説明

第IX因子の徐放性製剤

【課題】親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成したヒト第IX因子を含み、ヒト第IX因子の放出を延長すると共に、凍結乾燥後に有機溶液の残留がない、新しい粉末様形態の製剤及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによりカプセル化され、マイクロスフェアを形成したヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量を含む粉末様形態の製剤を提供し、該製剤がhFIXの徐放化と延長された生物活性を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カプセル型第IX因子の徐放性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
第IX因子は、体内の凝固系のセリンプロテアーゼの1つである。このタンパク質の欠損はクリスマス病としても知られる血液凝固異常であるB型血友病を引き起こす。B型血友病患者は正常な被験者に比べ出血しやすく、ケガや手術の後の創傷が治癒しにくい。出血は通常筋肉または肘や膝、足首など関節の空間で発生し、また脳や脊髄、喉、腸でも発生する。B型血友病は生命を脅かす終生にわたる疾病である。
【0003】
従来、B型血友病患者向けの治療は、濃縮された第IX因子、例えば市販のBeneFIX(登録商標)(Wyeth)などの静脈注射を行い、欠損または変異したタンパク質を置換する。しかしながら、ポリペプチド薬はタンパク質分解酵素によって急速に劣化したり、或いは抗体によって中和されたりするため、半減期及び循環時間が減少し、治療効果が低下する。
【0004】
タンパク質のPEG化は、タンパク分解からのタンパク医薬保護を向上するためのタンパク質化学における既知の技法である。例えば、PCT国際出願第WO2009/083187A1号は、第IX因子活性化ペプチド領域(activation peptide region、AP領域)を含む、化学修飾された血液凝固第IX因子(第IX因子)を開示しており、そのうち前記AP領域は共有結合された水溶性親水性ポリマーを含む。このPCT国際出願の好ましい一実施例において、前記水溶性親水性ポリマーは、第IX因子のAsn−157及び(または)Asn−167を介して第IX因子に結合される。別の好ましい一実施例において、前記水溶性親水性ポリマーは第IX因子のSer−158、Thr−159、Thr−163、Thr−169、Ser−171、Thr−172、Ser−174またはThr−179、特にSer−158、Thr−163、Ser−171またはSer−174を介して第IX因子に結合され、一般に前記水溶性親水性ポリマーはPEGである。しかしながら、化学的にPEGを加えることは、どうしてもポリペプチドの構造を変えることになり、予期せぬ副作用を引き起こす可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】PCT国際出願第WO2009/083187A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成したヒト第IX因子を含み、ヒト第IX因子の放出を延長すると共に、凍結乾燥後に有機溶液の残留がない、新しい粉末様形態の製剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様において、本発明は、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成したヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量を含む粉末様形態の製剤を提供し、前記製剤がhFIXの徐放化と延長された生物活性を提供する。そのうち親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーが、リン脂質、レシチン、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリビニル酸(polyvinylic acid、PVA)、γ−ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリアンヒドリド、ポリアミノ酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリホスファゼン、ポリエステルウレタン、ポリカルボキシフェノキシプロパン−コセバシン酸(polycarboxsyphenoxypropane−cosebacic acid)、ポリオルトエステル及びその組み合わせから構成される群より選択される。
【0008】
別の態様において、本発明は、本発明の製剤を製造する方法を提供し、前記方法が、
a)水溶液中のヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量と有機溶液中の親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーを混合し、一次乳濁液(primary emulsion)を取得する工程と、
b)前記一次乳濁液と界面活性剤溶液を混合し、二次乳濁液(secondary emulsion)を取得する工程と、
c)有機溶媒を蒸発させ、前記二次乳濁液を濾過、洗浄、凍結乾燥させて粉末様製剤を取得する工程と、
を含み、それにより前記粉末様製剤において、前記hFIXが前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成し、hFIXの有効性の徐放化と延長された生物活性を提供する。
【0009】
本発明の一つ以上の実施例を以下で詳細に説明する。以下の図面といくつかの実施例の詳細な説明、及び添付の特許請求の範囲から、本発明のその他の特徴または利点が明らかになるであろう。
【0010】
