説明

端子金具の製造方法

【課題】必要な部分のみに接点を形成することが容易であり、接点の形成位置の精度を高めることができ、端子金具のプレス加工と接点形成を連続したラインで行って製造コストを低減可能な端子金具の製造方法を提供する。
【解決手段】銅板をプレス加工し所定の端子金具20の形状に成形した後、接点を形成する箇所に導電性を有する金粒子を含む金インキを塗布し、塗布した金属インキにパルスレーザ光を照射して金めっき層からなる接点24を形成して、端子金具20を製造した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性のめっき層からなる接点が形成された端子金具を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば金めっきにより端子金具に接点を形成する場合、電気めっき法が用いられていた。この電気めっき法による金めっき工程は、端子金具形成工程とは別個の工程として行う必要があった。金めっきによる端子の形成は、非常に高価であることから、工程におけるコスト削減が求められている。しかし、上記金めっき工程で改良できることは、接点の面積を小さくするか、接点の厚さを薄くし、使用する金の量を減らす程度であり、コスト削減には限界がある。また金めっきはシアン化合物を使用するため、廃液処理の問題がある。
【0003】
そこで、上記の電気めっきによる問題を解消するために、本出願人は、金インキを必要部分に塗布し、塗布液に熱処理を施して表面に金めっき層として定着させる端子金具のめっき方法を提案している(特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法は、端子金具を構成する金属板に金インキを塗布し加熱定着して接点を形成した後、該金属板のプレス加工を行い所定の立体形状に端子金具を形成する方法である。
【0004】
【特許文献1】特開2004−259674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法のように、加工前の金属板に接点を形成した後に、プレス加工や折り曲げ加工等の後加工を施して端子金具を製造する場合、接点形成後に各種の加工を行った際、接点の位置が設計位置からずれたりすることがある。そのため、このずれを考慮して導電性インキの塗布を設計位置に対し広めに塗布しておく必要がある。しかし、実際に必要な部分以外に高価なインキを塗布することは無駄なことであり、コスト上昇を招くことになる。
【0006】
また、端子金具を用いたコネクタ等において、信頼性の高い接続を得るためには、接点パターンの形成位置の精度を高めることが必要である。しかしながら、接点形成後に加工を行う製造方法では、接点パターンの形成位置の精度を上げるには限界があるという問題があった。
【0007】
更に、上記製造方法において、端子金具製造ラインの中に接点形成ラインを導入して連続的に製造しようとした場合、インキ塗布と加熱定着を行う接点形成作業をプレス加工の速度に合わせて行う必要がある。しかしながら、プレス加工は極めて高速で行われるのに対し、インキの塗布と定着を高速化するには高度な技術が必要であり、プレス加工の早さに合わせて接点形成を行うことは極めて困難であるという問題があった。
【0008】
本発明の解決しようとする課題は、必要な部分のみに接点を形成することが容易であり、接点の形成位置の精度を高めることができ、端子金具のプレス加工と接点形成を連続したラインで行って製造コストを低減可能な端子金具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の端子金具の製造方法は、導電性を有する基板をプレス加工し所定の端子金具の形状に成形した後、接点を形成する箇所に導電性を有する金属粒子を含む金属インキを塗布し、塗布した金属インキにレーザ光を照射することで導電性のめっき層からなる接点を形成することを要旨とするものである。
【0010】
上記製造方法において、金属インキの塗布にインクジェット方式やディスペンサを用いたり、レーザ光の照射にパルスレーザ光を用いることが好ましい。また上記製造方法は、金属インキが金インキであり、金めっき層からなる接点を設けるのに好適である。
【発明の効果】
【0011】
上記本発明に係る端子金具の製造方法よれば、接点形成後にプレス加工を行う方法と比較して、基板をプレス加工して所定の端子金具の形状に成形した後に導電性のめっき層からなる接点を形成する方法を採用したことにより、接点の位置が設計位置からずれることなく、必要な部分のみに接点を形成することが容易である。更に、正確な位置に接点を精度良く形成可能であり、接点の形成位置の精度を高めることができる。そのため、ずれを考慮して導電性インキを設計位置に対し広めに塗布する必要がなく、高価なインキであっても効率よく使用可能であり、コスト上昇を招くことがない。また従来の電気めっきの様なめっき廃液の処理が不要である。
【0012】
