説明

端子付き電線束

【課題】電線束に含める電線の本数の過不足と、電線の芯線と端子との電気的な接続不良と、を防止できる端子付き電線束を提供する。
【解決手段】電線束19は、1本の電線10の両端部17及び二重以上に折り返された折返しの部分である複数の折返し部14において、芯線11が露出する芯線露出部16が形成された構造を有する。圧着端子20がこのような電線束19の芯線露出部16に接続されることで、端子付き電線束1が構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き電線束に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車又は電気自動車などの電動車両に搭載される電装機器間を接続するワイヤハーネスには大電流が流れる。このため、ワイヤハーネスを構成する被覆電線は、導体である芯線の断面積が比較的大きいものが用いられる。
【0003】
しかしながら、被覆電線は、芯線の断面積が大きくなるにつれて曲がりにくくなる。このため、ワイヤハーネスは車両における配設位置について制約を受ける場合がある。これを解決するため、芯線の断面積の小さい被覆電線を複数本束ねることで、十分に大きな断面積を確保した電線束の使用が提案されている。
【0004】
端子付き電線束は、このような電線束の両端に圧着端子などの端子が取り付けられることによって得られる。端子付き電線束において、端子は電線束を構成する複数の電線各々の芯線と接触することにより芯線と電気的に接続される。
【0005】
また、特許文献1には、切り放し状の電線端部、又はUターン状に折り返された電線部分に対して圧接コネクタが取り付けられた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−29420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示されるように、バラバラの複数本の電線を束ね、その電線束の端部に端子などの電機部品を取り付ける作業においては、以下に示されるような問題が生じやすい。
【0008】
即ち、第1の問題点は、電線の本数のカウントミスにより、束ねられる電線の本数に過不足が生じやすいことである。電線束における電線の本数が正規の本数よりも少ない場合、電流の通過によって過剰に発熱する恐れがある。また、電線束における電線の本数が正規の本数よりも多い場合、配線スペース、重量及びコストが増大する。
【0009】
また、第2の問題点は、電線束における各電線の芯線と端子との接続不良が生じやすいことである。即ち、バラバラに構成された複数本の電線は、束ねられていても、それらの端部における裸芯線相互間において隙間が生じやすい。そのため、電線束の端部の裸芯線の部分に端子が取り付けられた場合、一部の裸芯線が、端子に対して電気的に十分に接続されない状況が生じやすい。
【0010】
特に、電線束の端部に取り付けられる端子が圧着端子である場合、端子が溶接される場合に比べ、芯線に対する圧着部と芯線との接触不良により、端子と芯線との電気的な接続不良が生じやすい。
【0011】
なお、端子に対して電気的に十分に接続されない状況には、以下の2つの状況が含まれる。その1つは、裸芯線が、端子及び端子と接触する他の裸芯線のいずれにも直接接触していない状況である。2つめは、裸芯線が、他の裸芯線を介して間接的に端子と接続されているに過ぎないため、金属の表面の酸化膜などに起因して、裸芯線と端子との間の電気抵抗が大きい状況である。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みなされた発明であり、電線束に含める電線の本数の過不足と、電線の芯線と端子との電気的な接続不良と、を防止できる端子付き電線束を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、端子付き電線束であって、1本の被覆電線からなり、2点を結ぶ一の線に沿って二重以上に折り返されるとともに、前記2点のいずれかに位置する前記被覆電線の両端部及び1つ以上の折返し部において、芯線が絶縁被覆から露出した部分である芯線露出部が形成された電線束と、前記電線束の前記芯線露出部に取り付けられた端子と、を備える。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に係る端子付き電線束であって、前記端子は圧着端子である。
【0015】
