説明

第IX因子の安定組成物

本発明は、水性組成物中の凝固第IX因子の安定性の実質的な改善を可能にする。バッファ中の第IX因子およびカルシウムイオンを含む、非ガラス容器中に密封された水性組成物と共に、前記組成物を非ガラス容器中に少なくとも7日間保存する工程を含む水性第IX因子組成物を安定化する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療適用のための、特に水性液体組成物中の凝固第IX因子の安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
第IX因子は、約70,000ダルトンの分子量を有し、かつ正常個体において肝臓で常に産生され、約5μg/mlの通常血漿濃度で循環する球状タンパク質である。
【0003】
血友病Bは、インビボおよびインビトロにおいて凝固活性の低下を生じ、罹患した人の生涯を通じて広範囲な医学的モニタリングを必要とする非常に深刻な病気である。このような人は通常、正常個体の血漿から抽出された体外的な第IX因子を提供された場合にのみ正常な凝固時間を示す。このような治療以外では、苦しんでいる人は、激しい痛みおよび衰弱性不動(debilitating immobility)を生じる関節での自発的な出血、組織内に大量の血液の蓄積を生じる筋肉内への出血、すぐに治療しなければ窒息を引き起こし得る喉および首での自発的な出血、尿への出血、ならびに手術または小さな偶然の傷害または抜歯の後の重度の出血に苦しみ得る。
【0004】
機能的第IX因子の欠乏は、様々な方法で起こり得る。第IX因子をコードする遺伝子は、X染色体に位置する。このことは、血友病Bがなぜ女性よりも男性においてかなり多くあるのかということを説明する。罹患している人のいくらかは、第IX因子遺伝子が完全に欠損した遺伝したX染色体を受け継いでいることが知られている。これらの重度に罹患した人は、治療的に注入された第IX因子に対する抗体を産生しさえし得る。多くの血友病B患者は、部分的な凝集活性を有するかまたは凝集活性がない分子を生じる改善されたアミノ酸配列が第IX因子分子を産生することが知られている。いくらかの血友病B患者は正常な第IX因子を産生するが、傷害後に通常の時間内に凝固をもたらすには不充分な量である。
【0005】
上述のように、第IX因子活性は、患者において正常ヒト血漿の注入により回復され得る。しかしながら、有効範囲にまで患者の循環第IX因子レベルを上げるためには、最低数リットルを投与する必要がある。したがって、血友病B患者の治療において、第IX因子が高度に濃縮された血漿濃縮物の注入または組み換え技術により調製された第IX因子調製物の注入を提供することが強調されている。
【0006】
そのため、注入のための安定な高濃度第IX因子液体組成物の必要性が存在する。
【0007】
ある安定化されたカルシウムイオン含有メタロプロテインの製剤がWO 2009/133200 (Jezek)に開示される。
【0008】
US 5,770,700 (Webb)には、アルギニンおよびクエン酸塩を含む第IX因子の製剤が記載されている。試験された濃度(5mM)でカルシウムイオンを含むことにより安定化され避けるべきであることが記載されている(実施例1の終わりの結論を参照)。
【0009】
US 5,925,738 (Miekka)には、pH緩衝化化合物、カルシウムイオンおよび1〜500mMの濃度の浸透圧調整剤(NaClなど)と共に第IX因子を含む血漿タンパク質の水性製剤が開示されている。カルシウムイオンの最も好ましい濃度は、10mM〜100mMであると言われている。1つの例示された製剤(実施例12)は、第IX因子(100凝固単位/mL)、10mMヒスチジン、0.10M NaClおよび10mM塩化カルシウムをpH6.2で含む。
【発明の概要】
【0010】
発明の概要
本発明は、水性組成物中の凝固第IX因子の安定性の実質的な改善を可能にする。第IX因子製品は現在、組み換え技術により産生されるかまたはプールされた(pooled)血漿から精製されるかのいずれかの第IX因子の凍結乾燥製剤として存在する。凍結乾燥製品の投与は、多くの工程を含む非常に複雑な手順である。投与は再構成の3時間以内に行わなければならない。製品の損傷を避けるために再構成は注意深く行なわなければならない。第IX因子の安定な水性製剤により、現在の製剤にとって替わる、便利な患者がすぐ使える予め充填されたシリンジまたはポンプ送達される製剤の開発が可能になる。好ましい製剤は室温で安定であるが、5±3℃で安定な水性製剤も、投与の便利さの点で非常に重要な進歩である。
【0011】
本発明は、5±3℃および25±2℃の両方での長期のインキュベーションにおいて第IX因子の効力が保存された第IX因子の安定な水性組成物を開示する。
【0012】
本発明は、安定な第IX因子製剤により、タンパク質の構造中のカルシウムカチオンの適切な結合が確実になり、貯蔵の際に許容され得ないレベルの第IX因子の自己活性化が起こらないことが確実になるという発見に基づく。所望の特徴を以下に要約する:
【0013】
1. カルシウムイオンなどの金属イオンを含む該製剤の主要な成分は、三次元構造においてタンパク質の安定性を改善する。Jezekに対するWO 2009/133200 A1には、タンパク質中の金属イオンを一般的に制御することが記載される。第IX因子のγ-カルボキシル基リッチ領域はカルシウムイオンに結合し、該カルシウムイオンは、第IX因子とリン脂質膜との適切な相互作用に必須であり、最終的に第IX因子の適切な機能に必須である。カルシウム結合はより整いかつ安定なγ-カルボキシル基領域の構造を生じることが提唱されている(Huang et al.: J. Biol. Chem. 279(14), 14338-14346, 2004)。そのため、結合への最小限の干渉を引き起こす製剤中の成分を選択することにより、第IX因子の構造中のカルシウムカチオンの適切な結合を維持することが重要である。
【0014】
2. 第IX因子についての好ましい緩衝化系は、TRISと安息香酸アニオンのpH約6.8での組合せである。しかしながら、他の緩衝化系を使用し得る。好ましい張度調整剤はNaClおよび1,2-プロパンジオールであるが、他の多くの成分を使用し得る。
