説明

筆記具用インキ逆流防止体組成物

【課題】 耐衝撃性能や長期経時での安定性を共に満足し、インキ追従性能やインキ逆流防止性能も充分である実用性の高いインキ逆流防止体組成物を提供するものである。
【解決手段】 筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進するインキ逆流防止体であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体にメタロセン触媒オレフィンワックスを添加してなる。前記メタロセン触媒オレフィンワックスがインキ逆流防止体組成物全量中1〜30質量%の範囲で添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ逆流防止体組成物に関する。更には、インキ収容筒内に直接収容されたインキの端面に配設される筆記具用インキ逆流防止体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具に適用されるインキ逆流防止体組成物には、正立(チップ上向き)或いは横置き状態での保管時や運搬時にインキが収容筒後端から漏出することを防止するインキ逆流防止性能、筆記時にインキの減少に伴ってペン先方向へスムースに移動するインキ追従性能、更に、筆記具が高所から落下した際のインキ飛散やインキ流出を防ぐ耐衝撃性能等の性能が要求されている。
【0003】
前記インキ逆流防止体組成物として、古くは高粘度の油性インキを内蔵する油性ボールペン用として、鉱油と金属石鹸の混合物であるグリース等が適用されているが、前記油性ボールペン用インキ逆流防止体を粘度の低い水性インキを内蔵した水性ボールペンに適用した場合、インキ消費時の追従不良や温度変化に伴う過度の粘度変化を生じることがあり、水性インキの逆流を抑止できない等の不具合を生じることがあった。そのため、液状ポリブテン、鉱油、シリコーンオイル等の難揮発性有機液体に、ジベンジリデンソルビトール或いはトリベンジリデンソルビトール、金属石鹸、微粒子シリカ等のゲル化剤を添加してゲル状物としたインキ逆流防止体組成物が多数提案され、広く実用化されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭64−10554号公報
【特許文献2】特開2007−136821号公報
【特許文献3】特開平7−242093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記ゲル化剤を用いた従来のインキ逆流防止体組成物は、筆記具が高所から落下した際のインキ飛散やインキ流出を防ぐ耐衝撃性能が充分ではなく、更に、長期間の保管により難揮発性液体が分離してしまい、インキ内に侵入することで筆記不良等を生じることがあるため、実用性を満足するものではなかった。
本発明は、前記した耐衝撃性能や長期経時での安定性を共に満足し、インキ追従性能やインキ逆流防止性能も充分である実用性の高いインキ逆流防止体組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進するインキ逆流防止体であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体にメタロセン触媒オレフィンワックスを添加してなることを要件とする。
更に、前記メタロセン触媒オレフィンワックスがインキ逆流防止体組成物全量中1〜30質量%の範囲で添加されること、前記メタロセン触媒オレフィンワックスのワックスが、ポリプロピレン重合体、ポリエチレン重合体、ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体、前記重合体又は共重合体のマレイン酸変性ワックスのいずれかであることを要件とする。
更に、ゲル化剤が添加されることを要件とする。
更には、前記難揮発性液体が鉱油、流動パラフィン、アルキル変性シリコーンオイル、ポリブテン、αオレフィン−コオリゴマーのいずれかであることを要件とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は基材となる難揮発性液体中にメタロセン触媒オレフィンワックスを添加することで、耐衝撃性能と長期経時での安定性を共に満足し、インキ追従性能やインキ逆流防止性能も充分である実用性の高いインキ逆流防止体組成物が得られるものである。
【0008】
前記難揮発性液体はインキ逆流防止体組成物の基材(ベースオイル)として用いられるものである。用いられる成分としては、ポリブテン、αオレフィンコオリゴマー、流動パラフィン、精製鉱油等を例示できる。特に、インキとの混和がし難く、インキ追従性、耐衝撃性に優れている点からポリブテンが好適である。
前記ポリブテンの市販品として具体的には、ポリブテンLV−7、同LV−10、同LV−25、同LV−50、同LV−100、同HV−15、同HV−35、同HV−35、同HV−50、同HV−100、同HV−300(以上、新日本石油化学(株)製)、ポリブテン0H、同5H、同10H−T、同15H、同300H、同15R、同35R、同100R、同100R、同300R(以上、出光石油化学(株)製)、015N、06N、3N、5N、10N、ニューグライドM、ニューグライドμ(以上、日本油脂(株)製)等を例示することができる。
尚、前記難揮発性液体は逆流防止体組成物全量に対し、70〜98.9重量%の範囲で使用できる。
【0009】