第3の発明は、第2の発明に係る端子付き電線束であって、前記芯線はアルミニウムで構成されている。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、電線束は、1本の被覆電線により構成されている。そのため、バラバラの複数本の電線が束ねられる場合とは異なり、電線束を作製する作業において、電線束に含める電線の本数の過不足は生じない。さらに、電線束の両端に形成された芯線露出部において、折返し部は往路を形成する第1の裸芯線と復路を形成する第2の裸芯線とが連なった構造を有している。そのため、折返し部ごとに、第1の裸芯線及び第2の裸芯線の少なくとも一方が端子と接触すれば、端子と、第1の裸芯線及び第2の裸芯線の両方との電気的な接続は十分に確保される。その結果、電線の芯線と端子との接続不良が生じにくい。
【0017】
第2の発明によれば、芯線に対する圧着部と芯線との接触不良により、端子と芯線との電気的な接続不良が生じやすい端子である。そのため、本発明の適用は、電線束に取り付けられる端子が圧着端子である場合に特に有効である。
【0018】
第3の発明によれば、芯線がアルミニウムで構成されている。アルミニウムは、表面が酸化膜で覆われやすいため、端子と芯線との電気的な接続不良が生じやすい。そのため、本発明の適用は、芯線がアルミニウムで構成されている場合に特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る端子付き電線束1の側面図である。
【図2】圧着端子が圧着される前の端子付き電線束1における圧着端子部分の断面図である。
【図3】端子付き電線束1が備える電線束19を製造する製造装置90を示す図である。
【図4】電線束19の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0021】
図1は、本実施形態に係る端子付き電線束1の側面図である。図1に示されるように、端子付き電線束1は、電線10と、圧着端子20とで構成されている。なお、図1において、構成の理解を容易にするため、電線束19が簡略的に記載されている。
【0022】
圧着端子20は、取付部21と芯線接続部22とを備えている。取付部21は、端子付き電線束1が連結される電装機器に取り付けられる部分である。例えば、ボルトネジなどが、取付部21に設けられたボルト孔23に通されて、電装機器に締め付けられることによって、端子付き電線束1と電装機器とが連結される。
【0023】
芯線接続部22は、電線10の端部の芯線11に接続される部分である。芯線接続部22は、芯線11が芯線接続部22に嵌め入れられた状態で圧着される。これによって、圧着端子20が電線10に対して固定されるとともに、電気的に接続される。本実施形態における圧着端子20と電線10との接続については、後に詳述する。
【0024】
本実施形態では、圧着端子20が端子として採用される。しかしながら、端子は、必ずしも圧着端子20に限られるものではなく、端子が圧着されることによって、端子と電線10とが接続される形態に限らない。例えば、端子の接続部に嵌め入れられた電線10と端子との隙間が、熱により液化した半田によって埋められ、半田が固化することで、電線10と端子とが接続される形態であっても構わない。また、端子と電線10とが溶接によって接続される形態であっても構わない。
【0025】
電線10は、線状の導体である複数の素線が束ねられた芯線11と、その芯線11の周囲を覆う絶縁体で構成された絶縁被覆12とを有する。なお、絶縁被覆12の代わりにエナメルで構成された絶縁被膜が芯線11に施されていても構わない。また、芯線11は、一般的に銅又は銅合金で構成されるが、アルミニウムで構成されていてもよい。芯線11がアルミニウムで構成されることによって、端子付き電線束1の軽量化を図ることができる。
【0026】
本実施形態では、1本の電線10が、二重以上に折り返されることによって、電線束19を構成する。換言すれば、電線束19は1本の電線10で構成された一続きの構造を有する。
【0027】
このような電線束19の構造を実現するため、絶縁被覆12の一部を除去して芯線11を露出させる皮むき加工が、1本の電線10における両端部及びその他の部位に対して行われる。これらの皮むき加工は、後に詳述する皮むき部92によって行われる。また、皮むき加工が行われることによって、芯線11が露出する電線10の部分は、以下において芯線露出部16と称する。芯線露出部16は、電線10の両端部17、及び電線10の両端部17に挟まれた電線10の中間部分の1箇所以上の部位に形成される。
【0028】
電線10の両端部17以外の中間部分に形成された1つ以上の芯線露出部16各々が、折り返して曲げられることによって、1つ以上の折返し部14が電線10に形成される。電線10の両端部17における芯線露出部16(以下において、「芯線露出部16a」と称する場合がある。)は、折返し部14に相当する電線10の芯線露出部16(以下において、「芯線露出部16b」と称する場合がある。)のおよそ半分の長さになるように、皮むき加工が行われる。これは、後工程において芯線露出部16bが折り返されたときに、折り返された芯線露出部16bの長さと、両端部17における芯線露出部16aの長さとを同程度に揃えるためである。
