立体障害および酵素に関連するシグナル増幅に基づく高特異性かつ高感度の検出
本発明は、サンプル中における標的核酸の高感度かつ高特異性の検出が可能な分子プローブに関する。このプローブを用いる検出方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体が引用により取り込まれている2007年5月31日出願の米国仮特許出願第60/941,057号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府によって支援された研究または開発の下になされた発明に対する権利に関する声明
本発明は、NIH/NIDCR の認可番号 UO1DE 017790、UO1DE015018 および RO1DE017593、ならびに NASA/NSBRI の認可番号 TD00406 の下に、政府の支援を伴ってなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明の背景
本発明の分野
本発明は、核酸プローブおよびアッセイ方法に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
ポイントオブケア(point-of-care)検出に関する要求の一つは、混合物中における少量の標的分子を検出することである。数の少ない標的の検出は、あらゆる混合物の複雑性のため、高い特異性と共に高い感度を必要とする。しかし、先行技術の検出方法は、特異性と感度との間の互いの譲歩(compromise)を必要とする。シグナルの増幅を得るため、感度を増大させるのを助けるいくつかの手法が開発されている。ほとんどの検出方法において、シグナル強度は、全サンプル容積と比べて通常は非常に小さい検出領域内における標的の数と関連する。そのため、全サンプル容積中における標的の量を増幅すること、または標的を小さな検出領域の中へ蓄積させることは、高いシグナル強度の助けとなる。
【0005】
第1の方法は、標的、プローブおよび/またはシグナルの総数を増大させ、それによって高強度の測定結果を生み出す。例えば、PCR、プライムドin situ標識(Primed in situ labeling)(PRINS)および核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence-based amplification)(NASBA)技術が、標的の全量を増大させるために適用される。Monis and Giglio、Infection Genetics and Evolution、2006. 6(1): p. 2-12 を参照されたい。リガーゼ連鎖反応(LCR)およびローリングサークル増幅(rolling circle amplification)(RCA)は、プローブの増幅を達成した。分岐 DNA (bDNA) およびチラミド(tyramide)シグナル増幅(TSA)は、シグナル増幅をもたらす。Andras et al.、Molecular Biotechnology、2001. 19(1): p. 29-44 を参照されたい。
【0006】
標的/プローブ/シグナルの直接的増幅と比較して、第2の方法は、標的のより多くのコピーを作り出す代わりに標的の局所的濃度を増大させることに焦点を合わせる。例えば、ナノテクノロジーは、ナノ粒子に基づく技法を適用することによって、サンプル内のわずかなコピーの標的を検出領域の中へ集中させることができる。標的の全量および局所的濃度の両方の増大は、高い感度をもたらす。しかし、特異的および非特異的シグナルの両方が増幅されるため、それはより高いバックグラウンドレベルおよびより多くの偽陽性の結果をも生み出す。
【0007】
他方、バックグラウンドノイズのレベルを減少させるため、高特異性のプローブ、例えば分子ビーコンおよび束縛構造(constraint structure)を有する他のプローブが設計されている。Wei et al.、Journal of the American Chemical Society、2005. 127(15): p. 5306-5307; Broude、Trends in Biotechnology、2002. 20(6): p. 249-256; Fan et al.、Trends in Biotechnology、2005. 23(4): p. 186-192; および Tyagi and Kramer、 Nature Biotechnology、1996. 14(3): p. 303-308 を参照されたい。典型的には、これらの方法は、FRET などの距離感受性(distance sensitive)のシグナル伝達過程、インターカレートする色素(intercalating dye)(Howell et al.、Genome Research、2002. 12(9): p. 1401-1407) および電気化学に基づく。これらの方法において、特定の標的の結合がプローブの立体構造変化を引き起こす。立体構造変化は、シグナル ON 状態への劇的な切替えをもたらす。しかし、測定可能なシグナルのために大量の標的が必要とされ、それ故に検出系へより多くの偽陰性の結果を導入するため、特異性を改良することによってそれらのプローブは検出限界を悪化させる。
【0008】
従って、高感度かつ高特異性の検出を提供するアッセイ方法および試薬に対する要求が未だ存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の概要
本発明は一般的に、プローブおよびアッセイ方法に関する。
【0010】
第1の側面において、本発明は、標的核酸分子を検出するためのプローブを提供する。該プローブは、2つの部分を含む: 標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列、および受容体に対するリガンド。プローブは、標的核酸分子が全くプローブに結合していない場合には第1の三次元構造を有し、標的核酸がプローブに結合している場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は、受容体がリガンドと特異的に結合することを許容する。いくつかの態様において、受容体は、検出可能な標識、すなわち検出可能なシグナルを与える部分を含む。いくつかの態様において、検出可能なシグナルは、例えば酵素反応によって、増幅される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる。いくつかの態様において、プローブは、基体(substrate)上または固体支持体上に固定化される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、リガンドを基体に近い位置へ配置する。いくつかの態様において、受容体は、リガンドに特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、検出可能な標識は、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチン等である。いくつかの態様において、検出可能な標識からの検出シグナルは、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼ等によって触媒される酵素反応の方法によって増幅され得る。いくつかの態様において、プローブはヘアピンプローブまたは四重鎖(quadruplex)プローブである。
【0011】
第2の側面において、本発明は、サンプル中の標的核酸分子をアッセイするための方法を提供する。該方法は、受容体の存在下において上記のプローブをサンプルと接触させること、およびその後にリガンドと受容体との間の複合体の存在または不存在を検出することを含む。本発明のプローブは、(標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズすることができる)ポリヌクレオチド配列および(受容体に結合することができる)リガンドを含み、標的核酸分子が全くプローブに結合していない場合には第1の三次元構造を有し、標的核酸がプローブに結合している場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は受容体がリガンドと特異的に結合するのを許容する。従って、リガンドと受容体との間の複合体の存在は、サンプル中における標的核酸分子の存在を示し、他方、複合体の不存在は、サンプル中における標的核酸分子の不存在を示す。いくつかの態様において、受容体は、検出シグナルを与えることができる検出可能な標識である。いくつかの態様において、検出可能なシグナルは増幅される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる。いくつかの態様において、プローブは基体上に固定化される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、リガンドを基体に近い位置へ配置する。いくつかの態様において、受容体は、リガンドと特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、検出可能な標識は、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチン等である。いくつかの態様において、検出可能な標識からの検出シグナルは、酵素反応におけるペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼ等の使用によって増幅され得る。いくつかの態様において、プローブは、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである。いくつかの態様において、リガンドに結合していないあらゆる受容体は、複合体を検出する前に除去される。
【0012】
本発明は、(高濃度の夾雑物およびシグナル検出を妨害する分子を伴う)“汚れた”サンプル、例えば唾液中において、非常に低い濃度のバイオマーカーを検出する方法を提供する。それは、高品質のサンプル調製が利用できないかまたは高価過ぎる状況、例えばポイントオブケア(point-of-care)、ならびに夾雑物および妨害化合物(inferring compound)(妨害物(interferent))に比べてバイオマーカー濃度が非常に低い状況に対して適用される。低濃度検出についての実行可能性データは、口腔癌の mRNA バイオマーカーである IL8 において示される。
【0013】
いくつかの態様において、プローブは“使用準備済み(ready-to-use)”であり、例えば、プローブは表面上に前もって固定(pre-anchored)され、検出の間に他の処理を必要としない。いくつかの態様において、プローブは、生体適合性のオリゴヌクレオチドまたはアプタマーである。
【0014】
本発明のプローブは、多重適用(multiplex application)において容易に採用することができ、高価な機器および複雑なデータ解析を必要としない。読み出しシグナルは、当該技術分野において公知のあらゆる適切なシグナル、例えば電気化学的シグナル、蛍光シグナル等であり得る。
【0015】
先行技術の方法は相補的および非相補的な標的に対して選択的でなく、偽陽性の結果をもたらすが、本発明のプローブは、先行技術を上回って偽陽性の結果を減少させまたは除去する。プローブ設計に対する立体障害の効果は、特異性を増大させる。
【0016】
高い特異性を有する先行技術の方法は、偽陰性の結果を生じさせるシグナル減少をもたらすが、本発明のプローブは、先行技術を上回って偽陰性の結果をも減少させまたは除去する。特異的シグナル増幅は、シグナル強度を増大させ、それによって感度を改善するために適用された。
【0017】
本発明のプローブおよび方法は、血液、血清、尿および唾液サンプルにおけるバイオマーカーの臨床検出、例えば、オリジナルの唾液を用いる唾液 mRNA の検出および疾患の初期段階の生体内モニタリングのために使用することができる。
【0018】
本発明のプローブおよび方法は、多重化された(multiplexed)検出、例えば、様々な標的核酸分子に対して特異的な本発明の複数のプローブを含むマイクロアレイにおいて採用することができる。
【0019】
プローブの異なる状態間の切替えは可逆的であるので、本発明のプローブは、センサーを再利用できるよう、再使用することができる。いくつかの態様において、受容体および/またはそれに結合する標識の形状およびサイズは、立体障害の効果について最適化される、例えば、大きな受容体および/または標識は、比較的小さな受容体および/または標識よりも立体障害に対してより敏感である。
【0020】
本明細書において開示される通り、本発明は、標的核酸分子に対するプローブに関する。該プローブは、(標的核酸分子の配列、例えば IL-8 の mRNA または DNA 配列に対して特異的にハイブリダイズする)ポリヌクレオチド配列および受容体に対するリガンドを含む。本プローブは、プローブに結合する標的核酸分子が存在しない場合には第1の三次元構造を有し、プローブに結合する標的核酸が存在する場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は、受容体がリガンドと特異的に結合することを許容する。
【0021】
いくつかの態様において、プローブは、標的配列に対して相補的または実質的に相補的なポリヌクレオチド配列を含む。本明細書において用いる場合、“実質的に相補的”とは、緩やかな(moderate)、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下で配列に特異的にハイブリダイズする配列をいう。いくつかの代表的なポリヌクレオチド配列は、表 2-4 に示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面の簡単な説明
本発明は、図面を参照することによってさらに理解され、ここで:
【0023】
【図1】図 1 は、本発明のアッセイ方法の態様を概略的に示す。
【図2】図 2 は、本発明のヘアピンプローブに関するプローブ構造の影響を示す。
【図3】図 3 は、直線状プローブおよびヘアピンプローブによる mRNA の検出限界を示す。
【図4】図 4 は、ヘアピンプローブを用いる電気化学的検出における特異的シグナル増幅を模式的に示す。ヘアピンプローブに対して標的が全く結合していない場合、ヘアピンは閉じており、HRP が表面上で有効な複合体を形成できず、その結果、シグナルは観察されない。標的とハイブリダイズした後は、ヘアピンが開き、HRP 複合体が形成される。その後、TMB が還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。
【図5】図 5 は、ヘアピンプローブを適用する、2組の唾液の RNA: IL-8 および S100A8 の交差検出を示すグラフである。RNA 標的のレベルは、IL-8 については 5 nM、S100A8 については 7 nM である。空(blank)のシグナルは、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。
【図6】図 6 は、様々なリンカーを有する IL-8 ヘアピンプローブを用いる検出を図によって比較する。ヘアピンは、空対照(blank control)においては閉じており、RNA サンプルを伴うと開く。IL-8 RNA の濃度は 50 nM である。空対照は、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。異なるリンカー長を有するヘアピンプローブの立体配置を、模式的に示す。
【図7】図 7 は、異なるステムループ構造を有する IL-8 ヘアピンプローブを用いる検出を、図によって比較する。ヘアピンは、空対照において閉じており、RNA サンプルを伴うと開く。下線を伴う配列は、標的 RNA と相補的である。イタリック体の配列は、ステム部分である。太字の配列は、ループ部分である。HP1: 10 bp がステム、41 bp が二重鎖。 HP2: 8 bp がステム、34 bp が二重鎖。 HP3: 6 bp がステム、27 bp が二重鎖。IL-8 RNA の濃度は 50 nM である。空対照は、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。
【図8】図 8 は、直鎖状プローブとヘアピンプローブの間で比較された、唾液の RNA の検出を示す。(a): IL-8。表 2 に示す通り、直鎖状プローブは IL-8 CP および IL-8 DP であり、ヘアピンプローブは IL-8 HP である; (b): S100A8。表 2 に示す通り、直鎖状プローブは S100A8 CP および S100A8 DP であり、ヘアピンプローブは S100A8 HP である。
【図9】図 9 は、IVT RNA を用いる、スパイクされた(spiked)唾液の電気化学的検出を示す。円: (a) IL8; (b) S100A8。唾液サンプルは、何の処理も伴わない同一人の同一バッチ(batch)からの全唾液(whole saliva)である。
【図10】図 10 は、標識分子とオリゴヌクレオチドの間の結合の構造を示す。
【図11】図 11 は、HP を適用する、2組の IVT RNA: IL-8 および S100A8 を用いた交差検出。(a)8つのサンプルについての電流測定シグナル。(1)-(4) は、HP を S100A8 について適用し、標的化する RNA は、それぞれ (1) 7 nM S100A8、(2) 500 nM IL-8、(3) 5 nM IL-8、および (4) バッファーのみ、であった。(5)-(8) は、HP を IL-8 について使用し、標的化する RNA は、それぞれ (5) 5 nM IL-8、(6) 700 nM S100A8、(7) 7 nM S100A8、および (8) バッファーのみ、であった。(b) (a)における同じ8つのサンプルの棒グラフ。HP の配列は、表 3 に IL-8 HP および S100A8 HP として記載する。4つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。
【図12】図 12、直鎖状プローブ(LP) および HP による唾液の IL-8 RNA の検出。表 3 に記載される通り、LP は IL-8 CP および IL-8 DP であり、HP は IL-8 HP であった。測定されたシグナルから、空対照のシグナルを減算した。4つの実験の平均および標準偏差を示す。LP についての 4 fM の標的のデータ点は、その値が空対照の値よりも下だったため、示されていない。
【図13】図 13、同じセットの臨床唾液サンプルについての、HP を用いる電流測定シグナルと、IL-8 mRNA の qPCR によって検出される濃度との間の相関。線形回帰についての R2 は、0.99 であった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
立体構造の変化に関連するこれまでの検出(Howell, W.M., M. Jobs, and A.J. Brookes, iFRET: an improved fluorescence system for DNA-melting analysis. Genome Research, 2002. 12(9): p. 1401-1407; Xiao, Y., et al., Single-step electronic detection of femtomolar DNA by target-induced strand displacement in an electrode-bound duplex. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2006. 103(45): p. 16677-16680; および Xiao, Y., et al., Label-free electronic detection of thrombin in blood serum by using an aptamer-based sensor. Angewandte Chemie-International Edition, 2005. 44(34): p.5456-5459 を参照)において、標的認識(特異性)とシグナル増幅(感度)は、関連しない2つの工程である。認識過程のみが特異的である一方、増幅は非特異的であり、シグナルおよびノイズの両方に適用される。本発明においては、増幅および認識は両者とも特異的である。標的の特異的結合のみが、シグナル増幅を引き起こす。他の妨害物(interferent)(アッセイされるサンプル中における夾雑物および他の分子)の非特異的な結合は、測定されるシグナルに対する貢献が著しく少ない。そのため、ノイズレベルが抑制され、標的のシグナルのみが増幅される。
【0025】
本明細書において用いる場合、“標的”は、“標的核酸分子”と互換的に用いられる。本明細書において用いる場合、“標的”核酸分子は、その存在および/または量を知ることが望まれるいかなる核酸分子であってもよい。いくつかの態様において、標的核酸分子の配列は既知である。いくつかの態様、例えば、突然変異(mutation)検出において、標的核酸分子の配列は、参照核酸配列からの変化、すなわち差異を有すると疑われる配列であり得る。これらの態様において、標的核酸分子の配列は、既知でも未知でもよく、“参照核酸配列”は、それと標的核酸分子の配列とを比較することが可能な既知の核酸配列である。標的核酸分子における変化は、1のヌクレオチド塩基または1より多いヌクレオチド塩基において存在し得る。かかる変化は、既知の多型性の変化、例えば一ヌクレオチド多型であり得る。
【0026】
本明細書において用いる場合、“核酸分子”、“ポリヌクレオチド”および“オリゴヌクレオチド”は、一本鎖または二本鎖であり得る天然または合成由来の DNA 分子および RNA 分子をいうために互換的に用いられ、センス鎖もしくはアンチセンス鎖を意味する。本発明の核酸分子は、既知のヌクレオチド類縁体または改変された骨格残基もしくは連結(linkage)、および DNA ポリメラーゼもしくは RNA ポリメラーゼによってポリマー中に組み込むことができるあらゆる基質を含有し得る。かかる類縁体の例は、ホスホロチオエート(phospborothioate)、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などを包含する。
【0027】
好ましい態様において、本発明の核酸分子は単離されている。本明細書において用いる場合、“単離された”とは、その天然の環境から単離されている核酸分子をいう。“単離された”核酸分子は、核酸分子が得られた種のゲノム DNA から実質的に単離されまたは精製され得る。“単離された”ポリヌクレオチドは、5'末端、3'末端または両方において核酸分子が通常または天然に付随している他の DNA セグメントから分離されている核酸分子を包含し得る。
【0028】
本発明の核酸分子は、その天然の形態であってもよく、または合成的に改変されてもよい。本発明の核酸分子は、一本鎖(コーディングもしくはアンチセンス)または二本鎖であり得、DNA (ゲノム、cDNA または合成の) または RNA 分子であり得る。RNA 分子は、イントロンを含み、DNA 分子と1対1の関係で対応する mRNA 分子、およびイントロンを含まない mRNA 分子を包含する。本発明の核酸分子は、他の核酸分子、支持材料(support material)、レポーター分子、クエンチャー分子、またはこれらの組合せと連結し得る。他の核酸分子は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、さらなる制限酵素部位、マルチクローニングサイト、他のコーディング部分(coding segment)等を包含する。そのため、全長が好ましくは意図される組換え DNA もしくは PCR プロトコールにおける調製および使用の容易さによって制限されつつ、ほとんどあらゆる長さの核酸断片を採用し得ることが考慮される。本発明のいくつかの態様において、本明細書において記載される核酸分子を含む核酸配列が考慮される。
【0029】
本発明の核酸分子は、当該技術分野において公知の方法によって、例えば、当該技術分野において公知の方法および機器、例えば自動オリゴヌクレオチド合成機、PCR 技術、組換え DNA 技術等を用いて核酸配列を直接的に合成することによって、容易に調製することができる。
【0030】
本発明の核酸分子は、標識を含有し得る。様々な標識および結合技法が当業者に公知であり、本発明の核酸分子を採用する様々な核酸およびアミノ酸アッセイにおいて用いることができる。本明細書において用いる場合、“標識”または“検出可能な標識”とは、ラジオグラフィー、蛍光、化学発光、酵素活性、吸光度(absorbance)等を含む当該技術分野において公知の方法によって検出可能なシグナルを生成する組成物もしくは分子である。検出可能な標識は、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、酵素、色素、金属イオン、リガンド、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン(strepavidin)およびハプテン、量子ドット等を包含する。
【0031】
“標識化された”核酸分子は、それに結合した標識の存在を検出することによって該核酸分子の存在を検出できるよう結合した標識を含む。標識は、共有結合、例えば化学結合、または非共有結合、例えばイオン結合、ファンデルワールス結合、静電結合もしくは水素結合を介して、核酸分子に結合し得る。ポリヌクレオチドと関連する配列を検出するための標識化されたハイブリダイゼーションもしくは PCR プローブを作成するための、当該技術分野において公知の方法を用いることができ、該方法は、オリゴ標識(oligolabeling)、ニックトランスレーション、末端標識(end-labeling) または標識化されたヌクレオチドを用いる PCR 増幅等、好ましくは末端標識(end-labeling)を包含する。用い得る適切な標識は、放射性ヌクレオチド(radionucleotide)、酵素、蛍光物質、化学発光物質もしくは発色性物質ならびに基質、補因子、阻害剤、磁性粒子等を包含する。
【0032】
本明細書において用いる場合、“核酸プローブ”または“プローブ”とは、該核酸プローブの配列と相補的な配列を有する標的核酸分子に結合することができる核酸分子をいう。プローブは、当該技術分野において公知の、天然のまたは改変された塩基を包含し得る。例えば MPEP 2422、第8版を参照されたい。プローブのヌクレオチド塩基は、その結合が核酸分子の相補的な核酸分子に結合する能力を阻害しない限り、ホスホジエステル結合以外の結合によって連結され得る。プローブは、プローブ配列に対する相補性が100%未満である標的配列に結合することができ、かかる結合はハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。サンプル中における標的配列またはサブ配列(subsequence)の存在または不存在を決定するために、プローブの存在または不存在を検出することができる。プローブは、検出可能な標識を含有し得る。
【0033】
本明細書において用いる場合、“アッセイ”は、“検出”、“測定”、“モニター”および“解析”と互換的に用いられる。
【0034】
本明細書において用いる場合、“付加される(affixed)”、“付着する(attached)”、“付随する(associated)”、“結合する(conjugated)”、“接続する(connected)”、“共役する(coupled)”、“固定化される(immobilized)”、“吸収される(adsorbed)”および“連結する(linked)”は互換的に用いられ、文脈が別にはっきりと示さない限り、可逆的または非可逆的であり得る、直接的および間接的な接続(connection)、付着(attachment)、連結(linkage)もしくは結合(conjugation)を包含する。
【0035】
本明細書において提供される通り、“リガンド”とは、別の分子、すなわち“受容体”に結合する分子をいう。例えば、抗体に結合する抗原、相補的な(complimentary)オリゴヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、受容体に結合するホルモンもしくは神経伝達物質、または酵素に結合する基質もしくはアロステリックエフェクター(allosteric effector)であり、天然および合成の生体分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、炭水化物、糖、脂質、リポタンパク質、低分子、天然および合成の有機物質および無機物質、合成ポリマー等を包含する。本明細書において提供される通り、“受容体”は、所与のリガンドに特異的に結合する分子である。
【0036】
本明細書において用いる場合、2つの分子の間の“特異的結合”または“特異的相互作用”とは、所与のリガンドとその受容体が、所与のサンプル中の他の成分もしくは夾雑物の結合またはそれとの相互作用から区別するのに十分な特異性をもって、互いに結合または相互作用することを意味する。
【0037】
本明細書において用いる場合、“選択的に(または特異的に)ハイブリダイズする”の表現は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件から緩やかなハイブリダイゼーション条件下で、他のヌクレオチド配列よりも特定のヌクレオチド配列に対して核酸分子が結合すること、二重鎖を形成すること(duplexing)またはハイブリダイズすることをいう。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルは、バックグラウンドのハイブリダイゼーションの少なくとも 約 2 倍、好ましくは約 5 倍、より好ましくは約 10 倍である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、プローブの熱融解温度(Tm)の約 5 ℃下から Tm の約 10 ℃下までである。緩やかなハイブリダイゼーション条件は、プローブの熱融解温度(Tm)の約 10 ℃下から、Tm の約 20 ℃から約 25 ℃下までである。