【0015】
3. US 5,770,700においてなされた観察とは異なり、我々は、カルシウムカチオンの使用は第IX因子の組成物に有利であることを見出した。しかし、重要なことに、カルシウムイオンを使用する場合、その濃度は1mM未満に維持しなければならない。より高い濃度のカルシウムカチオンは、他の成分および容器に関して最適化された製剤中であっても、第IX因子の許容され得ない自己活性化を引き起こす。このことはUS 5,925,738においてMiekkaにより明らかに考慮されていない考察である。好ましくは、Ca2+の濃度は、0〜1mM、より好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.5mMである。好ましくは、カルシウムカチオンは、カルシウムカチオンの濃度を超えず、かつ理想的にはカルシウムカチオンの濃度の約1/10である濃度でEDTAなどの強力なリガンドに付随される(例えば0.5mM Ca2++0.05mM EDTA)。少量の強力なリガンドは、組成物から他の微量なキレートされない金属イオンを除去する。
【0016】
4. 第IX因子の組成物は、第IX因子製剤での無菌的充填の前に(例えば熱または放射線による)滅菌に耐えるように充分に丈夫な非ガラス製の容器に保存されなければならない。第IX因子組成物に好ましい容器は、ポリエチレン容器またはポリプロピレン容器などのプラスチック製のものである。しかしながら、多くの他の非ガラス材料で作製された容器を使用し得る。ガラス(例えばI型ホウケイ酸ガラス)容器の使用は、カルシウムカチオンの非存在下であっても第IX因子の許容され得ない自己活性化を生じる。また、高いカルシウムレベルと組み合わせてプラスチック製容器を使用することによっても(同レベルのカルシウムカチオンとガラス容器の使用よりはかなり低いが)自己活性化の増加がもたらされる。結果的に、第IX因子を安定に保つために、低カルシウムレベルおよび非ガラス容器の両方を確実にすることが必須である。
【0017】
負に荷電したリン脂質およびカルシウムイオンとの相互作用によりインビボで第IX因子は自己活性化する。理論に拘束されないが、ガラス容器の表面の負電荷は、第IX因子の自己活性化を開始させ得および/または促進し得ると考えられる。(シリコン化などの)いくつかの表面改変により、ガラスにより引き起こされる自己活性化を防ぎ得/自己活性化速度を低減し得、したがって、かかる容器も安定化された第IX因子組成物のために考慮されるべきであると考えられる。
【0018】
したがって、本発明によると、非ガラス容器中に密封された、バッファ中の第IX因子および1mM以下の濃度のカルシウムイオンを含む水性組成物が提供され、該組成物は中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を含まないかまたは実質的に含まない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、カルシウムイオンおよび他の製剤成分の制御と共に製剤の非ガラス容器中の維持により、第IX因子の安定な水性製剤が提供されるという発見に基づく。カルシウムイオンは第IX因子の分子中で重要な構造的役割を担う。そのため、第IX因子を安定な形態で維持するためにタンパク質とカルシウムイオンの間の結合を維持することが重要である。そのためカルシウムイオンが第IX因子の水性組成物中に存在することは有利であり得る。他の製剤成分が第IX因子の構造中のカルシウムの結合に最小限の干渉を示すことも重要である。これはカルシウムイオンに対して強力な結合能を有する賦形剤(中強度のリガンドまたは強力なリガンド)の遊離形態を回避することにより達成され得る。かかる賦形剤がバルク水性媒体中に存在するカルシウムイオンに結合する(すなわちカルシウムイオンが第IX因子の構造中で結合しない)形態で存在することは、タンパク質とカルシウム間の結合に干渉するかかる結合形態の能力が制限されるので、本発明の第IX因子組成物中で許容される。
【0020】
重要なことに、カルシウムイオンが存在することは、第IX因子の望ましくない自己活性化に寄与し得、本発明により規定される狭い範囲内にカルシウムの濃度を維持することが重要である。
【0021】
本発明は非ガラス容器を使用する。非ガラス容器は、水性第IX因子組成物に曝露される表面(1つまたは複数)がホウケイ酸ガラスまたは他の従来のガラス材料ではない任意の容器を含むことを意図する。該容器は、ポリプロピレン, ポリエチレン, ポリプロピレン-ポリエチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレンまたは熱可塑性ポリエステルなどのプラスチック製材料から選択され得る。代替的に、負電荷を排除する表面改変を有するガラス容器(例えばシリコン化ガラス)も使用され得る。
【0022】
組成物のために選択されるバッファおよび張度調整剤などの賦形剤は、好ましくは弱いリガンドである。組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を含まないかまたは実質的に含まない。組成物が中強度のリガンドおよび強力なリガンドを含む場合、その濃度は、組成物中の金属イオン(例えばカルシウムイオン)の濃度未満でなければならず、好ましくは存在する場合は遊離形態ではない(例えば該リガンドは過剰な金属イオンと錯体化する)。
【0023】
用語「リガンドの遊離形態」は、本明細書において、リガンド分子および金属イオン分子を含む特定の組成物中の、金属カチオンに結合していないリガンドの分子を記載するために本明細書に使用される。当業者は、組成物中の全てのリガンドと全ての金属イオンの総濃度が分かっている場合にリガンド-金属イオン錯体の安定度定数から、遊離リガンドの割合を計算し得る。
【0024】
