説明

竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法

【課題】竪型スクラップ溶解炉で鉄系スクラップを溶解し、溶銑を製造する際に、製鉄用コークスを使用して溶銑を高い生産性で効率的に製造する。
【解決手段】炉頂部から鉄系スクラップとコークスとともに、耐火レンガ塊を装入する。炉内装入された耐火レンガ塊が炉下部領域に存在することにより、同領域でのコークスの存在割合が減少する結果、コークスの反応(燃焼)が抑制され、コークスの燃焼エネルギーを鉄スクラップの溶解に有効に利用することができる。このため製鉄用コークスを使用し或いは製鉄用コークスの使用比率を高めた場合でも、鉄系スクラップを高効率に溶解して溶銑を高い生産性で効率的に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竪型スクラップ溶解炉を用い、コークスの燃焼熱により鉄系スクラップを溶解して溶銑を製造する方法であって、特に、溶銑を高いエネルギー利用効率で製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄系スクラップのリサイクルが環境保全や製鋼コストの低減などの観点から注目されている。従来、竪型溶解炉を用いて鉄系スクラップを溶解するプロセスが知られており(例えば、特許文献1)、このプロセスでは、竪型溶解炉の炉頂部から鉄系スクラップとコークスを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口(送風羽口)から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑が得られる。
【特許文献1】特開昭56−156709号公報
【0003】
溶銑製造に用いられるコークスには、キュポラなどで使用される鋳物用コークスと、主に高炉で使用される製鉄用コークスがある。一般に、鋳物用コークスは高品質(例えば、固定炭素:92質量%程度、灰分:8質量%程度、揮発分:2質量%以下、硫黄:0.7質量%以下)で且つ粒径が150mm以上と大きく、このため高価である。これに対して、製鉄用コークスは鋳物用コークスほど高品質ではなく(例えば、固定炭素:87質量%程度、灰分:12質量%程度)且つ粒径も100mm以下と小さい。このため鋳物用コークスと比較して安価ではあるが、酸素との反応性が良く、燃焼速度が速いという特徴を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような竪型溶解炉を用いるプロセスで鉄系スクラップを溶解し、溶銑を製造する場合、製鉄用コークスを用いると、コークスが早く燃焼してしまうため、燃焼により生じたCOが炉内を上昇する過程でコークスと反応する、所謂ソリューションロス反応(吸熱反応)が生じやすくなり、このため発熱量が下がり、出銑量が低下するという問題がある。これを防止するためには、鋳物用コークスのような粒径が大きく高品質のコークスの使用比率を高める必要があり、製造コストの上昇を招いてしまう。
【0005】
したがって本発明の目的は、以上のような課題を解決し、竪型スクラップ溶解炉を用いて鉄系スクラップを溶解し、溶銑を製造する際に、コークスとして製鉄用コークスを使用し或いは製鉄用コークスの使用比率を高めた場合でも、溶銑を高い生産性で効率的に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、炭材として製鉄用コークスを用いる場合に、炉内でのコークスの反応性を抑制するために、特に炉下部領域での炭材の充填構造について検討を行い、そのなかで、炉下部領域でのコークスの存在割合をコークス以外の物質で調節することにより、コークスの反応性を抑制するという着想を得た。そのような物質は、コークスに較べて反応性が低く、ある速度で溶融、スラグ化して炉外に容易に排出されるものであることが望ましく、勿論十分な粒径を有することで、炉内の通気性を阻害しないことが必要である。検討の結果、そのような物質として耐火レンガ塊が好適であることが判った。すなわち、耐火レンガ塊を炉内装入することにより、コークスの反応性が抑制されてコークスの燃焼エネルギーを鉄系スクラップの溶解に有効に利用することができ、その結果、製鉄用コークスを使用し或いは製鉄用コークスの使用比率を高めた場合でも、溶銑を高い生産性で効率的に製造できることが判った。