【0038】
高い感度: 感度を増大させるため、サンドイッチ検出に基づくシグナル増幅を適用する。サンドイッチ増幅の基本概念は、シグナルを増幅するという目的を有する、サンドイッチ様複合体を形成するためのメディエーター(mediator)の適用である。まず、標的がプローブに結合した後、検出の前に、レポーター標識化プローブとメディエーターとの間で複合体が形成される。次いで、過剰なメディエーターを除去し、検出を行う。Liao, J.C., et al., Use of electrochemical DNA biosensors for rapid molecular identification of uropathogens in clinical urine specimens. Journal of Clinical Microbiology, 2006. 44(2): p. 561-570; および Gau, V., et al., Electrochemical molecular analysis without nucleic acid amplification. Methods, 2005. 37(1): p.73-83 を参照されたい。常套の核酸のサンドイッチ検出においては、オリゴヌクレオチドプローブは直鎖状である。そのため、非特異的な標的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーターの結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果をもたらす。
【0039】
高い特異性: 特異性を増大させるため、立体障害切替え構造(steric hindrance-switch structure)(例えばステムループおよびアプタマー)をプローブ設計に導入する。本発明のプローブは、少なくとも二状態の(two-state)構造を有する。標的が全く結合していない場合、プローブは構造 I に留まる。構造 I の状態において、受容体がリガンドと接触するのを立体的に障害、抑制または阻止されるため、レポーター(あるいは“リガンド”とも称される)は、メディエーター(あるいは所与のリガンドと特異的に結合する“受容体”とも称される)と有効な複合体を形成することができない。標的との結合の後、プローブは構造 II へと変化する。構造 II の状態において、レポーターは、シグナル増幅をもたらすメディエーターとの有効な複合体を形成する。立体障害の設計は、労力および費用を増大させるいかなる追加の化学反応工程も伴わず、単純かつ効果的である。
【0040】
物理的な力のパラメーター Fa は、コンフォメーションを制約するプローブの分子内相互作用を表わす。より高い Fa は、構造 I の状態においてプローブをより安定にする。別の物理的な力のパラメーター Fb は、標的とプローブとの間の分子間相互作用を表わす。より高い Fb は、プローブが構造 II の状態において安定することを可能にする。Fa と Fb との間の競争は、プローブがどちらの状態に留まるかを決定する。Fb が標的とプローブとの間の相互作用に由来するため、特異的な標的結合は、非特異的な標的結合よりも高い Fb を生み出す。そのため、検出の特異性は、|Fa-Fb(特異的)| と |Fa-Fb(非特異的)| との間の差によって決定することができる。ほとんどの場合において、標的の、ひいては標的とプローブとの間の相互作用の Fb、は 変えることができない。しかし、高い特異性を達成するため、プローブ設計の変更を介して Fa を希望する値に設計することができる。
【0041】
低コピー数適用: さらに、通常はシグナルオフ(signal-off)の工程である伝統的な立体構造に基づく検出 (Fan, C.H., K.W. Plaxco, and A.J. Heeger, Electrochemical interrogation of conformational changes as a reagentless method for the sequence-specific detection of DNA. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2003. 100(16): p. 9134-9137) と比較して、本発明の検出はシグナルオン(signal-on)の工程であり得る。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は低い値での測定よりも大きな誤差を有し、そのため、シグナルオンの工程はより安定なバックグラウンドノイズレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナル減少についてのダイナミックレンジは、元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナルを処理する(signal processing)工程が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0042】
プローブ設計: プローブの生物認識(bio-recognition)部分および束縛構造(または立体切替え(steric-switch))部分は、分離して設計するか、または統合することができる。図 1 は、プローブ設計の2つの方法を示す。分離設計(separately-design)方法 (図 1A) においては、DNA ヘアピン構造をプローブとして用いた。ループが、標的に対する生物認識部分である。ステムは、立体切替え部分のために設計される。特異的な標的の濃度が検出限界よりも下である場合、プローブは、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成するのを阻止する立体構造上の制約を作り出す閉じた構造のままである。したがって、測定されるシグナルのレベルは低い。特異的な標的との結合の後、ヘアピンが開き、レポーターはシグナルを増幅するメディエーターと有効な複合体を自由に形成することができ、そのため、測定シグナルのレベルは高い。統合された設計においては、プローブの構成(composition)は、プローブ設計において追加の部分を必要とせず、それ自身で束縛構造を形成することができる。ここで、例えば G-四重鎖を用いることができる (図 1B)。
【0043】
図 2 は、異なるレベルの設計された立体障害の影響を示す。ここで、プローブが結合している電極表面へのレポーターの近接に起因する異なるレベルの立体障害を各々が有し、(プローブと基質の間に位置する)リンカーを有するものおよびリンカーを有さないもの、2つのヘアピンプローブを比較した。この設定において、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポート(report)を電極表面からさらに遠くへ分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。このシグナルオフ工程において、このシグナルに起因する高いバックグラウンド値の減少は小さく、検出するのが難しいことに注意されたい。リンカーを有するプローブ(設計された立体障害が低い)については、ヘアピンが閉じている場合であっても、レポートとメディエーターとの間の複合体が依然として形成され得、かつ有効であるよう、レポーターは表面から遠く離れている。そのため、“リンカーあり”と表示される左側のデータセットに示される通り、標的なしと標的(IL-8)の存在との間で測定される出力は小さい。ヘアピンプローブからリンカーを除去することによって立体障害がより大きく設計されると、標的が全く結合していない場合においてレポーターは表面に非常に近く、有効なメディエーター-レポーター複合体の形成が阻止され、そのため、測定されるバックグラウンドノイズは非常に低い。標的とのハイブリダイゼーションの後、レポーターと表面との間の距離が増大し、複合体が形成可能となり、シグナルを効果的に増幅する。シグナルの変化は、大きなシグナル対ノイズ比を有し、劇的である。これがシグナルオンの工程であり、結果を“リンカー無し”と表示される右側のデータセットに示す。
【0044】
本明細書において例証されるプローブは基質の表面上に存在するが、検出は溶液中のプローブを用いて行うこともできる。プローブ設計の鍵となる技術革新は立体障害であるため、立体障害を引き起こす全ての型の束縛(constraint)を適用することができる。例えば、プローブはナノ粒子、磁性ビーズまたは高分子、例えばタンパク質に結合し得る。
【0045】
シグナル読み取り: 本発明は、多様なシグナル読み取りの型を特色とする。読み取りシグナルは、一つの特定の型のシグナル、例えば上記の例において記載される電気的出力には限られないが、増幅工程に依存する。増幅が電子伝達工程に関連する場合、シグナルは好ましくは電流/電圧である。増幅が光学的工程に関連する場合、シグナルは好ましくは蛍光/UV/IR 等である。増幅が繊細な(delicate)分子構造の変化に関連する場合、シグナルは好ましくは微細スペクトル(fine spectra)である。また、シグナルは、機械的データおよび磁気的データであってもよい。当業者は、所与の増幅工程に基づいて適切な検出方法を容易に選択することができる。
【0046】
本発明のシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体に関連するため、検出のための標的は無標識(label-free)であり得る。無標識の検出は、試薬使用の費用を減少させるだけでなく、リアルタイムかつハイスループットな検出を可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に適用することができる。
【実施例】
【0047】
実施例
以下の実施例は、説明のみを目的として提供され、限定を目的とするものではない。当業者は、本質的に同一のもしくは同様の結果を生み出すために変更または修正することができる様々な非臨界的(non-critical)なパラメーターを容易に認識するであろう。
【0048】
実施例 1: ヘアピンプローブ設計を用いる低濃度の mRNA のモニタリング
唾液中の mRNA バイオマーカーは、唾液が口腔疾患およびおそらくは他の組織的(systematic)疾患についての診断液(diagnostic fluid)として働き得ることを示す。しかし、唾液中における特定の mRNA バイオマーカーの濃度は、フェムトモル/L よりも下である。さらに、大過剰の非特異的な mRNA、rRNA およびタンパク質が共存する。鍵となる点は、唾液中の微量の mRNA またはタンパク質を、精製および増幅なしでどのように検出するかということである。
【0049】
本明細書において開示されるものには、口腔癌についての mRNA バイオマーカーである IL8 に対する電気化学的アレイが包含される。本発明のプローブの使用を例証する。プローブを、ヘアピン構造として設計する。レポーターは、検出プローブ(フルオレセイン-緑)である。メディエーターは、抗フルオレセイン-HRP 複合体である。シグナル増幅は、 HRP の酸化還元(redox)工程に基づく。シグナル読み取りは、電流である。Fa は、ヘアピンプローブのギブズ自由エネルギーである。Fb は、プローブと標的との間で形成される二重鎖のギブズ自由エネルギーである。
【0050】
リンカーを有さないヘアピンプローブを適用することにより、IL8 の検出限界(LOD)は約 10 fg/mL (約 1 fmol/L) である (図 3)。直鎖状プローブについては、LOD は、たったの約 100 pg/mL (10 pmol/L) である。ヘアピンプローブ検出についてのダイナミックレンジは、10 fg/mL から 100 ng/mL までである。
【0051】
体液の鏡としての唾液は、体の正常な状態および疾患状態を反映することが判明した。例えば、I. D. Mandel、J. Am. Dent. Assoc.、124:85-87 (1993); I. D. Mandel、J. Oral Pathol. Med.、19:119-125 (1990); D. T. Wong、J. Am. Dent. Assoc.、137:313-321 (2006) を参照されたい。近年、Wong のグループが、いくつかの唾液の mRNA が口腔癌の患者からの唾液中において一貫して上昇したことを観察している。D. T. Wong、J. Am. Dent. Assoc.、137:313-321 (2006) を参照されたい。これらの mRNA のうち、組み合わされた4つ (OAZ-1、SAT、IL8 および IL1-β) が、口腔癌の患者の唾液を対照の被験者の唾液から識別するためのバイオマーカーとして役立ち得る。Y. Li et al.、Clin. Cancer Res.、10:8442-8450 (2004) を参照されたい。mRNA バイオマーカーの同定は、唾液を価値のある診断液にする。S. Hahn et al., Bioelectrochemistry, 67:151-154 (2005) を参照されたい。しかし、今日まで、未抽出の(unextracted)唾液中における直接的 RNA 検出のための一貫性および信頼性のある技術は存在しない。他の液に基づく(fluid-based)検出、例えば血液および尿と比較して、唾液に基づく診断法は、患者に対して提示する危険がより少なく、現在の方法よりも利用しやすく(accessible)、正確で、かつ安価である。
【0052】
診断液としての唾液についての主要な懸念は、バイオマーカーが通常、血清中におけるよりも唾液中において少ない量で存在することである。唾液のバイオマーカーの低い濃度および唾液の複雑性のため、従来の検出方法は高いシグナル対ノイズ比に対する臨床診断上の要求を満たすことができない。
【0053】
感度を増大させるのを助けるシグナル増幅を得るために、いくつかの技法が開発されている。ほとんどの検出方法において、シグナル強度は、通常は全サンプル容積と比較して非常に小さい検出領域内における標的の数と関連する。したがって、高いシグナル強度を確保するために、全サンプル容積中における標的の量を増幅すること、または標的を小さな検出領域内に蓄積させることのいずれかが適用される。第1の方法は、標的、プローブおよび/またはシグナルの総数を増大させ、それによって高強度の測定出力を生成する。例えば、PCR、プライムド in situ 標識 (PRINS) および核酸配列に基づく増幅 (NASBA) 技術が、標的の総量を増大させるために適用される。P. T. Monis and S. Giglio、Infect. Genet. Evol.、6:2-12 (2006) を参照されたい。リガーゼ連鎖反応 (LCR) およびローリングサークル増幅 (RCA) は、プローブを増幅する。P. T. Monis and S. Giglio、Infect. Genet. Evol.、6:2-12 (2006) を参照されたい。分岐 DNA (bDNA) およびチラミドシグナル増幅 (TSA) は、シグナル増幅をもたらす。S. C. Andras et al.、Mol. Biotechnol.、19:29-44 (2001) を参照されたい。標的/プローブ/シグナルの直接的増幅と比較して、第2の方法は、標的のより多くのコピーを作り出す代わりに標的の局所的濃度を増大させることに焦点を合わせる。例えば、ナノテクノロジーは、ナノ粒子に基づく技法を適用することによって、サンプル内のわずかなコピーの標的を検出領域内へと集中させることができる。A. N. Shipway and I. Willner、Chem. Commun.、pp.2035-2045 (2001); A. Merkoci、Febs J.、274:310-316 (2007); J. Wang、Anal. Chim. Acta、500:247-257 (2003); S. G. Penn et al.、Curr. Opin. Chem. Biol.、7:609-615 (2003) を参照されたい。標的の全量および局所的濃度の両方の増大は、高い感度をもたらす。しかし、特異的および非特異的シグナルの両方が増幅されるため、それはより高いバックグラウンドレベルおよびより多くの偽陽性の結果をも生み出す。
【0054】
他方、競合に基づく(competition-based)検出は、バックグラウンドノイズのレベルを減少させるよう設計されてきた。検出プローブは、常にいくつかの準安定な(quasi-stable)状態を有しており、ここで、各々の状態は異なるレベルのシグナル強度を示す。N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000); C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003); S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996); F. Wei et al.、Biosens. Bioelectron.、18:1149-1155 (2003); F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005) を参照されたい。相補的な標的と非相補的な標的との間の競合は、プローブをこれらの状態の間で切替え、そうして異なるレベルのシグナルとして提示した。切替え工程は、分子内または分子間いずれかの競合によって達成することができる。分子内切替えに関しては、通常、2 以上の準安定なコンフォメーションを有する特異性の高いプローブ、例えば分子ビーコンおよび束縛構造を有する他のプローブが適用される。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003)、S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996)、F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005); Y. Xiao et al.、P Natl Acad Sci USA、103:16677-16680 (2006); A. A. Lubin et al.、Anal. Chem.、78:5671-5677 (2006); N. E. Broude、Trends Biotechnol.、20:249-256 (2002) を参照されたい。特異的な標的との結合は、プローブの立体構造変化を引き起こす。通常、立体構造変化は、距離感受性のシグナルレベル、例えば FRET、インターカレートする色素および電気化学に影響を与える。T. J. Huang et al., Nucleic Acids Research, vol. 30 (2002); V. Gau et al., Methods, 37:73-83 (2005) を参照されたい。非特異的な標的はシグナルの変化を生成せず、バックグラウンドレベルは低い。しかし、測定可能なシグナルのために大量の標的が必要とされ、それ故により多くの偽陰性の結果を検出系に導入するため、特異性を改良することによって、それらのプローブは検出限界を減少させる。
【0055】
立体構造変化に関連する従来の検出に関して、標的認識(特異性)およびシグナル増幅(感度)は、関連しない2つの工程である。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003); S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996); F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005) を参照されたい。本明細書において開示される通り、選択的な増幅を可能にする新規なヘアピンプローブ設計によって、高い感度および高い特異性が同時に達成される。このヘアピンプローブは、シグナルをレポートする工程を活性化させる束縛構造構成要素(constraint structure component)と共に統合された、標的に対して特異的の高い生物認識構成要素(bio-recognition component)で構成される。生物認識構成要素が標的の特異性を検証した後でのみ、束縛構造構成要素は組み込まれている(built-in)立体障害を取り除き、高い感度をもたらすシグナル増幅が起こるのを可能にする。特異的な標的の結合が全く存在しない場合、立体障害がシグナル増幅を阻害する。そのため、大量の妨害物(interferent)との混合物中において低コピー数で存在するとしても、特異的な標的の存在下でのみ、測定可能なシグナルが生成され得る。この選択的増幅の方法は、非特異的な結合およびバックグラウンドレベルを大いに抑制し、あらゆるポイントオブケアの検出系の実行における2つの鍵となる障害を乗り越える。
【0056】
材料
全ての試薬 (表 1) は、いかなる前処理も伴わず、購入した状態で、またはバッファー溶液で希釈して用いられる。
【表1】
【0057】
用いた電気化学的センサーは、16単位の金のアレイであった。V. Gau et al.、Methods、 37:73-83 (2005) を参照されたい。電極のアレイは、異なるサンプルを同時に多重化検出することを可能にする。各々の単位について、作用電極(working electrode)(WE)、対電極(counter electrode)(CE)および参照電極(reference electrode)(RE)を含む3つの電極の配置が存在する。微小電極アレイの利点として、16 の電極のシグナル読み取りを同時に得ることができ、検出のためにたった 4 μL のサンプル溶液しか必要としない。本明細書において例証される通り、電気化学的シグナルは、レポートする酵素 - セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)の酸化還元過程によって生成される電流である。HRP とH2O2 との間の反応の後、HRP は酸化された状態へ変化する。その後、TMB が 2電子の工程を介して還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。
【0058】
検出プロトコール
金の電気化学的センサーの表面修飾は、以下の 3 工程を含む (V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); J. J. Gau et al.、Biosens. Bioelectron.、16:745-755 (2001):
【0059】
プローブの固定化: 金電極を、カルボキシル基によって終結する自己組織化単層(self-assembled monolayer)で事前に被覆した。金の表面を 4μL の 50% EDC および 50% NHS によって 10 分間活性化した。その後、センサーを DI 水 (18.3 MΩ・cm) でリンスし、超高純度の(ultra pure)窒素ガスを用いて乾燥させる。次いで、4μL の、5mg/mL の Ez-Biotin を金表面にロードし、その後 DI 水でリンスし、窒素ガスで乾燥させた。その後、2.5% の BSA を含む PBS バッファー中の 0.5 mg/mL のストレプトアビジンを電極上で 10 分間インキュベートして、ようやくストレプトアビジンで被覆された電極を得た。次いで、4 μL の、トリス-HCl バッファー中のビオチン化およびフルオレセインの二重標識された(dual-labeled)ヘアピンプローブ(HP)を、30 分間、表面上のストレプトアビジンとプローブ上のビオチン標識との間の相互作用を介して電極上に固定化した。過剰な HP を DI 水での徹底的なリンスによって除去し、窒素ガスで乾燥させた。
【0060】
標的ハイブリダイゼーション: 表面を、10 mM の MgCl2 を含有する 6×SSC バッファー中で調製される標的サンプルと共に 60 分間インキュベートした。ハイブリダイゼーションの後、電極を DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0061】
シグナル読み取り: 電流は、標的の表面濃度に比例する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005) を参照されたい。まず、0.5% のカゼインブロッカー溶液中の 0.5 mU/mL の抗フルオレセイン-HRP を、HP 上のフルオレセイン標識と結合させた。DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた後、TMB/H2O2 基質を添加した。各々の電極単位に -200 mV の電圧を適用することによって電流測定検出を行い、次いで、60s の平衡の後に並行した(parallel)シグナル読み取りを行った。
【0062】
電気化学的シグナルは、レポートする酵素 - セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)の酸化還元過程によって生成される電流である。HRP と H2O2 との間の反応の後、HRP は酸化された状態へと変化する。その後、TMB が 2電子の工程を介して還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。まず、0.5% のカゼインブロッカー溶液中の 0.5 mU/mL の抗フルオレセイン-HRP を、HP 上のフルオレセイン標識と結合させた。DI 水でリンスした後、TMB/H2O2 を添加した。各々の電極単位へ -200 mV の電圧を適用することによって電流測定検出を行い、次いで 60s の平衡の後に同時のシグナル読み取りを行った。電流は、標的の表面濃度に比例する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005) を参照されたい。
【0063】
オリゴヌクレオチドプローブおよび RNA サンプルの調製
オリゴヌクレオチドは、Operon (Alabama、USA) へ発注した。全てのヘアピンプローブを、一つの末端についてはビオチンで標識し、もう一方の末端についてはビオチンTEG で標識する。それぞれ、ビオチン標識はアンカーとしてストレプトアビジンと結合することができ、フルオレセイン標識はシグナルレポーターである。Operon によって提供されるビオチン-TEG は、ビオチンとオリゴ鎖を接続する追加の 16原子のスペーサーを有する。この間隔を空ける(spacing)設計は、ビオチンに対してストレプトアビジンへの良好な接近可能性(accessibility)を与える。
【0064】
検出のために、2つの mRNA 標的を選択した。インターロイキン 8 (IL8) は、口腔癌に関する唾液のバイオマーカーである。IL8 の濃度は、健康な人については 2 fM であり、口腔癌サンプルにおいては 約 16 fM まで増大する。Y. Li et al.、Clin. Cancer Res.、10:8442-8450 (2004) を参照されたい。唾液サンプル中の RNA レベルを規準化するため、口腔癌の関連性を示す基準の遺伝子、S100 カルシウム結合タンパク質 A8 (S100A8) を用いた。唾液の検出に関して、S100A8 を、各々の電気化学的センサーについての基準の対照(reference control)として用いる。
【0065】
インビトロ転写産物(in vitro transcript)(IVT) RNA を、当該技術分野において公知の方法にしたがって調製する。H. Ohyama et al.、Biotechniques、29:530-+ (2000) を参照されたい。簡潔には、プライマーとして T7-オリゴ-(dT)24 を用いる逆転写を行って c-DNA の第1の鎖(first strand)を合成した。T7 RNA ポリメラーゼ (Ambion Inc.、Austin、TX、USA) を用いてインビトロ転写を行った。1 μL の細胞 RNA を逆転写して cDNA を作成し、1μl の cDNA を、T7 配列を有する PCR 用プライマーのための鋳型として用いた。cRNA の量および質を、分光測定 (NanoDrop Tech.、Delaware、USA) によって決定した。IVT RNA サンプルを一定量に分け、使用の前に -20℃で保管した。唾液の感度および特異性の評価のため、IVT RNA を唾液中にスパイクした(was spiked)。
【0066】
結果および考察
核酸の常套のサンドイッチ検出において、オリゴヌクレオチドプローブは直鎖状である。そのため、非特異的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーター結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果を引き起こす。特異性を増大させるため、立体障害効果をヘアピン構造中に導入した。図 4 を参照されたい。ヘアピンプローブは、その開または閉の(open-or-not)2状態の(two-state)構造を特徴とする。標的が全く結合していない場合、ヘアピンプローブは閉じた状態に留まり、それにより、設計された立体障害のため、レポーターはメディエーターと有効な複合体を形成することができない。特異的な標的との結合の後、プローブは開いた状態へと変化し、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成し、それによりシグナル増幅がもたらされる。立体障害の設計は、実験を行う際の労力を増大させるいかなる追加の化学反応工程も伴わず、単純かつ効果的である。本研究におけるシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体のみに関連するため、検出のための標的は無標識である。無標識の検出は、試薬使用の型を減少させるのみならず、リアルタイムかつハイスループットな検出を可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に応用することができる。
【0067】