用語「リガンド」は、金属イオンと結合して錯体イオンの形成を生じ得る任意の化合物を包含するために本明細書中に使用される。本発明の目的のために、リガンドは、「弱いリガンド」、「中強度のリガンド」および「強力なリガンド」に分けられる。「弱いリガンド」、「中強度のリガンド」および「強力なリガンド」の用語は、カルシウムイオンとそれらの錯体の安定度定数に基づいて以下のように定義される:弱いリガンドは、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数logK<0.5を有し;中強度のリガンドは、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数0.5〜0.2のlogKを有し;強力なリガンドは、カルシウムイオンとの錯体の安定度定数logK>2を有する。本明細書において言及される全ての安定度定数は、25℃で測定されたものである。
【0025】
金属-リガンド錯体の安定度定数は、米国標準技術局により公開された包括的データベース(NIST標準参照データベース46, R. M. SmithおよびA. E. Martell: Critically Selected Stability Constants of Metal Complexes Database)から得られ得る。本発明の文脈において安定度定数を使用する技術分野は、参照により本明細書に援用されるWO 2009/133200 A1に詳細に記載される。
【0026】
適切な弱いリガンド(括弧内はカルシウムイオンlogK値である)の例としては、ベンゾエート(0.20)、サリチレート(-0.87)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(0.25)およびクロライド(0.1)が挙げられる。別の例はイミダゾール(-0.1)である。組成物中の弱いリガンドの濃度は、典型的に0mM〜1M、好ましくは1mM〜0.5M、より好ましくは5〜100mM、最も好ましくは5〜50mMである。
【0027】
好ましくは、最終組成物はほぼ等張である。
【0028】
上述のように使用される場合、適切な中強度のリガンドおよび強力なリガンド(括弧内はカルシウムイオンlogK値である)の例としては、EDTA(10.81)、シトレート(3.48)、ヒスチジン(1.21)、リジン(1.05)、オルニチン(1.68)、メチオニン(2.04)、システイン(2.5)、グルタメート(1.43)、チロシン(1.48)、アスパルテート(1.7)、アラニン(1.3)、グリシン(1.09)、グリシルグリシン(1.24)、マレート(2.06)、フタレート(1.6)、マレエート(1.76)、ラクテート(1.48)、グリコレート(1.11)、トリエタノールアミン(0.87)、カーボネート(3.22)、ボレート(1.76)およびスルファイト(2.62)が挙げられる。別の例はアセテート(0.55)である。
【0029】
リガンドの選択は、一般的にWO 2009133200 A1に記載される。
【0030】
強力なリガンドまたは中度のリガンド(好ましくは強力なリガンド)は、望ましくないタンパク質-金属イオン錯体化を制御または最小化するために組成物に任意に添加され得る。したがって、添加されるリガンドの好ましい量は、望ましくない金属イオン(例えば残存遷移金属または微量遷移金属、例えば銅、亜鉛または鉄)および過剰なカルシウムイオンに結合する量である。しかしながら、リガンドの好ましい量は、好ましくは第IX因子タンパク質と競合して所望のカルシウムイオンが第IX因子タンパク質と錯体化するのを防ぐほどは高くはない。リガンドのこの好ましい範囲は、本明細書において「有効量」と定義される。例えば、EDTAは、組成物中のカルシウムイオンの総濃度を超えない濃度で添加され得、理想的には有意な部分のカルシウムイオンを遊離形態で存在させ得るようにカルシウムイオンの総濃度の約1/10である。例えば、組成物は、0.001mM〜0.1mMの濃度でEDTAを含む。この目的で添加され得る適切な強力なリガンドはEDTAであるが、より一般的には、最も適切な強力なリガンドは、25℃で測定された場合5以上、例えば8以上、例えば10以上のカルシウムイオンlogK値を有する。
【0031】
組成物は、任意に1mM以下、例えば0.1〜1mM、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.7、例えば0.2〜0.5mMの濃度のカルシウムカチオンを含む。別の適切な範囲は、0.4〜0.6mM、特に約0.5mMである。好ましくは、カルシウムカチオンは、カルシウムカチオンの総濃度を超えず、理想的にはカルシウムカチオンの濃度の約1/10の濃度のEDTAなど(または5以上、例えば8以上、例えば10以上のカルシウムイオンlogK値を有する別の強力なリガンドなど)の強力なリガンドに伴われる(例えば0.5mM Ca2++0.05mM EDTAなどの強力なリガンド)。上述のように、少量の強力なリガンドは、組成物から微量の他の金属イオンを除去する。
【0032】
達成される安定性は、有意な自己活性化が全くなく(NAPTT試験)、標的保存温度で数週間または約6ヶ月以上までの間のインキュベーション後に、第IX因子の残存効力の%変化(APTT試験)により測定され得る。例えば、組成物は、25℃で20週間でのインキュベーション後に対照組成物の10%以内の残存効力およびNAPTT試験で>200sの応答時間を示す。
【0033】
静脈内適用、皮下適用または筋内適用などの治療適用に適した水性組成物を作製するために、賦形剤の安全性および規制認可などの組成物の特定の所望の特性を確実にしなければならない。本明細書に開示される第IX因子の主要な水性組成物は、理想的には、薬物製品中の不活性成分として監督機関によりすでに承認されている賦形剤に基づく。
【0034】
治療用途の液体組成物は、滅菌的でなければならない。治療用途の液体組成物の滅菌性は、バイアルまたは予め充填されたシリンジなどの適切な容器に滅菌条件下で最終的に充填する前に、組成物を、0.22μmフィルターまたは0.45μmフィルターなどの適切なフィルターまたは膜を使用して濾過することにより達成され得る。本明細書に開示される第IX因子の主要な水性組成物は、好ましくは滅菌濾過され、最終容器に無菌的に充填される。
【0035】
本発明の対象は、5±3℃および25±2℃の両方で延長された期間第IX因子の効力が保たれ、第IX因子の許容され得ないレベルの活性化がない第IX因子の水性製剤である。本発明は、組換え第IX因子およびプールされた血漿から精製された第IX因子に適用され得る。
