説明

立毛布帛を用いた難燃性繊維製品

【課題】立毛布帛を表面生地とし、立毛布帛の基布を構成する地糸やバックコーティング剤への難燃剤混合や塗布等の難燃加工を施すことなく、インテリア用として求められる良好な外観や風合いを保持しつつ、炎に晒された際の燃焼速度が小さい難燃性繊維製品を提供する。
【解決手段】パイル部を構成する繊維がアクリル系繊維30〜100重量%を含有し、基布を構成する地糸およびバックコーティング剤が難燃性でない材料からなる立毛布帛を表面生地として用い、難燃性でないフィリング材を内部に充填してなり、前記アクリル系繊維を構成する重合体が、アクリロニトリルを30〜70重量%と、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つを30〜65重量%含有する難燃性繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、クッションやピロー等のインテリア用途に適した難燃性繊維製品に関する。さらに詳しくは、表面生地として立毛布帛を用いてなる難燃性繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部のフィリング材を布帛で覆ったインテリア用途の繊維製品の難燃化は、市場から強く要望されており、例えば、近年、アメリカで前記繊維製品の燃焼試験方法に関する法律が施行されるなどしている。前記繊維製品としては、例えば、クッションや、ピロー、ベッドクッション、布団などの日用品が挙げられ、一般的に前記クッションやピローなどに充填されるフィリング材としては、ポリエステルやポリプロピレンの合成繊維、ウレタンフォームなどの樹脂成型品、羽毛やコットンなどの天然繊維が使用されている。また、前記フィリング材を覆う布帛として、天然毛皮のような外観や風合いを付与するために立毛布帛を用いる場合がある。
【0003】
前記のような難燃性でないフィリング材を立毛布帛で覆ってなるクッション、ピロー等の繊維製品について、炎に晒された際の燃焼速度をある一定速度以下に抑制するための方法として、立毛布帛の基布を構成する地糸やパイル部を固定するために塗付するバックコーティング剤に、難燃剤を混合または塗布したりする加工を施す方法が提案されている。しかしながら、このような方法では、難燃加工を施すことによる工程の複雑化、難燃剤を添加するとによる高コスト化といった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明が、前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、表面生地である立毛布帛の基布を構成する地糸やバックコーティング剤への難燃剤混合や塗布等の加工を施すことなく、インテリア用として求められる良好な外観や風合いを保持しつつ、炎に晒された際の燃焼速度を小さく抑制できる難燃性繊維製品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、表面生地として立毛布帛を用いたインテリア用途に適した繊維製品に関し、立毛布帛のパイル部を構成する繊維として、特定の繊維を特定の比率で含有させることによって、インテリア用として求められる良好な外観や風合いを保持しつつ、内部のフィリング材に可燃性の材料を用いた場合でも、繊維製品の燃焼速度を一定値以下に抑制しうることを見出し、なされたものである。
【0006】
すなわち、本発明に係る難燃性繊維製品は、パイル部を構成する繊維がアクリル系繊維30〜100重量%を含有してなり、かつ基布を構成する地糸およびバックコーティング剤が難燃性でない材料からなる立毛布帛を表面生地として用いるとともに、難燃性でないフィリング材を内部に充填してなり、前記アクリル系繊維を構成する重合体が、アクリロニトリルを30〜70重量%と、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つを30〜65重量%含有してなることを特徴とする。
【0007】
ここで、立毛布帛とは、基布の表面にループ状のパイル部、または房状のパイル部(ループをカットしたもの)を有する生地のことを言い、特に織り加工によって得られるものに限定されず、例えば、編み加工によって得られるものをも含む概念である。また、バックコーティング剤とは、パイル部を固定するために基布の裏面に塗付する接着剤のことをいう。
【0008】
また、水平に放置した前記繊維製品端部の下面から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎したときの、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間における該繊維製品重量の減少速度が全て20g/分以下であることが好ましい。
【0009】
