説明

端子付き電線の製造方法及び端子付き電線並びに端子圧着装置

【課題】端子を電線に圧着接続するに際し、安定した電気的接触と、固着力を得ることができる端子付き電線の製造方法を提供する。
【解決方法】
電線10の軸方向に複数に分割された分割クリンパ30が、端子20の芯線圧着部26を押圧する端子押圧面32に前記軸方向に段差がないよう一体的に重なり合った状態で所定の高さまで押し下げられて、電線10と前記芯線接続部26とが全体的に均等に圧着接続され、続いて、前記分割クリンパ30は部分的に前記所定の高さに留まり、前記芯線圧着部26を押圧固定しつつ、前記分割クリンパ30の他の部分は更に押し下げられ、前記芯線圧着部を局所的に更に強く押圧して、端子20を電線10に圧着接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は端子付き電線の製造方法及び端子付き電線並びに端子圧着装置に関し、更に詳しくは、電線の端末部分に剥き出しにされた芯線に圧着片を介して端子を圧着接続するに際し、端子と電線の良好な電気的接続と機械的固着力を兼ね備えた端子付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に搭載される電気・電子機器は多様性を増し、高性能、多機能化が急速に進められてきている。これら個々の機器には、端子を接続された電線がコネクタを介して接続されており、これらの端子付き電線を介して信号の伝送および電源の供給を行っている。機器の高性能化に伴い、これらの電線と端子の接続信頼性の向上が要求されており、電気的接続信頼性を向上すると固着力が低下するという背反事項を解決することが重要である。
【0003】
一般に、このような電線に端子を接続するに際しては、絶縁性の被覆材を皮剥ぎして露出された芯線を、対向して立設された対をなす圧着片を備えた端子の芯線圧着部に載置して、この芯線圧着部をクリンパとアンビルで上下から押圧してかしめる圧着接続が行われている。このような圧着接続により電線に端子を接続する場合には、端子と電線との間で所定の固着力及び接触抵抗を得るために、最適なクリンプ高さ(C/H)やクリンプ幅(C/W)を設定する。
【0004】
図10に示されるように、クリンプ高さ(C/H)の変化に伴って、端子と電線との間の固着力及び接触抵抗が変化する。これら、固着力と接触抵抗の両方で所定の性能を満たすためには、固着力に要求される性能を満たす範囲Iと、接触抵抗に要求される性能を満たす範囲IIの重なり合う範囲Aの中でクリンプ高さ(C/H)を設定しなくてはならない。
【0005】
一方では、このような端子と電線との圧着接続部の固着力及び接触抵抗の性能の向上が求められており、それぞれに要求される性能を満たす範囲I及びIIは益々狭くなってきている。すると、これらの要求される性能を満たす範囲I及びIIの重なる範囲Aは極めて狭い範囲となり、前記のような芯線圧着部全体を均等にかしめる方法では、要求される性能を満たすように端子と電線を接続するのは困難を極める。
【0006】
そこで、このような問題を解決する圧着方法として、例えば特開昭59−165390号公報(特許文献1)に記載されているような、階段状の形状を有するクリンパで端子の圧着部を圧着する方法が提案されている。図11は、特許文献1に記載の圧着方法で端子120を電線130に圧着した状態を示したものである。この端子120の上に載置された電線130の先端方向を前方、該電線130の基部側を後方として説明する。
【0007】
この特許文献1に記載されたクリンパ110は、端子120を強くかしめる部分である前方側112と弱くかしめる部分である後方側114を有している。このようなクリンパ110を用いて端子120の芯線圧着部122をかしめることにより、芯線圧着部122の前方側122aはクリンプ高さ(C/H)が低くなり、後方側122bはクリンプ高さ(C/H)が高くなる。従って、この前方側122aでは、接触抵抗等の電気的性能を確保するのに最適なクリンプ高さ(C/H)を設定し、後方側122bでは端子120の電線130への固着力等の機械的強度に最適なクリンプ高さ(C/H)を設定して端子120を電線130に圧着接続することができる。
【0008】
しかしながら、このような階段状のクリンパ110を用いて芯線圧着部122をかしめると、先ず、最も突出しているクリンパの前方側112のみが芯線圧着部122の前方側122aを押圧し始める。すると、芯線圧着部122の前方側122aでかしめられた芯線132は押しつぶされ、芯線132の素線自体が電線の軸方向に押し出されて伸びてしまう。続いて、クリンパの後端側114が芯線圧着部122の後方側122bを押圧してかしめる。
【0009】
そして、クリンパ110が上昇し芯線圧着部122を解放すると、芯線圧着部122は、その弾性で僅かではあるが圧着前の形状に戻ろうとする、所謂スプリングバックという現象が発生する。ここで、クリンパ110が芯線圧着部122を介して芯線132を押圧した時の芯線132の素線の変形が微小なものであれば、芯線圧着部122がスプリングバックして芯線132を挟持する力が弱まるのに伴って、素線の変形もある程度まで追従して回復することができる。
【0010】
図11(b)及び図11(c)は、芯線圧着部122の前方側122aと後方側122bの径方向の断面を示したものである。クリンプ高さ(C/H)が高い後方側122bでは芯線132の素線があまり細くなっておらず、芯線圧着部後方側122b内で大きな隙間は生じない。しかし、図11(b)に示されるように、芯線圧着部122の前方側122aでは、クリンプ高さ(C/H)が低く芯線が強く押圧されているので、芯線132を構成する素線自身が細くなっている。そのため、芯線と端子との間、および芯線の素線同士の間に隙間が生じてしまう。これにより電気的接続が悪くなり、所定の電気的性能を満たすことができない。また、このように芯線が細くなると、接触抵抗が上がってしまうだけではなく、芯線の機械的強度が弱くなり、芯線が切れやすくなる等の問題も発生する。