【0036】
水溶液中で、第IX因子は、保存安定性について広い最適pHを有することが示された。リアルタイムまたは促進された保存試験に使用される主要な温度、例えば5±3℃、25±2℃および40±2℃での安定性は、5.8〜7.6の任意のpHで比較的同じであった。本発明の文脈においてこの範囲内の任意のpHを使用し得るが、推奨されるpHは約6.8である。好ましくは、WO 2008/084237 A2に記載されるような1つまたは2つの置換バッファ(displaced buffer)を使用して最適pHを維持する。
【0037】
本発明におけるバッファ選択の重要な局面は、金属イオンの制御、例えばカルシウムイオンの添加ならびに中強度のリガンドおよび強力なリガンドの遊離形態の回避にある。したがって、置換バッファなどのバッファは、好ましくは、カルシウムイオン結合に関連して、弱いリガンドから選択される。この点で、ベンゾエートおよびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)が特に好ましいバッファである。したがって、バッファはベンゾエートまたはTRIS、特にベンゾエートおよびTRISであり得る。それぞれのバッファの濃度は、通常、1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの範囲である。
【0038】
一態様において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに:
(i) 組成物が、1mMまで、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.5mMまたは0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 組成物が、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を実質的に含まないこと;
(iii) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば約6.8に調整されること;
(iv) 組成物が、ポリプロピレン容器またはポリエチレン容器などの密封された非ガラス容器に保存されること
を特徴とする。
【0039】
かかる組成物に少量のEDTAなどの強力なリガンドを添加することが有利であると見出された。しかしながら、強力なリガンドの濃度が、組成物中に存在するカルシウムイオンの濃度を超えないことが重要である。好ましくは、強力なリガンドの濃度は、カルシウムイオンの濃度の半分よりも少なく、例えばカルシウムイオンの濃度の1/10である。次いで、強力なリガンドは、実務的にその遊離(すなわち金属イオンに結合しない)形態では存在しない。カルシウムイオンと強力なリガンドが同時に存在することは、そうでなければ汚染物として組成物中に存在し得、有害な酸化プロセスまたは凝集プロセスに寄与し得る微量の他のイオン(例えば第二銅イオンまたは第二鉄イオン)の除去に利点を有すると考えられる。そのため、本発明の別の態様において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに:
(i) 組成物が、1mMまで、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.5mMまたは0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 組成物が、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を実質的に含まないこと;
(iii) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば約6.8に調整されること;
(iv) 組成物が、カルシウムイオンの濃度以下の濃度の強力なリガンドを含むこと;好ましい強力なリガンドがEDTAであること;
(v) 組成物が、ポリプロピレン容器またはポリエチレン容器などの密封された非ガラス容器中に保存されること
を特徴とする。
【0040】
好ましい組成物は、安息香酸イオンおよびトロメタミン(TRIS)の組合せに基づくバッファ系を含む。そのため、別の態様において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに:
(i) 組成物が、1mMまで、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.5mMまたは0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 組成物が、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度の安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 組成物が、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を実質的に含まないこと;
(iv) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば約6.8に調整されること;
(v) 組成物が、ポリプロピレン容器またはポリエチレン容器などの密封された非ガラス容器中に保存されること
を特徴とする。
【0041】
本発明のさらに別の態様において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに:
(i) 組成物が、1mMまで、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.2〜0.5mMまたは0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 組成物が、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度の安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 組成物が、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤を実質的に含まないこと;