本発明の上述の態様及び利点が図面を参照することでより明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】バッチ3(PLGA75/25、4.6IU/mg)及びバッチ4(PLGA85/15、4.6IU/mg)の製剤の異なる時間でのaPTTアッセイによって判定された本発明の製剤のhFIX活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、実施例で引用文献が参照される。本発明をより理解するために、本明細書で使用される技術用語は別途詳細に説明する。
【0013】
他に定義がない限り、本明細書に用いられるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する領域の当業者により一般に理解されているものと同じ意味をもつ。
【0014】
本明細書において、冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、1つまたは1つより多い(すなわち、少なくとも1つの)冠詞の文法上の対象を指すために用いられる。
【0015】
本発明の提供する粉末様形態の製剤は、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成したヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量を含み、前記製剤がhFIXの徐放化と延長された生物活性を提供する。前記hFIXは、自然発生の、または組換え第IX因子とすることができる。本発明による前記製剤は、B型血友病の治療に用いられる。
【0016】
本明細書で使用される用語「治療」とは、被験者の出血異常を治癒、改善、または緩和することを指す。
【0017】
本明細書で使用される用語「マイクロスフェア」とは、直径がマイクロメートル範囲の微小な球形の粒子を指す。本発明の一実施例において、マイクロスフェアの直径は0.1〜100μmである。本発明のマイクロスフェアはさらに粉末様形態に凍結乾燥して、輸送、取扱い、投与を容易にすることもできる。
【0018】
本明細書で使用される用語「生分解性ポリマーまたはコポリマー」とは、酵素的、及び(または)化学的、物理的プロセスによって生体内で分解または浸食され、より小さな化学種を形成することができるポリマーまたはコポリマーを指す。
【0019】
本明細書で使用される用語「親油性」とは、脂肪、油、脂質、有機溶媒に溶解する生分解可能なポリマーまたはコポリマーを指す。本発明において、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーは、リン脂質、レシチン、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリビニル酸(PVA)、γ−ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリアンヒドリド、ポリアミノ酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリホスファゼン、ポリエステルウレタン、ポリカルボキシフェノキシプロパン−コセバシン酸(polycarboxsyphenoxypropane−cosebacic acid)、ポリオルトエステル及びその組み合わせから構成される群より選択される。本発明の一実施例において、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーはPLGAであり、例えば約1mg/ml〜1000mg/ml、好ましくは90mg/mlの濃度である。
【0020】
重合に使用されるラクチドのグリコリドに対する比率により、PLGAの異なる形態を取得することができる。これらは通常使用されるモノマーの比率で表される(例:PLGA75:25は、組成の75%が乳酸で25%がグリコール酸であるコポリマーを示す)。本発明によると、モノマーの比率はPLGA10/90〜PLGA90/10である。一実施例において、PLGA75/25またはPLGA85/15が本発明の製剤の製造に使用される。
【0021】
一般に、充填効率、すなわちマイクロスフェア内のhFIXのカプセル化の比率は少なくとも総質量の80%である。充填用量はさまざまな目的に対して密度が異なり、通常患者の個人の薬物動態に基づいた投与法に依存する。カプセル化の比率は標準的な技術に従い、当業者であれば調整することが可能であろう。
【0022】
本明細書で使用される用語「有効量」とは、投与する被験者において意図した治療効果をもたらすために必要とされる量を指す。有効量は、当業者に認識されている通り、投与経路、賦形剤の使用、他の物質との併用の可能性に基づいてさまざまで有り得る。好ましくは、製剤は静脈注射、または筋肉注射、皮下注射で投与される。
【0023】
本発明の製剤はさらに、水溶液中で溶解可能な薬学的に許容される担体を1つ以上含む。前記担体は、生理食塩水、緩衝食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、及びその組み合わせを含むが、これらに限らない。
【0024】
また本発明は、本発明の製剤を製造する方法も提供し、前記方法が、
a)水溶液中のヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量と有機溶液中の親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーを混合し、一次乳濁液(primary emulsion)を取得する工程と、
b)前記一次乳濁液と界面活性剤溶液を混合し、二次乳濁液(secondary emulsion)を取得する工程と、
c)有機溶媒を蒸発させ、前記二次乳濁液を濾過、洗浄、凍結乾燥させて粉末様製剤を取得する工程と、
を含み、それにより前記粉末様製剤において、前記hFIXが前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成し、hFIXの有効性の徐放化と延長された生物活性を提供する。