【0011】
【特許文献1】特開昭59−165390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、端子を電線に圧着接続するに際し、端子と電線の良好な電気的接続と機械的固着力を兼ね備え、端子の圧着片でかしめられた芯線の伸びや細りを抑え、安定した電気的接触と、固着力を得ることができる端子付き電線の製造方法及び端子付き電線並びに端子圧着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る端子付き電線の製造方法は、導電性の素線からなる芯線が絶縁性の被覆材に覆われてなる電線端末に導電性の端子が接続された端子付き電線を製造するに際し、この端子の相手側端子と接続する接続部の一端から延設された基底部の両側に対向して立設された圧着片を備えた芯線圧着部に前記電線の剥き出しにされた芯線を載置して、この芯線圧着部をアンビルに設けられる端子受け面に受止させ、このアンビルに対向して配置され前記端子の芯線圧着部に載置された電線の軸方向に複数に分割された分割クリンパが、前記端子の芯線圧着部を押圧する端子押圧面に前記電線の軸方向に段差がないよう一体的に重なり合った状態で所定の高さまで押し下げられて、この端子押圧面と前記アンビルの端子受け面との間で前記芯線接続部が挟圧されて、前記電線と前記芯線接続部とが全体的に均等に圧着接続され、続いて、前記分割クリンパは部分的に前記所定の高さに留まり、前記芯線圧着部を押圧固定し、前記分割クリンパの他の部分は前記所定の高さから更に押し下げられ、前記芯線圧着部を局所的に更に強く押圧し、前記芯線圧着部に径方向の全体から強く押圧された部分と弱く押圧された部分とが軸方向に混在した状態で前記芯線に前記端子が圧着接続されるようにしたことを要旨とするものである。
【0014】
更に、前記複数の分割クリンパの一部が前記所定の高さから更に押し下げられる際に、前記芯線圧着部の前記電線の基部側に位置する分割クリンパが前記所定の高さに留まり前記芯線圧着部の電線端末側若しくは中間部位の分割クリンパが更に押し下げられることにより、前記芯線に前記端子が強く圧着接続されるようにすれば好ましい。
【0015】
また、前記複数の分割クリンパの前記所定の高さから押し下げられる部位のクリンパの前記電線の基部側の端面と前記端子押圧面とからなる角部が面取りされた分割クリンパにより前記芯線に前記端子が強く圧着接続されるようにすればより好ましい。
【0016】
更に、前記複数の分割クリンパの一部が前記芯線接続部を更に強く押圧する部分において、前記芯線圧着部の前記基底部の両側に対向して立設された前記圧着片の高さを、前記電線の基部側の高さより低くした端子を用いれば、本発明に係る端子付き電線の製造方法に好適である。
【0017】
また、前記本発明に係る製造方法により端子付き電線を製造するためには、電線が載置された端子をクリンパとアンビルとで押圧して前記芯線に前記端子を圧着接続する端子圧着装置であって、前記端子を受ける受け面が設けられたアンビルと、前記アンビルの受け面に対向配置されたクリンパとを備え、このクリンパが前記端子に圧着接続される電線の軸方向に複数に分割されて、これらの分割された各クリンパが独立して前記アンビルに対して離間接近可能であることを特徴とする端子圧着装置が好適に用いられれる。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明に係る端子付き電線の製造方法によれば、電線の芯線を端子の芯線圧着部で挟んでかしめる際に、先ず、前記分割クリンパは前記電線の軸方向に段差がないように一体的に重なり合った状態で所定の高さまで押し下げられて、芯線圧着部をかしめるので、この芯線圧着部に挟持された芯線が全体的に均等な力で締めつけられて固定されることになる。
【0019】
続いて、このように芯線圧着部内での芯線の移動が規制された状態で、前記分割クリンパが局所的に前記所定の高さから更に押し下げられて、前記芯線接続部を更に強く押圧する。これにより、この局所的に更に強く押圧された部分では、芯線圧着部が更に強く芯線をかしめることになる。この時、前記分割クリンパの他の部分は前記所定の高さに押し下げられた状態を維持して、芯線圧着部を押圧固定し続ける。
【0020】
従って、前記芯線圧着部の局所的に強く押圧された部分の少なくとも一端では芯線が固定されており、芯線が強くかしめられても芯線が伸びて逃げてしまい細くなってしまうことを防ぐことができる。このような、芯線の逃げや細りが抑制された状態で芯線圧着部により芯線を強くかしめるので、芯線圧着部内を芯線が隙間無く詰まった状態にすることができる。
【0021】
これにより、芯線と芯線圧着部、及び芯線を構成する素線同士の接触が良くなり、非常に良好な電気的接触を得ることができる。
【0022】
一方、前記分割クリンパが前記所定の高さに押し下げられた状態を維持する部分において芯線圧着部は、端子と芯線の良好な固着力を有しており、前記局所的に強く押圧された部分を保護することができる。
【0023】
また、前記分割クリンパが前記芯線接続部を更に強く押圧する際に、前記所定の高さに押し下げられた状態を維持する部分が、前記芯線圧着部に挟持されている電線の基部側に配置されて、前記芯線圧着部が局所的に強く押圧される部分が前記電線の先端側若しくは、芯線圧着部の前記基部側端部以外の位置に配置されるようにすると良い。このようにすれば、例えば電線が引っ張られたり、屈曲されたりすることによって、電線に無理な力が加わっても、端子と芯線との圧着接続部分において、このような力が最も加わり易い部分、つまり芯線圧着部の電線基部側に、良好な固着力を有する弱く圧着された部分が配置されることとなる。従って、良好な電気的接触を有する、強く押圧された部分には力が伝わり難いので、電線固着力と電気的接続信頼性を両立させることができる。
【0024】