(iv) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば約6.8に調整されること;
(v) 組成物が、カルシウムイオンの濃度以下の濃度の強力なリガンドを含むこと;好ましい強力なリガンドがEDTAであること;
(vi) 組成物が、ポリプロピレン容器またはポリエチレン容器などの密封された非ガラス容器に保存されること
を特徴とする。
【0042】
全ての態様において、組成物は、好ましくは1つ以上の以下の特徴を有する:
(i) 組成物は滅菌的であり、滅菌バイアル、滅菌アンプルまたは滅菌的な予め充填されたシリンジなどの適切な容器に無菌的に充填される;滅菌性は、容器への最終的な充填の前に、0.22μmフィルターまたは0.45μmフィルターなどの適切なフィルターまたは膜を使用して組成物を濾過することにより達成され得る;組成物は、フェノール、m-クレゾールまたはベンジルアルコールなどの薬学的に許容され得る保存剤も含み得る;
(ii) 組成物は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407などの薬学的に許容され得る界面活性剤を含む;
(iii) 組成物の浸透圧は、薬学的に許容され得るイオン種、好ましくは塩化ナトリウム、またはマンニトールもしくは1,2-プロパンジオールなどの薬学的に許容され得る非イオン種のいずれかを使用して必要とされるレベルに調整される。
【0043】
本発明の別の態様は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含む第IX因子の最適化された水性組成物であり、さらに:
(i) 組成物が、0.1〜0.7mM、例えば0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 組成物が、それぞれ10〜25mMの濃度の安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば6.8に調整されること;
(iv) 組成物が、カルシウムイオンの濃度よりも実質的に低い濃度のEDTAを含むこと;
(v) 組成物が、10〜50mg/lの濃度のポリソルベート80を含むこと;
(vi) 組成物が、滅菌的であること;
(vii) 組成物が、ポリプロピレン容器およびポリエチレン容器などの非ガラス容器中に保存されること
を特徴とする。
【0044】
安息香酸またはその塩、例えばナトリウム塩またはカリウム塩は、安息香酸アニオンの供給源として使用され得る。TRIS塩基またはTRIS塩酸塩のいずれかはTRISの供給源として使用され得る。塩化カルシウムは、カルシウムイオンの好ましい供給源であるが、カルシウムの他の可溶性の塩も使用し得る。
【0045】
本発明の別の局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに第IX因子の効力が、APTT試験により測定すると、5±3℃で最低でも20週間のインキュベーション後に、新たに調製した組成物の効力の10%以内でかかる組成物中に維持され、NAPTT試験において>200sの応答時間の観察により測定すると有意な自己活性化を示さないことを特徴とする。
【0046】
本発明の別の局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに第IX因子の効力が、APTT試験で測定した場合、25±2℃で最低でも20週間のインキュベーション後に、新たに調製された組成物の効力の10%以内でかかる組成物中に維持され、NAPTT試験において>200sの応答時間の観察により測定した場合に有意な自己活性化を示さないことを特徴とする。
【0047】
本発明の別の局面において、水性組成物は、治療的に関連のある濃度の第IX因子を含み、さらに第IX因子の効力が、APTT試験により測定した場合に、5±3℃で最低でも1年間のインキュベーション後に、新たに調製した組成物の効力の10%以内でかかる組成物中に維持され、NAPTT試験において>200sの応答時間の観察により測定した場合に有意な自己活性化を示さないことを特徴とする。
【0048】
「対照組成物」は、同じ濃度の同じ成分および同じ賦形剤を有し、保存条件に供されない組成物として本明細書中に定義される。実質的な時間の期間の保存は種々の条件に供されることが予想されることも理解される。25℃での典型的な保存は、実際に室温保存に典型的な温度での変化または変形を含む。典型的に、組成物が制御された安定性試験に供される場合、温度は記載される温度の3℃以内に維持される。しかしながら、試験は、例えば販売の時点または投与の時点の市販のロットから得られた製品を用いても行なわれ得ることが理解される。これらの例において、保存温度、特に室温保存は、厳密には制御されなくてもよく、10℃以上まで変化し得ることが理解される。保存条件のかかる変形が特許請求の範囲の範囲内に含まれることが意図される。
【0049】
好ましくは、組成物は、水、治療有効量の第IX因子、カルシウムイオン、EDTAおよび1つ以上の置換バッファおよびアルカリ金属イオン、ならびに、任意に界面活性剤および/または保存剤を含む。好ましい態様において、組成物は、本質的にこれらの成分からなる。本質的に上述の成分からなる組成物は、保存の条件下で第IX因子の効力の低減をもたらす賦形剤または保存剤を含む組成物を除外することを意図する。例えば、本質的に上述の成分からなる組成物は、製剤のpHの1pH単位以内のpKa値を有する官能基を有する賦形剤および/または製剤中に存在する遊離金属イオンの濃度を超える量の強力なリガンドを含む組成物を除外することを意図する。
【0050】