【0025】
本発明によると、前記マイクロスフェアは、水中油中水型(W/O/W)乳剤の形態で調製される。hFIXが第1水溶液に該第1水溶液の質量に対して濃度0.001質量%〜90質量%で溶解される。本発明の一実施例において、hFIXの重量は20mgである。その後hFIXを含む前記第1水溶液が、少なくとも1つの親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーを含む有機溶液と1:1〜1:100(v:v)の比率で混合され、一次乳濁液が得られる。本発明の一実施例において、前記水溶液と前記有機溶液の比率は1:10である。
【0026】
本発明によると、有機溶液を調製するための有機溶媒は、ジクロロメタン、クロロフォルム、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)から構成される群より選択される。本発明の一実施例において、有機溶媒はジクロロメタンである。
【0027】
選択的に、一次乳濁液の調製に使用する溶液はさらに、一次乳濁液の製造に適した少なくとも1つの界面活性剤を含んでもよい。一実施例において、1つ以上の界面活性剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノ及びジグリセライドのジアセチル酒石酸エステル、リン酸ナトリウムアルミニウム、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸モノ及びジグリセライド、酒石酸モノ及びジグリセライド、乳酸モノ及びジグリセライド、エトキシモノ及びジグリセライド、モノ及びジグリセライドリン酸モノナトリウム誘導体、コハク酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ステアリル−2−乳酸カルシウム、脂肪酸塩、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート、ポリソルベート40、ポリオキシエチレン(20)モノステアラート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、トリトンx−100、ツイン40、ポリエチレングリコール200〜800、ラウリル硫酸ナトリウム、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド及びその組み合わせから構成される群より選択される。
【0028】
本発明によると、前記一次乳濁液が界面活性剤溶液と混合され、二次乳濁液が得られる。本発明の一実施例において、前記界面活性剤は、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノ及びジグリセライドのジアセチル酒石酸エステル、リン酸ナトリウムアルミニウム、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸モノ及びジグリセライド、酒石酸モノ及びジグリセライド、乳酸モノ及びジグリセライド、エトキシモノ及びジグリセライド、モノ及びジグリセライドリン酸モノナトリウム誘導体、コハク酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ステアリル−2−乳酸カルシウム、脂肪酸塩、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート、ポリソルベート40、ポリオキシエチレン(20)モノステアラート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、トリトンx−100、ツイン40、ポリエチレングリコール200〜800、ラウリル硫酸ナトリウム、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、またはその組み合わせとすることができるが、これに限らない。本発明の一実施例において、前記界面活性剤はPVAであり、例えば、第2水溶液で濃度約0.1%〜1.0%、好ましくは0.5%である。
【0029】
本発明によると、前記二次乳濁液は界面活性剤溶液と一次乳濁液が1:1〜1000:1の比率で得られる。本発明の一例において、この比率は30:1である。前記二次乳濁液から有機溶媒を蒸発させた後、続いて該二次乳濁液が当該分野の従来の方法で濾過、洗浄、凍結乾燥され、粉末様製剤が得られる。蒸発時間は0.1〜24時間に設定できる。本発明の一実施例において、蒸発時間は好ましくは3〜4時間である。
【0030】
2つ以上の不混和液体を分散させる、例えば油の乳剤を水に分散させるには、任意の既知または一般に使用される方法或いは技術を通して超音波処理を行うことができる。本発明によると、超音波処理は10〜500Wの出力で0.01〜30分間実施することができる。本発明の好ましい実施例において、超音波処理は75Wで2〜3分間実施する。当業者であれば、異なる充填用量または使用される材料の違いに基づいて実験を繰り返すことで適切な条件を選択することができる。以下の実施例によって本発明をさらに説明する。これらの実施例は制限ではなく説明を目的としている。
【実施例1】
【0031】
カプセル化ヒト組換え第IX因子の徐放マイクロスフェアの調製
組換えヒト第IX因子(rhFIX)が、Animal Technology Institute Taiwan(ATIT)提供のトランスジェニックブタの乳から取得された。ブタの乳を収集した後、3,000xg、4℃で20分間遠心分離され、脂肪分が除去された。リン酸緩衝液での沈殿と22860xg、4℃で10分間の遠心分離により、rhFIXを含む画分が脱脂乳から取得された。ホエイ画分がポリスルホン膜(TAMI)を使用した限外濾過により分画分子量30kDでさらに濃縮された。その後rhFIXが捕捉され、Qセファロース高速流クロマトグラフィー(Amersham Pharmacia Biotech)及びヘパリンセファロースカラム(Amersham Pharmacia Biotech)で精製された。ウイルス除去の手順としてナノ濾過が行われた。