更に、前記分割クリンパを構成する各クリンパ同士の突き合わせ面と端子を押圧する端子押圧面とからなる角部が面取りされてテーパ部が形成されていれば、端子の前記芯線圧着部の強く押圧される部分と弱く押圧される部分との境目が滑らかになる。従って、この芯線圧着部の強く押圧される部分と弱く押圧される部分との境目で芯線圧着部が大きな変形に耐えきれず、亀裂が入る等の問題が生じにくい。
【0025】
前記分割クリンパが局所的に前記芯線接続部を更に強く押圧する部分において、芯線圧着部の前記基底部の両側に対向して立設された圧着片の高さが低く形成された端子を用いれば、より好ましい。圧着加工前の前記圧着片の高さは、圧着加工後の前記芯線の円周方向の長さに相当し、前記芯線接続部を更に強く押圧する部分で、圧着片が芯線圧着部の基底部に達してしまい圧着不良を起こすのを防ぐことができる。
【0026】
このように、端子に載置された電線の軸方向に分割された少なくとも2以上の独立して上下動可能な分割クリンパを備える端子圧着装置によれば、前記芯線圧着部を前記芯線に、良好な電気的接続と機械的固着力の両方を兼ね備えた状態で圧着接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の第1の実施形態について図1〜図3を参照して詳細に説明する。尚、この端子の上に載置された電線の先端側を前方、該電線の基部側を後方とする。図1は電線10の端末に端子20が圧着接続される前の状態を示した斜視図であり、図2は、図1に示した電線10に端子20を圧着接続する過程を断面図で示したものである。図3は図1に示した電線10に端子20が圧着接続された状態の斜視図である。
【0028】
図1に示すように、電線10は、金属素線を複数本撚り合わせてなる芯線12の外周に絶縁性の合成樹脂からなる被覆材14が被覆されたもので、端末部分の被覆材14が所定長さ皮剥されて芯線12が露出されている。
【0029】
端子(この場合、メス型)20は、金属製の板状部材を屈曲加工して形成されたもので、接続部22と、基底部24と、圧着片26a,26bからなる芯線圧着部26と、圧着片28a,28bからなる被覆圧着部28とを有している。
【0030】
接続部22は、略角筒状に形成されるとともに、その内部には弾性接触片22aが設けられ、図示しない相手側端子(この場合はオス型となる)の先端部が挿入されることにより電気的に導通される。基底部24は、接続部22の後端部より延出されて、この基底部24の途中部位の左右両側には、電線10の芯線12をかしめ固定するための一対の芯線用圧着片26a、26bが上方に向かって立設されており、芯線圧着部26を構成している。また、基底部24の後端部の左右両側には、電線10の被覆14をかしめ固定するための一対の被覆用圧着片28a、28bが同じく上方に向かって立設されて、被覆圧着部28を構成している。
【0031】
尚、芯線圧着部26に設けられる芯線用圧着片26a、26bは、少なくとも一対設けられていれば良く、その対の数は特に限定されるものではない。また、図においては、被覆用圧着片28a、28bを有する端子を例示したが、被覆圧着部28が無いタイプの端子を用いることもできる。また、接続部22の形状としてはメス型のものを例示したが、勿論、オス型形状であっても構わない。
【0032】
芯線側クリンパ30及び芯線側アンビル40並びに被覆側クリンパ50及び被覆側アンビル60は、図示しない端子圧着装置のプレス動作により端子20の芯線圧着片26a、26b及び被覆圧着片28a,28bを挟み込んでかしめ、電線10の端末部に露出された芯線12に端子20を接続するための圧着治具である。
【0033】
芯線側クリンパ30は、端子20の芯線圧着部26に載置されている電線10の軸方向に2つに分割された後クリンパ30aと前クリンパ30bからなり、これらの後クリンパ30aと前クリンパ30bはそれぞれ独立して上下動可能になっている。
【0034】
芯線側クリンパ30は、端子20の芯線圧着部26の圧着片26a、26bを上方から押圧するためのもので、その下端面には、端子押圧面32が形成されている。この端子押圧面32には、その側面にアーチ状の曲面をなす誘導部34a,34bが形成され、これら両アーチ34a,34bがつながる中央付近に突出部36が形成されている。このアーチ状の誘導部34a,34bは、芯線側クリンパ30と芯線側アンビル40との間に端子20を挟み込んだ際に、端子20の芯線用圧着片26a、26bの先端を内側に案内すると共に、突出部36が芯線用圧着片26a、26bの先端を芯線12方向に巻き込むように形成されている。
【0035】
一方、芯線側アンビル40は、端子20を下方から支持するためのもので、その上端面には、芯線圧着部26の基底部24のかしめ後の曲率に合わせた端子受け面42が形成されている。
【0036】
また、被覆側クリンパ50及び被覆側アンビル60はプレス動作により、これらの間に配置した端子20の被覆圧着部28を挟み込んでかしめ、電線10の端末部に端子20を接続するための接続治具であり、芯線12よりも太い被覆14の直径に合わせて、上記芯線側クリンパ30及び芯線側アンビル40よりも若干大きく形成されており、概ね同様の構成を備えている。
【0037】
すなわち、被覆側クリンパ50の下端面には、被覆側アンビル60との間に端子20の被覆圧着部28を挟み込んだ際に、被覆用圧着片28a,28bの先端を内側に案内して押圧するための端子押圧面52が形成されており、被覆側アンビル60の上端面には、被覆圧着部28の基底部24の圧着後の曲率に合わせた端子受け面62が形成されている。
【0038】
次ぎに、この端子20の電線10への圧着接続の過程を図2(a)〜(d)を用いて順に説明する。図2(a)は、図1に示した電線10及び端子20のA−A断面を矢視図で示したものである。電線10は、露呈された芯線12が端子20の芯線圧着部26上に、被覆材14が被覆圧着部28上になるように、端子20の基底部24の上に載置されており、端子20を挟んで対向する位置に芯線側クリンパ30とアンビル40、および、被覆側クリンパ50とアンビル60が配置されている。ここで、芯線側クリンパ30を構成する後クリンパ30aと前クリンパ30bは、端子押圧面32に電線10の軸方向に段差が生じないように、一体的に重ね合わされている。
