある。
したがって、従来のように画像の視差量のみに基づいて理論的な飛出し量を算出しても、観察者が立体画像のどこを注目しているかを知ることができず、その注目点の飛出し量を知ることもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−142819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、一つの画面上に飛び出して見える部分と奥に引っ込んで見える部分が混在する立体画像中、観察者の注目点の飛出し量を正確に測定できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、画面から予め設定された所定の視距離だけ離れた観察位置でその画面に映し出される立体画像を観察したときに、観察空間上に再生される当該立体画像の画面からの飛出し量を測定する立体画像分析装置において、立体画像観察中の左右両眼の瞳孔を撮像する撮像カメラが設けられた瞳孔撮像ゴーグルと、前記撮像カメラで撮像された瞳孔画像に基づいて左右の瞳孔間隔を検出する画像処理装置と、検出された瞳孔間隔に基づいて立体画像の飛出し量を測定する演算装置とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、撮像カメラで撮像された瞳孔画像に基づいて、左右の瞳孔間隔が随時検出される。瞳孔間隔は、立体画像を観賞する際に画面奥行方向の注目点の位置に応じて変化し、注目点が観察位置に近づくほど、すなわち、画面から飛び出すほど瞳孔間隔は狭くなり、注目点が観察位置から離れるほど、すなわち、画面から奥に引っ込むほど瞳孔間隔は広がるので、随時変化する瞳孔間隔に基づいて注目点の位置を検出することができる。
したがって、例えば3D映画などの立体画像を観察している間中、観察者の注目点の飛出し量をリアルタイムで検出することができ、同一画面上に、画面から飛び出して見える部分と奥に引っ込んで見える部分が混在している場合でも、その立体画像の飛出し量を客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る立体画像分析装置を示す説明図。
【図2】飛出し量の算出原理を示す説明図。
【図3】瞳孔間隔の較正原理を示す説明図。
【図4】ディスプレイ装置の表示例を示す説明図。
【図5】注目点の動きをトレースした評価図。
【図6】立体画像の原理図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本例は、一つの画面上に飛び出して見える部分と奥に引っ込んで見える部分が混在する立体画像中、観察者の注目点の飛出し量を正確に測定するという目的を達成するために、画面から予め設定された所定の視距離だけ離れた観察位置でその画面に映し出される立体画像を観察したときに、観察空間上に再生される当該立体画像の画面からの飛出し量を測定する立体画像分析装置において、立体画像観察中の左右両眼の瞳孔を撮像する撮像カメラが設けられた瞳孔撮像ゴーグルと、前記撮像カメラで撮像された瞳孔画像に基づいて左右の瞳孔間隔を検出する画像処理装置と、検出された瞳孔間隔に基づいて立体画像の飛出し量を測定する演算装置とを備えた。
【実施例1】
【0013】
図1に示す立体画像分析装置1は、画面2から予め設定された視距離Dだけ離れた観察位置Wでその画面に映し出される立体画像を観察したときに、観察空間上に再生される当該立体画像中、観察者が注目している注目点Sの飛出し量Hnを測定するためのもので、立体画像の観察者に装着される瞳孔撮像ゴーグル3と、そのゴーグルで撮像された瞳孔画像に基づき立体画像の飛出し量Hnを算出するコンピュータ4を備えている。
【0014】
瞳孔撮像ゴーグル3は、顔面に装着した状態で前方が視認可能な前面開放型のフレーム5と、左右の目の高さに配されたハーフミラー6と、そのハーフミラー6で反射した左右の瞳孔を個別に撮像する二台の撮像カメラ7R,7Lが配されている。
各撮像カメラ7R,7Lは、フレーム5の上枠にその光軸を平行にして、光軸間距離が予め設定された距離、例えば平均瞳孔間隔PAV=65mmだけ離して下向きに配され、ハーフミラー6を介して光軸が瞳孔側に折り曲げられている。
【0015】
コンピュータ4は、瞳孔撮像ゴーグル3の撮像カメラ7R,7Lで撮像された瞳孔画像に基づいて左右の瞳孔間隔を随時検出する画像処理装置11と、立体画像観察中の瞳孔間隔Pnに基づいて立体画像の飛出し量Hnを測定する演算装置12と、必要なプログラムやデータを記憶するメモリ13を備えている。