本発明のプローブは、HRP/TMB シグナル増幅を阻害する表面立体障害に基づく。そのため、表面とレポーターの間の距離が、認識過程にとっての主要な因子である。かかる設定において、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポート(report)を電極表面からさらに遠くへ分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。レポーターが表面から溶液中へと移動するにつれて、表面の制限(restriction)が減弱し得、それにより電流シグナルが増大する。
【0068】
さらに、通常はシグナルオフの工程である伝統的な立体構造に基づく検出と比較して、本発明の検出はシグナルオンの工程であり得る。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は、低い値の測定よりも大きな誤差を有し、そのためシグナルオンの工程はより安定なバックグラウンドノイズレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナルの減少についてのダイナミックレンジは元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナル処理工程(signal processing step)が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0069】
ヘアピンプローブによる立体障害効果の概念
特異的シグナル増幅は、HRP および TMB/H2O2 によるサンドイッチ様シグナル増幅とヘアピンプローブ設計によるシグナル選択性との組合せを介して達成される。本発明の方法の基本概念は、標的を伴わない(target-free)プローブへの HRP/TMB の結合を阻害する表面による立体障害である。そのため、表面とレポーターとの間の距離が、認識工程にとっての主要な因子である。レポーターが表面から溶液中へと移動するにつれて、表面の制限が減弱し、それによって電流シグナルが増大する。立体障害がなければ、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポーターを電極表面から分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。
【0070】
プローブが結合している電極表面へのレポーターの近接に起因する異なるレベルの立体障害を各々が有する、リンカーを有するおよび有さない4つのヘアピンプローブを比較した (表 2)。リンカーの長さは、5-ビオチン標識された末端における TEG または/および突出スペーサーによって調整される。突出スペーサーは、9 つのチミジン(9T)である。ビオチンTEG の経度サイズは、MM2 算出から約 3 nm である。N. L. Allinger、J. Am. Chem. Soc.、99:8127-8134 (1977) を参照されたい。9T リンカーに関して、通常、一本鎖の DNA は、全く力が適用されない場合、電極上でコイル状の(coiled)状態である。コイル状の鎖は、特定の力、例えば負の電位の下でまっすぐに伸びる。電気化学的検出が -200 mV の下で行われるため、9T リンカーは、曲がったまたは横に寝た(lay-down)構造を有する代わりに、ずっと長い長さに伸びる。A. M. van Oijen et al.、Science、301:1235-1238 (2003); U. Rant et al.、Biophys. J.、90:3666-3671 (2006) を参照されたい。9T リンカーの正確な長さは明確でないが、二重鎖 DNA からのデータを 9 bp × 0.28 nm/bp として考えれば、それは負の電位の下では 3 nm よりもずっと長いはずである。HRP のサイズは、結晶のデータから、約 4×6.7×11.8 nm である。G. I. Berglund et al.、Nature、417:463-468 (2002) を参照されたい。
【0071】
【表2】
【0072】
図 6 は、様々なレベルの設計された立体障害からの効果を示す。最も長いリンカー(最も低い立体障害)を有する TEG+9T プローブについては、ヘアピンが閉じている場合でさえ、レポーターとメディエーターとの間の複合体が形成され得、有効であるよう、レポーターは表面から遠く離れている。そのため、“HP L3”と表示されるデータセットにおいて示される通り、標的無しと標的(IL-8)の結合との間で測定される出力は小さい。ヘアピンプローブからリンカーを除去することによって立体障害がより大きく設計される場合には、全く標的が結合していない時にレポーターは表面に非常に近く、有効なメディエーター-レポーター複合体の形成を妨げ、それ故、非常に低いバックグラウンドノイズが測定される。標的とのハイブリダイゼーションの後、レポーターと表面との間の距離が増大し、複合体が形成され得、効率的にシグナルを再生し得る。シグナルの変化は、良好なシグナル対ノイズ比を有し、劇的である。
【0073】
2 つの標的とのヘアピンプローブの特異性を試験した。図 5 を参照されたい。各々のプローブについて、相補的および非相補的な RNA 標的の間の比較を行った。非相補的な標的は、空のシグナルよりも標準偏差(SDV)の 2 倍だけ高いシグナルをもたらす。相補的な標的のシグナルは、空のシグナルよりも 20 SDV を超えて高い。IL-8 についての 5 nM の RNA レベルおよび S100A8 についての 7 nM の RNA レベルにおいて、両方のプローブが良好な識別を示した。
【0074】
ハイブリダイゼーション効率を用いる SNR の制御
RNA センサーの主要な関心事は、シグナル対ノイズ比(SNR)である。本発明のヘアピンプローブにおいて、SNR はヘアピンプローブの開対閉(open-to-closed)の比に依存する。高い SNR は、全く標的が結合していない時のしっかり閉じた(well-closed)状態および標的とのハイブリダイゼーション後の完全に開いた状態によって達成され得る。認識の間のこれらの閉じたまたは開いた(closed-or-open)状態は、分子内および分子間の両方のハイブリダイゼーションについて高い効率を必要とする。
【0075】
ハイブリダイゼーション効率を増大させ、本発明のプローブの SNR を最適化するため、ステムの長さおよびループの長さを変化させることによってヘアピン構造を調整した。異なるステムループ長を有する 3 つのヘアピンプローブを研究した (配列を図 7 の下部に示す)。3 つ全てのプローブが、ループ部分と共に、標的 RNA と相補的な 3-末端ステム部分を有している。図 7 に示される結果から、最も長いステムおよび二重鎖を有するプローブが、空のサンプルについて最も低いシグナルを有し、標的サンプルについて最も高いシグナルを有する。この結果は、全く標的がない場合のより良く(better)閉じた状態および標的とハイブリダイズした場合のより良く開いた状態が、高いシグナル対ノイズ比をもたらすことを示す。短いステムおよび二重鎖を有するプローブは、低いバックグラウンドおよび高いシグナルを有さない。したがって、高いハイブリダイゼーション効率は簡単に、感度および特異性の両方に利点を与えるため、ヘアピンプローブを用いて高い SNR を獲得することは簡便である。対照的に、伝統的な直鎖状プローブを用いて最適化されたプローブ配列を見出すことは困難である。長い配列は、ハイブリダイゼーション効率の助けとなるが、感度-特異性の問題に関して相反する効果をもたらす高いバックグラウンドを生成する。
【0076】
ヘアピンプローブおよび直鎖状プローブを用いる唾液の RNA の検出: スパイクされたサンプルおよびスパイクされていないサンプル
ヘアピンプローブを用いて、唾液の RNA バイオマーカーを一貫して(consistently)検出することができる。図 8 は、電流シグナルの濃度との関係を示す。IL-8 および S100A8 の両方が、ヘアピンプローブでは良好な SNR を示すが、直鎖状プローブでは貧弱な(poor) SNR を示す。シグナル強度が、濃度および濃度の対数のいずれにも比例(linear to)しないことは興味深い。この現象は通常、複雑な表面化学によってもたらされる。本発明において、ヘアピンプローブの切替え、ハイブリダイゼーション、タンパク質の認識および酵素的電気化学(enzymatic electrochemistry)を含む複雑な全体の反応の中に組み込まれるいくつかの反応が存在する。それは、標的濃度の直線的関係において簡単には説明できない。IL8 の検出限界(LOD)は、約 1 fmol/L である。直鎖状プローブについては、LOD はたったの約 10 pmol/L である。S100A8 の LOD は、ヘアピンプローブについては約 1 fmol/L であり、直鎖状プローブについては 10 pmol/L である。
【0077】
次いで、スパイクされた(spiked)唾液中において、ヘアピンプローブを用いて唾液の RNA バイオマーカーを検出した。データを図 9 に示す。全唾液中に様々な濃度で RNA サンプルをスパイクした。精製された IVT RNA サンプルと同様に、スパイクされた唾液も低い LOD を有する。これは、唾液中に膨大な数の妨害物(interferent)が存在する状態でさえ、ヘアピンプローブが特異的な標的 RNA を識別できることを示す。LOD は約 1 fM であり、これは現実の(real) IL-8 唾液診断の要求に応えることができる。
【0078】
図 8 における純粋な RNA サンプルの結果と比較して、特にバックグラウンドレベルに関して、唾液サンプルに伴う明らかなシグナル増大が観察された。スパイクされたサンプルについての陰性対照の電流は、IVT RNA の陰性対照の電流よりもずっと高い。純粋な RNA の安定なシグナルレベルと比較して、同じ人からであっても唾液サンプルが異なるとシグナルレベルが変化することも観察された。陰性対照についての電流は、数百 nA から数千 nA まで変動する。シグナル増大について可能性のある理由は、その後の(following) HRP の非特異的な結合または増強された特異的結合を引き起こす、唾液内の標的 RNA 以外の妨害成分、例えば高い粘性を有するムチンである。N. J. Park et al.、Clin. Chem.、 52:988-994 (2006) を参照されたい。唾液中におけるこれらの妨害成分の濃度はサンプルによって異なるため、電流強度はそれに従って変化する。それ故、いくつかの態様において、RNA 検出は、他の妨害物を除去するために溶解と組み合わせられる。
【0079】
1. ヘアピンプローブに伴う高いシグナル対ノイズ比の概念
本発明において、高いシグナル対ノイズ比は、サンドイッチ様検出とヘアピンプローブとの組合せに起因する。サンドイッチ様検出の概念は、シグナルを増幅させる HRP を再生する目的を持って、複合体を形成するためのメディエーターを適用することある。最初に、標的がプローブに結合する。次いで、検出の前に、レポーター(フルオレセイン)で標識されたプローブとメディエーター(抗フルオレセイン-HRP)との間で複合体が形成される。洗浄によって過剰なメディエーターを除去し、シグナルを増幅させる HRP を再生するために TMB/H2O2 基質を添加する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); J. C. Liao et al.、J. Clin. Microbiol.、44:561-570 (2006) を参照されたい。シグナルレベルは、複合体の量および活性の両方に依存する。金属電極と複合体との間の強い相互作用のため、表面は、複合体の形成を制限するもの(restrictor)として、およびレポーターの活性に対する阻害剤として機能し得る。シグナルを増幅することができるこの複合体を、“有効な複合体”と称する。有効な複合体のみが、増幅されたシグナルを生み出す。
【0080】
従来の核酸のサンドイッチ検出においては、2 つの直鎖状オリゴヌクレオチドプローブが採用される: 一つは、標的を表面上に固定化するための捕捉プローブ(capture probe)であり、もう一方は、シグナルを生成するためのレポーターを有する検出プローブ(detector probe)である。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); E. Palecek et al.、Anal. Chim. Acta、469:73-83 (2002); H. Xie et al.、Anal. Chem.、76:1611-1617 (2004) を参照されたい。そのため、非特異的な標的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーターの結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果を引き起こす。特異性を増大させるため、立体障害効果をヘアピン構造中に導入した。ヘアピンプローブは、その開または閉の(open-or-not)2状態の(two-state)構造を特徴とする。全く標的が結合していない場合、ヘアピンプローブは閉じた状態に留まり、そのため、設計された立体障害のために、レポーターは、メディエーターと有効な複合体を形成することができない。特異的な標的との結合の後、プローブは開いた状態へと変化し、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成し、それによりシグナル増幅がもたらされる。立体障害設計は単純かつ効果的であり、元の2つのプローブ設計から化学反応工程を取り除き、実験を行う際の労力を減少させる。本研究におけるシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体にのみ関連するため、検出のための標的は無標識である。無標識の検出は、試薬使用の型を減少させるのみならず、リアルタイムかつハイスループットな検出をも可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に適用することができる。
【0081】
2. ヘアピンプローブ設計の原則
ヘアピンプローブ検出の基本概念は、シグナルを特異的に増幅することができる立体障害設計である。設計について 3 つの原則が存在する: 1. 安定なヘアピン構造、これは、安定なステム部分、すなわち、ヘアピンのための長いステムによって満足させることができる (N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000)); 2. 高いハイブリダイゼーション効率、これは、安定な二重鎖部分、すなわち、ハイブリダイゼーションのための長い配列によって満足させることができる (N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000)); 3. レポーターの高い立体障害効果、これは、リンカーの長さを変化させること、または表面効果を増大させるためにより大きなメディエーターを導入することによって得ることができる。ヘアピンプローブの構造を変化させることによって、最適化された立体障害効果による高い SNR を達成することができる。
【0082】
ヘアピンプローブ設計のほかに、表面の立体障害効果を増大させる他の2つの方法が存在する。一つは、プローブの表面密度である。密に充填された(densely packed)ヘアピンプローブは、まばらに充填された(sparsely packed)プローブよりも高い込み合い効果(crowding effect)を有する。それは、HRP の結合および HRP の活性の両方に対する制限を増大させる。しかし、プローブの高い表面濃度の下では、標的のハイブリダイゼーションも阻害される。オリゴヌクレオチドのまばらな分布は、高いハイブリダイゼーション効率をもたらす。各々のプローブおよび表面について、最良のハイブリダイゼーションを得るための最適化された表面被覆度が存在するはずである。本明細書において開示される通り、1×10-6 から 1×10-7 M のヘアピンプローブの固定化濃度が、良好な結果をもたらす。
【0083】
もう一つの因子は、電極へ適用する電位である。オリゴヌクレオチドは強く負に帯電しているため、正の電位はハイブリダイゼーションを改良し、鎖に対する電極の誘引を増大させる。負の電位は、二重鎖を開かせ、鎖を表面から追い払う。オリゴヌクレオチドは、高い正の電位の下では電極上に横たわり、一方で、負の電位の下では溶液中へ伸長する。U. Rant et al.、Biophys. J.、90:3666-3671 (2006) を参照されたい。正の電位の下でプローブが電極上に横たわる場合、閉じた状態および開いた状態のプローブに対する表面の立体障害はほぼ同じであり、そのため、相補的な標的の結合についての識別は存在しない。R. G. Sosnowski、P Natl Acad Sci USA、94:1119-1123 (1997) を参照されたい。したがって、この観点から負の電位が採用される。しかし、少しの正の電位は、未結合のヘアピンプローブを閉じた状態に保ち、標的との二重鎖を安定化する。これは、高いシグナル対ノイズ比を達成するのを助ける(データ示さず)。一方、負の電位は、塩基対の相互作用を破壊する。適用される負の電位が高すぎると、ヘアピンプローブは、標的が全く結合していない場合であっても開く。F. Wei et al.、Langmuir、22:6280-6285 (2006) を参照されたい。電流測定検出についての最良の電位は、非常に重要であり、かつ、ヘアピンプローブの配列組成に対して非常に敏感である。F. Wei et al.、Langmuir、22:6280-6285 (2006) を参照されたい。本明細書において開示される通り、負の電位(-200 mV)の下での検出は、良好な SNR をもたらす。当業者は、所与の適用についての電位を容易に最適化できる。
【0084】
3. シグナル対ノイズ比に関する考察
さらに、通常はシグナルオフの工程である伝統的な立体構造に基づく検出と比較して、本発明の検出はシグナルオンの工程である。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003) を参照されたい。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は、低い値での測定よりも大きな誤差を有し、そのため、シグナルオンの工程は、より安定なバックグラウンドノイズのレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナルの減少についてのダイナミックレンジは、元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナル処理工程が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0085】
実施例 2: ヘアピンプローブ(HP)を採用する、唾液の mRNA の電気化学的検出
立体障害(SH)が非特異的なシグナルを抑制し、標的検出のためのシグナルオンの増幅工程を作り出すという原理に基づいて、プローブを設計した。ステムループの立体配置は、プローブのレポーター末端を表面に近接させ、メディエーターとの結合を不可能にする。標的の結合はプローブのヘアピン構造を開かせ、その後、メディエーターは接近可能なレポーターに結合することができる。電気化学的シグナルを生成するためにセイヨウワサビ ペルオキシダーゼ (HRP) を利用した。このシグナルオンの工程は、低い基底(basal)シグナル、強い陽性の読み取りおよび大きなダイナミックレンジによって特徴付けられる。SH は、ヘアピン設計および電場を介して制御される。電場制御をヘアピンプローブに適用することによって、RNA の検出限界は、従来の直鎖状プローブよりも 10,000 倍敏感な約 0.4 fM である。内在性の IL-8 mRNA は HP によって検出され、qPCR 技術との良好な相関が得られる。結果として得られる工程は、単純な設定(setup)を可能にし、工程の数を減少させることによって、複雑な体液、例えば唾液からの特定の核酸配列のポイントオブケア(point-of-care)検出に適する。
【0086】
序論
体液の分子的解析は、早期の癌の検出およびその結果としての増大した処置効果に対する可能性を提供する (Mandel、I.D. (1990) Journal of Oral Pathology & Medicine、19、119-125; Mandel、I.D. (1993) Journal of the American Dental Association、124、 85-87; Wong、D.T. (2006) Journal of the American Dental Association、137、313-321)。腫瘍から放出される分子マーカーは血液および/または他の体液へと進入し、バイオマーカーの特異的検出は、非浸潤性かつ特異的な様式での疾患の同定を可能にし得る (Gormally et al. (2006) Cancer Research, 66, 6871-6876; Herr et al. (2007) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 104, 5268-5273)。唾液は、非浸潤性の様式で容易に到達することが可能であり、血液と比べて患者の不快感が少ない状態で収集することができる。さらに、妨害物質(interfering material)(細胞、DNA、RNA およびタンパク質)および阻害物質(inhibitory substance)のレベルは、血液におけるよりも唾液において低く、かつ複雑性が低い(less complex)。この利点は、近年、口腔癌の mRNA マーカーについての徹底的な研究において明らかにされた (Li et al. (2004) Clinical Cancer Research, 10, 8442-8450)。mRNA を、マイクロアレイを介して同定し、確立された指針 (Pepe et al. (2001) Journal of the National Cancer Institute, 93, 1054-1061) に従って定量的 PCR (qPCR) によって検証した。唾液の mRNA バイオマーカーの検出は、唾液に対し価値のある診断液としての新たな次元を追加する。本研究において、本発明者らは、唾液の mRNA の現場での(on-site)試験のためのユニークな方法を開発することを目標とした。
【0087】
電気化学は、RNA 検出に関するポイントオブケア診断方法の優れた候補であり (Hahn et al. (2005) Bioelectrochemistry, 67, 151-154)、それは高い感度のためだけではなく機器の単純さのためでもある (Liao and Cui (2007) Biosensors & Bioelectronics, 23, 218-224; Wei et al. (2005) Journal of the American Chemical Society, 127, 5306-5307; Wei et al. (2006) Langmuir, 22, 6280-6285; Wei et al. (2003) Biosensors & Bioelectronics, 18, 1157-1163; Wei et al. (2003) Biosensors & Bioelectronics, 18, 1149-1155)。しかし、唾液のバイオマーカーの低い濃度 (〜fM) および唾液の複雑なバックグラウンドのため、従来の電気化学的電流測定検出法は、臨床診断上の、唾液における直接的な RNA 検出についての高いシグナル対バックグラウンド比(SBR)の要求を満たさない。
【0088】
近年、Plaxco のグループが、血清および尿を含む様々な体液におけるオリゴヌクレオチドの検出を可能にするために酸化還元標識された(redox-labeled)ヘアピンプローブを適用する新規な方法を報告した (Lubin et al. (2006) Analytical Chemistry、78、5671-5677; Xiao et al. (2006) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、103、16677-16680)。この方法は、電気化学的反応の間における、閉じた状態と開いた状態の間の切替えとしてのヘアピンプローブ(HP)の使用を実証することに成功した。その結果は、感度および特異性の両方における顕著な改善をもたらした。唾液の診断においては、唾液中における RNA バイオマーカーの低いコピー数は、バックグラウンドノイズを上回ってシグナルを検出するために感度の高いセンサーを要求する。本明細書において、本発明者らは、HP プローブに基づいて、酵素的増幅工程を標的に誘導される立体構造の変化と共役させる方法を提案する。この HP は、標的と相補的な配列を有するループ構成要素(loop component)および一つの端においてレポーターで標識されたステム構成要素(stem component)を含む。標的の結合がない場合、センサー表面への近接は、メディエーターがプローブのレポーター標識へと接近するのを妨げることによってシグナル増幅を阻害する立体障害(SH)を作り出す。この組み込まれた(built-in) SH は、生物認識構成要素が標的の特異性を検証した後に除去され、レポーター標識をメディエーター-ペルオキシダーゼ複合体へ接近できるようにし、電流シグナルを生成する。そのため、複雑な混合物中において低コピー数で存在する場合でさえ、特異的な標的のみが増幅された電流を生成し得る。SH の効果は、プローブ設計および表面の電場を最適化することによって、この HP に基づく電気化学的センサーにおいて制御することが可能である。本発明者らの選択的増幅方法は、バックグラウンドレベルに対して非特異的なシグナルを抑制し、唾液の RNA マーカーのためおよび他の一般的用途のための、ポイントオブケアの核酸検出系を開発する際の鍵となる障害を乗り越える。
【0089】
材料および方法
オリゴヌクレオチドプローブおよび RNA
HPLC 精製されたオリゴヌクレオチドを、特注合成した (Operon Inc.、Alabama、USA)。プローブ配列は、ヘアピン構造の形成を可能にする。ループ、およびヘアピンステムの半分 (3'末端) は、標的認識配列を含有し、HP を、5'末端上においてはビオチンもしくはビオチン-TEG で標識し、3'末端上においてはフルオレセインで標識した (詳細な構造を図 10 に示す)。ビオチン標識は、チップ表面に対するアンカーとしてストレプトアビジンに結合し、フルオレセイン標識はシグナルメディエーターの結合を可能にした。本発明者らは、プローブからチップ表面までの、以下の 5'リンカーの立体配置を調査した: ビオチンリンク(link)、ビオチン-TEG、ビオチン-9 チミジン(T9)、およびビオチン-TEG-T9 。ビオチン-TEG は、ビオチンとオリゴ鎖とを接続する酸素原子を含有するトリエチレングリコールに基づく混合(mixed)極性を伴う追加の(extra)スペーサーを有する。様々な間隔設計(spacing design)は、ストレプトアビジンに対するビオチンのより良い接近性(accessibility)を与えることができ、SH 効果のための調節可能な長さのリンカーとしての機能を果たすことができる。
【0090】
インターロイキン 8 (IL-8) の mRNA (NM_000584)(St John et al. (2004) Archives of Otolaryngology-Head & Neck Surgery、130、929-935) は、口腔癌についての唾液のバイオマーカーとして提案されており、これを検出のために選択した。該方法の妥当性を確立する目的で、インビトロで転写された(IVT) IL-8 RNA を、標準的な定量的測定のための標的として用いた。IVT RNA の生成の詳細は、補足材料(supplementary materials) II のセクションにおいて記載される。内在性の mRNA を、臨床サンプルから検出した。唾液サンプルから内在性の IL-8 を検出するため、唾液を AVL viral lysis buffer (QIAGEN、California、USA) と 1:1 で、室温で 15 分間混合することによって溶解工程を行った。唾液の回収および qPCR 測定の詳細は、補足材料(supplementary materials) III-IX において記載される。
【0091】
RNA マーカーについてのインビトロで転写された RNA の生成
2つの mRNA 標的を、検出のために選択した。インターロイキン 8 (IL-8) (mRNA、NM_000584) (St John et al. (2004) Archives of Otolaryngology-Head & Neck Surgery、 130、929-935) は、口腔癌についての候補のバイオマーカーとして提案されている。唾液において高発現する S100 カルシウム結合タンパク質 A8 (S100A8)(mRNA、NM_002964)は、各々の電気化学的センサーについての基準(reference)として用いられ、口腔癌の関連性を示さない。
【0092】