【0039】
続いて、図2(b)に示すように、この芯線側クリンパ30は後クリンパ30aと前クリンパ30bが一体的に重なり合ったまま下降し、芯線側アンビル40との間で、前記端子20の芯線圧着部26を挟み込んでいく。芯線用圧着片26a,26bは前記芯線側クリンパ30の下面に設けられた圧着型32のアーチ状の曲面をなす誘導部34a,34bに導かれて(図1参照)芯線12を均一に包み込んでいく。
【0040】
ここで、後クリンパ30aと前クリンパ30bが一体的に重なり合った状態で芯線側クリンパ30が所定の高さまで下降する。この時、芯線圧着部26は、芯線12と端子20とを機械的に固定するのに最適なクリンプ高さ(C/H)に押圧される。
【0041】
続いて、図2(c)に示すように、芯線側クリンパ30の前クリンパ30bは更に下降を続け、芯線圧着部26の前方部分をより強く押圧する。これにより、芯線圧着部26の前クリンパ30bに押圧されている部分は芯線12をより強くかしめる。
【0042】
ここで、芯線圧着部26が前クリンパ30bにより強く押圧されることによって、芯線12は強くかしめられ押しつぶされることになる。通常であれば、このように芯線を強く押しつぶすと、芯線は前後に伸び出して細くなってしまう。しかし、前クリンパ30bで、芯線圧着部26の前方部を強く押圧しても、後方部が後クリンパ30aで固定され、押圧されているので、芯線12は後方に伸び出すことがない。従って芯線12の素線が細くなってしまうのを防ぐことができる。
【0043】
このようにして、芯線圧着部26の中に、クリンプ高さ(C/H)が低い部分26lとクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hを混在させた状態で、端子20を電線10に圧着接続することができる(図2(d))。
【0044】
図3は電線10に端子20が圧着接続された状態の斜視図である。芯線圧着部26の前方にクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lが設けられ、その後方にクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hが設けられている。その更に後方には、被覆圧着部28が設けられており、全体的に均一に圧着接続されている。このような構成にすることにより、電線10の基部側が引っ張られたり、屈曲されたりしたときに、芯線圧着部26の前方にある、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lにその力が伝わりにくく、電線固着力と電気的接続信頼性を両立することができる。
【0045】
図4は、図3に示した電線10の先端に端子20が接続された状態の径方向の断面を示した矢視図であり、図4(a)は、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lのE−E断面を示したものである。図4(b)は、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hのF−F断面を示したものである。
【0046】
図4(a)に示されるように、芯線12は、前クリンパ30bによって芯線圧着部26が押圧されることでかしめられて、芯線12の径方向に圧縮されている。しかし、後クリンパ30aが芯線圧着部26のクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hを押圧した状態で、前クリンパ30bがクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lを更に押圧しているので、芯線12が後方へ伸びて逃げてしまうことがない。従って、図4(a)に示されるように、素線の細りがなく、芯線12と端子20の芯線圧着部26との間、および芯線12の素線同士の間に隙間が生じない。
【0047】
一方、図4(b)に示されるように、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hは、後クリンパ30aで押圧された際に、芯線12に係る負荷がクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lに比べて小さく、芯線12の素線の変形も少ない。従って、後クリンパ30aが押圧を止め、芯線圧着部26が解放されてスプリングバックしても、芯線12もそれに追従して形状を回復することができる。そのため、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hでも芯線圧着部26内で大きな隙間は発生しない。
【0048】
このように芯線圧着部26内に隙間が生じ難いので、芯線12と端子20間の電気的接続が安定しており、接触抵抗が上がってしまうことがない。また、芯線12及びその素線が細くなってしまうことがないので、芯線12自体の強度の低下を防ぐことができ、電線10の引っ張りや屈曲によって、芯線12の素線が切断してしまうという不具合が発生しにくくなる。また、芯線圧着部26のクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hと低い部分26lとで、異なるクリンプ高さ(C/H)およびクリンプ幅(C/W)を設定することにより、電線固着力、接触抵抗等の管理がし易く、製品の性能のばらつきを抑えることができ、所定の圧着状態を確実に得ることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態について図5に基づいて説明する。図5(a)〜(f)は、本発明の第2実施形態に係る、電線10への端子の接続過程を断面矢視図で示したものである。