【0007】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から鉄系スクラップとコークスを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑を製造する方法であって、
炉頂部から耐火レンガ塊を装入することを特徴とする竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
[2]上記[1]の溶銑製造方法において、算術平均粒径が100mm以下のコークスを用いることを特徴とする竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の溶銑製造方法によれば、炉頂部から装入された耐火レンガ塊が炉下部領域に存在することにより、同領域でのコークスの存在割合が減少し、コークスの反応(燃焼)が抑制される。この結果、所謂ソリューションロス反応(吸熱反応)による炉内での発熱量の低下が抑えられ、コークスの燃焼エネルギーを鉄系スクラップの溶解に有効に利用することができる。このため、コークスとして製鉄用コークスを使用し或いは製鉄用コークスの使用比率を高めた場合でも、鉄系スクラップを高効率に溶解して溶銑を高い生産性で効率的に製造することができる。また、耐火レンガ塊として、精錬炉や溶銑保持容器などの使用済み耐火レンガ(廃レンガ)を利用できることから、使用済み耐火レンガの有効利用を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から鉄系スクラップとコークスを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑を製造するに際し、炉頂部から耐火レンガ塊を装入するものである。一般に、耐火レンガ塊は不定形耐火物に較べて強度があり、炉頂部から装入された耐火レンガ塊は、適当な粒径を保ったまま炉下部領域に達することができる。
【0010】
耐火レンガとしては、特に、炭素を含有するマグネシアレンガやドロマイトレンガなどが好適である。高アルミナレンガやマグクロレンガは、スラグ中に溶解した際にスラグの粘性を増加させ、排滓性の低下を招くおそれがあり、この点を考慮して使用量などを制限することが好ましい。言うまでもなく、耐火レンガ塊としては、精錬炉(転炉など)や溶銑保持容器などの使用済みレンガ(廃レンガ)を用いてもよく、これにより使用済み耐火レンガの有効利用を図ることができる。
なお、使用する耐火レンガ塊の算術平均粒径は、同時に使用するコークスの算術平均粒径と同等以上が好ましい。
【0011】
図1は、竪型スクラップ溶解炉とこれによる本発明の実施状況の一例を模式的に示すもので、1は炉頂に設けられる原料装入部、2は炉下部の周方向において適当な間隔で設けられる複数の羽口(送風羽口)、3はこの羽口2に熱風を供給する熱風管、4は排ガス出口、5は出銑口である。この溶解炉の大きさ等に本質的な制限はないが、実質的に操業可能若しくは操業上有利なサイズとして、通常は、羽口位置での炉内径が2〜4m程度、炉高が6〜10m程度である。
【0012】
このような竪型スクラップ溶解炉では、鉄系スクラップおよびコークスなどの原料が炉頂の原料装入部1から炉内に装入されるが、本発明ではこれらとともに耐火レンガ塊も炉内に装入される。鉄系スクラップ、コークス、耐火レンガ塊などの原料は、炉内に同時に装入してもよいし、交互に装入してもよい。
複数の羽口2からは熱風が吹き込まれ、コークスの燃焼ガスの熱で鉄系スクラップなどが溶解する。生成した溶銑は炉底部の出銑口5から炉外に取り出される。また、ダストを随伴した排ガスは、炉体上部の排ガス出口4から排気される。
なお、鉄源としては、鉄系スクラップに加えて、例えば、銑鉄、還元鉄、鉄鉱石など装入してもよい。また、鉄源、コークス、耐火レンガ塊以外に、例えば、石灰石、ダストやスラッジ類の塊成物、木炭や無煙炭等の炭材などを適宜装入してもよい。
【0013】
耐火レンガ塊を炉内装入することにより、コークスの反応性が抑制されてエネルギー利用効率が向上する効果を確認するため、耐火レンガ塊の炉内装入量を変えた試験を行い、炉内の燃焼挙動を調査した結果を図2に示す。この試験では、コークスとして算術平均粒径が65mmの製鉄用コークスを、耐火レンガ塊として算術平均粒径が220mmの廃レンガをそれぞれ用い、同一送風条件においてコークスに対する耐火レンガ塊の配合比(=[耐火レンガ塊/コークス]×100)を変え、排ガスの酸化度(=[CO/(CO+CO)]×100)を調べた。図2によれば、耐火レンガ塊を装入することにより、排ガスの酸化度は上昇しており、より高位のエネルギーを取り出すことが可能であることが判る。