【0029】
電線束19は、折返し部14を1つ以上有しており、折返し部14が両端に位置する構造を有する。なお、芯線露出部16aは、折り返されることなく、電線束19の両端を構成する折返し部14のいずれかに位置する。
【0030】
図2には、一方の圧着端子20において、折返し部14が芯線接続部22に嵌め入れられ、芯線接続部22が圧着される前の状態が示されている。一方の芯線接続部22が圧着されると、折返し部14が芯線接続部22において圧着端子20と接触する。また、他方の圧着端子20では、折返し部14及び電線10の両端部17が芯線接続部22に嵌め入れられている。他方の芯線接続部22が圧着されることによって、折返し部14及び電線10の両端部17が芯線接続部22において圧着端子20と接触する。このように、圧着端子20が折返し部14及び両端部17における芯線露出部16a,16bに接続されることによって、図1に示されるような端子付き電線束1が構成される。
【0031】
上述のように、折返し部14は、例えばU字状もしくはV字状に折り返して曲げられた構造を有している。具体的には、折返しの経路における往路を形成する第1の芯線露出部16と復路を形成する第2の芯線露出部16とが端部において連なっている。折返し部14がこのような構造を有しているため、第1の芯線露出部16と第2の芯線露出部16との少なくとも一方が圧着端子20に接続されることによって、圧着端子20と、第1の芯線露出部16及び第2の芯線露出部16と、の電気的な接続が確保される。
【0032】
このような端子付き電線束1を構成する電線束19の製造装置及び製造の流れの一例について説明する。図3には電線束19の製造装置90の一例が示されている。製造装置90は、供給ボビン91、皮むき部92、及び巻き取りボビン93を、主たる構成として有する。
【0033】
供給ボビン91は、皮むき部92及び巻き取りボビン93に向けて電線10を送り出す部分である。供給ボビン91は円筒形状の構造を有している。初期状態において、電線10は供給ボビン91の外周面に巻かれた状態である。
【0034】
皮むき部92は供給ボビン91から送り出された電線10に対して皮むき加工を行う装置である。皮むき部92は、電線10の両端部17の絶縁被覆12、及び両端部17の間の電線10の中間部分の絶縁被覆12を取り除く。
【0035】
巻き取りボビン93は、皮むき部92で皮むき加工が施された電線10を巻き取る部分である。巻き取りボビン93は、供給ボビン91と同様に円筒形状の構造を有しており、図示しないモータなどの動力源と連結されている。従って、電線10は、動力源の駆動に伴う巻き取りボビン93の回転によって巻き取りボビン93の外周面に巻き取られる。
【0036】
続いて、製造装置90による電線束19の製造の流れについて説明する。電線10は、初期状態において、供給ボビン91の外周面に巻かれた状態である。このような供給ボビン91から、電線10の一方の端部17が取り出される。取り出された電線10の端部17が、皮むき部92によって皮むき加工を施されることで、芯線露出部16aが電線10の端部17に形成される。端部17の皮むき加工が施された電線10は、皮むき部92に取り付けられるとともに、巻き取りボビン93の外周面に固定保持される。
【0037】
電線10の端部17が巻き取りボビン93に固定保持されると、モータなどの動力源の駆動が開始される。これによって、巻き取りボビン93が回転し、供給ボビン91は巻き取りボビン93に従動する。このため、電線10は供給ボビン91から巻き取りボビン93へと順次送り出され、巻き取りボビン93は巻き取りボビン93の外周面に電線10を巻きつかせる。
【0038】
皮むき部92は、供給ボビン91から巻き取りボビン93に送り出される電線10に対して、電線10の皮むき加工を、一定間隔をおきつつ、電線10の複数位置で行う。これによって、芯線露出部16bが電線10の複数位置に形成される。
【0039】
皮むき部92による電線10の中間部の皮むき加工は、様々な方法を採用することが可能である。以下において、その一例を挙げる。皮むき部92に設けられた刃が、供給ボビン91から送り出されてきた電線10の絶縁被覆12を円周方向に沿って切り込むことによって、第1の切り込み部が電線10に設けられる。そして、この第1の切り込み部を一方の端部として、一方の端部から電線10の延在方向に沿って第2の切り込み部が電線10の絶縁被覆12に設けられる。さらに、第2の切り込み部の他方の端部側において、第3の切り込み部が、電線10の円周方向に沿って、電線10の絶縁被覆12に設けられる。このような複数の切り込み部が電線10の絶縁被覆12に設けられることによって、電線10の中間部の絶縁被覆12を部分的に取り除くことが可能となる。電線10の中間部の皮むき加工は一例としてこのように行われる。