【0050】
図5(a)に示すように、電線10と端子20aは、図1〜図3に示した第1の実施形態と同様の構成となっており、先端を皮剥されて芯線12が露呈した電線10が端子20aの芯線圧着部26と被覆圧着部28に載置されている。この端子20aを挟んで、芯線側クリンパ30とアンビル40、及び、被覆側クリンパ50とアンビル60が対向して配置されている。
【0051】
この、芯線側クリンパ30が、第2の実施形態においては後クリンパ30a、前クリンパ30b、先端クリンパ30cの3つが一体的に重なり合って、端子20の芯線圧着部26の上方に配置されている。これら後クリンパ30a、前クリンパ30b、先端クリンパ30cのそれぞれは、独立して上下動可能になっている。
【0052】
そして、図5(b)に示すように、芯線側クリンパ30は、後クリンパ30a、前クリンパ30b、先端クリンパ30cが、その端子押圧面32において電線10の軸方向に段差がないように一体的に重なり合った状態で下降する。この芯線側クリンパ30と芯線側アンビル40との間で、前記端子20aの芯線圧着部26を挟み込んでいくと、芯線用圧着片26a,26bは芯線12を包み込んでいく。このように、芯線側クリンパ30は所定の高さまで下降を続け、芯線側アンビル40は下方から芯線圧着部26を支持し、芯線圧着部26の芯線用圧着片26a,26bで芯線12を挟持してかしめる。
【0053】
続いて、図5(c)に示すように、芯線側クリンパ30の中間層に位置する前クリンパ30bは更に下降を続け、芯線圧着部26の中間部分をより強く押圧する。これにより、芯線圧着部26の前クリンパ30bに押圧されている部分は芯線12をより強くかしめる。
【0054】
ここで、芯線圧着部26が前クリンパ30bにより強く押圧されることによって、芯線圧着部26の中間部分で芯線12が強く押しつぶされることになる。通常であれば、このように芯線を強く押しつぶすと、芯線は前後に伸び出して細くなってしまう。しかし、前クリンパ30bで、芯線圧着部26の前方部を強く押圧しても、その後方が後クリンパ30aで固定され押圧されて、前方は先端クリンパ30cにより固定押圧されているの。従って、芯線12は後方にも前方にも伸び出すことができない。従って芯線12の素線が細くなってしまうのを非常に効果的に防ぐことができる。
【0055】
このようにして、端子20を芯線12に圧着接続すると、図5(d)に示すように、芯線圧着部26の前方に、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hが設けられ、その後方にクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lが設けられ、その更に後方にクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hが設けられている。このように、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lがクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hの間に配置されるようにすれば、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lから芯線12が伸び出して、芯線12を構成する素線が細くなってしまうのを効果的に防ぐことが出来る。
【0056】
また、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lの後方にクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hが設けられており、その更に後方には、被覆圧着部28が設けられている。従って、電線10の基部が引っ張られたり、屈曲されたりしたときに、芯線圧着部26の前方にある、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lにその力が伝わりにくく、電線固着力と電気的接続信頼性を両立できる。
【0057】
図5(e)は、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lのE−E断面を示したものである。図5(f)は、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hのF−F断面を示したものである。図5(d)に示されるように、芯線12は、前クリンパ30bによって芯線圧着部26が押圧されることでかしめられて、芯線12の径方向には圧縮されている。しかし、後クリンパ30a及び先端クリンパ30cにより芯線12の芯線圧着部26内での移動が規制された状態で、前クリンパ30bがクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lを更に押圧して圧着加工がされているので、芯線12が後方及び前方へ伸びて逃げてしまうことがない。従って、図5(e)に示されるように、素線の細りがないく、芯線12と端子20の芯線圧着部26との間、および芯線12の素線同士の間に隙間が生じない。このようにして、端子20を芯線12に圧着接続すれば、高い固着力と、低い接触抵抗の両方を兼ね備えた端子付き電線を製造することができる。
【0058】
更に、本発明の第3の実施形態について図6を用いて説明する。
【0059】
図6(a)に示すように、電線10と端子20は、図1に示した第1の実施形態と同様の構成となっており、先端を皮剥されて芯線12が露呈した電線10が端子20の芯線圧着部26と被覆圧着部28に載置されている。この端子20を挟んで、芯線側クリンパ30とアンビル40、及び、被覆側クリンパ50とアンビル60が対向して配置されている。
【0060】
