説明

立体視画像形成体および立体視用具

【課題】 目視判定が容易で、かつ、意匠性も備えた、特に偽造防止分野に好適な画像形成体およびその判定具を提供することを課題とする。
【解決手段】 立体視画像形成体1は、立体視を生じせしめるよう視差を持つ像が画像パターン(131、132)として記録され、同パターンは複屈折特性がそれぞれ異なる光学異方性物質からなる。立体視用具のフィルター(20a、20b)は、偏光フィルター(22)と色フィルター(23a、23b)の積層により形成され、立体視画像形成体1からの反射光からの色成分を選択的に透過/遮断し画像パターン(131、132)の何れか一方のみを顕在化する。自然光の下では画像パターン(131、132)は不可視であるが、立体視用具を介して観察すると同パターンが立体感をもって視認される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に偽造防止分野に適用される画像形成技術に関し、特に、平面状に形成された画像を、利用時には、簡便な立体視用具によって立体像として可視化する画像形成体と立体視用具に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の真正性を確認するための真偽判定手段としては、従来より多様な方法が提案されており、偽造防止技術として様々な分野で実用になっている。特に、クレジットカードや証書類、金券など偽造の対象となりやすい物品には何らかの偽造防止技術が投入されているといってよい。用いられる偽造防止技術としては、特殊インキを利用するもの、蛍光インキなど視覚効果を利用するもの、ホログラムなど微細パターンを利用するもの、液晶性フィルムを利用するものなど多岐にわたる。また、真正性を判定する方法も、目視によるもの、判定具を併用するもの、機械認識によるものなど様々である。しかも、複数の手法を併用することで、より効果(すなわち偽造の困難性)の高いものとしている。
【0003】
特許文献1は、セキュリティ媒体に用いる識別構造に関する発明であり、コレステリック液晶の波長選択反射性を用い、判定具となるフィルターを介して観察した際の色の違いにより真偽を判定する技術について述べている。
【0004】
特許文献2は、偽造防止箔に関する発明であり、液晶性化合物による光学異方性層で形成したパターン(潜像)が、自然光の下では不可視でありながら、偏光板を介して観察すると可視化されることにより真正性を判定する。同文献では、さらに、複数の光学異方性層を組合せ、偏光板を介して観察することにより顕在化される潜像が複数の色となる偽造防止箔について述べている(特許文献2請求項8)。
【0005】
なお特許文献2の偽造防止箔の積層構造は図5に示す構成となっており、液晶性化合物を配向させてパターンを形成した光学異方性層50のパターン部のレターデーション(位相差)をそれぞれ異なるものとしている。前記パターンは自然光の下では不可視であるが、直線偏光を照射する、あるいは、直線偏光フィルターを介して観察すると、それぞれのパターンは異なる色をもって視認される。なお、図中の機能性層51は、接着層、反射層、配向層、剥離層など必要に応じて選択して形成する層の総称である。
【0006】
しかしながら、特許文献1は色の変化を観察するにとどまり、また特許文献2は単に潜像を顕在化するにとどまるなど、判定具を用いることによる明暗の変化や色の変化により真偽判定を行うものであり、偽造防止効果の点でも費用対効果の点でも不十分なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開11−42875号公報
【特許文献2】特開2010−113249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、目視判定が容易で、かつ、意匠性も備えた、特に偽造防止分野に好適な画像形成体およびその判定具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1の発明は、両眼視差を生じしめる第1の画像と第2の画像とからなる立体視画像が基材に形成されてなる立体視画像形成体であって、
前記第1および第2の画像とは互いに光学異方性が異なるものとして形成されていることを特徴とする。
また、前記第1および第2の画像は、自然光下では不可視の画像として形成されることを特徴とする。
さらに、前記第1および第2の画像は、互いに光学異方性の異なる液晶インキからなることを特徴とする。
【0010】
本願第2の発明は、上記の立体視画像形成体から両眼立体視により立体視像を視認する立体視用具であって、
前記立体視用具は、観察者の一方の目に割当てる第1の判別部と、他方の目に割当てる第2の判別部からなり、