そして、I/Oポート14には、キーボードやマウスなどの入力装置15や、ディスプレイやプリンタなどの出力装置16が接続されると共に、瞳孔撮像ゴーグル3の左右の撮像カメラ7R,7Lが接続されている。
【0016】
画像処理装置11は、撮像カメラ7R,7Lから取り込んだ瞳孔画像に映し出された瞳孔の各画像上のXY座標に基づいて瞳孔間隔をリアルタイムで随時検出する。
各瞳孔画像の中心座標は光軸間距離の65mm離れていることになるので、左右の瞳孔画像に映し出された瞳孔の各画像上のXY座標を検出すれば、これに基づいて瞳孔間隔をリアルタイムで随時検出することができる。
右眼瞳孔画像上の瞳孔座標が(X、Y)で左眼瞳孔画像上の瞳孔座標が(X、Y)の場合に、左眼瞳孔座標を右眼瞳孔画像の座標面に写像すれば(X+65、Y)であるから、瞳孔間隔Pnは、式(1)で算出できる。
Pn=[(X+65−X+(Y−Y1/2 …………(1)
【0017】
演算装置12は、算出された瞳孔間隔Pnに基づいて注目点Sの飛出し量Hnを算出する。
図2はその算出原理を示す説明図である。
最初に、観察者に瞳孔撮像ゴーグル3をつけた状態で、観察位置Wから無限遠点の遠景を観察してもらい、そのときの瞳孔間隔Pをメモリ13に記憶しておく。
【0018】
眼球中心Cから注目点Sまでの距離をdn、眼球半径r(=12mm)、観察位置Wから画面までの視距離をD、注目点Sの画面からの飛出し量をHn、注目点Sを見たときの眼球8の回転角(注目点Sにおける片眼の輻輳角)をθnとし、瞳孔画像から算出された瞳孔間隔をPnとすると、その眼球の動きより、角度θnは、
θn=arcsin(P−Pn)/(2r) …………(2)
で表され、注目点Sまでの距離dnと瞳孔間隔Pとの関係より、
tanθn=P/(2dn) …………(3)
が成り立つ。
【0019】
注目点Sの飛出し量Hnは、
Hn=D−(dn−r) …………(4)
で表され、注目点Sまでの距離dnは、式(2)及び(3)より、
dn=P/[2tan{arcsin(P−Pn)/(2r)}]…………(5)
で表される。
したがって、式(5)を式(4)に代入すれば、観察位置Wから画面までの距離D及び眼球半径r(=12mm)は既知であるから、飛出し量Hnを算出することができる。
【0020】
ただし、理論的に上述した通りに算出することができても、実際に測定された瞳孔間隔Pnに基づいて飛出し量Hnを算出しても、正確な値が得られないことが判明した。
その原因は、人間の眼はその光軸が平行である人は少なく、多かれ少なかれ外方/内方斜視などの個人差が存在することにある。
そこで、誤差が大きい場合には、瞳孔間隔の較正を行っている。
【0021】
図3はそのような瞳孔間隔の較正原理を示す説明図である。
まず、画面2上に注目点Scを映し出し、この注目点Scを見たときの瞳孔間隔Pcを測定する。
視距離Dと眼球半径rと、無限遠点を見たときの瞳孔間隔Pから、注目点Scを見たときの理論瞳孔間隔Pfは、
Pf=P×D/(D+r)
で算出される。
ところが、注目点Scを見たときに実測された瞳孔間隔がPcとすれば、理論瞳孔間隔pfとの比Pf/Pcに比例して誤差を生ずることとなる。
したがって、式(5)などで飛出し量Hnの算出の際に使用される瞳孔間隔Pnに替えて、これを式(6)で較正した較正瞳孔間隔Pmを用いれば、誤差なく飛出し量Hnを正確に算出することができる。
Pm=Pn×Pf/Pc ……………(6)
【0022】
そして、このように算出された飛出し量Hnを経時的に記録すれば、3D映画などの立体画像の全編を通じて、注目点Sの飛出し量Hnの変化を知ることができる。
このとき、例えば図3に示すように、ディスプレイ装置16の表示部17を上下に分け、上半分の右側に3D映画の立体画像18を映し出しながら、その左側に左右の瞳孔画像19R、19Lを同期的に映し出し、下半分に飛出し量Hnの経時的変化を示すグラフ20を表示させると同時に、そのグラフの時間軸上に、現在映し出されている瞳孔画像の時刻を示すマーカMを表示させれば、どの立体画像が眼にどの程度負担をかけているかを容易に知ることができる。
【0023】
また、ディスプレイ装置16の表示部17に、3D映画の注目点Sの動きをトレースした評価図を描かせることもできる。