前記メタロセン触媒オレフィンワックスは、難揮発性液体単独での使用時や、従来の逆流防止体組成物で発生する、落下衝撃等による変形、インキ収容管への付着による追従不良、長期保管時の硬化や離油に伴う流動性不良等を抑制し、筆記具に長期間安定した筆記性能を付与できるものである。前記効果がどのようなメカニズムで発現されるのかは定かではないが、メタロセン触媒により均一な分子構造で形成されたオレフィンワックスが、ベースオイル中に配合されることで三次元網目構造が形成されるため、良好なインキ逆流防止効果を発揮すると推測される。
前記メタロセン触媒オレフィンワックスは、低圧法によるモノマー重合を応用したポリオレフィンワックス製造技術により得られるものである。メタロセン触媒を用いた低圧重合法で製造することで、従来のチーグラー触媒を用いた場合と比較して、得られるポリマーの分子量分布が狭く、共重合の際は共重合モノマーがランダムに導入されるため、より均一な分子構造のポリオレフィンワックスが得られる。
前記メタロセン触媒オレフィンワックスのポリオレフィンワックスとしては、エチレンやプロピレンを主成分とするものが好ましく、例えば、ポリプロピレン重合体、ポリエチレン重合体、ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体等が適用できる他、これらをマレイン酸変性したワックスも適用できる。
【0010】
前記メタロセン触媒オレフィンワックスはインキ逆流防止体組成物全量に対し1〜30重量%、好ましくは1.5〜15重量%の範囲で用いられる。前記メタロセン触媒オレフィンワックスの添加量が1重量%未満では所望の耐逆流性能及びインキ追従性能を発現し難く、また、30重量%を超えると、過剰のメタロセン触媒オレフィンワックスがインキ逆流防止体組成物中に存在することにより、インキとの相互作用によってインキとインキ逆流防止体組成物の界面に崩れを生じ易くなる。
【0011】
更に、前記インキ逆流防止体組成物を好適な粘度まで増粘させるためにゲル化剤を添加することもできる。前記ゲル化剤としては、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等が挙げられるが、好ましくは前記難揮発性液体に十分な増粘効果を与え、且つ、安定性に優れる脂肪酸アルミニウム、脂肪酸デキストリン、アマイド変性ポリエチレンワックス、脂肪族アマイドが用いられる。
【0012】
その他必要に応じて、ゲル化助剤、着色防止性能や逆流防止性能を向上させるためのアルコールやグリコール等の極性溶剤、安定剤として種々の界面活性剤、酸化金属粒子や各種微粒子の添加も可能である。
【0013】
前記インキ逆流防止体組成物はベースオイルとして用いられる難揮発性液体に、メタロセン触媒オレフィンワックスを添加し、更に必要に応じてゲル化剤や各種添加剤を加え、ディスパー等の攪拌機で均一になるように分散した後、三本ロール、ニーダー、バスケットミル等の分散機で混練することにより得られる。また、必要に応じて遠心脱法等によって脱気することもできる。
【0014】
本発明のインキ逆流防止体のような高粘稠液体の硬さ及び流動性等を測定する簡便な手段としてはスプレッドメーター(平行板粘度計)があり、その測定値をSM値という。SM値として、20℃の1分値が20〜60mmの範囲にあるインキ逆流防止体が耐衝撃性、逆流防止性及びインキ追従性において良好な特性を示す。SM値の範囲は20〜60mmが好ましいが、25〜45mmであれば更に好ましい。
【0015】
前記インキ逆流防止体組成物は、ペン先を備えたインキ収容管にインキを充填した後、最後端に充填されるものであり、必要に応じて固体のインキ逆流防止体と併用して配設される。これによりインキ収容管後端からのインキの蒸発を防止し、ペン先を上向きで放置した場合や、衝撃が加わった場合にインキが逆流することを防止するものとなる。
【0016】
前記インキとしては、従来公知の水性又は油性インキが用いられる。前記インキが油性インキの場合、特に25℃でのインキ粘度が100mPa・s以上5000mPa・s以下(剪断速度3.5[1/sec])の低粘度乃至中粘度油性インキが好適に用いられる。また、水性インキの場合は、特に剪断減粘性水性インキが好適に用いられる。
【0017】
前記ペン先には、マーキングペンチップやボールペンチップが用いられる。特に、ボールペンチップを用いたボールペン形態での適用が好ましく、例えば、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等の0.15〜1.2mm径程度のものが適用できる。
【0018】
前記インキ収容管は、金属加工体や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。特に樹脂成形体においては、透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、外部からインキを視認することが可能であり、特異の意匠効果を与えると共に、インキの色調や残量等を確認できる。前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。尚、前記インキ収容管は、ボールペン用レフィルの形態として、前記レフィルを軸筒内に収容するものでもよいし、軸筒をインキ収容管として用いて、前記軸筒内に直接インキとインキ逆流防止体を充填してもよい。
【実施例】
【0019】
以下に実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。尚、表中の実施例、比較例の数字は重量部を表わす。またSM値は、20℃におけるスプレッドメーターの1分値を表わす。
【0020】
【表1】

【0021】
表中の原料の内容を注番号に従って説明する。
(1)日油(株)製、商品名:ポリブテン3N
(2)日油(株)製、商品名:ポリブテン5SH
(3)メタロセン触媒PPワックス、クラリアントジャパン(株)製、商品名:リコセンPP6102