方法を確立する目的で、IL-8 および S100A8 のインビトロで転写された(IVT) RNA を、本研究における検出のための標的として用いた。IVT RNA を、2つの工程において生成した: 一つ目は、常套の RT-PCR を用いてインビトロ転写のための鋳型を生成することであり、ここで、プライマーはフォワードプライマーの 5'末端において 20 塩基のコア(core) T7 プロモーター配列を有する。IL-8 については、フォワードプライマーが 5'-CTAATACGACTCACTATAGGGaaggaaaactgggtgcagag-3' であり、リバースプライマーが 5'-attgcatctggcaaccctac-3' である。S100A8 については、フォワードプライマーが 5' CTAATACGACTCACTATAGGGatcatgttgaccgagctgga-3' であり、リバースプライマーが 5'-gtctgcaccctttttcctga-3' である。生産物は、それぞれ 177 bp および 159 bp の二本鎖 DNA であった。常套の RT-PCR を、口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞株の全 RNA を鋳型として用いて行い、50 U の MuLV 逆転写酵素 (Applied Biosystems)、20 U の RNAse 阻害剤 (Applied Biosystems)、10 mM の dNTP および 5 nmol のランダムヘキサマー(random hexamer)を有する 20 μl の逆転写反応混合物中において cDNA を合成した。混合物を、最初に 25℃で 10 分間インキュベートし、次いで 42℃で 45 分間逆転写を行い、その後、RT の最終の不活性化を 95℃で 5 分間行い、そして 4℃で 5 分間冷却した。1マイクロリットルの cDNA を、400 nM のプライマーを有する 20 μl の PCR 反応において用いた。PCR 反応を、以下のプロトコールによって行った: 95℃で 3 分、その後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒 を 40 サイクル、そして最終の伸長を 72℃で 7 分間。RT-PCR 産物を、エチジウムブロマイドで染色された 2% のアガロースゲル上で確認した。第2の工程は、IVT RNA を生成することであった。T7 MEGAshort transcribe kit (Invitrogen) を用い、製造者の説明書に従って、インビトロ転写を行った。簡潔には、第1の工程からの 8 μl の PCR 産物を、37℃において 3 時間、インビトロで転写し、その後さらに 20 分間、2 μl の rDNase1 (Invitrogen) で処理した。その結果得られた一本鎖 RNA 転写産物を、cleaned up (Arcturus、Mountain View、CA) を用いて精製した。組換え RNA を、Nanodrop 分光測定を用いて、量および A260/A280 比について定量化した。得られた RNA を、キャリアー(carrier)としてパン酵母の tRNA (30 μg/ml、Roche) を有する、RNase を含まない(RNase-free)蒸留水(Invitrogen)中に溶解した。
【0093】
唾液の回収
本発明者らの公開されたプロトコール (Li、Yang 2004) にしたがって、刺激されていない(un-stimulated)全唾液を回収した。簡潔には、氷上に保持している間にすべての唾液サンプルを回収した。回収の後、室温の RNAlater (QIAGEN、Valencia、CA) を唾液サンプル中へ 1:1 (容積) の比で添加し、ボルテックスによって混合した。1:1 の比で全唾液と混合された RNAlater および -80℃で保管されたサンプルは、唾液の RNA の分解の即時かつ十分な阻害を提供する。その後の使用のために、サンプルの一定量を -80℃において保管した。
【0094】
全唾液 RNA の抽出
全 RNA を、以下の手順にしたがって抽出した: RNAlater 中に保存された凍結した唾液を氷上で解凍し、viral mini kit (QIAGEN) を用いて以下の点を除いては製造者の説明書にしたがって全 RNA を抽出した: これまでに報告された手順 (Li、Yang、2004) と比較できるようにするため、2倍の開始時容量(starting volume)の唾液と RNAlater の混合物(saliva RNAlater mix) (2×560 ul) を用いて、RNAlater による唾液の希釈を補った。得られた全 RNA を 40 μl の溶出バッファー中において溶出し、40 μl の RNA、4.5 μl の 10×DNase I バッファー、0.5 μl の rDNaseI を含有する溶液中において 37℃で 30 分間 rDNase 1 (Ambion、Austin TX) で処理して、あらゆるゲノム DNA の混入を除去した。DNase 失活剤を用いて清浄化(clean up)した後、35 μl までの全 RNA を回収し、使用するまで -80℃で凍結させた。
【0095】
プライマー設計
IL8 についての、60 ℃付近の融解温度を有する、イントロンにまたがる(intron-spanning)プライマーのペアを、primer3 プログラムを用いて設計した。OF および OR は、RT-PCR のためのプライマーであり、IF および IR は、qPCR のために設計した。
IL8_IF IL8IF CCAAGGAAAACTGGGTGCAG
IL8_IR IL8OR CTTGGATACCACAGAGAATGAATTTTT
IL8_OF IL8OF TTTCTGATGGAAGAGAGCTCTGTCT
IL8_OR IL8IR ATCTTCACTGATTCTTGGATACCACA
【0096】
RT-PCR 前増幅(pre-amplification)
1段階の RT および PCR 前増幅を、SuperScript III Platinum One-Step qRT-PCR System (Invitrogen、Carlsbad、CA) を用いて 20-40 μl の反応中において行い、プライマー濃度は全ての標的について 300 nM であった。BioMek 3000 liquid handling platform を利用して、PCR プレートクーラー上の 96ウェルプレートの中に反応を調製(set up)し、その後、以下のプログラムを用いて実行した: 60℃で 1 分、50℃で 15 分、95℃で 2 分、ならびに 95℃で 15 秒、50℃で 30 秒 および 60℃で 10 秒を 15 サイクル、ならびに 72℃で 10 秒、ならびに 72℃で 5 分間の最終伸長および 4 ℃への冷却。
【0097】
前増幅反応の清浄化(cleanup)
RT-PCR の直後に、過剰なプライマーおよび dNTP を除去するため、5 μl の反応を 2 μl の Exo-SAP-IT(登録商標) (USB、Cleveland、OH) を用いて 37 ℃で 15 分間処理し、次いで、酵素混合物を不活化するために、15 分間、80℃まで加熱した。反応を、別に記載しない限り、ヌクレアーゼを含まない水で 40 倍に希釈した。希釈倍率(dilution factor)は、Exo-SAP-IT 処理の前の前増幅物(pre-amplificate)の容積を参照する。
【0098】
定量的リアルタイム PCR
全ての反応を、BioMek 3000 liquid handling platform を用いて、96ウェルプレート中に自動で調製(set up)した。4 μl の一定量の前増幅物の希釈物を、300 nM の一組のセミネスト化(semi-nested)アッセイを用いて増幅した。SYBR Green Power reaction mix (Applied Biosystems (AB)、Foster City、CA) を有する 10 μlの反応を氷上で調製(set up)し、SDS 7500 Fast instrument (AB) 中において実行した。95℃における 10 分のポリメラーゼの活性化の後、95℃で 15 秒および 60℃で 60 秒の 40 サイクルを実行し、その後、融解曲線解析を行った。
【0099】
qPCR 解析
qPCR 解析のために、7500 Fast System v1.3.1 ソフトウェア (AB) の自動ベースライン設定(baseline setting)を用いた。
【0100】
表面の調製
金の電気化学的センサーの表面の調製を、以下の通りに行った(Gau et al. (2001) Biosensors & Bioelectronics, 16, 745-755; Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83):
【0101】
プローブの固定化: 金電極を、カルボキシル基で終結するメルカプトウンデカン酸(MUDA)の自己組織化単層を用いて前被覆(pre-coat)した(18)。金の表面を、4 μL の、50% の 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (EDC、Biacore Inc.、New Jersey、USA) および 50% の N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(Biacore) の混合物によって、10 分間活性化した。センサーを DI 水 (18.3 MΩ・cm) でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。全部で 4 μL の、5 mg/mL のアミン-PEO2-ビオチン標識試薬 (Ez-ビオチン) (Pierce Inc.、Illinois、USA) を金の表面にロードし、その後、リンスと乾燥を行った。未反応の EDC/NHS 活性化表面の不活化のために、エタノールアミン-HCl (1.0 M、pH 8.5、Biacore) をロードした。次に、PBS (pH 7.2、Invitrogen、California、USA) 中の 0.5 mg/mL のストレプトアビジン (VWR Corp.、California、USA) を電極上で 10 分間インキュベートして、ストレプトアビジンで被覆された電極を作成した。全部で 4 μL の、トリス-HCl バッファー (pH 7.5、Invitrogen、California、USA) 中の 5'-ビオチン化および 3'-フルオレセインの二重標識された HP を、30 分間、表面上のストレプトアビジンとプローブ上のビオチン標識との間の相互作用を介して電極上に固定化した。かかる固定化戦略を用いて達成されるオリゴプローブの表面密度は、〜3.4×1012 分子/cm2 であると報告された (Su et al. (2005) Langmuir、21、348-353)。DI 水を用いた徹底的なリンスによって過剰な HP を除去し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0102】
標的ハイブリダイゼーション: 表面を、10 mM MgCl2 (Sigma Corp.、Missouri、USA) の添加を伴う 6x食塩-クエン酸ナトリウム(saline-sodium citrate)バッファー(6xSSC、pH 7.0 の、0.9 M の NaCl を伴う 0.09 M のクエン酸ナトリウム、Invitrogen、California、USA) 中において調製された標的含有サンプルと共に 5 分間インキュベートした。ハイブリダイゼーションの間、周期的な方形波の電場を、+200 mV が 1秒 および -300 mV が 9秒の 30 サイクルにおいて適用した。ハイブリダイゼーションの後、電極を DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0103】
電気化学的検出
電気化学的ワークステーションを用いて、製造者の説明書に従って電気化学的読み取りを行った。簡潔には、0.5% のカゼイン ブロッキングバッファー (Blocker Casein in PBS、Pierce、pH 7.4) を伴う PBS 中において希釈された抗フルオレセイン-HRP (Roche、Indiana、USA) を、HP または検出プローブ上のフルオレセイン標識に添加した。次いで、低活性の 3,3',5,5'テトラメチルベンジジン (TMB/H2O2、Neogen Corp.、Kentucky、USA) 基質をロードし、金に対する -200 mV の電位を各々の電極単位へ適用することによって電流測定検出を行い、その後、60 秒の平衡化の後に並行したシグナル読み取りを行った (Gau et al. (2001) Biosensors & Bioelectronics, 16, 745-755; Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83)。
【0104】
電気化学的センサーは、16単位の金のアレイであった。各々の単位について、作用電極(WE)、対電極(CE)および参照電極(RE)を含む3つの電極が存在した (Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83)。0.1 mM の [Fe(CN)6]3-/4- のサイクリックボルタンメトリー曲線(cyclic voltammetric curve) を測定することにより、参照電極は SCE に対して +218 mV であると決定された。本報告において記載される全ての電位は、金の参照電極 (SCE に対し +218 mV) を参照したものである。この小さな電極アレイの利点は、16 の電極のシグナル読み取りを同時に達成することができ、かつ、検出のためにたった 4 μL のサンプル溶液しか必要としないことである。本発明者らの実験において、電気化学的シグナルは、HRP レポーター酵素の酸化還元(redox)によって生成される電流であった。TMB は、2電子の工程を介して還元型 HRP を継続的に再生し、それが電流シグナルを増幅した。電流は、ハイブリダイズした標的の表面濃度に比例した(Gau et al. (2005) Methods、37、73-83)。全ての実験は、室温で行った。
【0105】
結果および考察
1. ヘアピンに誘導される特異的な増幅
電流のアプローチを用いる特異的な標的の検出は、HRP および TMB/H2O2 によるサンドイッチ様シグナル増幅ならびに HP の設計による選択的ハイブリダイゼーションの組合せを介して達成された。この方法は、SH 効果に基づいていた: HP の近くの表面は、HRP 複合体が標的の無いプローブへ結合するのを阻害する。そのため、表面とプローブ上のレポーター標識との間の距離が、検出工程にとっての鍵となる要因であった。標的が結合すると、HP が開き、レポーターが表面から遠く離れ、その結果、表面からの制限が減少する。複合体化した(conjugated) HRP がフルオレセインに結合し、電流を生成し、シグナルオンの工程を構成する。
【0106】
レポーターと電極表面との間の異なる距離に起因する異なるレベルの SH を示す、5'リンカーを有するまたは有さない、4つの IL-8 に特異的な HP を比較した (表 3)。リンカーの長さおよび柔軟性(flexibility)を、5'-ビオチン標識された末端における TEG または突出スペーサー(T9)の長さによって調整した。ビオチン-TEG の長軸方向のサイズは、分子力学の計算 (MM2) (Allinger、N.L. (1977) Journal of the American Chemical Society、99、8127-8134) から、およそ 3 nm であった。一本鎖 DNA は、全く力(force)が適用されていない場合、電極上でコイルした(coiled)状態であった。負の電位において電気化学的検出を行った場合、おそらくコイルが伸長して複合体の結合を許容した (Rant et al. (2006) Biophysical Journal、90、3666-3671; van Oijen et al. (2003) Science、301、1235-1238)。T9 リンカーの正確な長さは不明であるが、二重鎖 DNA が 9 bp x 0.28 nm/bp であるとすれば、それは負の電位の下ではおそらく >3 nm であった。HRP のサイズは、タンパク質の結晶データ (Berglund et al. (2002) Nature、417、463-468) によると、およそ 4 x 6.7 x 11.8 nm である。
【0107】
図 6 は、異なる HP 設計による SH 効果を示す。最も長いリンカー(TEG-T9)を有するプローブについては、ヘアピンが閉じている場合であってもフルオレセインは表面から遠く離れていた。メディエーター複合体が形成され、SH 効果は非常に小さかった。標的へのハイブリダイゼーションは、電極からの HRP 複合体の距離を増大させただけであった。そのため、シグナルは結合後に減少し、認識は非常に弱いシグナルオフの工程をもたらした (図 6)。結合した標的に伴うシグナルは4つ全てのプローブに関して同様のレベルであり、空のシグナルはリンカーの長さが減少するのに伴って減少した。リンカーを有さない HP については、閉じた状態において、レポーターが表面に非常に近かった。そのため、SH 効果は非常に強く、最も低いバックグラウンドが観察された (SBR = 8:1)。
【0108】
2. 特異性
リンカーを有さない HP の特異性を、2 つの標的の交差検出を用いて試験し、その結果を図 11 に示す。参照対照(reference control)として、本発明者らは、唾液中において高発現し、口腔癌の関連性を示さない S100 カルシウム結合タンパク質 A8 の mRNA (S100A8 mRNA、NM_002964) を用いた。各々のプローブについて、IL-8 については 5 nM および 500 nM の濃度において、S100A8 については 7 nM および 700 nM の濃度において、相補的な IVT RNA 標的と非相補的な IVT RNA 標的 の間の比較を行った。100倍過剰発現した非相補的な標的でさえ、IL-8 および S100A8 に特異的なプローブについてはほとんどシグナルの増大をもたらさなかった。相補的な標的のシグナルは、空の対照よりも >20 標準偏差(SDV) 高かった。両方のプローブが、5 nM の IL-8 および 7 nM の S100A8 について良好な RNA 識別を示した。
【0109】
3. ハイブリダイゼーション効率を用いる SBR の制御
RNA センサーの主要な関心事は、SBR である。現在の HP 設計において、SBR は、開いたまたは閉じた HP に伴う数の比に依存する。バックグラウンドのレベルは全く特異的な標的が結合していない場合の閉じた状態と関連し、シグナルは標的のハイブリダイゼーション後の開いた状態から生成された。認識の間のこれらの閉じたまたは開いた状態は、分子内および分子間の両方のハイブリダイゼーションについて高い効率を必要とする。
【0110】
ハイブリダイゼーション効率を増大させ、このセンサーの SBR を最適化するため、本発明者らは、ステムおよびループの両方の長さを変更することによってヘアピン構造を改変した。異なるステムループの長さを有する3つの HP を研究した (配列を表 4 に示す)。3つ全てのプローブにおいて、3'末端のステム構成要素は、ループと共に、標的 RNA と相補的であった。短いステム (6 bp) および二重鎖 (21 + 6 bp) を有するプローブは、高いバックグラウンドおよび低いシグナルを有した (図 7 における HPS3)。最も長いステム (10 bp) および二重鎖 (10 + 31 bp) を有するプローブは、全く標的が結合していない場合のより良い閉じた状態および標的とハイブリダイズした場合のより良い開いた状態を示す、最も低い空のシグナルおよび標的 (HPS1) についての最も高いシグナルを有した。相補的な HP の配列は、ループ全体およびステムの半分の両方を含み、標的のハイブリダイゼーション後のより低い自由エネルギーを提供する。したがって、一旦標的がループに結合すると、その標的と相補的な配列によって、非常に長いステムでさえ開くことができた。高いハイブリダイゼーション効率は、感度および特異性の両方に利益をもたらすため、良好な SBR が達成された。対照的に、伝統的な直鎖状プローブ(LP)を用いて最適化されたプローブ配列を決定することは困難である (Liao et al. (2006) Journal of Clinical Microbiology, 44, 561-570)。長い配列は、ハイブリダイゼーション効率にとって有益であったが、高いバックグラウンドをもたらす。
【0111】
4. 唾液におけるスパイクされた RNA の検出:
適切な HP 設計および SH 効果からの協力を用いて、広いダイナミックレンジの標的濃度を上回って唾液の RNA バイオマーカーの配列を検出することができる。図 12 は、バッファー中における濃度と電流シグナルとの間の関係を示す。比較のために、これまでに公開された方法 (Liao et al. (2006) Journal of Clinical Microbiology, 44, 561-570) を用いて、各々の標的について2つの LP を用いる元の系をも試験した。簡潔には、両方のプローブを、標的の配列の隣接するストレッチ(adjacent stretch)と相補的となるよう設計した。‘捕捉プローブ’を、5'末端ビオチン標識を用いて電極上に固定化した。‘検出プローブ’は、抗フルオレセイン-HRP と結合するために 3'フルオレセイン標識を有した。本発明者らの結果は、IL-8 の検出に関して HP を用いて良好な SBR が得られたが、LP ではより貧弱な成績しか見られなかったことを示す。
【0112】
検出限界(LOD)を、バックグラウンドレベルの少なくとも 2 SDV 上のシグナルを有する濃度として定義した。該基準に従えば、HP についての LOD は約 0.4 fM であった。LP については、IL-8 の LOD は、HP についての LOD より約 10,000倍高い約 400 pM であった (図 12)。
【0113】
5. 唾液における内在性 mRNA の検出:
本発明者らは次いで、唾液サンプルにおける内在性 IL-8 mRNA の検出を進めた。異なる唾液サンプル間において、シグナルレベルの変化が観察された。7つの臨床唾液サンプルにおいて、本発明の最適化された HP 設計を用いて IL-8 の mRNA を測定した。唾液中の内在性 mRNA は検出をマスク(mask)する他の高分子と結合するため、マスクされた(masked) RNA を遊離させるために溶解手順を電気化学的アッセイの前に行った。図 13 に示される通り、唾液サンプルについての電気化学的シグナルと qPCR の結果との間に良好な相関が観察された。qPCR 測定によって決定されたより高いレベルの IL-8 mRNA を含有する唾液サンプルにおいて、より高い電気化学的シグナルが観察された。PCR 測定に加えて、これらの結果は、唾液中における mRNA の存在を支持する。該結果はまた、ポイントオブケア(point-of-care)の唾液診断のための感度の要求に応える、PCR 増幅を伴わない電気化学的方法によって、唾液中において内在性 mRNA を検出できることを示す。
【0114】
様々な電気化学に関連した方法を用いる DNA オリゴヌクレオチドの検出に関して、fM の範囲の LOD が達成された。これらの方法は、ナノ粒子と結合した(nano-particle-linked)第2のプローブ (Park et al. (2002) Science、295、1503-1506)、多段階の還元工程において析出する銀のナノ粒子の陽極ストリッピングボルタンメトリー(anodic stripping voltammetry)(Hwang and Kwak (2005) Anal Chem、77、579-584)、および標的に誘導される鎖置換メカニズムに基づく電子的(electronic) DNA センサー (Xiao et al. (2006) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、103、16677-16680) を含む。mRNA は、オリゴよりも長い配列および複雑な二次構造を有する。特異的な mRNA 標的を捕捉するため、mRNA の特徴的な断片を慎重に選ばなければならない。mRNA の二次構造は、捕捉プローブと標的との間のハイブリダイゼーションを減少させ得る。本研究において、本発明者らは、Mfold web サーバー (Zuker, M. (2003) Nucleic Acids Research, 31, 3406-3415) によって計算される最小の二次構造を有する mRNA 断片を選択する。プローブ設計はまた、ループ配列、ステムの長さおよびプローブの二次構造について綿密な考慮を必要とする。RNA の固有の(intrinsic) 2-D または 3-D 構造を考慮して、直鎖状プローブおよびヘアピンプローブ両方の設計について以下の原則を適用した:
【0115】
(1)標的 mRNA に対するプローブの親和性: mRNA の二次構造、ならびに標的 RNA と相補的なプローブ配列の、四重鎖およびヘアピンを含む二次構造を考慮した。四重鎖および M-fold の計算に基づき、安定な二次構造を伴わない配列を選択した。熱力学的計算に基づいて、自己二量体(self-dimer)の形成およびハイブリダイゼーションの安定性も考慮した。
【0116】
(2)最適なヘアピンプローブの性能のため、ループと共に、ステムの半分(3'末端)を、標的 RNA と相補的となるよう設計した。本研究においては全ての HP について、ステムの 5'末端を、ビオチン-ストレプトアビジンを介して表面上に固定化したため、ハイブリダイゼーション工程の間は 3'ステムのみが自由であった。二重鎖の形成のためにステムの 3'末端をループと共有することは、より高いハイブリダイゼーション効率および SH 効果のより大きな変化をもたらした。
【0117】
要約すると、本発明者らは、高い感度、高い特異性および大きなダイナミックレンジ(バッファー系およびスパイクされた唾液において fM - nM)を有する、HP を用いる mRNA の電気化学的検出のための効率的な方法を開発した。本発明者らはまた、この技法が、PCR 増幅の必要を伴わずに内在性 mRNA を直接検出するために有効に機能することをも実証した。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
本願において引用される、公開されたアミノ酸またはポリヌクレオチドの配列を含む、全ての特許、特許出願および他の刊行物は、本明細書において引用により全体が取り込まれる。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容全体が引用により取り込まれている2007年5月31日出願の米国仮特許出願第60/941,057号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府によって支援された研究または開発の下になされた発明に対する権利に関する声明
本発明は、NIH/NIDCR の認可番号 UO1DE 017790、UO1DE015018 および RO1DE017593、ならびに NASA/NSBRI の認可番号 TD00406 の下に、政府の支援を伴ってなされた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
本発明の背景
本発明の分野
本発明は、核酸プローブおよびアッセイ方法に関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明
ポイントオブケア(point-of-care)検出に関する要求の一つは、混合物中における少量の標的分子を検出することである。数の少ない標的の検出は、あらゆる混合物の複雑性のため、高い特異性と共に高い感度を必要とする。しかし、先行技術の検出方法は、特異性と感度との間の互いの譲歩(compromise)を必要とする。シグナルの増幅を得るため、感度を増大させるのを助けるいくつかの手法が開発されている。ほとんどの検出方法において、シグナル強度は、全サンプル容積と比べて通常は非常に小さい検出領域内における標的の数と関連する。そのため、全サンプル容積中における標的の量を増幅すること、または標的を小さな検出領域の中へ蓄積させることは、高いシグナル強度の助けとなる。
【0005】
第1の方法は、標的、プローブおよび/またはシグナルの総数を増大させ、それによって高強度の測定結果を生み出す。例えば、PCR、プライムドin situ標識(Primed in situ labeling)(PRINS)および核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence-based amplification)(NASBA)技術が、標的の全量を増大させるために適用される。Monis and Giglio、Infection Genetics and Evolution、2006. 6(1): p. 2-12 を参照されたい。リガーゼ連鎖反応(LCR)およびローリングサークル増幅(rolling circle amplification)(RCA)は、プローブの増幅を達成した。分岐 DNA (bDNA) およびチラミド(tyramide)シグナル増幅(TSA)は、シグナル増幅をもたらす。Andras et al.、Molecular Biotechnology、2001. 19(1): p. 29-44 を参照されたい。
【0006】
標的/プローブ/シグナルの直接的増幅と比較して、第2の方法は、標的のより多くのコピーを作り出す代わりに標的の局所的濃度を増大させることに焦点を合わせる。例えば、ナノテクノロジーは、ナノ粒子に基づく技法を適用することによって、サンプル内のわずかなコピーの標的を検出領域の中へ集中させることができる。標的の全量および局所的濃度の両方の増大は、高い感度をもたらす。しかし、特異的および非特異的シグナルの両方が増幅されるため、それはより高いバックグラウンドレベルおよびより多くの偽陽性の結果をも生み出す。
【0007】
他方、バックグラウンドノイズのレベルを減少させるため、高特異性のプローブ、例えば分子ビーコンおよび束縛構造(constraint structure)を有する他のプローブが設計されている。Wei et al.、Journal of the American Chemical Society、2005. 127(15): p. 5306-5307; Broude、Trends in Biotechnology、2002. 20(6): p. 249-256; Fan et al.、Trends in Biotechnology、2005. 23(4): p. 186-192; および Tyagi and Kramer、 Nature Biotechnology、1996. 14(3): p. 303-308 を参照されたい。典型的には、これらの方法は、FRET などの距離感受性(distance sensitive)のシグナル伝達過程、インターカレートする色素(intercalating dye)(Howell et al.、Genome Research、2002. 12(9): p. 1401-1407) および電気化学に基づく。これらの方法において、特定の標的の結合がプローブの立体構造変化を引き起こす。立体構造変化は、シグナル ON 状態への劇的な切替えをもたらす。しかし、測定可能なシグナルのために大量の標的が必要とされ、それ故に検出系へより多くの偽陰性の結果を導入するため、特異性を改良することによってそれらのプローブは検出限界を悪化させる。