この、前クリンパ30bの端子押圧面32の後方角部は面取りされてテーパ部30tが形成されている。芯線側クリンパ30が、後クリンパ30a、前クリンパ30bの2つが一体的に重なり合って、端子20の芯線圧着部26の上方に配置されている。これら後クリンパ30a、前クリンパ30bのそれぞれは、独立して上下動可能になっている。
【0061】
そして、芯線側クリンパ30は、後クリンパ30a、前クリンパ30bが、その端子押圧面32において電線10の軸方向に段差がないように一体的に重なり合った状態で下降していく。この芯線側クリンパ30と芯線側アンビル40との間で、前記端子20aの芯線圧着部26を挟み込んでいくと、芯線用圧着片26a,26bは芯線12を包み込んでいく。このようにして、芯線側クリンパ30は所定の高さまで下降を続け、芯線側アンビル40は下方から芯線圧着部26を支持し、芯線圧着部26の芯線用圧着片26a,26bで芯線12を挟持してかしめる。
【0062】
続いて、図6(b)に示すように、芯線側クリンパ30の前クリンパ30bは更に下降を続け、芯線圧着部26の前方部分をより強く押圧する。これにより、芯線圧着部26の前クリンパ30bに押圧されている部分は芯線12をより強くかしめる。ここで、前クリンパ30bの端子押圧面32の角部にはテーパ部30tが形成されているので、芯線圧着部26の前クリンパ30bで押圧された部分と、後クリンパ30aで押圧された部分の境目にできる段差が滑らかに型押しされた状態となる。
【0063】
このようにして、芯線圧着部26の中に、クリンプ高さ(C/H)が低い部分26lとクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hを混在させた状態で、端子20を電線10に圧着接続することができる。
【0064】
図6(c)に示されるように、芯線圧着部26の、クリンプ高さ(C/H)が低い部分26lとクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hの境目には、前クリンパ30bのテーパ部30tによる押圧で滑らかに傾いた傾斜部26tが形成されている。このようにすることにより、クリンプ高さ(C/H)が低い部分26lとクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hの境目で芯線圧着部26の圧着片26a,26bが潰されて、厚さが薄くなり機械的強度が低下するとか、亀裂が入る等の問題が生じにくい。
【0065】
続いて、本発明の第4の実施形態について図7に基づいて説明する。図7(a)及び(b)は、本発明の第4実施形態に係る、電線10への端子の接続過程を断面矢視図で示したものである。
【0066】
図7(a)に示すように、電線10と端子20bは、図1に示した第1の実施形態とほぼ同様の構成となっており、先端を皮剥されて芯線12が露呈した電線10が端子20bの芯線圧着部26と被覆圧着部28に載置されている。この端子20bを挟んで、芯線側クリンパ30とアンビル40、及び、被覆側クリンパ50とアンビル60が対向して配置されている。
【0067】
この端子20bの接続部22の後端からは、電線10の端末が載置される基底部24が延出されており、この基底部24の途中部位の左右両側には、電線10の芯線12をかしめ固定するための一対の芯線用圧着片26a、26bが上方に向かって立設されている。この芯線用圧着片26a,26bの前方上端部には切欠26sが設けられており、芯線用圧着片26a,26bの長さが短く形成されている。
【0068】
芯線側クリンパ30とアンビル40、及び、被覆側クリンパ50とアンビル60は、第1の実施形態と同じものであり、圧着の工程も、クリンプ高さ(C/H)の低い部分26lが芯線圧着部26の前方部に配置されて、クリンプ高さ(C/H)の高い部分26hが芯線圧着部26の後方部に配置されている点も同じである。
【0069】
図7(b)は、端子20の芯線圧着部26と被覆圧着部28とが芯線側クリンパ30とアンビル40、及び、被覆側クリンパ50とアンビル60に押圧されて、電線10に圧着接続された状態の断面図である。図2(d)と同じように、芯線側クリンパ30の前クリンパ30bにより芯線圧着部26の前方側が一段低く圧着されている。
【0070】
図7(c)及び図7(d)は、芯線圧着部26のクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lとクリンプ高さ(C/H)の高い部分26hの径方向の断面図である。この端子20bによれば、芯線用圧着片26a,26bの前方部分に切欠26sが設けられて、芯線用圧着片26a,26bのクリンプ高さ(C/H)の低い部分26lで芯線用圧着片26a,26bの長さが短く形成されている。従って、例えば、図4(a)等と比較すると分かるように、圧着後において、芯線用圧着片26a,26bの先端がクリンパ30bの端子押圧面32の中央に設けられた突出部36で押圧されても、芯線用圧着片26a,26bの先端部が基底部24に近づきすぎることがない。
【0071】
以下に、上記第1の実施形態で説明した図1〜図4に示した端子付き電線の製造方法により端子が圧着されてなる端子付き電線(実施例1)と、他の方法で端子が電線の芯線に圧着されてなる端子付き電線(比較例1,2)とを比較する。
【0072】
実施例1および比較例1,2では、電線に端子をそれぞれ異なる圧着方法で圧着してその接触抵抗と固着力とを測定した。実施例1および比較例1,2、は同一の電線および端子を適用した。具体的には、電線には、芯線の断面積約0.5mmの銅線を用い、端子には銅合金から形成されたものを適用した。
【0073】
実施例1では、図1〜図4に示したように、先ず芯線圧着部全体がクリンプ高さ(C/H)の高い部分の高さになるように芯線圧着部全体を均一にかしめ、次いでクリンプ高さ(C/H)の低い部分に相当する位置をさらにかしめて電線に端子を圧着接続した。
【0074】