【0032】
蒸留水中に溶解されたrhFIXと、ジクロロメタンに溶解された90mg/mlのポリ乳酸−グリコール酸(PLGA)を1:10(v:v)の比率で混合し、その後この混合物を75Wで2〜3分間超音波処理して一次乳濁液を得た。この一次乳濁液をさらに0.5%PVAと1:30(v:v)の比率で混合し、75Wで2〜3分間超音波処理して二次乳濁液を得た。この二次乳濁液から有機溶媒を3〜4時間蒸発させた後、二次乳濁液を濾過、洗浄、凍結乾燥してPLGAマイクロスフェアカプセル化rhFIXを得た。濾過した溶液と洗浄液が進行中に収集され、「混合溶液」として混合され、カプセル化率と薬物用量の判定に使用された。
【実施例2】
【0033】
体外模擬生理学的試験によるカプセル化rhFIXの放出動態及び活性の判定
実施例1で調製した徐放マイクロスフェアを37℃で維持した生理的緩衝溶液(0.5%ツイン20、PBS、pH7.4)に加え、模擬生理学的試験が実施された。緩衝溶液の少量の分量が収集され、毎日マイクロスフェアから放出されるrhFIXの活性が判定された。rhFIX活性はaPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)試験で判定され、かつ同時にFIX除去血漿が対照として使用された。
【0034】
aPTT試験は試料中のFIX活性を判定するために使用される凝固時間試験である。簡単には、特定量(25μl)の血漿試料が50μlのaPTT試薬と混合され、37℃で1分間培養された。その後、分析を開始するため50μlの0.025M CaClが試料に添加され、37℃で4分間、660nm下で、試料の凝固に伴う試料からの光散乱の変化を測定する自動血液凝固分析装置(TECO Coatron M4)により分析された。体外試験の結果を図1に示す。
【0035】
図1に示すように、本発明に基づく製剤から放出されるrhFIXは体外試験の結果その活性が維持され、rhFIXはPLGA85/15(バッチ4)とPLGA75/25(バッチ3)の製剤から最長4日間にわたり徐々に放出された。
【実施例3】
【0036】
マイクロスフェアから放出されたrhFIXの生物活性に関する体内試験
B型血友病マウスモデルを使用し、非カプセル化rhFIXと比較して本発明に基づく製剤からのrhFIXの徐放性を判定した。各グループ6匹のB型血友病マウス(R333Q−hFIXマウス、チャペルヒルのノースカロライナ大学チャペルヒル校生物学科Darrel W. Stafford氏より贈与)に50IU/kgのrhFIXが投与され、試験が行われた。非カプセル化rhFIXと本発明に基づく製剤が、尾の静脈への静脈注射と腹部の皮下注射を通してそれぞれ投与された。投与後の異なる時間に、各マウスから血液が収集され、遠心分離して血漿試料が取得された。上述のaPTTアッセイにより活性が判定された。120秒を超過する血液凝固時間はrhFIXの活性が弱い、またはないと見なされた。詳細なデータを表1に示す。データは平均±標準偏差として示され、統計的評価は独立t検定(SPSSバージョン12.0、Claritas Inc.)により行われた。p<0.05の値が統計的に有意であると見なされた。
【0037】
表1に示すように、血液凝固時間の短縮に対するrhFIXの効果は、非カプセル化rhFIXが投与された群で、48時間(2日間)持続し、投与後72時間(3日間)経って有意でなくなった。対照的に、本発明に基づく製剤が投与された群では、rhFIX生物活性が少なくとも120時間(5日間)まで延長され、投与から168時間(7日間)経って有意でなくなった。
【0038】
【表1】

【0039】
上記を踏まえ、本発明の製剤は、rhFIXの放出を延長し、rhFIXの体内での生物活性を少なくとも5日間維持することができたと結論付けられた。従って、注射の頻度を5または7日間に1回に減らすことができ、これはB型血友病患者の負担を大幅に軽減できる。さらに、粉末様形態の製剤は通常より良好な化学的安定性を提供し、より長期間保管することができる。
【0040】
本発明について最も実用的かつ好適な実施例と現在考えられるものを説明したが、本発明は開示された実施例に限定される必要はないと理解されたい。反対に、特許請求の範囲の要旨及び範囲内には多様な変化や類似の構成が含まれることを意図しており、特許請求の範囲はすべてのこのような変更及び類似の構造を包含するために最も広い解釈が認められるべきである。
【符号の説明】
【0041】
なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト第IX因子(hFIX)の徐放化と延長された生物活性を提供する粉末様形態の製剤であって、親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによってカプセル化され、マイクロスフェアを形成したhFIXの治療有効量を含み、そのうち、前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーが、リン脂質、レシチン、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリビニル酸(PVA)、γ−ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリアンヒドリド、ポリアミノ酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリホスファゼン、ポリエステルウレタン、ポリカルボキシフェノキシプロパン−コセバシン酸(polycarboxsyphenoxypropane−cosebacic acid)、ポリオルトエステル及びその組み合わせから構成される群より選択されることを特徴とする、ヒト第IX因子の徐放性製剤。
【請求項2】