【0008】
従って、高感度かつ高特異性の検出を提供するアッセイ方法および試薬に対する要求が未だ存在する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の概要
本発明は一般的に、プローブおよびアッセイ方法に関する。
【0010】
第1の側面において、本発明は、標的核酸分子を検出するためのプローブを提供する。該プローブは、2つの部分を含む: 標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列、および受容体に対するリガンド。プローブは、標的核酸分子が全くプローブに結合していない場合には第1の三次元構造を有し、標的核酸がプローブに結合している場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は、受容体がリガンドと特異的に結合することを許容する。いくつかの態様において、受容体は、検出可能な標識、すなわち検出可能なシグナルを与える部分を含む。いくつかの態様において、検出可能なシグナルは、例えば酵素反応によって、増幅される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる。いくつかの態様において、プローブは、基体(substrate)上または固体支持体上に固定化される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、リガンドを基体に近い位置へ配置する。いくつかの態様において、受容体は、リガンドに特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、検出可能な標識は、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチン等である。いくつかの態様において、検出可能な標識からの検出シグナルは、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼ等によって触媒される酵素反応の方法によって増幅され得る。いくつかの態様において、プローブはヘアピンプローブまたは四重鎖(quadruplex)プローブである。
【0011】
第2の側面において、本発明は、サンプル中の標的核酸分子をアッセイするための方法を提供する。該方法は、受容体の存在下において上記のプローブをサンプルと接触させること、およびその後にリガンドと受容体との間の複合体の存在または不存在を検出することを含む。本発明のプローブは、(標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズすることができる)ポリヌクレオチド配列および(受容体に結合することができる)リガンドを含み、標的核酸分子が全くプローブに結合していない場合には第1の三次元構造を有し、標的核酸がプローブに結合している場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は受容体がリガンドと特異的に結合するのを許容する。従って、リガンドと受容体との間の複合体の存在は、サンプル中における標的核酸分子の存在を示し、他方、複合体の不存在は、サンプル中における標的核酸分子の不存在を示す。いくつかの態様において、受容体は、検出シグナルを与えることができる検出可能な標識である。いくつかの態様において、検出可能なシグナルは増幅される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる。いくつかの態様において、プローブは基体上に固定化される。いくつかの態様において、第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、リガンドを基体に近い位置へ配置する。いくつかの態様において、受容体は、リガンドと特異的に結合する抗体である。いくつかの態様において、検出可能な標識は、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチン等である。いくつかの態様において、検出可能な標識からの検出シグナルは、酵素反応におけるペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼ等の使用によって増幅され得る。いくつかの態様において、プローブは、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである。いくつかの態様において、リガンドに結合していないあらゆる受容体は、複合体を検出する前に除去される。
【0012】
本発明は、(高濃度の夾雑物およびシグナル検出を妨害する分子を伴う)“汚れた”サンプル、例えば唾液中において、非常に低い濃度のバイオマーカーを検出する方法を提供する。それは、高品質のサンプル調製が利用できないかまたは高価過ぎる状況、例えばポイントオブケア(point-of-care)、ならびに夾雑物および妨害化合物(inferring compound)(妨害物(interferent))に比べてバイオマーカー濃度が非常に低い状況に対して適用される。低濃度検出についての実行可能性データは、口腔癌の mRNA バイオマーカーである IL8 において示される。
【0013】
いくつかの態様において、プローブは“使用準備済み(ready-to-use)”であり、例えば、プローブは表面上に前もって固定(pre-anchored)され、検出の間に他の処理を必要としない。いくつかの態様において、プローブは、生体適合性のオリゴヌクレオチドまたはアプタマーである。
【0014】
本発明のプローブは、多重適用(multiplex application)において容易に採用することができ、高価な機器および複雑なデータ解析を必要としない。読み出しシグナルは、当該技術分野において公知のあらゆる適切なシグナル、例えば電気化学的シグナル、蛍光シグナル等であり得る。
【0015】
先行技術の方法は相補的および非相補的な標的に対して選択的でなく、偽陽性の結果をもたらすが、本発明のプローブは、先行技術を上回って偽陽性の結果を減少させまたは除去する。プローブ設計に対する立体障害の効果は、特異性を増大させる。
【0016】
高い特異性を有する先行技術の方法は、偽陰性の結果を生じさせるシグナル減少をもたらすが、本発明のプローブは、先行技術を上回って偽陰性の結果をも減少させまたは除去する。特異的シグナル増幅は、シグナル強度を増大させ、それによって感度を改善するために適用された。
【0017】
本発明のプローブおよび方法は、血液、血清、尿および唾液サンプルにおけるバイオマーカーの臨床検出、例えば、オリジナルの唾液を用いる唾液 mRNA の検出および疾患の初期段階の生体内モニタリングのために使用することができる。
【0018】
本発明のプローブおよび方法は、多重化された(multiplexed)検出、例えば、様々な標的核酸分子に対して特異的な本発明の複数のプローブを含むマイクロアレイにおいて採用することができる。
【0019】
プローブの異なる状態間の切替えは可逆的であるので、本発明のプローブは、センサーを再利用できるよう、再使用することができる。いくつかの態様において、受容体および/またはそれに結合する標識の形状およびサイズは、立体障害の効果について最適化される、例えば、大きな受容体および/または標識は、比較的小さな受容体および/または標識よりも立体障害に対してより敏感である。
【0020】
本明細書において開示される通り、本発明は、標的核酸分子に対するプローブに関する。該プローブは、(標的核酸分子の配列、例えば IL-8 の mRNA または DNA 配列に対して特異的にハイブリダイズする)ポリヌクレオチド配列および受容体に対するリガンドを含む。本プローブは、プローブに結合する標的核酸分子が存在しない場合には第1の三次元構造を有し、プローブに結合する標的核酸が存在する場合には第2の三次元構造を有する。第1の三次元構造は、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、他方、第2の三次元構造は、受容体がリガンドと特異的に結合することを許容する。
【0021】
いくつかの態様において、プローブは、標的配列に対して相補的または実質的に相補的なポリヌクレオチド配列を含む。本明細書において用いる場合、“実質的に相補的”とは、緩やかな(moderate)、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の下で配列に特異的にハイブリダイズする配列をいう。いくつかの代表的なポリヌクレオチド配列は、表 2-4 に示される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面の簡単な説明
本発明は、図面を参照することによってさらに理解され、ここで:
【0023】
【図1】図 1 は、本発明のアッセイ方法の態様を概略的に示す。
【図2】図 2 は、本発明のヘアピンプローブに関するプローブ構造の影響を示す。
【図3】図 3 は、直線状プローブおよびヘアピンプローブによる mRNA の検出限界を示す。
【図4】図 4 は、ヘアピンプローブを用いる電気化学的検出における特異的シグナル増幅を模式的に示す。ヘアピンプローブに対して標的が全く結合していない場合、ヘアピンは閉じており、HRP が表面上で有効な複合体を形成できず、その結果、シグナルは観察されない。標的とハイブリダイズした後は、ヘアピンが開き、HRP 複合体が形成される。その後、TMB が還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。
【図5】図 5 は、ヘアピンプローブを適用する、2組の唾液の RNA: IL-8 および S100A8 の交差検出を示すグラフである。RNA 標的のレベルは、IL-8 については 5 nM、S100A8 については 7 nM である。空(blank)のシグナルは、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。
【図6】図 6 は、様々なリンカーを有する IL-8 ヘアピンプローブを用いる検出を図によって比較する。ヘアピンは、空対照(blank control)においては閉じており、RNA サンプルを伴うと開く。IL-8 RNA の濃度は 50 nM である。空対照は、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。異なるリンカー長を有するヘアピンプローブの立体配置を、模式的に示す。
【図7】図 7 は、異なるステムループ構造を有する IL-8 ヘアピンプローブを用いる検出を、図によって比較する。ヘアピンは、空対照において閉じており、RNA サンプルを伴うと開く。下線を伴う配列は、標的 RNA と相補的である。イタリック体の配列は、ステム部分である。太字の配列は、ループ部分である。HP1: 10 bp がステム、41 bp が二重鎖。 HP2: 8 bp がステム、34 bp が二重鎖。 HP3: 6 bp がステム、27 bp が二重鎖。IL-8 RNA の濃度は 50 nM である。空対照は、6×SSC および 10 mM MgCl2 である。4 回実施した実験の平均および標準偏差を示す。
【図8】図 8 は、直鎖状プローブとヘアピンプローブの間で比較された、唾液の RNA の検出を示す。(a): IL-8。表 2 に示す通り、直鎖状プローブは IL-8 CP および IL-8 DP であり、ヘアピンプローブは IL-8 HP である; (b): S100A8。表 2 に示す通り、直鎖状プローブは S100A8 CP および S100A8 DP であり、ヘアピンプローブは S100A8 HP である。
【図9】図 9 は、IVT RNA を用いる、スパイクされた(spiked)唾液の電気化学的検出を示す。円: (a) IL8; (b) S100A8。唾液サンプルは、何の処理も伴わない同一人の同一バッチ(batch)からの全唾液(whole saliva)である。
【図10】図 10 は、標識分子とオリゴヌクレオチドの間の結合の構造を示す。
【図11】図 11 は、HP を適用する、2組の IVT RNA: IL-8 および S100A8 を用いた交差検出。(a)8つのサンプルについての電流測定シグナル。(1)-(4) は、HP を S100A8 について適用し、標的化する RNA は、それぞれ (1) 7 nM S100A8、(2) 500 nM IL-8、(3) 5 nM IL-8、および (4) バッファーのみ、であった。(5)-(8) は、HP を IL-8 について使用し、標的化する RNA は、それぞれ (5) 5 nM IL-8、(6) 700 nM S100A8、(7) 7 nM S100A8、および (8) バッファーのみ、であった。(b) (a)における同じ8つのサンプルの棒グラフ。HP の配列は、表 3 に IL-8 HP および S100A8 HP として記載する。4つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。
【図12】図 12、直鎖状プローブ(LP) および HP による唾液の IL-8 RNA の検出。表 3 に記載される通り、LP は IL-8 CP および IL-8 DP であり、HP は IL-8 HP であった。測定されたシグナルから、空対照のシグナルを減算した。4つの実験の平均および標準偏差を示す。LP についての 4 fM の標的のデータ点は、その値が空対照の値よりも下だったため、示されていない。
【図13】図 13、同じセットの臨床唾液サンプルについての、HP を用いる電流測定シグナルと、IL-8 mRNA の qPCR によって検出される濃度との間の相関。線形回帰についての R2 は、0.99 であった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の詳細な説明
立体構造の変化に関連するこれまでの検出(Howell, W.M., M. Jobs, and A.J. Brookes, iFRET: an improved fluorescence system for DNA-melting analysis. Genome Research, 2002. 12(9): p. 1401-1407; Xiao, Y., et al., Single-step electronic detection of femtomolar DNA by target-induced strand displacement in an electrode-bound duplex. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2006. 103(45): p. 16677-16680; および Xiao, Y., et al., Label-free electronic detection of thrombin in blood serum by using an aptamer-based sensor. Angewandte Chemie-International Edition, 2005. 44(34): p.5456-5459 を参照)において、標的認識(特異性)とシグナル増幅(感度)は、関連しない2つの工程である。認識過程のみが特異的である一方、増幅は非特異的であり、シグナルおよびノイズの両方に適用される。本発明においては、増幅および認識は両者とも特異的である。標的の特異的結合のみが、シグナル増幅を引き起こす。他の妨害物(interferent)(アッセイされるサンプル中における夾雑物および他の分子)の非特異的な結合は、測定されるシグナルに対する貢献が著しく少ない。そのため、ノイズレベルが抑制され、標的のシグナルのみが増幅される。
【0025】
本明細書において用いる場合、“標的”は、“標的核酸分子”と互換的に用いられる。本明細書において用いる場合、“標的”核酸分子は、その存在および/または量を知ることが望まれるいかなる核酸分子であってもよい。いくつかの態様において、標的核酸分子の配列は既知である。いくつかの態様、例えば、突然変異(mutation)検出において、標的核酸分子の配列は、参照核酸配列からの変化、すなわち差異を有すると疑われる配列であり得る。これらの態様において、標的核酸分子の配列は、既知でも未知でもよく、“参照核酸配列”は、それと標的核酸分子の配列とを比較することが可能な既知の核酸配列である。標的核酸分子における変化は、1のヌクレオチド塩基または1より多いヌクレオチド塩基において存在し得る。かかる変化は、既知の多型性の変化、例えば一ヌクレオチド多型であり得る。
【0026】
本明細書において用いる場合、“核酸分子”、“ポリヌクレオチド”および“オリゴヌクレオチド”は、一本鎖または二本鎖であり得る天然または合成由来の DNA 分子および RNA 分子をいうために互換的に用いられ、センス鎖もしくはアンチセンス鎖を意味する。本発明の核酸分子は、既知のヌクレオチド類縁体または改変された骨格残基もしくは連結(linkage)、および DNA ポリメラーゼもしくは RNA ポリメラーゼによってポリマー中に組み込むことができるあらゆる基質を含有し得る。かかる類縁体の例は、ホスホロチオエート(phospborothioate)、ホスホロアミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)などを包含する。
【0027】
好ましい態様において、本発明の核酸分子は単離されている。本明細書において用いる場合、“単離された”とは、その天然の環境から単離されている核酸分子をいう。“単離された”核酸分子は、核酸分子が得られた種のゲノム DNA から実質的に単離されまたは精製され得る。“単離された”ポリヌクレオチドは、5'末端、3'末端または両方において核酸分子が通常または天然に付随している他の DNA セグメントから分離されている核酸分子を包含し得る。
【0028】
本発明の核酸分子は、その天然の形態であってもよく、または合成的に改変されてもよい。本発明の核酸分子は、一本鎖(コーディングもしくはアンチセンス)または二本鎖であり得、DNA (ゲノム、cDNA または合成の) または RNA 分子であり得る。RNA 分子は、イントロンを含み、DNA 分子と1対1の関係で対応する mRNA 分子、およびイントロンを含まない mRNA 分子を包含する。本発明の核酸分子は、他の核酸分子、支持材料(support material)、レポーター分子、クエンチャー分子、またはこれらの組合せと連結し得る。他の核酸分子は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、さらなる制限酵素部位、マルチクローニングサイト、他のコーディング部分(coding segment)等を包含する。そのため、全長が好ましくは意図される組換え DNA もしくは PCR プロトコールにおける調製および使用の容易さによって制限されつつ、ほとんどあらゆる長さの核酸断片を採用し得ることが考慮される。本発明のいくつかの態様において、本明細書において記載される核酸分子を含む核酸配列が考慮される。
【0029】
本発明の核酸分子は、当該技術分野において公知の方法によって、例えば、当該技術分野において公知の方法および機器、例えば自動オリゴヌクレオチド合成機、PCR 技術、組換え DNA 技術等を用いて核酸配列を直接的に合成することによって、容易に調製することができる。
【0030】
本発明の核酸分子は、標識を含有し得る。様々な標識および結合技法が当業者に公知であり、本発明の核酸分子を採用する様々な核酸およびアミノ酸アッセイにおいて用いることができる。本明細書において用いる場合、“標識”または“検出可能な標識”とは、ラジオグラフィー、蛍光、化学発光、酵素活性、吸光度(absorbance)等を含む当該技術分野において公知の方法によって検出可能なシグナルを生成する組成物もしくは分子である。検出可能な標識は、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、酵素、色素、金属イオン、リガンド、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン(strepavidin)およびハプテン、量子ドット等を包含する。
【0031】
“標識化された”核酸分子は、それに結合した標識の存在を検出することによって該核酸分子の存在を検出できるよう結合した標識を含む。標識は、共有結合、例えば化学結合、または非共有結合、例えばイオン結合、ファンデルワールス結合、静電結合もしくは水素結合を介して、核酸分子に結合し得る。ポリヌクレオチドと関連する配列を検出するための標識化されたハイブリダイゼーションもしくは PCR プローブを作成するための、当該技術分野において公知の方法を用いることができ、該方法は、オリゴ標識(oligolabeling)、ニックトランスレーション、末端標識(end-labeling) または標識化されたヌクレオチドを用いる PCR 増幅等、好ましくは末端標識(end-labeling)を包含する。用い得る適切な標識は、放射性ヌクレオチド(radionucleotide)、酵素、蛍光物質、化学発光物質もしくは発色性物質ならびに基質、補因子、阻害剤、磁性粒子等を包含する。
【0032】
本明細書において用いる場合、“核酸プローブ”または“プローブ”とは、該核酸プローブの配列と相補的な配列を有する標的核酸分子に結合することができる核酸分子をいう。プローブは、当該技術分野において公知の、天然のまたは改変された塩基を包含し得る。例えば MPEP 2422、第8版を参照されたい。プローブのヌクレオチド塩基は、その結合が核酸分子の相補的な核酸分子に結合する能力を阻害しない限り、ホスホジエステル結合以外の結合によって連結され得る。プローブは、プローブ配列に対する相補性が100%未満である標的配列に結合することができ、かかる結合はハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。サンプル中における標的配列またはサブ配列(subsequence)の存在または不存在を決定するために、プローブの存在または不存在を検出することができる。プローブは、検出可能な標識を含有し得る。
【0033】
本明細書において用いる場合、“アッセイ”は、“検出”、“測定”、“モニター”および“解析”と互換的に用いられる。
【0034】
本明細書において用いる場合、“付加される(affixed)”、“付着する(attached)”、“付随する(associated)”、“結合する(conjugated)”、“接続する(connected)”、“共役する(coupled)”、“固定化される(immobilized)”、“吸収される(adsorbed)”および“連結する(linked)”は互換的に用いられ、文脈が別にはっきりと示さない限り、可逆的または非可逆的であり得る、直接的および間接的な接続(connection)、付着(attachment)、連結(linkage)もしくは結合(conjugation)を包含する。
【0035】
本明細書において提供される通り、“リガンド”とは、別の分子、すなわち“受容体”に結合する分子をいう。例えば、抗体に結合する抗原、相補的な(complimentary)オリゴヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、受容体に結合するホルモンもしくは神経伝達物質、または酵素に結合する基質もしくはアロステリックエフェクター(allosteric effector)であり、天然および合成の生体分子、例えばタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸分子、炭水化物、糖、脂質、リポタンパク質、低分子、天然および合成の有機物質および無機物質、合成ポリマー等を包含する。本明細書において提供される通り、“受容体”は、所与のリガンドに特異的に結合する分子である。
【0036】
本明細書において用いる場合、2つの分子の間の“特異的結合”または“特異的相互作用”とは、所与のリガンドとその受容体が、所与のサンプル中の他の成分もしくは夾雑物の結合またはそれとの相互作用から区別するのに十分な特異性をもって、互いに結合または相互作用することを意味する。
【0037】
本明細書において用いる場合、“選択的に(または特異的に)ハイブリダイズする”の表現は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件から緩やかなハイブリダイゼーション条件下で、他のヌクレオチド配列よりも特定のヌクレオチド配列に対して核酸分子が結合すること、二重鎖を形成すること(duplexing)またはハイブリダイズすることをいう。選択的または特異的ハイブリダイゼーションに関して、陽性シグナルは、バックグラウンドのハイブリダイゼーションの少なくとも 約 2 倍、好ましくは約 5 倍、より好ましくは約 10 倍である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、プローブの熱融解温度(Tm)の約 5 ℃下から Tm の約 10 ℃下までである。緩やかなハイブリダイゼーション条件は、プローブの熱融解温度(Tm)の約 10 ℃下から、Tm の約 20 ℃から約 25 ℃下までである。
【0038】
高い感度: 感度を増大させるため、サンドイッチ検出に基づくシグナル増幅を適用する。サンドイッチ増幅の基本概念は、シグナルを増幅するという目的を有する、サンドイッチ様複合体を形成するためのメディエーター(mediator)の適用である。まず、標的がプローブに結合した後、検出の前に、レポーター標識化プローブとメディエーターとの間で複合体が形成される。次いで、過剰なメディエーターを除去し、検出を行う。Liao, J.C., et al., Use of electrochemical DNA biosensors for rapid molecular identification of uropathogens in clinical urine specimens. Journal of Clinical Microbiology, 2006. 44(2): p. 561-570; および Gau, V., et al., Electrochemical molecular analysis without nucleic acid amplification. Methods, 2005. 37(1): p.73-83 を参照されたい。常套の核酸のサンドイッチ検出においては、オリゴヌクレオチドプローブは直鎖状である。そのため、非特異的な標的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーターの結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果をもたらす。
【0039】
高い特異性: 特異性を増大させるため、立体障害切替え構造(steric hindrance-switch structure)(例えばステムループおよびアプタマー)をプローブ設計に導入する。本発明のプローブは、少なくとも二状態の(two-state)構造を有する。標的が全く結合していない場合、プローブは構造 I に留まる。構造 I の状態において、受容体がリガンドと接触するのを立体的に障害、抑制または阻止されるため、レポーター(あるいは“リガンド”とも称される)は、メディエーター(あるいは所与のリガンドと特異的に結合する“受容体”とも称される)と有効な複合体を形成することができない。標的との結合の後、プローブは構造 II へと変化する。構造 II の状態において、レポーターは、シグナル増幅をもたらすメディエーターとの有効な複合体を形成する。立体障害の設計は、労力および費用を増大させるいかなる追加の化学反応工程も伴わず、単純かつ効果的である。
【0040】
物理的な力のパラメーター Fa は、コンフォメーションを制約するプローブの分子内相互作用を表わす。より高い Fa は、構造 I の状態においてプローブをより安定にする。別の物理的な力のパラメーター Fb は、標的とプローブとの間の分子間相互作用を表わす。より高い Fb は、プローブが構造 II の状態において安定することを可能にする。Fa と Fb との間の競争は、プローブがどちらの状態に留まるかを決定する。Fb が標的とプローブとの間の相互作用に由来するため、特異的な標的結合は、非特異的な標的結合よりも高い Fb を生み出す。そのため、検出の特異性は、|Fa-Fb(特異的)| と |Fa-Fb(非特異的)| との間の差によって決定することができる。ほとんどの場合において、標的の、ひいては標的とプローブとの間の相互作用の Fb、は 変えることができない。しかし、高い特異性を達成するため、プローブ設計の変更を介して Fa を希望する値に設計することができる。
【0041】
低コピー数適用: さらに、通常はシグナルオフ(signal-off)の工程である伝統的な立体構造に基づく検出 (Fan, C.H., K.W. Plaxco, and A.J. Heeger, Electrochemical interrogation of conformational changes as a reagentless method for the sequence-specific detection of DNA. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2003. 100(16): p. 9134-9137) と比較して、本発明の検出はシグナルオン(signal-on)の工程であり得る。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は低い値での測定よりも大きな誤差を有し、そのため、シグナルオンの工程はより安定なバックグラウンドノイズレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナル減少についてのダイナミックレンジは、元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナルを処理する(signal processing)工程が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0042】