また、前記立毛布帛の単位面積当りの重量が450〜1100g/m2であり、かつ、前記基布を構成する地糸の、該立毛布帛単位面積当りの重量が30〜180g/m2、および前記バックコーティング剤の、該立毛布帛単位面積当りの重量が20〜80g/m2であることが好ましい。
【0010】
さらに、前記立毛布帛のパイル長が7〜100mmであることが好ましい。
【0011】
また、前記基布を構成する地糸が、ポリエステルからなることが好ましい。
【0012】
また、前記バックコーティング剤が、アクリル酸エステルからなることが好ましい。
【0013】
さらに、前記フィリング材が、ポリエステル繊維、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン繊維、ポリプロピレン樹脂、ウレタンフォーム、羽毛およびコットンよりなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本願発明に係る難燃性繊維製品は、インテリア用として求められる良好な外観や風合いを保持しつつ、炎に晒された際の燃焼速度を小さく抑制できるとともに、表面生地である立毛布帛の基布を構成する地糸やバックコーティング剤への難燃剤混合や塗布等の加工を施す必要がないため、生産性が良好で、しかも低コストなものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る難燃性繊維製品は、前述のとおり、パイル部を構成する繊維がアクリル系繊維30〜100重量%を含有してなり、かつ基布を構成する地糸およびバックコーティング剤が難燃性でない材料からなる立毛布帛を表面生地として用いるとともに、難燃性でないフィリング材を内部に充填してなり、前記アクリル系繊維を構成する重合体が、アクリロニトリルを30〜70重量%と、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つを2〜65重量%含有してなることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る難燃性繊維製品の内部に充填する前記フィリング材は、難燃性でないものであれば特に制限されるものではないが、例えばポリエステル若しくはポリプロピレンの合成繊維、ポリエステル若しくはポリプロピレンの合成樹脂、ウレタンフォーム等の樹脂成型品、羽毛若しくはコットンなどの天然繊維などが、良好な柔らかさなどの風合いを有することから好適に用いられる。前記フィリング材は、最終繊維製品に求められる嵩高性や、形状、使い心地、取り扱い易さなどの各種特性に応じて、適宜選択して用いればよい。
【0017】
また、本発明に係る難燃性繊維製品の表面生地として用いる前記立毛布帛は、パイル部を構成する繊維が前記アクリル系繊維を30〜100重量%含有してなり、該アクリル系繊維を50〜100重量%含有してなることがより好ましい。前記アクリル系繊維の割合を、30〜100重量%の範囲内とすることにより、前記立毛布帛にアクリル系繊維が有する獣毛様の風合いを付与しつつ、炎に晒された際の燃焼速度を小さく抑制することができる。一方、前記アクリル系繊維の含有割合が30重量%未満では、十分な難燃性を有する立毛布帛が得られない。
【0018】
前記アクリル系繊維は、該繊維を構成する重合体が、アクリロニトリル30〜70重量%と、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つ(以下、単に「ハロゲン含有単量体」という場合がある。)を30〜65重量%含有してなり、好ましくは前記アクリロニトリルの含有割合を40〜60重量%とする。また、好ましくは、前記ハロゲン含有単量体の含有割合を40〜55重量%とする。前記アクリロニトリルの含有割合を30〜70重量%、および前記ハロゲン含有単量体の含有割合を30〜65重量%とすることにより、表面生地である立毛布帛に獣毛様の風合いを付与できるとともに、最終の繊維製品に、求められる難燃性を付与することができる。前記ハロゲン含有単量体の含有割合が30重量%未満の場合には、立毛布帛を難燃化することが難しくなる。さらに、前記アクリル系繊維は、アクリロニトリル30〜70重量%と、ハロゲン含有単量体(すなわち、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つ)を30〜65重量%に加えて、これらと共重合可能なその他のビニル系モノマーを含有することが好ましい。
【0019】
前記ハロゲン含有ビニル系単量体としては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニルなどが挙げられ、また、前記ハロゲン含有ビニリデン系単量体としては、例えば、
塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0020】