第IX因子は、好ましくは50〜1000、例えば50〜500IU/ml、好ましくは50〜250IU/mlの量で組成物中に存在する。代替的に、該量は、25〜50IU/mlであり得る。該濃度は、50から5000IU/mlほど大きくあり得る。IUは、WHOにより定義される国際単位を意味することが理解される。本発明は、組換え第IX因子、プールされた血漿から精製された第IX因子および天然のヒト第IX因子と同一のアミノ酸配列を有するドメインを含む分子ならびに治療活性に有意に影響することなくアミノ酸配列の変異が行なわれたアナログに適用され得る。
【0051】
また組成物に界面活性剤が任意に添加され得る。好ましい界面活性剤としては、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407が挙げられる。界面活性剤は、好ましくは10mg/mlまで、例えば5mg/mlまで、例えば3mg/mlの量で添加され得る。好ましくは、組成物は、10〜50mg/Lの濃度のポリソルベート80または0.2〜3mg/mLの濃度のポロキサマー188を含む。
【0052】
組成物はまた、任意に薬物製品における使用について承認されたものなどの保存剤を含み得る。好ましい保存剤は、フェノール、m-クレゾール、ベンジルアルコール、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムを含む群より選択され得る。
【0053】
態様において、例えば1,2-プロパンジオール、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、ラフィノースまたはスクロースから選択されるジオールまたはポリオールが、例えば少なくとも100mMの濃度で添加され得る。好ましくは、上述の組成物は、1,2-プロパンジオールまたはマンニトール、最も好ましくは1,2-プロパンジオールを、例えば100mM〜1M、最も好ましくは200mM〜500mMの濃度で含む。
【0054】
かかる物質は、組成物の張度を有利に改変し得る。
【0055】
適切なことに、組成物の張度は、NaClを含むことによっては改変されない。したがって、例えば組成物は、NaCl(例えば20mM未満、例えば2mM未満、例えば0.2mM未満のNaCl)を含まなくてもよいし、実質的に含まなくてもよい。
【0056】
本発明は、血友病患者の潜在的に生命を脅かす状況を管理するための、血友病患者により使用される第IX因子の安定な水性製剤を可能にする。これらの患者は、1週間に2または3回の第IX因子の静脈内輸液を受ける必要があり、これは典型的には、医学的な監視なしで、自宅で患者によりなされる。これらの患者の多くは子供であり、凍結乾燥粉末として供給された場合には、第IX因子を注射用滅菌水で再構成する必要があり、自己投与の手順はより複雑になる。本発明により促進された安定水性製品は、使用の準備がされた予め充填したシリンジ中に供給され、自己投与の手順がかなり簡便になる。患者の都合に対する利益は明白であり、患者はもはや、正確な濃度および用量でのタンパク質の滅菌再構成という複雑な手順に関与しないので、安全性の改善もあり得ある。
【0057】
本発明のさらなる局面は、本発明の水性組成物を含む密封されたガラス容器を含む。
【0058】
本発明の水性組成物は、それ自体でも特許請求される。
【0059】
「本発明の水性組成物」は、バッファ中の第IX因子および1mM以下の濃度のカルシウムイオンを含む水性組成物を意味し、該組成物は、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を含まないかまたは実質的に含まない。
【実施例】
【0060】
実験例
試験方法: 第IX因子活性測定(APTT試験)は、EPモノグラム(01/2008:20711;2.7.11. Assay of human Coagulation Factor IX)に記載されるとおり行なった。第IX因子の自己活性化測定は、EPモノグラム(01/2008:1223;2.6.22. Activated coagulation factors)に記載されるとおり行なった。残存効力測定は、第4の国際標準(4th International Standard)に比較して測定した。
【0061】
材料: MONONINE(登録商標)(Aventis Behring)凍結乾燥ヒト凝固第IX因子(1000IU)を、全ての実験の開始材料として使用した。10mlの水に再構成する際(すなわち、使用前に推奨される再構成)、調製物は、10mMヒスチジン、66mM塩化ナトリウムおよび165mMマンニトールを含む。治療的な使用において、再構成後の成分は、室温で、再構成後3時間以内に投与されるべきである。MONONINE(登録商標)は、プールされたヒト血漿から調製される。
【0062】
全ての新しい製剤は、100IU/mL第IX因子活性で調製した。安定化された製剤は、再構成したMONONINE(登録商標)製品を新しい製剤に対して3段階で透析し、その後容量を調整して第IX因子の必要な比活性を達成することによって調製した。
【0063】
実施例1: この実施例は、100IU/mlでの再構成後の再構成したMONONINE(登録商標)の安定性を示す。製剤は、I型ホウケイ酸ガラスバイアル中でに調製し、クリンプトップ(crimp top)で密封した。効力が徐々に消失するのを25℃および37℃の両方で、液体組成物中で観察した。効力消失の速度は37℃で高かった。第IX因子の自己活性化(NAPTT試験)は、この実験では評価しなかった。
【0064】

【0065】
実施例2: この実施例は、
・安息香酸カリウム(10mM)
・TRIS (10mM)
・1,2-プロパンジオール
・Tween80 (25mg/l)
・塩化カルシウム(以下の表で特定するように0〜2mMの濃度)
・EDTA (濃度は常に塩化カルシウムの濃度の1/10、例えば塩化カルシウムが0.5mMの場合は0.05mM)
を含む組成物中の第IX因子の液体製剤の、APTT効力試験により測定した安定性を示す。
【0066】