比較例1では、図11に示した特許文献1(特開昭59−165390号公報)の端子付き電線のように、予めクリンパが階段状に形成されて、クリンプ高さ(C/H)の高い部分と低い部分とを同時にかしめるようにした。
【0075】
比較例2では、従来から通常用いられている芯線圧着部全体を均一のクリンプ高さ(C/H)にかしめる方法で端子を電線に圧着接続した。実施例1、比較例1および比較例2のクリンプ幅(C/W)は同一とし、クリンプ高さ(C/H)については実施例1と比較例1の、クリンプ高さ(C/H)の高い部分は比較例2のクリンプ高さ(C/H)と同一とし、実施例1と比較例1の、クリンプ高さ(C/H)の低い部分は互いに同一としクリンプ高さ(C/H)の高い部分よりさらに押し込んだ形状とした。
【0076】
電線の芯線と、この電線の一端に圧着接続された端子の芯線圧着部との接触抵抗は、電線の他端から端子までの抵抗を四端子法にて測定し、その抵抗値から電線自体の抵抗値を引いて求めた。
【0077】
図8に示すグラフは、実施例1と比較例1および2の端子付き電線の芯線圧着部における端子と芯線との接触抵抗を比較したものである。実施例1と比較例1および2のそれぞれの端子付き電線において、端子を電線に圧着した直後の初期状態の接触抵抗を測定し、その後その端子付き電線を120時間100℃の雰囲気に置いて耐久試験を行い再び接触抵抗を測定した。初期状態における接触抵抗は、比較例1が平均0.3mΩ(最大0.4mΩ、最小0.2mΩ)、比較例2が平均0.3mΩ(最大0.5mΩ、最小0.2mΩ)とほぼ同じであるのに対し、実施例1では平均0.2mΩ(最大0.2mΩ、最小0.2mΩ)と低い値を示している。また、耐久試験後の接触抵抗は、比較例1が平均0.9mΩ(最大1.2mΩ、最小0.6mΩ)、比較例2が平均0.5mΩ(最大1.4mΩ、最小0.3mΩ)とそれぞれの初期状態と比較して顕著に上昇しているのに対し、実施例1では平均0.2mΩ(最大0.3mΩ、最小0.2mΩ)と低い値を保ったままである。また、比較例1および2では、耐久試験後には接触抵抗のばらつきが大きくなるのに対し、実施例1では接触抵抗のばらつきが、初期状態においても比較例1および2より小さく、耐久試験後にもばらつきは小さいままである。
【0078】
このことから、接触抵抗について比較すると、特許文献1のように端子押圧面が予め電線の軸方向に階段状に形成されたクリンパを用いて、芯線圧着部のクリンプ高さ(C/H)の高い部分と低い部分を同時にかしめて製造された比較例1の端子付き電線は、芯線圧着部全体を均一のクリンプ高さ(C/H)にかしめた一般的な端子付き電線(比較例2)と大きな違いがないことがわかる。これに対して、先ず芯線圧着部の全体を均一のクリンプ高さ(C/H)にかしめてから、次いでクリンプ高さ(C/H)の低い部分をさらにかしめて製造された実施例1の端子付き電線は、初期状態においては接触抵抗が低いだけでなくそのばらつきも小さく、芯線とこの芯線に接続された端子の芯線圧着部との接続状態が非常に良好であることがわかる。また、実施例1の端子付き電線は、耐久試験後も低い接触抵抗とそのばらつきを保ち続けていることから、接続状態が安定していることがわかる。このように、実施例1の端子付き電線は、比較例1および2のいずれのものよりも優れた電気的接続を有していることがわかる。
【0079】
このように、比較例1のように芯線圧着部のクリンプ高さ(C/H)の高い部分と低い部分を同時にかしめたものは、クリンプ高さ(C/H)の低い部分で芯線の逃げや細りが発生し、芯線圧着部と芯線との内だおよび芯線を構成する素線同士の間に隙間ができてしまい良好な電気的接触が得られていないものと考えられる。これに対し、実施例1の端子付き電線は、先ず芯線圧着部の全体を均一のクリンプ高さ(C/H)にかしめてから、次いでクリンプ高さ(C/H)の低い部分をさらにかしめて製造されることにより、クリンプ高さ(C/H)の高い部分で芯線の逃げが抑制されており、クリンプ高さ(C/H)の低い部分において芯線の逃げや細りが発生せず、芯線と芯線圧着部、及び芯線を構成する素線同士の間に隙間が形成されず良好な電気的接触が得られるものと考えられる。
【0080】
図9に示すグラフは、実施例1と比較例1および2の端子付き電線の芯線圧着部の固着力を示したものである。固着力は実施例1と比較例1および2の端子付き電線の、端子の端部を固定し、電線の端部を引っ張って、電線が端子から外れたとき、あるいは電線が破断したときの引っ張り力を測定して得た値である。実施例1の端子付き電線は平均128N(最大136N,最小124N)、比較例1の端子付き電線は平均126N(最大128N,最小121N)、比較例2の端子付き電線は平均131N(最大135N,126N)を示している。実施例1の端子付き電線の固着力は、比較例2に比べると若干劣るものの、比較例1よりは高い値を示している。
【0081】
これらのことより、実施例1の端子付き電線は、比較例1,2と比べて、電気的特性(接触抵抗)が特に優れており、機械的特性(固着力)も遜色のない特性を有していることがわかる。このように、実施例1の端子付き電線は、先ず芯線圧着部の全体を均一にかしめて芯線の逃げを抑制した状態にしてから、次いで、芯線圧着部を局所的にさらにかしめて、クリンプ高さ(C/H)の高い部分と低い部分とを形成することで、芯線と芯線圧着部および芯線を構成する素線同士の接触が良くなって、非常に良好な電気的接触と良好な固着力を有することがわかる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、前記第1〜第4の実施形態では、芯線圧着部と被覆圧着部を備えた端子の例で示したが、被覆圧着部を備えない端子でも良いのは言うまでもない。第1〜第4の実施形態においては、芯線用クリンパとして2又は3のクリンパから構成された分割クリンパの例で示したが、3以上のクリンパから構成されるようにしても良い。
【0083】