前記アクリロニトリルおよび前記ハロゲン含有単量体と共重合可能なその他のビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルに代表されるアクリル酸エステルやメタクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート等に代表される不飽和カルボン酸のエステル類、酢酸ビニルや酢酸ビニルに代表されるビニルエステル類、アクリルアミドやメタアクリルアミドに代表されるビニル系アミド類、メタクリルスルホン酸やその他ビニルピリジンやメチルビニルエーテル、メタクリロニトリル等といった公知のビニル化合物が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0021】
さらに、前記アクリロニトリルおよび前記ハロゲン含有単量体と共重合可能なその他のビニル系モノマーのうち少なくとも1種が、スルホン酸基含有ビニル系モノマーである場合には、染色性が向上するため、より好ましい。前記スルホン酸基含有ビニル系モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、パラスチレンスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、パラメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸、メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸、又はこれらの金属塩類及びアミン塩類等が挙げられる。
【0022】
前記立毛布帛のパイル部を構成する繊維として、前記アクリル系繊維30〜100重量%と組み合わせて用いるその他の繊維としては、難燃性でない繊維を用いることができ、例えば、アクリル繊維や、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ここで、前記アクリル繊維とは、アクリロニトリルを70重量%を超えて含有してなる繊維のことをいう。尚、前記立毛布帛のパイル部を構成する繊維として、これらの難燃性でない繊維を全く含ませず、前記アクリル系繊維100%からなる繊維を用いてもよいことは勿論である。
【0023】
また、前記立毛布帛のパイル長は、ビーバー、ミンク、フォックスなど、種々の天然毛皮調を再現するために、最終製品に求められる風合いに応じたパイル長に設定するため、7mm〜100mmの範囲で適宜設定すればよい。また前記立毛布帛のパイル部を構成する繊維の繊度、繊維断面形状、色相、繊維収縮率なども、最終製品に求められる風合いに応じて適宜設定すればよい。
【0024】
本発明における前記立毛布帛の基布を構成する地糸には、難燃性でないものを用いることができ、例えば、アクリル繊維紡績糸や、ポリエステルフィラメントなどが好適である。
【0025】
また、パイル部を固定するために基布の裏面に塗付する前記バックコーティング剤としては、立毛布帛のバックコーティング剤として必要とされる接着強度を有し、被接着面の変質がなく、取り扱い易い作業環境上の問題のないものが好ましいが、アクリル酸やメタクリル酸のエステル系重合体に代表されるアクリル酸エステル系樹脂は皮膜の柔軟さ、透明感、取り扱い易さから特に好ましい。さらに、前記アクリル酸エステル系樹脂は、エマルジョンとして用いることが、より好ましい。
【0026】
また、好ましくは、前記立毛布帛の単位面積当りの重量を、450〜1100g/m2とし、かつ、前記基布を構成する地糸の、該立毛布帛単位面積当りの重量を30〜180g/m2、および前記バックコーティング剤の、該立毛布帛単位面積当りの重量を20〜80g/m2とすることにより、立毛布帛におけるパイル部、基布およびバックコーティング剤の重量割合がバランスのよいものとなり、繊維製品の表面生地として求められる良好な風合いを有しつつ、難燃性をも有するものとなる。さらに好ましくは、前記立毛布帛の単位面積当りの重量を500〜800g/m2とし、かつ、前記基布を構成する地糸の、該立毛布帛単位面積当りの重量を50〜100g/m2、および前記バックコーティング剤の、該立毛布帛単位面積当りの重量を30〜60g/m2とすることにより、バランスがより良好な立毛布帛となる。
【0027】
最終の繊維製品に付与する難燃性としては、水平に放置した前記繊維製品端部の下面から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎したときの、接炎終了直後から炎が消えるまでの1分毎に測定した各測定区間における該繊維製品重量の減少速度が全て20g/分以下にすることを好ましい指標とすることができ、本発明に係る繊維製品は、以上のような構成を採用することにより、インテリア用として求められる良好な外観や風合いを保持しつつ、求められる難燃性を有するものとなる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明を説明する。