前記第1の判別部は、前記立体視画像形成体からの光を選択的に透過させる偏光フィルターと、該偏光フィルターを通過した第1の色成分を不透過とする第1の職フィルターを積層してなり、前記第2の判別部は、前記立体視画像形成体からの光を選択的に透過させる偏光フィルターと、該偏光フィルターを通過した第2の色成分を不透過とする第2の色フィルターを積層してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の立体視画像形成体によれば、同画像形成体に平面状に形成した組画像(立体視の元となる1対の画像)が通常の観察条件では不可視の状態でありながら、簡便な立体視用具を通して観察することにより立体像として感知できる。あわせて、視覚的に立体感を形成できることから、装飾的あるいは美的効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の立体視画像形成体の構成図
【図2】本発明の立体視画像の生成および配置を示す図
【図3】本発明の立体視用具の構成図
【図4】立体視の際の光の作用を示す図
【図5】光学異方性層の積層構造を示す図
【0013】
<立体視画像形成体の構成>
図1は、本発明の立体視画像形成体の構成図であり、図1(A)は本発明の立体視画像形成体1の平面図、また、図1(B)は、図1(A)のX−X断面の拡大図である。
立体視画像形成体1は、基材10上に形成された反射層14、第1の画像層12、第2の画像層13を持つ。
【0014】
第1の画像層12には、立体視画像5を構成する一方の画像である第1の画像5aが画像パターンA121として、また、第2の画像層13には、立体視画像を構成する第2の画像5bが画像パターンB131として、それぞれ所定の位相差を呈するよう光学異方性を有する素材により記録されている。
なお、図中の中間層15は、保護層、接着層、配向層など、必要に応じて選択し形成する機能層であり、また必ずしも必要とされるものではない。
【0015】
<画像パターンの形成>
上記のような光学異方性を有し、かつ画像パターンの形成に適した素材としては液晶インキがあり、以下に、液晶インキによる画像パターンA121および画像パターンB131の形成について説明を加える。
液晶インキは、液晶性化合物分子を溶媒中に分散させインキ化したもので、基材に塗布することで液晶層を形成する。液晶層は、これに含まれる液晶性化合物分子を配向することにより光学異方性を付与することができる。
【0016】
光学異方性とは、入射する光に対して、光軸に垂直な方向の屈折率が方向により異なる、いわゆる複屈折性のことを指し、光学異方性を持つ物質に入射した光は、互いに垂直な振動方向の2つの光(正常光線と異常光線と呼ぶ)に分離する。この2つの光は屈折率の違いにより位相差が生じて出射され、
正常光線に対する屈折率No、異常光線に対する屈折率Ne、
前記物質の厚みd、光の波長λとすると、位相差Rr、Rlは
Rr=2π(Ne−No)・d/λ [角度]
または Rl=(Ne−No)・d [長さ]
と表わされる。
【0017】
液晶インキを所望の配向状態とするには、何らかの基材上にまず配向層を形成し、この上に液晶インキを塗布する。配向層により液晶性化合物分子の配向方向が規定されるので、熱、光、電子線等を照射するとこの配向状態が固定化される。
配向層は、高分子樹脂で形成した層にラビング処理を施すことで得られる。ラビングとは、前記層の表面を、フェルトやゴムなどで単一方向に擦る方法である。
【0018】
続いて、第2の画像層13を例に光学異方性を持つ画像パターンの形成について説明する。
【0019】
第2の画像層13に画像パターンB131を形成するには、まず、反射層14上に配向層を形成し、さらに液晶インキを塗布する。
【0020】
次に、画像パターンB131の形状のマスクを用い紫外線等で露光する。これにより露光された部分の配向状態が固定化される。
このとき、画像パターンB131が所望の位相差を持つよう形成する必要があるが、これには露光量の調節、あるいは前記マスクの濃度を調節するなどの方法がある。
また、画像パターンのない領域132は、画像パターンB131の位相差とは異なる位相差をもって配向させる、あるいは、異方性消失温度を用いて、位相差を消失させる、などにより画像パターンB131との区別が可能となる。
【0021】
なお、異方性消失温度とは、加温により光学異方性が乱れ、位相差が初期値より大きく減少(例えば初期値の20%)する温度であり、上記の例では画像パターンのない領域132の光学異方性の消失と、この状態の固定化を同時に実行することが可能となる。このとき、露光済みの画像パターンB131の領域は既に固定化しており、同領域の異方性消失温度が上昇しているため、同領域の位相差が維持されるような温度を選定すれば画像パターンB131の光学異方性は残り、前記領域132と画像パターンB131の領域の区別が可能となる。