図4はその評価図の例を示し、23インチの液晶ディスプレイの画面2の前後位置を表示する平面位置関係図G上に、注目点Sの移動軌跡を示すトレース線Tが飛出し量Hnに基づいて描かれており、立体画像の飛出し量や奥行き感、画面のどこを見ているか等の情報を視覚化できる。
【0024】
平面位置関係図Gには、3D画像の規格・安全性などを検討する業界団体である3Dコンソ−シアム(3DC)の安全ガイドラインによる適正視差範囲FA及び融合限界FLが示されている。
適正視差範囲FAは、画像の視差が適正とされている場合の画面2の前後方向の注目点Sの深度範囲であり、視距離D=860mmとしたときに、23インチディスプレイにおける適正視差範囲FAは、画面前方約160mm、画面後方約270mmである。
また、融合限界FLは、3D画像を構築できる限界の視差における注目点Sの深度範囲であり、画面前方約330mm、画面後方約750mmとされている。
【0025】
なお、注目点Sの左右方向の位置は、左右の瞳孔の水平方向移動量を個別に測定することにより、幾何学的に算出可能である。
また、画面2の前後位置を表示する位置関係図は、上述した平面位置関係図Gを描かせる場合に限らず、側面位置関係図を描かせる場合であっても、平面位置関係図及び側面位置関係図の双方を描かせるようにしてもよい。
側面位置関係図を描かせる場合において、注目点Sの上下方向の位置は、左右の瞳孔の垂直方向移動量を個別に測定することにより、幾何学的に算出可能である。
【0026】
このように、ガイドラインの快適視差範囲FAや融合限界FLなどと合わせると、安全性の評価にも有効なグラフ表示となる。
また、注目点が常に快適視差範囲内に位置するように立体像を納めてしまうと、面白くない映像となってしまうので、適度に範囲を超えて刺激のある画像とすると同時に、範囲を超えたときの量及び時間が度を過ぎないように、面白みと安全性のかねあいを比較検討する基礎資料を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、立体画像を鑑賞する観察者が実際に見ている注目点の飛出し量を検出する立体画像分析装置の用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 立体画像分析装置
2 画面
3 瞳孔撮像ゴーグル
4 コンピュータ
5 フレーム
6 ハーフミラー
7R,7L 撮像カメラ
D 視距離
W 観察位置
Hn 飛出し量
Pn 瞳孔間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画面から予め設定された所定の視距離だけ離れた観察位置でその画面に映し出される立体画像を観察したときに、観察空間上に再生される当該立体画像の画面からの飛出し量を測定する立体画像分析装置において、
立体画像観察中の左右両眼の瞳孔を撮像する撮像カメラが設けられた瞳孔撮像ゴーグルと、前記撮像カメラで撮像された瞳孔画像に基づいて左右の瞳孔間隔を検出する画像処理装置と、検出された瞳孔間隔に基づいて立体画像の飛出し量を測定する演算装置とを備えたことを特徴とする立体画像分析装置。
【請求項2】
前記瞳孔撮像ゴーグルは、顔面に装着した状態で前方が視認可能な前面開放型のフレームと、左右の目の高さに配されたハーフミラーと、そのハーフミラーで反射した左右の瞳孔を個別に撮像する二台の撮像カメラが配されて成る請求項1記載の立体画像分析装置。
【請求項3】
前記演算装置で算出された飛出し量の経時的変化を表示するディスプレイ装置を備えた請求項1又は2記載の立体画像分析装置。
【請求項4】
前記ディスプレイ装置は、撮像された瞳孔画像と、鑑賞している立体画像と、注目点の飛出し量を同期的に表示する請求項3記載の立体画像分析装置。
【請求項5】
前記ディスプレイ装置は、画面の前後位置を表示する位置関係図上に、前記飛出し量に基づいて注目点の移動軌跡を示すトレース線を表示する請求項3記載の立体画像分析装置。
【請求項6】
前記位置関係図上に、予め規定された適正視差範囲及び融合限界が表示されてなる請求項5記載の立体画像分析装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−129896(P2012−129896A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281118(P2010−281118)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(593153060)株式会社ニューオプト (2)
【Fターム(参考)】