【0029】
(実施例1)
市販のアクリル系繊維「カネカロン(登録商標)RCL(R/W)、ハロゲン含有単量体含有量50重量%、繊度7.8dtex、38mm、株式会社カネカ製」と、市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスラン(登録商標)K691、繊度3.3dtex、32mm、日本エクスラン工業株式会社製」とを、それぞれ(1)100%/0%、(2)70%/30%、(3)50%/50%、(4)30%/70%の重量比率で用い、さらに柔軟剤及び静電気防止剤を付与して、オープナーで解繊及び混綿を行った後、カードにてスライバー(1)〜(4)を作成した。これらのスライバー(1)〜(4)それぞれを、基布組織を構成するポリエステルフィラメント165dtex(50フィラメント)とともに、立毛布帛(パイル部の長い、ハイパイル)編機にて編成した。この時のスライバー投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで550g/m2、ポリエステルフィラメントの投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで100g/m2であった。次いで120℃で予備ポリッシングと予備シャーリングを実施してパイル長を刈り揃えた後、立毛布帛裏面に、アクリル酸エステル系樹脂を付着させ、テンターにて乾燥、固着を行った。乾燥後のアクリル酸エステル系樹脂の付着量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで35g/m2であった。更に、150℃、130℃、120℃、100℃の順でポリッシングとシャーリングを組合せて行い、パイル長15mmの立毛布帛(1)〜(4)を作成した。
【0030】
出来上がった立毛布帛(1)〜(4)をそれぞれ、袋状に、ミシンにて経380mm×緯380mmのサイズに縫製した後に、フィリング材としてポリエステル繊維6.8dtex、38mmを250g充填した後、充填口をミシンで縫合して、それぞれ前記スライバー(1)〜(4)に対応する、最終繊維製品であるクッション(1)〜(4)を作成した。
【0031】
これらクッション(1)〜(4)それぞれをデジタル式重量計に水平に載せ、その端部の下面から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎し、火炎を取り除いた後の製品重量を20秒毎に計量した。その結果、前記クッション(1)〜(3)では、内部のフィリング材まで延焼する前に自己消火し、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間におけるクッション重量の減少速度は、クッション(1)で0〜3g/分、クッション(2)で0〜7.5g/分、クッション(3)で4.5〜19g/分となり、燃焼速度を小さく抑制できた。一方、前記クッション(4)では、内部のフィリング材に着炎したものの、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間におけるクッション重量の減少速度は、9.3〜18g/分となり、燃焼速度を小さく抑制できた。
【0032】
(実施例2)
市販のアクリル系繊維「カネカロン(登録商標)LAN(R/W)、ハロゲン含有単量体含有量50重量%、繊度7.8dtex、127mm」と、市販のアクリル系繊維「カネカロン(登録商標)RCL、ハロゲン含有単量体含有量50重量%、繊度3.3dtex、127mm、株式会社カネカ製」と、市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスラン(登録商標)K67、繊度3.3dtex、64mm、日本エクスラン工業株式会社製」とを、それぞれ(1)10%/50%/40%、(2)10%/40%/50%の重量比率で用い、さらに柔軟剤及び静電気防止剤を付与して、オープナーで解繊及び混綿を行った後、カードにてスライバー(1)、(2)を作成した。これらのスライバー(1)、(2)それぞれを、ギルにて引き揃えた後に粗糸を得た。これをリング式精紡機にて精紡し1/14番手の梳毛糸を得た。この梳毛糸を、基布組織を構成するポリエステルフィラメント165dtex(50フィラメント)とともに、メリヤス編機にて編成した。この時の梳毛糸投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで500g/m2、ポリエステルフィラメントの投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで100g/m2であった。次いでブラッシングによる梳毛糸の撚り解燃、120℃での予備ポリッシングと予備シャーリングを実施してパイル長を刈り揃えた後、立毛布帛裏面にアクリル酸エステル系樹脂を付着させ、テンターにて乾燥、固着を行った。乾燥後のアクリル酸エステル系樹脂の付着量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで30g/m2であった。更に150℃、130℃、120℃、100℃の順でポリッシングとシャーリングを組合せて行い、パイル長15mmの立毛布帛(1)、(2)を作成した。