また、クリンプ高さ(C/H)の低い部分を芯線圧着部の前方部分と中間部分に設ける例を示したが、芯線圧着部の後方端部以外であればどの部位に配置しても良いし、複数配置しても良い。また、クリンプ高さ(C/H)は高・低の2段に限定するものではなく、例えば高・中・低の3段等にしても良い。
【0084】
また、前記第1〜第4の実施形態では、絶縁性の被覆で芯線を覆った1本の電線を端子に圧着する例を示したが、本発明は、特にこのような電線に限定されるものではない。例えば1つの端子に複数本の電線を圧着するような場合や、芯線を覆う絶縁性の内被を更にシールド導体で覆ったシールド電線等に端子を圧着するような場合にも本発明が有効であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る端子付き電線は、芯線と端子の良好な圧着状態を得ることができ、接触抵抗が安定しており、高い電気的接続の信頼性を有しているので、例えば、自動車用精密機器のコネクタ部材およびその製造等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る端子付き電線の接続前の状態を示したものである。
【図2】図2(a)〜(d)は、図1に示した端子付き電線の接続過程を示した断面矢視図である。
【図3】図1に示した端子付き電線の接続後の状態を示したものである。
【図4】図4(a)及び(b)は、図3に示した端子付き電線の芯線圧着部の径方向の断面図である。
【図5】図5(a)〜(f)は、本発明の第2の実施形態に係る端子付き電線の接続過程を示した断面矢視図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、本発明の第3の実施形態に係る端子付き電線の接続過程を示した断面矢視図である。
【図7】図7(a)〜(d)は、本発明の第4の実施形態に係る端子付き電線の接続過程を示した断面矢視図である。
【図8】本発明の実施例1と比較例1,2の接触抵抗を比較して示すグラフである。
【図9】本発明の実施例1と比較例1,2の固着力を比較して示すグラフである。
【図10】端子と電線との固着力及び接触抵抗のクリンプ高さ(C/H)への依存性を示したグラフである。
【図11】従来の端子付き電線の圧着過程を示した図である。
【符号の説明】
【0087】
10 電線
12 芯線
20 端子
26 芯線圧着部
26a,26b 芯線用圧着片
30 芯線側クリンパ
30a 後クリンパ
30b 前クリンパ
40 芯線側アンビル
70 芯線押さえ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の素線からなる芯線が絶縁性の被覆材に覆われてなる電線端末に導電性の端子が接続された端子付き電線を製造するに際し、
この端子の相手側端子と接続する接続部の一端から延設された基底部の両側に対向して立設された圧着片を備えた芯線圧着部に前記電線の剥き出しにされた芯線を載置して、この芯線圧着部をアンビルに設けられる端子受け面に受止させ、このアンビルに対向して配置され前記端子の芯線圧着部に載置された電線の軸方向に複数に分割された分割クリンパが、前記端子の芯線圧着部を押圧する端子押圧面に前記電線の軸方向に段差がないよう一体的に重なり合った状態で所定の高さまで押し下げられて、この端子押圧面と前記アンビルの端子受け面との間で前記芯線接続部が挟圧されて、前記電線と前記芯線接続部とが全体的に均等に圧着接続され、
続いて、前記分割クリンパは部分的に前記所定の高さに留まり、前記芯線圧着部を押圧固定し、前記分割クリンパの他の部分は前記所定の高さから更に押し下げられ、前記芯線圧着部を局所的に更に強く押圧し、前記芯線圧着部に径方向の全体から強く押圧された部分と弱く押圧された部分とが軸方向に混在した状態で前記芯線に前記端子が圧着接続されるようにしたことを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項2】
前記複数の分割クリンパの一部が前記所定の高さから更に押し下げられる際に、前記芯線圧着部の前記電線の基部側に位置する分割クリンパが前記所定の高さに留まり前記芯線圧着部の電線端末側若しくは中間部位の分割クリンパが更に押し下げられることにより、前記芯線に前記端子が強く圧着接続されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項3】
前記複数の分割クリンパの前記所定の高さから更に押し下げられる部位のクリンパの前記電線の基部側端面と前記端子押圧面とからなる角部が面取りされた分割クリンパにより前記芯線に前記端子が強く圧着接続されるようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線の製造方法。
【請求項4】
前記複数の分割クリンパの一部が前記芯線接続部を更に強く押圧する部分において、前記芯線圧着部の前記基底部の両側に対向して立設された前記圧着片の高さを、前記電線の基部側の高さより低くしたことを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の製造方法により製造されてなる端子付き電線。
【請求項6】
電線が載置された端子をクリンパとアンビルとで押圧して前記芯線に前記端子を圧着接続する端子圧着装置であって、
前記端子を受ける受け面が設けられたアンビルと、 前記アンビルの受け面に対向配置されたクリンパとを備え、このクリンパが前記端子に圧着接続される電線の軸方向に複数に分割されて、これらの分割された各クリンパが独立して前記アンビルに対して離間接近可能であることを特徴とする端子圧着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2008−181695(P2008−181695A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12656(P2007−12656)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】