プローブ設計: プローブの生物認識(bio-recognition)部分および束縛構造(または立体切替え(steric-switch))部分は、分離して設計するか、または統合することができる。図 1 は、プローブ設計の2つの方法を示す。分離設計(separately-design)方法 (図 1A) においては、DNA ヘアピン構造をプローブとして用いた。ループが、標的に対する生物認識部分である。ステムは、立体切替え部分のために設計される。特異的な標的の濃度が検出限界よりも下である場合、プローブは、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成するのを阻止する立体構造上の制約を作り出す閉じた構造のままである。したがって、測定されるシグナルのレベルは低い。特異的な標的との結合の後、ヘアピンが開き、レポーターはシグナルを増幅するメディエーターと有効な複合体を自由に形成することができ、そのため、測定シグナルのレベルは高い。統合された設計においては、プローブの構成(composition)は、プローブ設計において追加の部分を必要とせず、それ自身で束縛構造を形成することができる。ここで、例えば G-四重鎖を用いることができる (図 1B)。
【0043】
図 2 は、異なるレベルの設計された立体障害の影響を示す。ここで、プローブが結合している電極表面へのレポーターの近接に起因する異なるレベルの立体障害を各々が有し、(プローブと基質の間に位置する)リンカーを有するものおよびリンカーを有さないもの、2つのヘアピンプローブを比較した。この設定において、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポート(report)を電極表面からさらに遠くへ分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。このシグナルオフ工程において、このシグナルに起因する高いバックグラウンド値の減少は小さく、検出するのが難しいことに注意されたい。リンカーを有するプローブ(設計された立体障害が低い)については、ヘアピンが閉じている場合であっても、レポートとメディエーターとの間の複合体が依然として形成され得、かつ有効であるよう、レポーターは表面から遠く離れている。そのため、“リンカーあり”と表示される左側のデータセットに示される通り、標的なしと標的(IL-8)の存在との間で測定される出力は小さい。ヘアピンプローブからリンカーを除去することによって立体障害がより大きく設計されると、標的が全く結合していない場合においてレポーターは表面に非常に近く、有効なメディエーター-レポーター複合体の形成が阻止され、そのため、測定されるバックグラウンドノイズは非常に低い。標的とのハイブリダイゼーションの後、レポーターと表面との間の距離が増大し、複合体が形成可能となり、シグナルを効果的に増幅する。シグナルの変化は、大きなシグナル対ノイズ比を有し、劇的である。これがシグナルオンの工程であり、結果を“リンカー無し”と表示される右側のデータセットに示す。
【0044】
本明細書において例証されるプローブは基質の表面上に存在するが、検出は溶液中のプローブを用いて行うこともできる。プローブ設計の鍵となる技術革新は立体障害であるため、立体障害を引き起こす全ての型の束縛(constraint)を適用することができる。例えば、プローブはナノ粒子、磁性ビーズまたは高分子、例えばタンパク質に結合し得る。
【0045】
シグナル読み取り: 本発明は、多様なシグナル読み取りの型を特色とする。読み取りシグナルは、一つの特定の型のシグナル、例えば上記の例において記載される電気的出力には限られないが、増幅工程に依存する。増幅が電子伝達工程に関連する場合、シグナルは好ましくは電流/電圧である。増幅が光学的工程に関連する場合、シグナルは好ましくは蛍光/UV/IR 等である。増幅が繊細な(delicate)分子構造の変化に関連する場合、シグナルは好ましくは微細スペクトル(fine spectra)である。また、シグナルは、機械的データおよび磁気的データであってもよい。当業者は、所与の増幅工程に基づいて適切な検出方法を容易に選択することができる。
【0046】
本発明のシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体に関連するため、検出のための標的は無標識(label-free)であり得る。無標識の検出は、試薬使用の費用を減少させるだけでなく、リアルタイムかつハイスループットな検出を可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に適用することができる。
【実施例】
【0047】
実施例
以下の実施例は、説明のみを目的として提供され、限定を目的とするものではない。当業者は、本質的に同一のもしくは同様の結果を生み出すために変更または修正することができる様々な非臨界的(non-critical)なパラメーターを容易に認識するであろう。
【0048】
実施例 1: ヘアピンプローブ設計を用いる低濃度の mRNA のモニタリング
唾液中の mRNA バイオマーカーは、唾液が口腔疾患およびおそらくは他の組織的(systematic)疾患についての診断液(diagnostic fluid)として働き得ることを示す。しかし、唾液中における特定の mRNA バイオマーカーの濃度は、フェムトモル/L よりも下である。さらに、大過剰の非特異的な mRNA、rRNA およびタンパク質が共存する。鍵となる点は、唾液中の微量の mRNA またはタンパク質を、精製および増幅なしでどのように検出するかということである。
【0049】
本明細書において開示されるものには、口腔癌についての mRNA バイオマーカーである IL8 に対する電気化学的アレイが包含される。本発明のプローブの使用を例証する。プローブを、ヘアピン構造として設計する。レポーターは、検出プローブ(フルオレセイン-緑)である。メディエーターは、抗フルオレセイン-HRP 複合体である。シグナル増幅は、 HRP の酸化還元(redox)工程に基づく。シグナル読み取りは、電流である。Fa は、ヘアピンプローブのギブズ自由エネルギーである。Fb は、プローブと標的との間で形成される二重鎖のギブズ自由エネルギーである。
【0050】
リンカーを有さないヘアピンプローブを適用することにより、IL8 の検出限界(LOD)は約 10 fg/mL (約 1 fmol/L) である (図 3)。直鎖状プローブについては、LOD は、たったの約 100 pg/mL (10 pmol/L) である。ヘアピンプローブ検出についてのダイナミックレンジは、10 fg/mL から 100 ng/mL までである。
【0051】
体液の鏡としての唾液は、体の正常な状態および疾患状態を反映することが判明した。例えば、I. D. Mandel、J. Am. Dent. Assoc.、124:85-87 (1993); I. D. Mandel、J. Oral Pathol. Med.、19:119-125 (1990); D. T. Wong、J. Am. Dent. Assoc.、137:313-321 (2006) を参照されたい。近年、Wong のグループが、いくつかの唾液の mRNA が口腔癌の患者からの唾液中において一貫して上昇したことを観察している。D. T. Wong、J. Am. Dent. Assoc.、137:313-321 (2006) を参照されたい。これらの mRNA のうち、組み合わされた4つ (OAZ-1、SAT、IL8 および IL1-β) が、口腔癌の患者の唾液を対照の被験者の唾液から識別するためのバイオマーカーとして役立ち得る。Y. Li et al.、Clin. Cancer Res.、10:8442-8450 (2004) を参照されたい。mRNA バイオマーカーの同定は、唾液を価値のある診断液にする。S. Hahn et al., Bioelectrochemistry, 67:151-154 (2005) を参照されたい。しかし、今日まで、未抽出の(unextracted)唾液中における直接的 RNA 検出のための一貫性および信頼性のある技術は存在しない。他の液に基づく(fluid-based)検出、例えば血液および尿と比較して、唾液に基づく診断法は、患者に対して提示する危険がより少なく、現在の方法よりも利用しやすく(accessible)、正確で、かつ安価である。
【0052】
診断液としての唾液についての主要な懸念は、バイオマーカーが通常、血清中におけるよりも唾液中において少ない量で存在することである。唾液のバイオマーカーの低い濃度および唾液の複雑性のため、従来の検出方法は高いシグナル対ノイズ比に対する臨床診断上の要求を満たすことができない。
【0053】
感度を増大させるのを助けるシグナル増幅を得るために、いくつかの技法が開発されている。ほとんどの検出方法において、シグナル強度は、通常は全サンプル容積と比較して非常に小さい検出領域内における標的の数と関連する。したがって、高いシグナル強度を確保するために、全サンプル容積中における標的の量を増幅すること、または標的を小さな検出領域内に蓄積させることのいずれかが適用される。第1の方法は、標的、プローブおよび/またはシグナルの総数を増大させ、それによって高強度の測定出力を生成する。例えば、PCR、プライムド in situ 標識 (PRINS) および核酸配列に基づく増幅 (NASBA) 技術が、標的の総量を増大させるために適用される。P. T. Monis and S. Giglio、Infect. Genet. Evol.、6:2-12 (2006) を参照されたい。リガーゼ連鎖反応 (LCR) およびローリングサークル増幅 (RCA) は、プローブを増幅する。P. T. Monis and S. Giglio、Infect. Genet. Evol.、6:2-12 (2006) を参照されたい。分岐 DNA (bDNA) およびチラミドシグナル増幅 (TSA) は、シグナル増幅をもたらす。S. C. Andras et al.、Mol. Biotechnol.、19:29-44 (2001) を参照されたい。標的/プローブ/シグナルの直接的増幅と比較して、第2の方法は、標的のより多くのコピーを作り出す代わりに標的の局所的濃度を増大させることに焦点を合わせる。例えば、ナノテクノロジーは、ナノ粒子に基づく技法を適用することによって、サンプル内のわずかなコピーの標的を検出領域内へと集中させることができる。A. N. Shipway and I. Willner、Chem. Commun.、pp.2035-2045 (2001); A. Merkoci、Febs J.、274:310-316 (2007); J. Wang、Anal. Chim. Acta、500:247-257 (2003); S. G. Penn et al.、Curr. Opin. Chem. Biol.、7:609-615 (2003) を参照されたい。標的の全量および局所的濃度の両方の増大は、高い感度をもたらす。しかし、特異的および非特異的シグナルの両方が増幅されるため、それはより高いバックグラウンドレベルおよびより多くの偽陽性の結果をも生み出す。
【0054】
他方、競合に基づく(competition-based)検出は、バックグラウンドノイズのレベルを減少させるよう設計されてきた。検出プローブは、常にいくつかの準安定な(quasi-stable)状態を有しており、ここで、各々の状態は異なるレベルのシグナル強度を示す。N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000); C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003); S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996); F. Wei et al.、Biosens. Bioelectron.、18:1149-1155 (2003); F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005) を参照されたい。相補的な標的と非相補的な標的との間の競合は、プローブをこれらの状態の間で切替え、そうして異なるレベルのシグナルとして提示した。切替え工程は、分子内または分子間いずれかの競合によって達成することができる。分子内切替えに関しては、通常、2 以上の準安定なコンフォメーションを有する特異性の高いプローブ、例えば分子ビーコンおよび束縛構造を有する他のプローブが適用される。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003)、S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996)、F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005); Y. Xiao et al.、P Natl Acad Sci USA、103:16677-16680 (2006); A. A. Lubin et al.、Anal. Chem.、78:5671-5677 (2006); N. E. Broude、Trends Biotechnol.、20:249-256 (2002) を参照されたい。特異的な標的との結合は、プローブの立体構造変化を引き起こす。通常、立体構造変化は、距離感受性のシグナルレベル、例えば FRET、インターカレートする色素および電気化学に影響を与える。T. J. Huang et al., Nucleic Acids Research, vol. 30 (2002); V. Gau et al., Methods, 37:73-83 (2005) を参照されたい。非特異的な標的はシグナルの変化を生成せず、バックグラウンドレベルは低い。しかし、測定可能なシグナルのために大量の標的が必要とされ、それ故により多くの偽陰性の結果を検出系に導入するため、特異性を改良することによって、それらのプローブは検出限界を減少させる。
【0055】
立体構造変化に関連する従来の検出に関して、標的認識(特異性)およびシグナル増幅(感度)は、関連しない2つの工程である。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003); S. Tyagi and F. R. Kramer、Nat. Biotechnol.、14:303-308 (1996); F. Wei et al.、J. Am. Chem. Soc.、127:5306-5307 (2005) を参照されたい。本明細書において開示される通り、選択的な増幅を可能にする新規なヘアピンプローブ設計によって、高い感度および高い特異性が同時に達成される。このヘアピンプローブは、シグナルをレポートする工程を活性化させる束縛構造構成要素(constraint structure component)と共に統合された、標的に対して特異的の高い生物認識構成要素(bio-recognition component)で構成される。生物認識構成要素が標的の特異性を検証した後でのみ、束縛構造構成要素は組み込まれている(built-in)立体障害を取り除き、高い感度をもたらすシグナル増幅が起こるのを可能にする。特異的な標的の結合が全く存在しない場合、立体障害がシグナル増幅を阻害する。そのため、大量の妨害物(interferent)との混合物中において低コピー数で存在するとしても、特異的な標的の存在下でのみ、測定可能なシグナルが生成され得る。この選択的増幅の方法は、非特異的な結合およびバックグラウンドレベルを大いに抑制し、あらゆるポイントオブケアの検出系の実行における2つの鍵となる障害を乗り越える。
【0056】
材料
全ての試薬 (表 1) は、いかなる前処理も伴わず、購入した状態で、またはバッファー溶液で希釈して用いられる。
【表1】
【0057】
用いた電気化学的センサーは、16単位の金のアレイであった。V. Gau et al.、Methods、 37:73-83 (2005) を参照されたい。電極のアレイは、異なるサンプルを同時に多重化検出することを可能にする。各々の単位について、作用電極(working electrode)(WE)、対電極(counter electrode)(CE)および参照電極(reference electrode)(RE)を含む3つの電極の配置が存在する。微小電極アレイの利点として、16 の電極のシグナル読み取りを同時に得ることができ、検出のためにたった 4 μL のサンプル溶液しか必要としない。本明細書において例証される通り、電気化学的シグナルは、レポートする酵素 - セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)の酸化還元過程によって生成される電流である。HRP とH2O2 との間の反応の後、HRP は酸化された状態へ変化する。その後、TMB が 2電子の工程を介して還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。
【0058】
検出プロトコール
金の電気化学的センサーの表面修飾は、以下の 3 工程を含む (V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); J. J. Gau et al.、Biosens. Bioelectron.、16:745-755 (2001):
【0059】
プローブの固定化: 金電極を、カルボキシル基によって終結する自己組織化単層(self-assembled monolayer)で事前に被覆した。金の表面を 4μL の 50% EDC および 50% NHS によって 10 分間活性化した。その後、センサーを DI 水 (18.3 MΩ・cm) でリンスし、超高純度の(ultra pure)窒素ガスを用いて乾燥させる。次いで、4μL の、5mg/mL の Ez-Biotin を金表面にロードし、その後 DI 水でリンスし、窒素ガスで乾燥させた。その後、2.5% の BSA を含む PBS バッファー中の 0.5 mg/mL のストレプトアビジンを電極上で 10 分間インキュベートして、ようやくストレプトアビジンで被覆された電極を得た。次いで、4 μL の、トリス-HCl バッファー中のビオチン化およびフルオレセインの二重標識された(dual-labeled)ヘアピンプローブ(HP)を、30 分間、表面上のストレプトアビジンとプローブ上のビオチン標識との間の相互作用を介して電極上に固定化した。過剰な HP を DI 水での徹底的なリンスによって除去し、窒素ガスで乾燥させた。
【0060】
標的ハイブリダイゼーション: 表面を、10 mM の MgCl2 を含有する 6×SSC バッファー中で調製される標的サンプルと共に 60 分間インキュベートした。ハイブリダイゼーションの後、電極を DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0061】
シグナル読み取り: 電流は、標的の表面濃度に比例する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005) を参照されたい。まず、0.5% のカゼインブロッカー溶液中の 0.5 mU/mL の抗フルオレセイン-HRP を、HP 上のフルオレセイン標識と結合させた。DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた後、TMB/H2O2 基質を添加した。各々の電極単位に -200 mV の電圧を適用することによって電流測定検出を行い、次いで、60s の平衡の後に並行した(parallel)シグナル読み取りを行った。
【0062】
電気化学的シグナルは、レポートする酵素 - セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)の酸化還元過程によって生成される電流である。HRP と H2O2 との間の反応の後、HRP は酸化された状態へと変化する。その後、TMB が 2電子の工程を介して還元型 HRP を再生し続け、それが電流シグナルを増幅する。まず、0.5% のカゼインブロッカー溶液中の 0.5 mU/mL の抗フルオレセイン-HRP を、HP 上のフルオレセイン標識と結合させた。DI 水でリンスした後、TMB/H2O2 を添加した。各々の電極単位へ -200 mV の電圧を適用することによって電流測定検出を行い、次いで 60s の平衡の後に同時のシグナル読み取りを行った。電流は、標的の表面濃度に比例する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005) を参照されたい。
【0063】
オリゴヌクレオチドプローブおよび RNA サンプルの調製
オリゴヌクレオチドは、Operon (Alabama、USA) へ発注した。全てのヘアピンプローブを、一つの末端についてはビオチンで標識し、もう一方の末端についてはビオチンTEG で標識する。それぞれ、ビオチン標識はアンカーとしてストレプトアビジンと結合することができ、フルオレセイン標識はシグナルレポーターである。Operon によって提供されるビオチン-TEG は、ビオチンとオリゴ鎖を接続する追加の 16原子のスペーサーを有する。この間隔を空ける(spacing)設計は、ビオチンに対してストレプトアビジンへの良好な接近可能性(accessibility)を与える。
【0064】
検出のために、2つの mRNA 標的を選択した。インターロイキン 8 (IL8) は、口腔癌に関する唾液のバイオマーカーである。IL8 の濃度は、健康な人については 2 fM であり、口腔癌サンプルにおいては 約 16 fM まで増大する。Y. Li et al.、Clin. Cancer Res.、10:8442-8450 (2004) を参照されたい。唾液サンプル中の RNA レベルを規準化するため、口腔癌の関連性を示す基準の遺伝子、S100 カルシウム結合タンパク質 A8 (S100A8) を用いた。唾液の検出に関して、S100A8 を、各々の電気化学的センサーについての基準の対照(reference control)として用いる。
【0065】
インビトロ転写産物(in vitro transcript)(IVT) RNA を、当該技術分野において公知の方法にしたがって調製する。H. Ohyama et al.、Biotechniques、29:530-+ (2000) を参照されたい。簡潔には、プライマーとして T7-オリゴ-(dT)24 を用いる逆転写を行って c-DNA の第1の鎖(first strand)を合成した。T7 RNA ポリメラーゼ (Ambion Inc.、Austin、TX、USA) を用いてインビトロ転写を行った。1 μL の細胞 RNA を逆転写して cDNA を作成し、1μl の cDNA を、T7 配列を有する PCR 用プライマーのための鋳型として用いた。cRNA の量および質を、分光測定 (NanoDrop Tech.、Delaware、USA) によって決定した。IVT RNA サンプルを一定量に分け、使用の前に -20℃で保管した。唾液の感度および特異性の評価のため、IVT RNA を唾液中にスパイクした(was spiked)。
【0066】
結果および考察
核酸の常套のサンドイッチ検出において、オリゴヌクレオチドプローブは直鎖状である。そのため、非特異的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーター結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果を引き起こす。特異性を増大させるため、立体障害効果をヘアピン構造中に導入した。図 4 を参照されたい。ヘアピンプローブは、その開または閉の(open-or-not)2状態の(two-state)構造を特徴とする。標的が全く結合していない場合、ヘアピンプローブは閉じた状態に留まり、それにより、設計された立体障害のため、レポーターはメディエーターと有効な複合体を形成することができない。特異的な標的との結合の後、プローブは開いた状態へと変化し、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成し、それによりシグナル増幅がもたらされる。立体障害の設計は、実験を行う際の労力を増大させるいかなる追加の化学反応工程も伴わず、単純かつ効果的である。本研究におけるシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体のみに関連するため、検出のための標的は無標識である。無標識の検出は、試薬使用の型を減少させるのみならず、リアルタイムかつハイスループットな検出を可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に応用することができる。
【0067】
本発明のプローブは、HRP/TMB シグナル増幅を阻害する表面立体障害に基づく。そのため、表面とレポーターの間の距離が、認識過程にとっての主要な因子である。かかる設定において、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポート(report)を電極表面からさらに遠くへ分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。レポーターが表面から溶液中へと移動するにつれて、表面の制限(restriction)が減弱し得、それにより電流シグナルが増大する。
【0068】
さらに、通常はシグナルオフの工程である伝統的な立体構造に基づく検出と比較して、本発明の検出はシグナルオンの工程であり得る。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は、低い値の測定よりも大きな誤差を有し、そのためシグナルオンの工程はより安定なバックグラウンドノイズレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナルの減少についてのダイナミックレンジは元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナル処理工程(signal processing step)が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0069】
ヘアピンプローブによる立体障害効果の概念
特異的シグナル増幅は、HRP および TMB/H2O2 によるサンドイッチ様シグナル増幅とヘアピンプローブ設計によるシグナル選択性との組合せを介して達成される。本発明の方法の基本概念は、標的を伴わない(target-free)プローブへの HRP/TMB の結合を阻害する表面による立体障害である。そのため、表面とレポーターとの間の距離が、認識工程にとっての主要な因子である。レポーターが表面から溶液中へと移動するにつれて、表面の制限が減弱し、それによって電流シグナルが増大する。立体障害がなければ、特異的な標的とのハイブリダイゼーションは、レポーターを電極表面から分離する DNA 二重鎖を形成し、そのため、シグナル出力の減少が測定される。
【0070】
プローブが結合している電極表面へのレポーターの近接に起因する異なるレベルの立体障害を各々が有する、リンカーを有するおよび有さない4つのヘアピンプローブを比較した (表 2)。リンカーの長さは、5-ビオチン標識された末端における TEG または/および突出スペーサーによって調整される。突出スペーサーは、9 つのチミジン(9T)である。ビオチンTEG の経度サイズは、MM2 算出から約 3 nm である。N. L. Allinger、J. Am. Chem. Soc.、99:8127-8134 (1977) を参照されたい。9T リンカーに関して、通常、一本鎖の DNA は、全く力が適用されない場合、電極上でコイル状の(coiled)状態である。コイル状の鎖は、特定の力、例えば負の電位の下でまっすぐに伸びる。電気化学的検出が -200 mV の下で行われるため、9T リンカーは、曲がったまたは横に寝た(lay-down)構造を有する代わりに、ずっと長い長さに伸びる。A. M. van Oijen et al.、Science、301:1235-1238 (2003); U. Rant et al.、Biophys. J.、90:3666-3671 (2006) を参照されたい。9T リンカーの正確な長さは明確でないが、二重鎖 DNA からのデータを 9 bp × 0.28 nm/bp として考えれば、それは負の電位の下では 3 nm よりもずっと長いはずである。HRP のサイズは、結晶のデータから、約 4×6.7×11.8 nm である。G. I. Berglund et al.、Nature、417:463-468 (2002) を参照されたい。
【0071】
【表2】
【0072】
図 6 は、様々なレベルの設計された立体障害からの効果を示す。最も長いリンカー(最も低い立体障害)を有する TEG+9T プローブについては、ヘアピンが閉じている場合でさえ、レポーターとメディエーターとの間の複合体が形成され得、有効であるよう、レポーターは表面から遠く離れている。そのため、“HP L3”と表示されるデータセットにおいて示される通り、標的無しと標的(IL-8)の結合との間で測定される出力は小さい。ヘアピンプローブからリンカーを除去することによって立体障害がより大きく設計される場合には、全く標的が結合していない時にレポーターは表面に非常に近く、有効なメディエーター-レポーター複合体の形成を妨げ、それ故、非常に低いバックグラウンドノイズが測定される。標的とのハイブリダイゼーションの後、レポーターと表面との間の距離が増大し、複合体が形成され得、効率的にシグナルを再生し得る。シグナルの変化は、良好なシグナル対ノイズ比を有し、劇的である。