(4)メタロセン触媒PP-PEコポリマーワックス、クラリアントジャパン(株)製、商品名:リコセンPP1602
(5)メタロセン触媒PP-PEコポリマーワックス、クラリアントジャパン(株)製、商品名:リコセンPP2602
(6)メタロセン触媒PPマレイン酸変性ワックス、クラリアントジャパン(株)製、商品名:リコセンPPMA6252
(7)楠本化成(株)製、商品名:ディスパロン6850−20X、有効成分20%
(8)アタクチックポリプロピレン(メタロセン触媒非使用品)、千葉ファインケミカル(株)製、商品名:サンアタックM
【0022】
インキ逆流防止体組成物の作製
実施例1,2
ベースオイル(ポリブテン)中にワックスを所定量投入してディスパーで撹拌しながら加温し、140℃になった時点から30分間撹拌した後に加温を停止し、室温で12時間自然放冷した。更に脂肪酸アマイドを定量添加して2000rpmで10分間攪拌し、三本ロール処理(3pass)後に遠心脱法することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0023】
実施例3,4
ベースオイル(ポリブテン)中にワックスを所定量投入してディスパーで撹拌しながら加温し、140℃になった時点から30分間撹拌した後に加温を停止し、室温で12時間自然放冷した。更に三本ロール処理(3pass)後に遠心脱法することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0024】
比較例1,2
ベースオイル(ポリブテン)中に脂肪酸アマイドを定量添加して2000rpmで10分間攪拌し、三本ロール処理(3pass)後に遠心脱法することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0025】
比較例3,4
ベースオイル(ポリブテン)中にステアリン酸アルミニウムまたはワックスを所定量投入してディスパーで撹拌しながら加温し、140℃になった時点から30分間撹拌した後に加温を停止し、室温で12時間自然放冷した。更に三本ロール処理(3pass)後に遠心脱法することでインキ逆流防止体組成物を得た。
【0026】
試料ボールペンの作製
直径0.5mmの超硬合金製ボールを備えたステンレスパイプチップ(ボールペンチップ)を先端に嵌着した、内径3.8mmのポリプロピレン製パイプ(インキ収容管)に、20℃における粘度が100mPa・sの水性赤インキ(剪断減粘性顔料インキ)を0.9g充填し、インキ後端に実施例及び比較例のインキ逆流防止体組成物をそれぞれ0.12g接触配置した後に遠心処理し、キャップ式筆記具外装に組み込むことで試料ボールペンを得た。
【0027】
上記の試料ボールペンを用いて以下の試験を実施し、それぞれの評価基準で評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0028】
落下衝撃試験
前記試料ボールペンをチップ上向き状態で1mの高さから10回落下させ、チップ上向きで24時間放静置した後のインキ逆流防止体組成物の状態を目視で観察した。
○:インキ逆流防止体組成物の状態に変化が認められない。
×:インキ逆流防止体組成物の形状が著しく崩れ、インキが後方に漏れている。
経時安定性試験
前記試料ボールペンをチップ上向き状態で50℃の環境下に60日間静置した後、インキ逆流防止体組成物の状態を目視で観察した。
○:インキ逆流防止体組成物の状態に変化が認められない。
×:インキ逆流防止体組成物の一部が分離してインキ内に浸入している、又は、インキ逆流防止体組成物の一部がインキ収容管後端から流出して筆記具外装内に漏れ出している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筆記具のインキ収容筒内に直接収容したインキの後端面に配設され、前記インキの消費に従って前進するインキ逆流防止体であって、前記インキ逆流防止体が、難揮発性液体にメタロセン触媒オレフィンワックスを添加してなることを特徴とする筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項2】
前記メタロセン触媒オレフィンワックスがインキ逆流防止体組成物全量中1〜30質量%の範囲で添加されることを特徴とする請求項1記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項3】
前記メタロセン触媒オレフィンワックスのワックスが、ポリプロピレン重合体、ポリエチレン重合体、ポリプロピレン−ポリエチレン共重合体、前記重合体又は共重合体のマレイン酸変性ワックスのいずれかであることを特徴とする請求項2記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項4】
ゲル化剤が添加されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。
【請求項5】
前記難揮発性液体が鉱油、流動パラフィン、アルキル変性シリコーンオイル、ポリブテン、αオレフィン−コオリゴマーのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記具用インキ逆流防止体組成物。

【公開番号】特開2012−232485(P2012−232485A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102596(P2011−102596)
【出願日】平成23年4月29日(2011.4.29)
【出願人】(000111890)パイロットインキ株式会社 (832)
【Fターム(参考)】