B型血友病の治療に用いられることを特徴とする、請求項1に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤。
【請求項3】
前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーが、ポリ(乳酸−グリコール)酸(PLGA)であることを特徴とする、請求項1に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤。
【請求項4】
前記マイクロスフェアの直径が、0.1〜100μmであることを特徴とする、請求項1に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤。
【請求項5】
前記hFIXの量が、0.0005 U/mg〜25 U/mgであることを特徴とする、請求項1に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤。
【請求項6】
請求項1のヒト第IX因子の徐放性製剤を製造する方法であって、
a)水溶液中のヒト第IX因子(hFIX)の治療有効量と有機溶液中の親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーを混合し、一次乳濁液(primary emulsion)を取得する工程と、
b)前記一次乳濁液を界面活性剤溶液と混合し、二次乳濁液を取得する工程と、
c)有機溶媒を蒸発させ、前記二次乳濁液を濾過、洗浄、凍結乾燥させて粉末様製剤を取得する工程と、
を含み、それにより前記粉末様製剤中で、前記hFIXが前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーによりカプセル化されてマイクロスフェアを形成し、hFIXの徐放化と延長された生物活性が提供されることを特徴とする、ヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。
【請求項7】
工程(a)の溶液がさらに界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項6に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。
【請求項8】
前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーが、リン脂質、レシチン、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)(PLGA)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリビニル酸(PVA)、γ−ポリグルタミン酸、ポリカプロラクトン、ポリアンヒドリド、ポリアミノ酸、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリホスファゼン、ポリエステルウレタン、ポリカルボキシフェノキシプロパン−コセバシン酸(polycarboxsyphenoxypropane−cosebacic acid)、ポリオルトエステル及びその組み合わせから構成される群より選択されることを特徴とする、請求項6に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。
【請求項9】
前記親油性生分解性ポリマーまたはコポリマーが、ポリ(乳酸−グリコール)酸(PLGA)であることを特徴とする、請求項6に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、モノ及びジグリセライドのジアセチル酒石酸エステル、リン酸ナトリウムアルミニウム、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、クエン酸モノ及びジグリセライド、酒石酸モノ及びジグリセライド、乳酸モノ及びジグリセライド、エトキシモノ及びジグリセライド、モノ及びジグリセライドリン酸モノナトリウム誘導体、コハク酸モノグリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ステアリル−2−乳酸カルシウム、脂肪酸塩、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミタート、ポリソルベート40、ポリオキシエチレン(20)モノステアラート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、トリトンx−100、ツイン40、ポリエチレングリコール200〜800、ラウリル硫酸ナトリウム、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、アルキルポリグリコシド及びその組み合わせから構成される群より選択されることを特徴とする、請求項6に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン、クロロフォルム、酢酸エチル、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)及びその組み合わせから構成される群より選択されることを特徴とする、請求項6に記載のヒト第IX因子の徐放性製剤の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−517305(P2013−517305A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549242(P2012−549242)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/CN2011/000102
【国際公開番号】WO2011/088751
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509316752)▲財▼▲団▼法人台湾▲動▼物科技研究所 (1)
【Fターム(参考)】