【0073】
2 つの標的とのヘアピンプローブの特異性を試験した。図 5 を参照されたい。各々のプローブについて、相補的および非相補的な RNA 標的の間の比較を行った。非相補的な標的は、空のシグナルよりも標準偏差(SDV)の 2 倍だけ高いシグナルをもたらす。相補的な標的のシグナルは、空のシグナルよりも 20 SDV を超えて高い。IL-8 についての 5 nM の RNA レベルおよび S100A8 についての 7 nM の RNA レベルにおいて、両方のプローブが良好な識別を示した。
【0074】
ハイブリダイゼーション効率を用いる SNR の制御
RNA センサーの主要な関心事は、シグナル対ノイズ比(SNR)である。本発明のヘアピンプローブにおいて、SNR はヘアピンプローブの開対閉(open-to-closed)の比に依存する。高い SNR は、全く標的が結合していない時のしっかり閉じた(well-closed)状態および標的とのハイブリダイゼーション後の完全に開いた状態によって達成され得る。認識の間のこれらの閉じたまたは開いた(closed-or-open)状態は、分子内および分子間の両方のハイブリダイゼーションについて高い効率を必要とする。
【0075】
ハイブリダイゼーション効率を増大させ、本発明のプローブの SNR を最適化するため、ステムの長さおよびループの長さを変化させることによってヘアピン構造を調整した。異なるステムループ長を有する 3 つのヘアピンプローブを研究した (配列を図 7 の下部に示す)。3 つ全てのプローブが、ループ部分と共に、標的 RNA と相補的な 3-末端ステム部分を有している。図 7 に示される結果から、最も長いステムおよび二重鎖を有するプローブが、空のサンプルについて最も低いシグナルを有し、標的サンプルについて最も高いシグナルを有する。この結果は、全く標的がない場合のより良く(better)閉じた状態および標的とハイブリダイズした場合のより良く開いた状態が、高いシグナル対ノイズ比をもたらすことを示す。短いステムおよび二重鎖を有するプローブは、低いバックグラウンドおよび高いシグナルを有さない。したがって、高いハイブリダイゼーション効率は簡単に、感度および特異性の両方に利点を与えるため、ヘアピンプローブを用いて高い SNR を獲得することは簡便である。対照的に、伝統的な直鎖状プローブを用いて最適化されたプローブ配列を見出すことは困難である。長い配列は、ハイブリダイゼーション効率の助けとなるが、感度-特異性の問題に関して相反する効果をもたらす高いバックグラウンドを生成する。
【0076】
ヘアピンプローブおよび直鎖状プローブを用いる唾液の RNA の検出: スパイクされたサンプルおよびスパイクされていないサンプル
ヘアピンプローブを用いて、唾液の RNA バイオマーカーを一貫して(consistently)検出することができる。図 8 は、電流シグナルの濃度との関係を示す。IL-8 および S100A8 の両方が、ヘアピンプローブでは良好な SNR を示すが、直鎖状プローブでは貧弱な(poor) SNR を示す。シグナル強度が、濃度および濃度の対数のいずれにも比例(linear to)しないことは興味深い。この現象は通常、複雑な表面化学によってもたらされる。本発明において、ヘアピンプローブの切替え、ハイブリダイゼーション、タンパク質の認識および酵素的電気化学(enzymatic electrochemistry)を含む複雑な全体の反応の中に組み込まれるいくつかの反応が存在する。それは、標的濃度の直線的関係において簡単には説明できない。IL8 の検出限界(LOD)は、約 1 fmol/L である。直鎖状プローブについては、LOD はたったの約 10 pmol/L である。S100A8 の LOD は、ヘアピンプローブについては約 1 fmol/L であり、直鎖状プローブについては 10 pmol/L である。
【0077】
次いで、スパイクされた(spiked)唾液中において、ヘアピンプローブを用いて唾液の RNA バイオマーカーを検出した。データを図 9 に示す。全唾液中に様々な濃度で RNA サンプルをスパイクした。精製された IVT RNA サンプルと同様に、スパイクされた唾液も低い LOD を有する。これは、唾液中に膨大な数の妨害物(interferent)が存在する状態でさえ、ヘアピンプローブが特異的な標的 RNA を識別できることを示す。LOD は約 1 fM であり、これは現実の(real) IL-8 唾液診断の要求に応えることができる。
【0078】
図 8 における純粋な RNA サンプルの結果と比較して、特にバックグラウンドレベルに関して、唾液サンプルに伴う明らかなシグナル増大が観察された。スパイクされたサンプルについての陰性対照の電流は、IVT RNA の陰性対照の電流よりもずっと高い。純粋な RNA の安定なシグナルレベルと比較して、同じ人からであっても唾液サンプルが異なるとシグナルレベルが変化することも観察された。陰性対照についての電流は、数百 nA から数千 nA まで変動する。シグナル増大について可能性のある理由は、その後の(following) HRP の非特異的な結合または増強された特異的結合を引き起こす、唾液内の標的 RNA 以外の妨害成分、例えば高い粘性を有するムチンである。N. J. Park et al.、Clin. Chem.、 52:988-994 (2006) を参照されたい。唾液中におけるこれらの妨害成分の濃度はサンプルによって異なるため、電流強度はそれに従って変化する。それ故、いくつかの態様において、RNA 検出は、他の妨害物を除去するために溶解と組み合わせられる。
【0079】
1. ヘアピンプローブに伴う高いシグナル対ノイズ比の概念
本発明において、高いシグナル対ノイズ比は、サンドイッチ様検出とヘアピンプローブとの組合せに起因する。サンドイッチ様検出の概念は、シグナルを増幅させる HRP を再生する目的を持って、複合体を形成するためのメディエーターを適用することある。最初に、標的がプローブに結合する。次いで、検出の前に、レポーター(フルオレセイン)で標識されたプローブとメディエーター(抗フルオレセイン-HRP)との間で複合体が形成される。洗浄によって過剰なメディエーターを除去し、シグナルを増幅させる HRP を再生するために TMB/H2O2 基質を添加する。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); J. C. Liao et al.、J. Clin. Microbiol.、44:561-570 (2006) を参照されたい。シグナルレベルは、複合体の量および活性の両方に依存する。金属電極と複合体との間の強い相互作用のため、表面は、複合体の形成を制限するもの(restrictor)として、およびレポーターの活性に対する阻害剤として機能し得る。シグナルを増幅することができるこの複合体を、“有効な複合体”と称する。有効な複合体のみが、増幅されたシグナルを生み出す。
【0080】
従来の核酸のサンドイッチ検出においては、2 つの直鎖状オリゴヌクレオチドプローブが採用される: 一つは、標的を表面上に固定化するための捕捉プローブ(capture probe)であり、もう一方は、シグナルを生成するためのレポーターを有する検出プローブ(detector probe)である。V. Gau et al.、Methods、37:73-83 (2005); E. Palecek et al.、Anal. Chim. Acta、469:73-83 (2002); H. Xie et al.、Anal. Chem.、76:1611-1617 (2004) を参照されたい。そのため、非特異的な標的および特異的な標的の両方が、いかなるメディエーターの結合とも関係なく、バックグラウンドを増大させ、偽陽性の結果を引き起こす。特異性を増大させるため、立体障害効果をヘアピン構造中に導入した。ヘアピンプローブは、その開または閉の(open-or-not)2状態の(two-state)構造を特徴とする。全く標的が結合していない場合、ヘアピンプローブは閉じた状態に留まり、そのため、設計された立体障害のために、レポーターは、メディエーターと有効な複合体を形成することができない。特異的な標的との結合の後、プローブは開いた状態へと変化し、レポーターがメディエーターと有効な複合体を形成し、それによりシグナル増幅がもたらされる。立体障害設計は単純かつ効果的であり、元の2つのプローブ設計から化学反応工程を取り除き、実験を行う際の労力を減少させる。本研究におけるシグナル読み取りはレポーターとメディエーターとの間で形成される複合体にのみ関連するため、検出のための標的は無標識である。無標識の検出は、試薬使用の型を減少させるのみならず、リアルタイムかつハイスループットな検出をも可能にする。それは、マイクロアレイおよび自動 in situ 検出に適用することができる。
【0081】
2. ヘアピンプローブ設計の原則
ヘアピンプローブ検出の基本概念は、シグナルを特異的に増幅することができる立体障害設計である。設計について 3 つの原則が存在する: 1. 安定なヘアピン構造、これは、安定なステム部分、すなわち、ヘアピンのための長いステムによって満足させることができる (N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000)); 2. 高いハイブリダイゼーション効率、これは、安定な二重鎖部分、すなわち、ハイブリダイゼーションのための長い配列によって満足させることができる (N. L. Goddard et al.、Phys. Rev. Lett.、85:2400-2403 (2000)); 3. レポーターの高い立体障害効果、これは、リンカーの長さを変化させること、または表面効果を増大させるためにより大きなメディエーターを導入することによって得ることができる。ヘアピンプローブの構造を変化させることによって、最適化された立体障害効果による高い SNR を達成することができる。
【0082】
ヘアピンプローブ設計のほかに、表面の立体障害効果を増大させる他の2つの方法が存在する。一つは、プローブの表面密度である。密に充填された(densely packed)ヘアピンプローブは、まばらに充填された(sparsely packed)プローブよりも高い込み合い効果(crowding effect)を有する。それは、HRP の結合および HRP の活性の両方に対する制限を増大させる。しかし、プローブの高い表面濃度の下では、標的のハイブリダイゼーションも阻害される。オリゴヌクレオチドのまばらな分布は、高いハイブリダイゼーション効率をもたらす。各々のプローブおよび表面について、最良のハイブリダイゼーションを得るための最適化された表面被覆度が存在するはずである。本明細書において開示される通り、1×10-6 から 1×10-7 M のヘアピンプローブの固定化濃度が、良好な結果をもたらす。
【0083】
もう一つの因子は、電極へ適用する電位である。オリゴヌクレオチドは強く負に帯電しているため、正の電位はハイブリダイゼーションを改良し、鎖に対する電極の誘引を増大させる。負の電位は、二重鎖を開かせ、鎖を表面から追い払う。オリゴヌクレオチドは、高い正の電位の下では電極上に横たわり、一方で、負の電位の下では溶液中へ伸長する。U. Rant et al.、Biophys. J.、90:3666-3671 (2006) を参照されたい。正の電位の下でプローブが電極上に横たわる場合、閉じた状態および開いた状態のプローブに対する表面の立体障害はほぼ同じであり、そのため、相補的な標的の結合についての識別は存在しない。R. G. Sosnowski、P Natl Acad Sci USA、94:1119-1123 (1997) を参照されたい。したがって、この観点から負の電位が採用される。しかし、少しの正の電位は、未結合のヘアピンプローブを閉じた状態に保ち、標的との二重鎖を安定化する。これは、高いシグナル対ノイズ比を達成するのを助ける(データ示さず)。一方、負の電位は、塩基対の相互作用を破壊する。適用される負の電位が高すぎると、ヘアピンプローブは、標的が全く結合していない場合であっても開く。F. Wei et al.、Langmuir、22:6280-6285 (2006) を参照されたい。電流測定検出についての最良の電位は、非常に重要であり、かつ、ヘアピンプローブの配列組成に対して非常に敏感である。F. Wei et al.、Langmuir、22:6280-6285 (2006) を参照されたい。本明細書において開示される通り、負の電位(-200 mV)の下での検出は、良好な SNR をもたらす。当業者は、所与の適用についての電位を容易に最適化できる。
【0084】
3. シグナル対ノイズ比に関する考察
さらに、通常はシグナルオフの工程である伝統的な立体構造に基づく検出と比較して、本発明の検出はシグナルオンの工程である。C. H. Fan et al.、P Natl Acad Sci USA、100:9134-9137 (2003) を参照されたい。シグナルオンの工程は、低いバックグラウンド値においてシグナルの増大を検出し、一方、シグナルオフの工程は、高いバックグラウンド値においてシグナルの減少を検出する。通常、高い値での測定は、低い値での測定よりも大きな誤差を有し、そのため、シグナルオンの工程は、より安定なバックグラウンドノイズのレベルを有する。さらに、シグナルオフの工程において、シグナルの減少についてのダイナミックレンジは、元のバックグラウンド値によって制限される。そのため、シグナルオンの工程は、より高い検出限界、より少ない測定誤差を有し、シグナルオフの工程よりもシグナル処理工程が少ないため、商業利用にとってより好都合である。
【0085】
実施例 2: ヘアピンプローブ(HP)を採用する、唾液の mRNA の電気化学的検出
立体障害(SH)が非特異的なシグナルを抑制し、標的検出のためのシグナルオンの増幅工程を作り出すという原理に基づいて、プローブを設計した。ステムループの立体配置は、プローブのレポーター末端を表面に近接させ、メディエーターとの結合を不可能にする。標的の結合はプローブのヘアピン構造を開かせ、その後、メディエーターは接近可能なレポーターに結合することができる。電気化学的シグナルを生成するためにセイヨウワサビ ペルオキシダーゼ (HRP) を利用した。このシグナルオンの工程は、低い基底(basal)シグナル、強い陽性の読み取りおよび大きなダイナミックレンジによって特徴付けられる。SH は、ヘアピン設計および電場を介して制御される。電場制御をヘアピンプローブに適用することによって、RNA の検出限界は、従来の直鎖状プローブよりも 10,000 倍敏感な約 0.4 fM である。内在性の IL-8 mRNA は HP によって検出され、qPCR 技術との良好な相関が得られる。結果として得られる工程は、単純な設定(setup)を可能にし、工程の数を減少させることによって、複雑な体液、例えば唾液からの特定の核酸配列のポイントオブケア(point-of-care)検出に適する。
【0086】
序論
体液の分子的解析は、早期の癌の検出およびその結果としての増大した処置効果に対する可能性を提供する (Mandel、I.D. (1990) Journal of Oral Pathology & Medicine、19、119-125; Mandel、I.D. (1993) Journal of the American Dental Association、124、 85-87; Wong、D.T. (2006) Journal of the American Dental Association、137、313-321)。腫瘍から放出される分子マーカーは血液および/または他の体液へと進入し、バイオマーカーの特異的検出は、非浸潤性かつ特異的な様式での疾患の同定を可能にし得る (Gormally et al. (2006) Cancer Research, 66, 6871-6876; Herr et al. (2007) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 104, 5268-5273)。唾液は、非浸潤性の様式で容易に到達することが可能であり、血液と比べて患者の不快感が少ない状態で収集することができる。さらに、妨害物質(interfering material)(細胞、DNA、RNA およびタンパク質)および阻害物質(inhibitory substance)のレベルは、血液におけるよりも唾液において低く、かつ複雑性が低い(less complex)。この利点は、近年、口腔癌の mRNA マーカーについての徹底的な研究において明らかにされた (Li et al. (2004) Clinical Cancer Research, 10, 8442-8450)。mRNA を、マイクロアレイを介して同定し、確立された指針 (Pepe et al. (2001) Journal of the National Cancer Institute, 93, 1054-1061) に従って定量的 PCR (qPCR) によって検証した。唾液の mRNA バイオマーカーの検出は、唾液に対し価値のある診断液としての新たな次元を追加する。本研究において、本発明者らは、唾液の mRNA の現場での(on-site)試験のためのユニークな方法を開発することを目標とした。
【0087】
電気化学は、RNA 検出に関するポイントオブケア診断方法の優れた候補であり (Hahn et al. (2005) Bioelectrochemistry, 67, 151-154)、それは高い感度のためだけではなく機器の単純さのためでもある (Liao and Cui (2007) Biosensors & Bioelectronics, 23, 218-224; Wei et al. (2005) Journal of the American Chemical Society, 127, 5306-5307; Wei et al. (2006) Langmuir, 22, 6280-6285; Wei et al. (2003) Biosensors & Bioelectronics, 18, 1157-1163; Wei et al. (2003) Biosensors & Bioelectronics, 18, 1149-1155)。しかし、唾液のバイオマーカーの低い濃度 (〜fM) および唾液の複雑なバックグラウンドのため、従来の電気化学的電流測定検出法は、臨床診断上の、唾液における直接的な RNA 検出についての高いシグナル対バックグラウンド比(SBR)の要求を満たさない。
【0088】
近年、Plaxco のグループが、血清および尿を含む様々な体液におけるオリゴヌクレオチドの検出を可能にするために酸化還元標識された(redox-labeled)ヘアピンプローブを適用する新規な方法を報告した (Lubin et al. (2006) Analytical Chemistry、78、5671-5677; Xiao et al. (2006) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、103、16677-16680)。この方法は、電気化学的反応の間における、閉じた状態と開いた状態の間の切替えとしてのヘアピンプローブ(HP)の使用を実証することに成功した。その結果は、感度および特異性の両方における顕著な改善をもたらした。唾液の診断においては、唾液中における RNA バイオマーカーの低いコピー数は、バックグラウンドノイズを上回ってシグナルを検出するために感度の高いセンサーを要求する。本明細書において、本発明者らは、HP プローブに基づいて、酵素的増幅工程を標的に誘導される立体構造の変化と共役させる方法を提案する。この HP は、標的と相補的な配列を有するループ構成要素(loop component)および一つの端においてレポーターで標識されたステム構成要素(stem component)を含む。標的の結合がない場合、センサー表面への近接は、メディエーターがプローブのレポーター標識へと接近するのを妨げることによってシグナル増幅を阻害する立体障害(SH)を作り出す。この組み込まれた(built-in) SH は、生物認識構成要素が標的の特異性を検証した後に除去され、レポーター標識をメディエーター-ペルオキシダーゼ複合体へ接近できるようにし、電流シグナルを生成する。そのため、複雑な混合物中において低コピー数で存在する場合でさえ、特異的な標的のみが増幅された電流を生成し得る。SH の効果は、プローブ設計および表面の電場を最適化することによって、この HP に基づく電気化学的センサーにおいて制御することが可能である。本発明者らの選択的増幅方法は、バックグラウンドレベルに対して非特異的なシグナルを抑制し、唾液の RNA マーカーのためおよび他の一般的用途のための、ポイントオブケアの核酸検出系を開発する際の鍵となる障害を乗り越える。
【0089】
材料および方法
オリゴヌクレオチドプローブおよび RNA
HPLC 精製されたオリゴヌクレオチドを、特注合成した (Operon Inc.、Alabama、USA)。プローブ配列は、ヘアピン構造の形成を可能にする。ループ、およびヘアピンステムの半分 (3'末端) は、標的認識配列を含有し、HP を、5'末端上においてはビオチンもしくはビオチン-TEG で標識し、3'末端上においてはフルオレセインで標識した (詳細な構造を図 10 に示す)。ビオチン標識は、チップ表面に対するアンカーとしてストレプトアビジンに結合し、フルオレセイン標識はシグナルメディエーターの結合を可能にした。本発明者らは、プローブからチップ表面までの、以下の 5'リンカーの立体配置を調査した: ビオチンリンク(link)、ビオチン-TEG、ビオチン-9 チミジン(T9)、およびビオチン-TEG-T9 。ビオチン-TEG は、ビオチンとオリゴ鎖とを接続する酸素原子を含有するトリエチレングリコールに基づく混合(mixed)極性を伴う追加の(extra)スペーサーを有する。様々な間隔設計(spacing design)は、ストレプトアビジンに対するビオチンのより良い接近性(accessibility)を与えることができ、SH 効果のための調節可能な長さのリンカーとしての機能を果たすことができる。
【0090】
インターロイキン 8 (IL-8) の mRNA (NM_000584)(St John et al. (2004) Archives of Otolaryngology-Head & Neck Surgery、130、929-935) は、口腔癌についての唾液のバイオマーカーとして提案されており、これを検出のために選択した。該方法の妥当性を確立する目的で、インビトロで転写された(IVT) IL-8 RNA を、標準的な定量的測定のための標的として用いた。IVT RNA の生成の詳細は、補足材料(supplementary materials) II のセクションにおいて記載される。内在性の mRNA を、臨床サンプルから検出した。唾液サンプルから内在性の IL-8 を検出するため、唾液を AVL viral lysis buffer (QIAGEN、California、USA) と 1:1 で、室温で 15 分間混合することによって溶解工程を行った。唾液の回収および qPCR 測定の詳細は、補足材料(supplementary materials) III-IX において記載される。
【0091】
RNA マーカーについてのインビトロで転写された RNA の生成
2つの mRNA 標的を、検出のために選択した。インターロイキン 8 (IL-8) (mRNA、NM_000584) (St John et al. (2004) Archives of Otolaryngology-Head & Neck Surgery、 130、929-935) は、口腔癌についての候補のバイオマーカーとして提案されている。唾液において高発現する S100 カルシウム結合タンパク質 A8 (S100A8)(mRNA、NM_002964)は、各々の電気化学的センサーについての基準(reference)として用いられ、口腔癌の関連性を示さない。
【0092】
方法を確立する目的で、IL-8 および S100A8 のインビトロで転写された(IVT) RNA を、本研究における検出のための標的として用いた。IVT RNA を、2つの工程において生成した: 一つ目は、常套の RT-PCR を用いてインビトロ転写のための鋳型を生成することであり、ここで、プライマーはフォワードプライマーの 5'末端において 20 塩基のコア(core) T7 プロモーター配列を有する。IL-8 については、フォワードプライマーが 5'-CTAATACGACTCACTATAGGGaaggaaaactgggtgcagag-3' であり、リバースプライマーが 5'-attgcatctggcaaccctac-3' である。S100A8 については、フォワードプライマーが 5' CTAATACGACTCACTATAGGGatcatgttgaccgagctgga-3' であり、リバースプライマーが 5'-gtctgcaccctttttcctga-3' である。生産物は、それぞれ 177 bp および 159 bp の二本鎖 DNA であった。常套の RT-PCR を、口腔扁平上皮癌(OSCC)細胞株の全 RNA を鋳型として用いて行い、50 U の MuLV 逆転写酵素 (Applied Biosystems)、20 U の RNAse 阻害剤 (Applied Biosystems)、10 mM の dNTP および 5 nmol のランダムヘキサマー(random hexamer)を有する 20 μl の逆転写反応混合物中において cDNA を合成した。混合物を、最初に 25℃で 10 分間インキュベートし、次いで 42℃で 45 分間逆転写を行い、その後、RT の最終の不活性化を 95℃で 5 分間行い、そして 4℃で 5 分間冷却した。1マイクロリットルの cDNA を、400 nM のプライマーを有する 20 μl の PCR 反応において用いた。PCR 反応を、以下のプロトコールによって行った: 95℃で 3 分、その後、95℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒 を 40 サイクル、そして最終の伸長を 72℃で 7 分間。RT-PCR 産物を、エチジウムブロマイドで染色された 2% のアガロースゲル上で確認した。第2の工程は、IVT RNA を生成することであった。T7 MEGAshort transcribe kit (Invitrogen) を用い、製造者の説明書に従って、インビトロ転写を行った。簡潔には、第1の工程からの 8 μl の PCR 産物を、37℃において 3 時間、インビトロで転写し、その後さらに 20 分間、2 μl の rDNase1 (Invitrogen) で処理した。その結果得られた一本鎖 RNA 転写産物を、cleaned up (Arcturus、Mountain View、CA) を用いて精製した。組換え RNA を、Nanodrop 分光測定を用いて、量および A260/A280 比について定量化した。得られた RNA を、キャリアー(carrier)としてパン酵母の tRNA (30 μg/ml、Roche) を有する、RNase を含まない(RNase-free)蒸留水(Invitrogen)中に溶解した。
【0093】
唾液の回収
本発明者らの公開されたプロトコール (Li、Yang 2004) にしたがって、刺激されていない(un-stimulated)全唾液を回収した。簡潔には、氷上に保持している間にすべての唾液サンプルを回収した。回収の後、室温の RNAlater (QIAGEN、Valencia、CA) を唾液サンプル中へ 1:1 (容積) の比で添加し、ボルテックスによって混合した。1:1 の比で全唾液と混合された RNAlater および -80℃で保管されたサンプルは、唾液の RNA の分解の即時かつ十分な阻害を提供する。その後の使用のために、サンプルの一定量を -80℃において保管した。
【0094】
全唾液 RNA の抽出
全 RNA を、以下の手順にしたがって抽出した: RNAlater 中に保存された凍結した唾液を氷上で解凍し、viral mini kit (QIAGEN) を用いて以下の点を除いては製造者の説明書にしたがって全 RNA を抽出した: これまでに報告された手順 (Li、Yang、2004) と比較できるようにするため、2倍の開始時容量(starting volume)の唾液と RNAlater の混合物(saliva RNAlater mix) (2×560 ul) を用いて、RNAlater による唾液の希釈を補った。得られた全 RNA を 40 μl の溶出バッファー中において溶出し、40 μl の RNA、4.5 μl の 10×DNase I バッファー、0.5 μl の rDNaseI を含有する溶液中において 37℃で 30 分間 rDNase 1 (Ambion、Austin TX) で処理して、あらゆるゲノム DNA の混入を除去した。DNase 失活剤を用いて清浄化(clean up)した後、35 μl までの全 RNA を回収し、使用するまで -80℃で凍結させた。
【0095】
プライマー設計
IL8 についての、60 ℃付近の融解温度を有する、イントロンにまたがる(intron-spanning)プライマーのペアを、primer3 プログラムを用いて設計した。OF および OR は、RT-PCR のためのプライマーであり、IF および IR は、qPCR のために設計した。
IL8_IF IL8IF CCAAGGAAAACTGGGTGCAG
IL8_IR IL8OR CTTGGATACCACAGAGAATGAATTTTT
IL8_OF IL8OF TTTCTGATGGAAGAGAGCTCTGTCT
IL8_OR IL8IR ATCTTCACTGATTCTTGGATACCACA
【0096】
RT-PCR 前増幅(pre-amplification)