【0022】
なお、画像パターンB131の形成は上記に限らず、例えば電子線により直接描画することも可能である。電子線描画装置は極めて高価であるが、多品種少量の画像パターンの作成には特に有効である。
【0023】
第1の画像層12も上記と同様の手順で形成するが、第2の画像層13に重ねて、直接、形成してもよいし、別体の仮基材上に形成し、第1の画像層12に相当する部分を第2の画像層13に積層してもよい。
【0024】
このようにして形成された画像パターンA121および画像パターンB131は、他の領域(画像パターンのない領域122、132)と位相特性が異なるものの、両領域を透過する光の波長特性、光量に差異がないため、自然光の下での観察では前記パターンは視認できない。
【0025】
<立体視画像の生成>
図2は本発明の立体視画像形成体に用いる立体視画像の生成および配置を示す図であり、図例では、立体3のような立方体形状のモデルを元としている。
まず、立体3から元画像4のような3次元情報を生成する。図例では、元画像4は、立体3の稜線部で表わしたスケルトン像により形状を表現している。
次に、元画像4から右目および左目に割当てる2つの画像(第1の画像5aおよび第2の画像5b)を生成する。第1の画像5aと第2の画像5bは相互に視差を持った画像であり、視差に相当する分の形状が異なっている。
なお、2つの画像による立体視には平行法と交差法があるが、図2の例では、第1の画像5aと第2の画像5bは平行法で観察するのに適した配置で示してある。
【0026】
第1の画像5aおよび第2の画像5bは、基材10上に、観察者の両眼を結ぶ線と平行(通常は水平)に配置される。配置における両画像の間隔は立体視が可能な距離であればよく、例えば配置1x、配置1y、配置1zのような配置が可能である。すなわち、立体感の知覚は両画像の形状に基づく視差に依存するので、第1の画像5aと第2の画像5bの配置は、重なり合ってもよく、また、分離していてもよい。
【0027】
本発明の立体視画像形成体では、図1に示すように、第1の画像5aが第1の画像層12に、第2の画像5bが第2の画像層13に記録される。このとき、第1の画像5aおよび第2の画像5bは潜像として記録され、自然光の下での目視状態では、第1の画像5a、第2の画像5bとも不可視となる。
【0028】
なお、立体視画像5の生成は、3次元コンピュータグラフィック技術により容易に実現可能である。また、立体視画像5は、図例のような線画に限らず自然画のような濃淡を持った画像でもよく、その場合、濃淡は網点の大小で表現するなどの方法がある。この場合、立体視画像5はステレオカメラなどにより作成することが可能である。
【0029】
<立体視用具>
図3は、本発明の立体視用具を示す図である。
立体視用具20は、両眼視のためのメガネ状の装具であり、それぞれ特定の透過特性を持つフィルターA20aおよびフィルターB20bが設けられている。なお、図3(B)は、図(A)のB−B断面の部分拡大図である。
【0030】
フィルターA20aは、透明基材21上に直線偏光層22と、可視光の特定の波長の近傍の透過特性を持つ、換言すれば特定の色を不透過あるいは透過する色フィルター層A23aを順に重ねた構成となっている。また、フィルターB20bは、透明基材21上に直線偏光層22と、前記色フィルター層A23aとは異なる透過特性を有する色フィルター層B23bを順に重ねた構成となっている。
【0031】
<立体視の方法>
図4は、立体視の際の光の作用を示す図である。
立体視に当たっては、立体視画像形成体1および立体視用具20を組み合わせて用いるが、図例では、立体視用具20としては、その光学的機能にかかわるフィルターA20aおよびフィルターB20bのみを表わしている。
【0032】
立体視画像形成体1に入射し反射層10で反射された光のうち、画像パターンA121を通る光は所定の位相差r1を持って出射される。同様に、画像パターンB131を通る光は位相差r1とは異なる所定の位相差r2を持って出射される。また、画像パターンのない領域(122、132)を通る光は、少なくともr1、r2とは異なる位相差を持つ光として出射される。
【0033】
ここで、観察者が立体視用具20を用いずに立体視画像形成体1を観察した場合は、画像パターン(121、131)の領域は、他の領域(画像パターンのない領域122、132)と区別がつかないため、第1の画像5aと第2の画像5bとも視認されない。これは、人間の目が位相差を感知し得ないためである。
【0034】
続いて図4にしたがって立体視用具20を用い場合の作用について説明する。