ここで、耐火レンガ塊の装入量は、炉下部でのスラグ中への耐火レンガ塊溶解速度以下とすることが望ましく、その量は耐火物レンガ塊の種類やスラグ組成、温度などの条件で異なる。
【0014】
鉄系スクラップの溶解を低コストに行うためには、製鉄用コークスのような粒径の小さい安価なコークスの使用比率を高める必要があるが、本発明ではそれが可能になる。具体的には、算術平均粒径が100mm以下のコークスを用いることができる。但し、コークスの粒径があまりに小さいと出銑量の低下が避けられないため、使用するコークスの算術平均粒径は50mm以上であることが好ましい。なお、算術平均粒径とは、平均粒径=(Σai×Xi)/(Σai)(但し、Xi:代表粒径、ai:割合)で求められる粒径である。
【実施例】
【0015】
図1に示すような竪型スクラップ溶解炉において鉄系スクラップを溶解し、溶銑を製造した。炉頂部から鉄系スクラップ、コークス、石灰石および耐火レンガ塊(耐火レンガ塊の装入は本発明例のみ)を装入するとともに、炉体下部に設置した羽口から加熱空気を送風して、連続的に溶銑を製造した。
竪型スクラップ溶解炉は、内径φ2.2m、溶解能力20t/hであり、鉄系スクラップは、サイズが700mm以下へのヘビー屑と25〜150mmのシュレッダー屑を用い、配合比はヘビー屑:80質量%、シュレッダー屑:20質量%とした。また、コークスとしては、粒径25〜95mmの主に製鉄用コークスを使用した。
【0016】
[本発明例]
炉頂部から装入した耐火レンガ塊としては、製鉄所内の転炉で使用したマグネシアカーボンレンガの廃レンガ(粒径150〜300mm)を用い、コークス量に対する配合比(=[耐火レンガ塊/コークス]×100)として3.3質量%の耐火レンガ塊を装入した。その成分組成を表1に示す。送風条件は、送風温度:550℃、送風量:13000Nm/hとした。操業条件および操業成績を、出銑温度および出銑炭素濃度が安定した送風開始後1時間以降の平均値で以下に示す。
溶解速度:20t/h
出銑温度:1530℃
出銑炭素濃度:4.0質量%
製鉄用コークス原単位:183kg/t-pig
耐火レンガ塊原単位:6kg/t-pig
石灰石原単位:18kg/t-pig
ガス(排ガス)酸化度(=[CO/(CO+CO)]×100):29%
【0017】
【表1】

【0018】
[比較例]
耐火レンガ塊を装入しない点を除き、本発明例と同じ条件で操業を行った。操業条件および操業成績を、出銑温度および出銑炭素濃度が安定した送風開始後1時間以降の平均値で以下に示す。
溶解速度:20t/h
出銑温度:1528℃
出銑炭素濃度:3.9質量%
製鉄用コークス原単位:188kg/t-pig
石灰石原単位:18kg/t-pig
ガス(排ガス)酸化度(=[CO/(CO+CO)]×100):28%
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】竪型スクラップ溶解炉とこれによる本発明の実施状況の一例を模式的に示す説明図
【図2】竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から耐火レンガ塊を装入して操業を行った場合の耐火レンガ塊の装入量と排ガスの酸化度(=[CO/(CO+CO)]×100)との関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0020】
1 原料装入部
2 羽口
3 熱風管
4 排ガス出口
5 出銑口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竪型スクラップ溶解炉において、炉頂部から鉄系スクラップとコークスを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄系スクラップを溶解することにより溶銑を製造する方法であって、
炉頂部から耐火レンガ塊を装入することを特徴とする竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。
【請求項2】
算術平均粒径が100mm以下のコークスを用いることを特徴とする請求項1に記載の竪型スクラップ溶解炉を用いた溶銑製造方法。

【図1】
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【図2】
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