1段階の RT および PCR 前増幅を、SuperScript III Platinum One-Step qRT-PCR System (Invitrogen、Carlsbad、CA) を用いて 20-40 μl の反応中において行い、プライマー濃度は全ての標的について 300 nM であった。BioMek 3000 liquid handling platform を利用して、PCR プレートクーラー上の 96ウェルプレートの中に反応を調製(set up)し、その後、以下のプログラムを用いて実行した: 60℃で 1 分、50℃で 15 分、95℃で 2 分、ならびに 95℃で 15 秒、50℃で 30 秒 および 60℃で 10 秒を 15 サイクル、ならびに 72℃で 10 秒、ならびに 72℃で 5 分間の最終伸長および 4 ℃への冷却。
【0097】
前増幅反応の清浄化(cleanup)
RT-PCR の直後に、過剰なプライマーおよび dNTP を除去するため、5 μl の反応を 2 μl の Exo-SAP-IT(登録商標) (USB、Cleveland、OH) を用いて 37 ℃で 15 分間処理し、次いで、酵素混合物を不活化するために、15 分間、80℃まで加熱した。反応を、別に記載しない限り、ヌクレアーゼを含まない水で 40 倍に希釈した。希釈倍率(dilution factor)は、Exo-SAP-IT 処理の前の前増幅物(pre-amplificate)の容積を参照する。
【0098】
定量的リアルタイム PCR
全ての反応を、BioMek 3000 liquid handling platform を用いて、96ウェルプレート中に自動で調製(set up)した。4 μl の一定量の前増幅物の希釈物を、300 nM の一組のセミネスト化(semi-nested)アッセイを用いて増幅した。SYBR Green Power reaction mix (Applied Biosystems (AB)、Foster City、CA) を有する 10 μlの反応を氷上で調製(set up)し、SDS 7500 Fast instrument (AB) 中において実行した。95℃における 10 分のポリメラーゼの活性化の後、95℃で 15 秒および 60℃で 60 秒の 40 サイクルを実行し、その後、融解曲線解析を行った。
【0099】
qPCR 解析
qPCR 解析のために、7500 Fast System v1.3.1 ソフトウェア (AB) の自動ベースライン設定(baseline setting)を用いた。
【0100】
表面の調製
金の電気化学的センサーの表面の調製を、以下の通りに行った(Gau et al. (2001) Biosensors & Bioelectronics, 16, 745-755; Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83):
【0101】
プローブの固定化: 金電極を、カルボキシル基で終結するメルカプトウンデカン酸(MUDA)の自己組織化単層を用いて前被覆(pre-coat)した(18)。金の表面を、4 μL の、50% の 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (EDC、Biacore Inc.、New Jersey、USA) および 50% の N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(Biacore) の混合物によって、10 分間活性化した。センサーを DI 水 (18.3 MΩ・cm) でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。全部で 4 μL の、5 mg/mL のアミン-PEO2-ビオチン標識試薬 (Ez-ビオチン) (Pierce Inc.、Illinois、USA) を金の表面にロードし、その後、リンスと乾燥を行った。未反応の EDC/NHS 活性化表面の不活化のために、エタノールアミン-HCl (1.0 M、pH 8.5、Biacore) をロードした。次に、PBS (pH 7.2、Invitrogen、California、USA) 中の 0.5 mg/mL のストレプトアビジン (VWR Corp.、California、USA) を電極上で 10 分間インキュベートして、ストレプトアビジンで被覆された電極を作成した。全部で 4 μL の、トリス-HCl バッファー (pH 7.5、Invitrogen、California、USA) 中の 5'-ビオチン化および 3'-フルオレセインの二重標識された HP を、30 分間、表面上のストレプトアビジンとプローブ上のビオチン標識との間の相互作用を介して電極上に固定化した。かかる固定化戦略を用いて達成されるオリゴプローブの表面密度は、〜3.4×1012 分子/cm2 であると報告された (Su et al. (2005) Langmuir、21、348-353)。DI 水を用いた徹底的なリンスによって過剰な HP を除去し、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0102】
標的ハイブリダイゼーション: 表面を、10 mM MgCl2 (Sigma Corp.、Missouri、USA) の添加を伴う 6x食塩-クエン酸ナトリウム(saline-sodium citrate)バッファー(6xSSC、pH 7.0 の、0.9 M の NaCl を伴う 0.09 M のクエン酸ナトリウム、Invitrogen、California、USA) 中において調製された標的含有サンプルと共に 5 分間インキュベートした。ハイブリダイゼーションの間、周期的な方形波の電場を、+200 mV が 1秒 および -300 mV が 9秒の 30 サイクルにおいて適用した。ハイブリダイゼーションの後、電極を DI 水でリンスし、窒素ガスを用いて乾燥させた。
【0103】
電気化学的検出
電気化学的ワークステーションを用いて、製造者の説明書に従って電気化学的読み取りを行った。簡潔には、0.5% のカゼイン ブロッキングバッファー (Blocker Casein in PBS、Pierce、pH 7.4) を伴う PBS 中において希釈された抗フルオレセイン-HRP (Roche、Indiana、USA) を、HP または検出プローブ上のフルオレセイン標識に添加した。次いで、低活性の 3,3',5,5'テトラメチルベンジジン (TMB/H2O2、Neogen Corp.、Kentucky、USA) 基質をロードし、金に対する -200 mV の電位を各々の電極単位へ適用することによって電流測定検出を行い、その後、60 秒の平衡化の後に並行したシグナル読み取りを行った (Gau et al. (2001) Biosensors & Bioelectronics, 16, 745-755; Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83)。
【0104】
電気化学的センサーは、16単位の金のアレイであった。各々の単位について、作用電極(WE)、対電極(CE)および参照電極(RE)を含む3つの電極が存在した (Gau et al. (2005) Methods, 37, 73-83)。0.1 mM の [Fe(CN)6]3-/4- のサイクリックボルタンメトリー曲線(cyclic voltammetric curve) を測定することにより、参照電極は SCE に対して +218 mV であると決定された。本報告において記載される全ての電位は、金の参照電極 (SCE に対し +218 mV) を参照したものである。この小さな電極アレイの利点は、16 の電極のシグナル読み取りを同時に達成することができ、かつ、検出のためにたった 4 μL のサンプル溶液しか必要としないことである。本発明者らの実験において、電気化学的シグナルは、HRP レポーター酵素の酸化還元(redox)によって生成される電流であった。TMB は、2電子の工程を介して還元型 HRP を継続的に再生し、それが電流シグナルを増幅した。電流は、ハイブリダイズした標的の表面濃度に比例した(Gau et al. (2005) Methods、37、73-83)。全ての実験は、室温で行った。
【0105】
結果および考察
1. ヘアピンに誘導される特異的な増幅
電流のアプローチを用いる特異的な標的の検出は、HRP および TMB/H2O2 によるサンドイッチ様シグナル増幅ならびに HP の設計による選択的ハイブリダイゼーションの組合せを介して達成された。この方法は、SH 効果に基づいていた: HP の近くの表面は、HRP 複合体が標的の無いプローブへ結合するのを阻害する。そのため、表面とプローブ上のレポーター標識との間の距離が、検出工程にとっての鍵となる要因であった。標的が結合すると、HP が開き、レポーターが表面から遠く離れ、その結果、表面からの制限が減少する。複合体化した(conjugated) HRP がフルオレセインに結合し、電流を生成し、シグナルオンの工程を構成する。
【0106】
レポーターと電極表面との間の異なる距離に起因する異なるレベルの SH を示す、5'リンカーを有するまたは有さない、4つの IL-8 に特異的な HP を比較した (表 3)。リンカーの長さおよび柔軟性(flexibility)を、5'-ビオチン標識された末端における TEG または突出スペーサー(T9)の長さによって調整した。ビオチン-TEG の長軸方向のサイズは、分子力学の計算 (MM2) (Allinger、N.L. (1977) Journal of the American Chemical Society、99、8127-8134) から、およそ 3 nm であった。一本鎖 DNA は、全く力(force)が適用されていない場合、電極上でコイルした(coiled)状態であった。負の電位において電気化学的検出を行った場合、おそらくコイルが伸長して複合体の結合を許容した (Rant et al. (2006) Biophysical Journal、90、3666-3671; van Oijen et al. (2003) Science、301、1235-1238)。T9 リンカーの正確な長さは不明であるが、二重鎖 DNA が 9 bp x 0.28 nm/bp であるとすれば、それは負の電位の下ではおそらく >3 nm であった。HRP のサイズは、タンパク質の結晶データ (Berglund et al. (2002) Nature、417、463-468) によると、およそ 4 x 6.7 x 11.8 nm である。
【0107】
図 6 は、異なる HP 設計による SH 効果を示す。最も長いリンカー(TEG-T9)を有するプローブについては、ヘアピンが閉じている場合であってもフルオレセインは表面から遠く離れていた。メディエーター複合体が形成され、SH 効果は非常に小さかった。標的へのハイブリダイゼーションは、電極からの HRP 複合体の距離を増大させただけであった。そのため、シグナルは結合後に減少し、認識は非常に弱いシグナルオフの工程をもたらした (図 6)。結合した標的に伴うシグナルは4つ全てのプローブに関して同様のレベルであり、空のシグナルはリンカーの長さが減少するのに伴って減少した。リンカーを有さない HP については、閉じた状態において、レポーターが表面に非常に近かった。そのため、SH 効果は非常に強く、最も低いバックグラウンドが観察された (SBR = 8:1)。
【0108】
2. 特異性
リンカーを有さない HP の特異性を、2 つの標的の交差検出を用いて試験し、その結果を図 11 に示す。参照対照(reference control)として、本発明者らは、唾液中において高発現し、口腔癌の関連性を示さない S100 カルシウム結合タンパク質 A8 の mRNA (S100A8 mRNA、NM_002964) を用いた。各々のプローブについて、IL-8 については 5 nM および 500 nM の濃度において、S100A8 については 7 nM および 700 nM の濃度において、相補的な IVT RNA 標的と非相補的な IVT RNA 標的 の間の比較を行った。100倍過剰発現した非相補的な標的でさえ、IL-8 および S100A8 に特異的なプローブについてはほとんどシグナルの増大をもたらさなかった。相補的な標的のシグナルは、空の対照よりも >20 標準偏差(SDV) 高かった。両方のプローブが、5 nM の IL-8 および 7 nM の S100A8 について良好な RNA 識別を示した。
【0109】
3. ハイブリダイゼーション効率を用いる SBR の制御
RNA センサーの主要な関心事は、SBR である。現在の HP 設計において、SBR は、開いたまたは閉じた HP に伴う数の比に依存する。バックグラウンドのレベルは全く特異的な標的が結合していない場合の閉じた状態と関連し、シグナルは標的のハイブリダイゼーション後の開いた状態から生成された。認識の間のこれらの閉じたまたは開いた状態は、分子内および分子間の両方のハイブリダイゼーションについて高い効率を必要とする。
【0110】
ハイブリダイゼーション効率を増大させ、このセンサーの SBR を最適化するため、本発明者らは、ステムおよびループの両方の長さを変更することによってヘアピン構造を改変した。異なるステムループの長さを有する3つの HP を研究した (配列を表 4 に示す)。3つ全てのプローブにおいて、3'末端のステム構成要素は、ループと共に、標的 RNA と相補的であった。短いステム (6 bp) および二重鎖 (21 + 6 bp) を有するプローブは、高いバックグラウンドおよび低いシグナルを有した (図 7 における HPS3)。最も長いステム (10 bp) および二重鎖 (10 + 31 bp) を有するプローブは、全く標的が結合していない場合のより良い閉じた状態および標的とハイブリダイズした場合のより良い開いた状態を示す、最も低い空のシグナルおよび標的 (HPS1) についての最も高いシグナルを有した。相補的な HP の配列は、ループ全体およびステムの半分の両方を含み、標的のハイブリダイゼーション後のより低い自由エネルギーを提供する。したがって、一旦標的がループに結合すると、その標的と相補的な配列によって、非常に長いステムでさえ開くことができた。高いハイブリダイゼーション効率は、感度および特異性の両方に利益をもたらすため、良好な SBR が達成された。対照的に、伝統的な直鎖状プローブ(LP)を用いて最適化されたプローブ配列を決定することは困難である (Liao et al. (2006) Journal of Clinical Microbiology, 44, 561-570)。長い配列は、ハイブリダイゼーション効率にとって有益であったが、高いバックグラウンドをもたらす。
【0111】
4. 唾液におけるスパイクされた RNA の検出:
適切な HP 設計および SH 効果からの協力を用いて、広いダイナミックレンジの標的濃度を上回って唾液の RNA バイオマーカーの配列を検出することができる。図 12 は、バッファー中における濃度と電流シグナルとの間の関係を示す。比較のために、これまでに公開された方法 (Liao et al. (2006) Journal of Clinical Microbiology, 44, 561-570) を用いて、各々の標的について2つの LP を用いる元の系をも試験した。簡潔には、両方のプローブを、標的の配列の隣接するストレッチ(adjacent stretch)と相補的となるよう設計した。‘捕捉プローブ’を、5'末端ビオチン標識を用いて電極上に固定化した。‘検出プローブ’は、抗フルオレセイン-HRP と結合するために 3'フルオレセイン標識を有した。本発明者らの結果は、IL-8 の検出に関して HP を用いて良好な SBR が得られたが、LP ではより貧弱な成績しか見られなかったことを示す。
【0112】
検出限界(LOD)を、バックグラウンドレベルの少なくとも 2 SDV 上のシグナルを有する濃度として定義した。該基準に従えば、HP についての LOD は約 0.4 fM であった。LP については、IL-8 の LOD は、HP についての LOD より約 10,000倍高い約 400 pM であった (図 12)。
【0113】
5. 唾液における内在性 mRNA の検出:
本発明者らは次いで、唾液サンプルにおける内在性 IL-8 mRNA の検出を進めた。異なる唾液サンプル間において、シグナルレベルの変化が観察された。7つの臨床唾液サンプルにおいて、本発明の最適化された HP 設計を用いて IL-8 の mRNA を測定した。唾液中の内在性 mRNA は検出をマスク(mask)する他の高分子と結合するため、マスクされた(masked) RNA を遊離させるために溶解手順を電気化学的アッセイの前に行った。図 13 に示される通り、唾液サンプルについての電気化学的シグナルと qPCR の結果との間に良好な相関が観察された。qPCR 測定によって決定されたより高いレベルの IL-8 mRNA を含有する唾液サンプルにおいて、より高い電気化学的シグナルが観察された。PCR 測定に加えて、これらの結果は、唾液中における mRNA の存在を支持する。該結果はまた、ポイントオブケア(point-of-care)の唾液診断のための感度の要求に応える、PCR 増幅を伴わない電気化学的方法によって、唾液中において内在性 mRNA を検出できることを示す。
【0114】
様々な電気化学に関連した方法を用いる DNA オリゴヌクレオチドの検出に関して、fM の範囲の LOD が達成された。これらの方法は、ナノ粒子と結合した(nano-particle-linked)第2のプローブ (Park et al. (2002) Science、295、1503-1506)、多段階の還元工程において析出する銀のナノ粒子の陽極ストリッピングボルタンメトリー(anodic stripping voltammetry)(Hwang and Kwak (2005) Anal Chem、77、579-584)、および標的に誘導される鎖置換メカニズムに基づく電子的(electronic) DNA センサー (Xiao et al. (2006) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、103、16677-16680) を含む。mRNA は、オリゴよりも長い配列および複雑な二次構造を有する。特異的な mRNA 標的を捕捉するため、mRNA の特徴的な断片を慎重に選ばなければならない。mRNA の二次構造は、捕捉プローブと標的との間のハイブリダイゼーションを減少させ得る。本研究において、本発明者らは、Mfold web サーバー (Zuker, M. (2003) Nucleic Acids Research, 31, 3406-3415) によって計算される最小の二次構造を有する mRNA 断片を選択する。プローブ設計はまた、ループ配列、ステムの長さおよびプローブの二次構造について綿密な考慮を必要とする。RNA の固有の(intrinsic) 2-D または 3-D 構造を考慮して、直鎖状プローブおよびヘアピンプローブ両方の設計について以下の原則を適用した:
【0115】
(1)標的 mRNA に対するプローブの親和性: mRNA の二次構造、ならびに標的 RNA と相補的なプローブ配列の、四重鎖およびヘアピンを含む二次構造を考慮した。四重鎖および M-fold の計算に基づき、安定な二次構造を伴わない配列を選択した。熱力学的計算に基づいて、自己二量体(self-dimer)の形成およびハイブリダイゼーションの安定性も考慮した。
【0116】
(2)最適なヘアピンプローブの性能のため、ループと共に、ステムの半分(3'末端)を、標的 RNA と相補的となるよう設計した。本研究においては全ての HP について、ステムの 5'末端を、ビオチン-ストレプトアビジンを介して表面上に固定化したため、ハイブリダイゼーション工程の間は 3'ステムのみが自由であった。二重鎖の形成のためにステムの 3'末端をループと共有することは、より高いハイブリダイゼーション効率および SH 効果のより大きな変化をもたらした。
【0117】
要約すると、本発明者らは、高い感度、高い特異性および大きなダイナミックレンジ(バッファー系およびスパイクされた唾液において fM - nM)を有する、HP を用いる mRNA の電気化学的検出のための効率的な方法を開発した。本発明者らはまた、この技法が、PCR 増幅の必要を伴わずに内在性 mRNA を直接検出するために有効に機能することをも実証した。
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
本願において引用される、公開されたアミノ酸またはポリヌクレオチドの配列を含む、全ての特許、特許出願および他の刊行物は、本明細書において引用により全体が取り込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列および受容体に対するリガンドを含む、標的核酸分子に対するプローブであって、該プローブに結合する標的核酸分子の非存在下において第1の三次元構造を有し、該プローブに結合する標的核酸の存在下において第2の三次元構造を有し、第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、第2の三次元構造が、受容体がリガンドと特異的に結合するのを許容する、プローブ。
【請求項2】
受容体が、検出可能な標識を含む、請求項1のプローブ。
【請求項3】
検出可能な標識からの検出シグナルが増幅される、請求項1のプローブ。
【請求項4】
第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる、請求項1のプローブ。
【請求項5】
プローブが、基体上に固定化されている、請求項1のプローブ。
【請求項6】
受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、第1の三次元構造がリガンドを基体に近い位置へ配置する、請求項5のプローブ。
【請求項7】
受容体が、リガンドと特異的に結合する抗体である、請求項1のプローブ。
【請求項8】
検出可能な標識が、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチンである、請求項1のプローブ。
【請求項9】
検出シグナルが、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼによって増幅される、請求項3のプローブ。
【請求項10】
プローブが、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである、請求項1のプローブ。
【請求項11】
標的核酸分子が、IL-8 の核酸である、請求項1のプローブ。
【請求項12】
ポリヌクレオチド配列が、表 2-4 から選択される、請求項1のプローブ。
【請求項13】
以下を含む、サンプル中における標的核酸分子をアッセイするための方法:
請求項1のプローブをサンプルおよび受容体と接触させること、および
リガンドと受容体との間の複合体の存在または不存在を検出すること、
ここで、複合体の存在は、サンプル中における標的核酸分子の存在を示し、複合体の不存在は、サンプル中における標的核酸分子の不存在を示す。
【請求項14】
受容体が、検出可能な標識を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
検出可能な標識からの検出シグナルを増幅することをさらに含む、請求項14の方法。
【請求項16】
第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる、請求項13の方法。
【請求項17】
プローブが、基体上に固定化されている、請求項13の方法。
【請求項18】
受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、第1の三次元構造がリガンドを基体に近い位置へ配置する、請求項17の方法。
【請求項19】
受容体が、リガンドと特異的に結合する抗体である、請求項13の方法。
【請求項20】
検出可能な標識が、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチンである、請求項13の方法。
【請求項21】
検出可能な標識からの検出シグナルが、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼによって増幅される、請求項15の方法。
【請求項22】
プローブが、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである、請求項13の方法。
【請求項23】
複合体を検出する前に、リガンドに結合していないあらゆる受容体を除去することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項24】
標的核酸分子が、IL-8 の核酸である、請求項13の方法。
【請求項25】
ポリヌクレオチド配列が、表 2-4 から選択される、請求項13の方法。
【請求項1】
標的核酸分子の配列に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド配列および受容体に対するリガンドを含む、標的核酸分子に対するプローブであって、該プローブに結合する標的核酸分子の非存在下において第1の三次元構造を有し、該プローブに結合する標的核酸の存在下において第2の三次元構造を有し、第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止し、第2の三次元構造が、受容体がリガンドと特異的に結合するのを許容する、プローブ。
【請求項2】
受容体が、検出可能な標識を含む、請求項1のプローブ。
【請求項3】
検出可能な標識からの検出シグナルが増幅される、請求項1のプローブ。
【請求項4】
第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる、請求項1のプローブ。
【請求項5】
プローブが、基体上に固定化されている、請求項1のプローブ。
【請求項6】
受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、第1の三次元構造がリガンドを基体に近い位置へ配置する、請求項5のプローブ。
【請求項7】
受容体が、リガンドと特異的に結合する抗体である、請求項1のプローブ。
【請求項8】
検出可能な標識が、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチンである、請求項1のプローブ。
【請求項9】
検出シグナルが、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼによって増幅される、請求項3のプローブ。
【請求項10】
プローブが、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである、請求項1のプローブ。
【請求項11】
標的核酸分子が、IL-8 の核酸である、請求項1のプローブ。
【請求項12】
ポリヌクレオチド配列が、表 2-4 から選択される、請求項1のプローブ。
【請求項13】
以下を含む、サンプル中における標的核酸分子をアッセイするための方法:
請求項1のプローブをサンプルおよび受容体と接触させること、および
リガンドと受容体との間の複合体の存在または不存在を検出すること、
ここで、複合体の存在は、サンプル中における標的核酸分子の存在を示し、複合体の不存在は、サンプル中における標的核酸分子の不存在を示す。
【請求項14】
受容体が、検出可能な標識を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
検出可能な標識からの検出シグナルを増幅することをさらに含む、請求項14の方法。
【請求項16】
第1の三次元構造が、受容体がリガンドと結合するのを立体的に妨げる、請求項13の方法。
【請求項17】
プローブが、基体上に固定化されている、請求項13の方法。
【請求項18】
受容体がリガンドと結合するのを抑制または阻止されるよう、第1の三次元構造がリガンドを基体に近い位置へ配置する、請求項17の方法。
【請求項19】
受容体が、リガンドと特異的に結合する抗体である、請求項13の方法。
【請求項20】
検出可能な標識が、フルオレセイン、ストレプトアビジンまたはビオチンである、請求項13の方法。
【請求項21】
検出可能な標識からの検出シグナルが、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼまたはウレアーゼによって増幅される、請求項15の方法。
【請求項22】
プローブが、ヘアピンプローブまたは四重鎖プローブである、請求項13の方法。
【請求項23】
複合体を検出する前に、リガンドに結合していないあらゆる受容体を除去することをさらに含む、請求項13の方法。
【請求項24】
標的核酸分子が、IL-8 の核酸である、請求項13の方法。
【請求項25】
ポリヌクレオチド配列が、表 2-4 から選択される、請求項13の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−528618(P2010−528618A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510514(P2010−510514)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/065286
【国際公開番号】WO2009/017878
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(500025503)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/065286
【国際公開番号】WO2009/017878
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(500025503)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (26)
【Fターム(参考)】
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