全ての組成物は、ガラス(I型ホウケイ酸)容器およびプラスチック製(ポリプロピレン)容器中の両方で試験した。この実施例ではNAPTT試験は行わなかったので、組成物中の第IX因子の自己活性化の直接的な測定は得られなかった。しかしながら、APTT試験により測定した見かけの残存効力が100%をかなり超えて増加した多くの試料では、自己活性化は明らかである。これは、活性化した第IX因子が活性化していない第IX因子よりも高いAPTT試験のシグナルを生じることによる。APTT試験の間に第IX因子は、徐々に活性化されてシグナルを生じるので、混合物中の予め活性化された材料はいずれも、シグナルの増加を生じる。そのため、保存試験の間に2種類の傾向が観察され得る:(1)第IX因子の天然の構造の喪失による効力の減少および(2)残りの天然の第IX因子の自己活性化形態の存在による効力の明らかな増加。主な安定性の傾向は以下の表から明らかである。
【0067】
結果(以下の表)は、安定性および自己活性化の見かけの速度に対するカルシウムイオンとガラス表面の合わせた効果を示す。自己活性化の速度は、100%よりかなり高い、例えば120%より高く、場合によっては200%、さらには300%より高くさえある残存効力値により明らかなように、ポリプロピレン容器中よりもガラス容器中でかなり高かった。また、カルシウムイオンの増加したレベルは、自己活性化の速度にさらに寄与した。自己活性化の程度はカルシウムイオンの非存在下、ガラス容器中で最小であるように思われた(これはUS 5770700中に報告された観察と一致する)が、安定性は、特に25℃では、比較的低かった。対照的に、天然の第IX因子の安定性を改善するための組成物中のカルシウムイオンの使用を可能にするポリプロピレンバイアルにおいて、非常に限られた自己活性化が観察された。自己活性化のいくつかの徴候は、プラスチック製容器中であっても高いレベル(2mM)のカルシウムを使用した長いインキュベーション後に観察された。
【0068】
そのため、安息香酸イオン、TRIS、1,2-プロパンジオールおよびTween80に基づく特異的に選択されたバックグラウンド組成物と、プラスチック容器および0.5mMまたは1mMのいずれかのカルシウムイオンとの併用は、天然構造の最小喪失および最小自己活性化を有する明らかに安定な第IX因子を生じた。カルシウムイオンがない場合はより乏しい安定性を生じたが、2mMカルシウムイオンが存在すると25℃でわずかな自己活性化が明らかに生じた。ガラス中の2mMカルシウムイオンの濃度は25℃で有意な自己活性化を明らかに生じることに留意され得る。
【0069】



【0070】
実施例3: この実施例では、第IX因子の安定性(APTT試験)および自己活性化(NAPTT試験)の両方に対するカルシウムイオンの濃度の効果を調べた。バックグラウンド製剤は、実施例2におけるものと同じであった:
・安息香酸カリウム(10mM)
・TRIS (10mM)
・1,2-プロパンジオール
・Tween80 (25mg/l)
・塩化カルシウム(以下の表で特定するように0〜1mMの濃度)
・EDTA (濃度は常に塩化カルシウムの濃度の1/10、例えば塩化カルシウムが0.5mMの場合は0.05mM)
【0071】
全ての組成物はプラスチック(ポリプロピレン)容器中で試験した。自己活性化の程度は、EPモノグラム(01/2008:1223;2.6.22. Activated coagulation factors)に記載されるとおりNAPTT試験により評価した。初期(非活性化)の時間は、典型的には200〜250sである。自己活性化は、NAPTT時間を減少させる。時間を値>150に短縮することは有意であるとは考えられない。NAPTT時間を<150に短縮することは、製品発売について許容され得ない有意な自己活性化を示す。
【0072】
NAPTT時間の150s限界未満の低下は、試験した試料のいずれでも観察されなかった。しかしながら、NAPTT時間のわずかな減少は、1mM Ca2+の存在下、25℃で20週の後に観察され、0.5mMカルシウムイオンが1mMよりも好ましいことが示された。効力(APTT試験により測定)は、カルシウムの非存在下では一般的に悪化した。
【0073】
そのため、第IX因子の安定性は、液体組成物をポリプロピレン容器中に保存した場合および液体組成物が低濃度(約0.5mM)のカルシウムイオンを含む場合に、選択されたバックグラウンド製剤において最良であることが示された。
【0074】



【0075】
本発明は、その好ましい態様を参照して具体的に示され記載されるが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における種々の変化を本発明になし得ることが当業者に理解される。
【0076】
文脈においてそうではないことが要求されなければ、明細書およびそれに続く特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、任意の他の整数、工程、整数の群または工程の群の排除ではなく記載された整数、工程、整数の群または工程の群の包含を意味することが理解される。
【0077】
本発明の明細書を通じて言及される全ての特許および特許出願は、その全体において参照により本明細書中に援用される。
【0078】
本発明は、好ましい群およびより好ましい群ならびに適切な群およびより適切な群ならびに上述の群の態様の全ての組み合わせを包含する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッファ中の第IX因子および1mM以下の濃度のカルシウムイオンを含む、非ガラス容器中に密封された水性組成物であって、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を含まないかまたは実質的に含まない、水性組成物。
【請求項2】
非ガラス容器が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー、ポリカーボネート、ポリスチレンまたは熱可塑性ポリエステルから選択される1つ以上の物質で作製される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
カルシウムイオンが0.1〜1mMの量で存在する、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
カルシウムイオンが、0.2〜0.7mM、好ましくは0.4〜0.6mMの量で存在する、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