【0033】
出来上がった立毛布帛(1)、(2)を、袋状に、ミシンにて経380mm×緯380mmのサイズに縫製した後に、フィリング材としてポリエステル繊維6.8dtex、38mmを250g充填した後、充填口をミシンで縫合して、それぞれ前記スライバー(1)、(2)に対応する、最終繊維製品であるクッション(1)、(2)を作成した。
【0034】
これらクッション(1)、(2)をデジタル式重量計に水平に載せ、その端部の下から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎し、火炎を取り除いた後の製品重量を20秒置きに計量した。その結果、前記クッション(1)および(2)では、内部のフィリング材まで延焼する前に自己消火し、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間におけるクッション重量の減少速度は、クッション(1)および(2)で、10〜20g/分となり、燃焼速度を小さく抑制できた。
【0035】
(比較例1)
市販のアクリル系繊維「カネカロン(登録商標)RCL(R/W)、ハロゲン含有単量体含有量50重量%、繊度7.8dtex、38mm、株式会社カネカ製」と、市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスラン(登録商標)K691、繊度3.3dtex、32mm、日本エクスラン工業株式会社製」とを、それぞれ(1)20%/80%、(2)10%/90%、(3)0%/100%の重量比率で用い、さらに柔軟剤及び静電気防止剤を付与して、オープナーで解繊及び混綿を行った後、カードにてスライバー(1)〜(3)を作成した。これらスライバー(1)〜(3)それぞれを、基布組織を構成するポリエステルフィラメント165dtex(50フィラメント)とともに、立毛布帛(パイル部の長い、ハイパイル)編機にて編成した。この時のスライバー投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで550g/m2、ポリエステルフィラメントの投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで100g/m2であった。次いで120℃で予備ポリッシングと予備シャーリングを実施してパイル長を刈り揃えた後、立毛布帛裏面にアクリル酸エステル系樹脂を付着させ、テンターにて乾燥、固着を行った。乾燥後のアクリル酸エステル系樹脂の付着量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで35g/m2であった。更に150℃、130℃、120℃、100℃の順でポリッシングとシャーリングを組合せて行い、パイル長15mmの立毛布帛(1)〜(3)を作成した。
【0036】
出来上がった立毛布帛(1)〜(3)を、袋状にミシンにて経380mm×緯380mmのサイズに縫製した後に、フィリング材としてポリエステル繊維6.8dtex、38mmを250g充填した後、充填口をミシンで縫合して、それぞれ前記スライバー(1)〜(3)に対応する、最終繊維製品であるクッション(1)〜(3)を作成した。
【0037】
これらクッション(1)〜(3)それぞれをデジタル式重量計に水平に載せ、その端部の下から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎し、火炎を取り除いた後の製品重量を20秒置きに計量した。その結果、前記クッション(1)〜(3)では、内部のフィリング材に着炎し、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間におけるクッション重量の減少速度は、クッション(1)で30.2〜56.7g/分、クッション(2)で63〜111g/分、クッション(3)で123.3〜136.8g/分となり、燃焼速度は大きくなった。特に、前記クッション(3)では、内部に充填したポリエステルまで完全に燃焼してしまった。
【0038】
(比較例2)