さらに本発明製造方法は、端子金具製造ラインの中に接点形成ラインを導入して製造しようとした場合、接点形成をプレス加工の後に行うのであれば、プレス加工の早さに合わせて接点形成を行う必要がないので、端子金具の接点形成とプレス加工と連続したラインで行うことが容易であり、製造コストを低減可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の端子金具の製造方法の一例として、コネクタの製造工程を示す工程図である。本実施例では、端子金具の一例として自動車のエアバッグに用いられるショート端子を用いて説明する。このショート端子の製造工程は、図1に示すように、コネクタ製造工程に組み込まれている。
【0014】
以下、ショート端子とコネクタの概要について説明する。図2はショート端子の右側面図であり、図3は図2のショート端子を用いたコネクタの断面図である。図2及び図3に示すように、ショート端子20は、左右両側縁と後縁に沿った壁部21を有すると共に、後縁側から前方へ折り返されるように延びる片持ち状の弾性接触片22とを有している。なお、図中右側がショート端子20の後方側であり左側がショート端子20の前方側である。
【0015】
ショート端子20の弾性接触片22の先端は、上方へ山形に曲げられた接触部23となっており、この接触部23が上段のメス型端子収容室内に進入してメス型端子10の底面に弾性的に接触するようになっている。この接触部23の頂点部分に金めっき層からなる接点24が形成されている。
【0016】
自動車のエアバッグ回路に用いられるコネクタは、図3に示すように、一方のコネクタAは、コネクタハウジング1に端子金具収容室が上下2段に形成され、上段にメス型端子10が収容され、下段に該メス型端子10を短絡状態とすることが可能なショート端子20が収容されている。一方、相手側のコネクタBは、コネクタハウジング2には、メス型端子10と嵌合可能なタブ30を設けると共に、メス型端子10とショート端子20との間に進入可能な短絡解除部材40を設けた構造を有する。なお、図面では一組のコネクタ端子のみを示したが、実際のコネクタAには、メス型端子10とショート端子20を一組とした端子が、コネクタハウジング1の水平方向(横方向)に複数組配列されている。またコネクタBは、コネクタAに対応する複数組のタブ30と短絡解除部材40がコネクタハウジング2に設けられている。
【0017】
図3に示すように、コネクタAは、コネクタBと未嵌合の状態では、ショート端子20の弾性接触片が22がメス型端子10と接触することで端子どうしが短絡するようになっている。コネクタBをコネクタAに嵌合し、タブ30をメス型端子10に挿通すると、短絡解除部材40がメス型端子10とショート端子20との間に割込み、メス型端子10とショート端子20との短絡が解除されるようになっている。
【0018】
以下、上記ショート端子20の製造工程とコネクタAの製造工程について説明する。図1に示すように、ショート端子製造工程では、まずショート端子20の材料を購入して準備する(S110)。ショート端子20の材料としては、導電性の金属板として銅合金の板材(銅板)が用いられる。尚、本発明において導電性の金属板は、銅板以外に、ステンレス等のばね材を用いることができる。
【0019】
次いで、銅板をプレス加工して所定の展開形状に打ち抜く(S120)。打ち抜いた後の展開形状に形成された銅板の各部を折り曲げ加工して図2に示すような所定の立体形状に形成されたショート端子20が得られる。ただしこの時点では接点24は未だ形成されていない。ショート端子20は、リードフレームに複数のショート端子が連続的に連なる端子リール(図示しない)として形成されている(S130)。
【0020】
次に、インキ塗布工程では(S140)、図2に示す立体形状に形成されたショート端子20の接触部23の頂点の接点形成位置に、インクジェット装置を用いて、金微粒子を水又は有機溶剤に分散させた金粒子ナノインクを液滴の状態で塗布する。本発明のインキ塗布工程は、既にプレス加工と折り曲げにより所定形状に形成されている端子に塗布するものであるから、従来のように後加工の際の位置ずれ等を考慮してインキ塗布領域を所定の領域よりも広げて形成したりする必要はなく、接点を形成したい所定領域のみに塗布すればよい。このように、本発明は、インキを塗布する場合、接点を形成する所定領域のみに塗布すればよいので、高価な金インキの塗布を最小にすることが可能であり、コスト低減につながる。
【0021】
インクジェット方式としては、サーマル方式、ピエゾ方式等が用いられる。インクジェット装置を用いた塗布は、ショート端子とノズルの位置を相対的に変化させて行うことが好ましく、塗布範囲をより精密なパターンに塗布することが精度良く行うことができる。
【0022】
またインキ塗布工程では、ディスペンサを用いてインキ塗布を行っても良く、金インキを精密な位置に塗布可能である。インクジェット方式又はディスペンサによるインキ塗布を用いることで、必要部分に必要最小量のみ塗布することが容易にできる。
【0023】
また、塗布する導電性を有する金属粒子を含むインキとしては、金インキ以外に、銀、銅等の各種の金属を分散した金属ナノインキを用いることができる。