【0040】
このように、芯線露出部16が形成された電線10は順次巻き取りボビン93に巻き取られる。形成された芯線露出部16は、巻き取りボビン93断面における円周の半分の長さと同等の間隔で形成される。従って、巻き取りボビン93に巻き取られた電線10は、電線10の一方の端部17から偶数番目の芯線露出部16が重なるとともに、電線10の一方の端部17から奇数番目の芯線露出部16が重なる配置となる。
【0041】
続いて、皮むき部92が、巻き取りボビン93によって所定周回数分巻かれた電線10に、端部17に相当する芯線露出部16aを形成する。そして、電線10における芯線露出部16aと絶縁被覆12との境界部分がカットされ、電線10は、所定周回数分巻かれた状態を維持しながら、巻き取りボビン93から外される。
【0042】
電線10における一方の端部17から偶数番目の芯線露出部16、奇数番目の芯線露出部16各々において、芯線露出部16が折り返される。なお、電線10の端部17における芯線露出部16aは折り返されることなく、折返し部14に沿って配置される。このようにして、図4に示される電線束19が1本の電線10で構成される。
【0043】
このような電線束19において、電線10の両端部17における芯線露出部16a及び1つ以上の折返し部14における芯線露出部16bが圧着端子20に接続される。これによって、端子付き電線束1が構成される。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る端子付き電線束1では、電線束19が1本の電線10によって構成されている。このため、バラバラの複数本の電線が束ねられる場合と異なり、電線束19を作製する作業において、電線束19に含める電線10の本数の過不足が生じない。
【0045】
また、電線束19の両端に形成された芯線露出部16において、折返し部14は、往路を形成する第1の芯線露出部16と復路を形成する第2の芯線露出部16とが連なった構造を有している。このため、折返し部14ごとに、第1の芯線露出部16及び第2の芯線露出部16の少なくとも一方が圧着端子20と接触すれば、圧着端子20と第1の芯線露出部16及び第2の芯線露出部16との電気的な接続が十分に確保される。この結果、電線10の芯線11と圧着端子20との電気的な接続不良が生じにくい。
【0046】
また、本実施形態に係る端子付き電線束1の端子は、圧着端子20が採用される。圧着端子20は、芯線11に対する芯線接続部22と芯線11との接触不良により、圧着端子20と芯線11との電気的な接続不良が生じやすい端子である。このため、端子付き電線束1の端子として圧着端子20が取り付けられる場合に、本発明を適用することは特に有効である。
【0047】
また、本実施形態に係る端子付き電線束1を構成する電線10の芯線11は、アルミニウムを採用することができる。アルミニウムは表面が酸化膜で覆われやすいため、酸化膜に起因して、アルミニウムの電気抵抗が大きくなる。このため、芯線露出部16が他の芯線露出部16を介して間接的に圧着端子20に接続されていても、芯線露出部16と圧着端子20との電気的な接続不良が生じやすい。このため、端子付き電線束1の芯線11としてアルミニウムが採用される場合に、本発明を適用することは特に有効である。
【符号の説明】
【0048】
1 端子付き電線束
10 電線
11 芯線
14 折返し部
16 芯線露出部
17 端部
19 電線束
20 圧着端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の被覆電線からなり、2点を結ぶ一の線に沿って二重以上に折り返されるとともに、前記2点のいずれかに位置する前記被覆電線の両端部及び1つ以上の折返し部において、芯線が絶縁被覆から露出した部分である芯線露出部が形成された電線束と、
前記電線束の前記芯線露出部に取り付けられた端子と、
を備える端子付き電線束。
【請求項2】
請求項1に記載の端子付き電線束であって、
前記端子は圧着端子である、端子付き電線束。
【請求項3】
請求項2に記載の端子付き電線束であって、
前記芯線はアルミニウムで構成されている、端子付き電線束。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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