市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスランK191(R/W)、繊度19dtex、127mm、日本エクスラン工業株式会社製」と、市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスラン(登録商標)K191、繊度5.6dtex、127mm、日本エクスラン工業株式会社製」と、市販の難燃性でないアクリル繊維「エクスラン(登録商標)K67、繊度3.3dtex、64mm、日本エクスラン工業株式会社製」とを、(1)10%/50%/40%の重量比率で用い、さらに、柔軟剤及び静電気防止剤を付与して、オープナーで解繊及び混綿を行った後、カードにてスライバー(1)を作成した。このスライバー(1)を、ギルにて引き揃えた後に粗糸を得た。これをリング式精紡機にて精紡し1/16番手の梳毛糸を得た。この梳毛糸を、基布組織を構成するポリエステルフィラメント165dtex(50フィラメント)とともに、メリヤス編機にて編成した。この時の梳毛糸投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで500g/m2、ポリエステルフィラメントの投入重量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで100g/m2であった。次いでブラッシングによる梳毛糸の撚り解燃、120℃での予備ポリッシングと予備シャーリングを実施してパイル長を刈り揃えた後、立毛布帛裏面にアクリル酸エステル系樹脂を付着させ、テンターにて乾燥、固着を行った。乾燥後のアクリル酸エステル系樹脂の付着量は、出来上がった立毛布帛の単位体積当りで30g/m2であった。更に150℃、130℃、120℃、100℃の順でポリッシングとシャーリングを組合せて行い、パイル長15mmの立毛布帛(1)を作成した。
【0039】
出来上がった立毛布帛(1)を、袋状にミシンにて経380mm×緯380mmのサイズに縫製した後に、フィリング材としてポリエステル繊維6.8dtex、38mmを250g充填した後、充填口をミシンで縫合して、最終繊維製品であるクッション(1)を作成した。
【0040】
このクッション(1)をデジタル式重量計に水平に載せ、その端部の下から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎し、火炎を取り除いた後の製品重量を20秒置きに計量した。その結果、前記クッション(1)では、内部のフィリング材に着炎し、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間におけるクッション重量の減少速度は、30g〜35g/分となり、燃焼速度は大きくなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイル部を構成する繊維がアクリル系繊維30〜100重量%を含有してなり、かつ基布を構成する地糸およびバックコーティング剤が難燃性でない材料からなる立毛布帛を表面生地として用いるとともに、難燃性でないフィリング材を内部に充填してなり、
前記アクリル系繊維を構成する重合体が、アクリロニトリルを30〜70重量%と、ハロゲン含有ビニル系単量体およびハロゲン含有ビニリデン系単量体のうち少なくとも1つを30〜65重量%含有してなる、
ことを特徴とする難燃性繊維製品。
【請求項2】
水平に放置した前記繊維製品端部の下面から炎長35mmの炎をブタンガスバーナーで20秒間接炎したときの、接炎終了直後から6分後までの1分毎に測定した各測定区間における該繊維製品重量の減少速度が全て20g/分以下である請求項1記載の繊維製品。
【請求項3】
前記立毛布帛の単位面積当りの重量が450〜1100g/m2であり、かつ、前記基布を構成する地糸の、該立毛布帛単位面積当りの重量が30〜180g/m2、および前記バックコーティング剤の、該立毛布帛単位面積当りの重量が20〜80g/m2である請求項1または2記載の繊維製品。
【請求項4】
前記立毛布帛のパイル長が7〜100mmである請求項1〜3のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項5】
前記基布を構成する地糸が、ポリエステルからなる請求項1〜4のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項6】
前記バックコーティング剤が、アクリル酸エステルからなる請求項1〜5のいずれかに記載の繊維製品。
【請求項7】
前記フィリング材が、ポリエステル繊維、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン繊維、ポリプロピレン樹脂、ウレタンフォーム、羽毛およびコットンよりなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜6のいずれかに記載の繊維製品。


【公開番号】特開2008−19540(P2008−19540A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194853(P2006−194853)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】