pHが、5.8〜7.6、例えば約6.8である、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項6】
バッファとしてTRISおよび/またはベンゾエートを含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項7】
少量のEDTAなどの強力なリガンドを、組成物中に存在するカルシウムイオンの濃度を超えない量、好ましくはカルシウムイオンの濃度の半分未満の量、より好ましくはカルシウムイオンの濃度の約1/10の量でさらに含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項8】
バッファが、それぞれ好ましくは1〜100mM、より好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度の安息香酸イオンおよびトロメタミン(TRIS)の組合せに基づくバッファ系を含む、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項9】
治療的に関連のある濃度の第IX因子を含む水性組成物であって、さらに:
(i) 該組成物が、1mMまで、好ましくは0.1〜0.7mM、最も好ましくは0.4〜0.6mMの濃度のカルシウムイオンを含むこと;
(ii) 該組成物が、それぞれ1〜100mM、好ましくは5〜50mM、最も好ましくは10〜30mMの濃度の安息香酸イオンおよびTRISを含むこと;
(iii) 該組成物が、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を実質的に含まないこと;
(iv) 組成物のpHが、5.8〜7.6、例えば約6.8に調整されること;
(v) 該組成物が、カルシウムイオンの濃度以下の濃度の強力なリガンドを含むこと;好ましい強力なリガンドがEDTAであること;
(vi) 該組成物が、ポリプロピレン容器またはポリエチレン容器などの密封された非ガラス容器に保存されること
を特徴とする、水性組成物。
【請求項10】
以下の特徴:
(i) 組成物が、滅菌的であり、滅菌バイアル、滅菌アンプルまたは滅菌的な予め充填されたシリンジなどの適切な容器に無菌的に充填されること;滅菌性が、容器への最終的な充填の前に、0.22μmフィルターまたは0.45μmフィルターなどの適切なフィルターまたは膜を使用して組成物を濾過することにより任意に達成され得ること;
(ii) 該組成物が、フェノール、m-クレゾールまたはベンジルアルコールなどの薬学的に許容され得る保存剤をさらに含むこと;
(iii) 該組成物が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80、ポロキサマー188またはポロキサマー407、好ましくはポリソルベート80などの薬学的に許容され得る界面活性剤を、任意に10〜50mg/mlの濃度でさらに含むこと;
(iv) 該組成物の浸透圧が、薬学的に許容され得るイオン種、好ましくは塩化ナトリウム、またはマンニトールもしくは1,2-プロパンジオールなどの薬学的に許容され得る非イオン種のいずれかを使用して調整されること
の1つ以上をさらに特徴とする、前記請求項いずれか記載の組成物。
【請求項11】
前記請求項いずれか記載の水性組成物を、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも26週間、非ガラス容器中に保存する工程を含む、水溶液中で第IX因子を安定化する方法。
【請求項12】
密封された非ガラス容器が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー、ポリカーボネート、ポリスチレンまたは熱可塑性ポリエステルから選択される1つ以上の材料で作製される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
2〜8℃で最低でも26週間保存安定性であり、5℃で26週間の保存後に、対照組成物の第IX因子の効力の少なくとも90%の第IX因子効力を有する治療有効量の第IX因子および水性媒体を含む、請求項1〜10いずれか記載の組成物。
【請求項14】
2〜8℃で26週間の保存後の第IX因子の効力が、対照組成物の第IX因子の効力の少なくとも95%である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
2〜8℃で52週間の保存後の第IX因子の効力が、対照組成物の第IX因子の効力の少なくとも90%である、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
2〜8℃で52週間の保存後の第IX因子の効力が、対照組成物の第IX因子の効力の少なくとも95%である、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
2〜8℃で52週間の保存後の第IX因子の効力が、対照組成物の第IX因子の効力の少なくとも98%である、請求項13記載の組成物。
【請求項18】
NAPTT試験において>200秒の応答時間を特徴とする、請求項13〜17いずれか記載の組成物。
【請求項19】
バッファ中の第IX因子および1mM以下の濃度のカルシウムイオンを含む水性組成物であって、中強度のリガンドまたは強力なリガンドである賦形剤の遊離形態を含まないかまたは実質的に含まない、水性組成物。

【公表番号】特表2013−520480(P2013−520480A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554421(P2012−554421)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/GB2011/050365
【国際公開番号】WO2011/104552
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(510288895)アレコー リミテッド (5)
【Fターム(参考)】