立体視用具20に到達した光のうち、ある偏波面を持った光を想定すると、まずフィルターA20aとフィルターB20bの直線偏光層22により、特定の波長領域が減衰される。逆にいえば、特定の波長領域の光が選択的に透過する。この特定の波長領域は位相差と偏光層の角度に依存する。したがって、r1、r2および画像パターン(121、131)の配向の角度をそれぞれ適切な値に設定することにより、第1の画像5aからの光が第1の色成分の色となるよう、また第2の画像5bからの光が第2の色成分となるよう、透過する波長範囲を選定することができる。
一方、画像パターンのない領域(122、132)からの光は特定の位相差をもっていないので色成分は変化することなく透過する。
【0035】
直線偏光層22の段階では第1の画像5aからの光も第2の画像5bからの光も透過することになるが、これを立体視するには、第1の色成分または第2の色成の一方を選択的に透過する色フィルターにより他方の色を顕在化(可視化)すればよい。
【0036】
例えば、第1の画像5aからの光がレッドであれば色フィルター層23bをレッドに設定し、第2の画像5bからの光がブルーであれば色フィルター層23aをブルーに設定する。これにより、フィルターA20aでは、第2の画像層13の第2の画像5bからの光が透過し、画像パターンのない領域132からの光もブルーの成分が透過するため、画像パターン131は画像パターンのない領域132と同化し不可視となる。このとき、第1の画像層12の第1の画像5aからの光(レッド)はフィルターA20a(ブルー)では不透過となるため、第1の画像5aと画像パターンのない領域(122、132)に濃淡差が生じ画像パターン121が顕在化する。同様の仕組みで、フィルターB20bでは画像パターン121は不可視となり、画像パターン131が顕在化する。このように、両眼のそれぞれには第1の画像5a、第2の画像5bの何れか一方が視認されるため、両眼視したときには立体形状が知覚される。
【0037】
以上述べたように、本発明の立体視画像形成体は、一見では不可視に記録された画像が、簡便な立体視用具と組み合わせて、観察者に立体像として知覚させることができる。このため、立体視用具の有無による観察像の違いが明確に区別でき、さらに立体視画像5が不可視の画像として記録されるので、従来の色フィルターによるステレオ画像とは異なる意匠的効果を与える。
また、本発明の立体視画像形成体に記録された立体視画像5は、複写機等では複製できない。
よって、本発明の立体視画像形成体は偽造防止分野での利用が特に好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 立体視画像形成体
5 立体視画像
5a 第1の画像
5b 第2の画像
10 基材
12 第1の画像層
13 第2の画像層
14 反射層
15 中間層
20 立体視用具
20a フィルターA
20b フィルターB
21 透明基材
22 直線偏光層層
23a 色フィルター層A
23b 色フィルター層B
40a 観察者の一方の目
40b 観察者の他方の目
50 光学異方性層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
両眼視差を生じしめる第1の画像と第2の画像とからなる立体視画像が基材に形成されてなる立体視画像形成体であって、
前記第1および第2の画像とは互いに光学異方性が異なるものとして形成されていることを特徴とする立体視画像形成体。
【請求項2】
前記第1および第2の画像は、自然光下では不可視の画像として形成されることを特徴とする請求項1記載の立体視画像形成体。
【請求項3】
前記第1および第2の画像は、互いに光学異方性の異なる液晶インキからなることを特徴とする請求項1または2何れか記載の立体視画像形成体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項記載の立体視画像形成体から両眼立体視により立体視像を視認する立体視用具であって、
前記立体視用具は、観察者の一方の目に割当てる第1の判別部と、他方の目に割当てる第2の判別部からなり、
前記第1の判別部は、前記立体視画像形成体からの光を選択的に透過させる偏光フィルターと、該偏光フィルターを通過した第1の色成分を不透過とする第1の色フィルターを積層してなり、
前記第2の判別部は、前記立体視画像形成体からの光を選択的に透過させる偏光フィルターと、該偏光フィルターを通過した第2の色成分を不透過とする第2の色フィルターを積層してなることを特徴とする立体視用具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−88495(P2013−88495A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226579(P2011−226579)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】