【0024】
次いでレーザ光照射工程では(S150)では、レーザ光照射の前に、塗布された金インキをヒータ等で強制乾燥して溶媒などを揮発させる。そして、乾燥した金インキの部分にパルスレーザ光を照射して、金めっき層を焼結させて定着し接点24を形成する。パルスレーザ光の照射によって、金インキ中の金粒子が溶融すると共に、ショート端子20の母材である銅からなる接触部23が溶融し、金めっき層として接触部23の表面に定着される。金の融点は1064℃、銅の融点は1083℃とほぼ同じであり、金めっき層を銅表面に容易に定着させることができる。また銅板の表面に錫めっきが施されている場合は、錫の融点は232℃と低いため金粒子は溶融せず錫めっき層が溶融するので、金めっき層はろう付けのように錫めっき層の表面に定着される。
【0025】
レーザ光を金インキに照射することで、高温短時間の処理で金粒子をショート端子表面に定着することができる。通常の炉焼成の様な加熱だけで金めっき層を定着しようとすると、数十分かかってしまう。これに対しレーザ光を使用すれば、数秒程度で焼成し定着を行う事ができる。またレーザ光照射により定着した金属めっき層は、炉焼成のような加熱のみで定着した金属めっき層と比較して、より安定した低い接触抵抗が得られるものである。
【0026】
レーザ光照射工程において、パルスレーザ光を用いると、金メッキ層を形成したい必要部分のみに部分的に照射して加熱することが可能であるから、他の箇所への熱影響をより小さく抑えることができる。またパルスレーザ光の波長を、目的とする金属に合わせて選択することで、より効率的な接点形成を行うことができる。
【0027】
金めっき層からなる接点24を形成した後、リール等に接続されているリードフレームを切り離して個々の部品としてのショート端子20が完成する(S160)。
【0028】
一方、コネクタ製造工程(コネクタAの製造工程)は、図1に示すように、ハウジング供給工程(S200)では、メス型端子10及びショート端子20を収納するためのハウジング1を所定の形状に成形して供給する。次いでショート端子挿入工程(S210)では、上記ショート端子製造工程で製造したショート端子20をハウジングAのショート端子収容部に挿入する。また図示しないが、メス型端子10をコネクタハウジングAに挿入する。このようにして、複数のショート端子10とメス型端子20を全てコネクタハウジングAに挿入して組み立てた後、回路を検査し(S220)、コネクタAが完成する(S230)。
【0029】
本発明の端子金具の製造方法は、上記ショート端子以外の端子金具に適用可能である。適用可能な端子金具は、既にプレス加工を施し、曲げ加工して組み立てられた端子に接点を形成することが可能な構造を有するものである。具体的な端子金具の形状としては、インキ塗布とレーザ光照射を行うことが可能な位置に接点が存在する、いわゆるオープンな位置に接点が存在する端子金具が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の端子金具の製造方法の一例としてエアバッグ回路用ショート端子とコネクタの製造工程を示す工程図である。
【図2】ショート端子を示す右側面図である。
【図3】図2のショート端子を用いたコネクタを示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 コネクタAのコネクタハウジング
2 コネクタBのコネクタハウジング
20 ショート端子
22 弾性接触片
23 接触部
24 金めっき層からなる接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する基板をプレス加工し所定の端子金具の形状に成形した後、接点を形成する箇所に導電性を有する金属粒子を含む金属インキを塗布し、塗布した金属インキにレーザ光を照射することで導電性のめっき層からなる接点を形成することを特徴とする端子金具の製造方法。
【請求項2】
金属インキの塗布にインクジェット方式を用いることを特徴とする請求項1記載の端子金具の製造方法。
【請求項3】
金属インキの塗布にディスペンサを用いることを特徴とする請求項1記載の端子金具の製造方法。
【請求項4】
レーザ光の照射にパルスレーザ光を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の端子金具の製造方法。
【請求項5】
金属インキが金インキであり、金めっき層からなる接点を設けることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の端子金具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−210650(P2008−210650A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−46269(P2007−46269)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】